青い空、白い波、適度な暑さ――
こんな良い条件が揃っていると言うのに、今日は大荒れの海水浴場。
「やっぱり海っていいわね……余計なのさえいなければ、ね」
溜息をつき、青々とした海をアンニュイな表情で見つめるのは御堂龍太(
jb0849)。
「最近よく海で、クラゲのディアボロばっかりに出会ってる気がするよ」
そう苦笑する猫野宮子(
ja0024)の隣りで、どうやら給仕服の下に水着を着ていたらしいAL(
jb4583)がきっちりと給仕服を畳んでいる。
「皆ー、学校から水上バイクきたよー。それにしてもあれがくらーけん?ゆるきゃら?何気に可愛くない?」
「そうですか?まぁ早いところ犠牲者出んうちに急ぎましょう」
学園から届いた水上バイクに跨る紅羽萌(
jb7264)は後ろに高虎寧(
ja0416)が乗った事を確認し、発進させた。
「普通にやっつけられるものじゃないので、わたしたちに任せてくれませんかっ…!」
浜辺で格さん達をハラハラと見守っている助さん達に声をかけるのは竜胆のピアスを揺らして走ってきた澤口凪(
ja3398)。
「お、おう。お嬢ちゃんがなんたら士ってやつか…いや、見かけで判断しちゃいけねぇな。格の字達を頼んだぜ!」
「はい、お任せを!!……って言ってはみるけども、海中の敵ってフラストレーション溜まるなあ…!」
助さん達が撤退していくのを見守った天羽伊都(
jb2199)は遠距離用の装備をしてきてはいるが元来、近距離戦を好んでいるので今回の依頼には少し不満気だ。
一方浜辺付近でくらーけんに喧嘩を売りに行っている格さんを始めとする地元の血気盛んな連中の説得をしているのは闇の翼で飛んでいるユウ(
jb5639)ともう1台の水上バイクを使っているソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)と鈴・S・ナハト(
ja6041)。
「引き付けてくださり、有難う御座います」
「久遠ヶ原学園の撃退士です。後は自分らに任せて避難してください!!」
「あ?なんだって?」
「おやっさん、よくニュースに出てる化け物専門の退治屋ですよ。多分、助のおやっさんが呼んだんじゃないっすか」
引き連れた若者の1人がそう耳打ちすると格さんは3人を見定めるかのように見て、首を横に振った。
「女子供じゃねぇか。ここは海の男の領域だ、手助けはいらねぇ」
「うーん、よく言うギンジってやつかなぁ」
あははとソフィアは笑うが、鈴は納得がいかないようで何かにぐっと耐えるように拳を握ると息を吸い込み口を開ける。
「確かにここはあなた方の領域かもしれない。だけど、あなた達に海の男としての誇りがあるように、私にだって撃退士としての矜持があるんです。アウルの力を持たない人を守るために戦うという師匠譲りの矜持が!!」
「ディアボロとの戦闘領域は私共の領域でもあります。あとは私達が引き受けます。皆さんは一旦避難してください」
鈴の熱い言葉に続き、説得力のある話し方をするユウ。
これに格さんは少し冷静になれたようで、振り上げていた銛を下ろす。
「まぁ…そうだな。さっきからこいつはこっちの攻撃はスルスルすりぬけちまうし、運よく当たっても小石があたったような反応しかしねぇ。わかった、お前等に任せる。だが!俺達の領域に死人を出す事は許さねぇ!きちんと陸にあがってこい!」
「勿論です!」
「温かいお言葉、ありがとうございます」
「じゃあこのクラゲの気を反らすね!」
ソフィアは雷霆の書を広げると剣状の雷を召喚し、くらーけんの顔の前に落とす。
「鬼さん、こっちやで」
いつまにか水上歩行を使い近くまで来ていた寧がニンジャヒーローを発動させ、くらーけんが自分の方を向いた事を確認し、陸の迎撃班に向かって走り出した。
「さぁ、今のうちに!」
「野郎共!撤退だ!」
格さん達が完全撤退したのを見送った3人は寧を乗せていた萌と合流し、沖からくらーけんの後を追うのであった。
「皆様、ディアボロを引き連れた寧様がいらっしゃいました!」
闇の翼で空中待機していたALの合図で浜辺に残っていた宮子、凪、龍太、伊都がそれぞれ迎撃態勢をとる。
「こんなクラゲには先制の猫ロケットパンチにゃー!」
足のつく深さの所まで来たくらーけんに戦闘モードになった宮子のマグナムナックルがヒット。柔らかそうな外見とは裏腹に物理攻撃が効かないと言うわけではなさそうだ。
「物理攻撃が有効なのでしたら…!」
後方から追いついたユウのベネボランスも見事に命中した。
が、槍の抜けぬうちにくらーけんが振り返り様に吹いた毒針がユウの肩をかする。
「っ!」
「ユウ様!」
「いぶし銀の天羽が支援するっすよ!」
ALの放った風花護符の風刃と伊都のスマッシュを煙幕にユウが後退。
「!!!!!」
双方の攻撃が深手だったのだろうか。
くらーけんは言語と言うには未完成な声を発し、触手を駄々っ子の様に海面に打ちつける。
「わわっ、波が凄いねぇ」
萌は水上バイクのハンドルを必死に握りながら、周囲を見渡す。
ソフィアと鈴も波に耐えているようだ。
「!!!」
「!!!!」
「援軍です!」
「寧、走るんだよ!」
周囲に異変がないか見まわしていたALの合図に萌がある事に気がついて叫ぶ。
寧のニンジャヒーローによる『注目』はまだ継続中であり、援軍に来た赤と黄色のくらーけんから彼女の距離が近すぎる事に。
寧自身もそれに気が付いており、一刻も早くその場を離れようとしたが時は遅し。
体格のしっかりしているくらーけん(黄)の振り上げた触手に横から打たれ、その身を飛ばされた。
寧の着水前に萌が予測地点まで移動し、その身を受け止める。
「うっ…結構衝撃来るもんだねぇ。ユウ、ごめんだけどお願いできるよね?」
「勿論」
自身も毒を受け、後退中のユウは寧を預かり、浜辺に居る凪の元に向かう。
勿論くらーけん軍団が見逃してくれるわけではないが――
「ボクもちゃんと活躍しないといけないよね」
「まともな実戦は久しぶりなので張り切っていきますよ」
海上の退路を萌と鈴が守る為、くらーけん(赤)に切りかかる。
くらーけん(青)より傷が深くつき、この色のくらーけんは物理に弱いと分析できる。
「じゃあイエローのは魔法に弱かったり、なんてゲームだけかなぁ」
「やってみる価値はあるでしょ」
おたくな萌の言葉にニッコリと笑い、ユウを追いかけているくらーけん(黄)の後ろからソフィアがLa Pallottola di Soleを放つとくらーけん(黄)は大ダメージを受け、その場にうずくまるかの様に前かがみになって動きを止めた。
「じゃあ魔法班は黄色優先で攻撃ってところかしら?力強くてやっかいだしねぇ」
祝詞を唱え終え、集中力の高まった龍太はウォフ・マナフを構え、魔法の刃を作りだす。
「じゃあ、僕は数を減らす為に元から居たのを…!」
伊都も浜辺までくらーけん達がきているのでPDW FS80に武器を切り替え、龍太と同タイミングでしゃがんで弾を放った。
「寧ちゃん、今手当てするね」
「おーきに、凪」
皆の援護により凪の元に届けて貰った寧は凪から応急手当を受ける。
ユウも毒を受けた自身を落ち着かせる為に、その横に腰を下ろし、凪は寧の手当てをしつつ、くらーけん3体を見やって頬を膨らます。
「くらげさん……本物も一杯いたら厄介なのにっ」
「ほんまやな。しかも赤、青、黄色って……」
「確か小さな子供が歌っていた歌にそんな色合いあったような…」
戦っている時は必至であるが、傍から見ると何ともメルヘンな色合いである事は間違いないであろう。
一方、戦闘中の浜辺ではくらーけん(赤)が回復能力を持っている事が判明。
物理攻撃に弱いので一気に畳みかけられそうではあったが、これはやっかいな能力だ。
「先にソイツをやった方がよさそうですね」
「異議にゃしにゃー!鬼さんこちら、なのにゃ。しっかりこっちを見てるにゃよ!」
少し遠いので伊都はスナイパーライフルを構えなおし、その間に宮子は水上歩行で走り出しくらーけん(赤)に拳を叩き込む。続いて伊都の放った弾が当たると怒りの溶解液を浜辺に居る伊都を中心に放つ。
「当たらないわよ!」
龍太はしぶきをかわせたが、中心に居た伊都はもろに浴びてしまいダメージを受ける。
「伊都くん、じっとしててね」
寧の治療を終えた凪が走り寄ってきて今度は伊都を治療。
動けるようになった寧は影手裏剣・裂を放ち、3匹ともに攻撃をする。与えるダメージ自体は少ないが気をそらせるには十分な攻撃だ。
「これはお返しです」
毒が抜けたユウは再びくらーけん(青)の頭上に舞い上がり、先程よりも深くくらーけん(青)の頭を貫く。
「!!」
援軍を呼んだのもむなしく、最初に暴れていたくらーけんは一番最初に倒されたのであった。
「1匹終わったね!じゃあこっちも終わろうよ!」
「綺麗な海にあんた達はいらないのよぉ!」
ソフィアのライトニングと龍太の持つウォフ・マナフの金の刃が臓器の凝縮している頭部を直撃し、力自慢であったくらーけん(黄)もその場に倒れた。
「あとは赤だけだにゃー!」
仲間を倒された怒りか、はたまた1匹だけ残ってしまったあせりかはわからないが、のた打ち回るくらーけん(赤)の触手を交わしながら宮子は的確に拳を打ちこんでいく。
「一気に畳みかけだねぇ」
「この海の人達の為に!」
近距離に居た萌とくらーけん(黄)に攻撃を受けたものの防御に成功していた為動ける鈴がそれぞれの獲物を持って宮子とは別の方向から攻撃をしかける。
「さっきのは倍返しで返させて貰うよ!」
「くらげさん、倒れてください!」
遠距離からも回復の終えた伊都と凪が同時にPDWを放ち、それが当たるとくらーけん(赤)も断末魔を発し、海に沈んでいった。
「ふふん、これで撃破完了にゃ」
「宮子様、恐れいりますが……」
「にゃ、ALくんどうし…みゃー!?」
水着でぽろりと言うお約束の事態も引き起こし、無事、海の平和は守れたのであった。
「へへダンナ、良い娘そろってまっせ」
「え?ほんと?」
「はい、若干がっしりしてるけど凄く一途で純粋な子ですぜ」
「うぁ…凄くいい…!!紹介してくれ!」
萌は大学生くらいのしっかりと肌の焼けた青年にOKサインをすると、「龍さーん」と呼びかける。
「はぁーい」
「!!??」
萌の掛け声に奥から出てきたのは可愛らしいサンドレスをまとった龍太。
青年は龍太を見て驚きで声も出せないまま全速力で逃げて行った。
「失礼しちゃうわよねぇ、せめて断りくらいしていきなさいよぉ」
「本当にねぇ。彼女の香水やお召し物身につけてるくらい一途な子、なかなかいないのにねぇ」
悪戯っ子な笑みを浮かべている萌と龍太を見やり、苦笑する鈴は格さんの作ってくれた浜焼きを頬張る。後片づけもしてくれた礼も兼ねているので好きなだけ食べてほしいと言われ、お言葉に甘え中だ。
「格さん達も活躍はしてましたのに、生意気言ってすみませんでした」
「いいって事よ。鈴ちゃんの言うのにも一理あるってなもんだ。ありがとうな、この海を救ってくれて」
「こちらこそ、皆さまのお陰で犠牲者が出なかった事を感謝します。だけど、今回は運が良かっただけの話でもあります。今度からは速やかに警察の方か撃退庁に直ぐにお伝えください」
「海の男!ってのは分かりますけど、無理は禁物ですからね」
ユウと伊都にそう言われ、格さんは照れ笑いをしながら頭をかく。
「かー、わかったよ。餅は餅屋だもんな!」
「ALくん、せっかく来たんだし遊ぼう。ここまで来て依頼終えて帰るだけっていうのもつまらないし」
宮子とALは助さんの所で浮輪を借りて季節外れの海を堪能中。
先程のハプニングは脳の外に追いやって波を楽しむのだ。
「まだ温かくてよろしゅうございましたね、宮子様」
「うん!気温も暑すぎず寒過ぎで丁度いいよね!」
一方、浜辺も暑すぎない砂が丁度よく、眠気を誘う。
「海に平和が戻って良かったです!」
隣りで寝入っている寧の静かな寝息を聞きながら凪は笑顔でかき氷を頬張った