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「今年こそは、ドキドキ」
お祭りに向け、真っ赤なハート入りのマフラーを編み始めたのは、子羊の築田多紀(
jb9792)ちゃんです。
一体、誰にプレゼントするつもりなんでしょうか?
それを見て感心しているのは同じ羊族の青年、咲魔 聡一(
jb9491)くんです。
「すごいな、プロのやつみたいだよ!頑張ったねー」
聡一君は多紀ちゃんをなでなでもふもふしてきます。
兄妹のような関係で、どうやら多紀ちゃんの意中の人ではなさそうです。
赤いハートのマフラーは一体、誰のものになるんでしょう?
他の動物さんたちも、準備に動きはじめました。
「今年は草食さんを狙うぞ」
同じ狼さんの仲間にそう宣言したのは、礼野 智美(
ja3600)ちゃん。
「がってんです、姉御」
子分の狼たちが舌なめずりします。
「そのために、ネギだけの焼き鳥串をメニューに加える、狼屋伝統の味を草食さんに知ってもらういい機会だ」
「がってんです、草食が葱串を喰っている隙に後ろから喰っちまおうって事ですね」
「バカ! そうじゃない!」
智美ちゃんは真面目っ娘ですが、子分たちは狼の本能全開のようです。
なにやら、嫌な予感がします。
椿さんは、白猫のアリス・レイバルド(
jb1509)ちゃんの占い小屋に来ていました
とはいえ、アリスちゃんは寝ているだけ。
「アリスちゃん、また結婚運を占って欲しいのだわ」
「……椿、は……毎月、夢見を聞きに来る、な……くぅ……」
会話が成立しているように見えますが、あくまで寝言です。
それが外部の会話となぜかかみ合うという、奇跡のキャラなのです。
アリスちゃんの占いは夢見占い。
占い方は簡単、アリスちゃんの体に触るだけ。
ただしセクハラな触り方をすると、凶猫化して首を刎ねてきます。
小屋にはすでにロリコン野郎である狼兄弟の生首が、転がっていました。
椿さんはノンケなので、そんなヘマはしません。
「お願いするのだわ」
アリスちゃんの背中に手を乗せると、寝言が始まりました。
踊る、踊る、待ち人は踊る
太陽と共に、待ち人は踊る
太陽を友に、待ち人は踊る
出会いし場所は、友の亡き涙雨の湖
「どういう意味なのだわ?」
「アリスは、寝たい、眠い……意味は、自分で考えろ……ぐぅ……」
待ち人という言葉があるので希望が持てますが、一体どこで、待てば良いのでしょう?
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いよいよ楽しいお祭りが始まりました。
森の広場にたくさんの動物さんが、いろんな屋台を出しています。
おや、見慣れない顔がいますね?
カレーの屋台を引いている赤い猫さんは、クオンの森の住人ではありません。
「俺は都から来た猫ニャ! うちのカレーを食っていけ、うめえぞー」
赭々 燈戴(
jc0703)君。
見た目は、智美ちゃんと同じくらいの若さに見えます。
「ニャっハハ。 お嬢ちゃんも大変な人生の砂漠を生きてんニャ、残念でも美人だからそれが救いだニャ!」
椿さんを、お嬢ちゃん扱いしています。
しかも年季を感じるおためごかし、一体何者なんでしょう?
椿さんは、お酒を飲んでクダを巻いています。
「ここから一発逆転狙えないのだわ? 例えば、都の王さまに見染められて、お妃さまになるとか」
赭々君、何故か焦り出しました。
「え、いやいや、それはないんじゃないかニャ? まあカレーでも食え、元気でるから!」
椿さんが、赭々くんのカレーを口に入れると。
「辛――っ!」
あまりの辛さにショック死してしまいました。
「あー、死んじまったか、飲んだくれているもんだから、驚かせようと思ってスパイスを利かせすぎちまったな」
テヘペロする赭々君。
死んでもすぐに生き返れるメルヘンの国では、食の安全ナニソレな風潮です。
森の広場の一角にアイス屋さんがあります。
店長は月乃宮 恋音(
jb1221)ちゃん。 おっぱいの大きなホルスタイン牛です。
自家製ミルクから作ったアイスクリーム、ソフトクリームは非常に評判が良いです。
アリスちゃんも、クレヨー先生の背中に乗ってソフトクリームを食べにきています。
「夢のような味……ぐぅ……」
ホットミルクもあり、これには常連羊の咲魔くんも大満足です。
「牛さんの絞りたてミルク、濃厚ですっごく美味しい! 栄養いっぱいで、あったまるねー」
そこへ、赭々君が椿さんの遺体を運びこんできました
「すまん、辛さでショック死させちまった」
「……もぉ……大変ですぅ……(ふるふる)……」
怯えるたびに“ふるふる”と震える恋音ちゃんの巨大なおっぱいは、ひんぬーさんたちの嫉妬の的です。
「カレーとは逆の甘くて冷たいものを、口の中にツッコんでやってニャ」
恋音ちゃんが、アイスを椿さんの口に入れてみると――。
「ペロッ、これは恋音ちゃんの乳……!」
椿さん復活!
メルヘンの国では、命が軽いです。
「……ホッとしたらお腹が空いてきましたぁ……」
巨大すぎる胸を撫で下ろす恋音ちゃん。
するとカウンターでメロンソフトを食べていたニョロ子ちゃんが、声をかけてきました。
「ならニョロ子とお店巡りをしにいくにょろ」
お祭りが始まる前から、殺る気満々だったニョロ子ちゃん。
レベルの低い店を探しだし、抹殺するつもりなのです。
これは波乱の予感!
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恋音ちゃんたちが森の広場で見付けたのは、狸さんがやっているお店でした。
「……美味しそうな匂いがしますぅ……」
メニュー表には“おそばもうどんも三百久遠”と書かれています。
「お祭りにありがちな、ぼったくり価格でないところは好感が持てるにょろ、現時点では殺さないでやるにょろ」
席につくと、狸の店主さんが注文をとりにやってきました。
「いらっしゃいませ、ご注文はいかがいたしましょう?」
名札には“雪ノ下・正太郎(
ja0343)”とあります。
何となく、ヒーローに化けるのが得意そうな顔です。
あと、狸のくせに格闘技が強そう。
「……お店のお勧めは?……」
「たぬきそばとたぬきうどんです」
狸が出すたぬきそばというのは、凄まじく嫌な予感がします。
万が一、何かの肉が入っていた場合、トラウマ必至でしょう。
「……(ふるふる)……山菜蕎麦を二つ……」
店主は、がっかりと頭を垂れながら厨房に入って行きました。
数分待たずして、山菜蕎麦が出てきます。
「接客クリア、待ち時間クリア、なかなかしぶとい狸にょろ」
舌うちするニョロ子ちゃん。
あとは味。
これさえクリアすれば、店主は死なずにすみます。
「……もぉ……こしがあって美味しいですぅ……」
「そばの風味を殺さないつゆの香りと山菜。 これは合格にょろ!」
ニョロ子ちゃん大喜び。
殺人狂ですが、美味しいものを食べさせてくれた人には惚れこむタチなのです。
狸の店主を呼びます。
「何の御用でしょう?」
「美味しいおそばをありがとうにょろ、ぜひ名前を聞かせて欲しいにょろ」
「名前は――ユキノシ ショウロウです」
「変わったお名前にょろね」
「……もぉ?……ユキノシタ ショウタロウさんでは?……」
「“タ”ヌキだけに、ユキノシ ショウロウです」
とたん、ニョロ子ちゃんは毒牙をギラリと煌めかせました。
「ニョロ子、くだらないシャレは大嫌いにょろ!」
さあ、大変です。
このままでは、雪ノ下君が殺されてしまいます。
幼稚園のなぞなぞ本並のギャグとはいえ、美味しいおそばを食べさせてくれたのに、あんまりです。
「……もぉ……すみません、ニョロ子ちゃん……(ふるふる)……」
恋音ちゃんは、ニョロ子ちゃんの頭に自分のおっぱいを乗せました。
爆乳ホルスタインおっぱいは、重量二百キロを越えます。
ニョロ子ちゃんは、ぺちゃんこになりました。
男なら、夢の死に方でしょう。
しばらくすると生き返りましたが――。
「体が平たくなったにょろ」
メルヘンというより、トゥーン的に体格が変化しました。
「自分の体見ていたらきしめんが食べたくなったにょろ、店主! きしめん一丁!」
さすがはメルヘンの国、殺された程度では動じません。
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椿さんは、咲魔くんの出店の花屋さん『フローリスト・サクマ』を訪れました。
アリスちゃんの謎の詩。
そこに登場する二つの“太陽”を見つければ待ち人――即ち、運命の人と出会えるのではないかと解釈したのです。
「太陽っぽい花をお探しですか? なら向日葵ですね」
咲魔くんお勧めの向日葵のブローチを買い、瘤に付けて森の広場に向かいます。
さっそくデートのお誘いが来ました。
「椿さん、僕と甘味巡りに行こうメエ?」
子羊の多紀ちゃんです。
幼女です。
求めていた出会いとは、微妙に違うようです。
でも椿さん、子供はいなくても母性本能は強いので快諾します。
椿さんはお祭りの中で運命の人と出会えるのでしょうか?
多紀ちゃんと椿さんは、智美ちゃんの経営する狼屋の出店前に来ました。
「アップルパイが売ってるメエ、あれは英国式だメエ」
「葱串があるのだわ、草食には嬉しいサービスだわね」
それぞれお目当てのものを見つけました。
しかし、売り場が別々。 それぞれに長い行列が出来ています。
売り切れもありうるので、二手に分かれて買ってくることにしました。
アップルパイの列に並んだ多紀ちゃん、なんだかソワソワしています。
早く椿さんと合流したくて、仕方がないようです。
実は多紀ちゃんの意中の人こそ、椿さんなのです。
子羊は常に迷えるもの。
でも、これは血迷っています。
いかに同性婚OKなメルヘンの国とはいえ、可愛い子羊が、老いたラクダに恋をしているのですから。
しかし、恋は恋。 何人たりとも否定出来ないものです。
多紀ちゃんが、列が早く進んでくれないかやきもきしていると――。
「お嬢ちゃん、お急ぎかい?」
「狼の隠し厨房にくれば直接、分けてあげるよ?」
狼兄弟が、多紀ちゃんに声をかけてきました。
「ありがたい、お言葉に甘えるとしようメエ」
普段は慎重な多紀ちゃんなのですが、今日ばかりは椿さんの事で頭が一杯。
狼兄弟に連れられ、森の奥へ付いていってしまいました。
いけません! 実はこの狼兄弟、アリスちゃんにお触りしようとして首を切り落とされた事もある、筋金入りのロリコンどもなのです!
狼兄弟は森に入ると、多紀ちゃんの口に薬の染み込んだハンカチをあて、眠らせました。
「げっへへ」
これはいけません!
ただでさえ薄いどうぶつ絵本が、さらに薄い本に変わってしまいそうになったその時!
森の奥に謎の声が響きました。
「@・ω・@<いもしない神にでも祈るがいい」
銃声!
狼兄の眉間に穴が開きました。
「ひ、ひぃ! 誰だ! 誰がアニキを殺ったんだ? 助けてくれー!」
「@・ω・@<泣いて乞うても慈悲など与えん」
再び銃声!
怯え逃げ惑う弟の眉間にも穴が開き、倒れます。
木陰から出てきたのは、咲魔くんでした。
アサルトライフルを持っています。
これで狼兄弟を死角から狙撃したのです。
「こういうゲスは、もっと叩きのめさないと!」
死んでいる狼兄弟を、銃の台座で釘が打てるほどに滅多打ちにします。
怒れる羊は、妹分に手を出そうとした下郎に容赦がありません。
しかし、この行為は他の狼族に見られてしまいました。
森の広場は大騒ぎになりました。
出店をやっていた皆も、騒ぎを聞きつけて出てきました。
「か弱い少女を眠らせて手籠めにしようとした奴には、正義の鉄槌を与えるのが妥当!」
狸の雪ノ下くんが、正義の血潮を滾らせます。
「……ロリコン野郎には斬首しての晒し首程度が妥当……ぐぅ……」
アリスちゃんは穏健派です。
辛いのは、狼の族長の智美ちゃんです。
「群れて暮らす攻撃系動物とはいえ、取りまとめるのがこれほど難しいとは――我が身の不覚だ」
メルヘンの国では真面目なタイプが罪の意識を負ったら、その重みに苦しみつつ永遠に生き続ける事になります。
死による終わりが存在しないのです。
“咲魔はやりすぎだ!””いや、狼兄弟が悪い!“
森の仲間たちが真っ二つに分かれ、喧々諤々の争いをしていると。
「やめるニャ! 楽しい祭りの最中騒ぎとは無粋ニャ」
赭々君が、眉間に皺を寄せて出てきました。
「よそ者が内輪の事に口出しするなにょろ! ニョロ子が黙らせてやるにょろ!」
毒牙を剥き出しにして飛びかかるニョロ子ちゃん。
「待て! 待て! ちみっこ!」
噛まれてはたまらない赭々君、慌てて何かを取り出し、首に巻きます。
「この王者の証が目に入らぬかァ!」
タテガミです。
皆が平伏します。
「ははぁ〜」
「王様でしたかニョロ」
都からお忍びで遊びにきた王様、それが赭々君の正体だったのです。
「この事件に対する裁きを下す!」
獅子の威厳で、王様が宣言します。
「非は狼兄弟にある! 以前、アリスに首を刎ねられたのに反省せずに同じ行為を繰り返したのだからな! 咲魔が徹底的にやろうとしたのも当然! 狼兄弟は激辛カレー百杯を水なしで食べるの刑!」
「ひえ〜、ご勘弁を!」
「せめて水だけでも〜」
容赦ありません。
これから、狼兄弟は百回ショック死しながらカレーを食べ続けるという無間地獄に陥るのです。
「王様、一族を取りまとめられなかった俺の罪は?」
不安そうに見つめてくる智美ちゃんの手を王様はとりました。
「これで捌きは終わりニャ、皆で仲直りの踊りニャ!」
智美ちゃんと踊り始める王様。
皆も手を取り合って踊り出します。
楽しいお祭りが、佳境を迎えました。
椿さんも、多紀ちゃんと手を繋いで踊っています。
そんな時、突然、首に何かが巻かれました。
真っ赤なハート入りのマフラーです。
「椿さん、ずっと好きだったメエ。 僕と一緒に人生を旅しないかメエ」
「ええ!?」
ずっと待ち望んでいた求愛の言葉。
しかして、相手は幼女です。
ノンケな上、恋愛に免疫のない椿さんはどうしていいのか、わかりません。
「で、でも、占いだと二つの太陽があるところで運命の人と出会うというのだわ」
占いは大体当たっています。
踊る、踊る、待ち人は踊る
太陽と共に、待ち人は踊る
太陽を友に、待ち人は踊る
出会いし場所は、友の亡き涙雨の湖
皆、踊っています。
この広場は友達であるニョロ子ちゃんが一度は死んだ場所。
つまり“友の亡き涙雨の湖”。
あとは二つの太陽だけ。
一つ目の太陽は、椿さんが買った向日葵のブローチでしょう。
しかし、もう一つが見つかりません。
その時、恋音ちゃんの呟きが聞こえました。
「……もぉ……まるで太陽です……」
タテガミをつけた赤い猫の王様は、確かに太陽に似ています。
椿さんは、運命を悟りました。
「私の待ち人は多紀ちゃんだったのだわ。 最初はまだ親子のような愛しか抱けないかもしれない。 けれど、二人で人生を歩いて、その愛がどんな形に変わっていくか確かめましょう」
「椿さん、嬉しいメエ」
幸せそうに椿さんに抱きつく多紀ちゃん。
新しい年、クオンの森に新しい愛が生まれました。
年が暮れる時には、どんな形になっているのでしょうか?
クオンの森の仲間たちと一緒に、見届けましょう。