●
目的地目指し、道行くチョコレイトレイラ―。
最初の一台、アイドル一番星号に乗っているのは九鬼 龍磨(
jb8028)
「家のお手伝いする子も、減ってるって聞くしね。 お料理の楽しさとか、教えてあげられればいいな」
走るトレーラーの中で、取材に来た久遠ヶ原ゲーブルTV記者のインタビューに九鬼はにこやかに応えた。
目的地である学校に着くと、記者がおもむろに生ナレーションを入れた。
『到着したのは、ロリコンの聖地・小中一貫女子校』
九鬼、思わず吹く。
「ちょっと、変な事言わないで!」
トレーラーのハッチがオープンする。
荷台に据え付けられたキッチンにエプロン姿で立つ龍磨。
それを囲うように見つめる少女の瞳、数百。
学校が用意したサプライズイベントと聞いて集ってきたのだ
『ハッチが開くと辺り一面ロリだらけ、クッキー大歓喜』
ナレを聞いた女子小中学生が、九鬼を横目にヒソヒソと何やら言っている。
「わーん、歓喜していないから!」
九鬼は抗議したが記者は眉一つ動かさず、能面顔。
足元に“クッキーのお菓子教室”という看板がオープンした。
「初めましての人は初めまして、そうでない人こんにちはー。 撃退士でアイドルの九鬼龍磨だよー! 今日はねー、チョコレートの溶かし方と固め方の秘訣を伝授しちゃうよー♪」
口上を述べ、チョコ作りを披露し始める龍磨。
「チョコは必ず金属ボウルで湯煎してねー。 直火にかけちゃダメだよー」
香ばしいカカオの匂い、甘い生クリームの香りが辺りに漂い、女生徒たちの胃袋を鼻先からくすぐる。
「せっかくだから一緒に作って貰おうかな? 誰か、クッキーとクッキングしてくれる人、いるかな?」
ギャラリーに呼びかける九鬼。
すかさず、生ナレを入れる。
『ギャロリー、もといギャラリーから幼女を品定めしようとする九鬼。 大柄な男が、トレーラーに幼女を連れ込む事案が発生』
酷いナレのせいで、高学年以上の女生徒は警戒して手をあげくれない。
キッチンにあがってきたのは、記者の言っている意味がわからない低学年の女の子だった。
チョコ作りにチャレンジさせてみたが、さすがに手つきがおぼつかない。
「まだ難しいかな〜? どーしても無理なら、火にかけて暖めた生クリームを混ぜて、生チョコにするといいよー♪」
丁寧に優しく指導する九鬼。
『幼女に事細かに指示を出し、思うがままに幼い女体を動かす九鬼。 果たしてこのような男を野放しにしておいてよいのか』
「違うから!野放しにしちゃいけないのは、そういう発想するキミだから!」
終始真顔で変なナレを入れ続ける記者に翻弄され続けながら、お菓子教室を終えた九鬼。
チョコの香りと、ロリコンの逮捕劇が見られるという評判に誘われて近隣住民も集まり、終了後の販売会は予想以上の賑わいを見せたのだった。
●
都内にある某男子校。
放課後の校門脇に停まったトレーラーの荷台上に、黙々とフィギュアを作る金髪の少女がいた。
アイリス・レイバルド(
jb1510)である。
本来集客のためのパフォーマンスを行う依頼だが、彼女は呼びかけも何もしない。
淑女的にフィギュアを作り続けるアイリスを、下校途中の男子たちがポカーンと眺めている。
「何やっているんですか?」
男子生徒の一人が恐る恐る話しかけた。
「こういうのを作っている」
アイリスが男子生徒に見せたのは、四ノ宮 椿のフィギュアだった。
十年前、十五年前、二十五年前と時間軸をずらしたモデルが完成している。
「可愛い娘ですね、でも何のキャラ何ですかこれ?」
島外の人間が椿を知るわけがない。
「事実を知ると失望するぞ」
アラサー喪女の過去の姿だなどと、言えなかった。
「リクエストがあれば何でも作るぞ」
「チョコレートで?」
そう、アイリスの作ったフィギュアはチョコで出来ていた。
男子高校生たちは、アイリスを飴細工職人の亜種だと解釈した。
「じゃあ、僕は」
アイリスを指差す男子高生。
「私か?」
「はい! ビキニバージョンで!」
異性に飢えた男子校。
中身は変人でも外見は抜群に美少女なアイリスが目の前に現れて、何でも作ってくれると言ったのだ。 そういう発想にもなる。
対して羞恥心に難のあるアイリスさんは無表情。
「ふむ、この寒い時期に酔狂な事だがまあいいだろう」
チョコを自分の水着フィギュア型に作り始める。
さすがは勝手知ったる自分の肉体、出来ばえは見事なもの。
想像で作った椿のそれより遥かにリアリティがあった。
周りに集ってきた他の生徒たちも興奮し、ブルマだ、園児服だと己の欲望丸出しの注文をし始める。
「異性に飢えていると言うから少女を題材に作ったが……男子校生とはこれで満足するのか?」
完成品は後で手売りすると告げると、男子高生たちは群がってそこに残った。
どこの馬の骨とも知れぬ男が、チョコ姉をペロペロして食べるなどと知ったら、シスコン妹がどういう行動に出るのかという疑念がアイリスの頭にちらついたが、男子高生たちの自己責任なので放置する事にした。
●
「みんな〜 ハッピーバレンタインだよ〜♪」
トレイラーの荷台上で川澄文歌(
jb7507)は着ていたナポレオンジャケットを、軽やかに脱ぎ捨てた。
下からには、ひらひらのついたレオタードを纏っている。
「お、アイドルコンサートか」
可愛くスタイルのいい文歌に、下校中の男子高生たちが足を止め湧き立つ。
「聞いて下さい、新曲“恋の戦場☆バレンタイン“」
可愛らしい歌声を響かせ始める文歌。
歓声の中で一曲目が終えかけたその時だった、
「何がバレンタインや! リア充め!」
荷台の中にかけてあった巨大な布が、声と共にふわりと取り払われた。
その下から出てきたのはプロレスリング。
そしてロングスパッツとスポーツブラ、黒いボブヘアの少女、黒神 未来(
jb9907)。
「バレンタインなんぞ、このメデューサ黒神がぶっこわしてやるわ!」
「未来ちゃん、非リアをこじらせちゃったんだね。 私が愛の力で未来ちゃんを目覚めさせてあげる!」
軽やかにロープを飛びこえ、リングインする文歌。
同時に闘いのゴングが鳴る!
「はっ!」
文歌、アウルを燃やして高く跳躍しドロップキック!
だが未来は、ニヤリと笑う。
「跳びすぎや! 文歌クン」
落下してくるまでの時間と、位置を瞬時に計算する未来。
この二人、プロレス経験に大差がある。
未来は真久遠プロレス部員として戦い続けているが、文歌はデビュー戦。
熟練のタイミングで放った未来のハイキックが文歌をマットに叩き落とした。
「きゃ!」
倒れた文歌にかけるのはアキレス腱固め。
アキレス腱を骨で圧迫する関節技!
「ぎぅ」
激痛に可愛らしい文歌の顔が歪み、涙がこぼれ出る。
「辛いか! だが非リアにとってバレンタインはもっと辛いんや! その苦しみを味わえ!」
未来が悪役丸出しな顔で罵る。
その時、デブメガネのAAで描いたような非リア男子が叫んだ。
「文歌ちゃん! 僕はバレンタインの苦痛に耐える! だから文歌ちゃんもその痛みに耐えて!」
その言葉にショックを受ける未来。
「なんやと、非リアがうちを裏切った!?」
その瞬間、未来に隙が出来た。
文歌は素早く技から脱出すると、トップコーナーに上り、さらに天高く跳躍。
「だから跳びすぎやと!」
また落下地点を予測し、迎撃せんとする未来。
だが文歌は、空中で体に捻りを加えた。
横に、縦に、しなやかに!
不死鳥の如く空を舞った落下地点は、未来の予測とは全く違った場所
「なにぃ!」
炸裂! ブルーフェニックスプレス。
一撃でKOされる未来。
試合終了のゴングが初陣の文歌を祝福する。
「はっ! うちはなにをしとったんや?」
すぐ目覚める未来。
「未来ちゃんは、非リアの怨念に操られていたんだよ、さあ一緒に歌おう!」
リングに並び、なぜかアイドルライブを始める二人。
無論、ここまでブック。
ブルーフェニックスプレスも、未来が授けた技である。
ライブの後はチョコの手渡し販売会。
ブック丸出しなものの、アイドルファンもプロレスファンも取り込み、結構な盛り上がりを見せた。
●
「パフォーマンスすればいいんでしょう? よろしい、ならばお色気だ」
などと言いながらトレーラーの中でセーラー服に着替えたのはファリオ(
jc0001)。
美少女顔の半天使ショタっこである。
男子高校の前にトレーラーを停め、チョコ作りを始めるセーラー天使。
ホワイトチョコを湯煎して溶かし、ハート型にするだけの簡単なお仕事。
ただ、溶かして混ぜる際、さりげなくチョコを飛ばして顔とか服に付ける。
「んっ……顔にかかっちゃったなぁ。ちょっと生ぬるい……」
ペロッと舌を出して頬についた白いドロドロを舐め取り、指でネバネバを掬い取るファリオ。
それを男子高生たちが、だらしない顔で声もなく見つめている。
(ふっ、他愛もない。 全員、ホモにしてくれるわ!)
女装男子である事は公言しているのだが、異性に飢えた男子高生。
美貌のファリオにメロメロになってしまう。
「今、作ったチョコです♪ チョコを一番多く買ってくれた“お兄ちゃん”に愛を込めてプレゼントしちゃうね♪」
可愛らしくウィンクすると、男子高生たちは俺がお兄ちゃんだとはかりに万札を舞い散らせ、チョコを買いまくるのだった。
「いやぁ、ちょろいわ。 女装していると分かっているのに僕に時めくとか、ゾクゾクするわぁ!」
男子校に着く直前のトレーラーの中で高笑いするファリオ。
実は、なんとここまでファリオの妄想。
実際についた男子校で待っていたのは、
「番長、こいつ男のくせにセーラー服なんか着てますぜ」
「ああん? なよっとしやがって気合が足りねえなあ」
八十年代を思わせる、不良どもだらけの荒れ果てた学校だった。
「え? え?」
実は斡旋所の椿が、以前、産廃扱いされた事の仕返しにファリオの行先をここへ手配しておいたのだ。
「顔パンされるのが大好きって顔してやがる」
「野郎ども! 漢の気合を入れてやれ!」
「オッス! オッス! 番長オッス!」
ファリオは不良に周りを囲まれ羽交い絞めにされ、男気溢れる顔パンを沢山してもらったのだった。
●
女子高にハイドアンドシークで身を潜める男、鷹司 律(
jb0791)。
ここだけ抜き取ると性犯罪者の行動であるが、事前に職員室に挨拶に行き、今回のイベントの主旨について説明してある。
周りに人がいないのを確認し、ファイヤワークスで色とりどりの花火を頭上に咲かせる。
「なに? お祭り?」
冬の花火に意表を突かれた昼休みの女子高生たちが、ぞろぞろと校舎から出てきた。
ここでチョコレイトレイラー登場。
荷台は九鬼が使ったものと同じ、キッチン仕様である。
エプロン姿の鷹司が、トレイラーの周りに集まった女子たちにレシピを配布する。
「私がこれからチョコチップマフィンの作り方を実演します、後程、チョコレートと併せて材料も販売いたしますので、ご自分で作りたい方は調理室を使って下さい。 許可は先生にとってあります」
手作りチョコマフィンパックを見せる鷹司。
トレーラーの上のキッチンに立ち、調理実演し始める。
「まずボウルにバター30gと砂糖70gを入れ、泡だて器で白っぽくなるまでかき混ぜます」
お昼ご飯を食べたばかりの女子だが、甘い物は別腹である。
美味しそうな匂いに、スイーツ専用胃袋が稼働し、鷹司のパティシエ姿を夢見心地で見上げ続ける。
「想いチョコを細かく砕き入れ、型になりそうなトレイを探し流し込んだ後、バレンタインチョコ2015を細かく砕き振り掛けます」
商品名を明言し、スポンサー様への配慮も忘れない。
手作りチョコマフィンパックは料理好き女子に売れ、放課後の調理室は満員になるのだった。
●
「アムルさん、何ですの面白いイベントって?」
遊び仲間のアムル・アムリタ・アールマティ(
jb2503)にトレーラーに乗せられはしたものの、わけのわからない桜井・L・瑞穂(
ja0027)
アムルが取り出したのは、バニースーツだった。
チョコレートとホワイトチョコ色のツートンカラーで、ファーが付いている。
「なんですのこの破廉恥な衣装は!?」
「えへへへへぇ♪ 女の子に飢えた男の子達をダンスショーでみぃんな悩殺しちゃおうねぇ♪」
「これを着て踊るんですの!?」
「そうそう、男子校に着くまでにダンスの練習しとこ♪」
トレーラーの後部座席から、荷台部分に移動するとそこはダンスホールに改造されていた。
「嫌ですわ! 出来ませんわ、こんなお下品な踊り!」
口では嫌がっているがしっかりバニースーツを着込み、お尻を振っている瑞穂。
実は目立つ事が大好きだったりする。
「そうそうその動き! えっちぃよ、瑞穂ちゃん♪」
トレーラーの荷台が開くと、外には男子高校生たちが待ちうけていた。
視線から、頬を赤らめ爆乳を腕で隠す瑞穂。
今にも逃げ出したそうな目をしている。
男子生徒たちはバニースーツ姿の二人を見て、興奮して歓声をあげている。
「こうなったからには、徹底的に魅せてさしあげますわ! おーっほっほっほ♪」
瑞穂は開き直りが早い。
音楽に併せ、ポールダンスを踊り始める二人。
発育したいがままに発育した二つの女体が、チョコレート色のポールに甘く艶めかしく絡みつく。
血走った眼でそれを、ガン見する男子生徒たち。
「やっぱり飢えているねぇ♪ サービスしてあげよぉ♪」
豊穣な胸の谷間にチョコを挟み、そこを強調するようにダンスするアムル。
瑞穂に正面から密着する。
「あんっ。アムル? 密着し過ぎですわ。ふふふっ」
四つの爆乳が密着して蠢く。
「美味しそうに見えるようにぃ、ねぇ♪」
「さぁ、わたくし達の舞を確りと御覧なさいな♪」
欲求不満の男子生徒たちのボルテージはMAXに達し、場末の劇場でおっさんのような歓声をあげ始めた。
ダンスが終われば、販促タイムである。
「お買い上げいただいたチョコレートの中に、私たちの“キスマーク”が入っていれば当たりですわー」
「当たった方には私たちが二人同時にハグをしてあげるよぉ」
興奮しきっている男子生徒たち、財布の紐を絞めるなんてありえない。
俺は十個、我は二十個と争うように買い始める
これを逃したら、生涯おっぱいに御縁がない事を予感している者もいるのである。
「おっーほほほ! 貴方達、今こそ甘い夢を見る好機でしてよ♪」
「そんなにがっつかなくてもぉ“手違い”で全部が当たりなんだけどねぇ♪」
瑞穂とアムルの反則的販促は、イベント中最高の売上を達成した。
●
こうしてチョコを売りまくったチョコレイトレイラーは、バレンタインシーズンだけでなく一年中全国を走り回る事となった。
荷台には甘いチョコレートと、夢に満ちた舞台と、そこを舞う撃退士たちが乗っている。
明日は、キミの街にも来るかもしれない。