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某TV局のニューススタジオ。
メインキャスターの局アナが、画面に向かって挨拶をする。
「こんばんは、久遠ヶ原スポーツの時間です。 業界野球リーグがついに開幕! 本日は六球団のプロデュサーに来て頂きました」
最初に映し出された顔は――否、顔よりも遥かに大きな二つのおっぱい。
胸だけがどぷーんと大映しになる。
「……こんばんはですよぉ……」
『ナイトプリンセスプロデュサー 月乃宮 恋音(
jb1221)』
続いて、蒼汁ジョッキを持った元気っ娘。 こちらはちゃんと顔が映る。
「ごにゃ〜ぽ☆ 鳴神 裁だよ」
『アジュールユニオンプロデューサ 鳴神 裁(
ja0578)』
「まずはナイトプリンセスVSアジュールユニオンの試合の模様をダイジェストでお送りいたします、御二方、解説宜しくお願い致します」
アナの言葉にペコリと頭を下げる裁。
どゆーんとおっぱいを揺らす恋音。
恋音も頭を下げているのだが、カメラは胸しか映さない。
視聴者様の見たいものを見せる、そういう方針。
スタジオのモニターに、野球場が映し出される。
「白のユニホームはアジュールユニオン! こちらは、どういったチームなんでしょう?」
アナに問われ、答えるプロデュサーの裁
「秘密結社の業界団体の野球チームだよ」
「秘密結社業界? そんな業界があるんですか!?」
「……おぉ……現時点で秘密でなくなった気がぁ……」
「ウチ、ツッコミどころ多すぎるんだよねー、尺が足りなくなるからスルー推奨だよー」
「わかりました……では続いて、恋音さんのチームについてなんですが?」
続いてモニターに映ったのは、黒いボンテージ風衣装のチーム。
「ナイトプリンセス……SM業界団体のチームですぅ……」
「SM業界というと、いわゆるサドマゾですよね?」
眉を顰め、資料書類を取り出すアナ。
「プロフィールによりますと、恋音さんは“内気で引っ込み思案、赤面症且つ自信のない――”とあります。 大人しい少女に、なぜそんな業界と繋がりが?」
「……そ、それはぁ……」
あたふたし始める恋音。
「ツッコンじゃダメ! 魔王様のお心は常に計り知れないものなんだよ」
「……魔王じゃないですぅ……」
そんな事を言っているうちに、モニター内で試合が始まってしまう。
バッターボックスに、か弱そうな少女が入る。
「……艶崎選手ですぅ……DHの一塁手で、鞭捌きで鍛えたバットコントロールの得意なパワーヒッターですぅ……」
ちなみに男の娘だが、久遠ヶ原でそこにツッコむ者は、もはやいない。
対するマウンド、投手の後藤が映る。
「アジュールユニオン、ピッチャーは後藤・山田(ごとう・さんだ)!」
「……両方名字みたいな名前ですぅ……」
恋音が呟くと録画試合なのに、モニターの中から山田が怒鳴った。
「山田って呼ぶんじゃねー! 俺の名はサンダーだ!」
「……おぉ……聞えたんでしょうかぁ?……」
ふるふる震える恋音。
「多彩な変化球で打者を翻弄するタイプですな☆ 決め球はボク直伝のごにゃ〜ぽ☆ボール3号♪ 特殊な握りでボールに乱回転を与えランダムな球種にする、イレギュラーチェンジな変化球だね♪」
画面の中で艶崎のバットが鞭のようにしなり、内野安打を放った。
「恋音さんの目から見て、今シーズン艶崎の打撃はいかがですか?」
「……概ね良好ですねぇ……」
「チーム全体の出来具合は?」
「……概ね良好ですぅ……」
「監督と選手の関係は?」
「……概ね良好……あのぉ……台本通りのこの返答以外してはいけないのでしょうかぁ……」
恥ずかしさに、ふるふる震える恋音。
恋音が“概ね”と答える度に、カメラが恋音の“オオムネ”をドアップで映している。
こうすると、視聴率が跳ね上がるのだから仕方ない。
一回の裏、ナイトプリンセスのバッテリーが登場する。
「……姫野投手はぁ……ウィップショットという鞭の様に不規則な軌道で変化する速球と、直球の二択の投手ですぅ……暴投がやや多いんですがぁ、捕手の愛森選手が体を張って止めてくれますのでぇ……」
「愛森投手は女性ですよね? 速球を体で止めるのは大変なのでは?」
「……大丈夫ですぅ……愛森投手ドMですのでぇ……」
「ドMだから大丈夫、という超理論が成り立つのも久遠ヶ原ならではですね」
対してバッターボックスに立ったのはアジュールユニオンの打者、愁乃・乾人(うれない・ほすと)。
俯いたまま打席に立ち、くぐもった声でこんな事を言い始める。
「ふふふ、山田が打たれたか、だが奴はアジュールユニオン四天王の中でも一番の小物」
顔をあげる愁乃。
輝くアフロ、金のラメ入りシャツ、パンタロン。ハートグラサンに無駄に爽やかな輝く歯を持つ色黒の男。
『そう俺こそはアフロ怪人そーるめーん、ソウルネームはボブ・スミス、黒人ラッパーなうどん県民だ♪』
派手に名乗る愁乃。
とたん、姫野が何やら怒鳴りながら愁乃に詰め寄り始めた。
「……ここで乱闘が起きたんですぅ……」
それを呼び水に両軍選手たちが集まり、激しい乱闘戦が始まった。
「原因は何だったんですか?」
「ウチの愁乃が“そーるめーん”って言ったよね? それを姫野が聞き違えて“うどん県民なのにそーめんの宣伝をするとは何事だ”って怒り出したらしいよ」
「しょうもない理由ですね」
「……業界野球リーグは、概ねそんな感じですぅ……」
カオスな展開。
だが恋音のオオムネのアップが、CM前を強引に纏めてくれた。
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CM開け、ゲスト席が入れ替わる。
まずは白いメイド姿の小柄な少女。
くるっと廻り、スカートの両端を摘まんで挨拶をする。
「斉凛です、メイド喫茶を宜しくですわ」
『プリティーキャッツプロデュサー兼監督 斉凛(
ja6571)』
もう一人は、マジシャンのアシスタントを思わせる艶やかな衣装を着たお姉さん。
長い脚を艶めかしく組んで座っている。
「なんだい、もう始まってるのかい?」
『ザ・マジシャンズプロデュサー兼監督 アサニエル(
jb5431)』
猫耳の付いたピンクの野球帽、メイド服を着たチームが、モニターに映し出される。
斉凛がチーム紹介を始めた。
「“プリティーキャッツ”と申しますわ、メイド喫茶の業界球団ですの」
「おお、可愛いチームですね」
相対するは、燕尾服を模したユニフォームのチーム。
「あたしのは、手品師や奇術師の業界チーム“ザ・マジシャンズ”さ」
「おお、何か強そうですね」
「強いよ、投げたはずの玉が消えたり、隠し玉を駆使したり、トリックプレイはお手のものさ」
不敵に微笑むアサニエル。
「では、対する“プリティーキャッツ”の強みは?」
返事の代わりにくるっと廻り、スカートの両端を摘まんでスマイルで挨拶する斉凛。
「メイドさんに会いたい貴方は、メイド喫茶にGOですわ!」
「宣伝さえ出来ればいいんですね」
モニター上で試合の様子が流れ始める。
投手は,小柄で清楚なメイド服の美少女。
「フェアリーゆ〜みんですわ、魔球バタフライエフェクトを操る我が軍のエースですわ」
「バタフライエフェクトっていうと、小さな蝶の羽ばたきが巡り巡って台風の引き金になるって理論だね?」
「その通りですわアサニエル様、まずは、ゆ〜みんの可憐な投球をご覧くださいませ」
『お手柔らかに……お願いなの』
投球動作に入るゆーみん。
対する打者、日米ハーフの金髪男についてアサニエルが解説する。
「デイビット・河童場だよ、奴のバットは消える打球を産む」
ゆーみん、第一球投げた!
デイビットがバットを振うと、それが起こした風でボールの弾道が変化する!
「超低速で当てやすいのですが、バットが真芯を捕える事は非常に困難! これが魔球バタフライエフェクトですの!」
「ふッ、消える打球の餌食さ」
デイビットのバットがボールの下を叩く!
打ちあがったボールは太陽に向かって跳ぶ!
ボールが太陽を遮ったため影が出来る、その影に入った虫が日向に逃げる――とかなんちゃらかんちゃらいろいろ起きた末、最終的にはスタンドにいたメイド選手の一人が派手にパンチラをやらかした。 これぞバタフライ効果!
『きゃ!』
目ざといカメラさん、打球の行方は追わず、そっちをドアップ!
観客も、審判もメイドさんに釘づけ!
アサニエルが、叫ぶ。
「ご覧! ウチのデイビットが打った瞬間に打球が消えただろ? この後、外野手の背後に出現したんだよ!」
だが、モニターに映っているのはメイドさんの縞パンだけ。
「審判様もご覧にならなかったから、今の打球はノーカンになったのですわ」
溜息をつくアサニエル。
「そうだった、記録から消える打球になっちまったんだね」
仕切り直しの打席、デイビットは凡退に終わる。
捕手のゴリマッチョオカマ・キャロライン蒙古がブリーフパンチラを見せつけたので、デイビットの気分が悪くなり集中力がガタ落ちしたのだ。
変わって、プリティーキャッツの攻撃。
マウンドにはMr.マニック。
変幻自在の牽制球でランナーを刺していく投手
対する四番打者は、ダイナマイトボディな美形姉様。
『クィーンまりこ!』
『まりこ様ー!』
観客席から野太い声援があがる。
熱狂的な信者がいるようだ。
マニックが振りかぶって投げる!
「貴方のハートにジャストミート」
キャッチフレーズと共に、バットを振るまりこ様。
強い当たり!
打球が伸びる!
打球を追うのは、外野手のマキー真一。
『幸雄くん、なんか飛んで来たよ!』
『なんかじゃねえ! 早く取れよ!』
フェレット風の人形と腹話術で小芝居をしながら、腕を伸ばす真一。
突如、グラブが巨大化した。
これぞキャッチ率があがるマジック――なのだが、所詮は風船なので、打球が刺さって割れてしまう。
打球は、スタンドへ飛びこんだ!
だが、ファール。
ボールを拾おうとまりこ様の信者たちが、激しい争いを繰り広げている。
二球目も三球目も、同じ打球でファール。
「まりこ様の信者は、貢ぎ過ぎてスカピンですの。 ファールゾーンの席しか買えませんのよ。 でもお優しいまりこ様はファンサービスで打球を送って差し上げますの」
「本当に勝ち負けは、どうでもいいんですね」
「スポンサー大事ですの」
スカートちょこつまのクルンで、スマイルする斉凛
「ゆ〜みんときゃっきゃうふふしたい貴方も、マリコ様のボールが欲しいドMな貴方も、メイド喫茶へGOですわ」
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最後のゲスト二人は、長身と白い長髪が美しいホスト風の青年。
「ジェラルドです、よろしく」
『ゲスナ=シャチクスターズプロデュサー ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)』
もう一人は、素朴で前向きな雰囲気の少女。
「華子です♪ 頑張ります!」
『海人プロデュサー 華子=マーヴェリック(
jc0898)』
姿勢が良い割に目が死んでいる男の集団が、モニターに映る。
「ジェラルドさん、チームと選手の紹介を」
白い前髪を優雅にかきあげるジェラルド。
「選手か――今、誰だったかな?」
「え?」
「金融系営業マンで編成されたチームだよ、離職率高くて入れ替わりが激しいんだよね」
乾いた表情で言うジェラルド。
「は、はあ」
ドン引きしているアナの様子にフッと笑い、自信に満ちた笑みを浮かべる。
「でも全員スペックは高いよ、外回り営業で鍛えた脚力、耐久力は伊達じゃない。 怖いお金持ちにけしかけられた犬からだって逃げ切るほどのタフな走りを見せるぜ」
「飛びこみ営業ですか?」
「そうさ、インターホン越しの会話を聞き逃さない地獄耳に鍛えられている! ベンチの呟きだって聞きとれるからサインいらずだよ」
「嫌な能力ですね、身につけてしまった本人にとって」
「体力も凄いよ! 三徹は基本! 会社には寝袋が常備されている!!」
「優しいですねー(棒)」
「“食事に行かせて下さい”と頼むと“昨日食ったろ!?”と上司に返されるのがデフォ。
劣悪な環境が体力を養うんだ」
「養うというより、大事な何かを麻痺させているだけな気が……」
「シャチクに最も大事なモノ。 それは自身の置かれた立場から目をそむけ、あたかも唯一無二の道のように、仕事に邁進する事だからね」
「もはや宗教の領域ですな」
「社命でこうして野球の試合や練習をさせられたからと言って、営業のノルマが減るわけじゃない。 “会社のためやろ?”“やるのが当たり前やろ?”の一言で、あらゆる理不尽を飲みこまされる嚥下力。 それが彼らには求められているのさ」
「もう生々しくて、聞いていられません」
心が荒みそうなので、華子のチームに話題を移すアナ。
画面に野球帽を被ったアシカさんが映し出される。
「可愛いですねー、今の話の後だと癒されます」
ニコニコしながら紹介を始める華子。
「ウチは水族館業界のチームよ、まずはエースをご紹介するわ! アシカさんよ♪」
アシカのバッテリーが、鼻でボールをつつき、キャッチボールをしている。
「アシカさん同士は息もぴったり! どんなボールでも投げるわ、最強よ♪」
「ボールが硬球でなく、ビーチボールに見えるんですが」
アウアウ鳴きながらボールを山なりに投げ合うアシカ。
「当然よ♪ 硬球なんか使ったら鼻を怪我をするもの♪」
「野球選手として、どうかと思うですが」
続いて、移動式巨大水槽に入れられたシャチが映る。
「次に四番、大スラッガーのシャチさんよ♪ その巨体に秘められた膂力で全ての球を場外へ運ぶわ、最強よ♪」
「水槽の外のボールをどうやって打つんですか?」
「打てるわけないわ♪ 水の中から出たら死んじゃうもの♪」
笑顔で言う華子。 相当な天然さんである。
「他にはペンギンさんがいるわ。 その愛らしさで全てのお客様を魅了するわ! 最強よ♪ 但しデッドボール以外では塁に出る事は出来ないわ♪ 手がヒレだからね♪」
「この面子でどうやって試合するんですか!?」
「しないわよ♪ 彼らの可愛さが伝わればいいの♪ 毎試合不戦敗よ」
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モニターに本日の試合結果表が映る。
【ナイトプリンセス(乱闘により没収試合)アジュールユニオン】
【ザ・マジシャンズ33-4 七回コールド プリティーキャッツ】
【ゲスナ=シャチクスターズ(不戦勝)海人】
それを眺めているプロデュサーたち。
「SとMの集団って乱闘に入ると、気持ちよがって歯止めが効かないんだね、秘密結社壊滅だよ」
溜息をつく裁。
「圧倒的だねぇ我が軍は、もうマジック点灯だよ」
満足げに笑うアサニエル。
「皆様、メイド喫茶へGOですわ」
スカート摘まんで、可愛くクルンの斉凛。
「カネで審判を買収したのに相手が水棲生物とは――この投資の無駄を選手にどう回収させるか、だ」
二重の意味で黒いジェラルド。
「ペンギンさんが一匹足りないわ、ガムの会社の球団に引き抜かれたのかしら?」
古い人間にしかわからない事をいう華子。
「……概ね、予想通りの展開ですぅ……」
シメはやはりこれ、恋音のオオムネどアップで番組終了である。