.


マスター:しゅり
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/02/17


みんなの思い出



オープニング

『悠くーん、おっはー』
「古くね? ってか今、夜じゃね?」




 いつもはボケにまわている白田悠里が電話の相手にそう突っ込んだのは寝起きだからなのか、はたまた相手が血の繋がった、小さいころから交流がある人物だからだろうか。
 外はまだ暗く、早起きな白田の同居人の動いている気配もないのでそんな時間ではないだろう。




『いやぁ? もう4時だし朝だよ?』
「未明なんざ地球時刻的には朝に設定されてようが俺にとっちゃ朝じゃねぇって」
 普段、妙な持論を振りかざして周りを巻き込んでいるくせに自分が振り回されるとなるとまた別なのがヒトの性か。白田は眉間にしわを寄せて忌々しそうに頭を掻いた。
「んで? 何だよ。こんな時間に電話してきたって事は緊急だろ? おっちゃんかおばちゃんが畑手伝えってか? それともじーちゃんが遺跡でも発掘したか?」
『違うってー。悠くんさぁ、動物好きじゃん?』
「うん、そうだな。だから大学でそれ専攻して、ここの教員になったわけだし」
『だからさ、ウチ来ない? 明日から。あ、あの一緒に住んでる金髪の子、なんていったっけ? じゅんちゃん? あの子も連れておいでよ。あとさー、生徒さん達も一緒にどう? まさか休みなしとかじゃないでしょ?』
「まぁ、ねぇ?」



 いくら一般的な学校法人に比べ、専用の島の専門的な特殊な学校である久遠ヶ原学園でも普通に休みくらいある。
 まぁ、依頼とかで休んでいない生徒もいるがそこら辺は個人の自由と言うやつなので。



『じゃあさぁ来たい子連れておいでよー。敷地内にあるムササビの巣、俺が観察してるの知ってるっしょ? あそこの木がさー、最近折られるんだよね。それで困ってるから折れた木の片付けと木を発注したからそれが届くまでのムササビの仮住まいの木箱を作るの手伝って貰えない? それと折ってるの自然現象の風とかじゃなくて折れ方的に人間がやってるみたいなんだよねー。だもんでそれとっ捕まえるのも手伝ってほしいなぁ……なんてー』
「なんてー………ってそりゃ依頼じゃねぇか! 斡旋所に申し込めよ!」
『いやぁ? 直接ゆーくんに言った方が早いじゃんねー。それに天魔だっけ? アレ以外の事でお仕事依頼してもいいのかなー? って考えた結果だし。ね、おねがーい』



リプレイ本文

「悠くーん、ようこそー!!!」
 白田教諭に連れられ、関西地方までやってきたジュリオット教諭と撃退士達。
 『熱烈歓迎』と描かれた大漁旗(ここは山奥の筈)を激しく左右に振っているのが恐らく白田の親戚、もとい今回の依頼人であろう。
「こちらも振り返しましょう!」
 ぐっと握り拳を作って気合いを入れながら良い笑顔を白田に向けるのは袋井雅人(jb1469)。何処にそんなもんあるんだよ、と白田がうんざりした顔を向けると今度は屈託ない笑みでエマ・シェフィールド(jb6754)が、ジュリオットを指して、
「ジュリオットがさっきとってもカラフルな人達の描いてあるタオル持ってたよ。それを振っちゃダメかな?」
と、言う。
「あー、それなら――」
「良くない! 良くないよ、悠里! これは僕の可愛い宝物だからね!」
「いいじゃん、それ『使用』用だろ? 可愛い生徒の為に貸してあげたらいいんじゃね?」
「貸してあげたらいいんじゃね? じゃ、ない! 良くないからね!」
 必死にタオルを死守するジュリオットと寄こせとばかりに手を差し出す白田の校内と変わらず子どもの様なやり取りに呆れているのか無言でそれを見やるヒンメル・ヤディスロウ(ja1041)と酒守夜ヱ香(jb6073)。
「こんにちは、かわいい動物は守らないとね」
「小動物をいじめるような輩は退治するであります」
 いつもなら挨拶役を務めるジュリオットが取り込み中の為に代わりにジェラルド&ブラックパレード(ja9284)とシエル・ウェスト(jb6351)が依頼人に頭を下げる。
「うん、必要なモノは出来るだけ用意したよ! 巣箱作りは俺も一緒にするからよろしくね!」
 かくして小さな住人の為の作戦が開始されたのである。


「……でわぁ、大きな倒木の回収に行ってきますねぇ……」
「大八車は1人じゃ危ないから僕も行くよ。倒木自体も大きいし」
 大八車を引いたジュリオットとそれに乗せられた月乃宮恋音(jb1221)が手伝いを申し出てくれたご近所さんと一緒に森の奥に出発する。
「さて、仄達、も、巣箱、の、作成、を、始める、と、しよう。そういえば、悠里、は、如何する、のだ? 暇、なら、手伝って貰っても、良い、ぞ」
 日曜大工が得意だと言う仄(jb4785)が必要な工具を持って振り返ると依頼を受けた超放任―ではなく、張本人はエマと一緒にムササビと戯れている。
「ここ、の、ムササビ、は、人間、を、怖がらない、のだな」
「怖がるやつは怖がるらしいけど、生まれた時からここに居るやつは多分耐性があるんだろ。遺伝子情報としてか親から教えられてるか知らないけど、守られてるのをわかってるかもしれないな」
「親が『大丈夫』ってわかってると子どもも『大丈夫』って知ってるんだね」
「ふむ、遺伝子、は、経験、も、受け次ぐ、のか。で、悠里、如何する、のだ?」
「ん? 手伝うぞ? 今のは休憩。なー? エマ」
「ねー、悠里」
 子供番組の様に顔を見合わせて上体を傾ける白田とエマ。
 仄はそれに「そうか」と呟き、夜ヱ香を振り向く。
「夜ヱ香、が、設計図、を、作成、してきて、くれた。一度、確認、させて貰う、と、良い」
「おー、さっすが。俺、見せて貰ってくるから仄はエマに巣箱の組み立て方とか教えてやってくれや」
「承知、した」
「いってらーしゃーい」
 エマを仄に預け、依頼人と設置数やカメラの可否を話し合っている夜ヱ香の元に近寄る白田。
「夜ヱ香、設計図見せてくれ」
「こちらです……先生は、カメラの設置は…」
「カメラ? 巣箱の中じゃなければここのムササビ連中は人や人工物にある程度免疫あるんだし、巣箱を置かない木に設置して、巣箱やその周辺を映せるようにしたらいいんじゃね? 家主許可が出ればの話のだけど」
「ムササビも森の木もうちの財産だし、最近は物騒になってきたからムササビが嫌がらなきゃつけて良しって爺ちゃんが」
「また、生物研究者でいらっしゃる白田先生がGOサインを出せば設置しても良いと言う条件でしたので、先生のご意見を元にカメラと巣箱をペアで設置します」
「って事はカメラが巣箱と同じくらいいるってことだよねぇ。今日中に全部は無理かもしれないけど、位置さえ指定して貰えれば後日うちでやっちゃうよー」
 依頼人がそう言うので今日揃う数だけカメラを設置し、あとは撮影角度だけ指示し、後日に家人でやって貰う事になった。
 なので、依頼人は取り敢えず贔屓にしている家電屋に電話をして伝手を聞いて貰うと家の方へ帰って行った。


 一方、大八車コンビは――
「お嬢ちゃん、もう1台持ってきたぞ!」
「…あ、ありがとうございます……では、こちらのを巣箱班へ……」
「おう、任せとけ!」
 材木で一杯になった最初の大八車を2台目を持ってきてくれた人達に渡し、恋音とジュリオットは再び小枝や倒木を空の大八車に乗せて行く。
(……見れば見るほど、酷いですねぇ……)
 軍手を嵌めた手でムササビの巣であっただろう穴の開いている木を拾い、じっ、と見つめる恋音。
(……犯人の方の事情はわかりませんが、少々悪質すぎますねぇ……)
 枝を折るだけの犯行ならばむしゃくしゃしてやった、とか簡単な理由が挙げられるが巣である木の幹まで折っているとなると道具を持ってこなければならない。この家は相当な資産家の様であるし、嫉妬や怨恨も考えられなくない。
もしくはムササビの糞によるトラブルなのか。
(……まぁ、それは犯人を捕まえてみないとわかりませんねぇ……)
 これはばかりは想像と推理ではどうにもならないので恋音は軽く頭を振り、小休憩をすべく、荷物置きにしてある場所へと向かった。


 黄昏時より少々早い15時ごろになってくると家の一室を借りて仮眠していた夜班のメンツも徐々に起きてくる。
「おっはよーございます! 簡単な作業手伝いま……え? 大きいリス!?」
 巣箱班に近寄って行った雅人が見たモノはエマの頭の上に乗っているムササビ。
「ムササビだよー」
「む、むささびさんってずいぶん大きいんですねー!? もっとこうリスさんみたいなちっちゃいサイズを想像してましたよ」
 雅人が驚くのも無理もない。
 ムササビは確かにリス科なのだが、他のリス科の動物と比べてかなり大きい。それは似たような形態をしているモモンガと何が違うのかと言われると「まず大きさ」と言われるくらいである。
「大きくても可愛いねぇ」
 ジェラルドが穏やかな顔でエマの頭の上のそれに人差し指を差し出すと、ムササビは彼の指を数回不思議そうに匂ったあと、両手でその指を掴んだ。
「え?」
「あぁ、そいつ、ガキの時に巣から落ちてたの俺が拾って育てたヤツなんだよー。俺も馬鹿で人間の匂いが着いちゃったもんで大人になっても少しはぶられてたけど、反動か却ってヒト好きになっちゃってさー」
 本当は笑いごとじゃないんだけど、と苦笑する依頼人の言葉にそんな事もあるものかと一瞬、驚いたものの、ファンシーなモノに今、触れ合えている幸福に浸る。
「動画とか、彼は平気かい?」
「うん、大丈夫! 俺がしょっちゅう撮ってるからカメラ慣れしてるよー」
 いそいそと携帯を取り出しての撮影会から少し離れた所ではシエルが恋音を手伝いながら、地形把握も兼ねて森の中を見て回っていた。
「しかし馬鹿なことする人もいるもんですなぁ、性質が悪いというか何と言うか、小動物いじめて楽しいもんですかね? チーズケーキ食べてた方がまだ有益かと……イカン食べたくなってきた……」
 夜間見回りの際に邪魔になりそうな小枝等を回収している途中でふと見つけたのは小さな赤い実をつけた背の低い木。
(これは……ムササビが食べるかも……)
 そう思うや否や、シエルは嬉々として、その赤い実を採取し始めるのであった。


 そして、陽は完全に姿を消し、ムササビが活発になる闇の時間になる。
「ムササビだけなら、この夜空も美しい背景と思えるのだけどね。愛らしき森の精を困らせるの輩も活発になるのは頂けないな。らしくないけど、動物に罪はないね。ま、たまには正義の味方も悪くない」
 ヒンメルはそう呟くと、漆黒のワンピースを翻し、夜の森に消えて行った。
 また、同じく斥候役の雅人も、
「さあみんなで不届きモノを退治に行きますかね。サーバントやディアボロだったら遠慮なくやっちゃいましょう!」
と、夜目を光らせ出立した。


 更に夜が深まると、森の中にムササビ以外の大きな影が3つ蠢いているのをヒンメルが発見する。
 彼女は一層神経をとぎらせ、相手に気がつかれないようそっ、と影の後ろを陣取る。話している声を聞く限り若い男グループのようだが、おそらく犯人グループであろうか。
「これ、なんだ? こんな四角いもん、前に来た時置いてあったか?」
「いやぁ? 俺は覚えがないけどなぁ」
「あ、これ、巣箱じゃね? 俺らが木を倒してやったから別荘設置したってやつぅ?」
「畜生に別荘恵むくらいだったら俺らにも金寄こせよ、なあ?」
 げらげらと笑う、その男達の目的はやはりムササビ。
 動機も先程の会話からなんとなく『金』絡みのようだと想像できる。
(だが、動物に当たるのは感心しないな)
 男集団がその巣箱――実は夜ヱ香が設置したダミー――を持っていた棒状のもので叩き落とした瞬間、ヒンメルは勢いよくホイッスルを吹き鳴らした。


「……合図、です……」
「そのようだね、僕らも行こうか。ジュリオット先生、こちらを頼みます」
「うん、気をつけて」
 母屋で待機していたジェラルドと仮眠明けの恋音はそこをジュリオットに任せ、ホイッスルが鳴った方向に走っていく。
「来ましたか」
「うん、酒守さん。夜間組は出発したよ、行くかい?」
 ジュリオットの言葉に夜ヱ香は無言で頷き、2人に続いた。


「て、手加減しながらって厳しいですね……!」
 ヒンメルに合流した雅人は棒状のもので攻撃してくる男の攻撃を回避しながらも、どうすれば致命傷を与えてしまわないか検討中。
「ふむ、こう、動かれては、ワイヤー、も、難しい、な」
「うーん、4人で3人を囲むんで地道に捕まえるのは難しいであります」
 他の昼組より早く仮眠から覚めて潜行していたらしい仄も上空を見回っていたシエルもホイッスルの音に気付き合流していたようだ。
「人数がこちらに増えればあちらの動きを鈍らせる事が出来るだろう。あとはどれだけ早く待機組が来てくれるか、だが。今一度鬨を上げるかい?」
「いや、先程、ここ、に、着いた、時、に、『声』、を、伝えた。恐らく、真っ直ぐ、に、来てくれる、筈、だ」
「私も先程皆さんに拡散したであります」
 仄とシエルの言葉通り、ホイッスルで方向を、仄とシエルの『声』で場所を特定した母屋待機&仮眠組が合流し、犯人側は3人で打ち止めらしく、こちらが俄然有利となった。
 流石に倍の人数では相手も多少武器らしきものを持っていてもただの人間。
 そしてこちらは撃退士集団。むこうにどうやっても勝ち目はない。
「……森の仲間たちのお仕置きだ☆」
 甘いマスクから鬼へとなったジェラルドの表情を合図に怒涛の進撃が始まる。
「お……俺の斧が浮いた!?」
「俺の鉈もだ!」
 金属系の武器は磁力に反応する為、2本とも夜ヱ香の磁力に回収されてしまう。
 だが、棒状のものには残念ながら金属部品が使われていなかったので、まさに俺の独断場と言わんばかりに勢いよく振り上げて踏み出した。
 標的は恋音とシエル。
 見た目の判断であろうが、それもお角違い。
 残念無念、またなんちゃらと言う奴で――
「敵に特攻をしかける時は……」
「!? 急に暗く……!!」
「咄嗟の判断未遂が己の命を脅かすと覚えておけ!!」
 戦闘モードのシエルによってあっという間にKO。
「さぁ、不法侵入に器物破損でしょっ引かせてもらうのでありますよ」
 他の2人も武器を取り上げられ戦意喪失の所を1人は恋音に束縛され、1人はジェラルドにスタンされてしまったので、これにてムササビの家を壊したならず者の舞台は幕を閉じたのである。


「で、結局のとこカツアゲを失敗したから同居してる弱い動物に報復したと」
 ワイヤーで縛りあげられてお白州にあげられた犯人グループに対し、悠里は大きくため息をついた。
 なんと理由はここのボンボン(依頼者)にカツアゲを仕掛けた所、物理的反撃にあい、悔しかったので嫌がらせをしてやろうと家に侵入したら小さい動物と目があったからそれを標的にしたとのこと。
 理由が理由過ぎて大半の者はもう溜息しか出ず、溜息が出ない夜ヱ香は氷の様な視線でずっと犯人達を見つめている。
「馬鹿の上にちっさ……雅人、エマを抑えろ。気持ちはわかるがそんなもんで殴られたら普通の人間は死ぬ」
「エマさーん、魔法書しまってくださーい!」
「雅人さん、離すの〜」


 少しどたばたしたが犯人グループは特に反省しなかったのでそのまま警察にドナドナをして頂き、あとは残りの巣箱設置タイム。
 手先の器用な夜ヱ香と仄がせっせと作り上げ、他の面々で脚立を借りたり、浮遊出来る者はして設置をしていく。
 設置された巣箱に自分達とは違う匂いがついているので始めはムササビ達も警戒していたが、件の依頼人に育てられたムササビが最初に入り、それを見て他のムササビも次々に入って行った。
「よかった……」
 入ってくれた事に顔を綻ばせる夜ヱ香に、静かに頷く恋音。
「そうだ、昨日これを採取したであります」
 巣箱の上に立ったムササビを見て浮遊したまま昨日の赤い実を差し出すシエルを見て、悠里が首を傾げる。
「南天って鳥は食うけど、ムササビも食ったっけ? シエルー、ムササビは果実も好きだからこっちのイチゴにしておけー」



 こうしてムササビ達の平穏は無事に守られたのである。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

ファイヤーアーティスト・
ヒンメル・ヤディスロウ(ja1041)

大学部1年156組 女 鬼道忍軍
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
静寂の魔女・
仄(jb4785)

大学部3年5組 女 陰陽師
ぬいぐるみとお友達・
酒守 夜ヱ香(jb6073)

大学部3年149組 女 アカシックレコーダー:タイプB
久遠ヶ原から愛をこめて・
シエル・ウェスト(jb6351)

卒業 女 ナイトウォーカー
混迷の霧を晴らすモノ・
エマ・シェフィールド(jb6754)

大学部1年260組 女 アカシックレコーダー:タイプA