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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:7人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2015/01/13


みんなの思い出



オープニング


 某斡旋所の職員・堺 臣人は、リクルートスーツに身を包み、面接会場を訪れた。
 舞い込んできた依頼内容――学生が作った学園内出版社からの依頼――があまりにも不可解だったため、自ら体当たりで、内容を確認しようと考えたのである。

 面接会場に入ると、二人の青年が机の向こうに座っていた。
 一人は出版社の社長、もう一人は編集長だと名乗った。
 二対一の面接だ。
「年齢は十八歳、最近撃退士の活動をされていないようですが、理由は?」
「僕、現実主義者なんですよ。 命がけで戦うとか馬鹿らしくなって、すぐ帰っちゃうんです」
 実際はもう完全引退しているのだが、それは伏せる。
 その答えに面接官二人が、笑顔を浮かべた。
「編集長、これはいいヘタレキャラですよ!」
「いいね。 面構えもいい、実に個性のないモブ顔だ」
 何だかバカにされている気がしたが、堺はこれも仕事だと思い、抑えた。
「堺さん、特技は?」
「ゲーム制作です、学園内コンテストで入選経験があります」
「ゲーム制作か、地味だなー」
 浮かない顔になる二人。
「ドット絵が好きで描くのは速いんで、それを活かして作りました」
 二人は再び笑顔を輝かせる。
「ドット絵が得意! 面白いかもしれん」
「斬新な必殺技が生まれるかもしれませんね!」
 必殺技? わけがわからず顔を曇らす堺。
「堺君! 部署はどこがいいかね?」
「部署? 単なる依頼じゃなく正社員就職ですか?」
「戦闘、冒険、恋愛、コメディ、ホラー、学園――」
「撃退士の依頼みたいですが」
「日常、スポーツ、学習、ギャグ、ギャンブル、四コマ――」
「ちょっと待って下さい、四コマって何ですか!?」
「キミが主人公として登場する漫画の部署(ジャンル)だよ」
 この依頼は“少年漫画の主人公になる“というわけのわからないものだったのだ。
「少年漫画の主人公になりたいと思った事のある人は、結構いると思うんだよね、いつか自分が主人公になれるかもしれない――そんな読者の夢を実現するため創刊する事にしたのが“週刊少年 ORE”。  読者を主人公にした漫画を掲載していく雑誌さ」

 編集長に気に入られた堺は、自分を主人公とした漫画の内容を打ち合わせる事になった。
「希望はバトルものか、バトルものなら戦う敵が必要だが、何を敵として倒したい?」
「敵と言われても……」
「嫌いなものとかあるかな?」
「実は僕、ポリゴンが嫌いなんですよ。 ゲームはドット絵に限ると思っていたのに、ある時、ポリゴンが出てきて、駆逐されちゃった感があるんで」
「なら、君の得意なドット絵を実体化させて、実体化したポリゴンと戦う話でいいかな?」
 数週間後、本人の希望を内包した、堺 臣人が主人公の原稿が完成した。

【ドットファイター・堺 第一話】
 私立風立高校。
 そのゲーム制作部の部室で、一人の少年がペンタブを高速で滑らせ、凄まじい速度でドット絵を描いている。
 モニター上に、デフォルメされた蒼い戦士の絵が出来上がる。
 感心する他の部員たち、
「速い! これがドット絵五十連描き!」
「一時間に五十キャラを描きあげると言われる伝説の業だわ」
 ドットを撃ち続ける主人公の主人公・堺。
 そのモブ顔には、秘めたる熱さがあった。
「さすがは、今や伝説となった堺太助の息子」
「ドット絵神を継ぐ者、堺臣人だ!」
 
 外が暗くなった頃、ゲーム制作部の部室では堺が一人でゲーム制作を続けていた。
 そこに一人の人物が入ってくる。
 赤いスーツ姿に黒いソバージュヘアの、中途半端に若い女教師だ。
「堺君、悪いけどちょっと手伝って欲しいのだわ」
「なんですか? 椿先生」

 四ノ宮椿先生に連れられ、堺がやってきたのは埃っぽい倉庫だった。
 堺は頭巾とマスクを付けさせられ、乱雑に物が置かれた倉庫の整理をさせられていた。
「ごほっ、ごほっ」
 立ちこめる埃にむせる堺。
「こんな掃除を押し付けられるんなら、居残りなんかするんじゃなかった」
 ぶつくさ言いながらも、片づける堺。
 その手が、古びたトランクに触れる。
 トランクには“TASUKE・SAKAI”という文字が刻まれている。
「行方不明の父さんの名前だ!」
 トランクを開けてみる。
 そこには背中に背負うタイプのノートパソコンが入っている。
「二十年前くらいの型だな、そういや父さんもこの高校出身だっけ」
 さらにトランクには、腕に装着するタイプのペンタブが入っていた。
 試しに、身に付けてみる堺。
「なんだこれ」
 ノートパソコンを背負うとか妙な感覚だ。
 こういうのがオサレとされていた時代があったのだろうか?
 その時、倉庫の外から、悲鳴が聞こえた。
「きゃーーなのだわっ!」

 外に出てみると、椿先生が怪物に連れ去られようとしている。
 怪物は鬼のような姿をしていたが、カクカクと角ばり、人工物としか思えない不自然さがあった。
 その姿に怯える堺。
「か、怪物! まるでポリゴンだ――一昔前のローポリゴンみたいだ」
 逃げ出そうとする堺。
 だが、椿に救いを求められる。
「助けてー、堺君!」
 涙目の椿に向かって淡々と答える。
「無理ですね、そんな怪物相手にしたくありませんよ。 警察呼んできますね」
 あくまで逃げようとする堺。
「ちょっと、堺君」
 呼び止める椿に構わず、逃げ出す。
 その時、堺の背中でコンピュータが突然、起動した。
(……これは懐かしき95の起動音?)
 続いて虚空に突如、電子モニターが投影された。
 そこには、堺がいつも使用しているドット絵エディッタが映っている。
「何もないところにモニターが!?」
『臣人よ! 蒼の戦士を、フリードを描くのだ』
 謎の声がコンピュータから響く。
(父さんの声!?)
 堺の目が、我を失ったかのように光を帯びた。
 ポケットにしまっておいたペンを取り出すと、タブレットの上でそれを超高速で走らせる。
 虚空モニターに、蒼の戦士フリードが描かれてゆく。
 ものの数秒で、完成!
 その瞬間、虚空に投影されたモニターがスパーク!
 そして!
「ドット絵が実体化した!? 」
 蒼の戦士フリードが現実の世界に現れたのだ!
 唖然とする堺。

 その時、怪物が振り向いた。
「フリー……ド!」
 その名を呼び、目を憎悪の赤に染め襲い掛かってくる。
「臣人! 武器を!」
 フリードが堺に手を差し出し、そう言葉を発した。
「丸腰では奴は倒せん! 奴を倒せる武器を!」
「え、武器!?」
 辺りを見渡し武器を探す堺。
「ドット絵だ! 全てはドット絵で描くのだ!」
「そうか!」
 再びペンタブを走らせる堺。
 フリードの手に、堺が描いた武器が出現する。
 その姿にフリードは目を見開く。
「なにぃ! この武器は!」
【ドット絵ファイター・堺 第一話 完】


 再び、編集長に呼び出された堺は、出来上がったその原稿を読み終えた。
「ここで終わりですか?」
「連載漫画はヒキが命だからね、続きが気になるところで終わらせないと、次回を読んでもらえないんだ」
「ちなみに、この“武器”はなんなんです?」
「考えてない」
「あの敵の正体は?」
「そんな事今から考えてなくていいよ、少年漫画ってのは、その場のノリで考えるのが一番面白いんだ」
「ツッコミどころが多くても勢いのある漫画の方が後世まで愛されるからね、矛盾とか、話が破たんするとか上等だよ」
「そんなもんですかねえ」

 週刊少年ORE創刊号は豪華八大新連載!
 残る枠は七本! 
 キミ達の物語を待っている!


リプレイ本文


『ストライカーD
         黒神 未来(jb9907)』

(何の個性もない片田舎の大道町、この町に十年前、TV番組の取材が殺到した事があった)

 実に嬉しそうな顔でボールを蹴っているのはボブヘアの幼女、未来。 
 それを、大道中学サッカー部のユニホームを着た男子生徒三人が取り囲む。
「お嬢ちゃん、サッカーごっこ上手だねえ」
 ヘラヘラしながら言う中学生たちに、未来がカッと眼を見開く。
「ごっこやないわ」
 中学生たちのディフェンスを、足と一体化しているかのようなボールさばきで躱す。
「うぉ!?」
 短い脚をあげて、シュート。
 揺れるゴールネット。
 絶句する中学生たちを振り返り、その顔を楽しげに見る未来。
「兄ちゃんたちのとは違って、うちのは本物のサッカーや!」
 
『サッカー天才少女、未来ちゃん! 口も超中学生級に生意気です!』
 全国ニュースで流れるサッカー天才少女・未来の姿。
 それを、食卓のTVで見つめている少女がいた。
 川澄文歌、未来と同い年の少女。
 その幼い目には、純粋な憧れが浮かんでいた。
(これ、楽しそう)

 それから十年が経った。
 文歌は、大道高校サッカー部の部長となっていた。
「すみません部長」
 文歌に退部届を渡す部員。
「そんな、来週は強豪会堂高校との試合なのに」 
 部員が無言で去っていく。
 渡された退部届を、文歌の手が悔しげに握りしめた。
 
 薄暗くなった夕方の体育館裏。
 カラーコーンを置き、一人でジグザグドリブルの練習をする文歌。
(なんで皆、サッカーを辞めてしまうんですか? こんなに楽しいのに)
 ふと顔をあげると、校舎の窓に自分の顔が映る。
(私も、大して楽しそうな顔してないですね)
 TVで見た未来の姿に影響され、初めてボールを蹴った、あの幼い日は楽しかった。
 部活に入り、勝利を目指すサッカーを強いられるようになると顔色が変わった。
 苦しげで必死な色に染めかえられた。

 脳裏に浮かぶのは、楽しげな、それでいて勝ち誇っていた未来の顔。
(あの娘みたいに、楽しく、強いサッカーをしたい)
 答えを探すかのように辺りを見回した時、こちらを見つめている人影を見つけた。
 背は伸び、胸は大きくなっているものの、黒いボブカット、そして鍛えられたその脚は。
「まさか、未来ちゃん? サッカーの天才少女の!」 
「そうやけど」
 無愛想に応える未来。
 パッと顔を明るくし駆け寄る文歌。
「お願いです。 私たちと一緒にサッカーをしてください!」
「いやや」
「え?」
「うち、サッカー嫌いやねん」
 吐き捨て、立ち去って行く未来。
 文歌が呆然とその背中を見送っていると、脇から大きな声がした。
「結局、あんたは真の天才じゃなかったってことよ」
 声のする方向を見ると、サッカーボールを足に敷いた少女がいる。
 その小さな体が纏うのは、名門会堂高校サッカー部のエースナンバー10!
「この大天才、雪室チルルと違ってね!」
 立ち止まる未来
「チルル!」
「錆びついたあんたの脚なんか、そうやって賭けフットサルをしているのがお似合いなのよ!」
 罵られ、悔しげにチルルを睨み付ける未来だがすぐに踵を返す。
「未来ちゃん!」
 文歌に声を掛けても未来は立ち止まらず、駆け去っていく。
 ふと横を見ると、チルルが何とも言えない寂しそうな顔をしていた。
「未来、やっぱりあの時の事が」
 文歌はチルルに尋ねた。
「賭けフットサルって?」
「裏の世界の連中が仕切っているギャンブルよ、勝った人間は、負けた人間から何でも奪えるの」
「――奪える」
 文歌は真剣な顔になり、チルルに詰め寄った。
「それをやっている場所を、私に教えてください」
「正気? あんたみたいに綺麗な娘が行ったら」

 日曜日。
 町の片隅にある廃校の体育館。
 そこに、あまりにもガラの悪そうな連中が集まっている。
 散乱する酒、煙草。
 怪しげな薬の発する煙までもがたゆたっている。
 
 不良たちが、そこへ入ってきた人影に気付き、ヒュウと口笛を吹いた。
 文歌がたった一人、体育館の奥へ進んでいく。
 そこにはフットサルのゴールがあり、未来がいた。
「なんや自分?」
「私と勝負してください」
「なんやと?」
「私が勝ったら、未来ちゃんから“サッカーを嫌う権利”を奪います」
 一瞬、顔を引きつらせる未来。
「おもろいこと言うやんけ」
 やがて、偽悪的な笑みを浮かべる。
「実はうち、賭けで負けたツケが溜まってるんや。 うちが勝った場合は、あんたにそのツケを払ってもらおうか?」
 ユニホームから伸びる脚を、不良連中が好色そうな眼で眺めているのに文歌は気付いた。
 その意味を理解し、一瞬、怯えた顔をする文歌。
 だが、すぐに目に決意を滾らせる。
「いいでしょう」

【天才はなぜサッカーを憎むのか? 以下次号!】


 『イツトリ
      ミハイル・エッカート(jb0544)』

 横浜の港湾に佇む倉庫の中。
 ミハイルは必死の形相で叫んでいた。
「濡れ衣だ! 俺は何もやっていない!」
 丸腰を示すかのように、両腕を頭の後ろに組んでいる。
 だが暗殺者は、無表情に銃を構えた。
 銃口が火を噴く。
 弾丸に貫かれ、鮮血の流れ出る眉間。
 その眉間の持ち主は――暗殺者だった。
 ミハイルの拳銃から、硝煙があがっている。
「何も、とは言い難くなっちまったな」
 先程まで、同じ組織の仲間だった肉塊に語りかけた。
「だが、ボスの娘を殺したってのは濡れ衣なんだ――って、聞いてねえな」
 拳銃をスーツの内ポケにしまい、代わりに煙草を取り出す。
 それを銜えつつ、倉庫から光あふれる外の世界へ出ていくミハイル。
「さぁて、どこに身を隠すか」

 横浜郊外にある家電量販店。
 入り口で、ゆるキャラのゆるっしーが子供たちに風船配りをしている。

 着ぐるみに入っているのは、ミハイルだった。
(顔を隠して働ける仕事を探して、ありつけたのがこれか)
 悪ガキに、蹴りを入れられているゆるっしー。
(くそっ、万年C級ヒットマンの哀しさ、無職で食いつなげるほど貯金はねえ)

 組織で行われた、ボスの手料理会。
 皿からピーマンを取り除いて食べていたミハイルを、ボスが物凄い顔で睨んでいたのを思い出す。
(あれ以来昇進が停まった。 ピーマンさえ入っていなけりゃ、B級――いや、A級にあがれていて、今頃は悠々自適に亡命生活出来るくらい貯金が)
 
 ピーマンが悪い、ピーマンが悪いと呟きながら風船を配っていると、そこに眼鏡をかけた長髪の青年がやってきた。
「風船、くれないかな? 弟のお土産にしたいんだ」
 笑顔の青年に、風船を渡すゆるっしー。
 その瞬間、青年の右掌にサイレンサー付き拳銃が現れる。
「キミの命と一緒に、ね♪」
 青年に左掌に握りつぶされ、風船が割れる。
 その破裂音に紛れて、零距離から発射される弾丸。
 着ぐるみの心臓部から、中の肉体へ弾丸がめり込む。
 苦痛にゆがむミハイルの顔。

 深夜。
 路地裏にある小さな廃病院。
 ミハイルは、ここに逃げ込んでいた。
 雨戸の締まった常闇の診察室。
 明かりは、スマホのディスプレイ光のみ。
 それを頼りに、ピンセットで弾丸を抜き、包帯で止血をする。
 激痛に息は荒く、顔には脂汗が滲んでいる。

 息が半ば整った頃、携帯電話をかける。
 ディスプレイには発信先名“四ノ宮 椿”とある。
「安心しろ、妙ちくりんな形の着ぐるみのお蔭で、急所は免れた。 だが相手は咲魔だ。 A級ヒットマンにいつまで死んだふりが通用するか」
 その時、玄関の蝶番がきしむ音が聞こえた。

 咲魔だ。
 玄関前に捨てられていたゆるっしーの着ぐるみを見つけ、ミハイルにトドメを差しにやってきたのだ。

 無言でスマホの電源を落とすミハイル。
 唯一の照明が消え、診察室は闇に包まれた。
 逃げようと忍び足で移動するが、すぐに立ち止まる。
(奴なら足音で、気付く)
 靴と靴下を脱ぎ、その上下関係を入れ替えて素早く履き直す。
 
 ごくわずかになった足音は左に、右に、床を叩く。
 常人なら捕えられないようなそれを、咲魔の耳は正確に捕えていた。
「靴の上から靴下を履きましたか――ベテランらしい小細工です」
 ミハイルが闇の中を歩く姿を、咲魔の脳は明確にイメージする。
 診察室に飛び込みその地点に、銃火を放つ。
「ミハイル先輩、その首いただきます」
 狙った地点に寸分たがわず着弾!
 その瞬間だった。
「さすがだ、お前の耳になら聞こえると思っていた」
 咲魔の背後から声は聞こえた。

 咲魔の首をワイヤーで締め上げるミハイル。
 その足は靴を履いていない。
 白目を剥く咲魔。
 肉塊となったそれが、床に倒れる。
「残念だったな。 俺がこの場所を選んだときに既に勝敗は決まっていた」 
 ミハイルはスマホで診察室を照らしだした。
 靴下に包まれた革靴が左右一足落ちている。
 片方には、咲魔の銃弾による穴が開いていた。
 ミハイルは、これを床に投げ落として足音の位置を偽造したのだ。

 ミハイルが煙草から煙を揺蕩わせていると、再び玄関の蝶番がきしむ音がした。
 その足音に、頬が安堵に緩む。
「助かったぜ、椿。 今、吸っているので弾切れだったんだ」
 空になった煙草の紙箱を、握りつぶしながら振り向く。
 だが、その目に映ったのは、涙を流しつつ、拳銃をミハイルに向ける恋人の姿だった。
「さよなら、ミハイル」
 銃弾がミハイルの胸を貫く。

【愛する者の凶弾にミハイル死す!?】


【孤独のゲーマー
         ファリオ(jc0001)】

 東京都高田馬場。
 駅前の広場に、制服姿の少年・ファリオが降り立つ。
(暑い。 こんな日にも学校があるのが恨めしい)
 太陽の眩さに目を細めながら、汗ばむ顔をあげる。
 青い空に、形も様々な雲が浮かんでいる。
 俯き、駅前を歩き続けるファリオ。
(暑すぎて、頭が真っ白だ。 この空白を埋めるものは)
 再び、空を見上げる。
 移ろいゆく雲の形が、スライムや、インベーダに変化する。
(……今の僕は、ゲーム脳だ)
 たまらなくなったように、走り出す。
 顔を左右に動かし、通り沿いにある店を確認する。
(ゲーム、ゲームだ! 学校? そんなものは中止だ)
 ゲーセンの看板が見える。
(アーケードゲームか? ダメだ、制服のまま入ったら補導される)
 走りながら胸ポケや、腰ポケを探る。
(携帯ゲーム機――ない! 授業中に机の下に隠してやっていたら、先生に没収された)
 歩きスマホでゲームをやっている若者を見る。
(スマホゲー? 課金が中学生には辛い、無課金プレイで重課金者に狩られるのも鬱だ)
 ふと、裏通りに何かを見つけるファリオ
 “ゲームショップマリ夫”と看板に書かれた、うらぶれた店だ。
 その店に駆け寄る。
(この佇まい――ネット販売に圧されて、もう瀕死ですっておちぶれ加減)
 ごくりと喉を鳴らすファリオ。

 手動ドアを押し開ける。
 店内に入り、陳列されているゲームを物色する。
 目を奪われたのは、ワゴンに並んでいる福袋だった。

 自宅に帰り、福袋を開けるファリオ。
出てきたのは “龍王探究8” “最終物語10”“鋼歯車ソリッド3”“道端闘士3”“実況スーパープロ野球2003“
 五本のゲームソフトを前に何とも難しげな顔をするファリオ。
(うーん、RPGとRPGがダブってしまった。 そうか、ここの福袋は一つで十分なんだな)
 学生鞄の横に、もう一つ福袋が置いてある。
(もう一つの福袋は残しておこう。これらで遊んでから、また開封して楽しもうじゃないか) 
 早速、“龍王探究8”を遊駅2に入れ、プレイを開始する。
 画面に、10年前の最新技術で描かれたポリゴンキャラが現れた。
(これですよ、この“頑張ってますよ感“見え見えのグラフィック! こういうのが好きなんですよ、僕は)
 無言でゲームを続けるファリオ。
 少年らしく楽しそうな顔をしている。
 だが二時間ほど経った時、それが曇る。
(いかん、詰まった)
 スマホを、ちらりと見るが、
(僕がゲーマーになる前の作品だ。 ここはwikiに頼らずにプレイしよう。 新鮮さを味わいたい)

 今度は“最終物語10”をプレイ開始。
(有名な作品だけあって、面白い。 これで福袋一つ約3000久遠は安すぎる)

 窓から夕日が差しこんでも、変わらずファリオはゲームを続けている。
(この野球ゲームは正解だ。 戦い尽くしの中ですごく爽やかな存在だ。 昔のゲームもなんだか温かくていいじゃないか)
 ファリオの眉が微妙に曇る。
(しかし、ケガをしてしまうのはいただけない。 乱数調整不足か)
 外が暗くなった後、ゲーム機の電源を切るファリオ。
 暗くなった外を眺めると、背広姿の父親が玄関の門をくぐっているのが見えた。
(古く良き時代……思いで補正ではなくて、本当にそういう時代があったのかも知れない)

【行け、ファリオ! 学校へ!】


『アイライブ♪ 
       川澄文歌(jb7507)』

 自宅のお風呂で、文歌は鼻歌を歌っていた。
 アニメチックな作画が様々な角度で文歌の体を描写する。
 泡が少年誌的倫理とガッチリタッグを組んでいるから、肝心な部分は見えない。
「明日はアイドルライブコンテスト、アイライブの茨城県予選決勝か……」
 浴槽から、立ちあがる文歌。
 泡は迷惑なくらい頑張っている。 
「今回は撃退士もOKなんだよね。でも私達はアウルを使わないって決めたんだ」

 数か月前、某県民文化会館で行われたコンテストの光景が、フラッシュバックする。
(相手はスクール対抗アイドルコンテストで負けちゃった西体附。 今度は絶対負けないよっ)

 翌日、コンテスト会場の野外特設ステージ。
「や〜ん、やっぱり無理があるのだわ」
 今年で三十路、四ノ宮 椿がなぜか文歌たちと同じアイドル衣装を着ている。
 肉付きが良すぎる太ももが恥ずかしいのか、必死で隠そうとしている。
「椿さんのお陰でここまで来られたよ。 ありがとう」
「なぜ、もっと若い娘を選択しなかったのだわ!?」
 そんなやり取りをしているとスピーカーからアナウンスが流れた。
『次は、久遠ヶ原学園、曲目は“もっとみんなに届け♪HappySong∞”』
 
 文歌たちがステージで歌い始める。
 アウルは使わない。
 年齢、出身地はおろか、種族すらバラバラ。
 それでも心は一つに出来る事を証明するかのように、唄い、踊る。
 
 全てのチームのパフォーマンスが終り、結果発表の時間が来た。
『優勝校の発表です。優勝は久遠ヶ原学園』
 手を取り合って喜ぶ九人。
「みんなのお蔭だよ、ありがとう」
 そこに、一つの人影が訪れる。
「勝ち残ってきたようやね。 久遠ヶ原」
「貴方は東京都代表・AKIBA高校の黒神さんっ」
 格闘技を交えたアイドルパフォーマンスで、激戦区を勝ち抜いた強者だ。
 不敵な面構えの未来に、気合一杯言い返す文歌。
「私たち負けません。 必ず残ってみせますっ」

 数日後、久遠ヶ原学園の九人は豪華客船のタラップ上にいた。
「全国大会は南の島で開催されるんだね! いこう、決戦の地へ」
 決戦の地、王賀島に船は着いた。
 皆でタラップを降りようとした時、文歌はいつも着けていたお守りが、腕にない事に気付いた。
「船室にリストバンド忘れちゃった、みんなは先に行っていて」
 
 リストバンドを着けて一人タラップを降りる文歌。
「あれ? みんなどこ?」
 その時、港に建つ灯台の影から椿が這い出てきた。
 全身を血に塗れさせて――。
「文歌ちゃん、早く逃げるのだわ」
 爆音。
 それと共に、椿から“頭”が消えた。
 全身に血を浴び唖然とする文歌の視線の先には、対戦車ライフルを構えた未来の姿。
 その後ろで、アバンギャルドな中年男が両腕を広げて笑っている。
 アイライブ実行委員長の鍋岡だ。
「さぁ、デスライブを始めようか! ミュージカル・スタート!!」

【死ぬ気でなければ、勝ち残れない!】


『昭和番長たぬきそば派 
           若杉 英斗(ja4230)』

 県立三好工業高校の学食。
 不良高校生たちが、席を陣取って大声でガハガハ笑っている。
「いいか。 今日からは学食メニューは全てきつねうどんじゃ!」
 破れ学帽の番長が、食券自販機をぶん殴って大破させる。
「ワシを退学させようとしていた、博多ラーメン校長は死んだ! 今日から、このワシ、きつねうどん番長が学校の全てを仕切るんじゃ!」
 それに怯える一般生徒たち。
「おばちゃん、そんな事許されるのかよ!」
 食堂のおばちゃんにすがる、一般生徒たち。
「楽でいいかも!」
「そんなあ」
 学食が生徒たちの絶望に包まれた時だった。
 ぞろぞろと、そばを啜る音が学食に鳴り響いた。
「貴様! 誰に断わってたぬきそばを食べてるんじゃ!」
 顔をあげたのは、形の違う学ラン姿に眼鏡の男
「俺は英斗! さっき転校してきた!」

「ワシに逆らうとはいい度胸だ!」
「番長、アッシにお任せを」
 三白眼の不良が掌をコキコキ言わせると、英斗に殴りかかった。
「ハイカラキック!」
 英斗の上段蹴りが、三白眼の首を穿つ。
 首の骨が曲がってはいけない方向に曲がり、泡を吹いて倒れた。
「あの転校生、強いぞ!」
「だが、今のキックのどこがハイカラだったんだ?」
 グルグル眼鏡をかけた男の子が解説を始める。
「たぬきそばの事を、関西ではハイカラそばとも言います。 そして、彼が今放ったのは、空手の上段蹴り、即ちハイキック!」
 爽やかな笑みを浮かべる英斗。
「その通りだ、ハカセくん! ハイ・カラテキック、略してハイカラキック! たぬきそばを愛する俺の得意技さ」
 沸き立つギャラリー。
「おお、ネーミングが回りくどい」
「しかも、ありふれた技だぞ!」
 番長が、どすの効いた顔で叫んだ。
「お前ら、全員で叩きのめしてやれ!」
 不良どもが一斉に英斗に襲い掛かる。
 青ざめる一般生徒たち。
「ハイカラキックは放った後、隙だらけになってしまう」
「あんなに大勢、一撃で倒すのは無理だ」
 英斗が、必死の形相で呼びかける。
「みんな! 俺に力を貸してくれ!」
 一斉に顔を伏せる一般生徒たち。
「縁も所縁もない転校生のために、痛い目に遭えるか」
「見捨てさせてもらうぜ」
 たじろぐ英斗。
「そんな殺生な!」
 その時、一般生徒の中で最も作画に力の入った女生徒が叫んだ。
「英斗くん!がんばってー!」
 振り向く英斗。
「私、うどん粉アレルギーなんです。 私のために英斗くん一人で全員倒してください!」
 台詞はガチクズだが、作画に力が入っているのでヒロインになれる資格がある。
「よしアレルギーちゃん! 髪型をポニーテールにして応援してくれ!」
「こ、こうですか?」
 髪を後ろで束ねるアレルギーちゃん。
 それを見て、目に炎を宿す英斗。
「うおおおっ!」
 襲い掛かってきた不良たちを、パンチでなぎ倒していく。
『説明しよう若杉 英斗は女子の応援でパワーアップするのだ』
 六人をKOした英斗だが、どう見ても多勢に無勢。
 番長一味は五十人以上いる。
 周りを囲まれ、緊迫する英斗の顔。
「誰か体操服を! 制服の下に体操服を着ている女子はいないか!?」
 一般生徒の中で、作画に悪い意味で力が入っている女生徒が挙手をする。
「私、着ているわよぉん」
「キミでは逆にパワーダウンしてしまう! アレルギーちゃん、彼女の体操服を着てみてくれ!」
「こうですか?」
 テンポの都合上、一瞬で服を取り替える二人。
 英斗の体にオーラが吹き上がる
「うおぉー! ポニーテールで通常の2倍にパワーアップ! ブルマで通常の5倍! ぼいんぼいんで通常の5倍! 全部で50倍だぁー!!」
 炎のハイカラキック! 
 番長と不良軍団を一撃で全滅させた。
「ご、50人を一撃で……!」
「昭和だ、この適当さ加減が昭和の漫画だ!」

「ふふふ、やるじゃない」
 その時、食堂に改造ロングスカートセーラー服の女生徒が現れた。
 生徒たちが番長に対して以上に怯えた顔をする。
「あれは! スケ番お竜!」
 セーラー服を脱ぎ捨てるお竜。 
「次は私が相手よ」
「まさか! その恰好はチアリーダー!」
 鼻血をぶばぁーと噴き出す英斗。
 出血多量でよろめく。

【果たしてこの強敵に勝機はあるのか!? 待て、次号!】


『名探偵あたい 
    雪室 チルル(ja0220)』

“雪室 チル蔵記念博物館”
 そう表札にあるアンティークな建物の前にリムジンが止まる。
 そこから降り立ったのは、白いドレスを身に纏った雪の精の如き少女、チルルお嬢様。
 気品に煌めいたのは一瞬だけで、すぐにお転婆な素顔に戻る。
「椿、このドレス脱いじゃダメ? あたい、きゅーくつなの苦手なのよ」
 執事の椿が、首を横に振る。
「今日は雪室財閥博物館の百周年記念パーティなのだわ、チルル様も財閥の跡継ぎらしくおしとやかにしていないとダメなのだわ」
「早く帰りたいのよ〜」
 そんな二人の前を、警察官たちがドタバタと走り抜けていく。
 顔見知りの金髪グラサン刑事を、呼び止めるチルル。
「ミハイル刑事、なんかあったの?」

“X月Y日の12時にスーパーダイヤを頂きに参上します。 
 怪盗アコニタム”

 そう書かれた予告状を二人に見せるミハイル。
「アコニタムって世間を騒がせている財宝泥棒よね?」
「X月Y日って明後日じゃないの!」
 頷くミハイル。
「というわけで、パーティは中止だ。 チルルお嬢様にもご帰宅願おう」
 するとチルルが、嬉しそうに叫んだ。
「ようやく、この窮屈なのが脱げるのよ!」
 ドレスを脱ぎ捨てるチルル。
 その姿が、ハンチング帽にパイプを銜えた、探偵スタイルに変わる。
「あたいは今日から名探偵よ!」

 予告当日。
 博物館の中を名探偵チルルは、助手スタイルをさせた椿と共に歩いていた。
「この事件はあたいが解決するのよ!」
 やる気満々なチルル。
 椿は、げんなりしている。
「旦那様の親馬鹿にも困ったものだわ。 お嬢様が楽しく探偵ごっこ出来るようにと、警察を買収してしまうだなんて」
「怪盗を捕えるためにトラップを仕掛けたのよ! 見なさい!」
 秘宝展示室前の廊下に、デーンと置いてあるものがある。
 跳び箱である。
「目の前に跳び箱が置いてあったら、思わずチャレンジしてみたくなるでしょ?」
「ならないのだわ」
「たったの三段なのがミソよ! このくらいなら跳べるって、人間思っちゃうものなのよ! でも飛びこしたら、大爆発を起こすように仕掛けがしてあるの!」
「思わないのだわ!」
 その時、背後からミハイル刑事がやっていた。
「お嬢たち、ここにいたのか。 探偵遊びの前に警察とミーティングを……はっ!」
 ミハイルのグラサンに跳び箱が映る。
 ニヤリと笑い、上着を脱ぐ。
 ネクタイをシュルリと外す。
「懐かしいじゃねえか。 久々だが、三段くらい跳べるだろ」
 跳び箱に向かって走り出すミハイル。
「刑事!?」
「とう!」
 見事に飛びこし、ドカーンっと爆発。
 チルル、椿、ミハイル。 三者とも黒焦げのアフロヘアになっている。
「うぅ」
「巻き込まれたのだわ」
「ほーら跳んだ! あたいってば本当に天才ね!」

 当然、ミハイルに怒られる。
「そういう仕掛けをするなら、警察に相談してくれ!」
 ぷいっとそっぽを向くチルル。
「ダメ! スパイがいるかもしれないから、警備の人にも内緒よ!」
「そんな事言ったら、そこにいる執事だって怪しいじゃねえか! アコニタムは変装の名人だぞ!」
 椿を指差すミハイル。
「言われてみればそうね! 椿、本人確認よ! 生年月日を言って」
「嫌なのだわ!」
「なに? 怪しいな。 ちょっと署まで来てもらおうか」
「そうじゃないのだわ! 年令を知られたくないお年頃なのだわ!」
 ドタバタやっていると、背後でゴツンという音がした。
 振り向くと、シルクハットに黒マント姿の青年が跳び箱の上に跨っている。
 青年は、悔しそうに体を戦慄かせていた。
「また跳べなかった――小学校の時もクラスで僕だけ三段が跳べずじまい。 “跳べない咲魔はただの聡一”なんて馬鹿にされながらも、大人になったら跳べると自分に言い聞かせて屈辱に耐えて来たのに」
 ミハイルが恐る恐る声をかける。
「お前、もしかして怪盗アコニタムか?」
 ハッと気づくアコニタム。
 取り繕うかのように高笑いをあげる。
「イッヒヒハハハ! なかなかに味なトラップを仕掛けてくれるじゃないか! そこの小さな探偵さんの仕業のようだね! それに免じて、今日は引き分けという事にしておいてやろう」
 マントを翻すと辺りに黒い煙が立ち込める。
 怪盗はその中に姿を消した。
「くそ! また逃げられたか」
「どう? ダイヤは守ったわよ!」
「アイツ本名言っちゃってたのだわ、お嬢様は名探偵なのだわ」

【名探偵チルルVS怪盗アコニタム 激闘の予感!】


『ピンスポ!
  咲魔 聡一(jb9491)』

 私立掘坂高校。
 体育館では演劇部が、全国演劇コンクール地区予選に出す芝居の主演オーディションを開いていた。
 出場者は全員女子、どれも迫真の演技である。
 部員たちは互いに視線をぶつけ合い、火花を散らす。
 必ず主演を! 誰もがその気概に満ち溢れている。

 舞台裏には、裏方担当の川澄文歌と、見習いの咲魔 聡一がいた
「川澄さん、装置の事で確認しておきたいんだけど、窓の位置って下手側でいいんだよね?」
「そうですよ、咲魔くん」
「そっか、ありがと。 装置ってさ、色んな工具使ったりして、カッコいいよね」
「かっこいい?」
「僕は、こういう形のある物が作りたくてこの部に入ったんだ」
 熱心に働く咲魔を、穏やかな眼差しで見つめる文歌。

 オーディションを終えた部員たちを前に、部長の西 愛乃と演劇部のOBにして外部顧問であるミハイルが宣言する。
「ミハイル先輩と協議して、結果は十分後に発表します」
「どいつも気合の入った演技だったぜ」

「もう終わったみたいですね、咲魔くん、気合を入れてわらおう」
 辺りの様子を察して片づけを始める文歌
 それを聞いた聡一は、
(笑う? 気合を入れて? よし!)

 イッヒヒハハハ!

 体育館に、奇怪な笑い声が響く。

「なんだ!?」
 裏に、様子を覗きこみに来るミハイルと愛乃。
 咲魔が、文歌に怒られている。
「違いますよ! わらうっていうのは舞台用語で片づけるって意味です」
「知りませんでした、すみません」
 その様子を見ていた愛乃とミハイルが、互いに目配せをする。
「咲魔、ちょっと来てくれ」

 オーディション結果を待つ部員たちの前に、引き出される咲魔。
 ミハイルがその肩に手を置く。
「協議の結果、コンクールの主演は咲魔に決まった」
 絶句する部員たち。
 最も驚いているのは咲魔本人だ。
「何ですかそれ? 僕はオーディションさえ受けていないんですよ!?」
「うん、まあ」
 気まずそうなミハイル。
「あの西先輩、僕、裏方の希望を出しましたよね!?」
「そ、そうやったっけ?」
 目を逸らす愛乃。
 女子部員たちも憤慨し、騒ぎ始める。
「どういう事なんですか、説明して下さい!」
「納得いきません!」
 収まりそうにない騒ぎを、必死で抑える愛乃。

 その間、ミハイルは咲魔を演劇部室へ引っ張ってきた。
「理由はだな、お前が唯一の男子部員だからだ」
「それが何ですか? 演劇部は伝統的にほとんど女子ですし、男役を女子部員が演じるのが当たり前じゃないですか?」
「要は女子たち感情問題なんだ。 今年の女子部員は互いにライバル心が強い」
 オーディション中、視線に火花散らしていた女子部員たちの様子を思い出す。
「誰もが、我こそが主演に相応しいと思っている」
「それは、わかりますが」
「ここで一人を選んでしまったら、残りの女子の反感が爆発する。 出る杭は打たれる。
主演に選ばれた女子は他の女子に潰されるだろう。 最終的に、演劇部は空中分解する」
「そんな大げさな」
「大げさじゃない、証拠もある――うちの女子部員の中で一番、華があるのは誰だ?」
「え?」
「可愛くて綺麗なのは誰だって、聞いているんだ」
 咲魔は、頬を赤らめながらも答えた。
「そりゃあ、川澄さんですよ」
「そうだ、しかも彼女はアイドル志望。 なのに裏方に回っている。 なぜだ? 自分が前に出たら、演劇部の輪が砕けるのを知っているからだ」
「けど、僕が前に出たって結果は同じじゃ?」
「ライバル心ってのは案外、異性間には働かない。 男子であるお前は女子の中では別枠にカウントされている。 お前は打たれない。 出る杭になれ」
「いや、でも」
「納得出来んか?」
 ミハイルは一枚のスチール写真を取り出した。
「見ろ!」
 大柄な男であるミハイルが、可憐な白雪姫の格好をして舞台に立っている。
 あまりにインパクトの強い写真だ。
「俺が現役の頃も同じ危機があった! 我の強い女子部員ばかりが集まった頃がな! それでも演劇部が存在しているのは、俺の犠牲あってのものなんだ!」
「今回は、僕がその犠牲になれと?」
「そうだ、裏方がやりたきゃ夏までに新しく男子部員を連れてこい。 それまではお前が主演俳優だ」

 恐る恐る体育館に戻ってくる聡一。
(こんなの、納得してもらえるわけがない)
 女子部員たちに睨まれると思いきや、意外に皆、穏やかな顔で出迎えてくれた。
「咲魔くん、宜しくね」
「部長に聞いたよ、今度のお芝居は“狂笑”がポイントになるんだって?」
「狂笑?」

 自分があげた“イッヒヒハハハ!”という笑いを思い出す聡一。
(あれ、素の笑い方なんだけど)

「次の芝居のイメージにピッタリだったから、抜擢されたんだって!」
「あんな気持ち悪い笑い方、私らには出来ないよ!」
「主演は咲魔くんしかいないね!」
 愛乃の顔を見ると、気まずそうな表情をしている。
 騒ぎを収めるため、とっさについた嘘らしい。
 茫然とする咲魔。
(川澄さん、僕は裏の世界へ帰れるんでしょうか?)

【裏方咲魔、必死の大芝居が始まる!】


 “キミを主人公にする”夢の雑誌・週刊少年OREは、久遠ヶ原島の一部書店で絶賛発売中!
 入手困難な場合は、想像で物語の続きを楽しんでくれ!


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 外交官ママドル・水無瀬 文歌(jb7507)
 とくと御覧よDカップ・黒神 未来(jb9907)
重体: −
面白かった!:6人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB
とくと御覧よDカップ・
黒神 未来(jb9907)

大学部4年234組 女 ナイトウォーカー
神経がワイヤーロープ・
ファリオ(jc0001)

中等部3年3組 男 アーティスト