●
斡旋所の会議室。
ここで2015年重大ニュース会議が始まろうとしていた。
「来年のニュースでござるか、早いでござるな〜、さすがはジャパニーズ☆ニンジュツでござる」
最初に立ちあがったのは、外国人忍者キャラのタクミ・カラコーゾフ(
jc0947)。
「拙者の2015年、重大ニュースはズバリ【ジャパニーズニンジャ爆☆誕】でござる」
「またツッコミがいのありそうなキャラが現れよったで〜」
ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)がハリセンをビシバシ素振りしている。
タクミはハリセンが何だかわからず、話を続けた。
「拙者はジャパニーズニンジャを目指して日々修行中なのでござるが、来年はその努力が実を結び、その一員として認められるようになるでござる!」
「それはおめでとう!」
常名 和(
jb9441)が最初に拍手をし、それに引き続いて拍手の輪が会議室に広がる。
嘘ニュースとわかっているだけに、皆、ノリノリである。
急にモジモジし出すタクミ。
「あと、どちらかというとこれが本命というか……某忍者先輩に、その…お会いしたい、というか」
「誰なんだな、場合によっては僕から紹介出来るんだな」
編集長、クレヨー先生の言葉に顔を輝かせるタクミ。
「本当でござるか? 是非お願いしたいでござる!」
「で、その某忍者先輩って誰の事なんだな? 」
先生が尋ねると、タクミは口を真一文字に引き締めた。
「某忍者先輩は某忍者先輩でござる! シノビは本当の名を語ってはならないのでござる!」
「紹介のしようがないやろ!」
ハリセン、本日最初の一閃。
タクミがジャパニーズハリセンの使い方を体で覚えたところから、2015年重大ニュース会議は始まった。
●
続いて、最初に拍手をしてくれた常名の番。
「俺のニュースは【大繁盛! 行列の出来る部活】です!」
「お、グルメ欄か」
咲魔 聡一(
jb9491)が、眼鏡をたくし上げる。
彼は、なぜか食レポが得意なはぐれ悪魔である。
「俺が店員をしている某店の部員数がついに今年百人を突破しました! もはや、誰も知らない人がいるほどの有名店となっております! 文化祭での出し物は学園の校舎をぐるっと囲むほどの大行列!テレビ取材殺到! 学園内に留まらずその名前は日本全国に知れ渡り、ご飯を食べたいからという理由で、アウルもないのに学園入学を希望する生徒がぞろぞろです!」
「そんなに美味しいお店が! 何という店なんですか?」
盲目シスターのフィルグリント ウルスマギナ(
jc0986)が尋ねると、が尋ねると、常名は口を真一文字に引き締めた。
「某店は某店です! シノビの掟で本当の店名は語ってはならないのです!」
「いけへんやろ!」
ゼロのハリセン二閃目。
タクミが懐紙にメモをする。
「これが“忍法・繰り返しオチ”でござるなー、修行するでござる!」
●
「ワハハハッ!」
突然、立ちあがり高笑いし出す咲魔。
特撮映画の悪役っぽい変な衣装を着ている。
「改造人間マスキプラ推参! いきなりだがこの会議室に爆弾を仕掛けさせてもらった!
「推参って、さっきからおったやんけ」
とりあえずハリセンで引っぱたいておくゼロ。
「もう十数分もすれば諸君のあんな秘密やこんな秘密が島中に知れ渡るだろう! 解除して欲しくば、2015年公開の映画『ジャスティスヒーロー3』を見るがいい! 今作では、エキストラ3000人、爆薬実に10万トンを使用している! 主人公が劇中で食べた『おでん屋 旗坊』のおでんは島中どころか本土でもブームになっているぞ!」
「ジャスティスヒーローって何かな?」
美幼女アイドルのユウ・ターナー(
jb5471)が首を傾げる。
それに、砂原・ジェンティアン・竜胆(
jb7192)が答えた。
「僕と咲魔ちゃん、雁久良ちゃんが出ていた学生映画だよ、パート1が今秋公開されたけど純粋な続編の噂は聴かないね」
「ちなみに、この斡旋所で受けた依頼なのだわ! ウチはTVや映画出演関係の依頼がよく来るから興味ある子はチェックして欲しいのだわ」
四ノ宮 椿が答えると、ゼロが聞えよがしにタクミにアドバイスした。
「聴いたか? これが近年開発された“忍法・ステマオチ”や! 本人隠しているつもりやけど、実はバレバレやから使ったらアカンで!」
「覚えたでござる! ステマオチはダメ忍法でござる!」
タクマの懐紙に咲魔と椿が、ダメ忍者としてメモされた。
●
続いて、先程も名前が出てきた雁久良 霧依(
jb0827)。
白衣にマイクロビキニで往来を練り歩く痴女である。
「実は私……おめでたなの♪」
幸せそうにお腹を撫でる霧依。
「お、おめでとうございます」
とりあえず拍手をする常名。
霧依が妊娠したということは相手は幼女ではないという事なので、ある意味めでたい。
「お相手は誰なんだな?」
先生が尋ねると、霧依は笑顔で答えた。
「父親が誰だか分からないの♪ 仕方ないから可能性のある人全員と結婚する事にしたわ♪」
言いながら霧依は、大量の写真を会議室のモニターに映した。
イケメン俳優、男性アイドル、有名スポーツ選手、アラブの石油王、英国皇太子、マフィアのボス――全て異なる新郎と結婚式を挙げている写真が数十枚!
「ずるい! 霧依さん、一人でいいから分けて!」
泣き喚く椿。
椿が結婚したいタイプのお金持ちばかりだ。
「あの写真は学園長?」
花婿の中には、挨拶を推奨する事で有名な、あの学園長が混じっていた。
モニターの画像が切り替わる。
「皆に養ってもらって何不自由ない生活♪」
城主として君臨する霧依と、かしずく男性達の写真が映し出される。
「夜はとっかえひっかえ……♪」
続いては、女王様姿で美少年を鞭で打つ霧依の写真
そしてついに……。
「生まれたわ♪」
学園長そっくりな赤ん坊を抱く、霧依の合成写真が映し出された。
●
「……こんな依頼ばかり受けるから迷走するんですよね」
鬱々とした声で呟いたのは、雫(
ja1894)。
十一歳の銀髪美幼女である。
「落ち込まないで♪ お姉さんが後でペロペロしてあげるから♪」
「お前みたいのと一緒やから、落ち込んどるんやないかい!」
霧依をハリセンで引っぱたくゼロ。
「早めに終わらせます――私の重大ニュースは【雫、ついに失われた記憶を回復】です」
雫は過去、天魔に襲われ撃退士に付けられたのだが、学園に連れて来られて数年、未だ名字すら思い出せていないのである。
「あら? まだ取り戻してないのだわ? こんなことしていたから、何か嫌な事でも思い出したのかと思ったのに」
隠し撮りした写真をモニターに映す椿。
ココアシガレットを片手に、やさぐれたようにスケ番座りしている雫。
大剣で誰かをザックザック切り刻んで“説得”している雫の姿がそこにあった。
「まあ可愛い♪ 不良幼女だわ♪」
「記憶を取り戻すのを境に、こんな風に斡旋所の人にいじられたりしないキャラに戻るんです」
椿から顔を背ける雫。
するとミハイル・エッカート(
jb0544)がグラサンを外しながら、優しげに語った。
「クールな弄られキャラってのも悪くないぜ、記憶を取り戻した雫も今みたいな性格だと周りの皆が笑顔になると俺は思うがな」
「どんな笑顔ですか」
顔を背ける雫。
その背中がどこか嬉しそうに椿には見えた。
●
「俺、ピーマンが食えるようになった!」
自分の重大ニュースを尋ねられたミハイルは、嬉しそうな幼児のように答えた。
「さっき、あんなに渋かった男の人とは思えないのだわ」
「俺がどんだけピーマンが嫌いか教えてやろう! チャーハンにみじん切りがあればすべて退ける! 肉詰めピーマンなら肉だけ食う! BBQで俺の皿にピーマン乗せたら撃つ!」
「いや、食おうぜ!? あんだけ安くて栄養高い野菜なかなかねぇだろ!?」
色男、バルトロ・アンドレイニ(
ja7838)に諭された。
「私もあえて食べたいとは思わないけど……そこまではしないかな」
太眉美少女、六道 鈴音(
ja4192)にドン引きされ、ミハイルは冷静さを取り繕う。
「まあ、そうやって毛嫌いしていたのは2014までの俺だぜ、2015年の俺を見ろ!」
モニターに写真を映し出すミハイル。
特盛ピーマン料理を美味そうに食べるミハイルが映っている。
ただし合成写真。
体は女性グルメレポーターで、首から上にミハイルの顔を張り付けただけという超やっつけ仕事だ。
「……なんつーせつねぇ努力をしてんだあんたは」
机に突っ伏すバルトロ。
「フッ、ピーマンさえ食べられるようになれば、俺は完璧になれそうな気がするぜ」
「今のままのミハイルさんの方が、周りの人が笑顔(笑)になると思います」
幼女の雫に切り返され、ミハイルも机に突っ伏した。
●
「ミハイルさんのピーマンは私がいただきましょう」
フィルの聖母の如く申し出に顔をあげるミハイル。
「ありがたい! 社食のおばちゃんに“ミハちゃん、ピーマン食べないと大きくなれないわよ”ってピーマン盛られて困っていたんだ」
「ミハイルくん、もうすぐ三十歳やろ」
勝ち誇った顔のミハイルに黒神 未来(
jb9907)がツッコむ。
「ところでキミ、見ない顔やな?」
「フィルグリントと申します。 今回が初依頼です」
「お! 頑張ってや! フィルくんの重大ニュースは何や?」
「【森の中に謎の教会発見される】です、昨日までは何もなかったのに」
「それはオカルトやね」
「教会の中ではシスターが歌を唄っていて、それを聞く事により御利益があるそうです」
「どんな御利益やろ?」
するとクレヨー先生が、メモを取り出した。
「教会から出てきた男性からの取材した記事があるんだな“歌を聞いてから、体調もよく、運気も急上昇! 毎日、支給品で桐箱が当た続けています、今では部屋にパサランが三十匹もいて毎日モフモフです!“らしいんだな」
顔を引きつらせる未来。
「四十路過ぎて妄想取材とは、学校の先生も大変やね」
●
それを聞いた鳴海 鏡花(
jb2683)の長身が立ちあがった。
彼女もアラサー組だが、男性のミハイルよりもガタイは逞しい。
「ずるいでござる!」
男泣きに泣く鏡花。
「拙者のところへはパサランが来ないのでござる! モフれないでござる! モフ好きの拙者の所に桐箱が来ないのはおかしいでござる!」
拳を握りしめ、天井を向く鏡花。
「しかし! 2015年、拙者はモフモフ王になったでござる!」
「モフモフ王ってなっにかなー?」
ボク参上!な金髪美幼女、イリス・レイバルド(
jb0442)が机の上に身を乗り出してきた。
「ハムスター、二本足で立つアメショーの仔猫、赤ちゃんアザラシ、動物園ではトラをモフったでござる! それだけでは飽きあらず、干支たる羊、アルパカ、カピバラといったありとあらゆるモフ動物をモフったでござる、猛獣だろうと天魔だろうと、モフれるものは全てモフったのでござる! まさにモフモフ王の称号に相応しかろう!」
胸を張る鏡花。
おっぱいよりも大胸筋が頼もしい。
「ええ、ずっるい! ボクを差し置いてモフモフするなんて! 泣き喚くよ! 狼クンの遠吠えよりも大きく泣き喚くよ!」
「では、拙者の建国するモフモフ王国の民になると良いでござる」
鏡花が窘めたが、イリスはますます声をはりあげる。
「ノンノン! ボクがモフモフ王になるんだよ! クーデターだよ! カクメーだよ!」
●
イリスが騒いでいると姉のアイリス・レイバルド(
jb1510)が後ろから妹の金髪を撫でた。
「こうすれば、大体フリーズする」
「ふにゃぁ」
他人に髪を触られると、ストレスが溜まりダークモードに変化するイリス。
だが、姉限定でマタタビを嗅いだ猫のように蕩ける。
「はっ!? 今極楽が見えたような……」
「見えたのは2015年のはず」
「そうだった、お仕事! お仕事! 2015年はなんとー! ついに大天使の翼実装!」
その報道に、鈴音が太眉を曇らせた。
「大天使の翼の事は、忘れようよ……」
「いあいあ、天魔系な人々が増えてからというもの“小天使の翼とか所詮フレーバー要素だし”扱いされていた苦汁の日々に終止符をッ!! いや実際マジで泣いてるボクとかがいるから小天使でも力不足扱いはやめてくださいお願いします!」
世界一を自称する土下座を見せるイリス。
「そうだよね、小天使の翼、あんまり使い所ないからさー」
よよよと泣き真似する九鬼 龍磨(
jb8028)。 イリスと同じく、人間でディバインナイト。
「大天使の翼が導入されたら、イリスちゃんマジ飛行ユニットで大勝利! 全国の飛行系人間ディバインも万歳三唱で宇宙を揺るがすビッグウェーブ! 世界は救われたのであるッ!」
ますますテンションあげているイリスだが、
「炎焼、大地の恵み、その他をアカレコより早く習得するディバに、これ以上新スキルだと……!?」
悪魔でアカレコな咲魔などは、難しい顔。
多様性と、公平性のバランスは難しいようである。
●
続いてイリスの姉、アイリスの報道。
「長年手がけていたある作品が完成した、これがなかなかの苦戦を強いられてな、そうだ、ここに完成予定図が―――」
アイリスがモニターに映し出したのはSAN値直葬神秘異端な深淵的存在の絵。
本物を見たものは発狂するとかいう噂のあるアレである。
「淑女的な傑作といえよう」
うんうんと満足げに頷くアイリスだが、他の参加者はドン引きにしている。
「うん、どうした? 顔色が優れないようだが」
しかし、黒井 明斗(
jb0525)だけは別で、
「これは――UMAですね、興味があります」
眼鏡を爛々と輝かせている。
「この手の作品なら部屋に余るほど有るが、興味があるなら持ってきてもいいぞ」
「ぜひ! でしたら、今度の休みに僕の行きつけのたこ焼き屋でお会いいたしませんか?」
「うむ、構わんぞ」
初々しいんだか、禍々しいんだかわからないデートの約束をしてしまう二人。
その黒井をイリスが睨み付けた。
「お姉ちゃんに手を出すな、お姉ちゃんに手を出すな」
深淵の神の如くオーラ。
これがイリスちゃん、ダークモード。
「あ、すみません、よく考えたら日曜は用が――また別の機会に」
イリスの瘴気に耐えきれず、黒井、即キャン。
●
気を取り直し、持参した写真をモニターに映し出す黒井。
「やはり、タブロイド紙の王道は未確認の生物でしょう」
この写真、ピンボケしていて何だかわからない。
おぼろげながら、ネッシーっぽい影が写っているのがわかる程度の写真だ。
「学園のV兵器研究の廃棄物・廃液を環境問題の一環として自由研究で調査中に発見するんです」
「廃棄物、廃液? つまり、昭和映画の大怪獣誕生的なことかな?」
「そうです! 天魔との戦いを優先させる影で崩れる自然環境、一学生が、それを発見すると言うのは如何ですか?」
黒井と同じ眼鏡少年の咲魔が興味ぶかげに眼鏡をクイッとあげる。
「面白い、ジャスティスヒーロー3で敵として出そう」
念のためだが、2の制作予定すらない。
●
「来年の駄ボラを垂れ流す依頼か、なら」
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)がにやりと笑って、隣りに座る川内 日菜子(
jb7813)を見た。
「俺とヒナちゃん結婚かな……」
「ええー! 何を言うんだ、ラルー!?」
顔を真っ赤にする日菜子。
モニターに、とんでもない画像が映し出された。
「そして三つ子誕生、どうだ」
ラファルと日菜子が、仲睦まじく三つ子を抱きかかえている写真だ。
しかも、赤ん坊は三人ともロボである。
ジェットストリームな黒い三体組ロボのプラモの顔を、ラファルと日菜子の顔にすげかえた、やっつけな合成写真だった。
「な、なんだってー」
同レベルの合成写真を作ったミハイルだけが、反応する。
「どうだと言われても」
「プラモだし」
「キミたち、女同士なのだわ」
根本的なところだ。
ついでに、ラファルは八割サイボーグである。
「おねーちゃん同士が結婚すると、どっちが赤ちゃん産むのー?」
ユウの無邪気な質問に、ニヤニヤしながら答えるラファル。
「ん〜、この写真通りだと子供がロボだし、俺になるのかな? ま、なんとかなるよきっと。 がははは」
多分、何とかなる。 だって久遠ヶ原だから。
●
「次はヒナちゃんの番だぞ」
ハッと気づく日菜子。
顔がまだ真っ赤のままだ。
「わ、私の番? えーと、えーと」
慌てるばかりで何も言えない日菜子。
「何にも思いつかないぞ! ラルが変な事言うから!」
「がっははは、ヒナちゃんはウブだなー」
笑うラルの隣で小声で呟く日菜子。
「来年の今頃は、もっとラルの隣に相応しい人間に……」
「ん? 何だって?」
聞こえているのに、両耳の前に掌を広げて聞こえないふりをするラファル。
「うるさい! より強く逞しく、一人前の撃退士になりたいって言ったんだ! それだけだよ!」
赤面したまま叫ぶ日菜子。
椿が、ふてくされてテーブルベルをチンチン鳴らす。
「はいはい、次行くのだわ」
●
「2015年、和風サロン“椿”は学園の飲食系部活ナンバーワンになりました♪」
木嶋香里(
jb7748)の発表に、ふてくされていた椿の顔がパッと明るくなった。
「え? 私がナンバーワン?」
「言うと思ったんだな、お店の名前なんだな」
和風サロン“椿”は香里が女将を務める部活系飲食店である。
「皆さんが数多くご来店頂いて、ご自身のペースで寛いで頂きながら交流できる場として一番の賑わいを目指します♪」
スマイルを浮かべる香里
対して、椿はふてくされている。
「同じ真面目な目標なら、名前が同じこっちを応援するのだわ、イチャコラしていた二人は爆ぜればいいのだわ」
「同じ名前の人間がこんなポンコツで、香里ちゃんのお店に非常に申し訳ないんだな」
●
「2015年、俺は究極の麺作りに挑戦した!」
ドヤ顔で断言したのは佐藤 としお(
ja2489)。
大学に入ってちょっとイメチェンした、ちょい悪系お調子者男子。
「そのために伝説のかん水を探す旅に出て道中、志を同じくする仲間と出会った!」
「ほう、どんな仲間や?」
ゼロがすでにハリセンふりふり、ツッコミの準備をしている。
「一人は犬の様に嗅覚の鋭い奴! 一人は猿の様に手先の器用な奴! 一人は大空を舞う鶏の様に自由な発想をする奴! そんな個性あふれる面々を纏め上げるカリスマ性の持ち主、それが オ レ ダ !」
サムズアップする佐藤。
「桃太郎やないかーい!」
ハリセンが炸裂する。
殴られても佐藤は、妄想に入り切っている。
架空の仲間に、熱く語りかけた。
「お前たち三人の犠牲は無駄にしないぞっ!」
「仲間死ぬの前提かい!」
ゼロにしばかれながらも、エア彼女を抱きしめる。
「姫、お救いにあがりました! これから僕と幸せにくらしましょう!」
「お前だけ玉の輿やんけ!」
しばかれながらも、カメラ目線で告知。
「2015年新春上映! 伸びきった麺の様な何か型のウォレットチェーン付前売り券は購買にて好評発売中!」
「大冒険のあげく、出来あがるのは伸びきった麺かい!」
●
散々にツッコみ続けたゼロ。
肩で息をしながらも、自分の報道を求められる。
「ゼェゼェ、せやなぁ……2015年は俺の眠れる力が解放されたんや、天と冥の血が混じった俺が大活躍や!」
「天魔ハーフいいねぇ〜! 空も自由に飛べちゃいそうだしね〜、ボクも検討中だよ!」
何を検討しているのかわからない、イリスちゃん。
どうせ妄想を述べる会議なので何を言っても自由である。
「それではしゃぎすぎて重体の回数も増えたんや〜、軽く二十は超えたわ」
「二十回重体ですか? 一年中病院暮らしなのでは?」
シスター・フィルが尋ねてきた。
「病院なんてつまらんとこいくかい! フィルちゃんはまだわからんかもしれんが、撃退士は信じがたいほど丈夫なんや、そこのチチデカ暴力女なんか、重体中なのに平気で人様にツッコミ入れとるやろ」
ゼロに視線を向けられ、ニコニコする未来。
「そうやね、ゼロくん。 でも、言葉のツッコミだけやないで」
ゼロを背中から担ぎ上げる未来。
「バックドロップも! シャイニングウィザードも! パイルドライバーもいけるのや!」
連続でプロレス技を浴び、死にかけたカンガルーのように体を痙攣させるゼロ。
「病院連れて行って……可愛い看護婦のいるとこ」
「まだ元気なクチが叩けるようやな、可愛いウチが看護したるわ」
未来に引きずられ、斡旋所の裏口に連れて行かれるゼロ。
多分、このOHANASHIは長い。
●
「私はアレですよ、ボンッ!キュッ!ボンッッ!! のセクシーダイナマイトになりますよ! 成長期が奇跡の再来で」
鈴音が、太眉をキリッとさせ高らかに宣言した。
「六道ちゃんは、今のままでも充分可愛いよ」
砂原がチャラい笑顔を向けたのだが、鈴音は納得しない。
「そうじゃないんです! 久遠ヶ原学園の校内ですれ違った人達がみんな振り返るような、そんなセクシー美少女にっ!! 神様っ!! おねがいっ!!」
窓の外に向かって拝む鈴音。
「やめとけやめとけ」
ラファルが言い捨てた。
「この学園って、変な奴ばっかだぞ、全員に振り向かれたら面倒くさくて生きて行けないぞ」
雫が同意する
「ですね、特にさっきから私の後ろにいる人とか面倒くさいです」
雫の後ろには、ピッタリくっついて鼻をクンカクンカさせている霧依がいる。
「全然くさくないわ♪ 幼女の香りは酸素なのよ♪」
ドン引きする鈴音。
「新年は、成長期とか振り返らずに生きる事にするね」
●
「ぼんきゅより、むきむきです! わたしの予定はですね、むっきむっきのまっするぼでぃになることなのですよ!」
六歳幼女、リーア・ヴァトレン(
jb0783)。
「筋肉幼女か? ふむ、それはそれで晴海で売れそうだな」
ぼんきゅ体型なアレクシア・フランツィスカ(
ja7716)。
なのに魂が腐っている。
「いつもしょーかんじゅーのシオンちゃんにWRYYYYYYYなポーズでまもってもらってるから、たまにはあたしもマッスルな感じで前衛になってシオンちゃん達と一緒に敵をぶったたきたいなって! 思ってて! ……まぁやったらダブルノックアウトで即ログアウトって感じになるんだけどねー」
ぺしょんと机に突っ伏すリーア。
「あら♪ お姉さんの事なら叩いてもいいのよ♪ ほら、ぶって♪ ぶって♪」
六歳女児に、お尻を突き出す霧依。
この学園には、絡んではならない人間が確実にいる。
●
「こんなに欲望に塗れた会場は今だかつて見……いや、時々しか見なかった気がするなぁ」
バルトロは言い直した。
久遠ヶ原では、稀によく見る光景。
「俺の2015年? そりゃあ隣にいる腐れ縁の腐女子を正気に戻すことだな」
その腐女子とは、筋肉幼女の同人誌の構想を練っているアレクシアである。
「そろそろ俺をうすくねぇうすい本系のネタにすんのやめろな!?」
「わかった」
意外に素直に応じるアレクシア。
「夏は、ピーマン×ミハイル本で行く」
「おいばかやめろ! 二重の意味でやめろ!」
怯え、拳銃を構えるミハイル。
「2015年以降は 久遠ヶ原同人誌即売会を年二回開催するからな!! 夏と冬は基本だろ!? 素材いっぱいあるだろ! ソコとかアソコとか主に学園内というか学生関連から派生して天魔巻き込み系いろいろで!!! なんで依頼見なくなったんだぁあああ、男の娘喫茶も待ってるんだぁあああ!!」
絶叫後、喀血して倒れるアレクシア。
それが、最後の言葉になった。
「男の娘――?」
頭に紙袋を被った謎の男が、アレクシアを踏み付けにして息の根を止めたからだ。
●
「俺の前で、その単語を言う奴は何人たりとも許しませんよ」
「湊くんかな?」
湊とは藍那湊(
jc0170)。
可愛い少年キャラなのだが、なぜか今、悪魔の血が目覚め、別人格に変化しているらしい。
「そんな名前知りませんよ。 俺は……そうですね、愛無ミナモとでも呼んで下さい」
紙袋男はドスの聴いた声で語り始まる。
「予言をしましょう――来年はあるアイドルが活躍するでしょう 愛とアイスをばら撒き、美貌と歌唱力で世界を魅了し混乱に陥れ――」
何やら語っているが、藍那を可愛がっている咲魔たちとしては心配でしょうがない。
普段、あんなに可愛いのになぜ、時としてこうなってしまうのだろう?
いっそ、男の娘という単語を聞いたとたん凶悪化するとか、そういうキャラの方がわかりやすい。
「いいからこの歌を聞きなさい美声なので」
持参したCDを再生する紙袋男。
変声期の少年の歌らしい。
「何にせよマークしておいて、間違いない逸材です」
紙袋男は一人ごちているが、話は意外な方向へ進む。
「これ聴いていると、あれ思い出しちゃうよ、小学校で変声期についての授業を受けた時に聴かされた怖いレコード」
九鬼が遠い記憶に、眉間を潜めた。
「あら、九鬼くんの世代でも聴かされたのだわ? なんとか紋十郎くんだっけ?」
「ボーイソプラノが少しずつ醜い男の声に変化してしまう過程を記録したレコードだったんだな、体が成長するのが子供心に怖くなったんだな」
九鬼、椿、クレヨー先生が、ほとんどの参加者にはわからないであろう話題で盛り上がり出したのだ。
藍那の歌など聞いちゃいない。
「聴いて下さい、御年輩の方々! ――僕の歌を聴いてー!」
紙袋男の紙袋を取り去り、その下から主人格である藍那の可愛い顔が出てきた。
●
「御年輩とか言われたけど、白髪じゃないんだよ? 脱色だって事は知ってる人は知ってることなんだーけーどーもー」
九鬼は、まだ二十代半ば。
田舎の学校出身なので、古いレコードも聞かされたのだろう。
「2015――本物の銀髪になります! なんかアウルがどうこうとかいう不思議現象で!
おかげで髪がよりつやつやになって、シャンプーのCMに抜擢されちゃうのさー♪」
シャンプーのCM的ポーズをする九鬼。
ちなみに、マッチョの大男。
「シャンプーのCMいいな〜、ユウもでたーい」
ユウが幼女特有の甲高い声で、喰いついてきた。
●
「ユウは、2014はアイドルとしてデビューしたの、2015年はもっともっとアイドルとして活躍して、国民的アイドルになった……ハズ! もう、皆が目を離せない、実力マンマンのとびっきりのアイドル。 追っかけを通り越して、ストーカーなんかの被害にも遭っちゃう位!」
「ん〜、もういるみたいだけど、ストーカー」
ユウの背後には、鼻血をポタポタ出している霧依がいる。
「幼女アイドルのシャンプーCM最高ね♪ お姉ちゃん、いろいろ捗っちゃうわ♪」
「来年はきっと身体付きだって、変わっててボンキュッボンなグラビアアイドル顔負けの変化が起こるんだっ!」
すると、霧依が鼻血に代わって涙を流し始めた。
「そんな哀しい事言わないで! この世で一番美しいのは幼女なの、絶対ダメよ♪ 成長しちゃダメ☆」
笑顔を引きつらせるユウ。
「ユウ、早く成長しないと大変な事になっちゃう気がしてきたな」
●
未来が一人で戻ってきた。
OHANASHIしていたゼロは戻ってこない。
きっと、今頃一羽のカラスとなって、遠い空の向こうを羽ばたいているのだろう。
「うちの記事はこれや!」
未来はモニターにスポーツ新聞のような見出しを映し出した。
【メデューサ黒神、遺恨発生! 四ノ宮椿とシングルマッチで対決決定!】
「え? なにそれ、私と未来ちゃんに遺恨なんかないのだわ?」
戸惑う椿。
にやりと笑う未来。
「今から作るんや! おい!そこの行き遅れ!うちと勝負や!」
「い、行き遅れ」
プツンと音がし、全身に椿色のアウルが燃え始める。
「え?……ひょっとしてメッチャ怒ってる?……なんやメチャメチャ強そうやん?」
椿の横でクレヨー先生が溜息をついた。
「椿ちゃんを舐めちゃいけないんだな、引退したとはいえ阿修羅を十年以上もやっていたんだな、今やっても、キミらが適うかどうかわからないんだな」
「ギャーーーッ!」
正拳突き一発で、突きばされる未来。
モニター上の見出しは【四ノ宮椿、メデューサ黒神を瞬殺】に書き換わっていた。
●
最後の報道は、砂原の2015ニュース。
「重大ニュースかー、いや、別にさほど重大でもないんだけどね? ちょっと久遠ヶ原の学園長に就任しちゃった、みたいな」
これぞ、未来的重大ニュースといえる報道に、会議室に拍手喝采が起こる。
「おめでとうございます。 就任祝いは、和風サロン“椿“で!」
宣伝を欠かさない、香里。
「砂原クン、マジ権力者。 大天使の翼の件ヨロシク!」
土下座するイリス。 幼女なのに三下属性。
「突然、天下獲りすぎだろ? 何があったんだ?」
当然の疑問を、佐藤がぶつける。
「特に何があった訳でもない、でも惹きつけちゃったんだろうなぁ、室井学園長のお嬢さんに熱烈アタック受けてさ」
「室井おじさんって娘さんいるの?」
ユウが首を傾げる。
どうせホラ会議なので、いる事にして話を進める。
「それで、僕もその一途さに負けちゃって、六月に挙式、その流れで学園長から後継者指名受けて、了承したって感じ! お義父さんの頼みじゃ、僕も断れないよねー。 あ、婿養子だから、新学園長も室井だよ」
調子よくチャラチャラ妄想を並べ立てる砂原。
その耳元に、熱く艶めかしい息がかかった。
「あら♪ じゃあ、私は砂原君の義母になるのね♪」
霧依である。
「か、雁久良ちゃん? なんで?」
「私は来年、学園長とも結婚するでしょ♪ あなたは婿養子♪ つまり、私たちは義理の母子なの♪ 新しい家庭で、禁断の母子関係を楽しみましょう♪」
マイクロビキニに包まれた爆乳を砂原に押し付ける霧依。
「ないない! こんな母親ないから!」
霧依からは逃れようとする砂原。
おっぱいに負けたら、スライドで見せられたような爛れた奴隷人生が始まってしまう。
「こいつはヘヴィーだ」
日菜子が呟いているが、現実の久遠ヶ原学園2015では、ここで予言されたよりももっとヘヴィーなことが起こるに違いないのだ。
大きな恐怖と、小さな期待を胸に間もなく訪れる新しい年を迎えようではないか。