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マスター:スタジオI
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/12/15


みんなの思い出



オープニング


 久遠ヶ原学園大学部にあるサークル“ヒーロー映画制作委員会”
 字面そのまんま、ヒーロー映画を自主制作するサークルである。
「正義の味方飽きた」
 西 愛乃が、ふて腐れたような声で言った。
 これまで、このサークルでヒーロー役&監督をやってきた少女である。
「いい加減機嫌直せよ」
 それを宥める演出担当の秋山卓。
 この秋、彼らは“ジャスティスヒーロー”という映画を撮り、文化祭で公開した。
 たくさんの拍手とファンメールを戴いたのだが、ファンメールの対象のほとんどが、愛乃が演じた“ジャスティスヒーロー”ではなく、悪役の“六幹部”に対するものだったのである。
 正義の味方より、悪役に称賛が来る。
 正義バカの愛乃は、それでふて腐れているというわけだ。
「よう考えたらこの島、ガチの正義の味方だらけやん! 映画でまで正義の味方やったウチがアホやったんや!」
「まあ、この島の撃退士は皆、世間的には正義の味方だしな」
 実際の所、秋山も友人に“悪役やりたい””主人公が闇堕ちするような映画は作らないのか”とかいう要望をもらう事があるのだ。
 人間、常に正義の味方として気を張るのは非常に疲れるもの。
 たまには自由に好きな事をやれる悪役をやりたいという願望はわからないでもない。
「かといって、ガチ悪人が主人公の映画を子供らに見せるわけにもいかんよなあ……ほんでウチ考えたんやけど、お正月に公開する映画は“ダークヒーロー”で行こうと思うんや」
「ほう、いいんじゃないか?」
 前作“ジャスティスヒーロー“でも主人公が一番ウケたシーンは、主人公が一瞬だけ闇堕ちして、鎧が漆黒に染まるシーンだったのだ。 
「続編にして、あのシーンを掘り下げていくか?」
「いや、ジャスティスヒーローはウチとしても思い入れがあるから闇堕ちさせたくない。
ダークヒーローものは全くの別コンセプトでいく」
「どんな?」
「戦隊もの、ダーク戦隊や!」
「本気か!?」
 発想自体は、そう斬新なものではない。
 TVでやっている戦隊ものでも、たまに悪の戦隊というのは出てくる。
 だが基本、イロモノだったり、主人公勢の偽物だったり、敵役だったりで、完全な脇役なのだ。
 それを主人公として描くと言うのは聞いた事がない。


「ダーク戦隊の基本方針を決めようと思う」
 やる気満々な愛乃。
 ずっと純粋なヒーローをやり続けていたため、こういう変わり種はそれなりに楽しみらしい。
「戦隊名はダーク戦隊 アウトロージャー! 」
スケッチブックに書いた、戦隊ヒーローコス案をバーンと示す愛乃。
 赤、青、黄、緑、ピンクと一見定番だが、色が暗色系のヒーローたちが描かれている。
「名前からして変身前は全員アウトローか、ウケそうだが、行き過ぎには注意が必要だな」
 変なクスリやってるとか、趣味が万引きとか、教育上問題のありすぎるものは、小等部生が観る手前、流石に避けたいところである。
「せやな! 次にモチーフ! ダーク戦隊だから、ライオンや鷹みたいなカッコいいのではあかん! 全員“強いけど嫌われている感じの闇的存在”でいくんや!」 
「嫌われている動物?」
「ウチはハイエナでいく! ヒーロー名はダーク・ハイエナや!」
「ハイエナってお前……」
 斜め上過ぎて言葉が出ない秋山。
「次に武器、これも全員、悪っぽいもので行く! ウチのメインウェポンは釘バッドや!」
「もはや、ダークヒーローというより三下雑魚だぞ」
「ええんや! 変身前のウチの役柄は、不良少年や! しかも番長の腰巾着や! 番長がタイマンの喧嘩でダウンさせた相手の腹を、去り際に一発蹴って“けへへ、オヤビン、コイツ大したことなかったっすね“とか言うような、そんなキャラや! そんで後で周りには”けへへ、アイツにはオレっちがトドメを刺したんすよ!“と宣伝するんや」
「本当にハイエナじゃねえか!?」
 協議の末、今回、愛乃には監督業に専念させる事にした。
 客観的な立場に立たせないと、どんどんアホな方向に暴走しそうだからである。 
 
「そもそも、そのアウトロージャーは、どんな敵と、何のために戦うんだ?」
「偽善者や! 偽善の積み重ねで世界を支配すようと企む、ギゼン帝国のギゼン怪人と戦うんや!」
「ギゼン帝国? どんな活動してるんだよ?」
「街で空き缶拾いをして、その光景を自画撮りしてブログにアップしとる」
「それを偽善と呼ぶのは誤解を生むぞ」
「ただし、集めた缶は分別せず、燃えないゴミの日に出す」
「うん、そこまでやると偽善だな、上辺だけ良い子ぶっていても、実は他人様に迷惑かけてしまうのはいかん」
「というわけで最初の敵は、クリーン怪人・カオスダストや! “街をクリーンに!”と言って市民をボランティアとして洗脳しながら、ゴミ分別はせず、気に食わんやつにはそのゴミで攻撃をしてくる!」
「その役は俺がやるのか、嫌な役割だな……」
 正月映画は二部構成
 ギゼン帝国の正体を知る科学者が、レジスタンスの長官となり、アウトロージャーとなる五人を探し集め、カオスダストを倒すまでが第一部となる。
 斡旋所に集まったキミたちには、アウトロージャーの五人と、長官を演じて欲しい。

 なお、愛乃が書いた物語の基本設定を以下に掲載する。


 舞台は現代日本。
 “争いのない世界を作ろう”をキャッチフレーズとする“義善会”が発足し、大規模なボランティア活動を展開、マスコミなどでも持て囃されていた。
 だが、科学者としての力を“義善会”に注ぎ込んでいた一人の天才科学者が“義善会”のバックには、太古の世界を支配していた“ギゼン帝国”があることに気付く。
“ギゼン帝国”の目的は一見善行に見える事で、人々を洗脳し、慈善活動を強要させ、得た利益で巨大兵器を開発、世界を再び支配する事にあったのだ。
 地球の危機を察した科学者は、偽善会本部から自らが開発した戦闘用巨大ロボットのコアキーを持ち出し、逃亡した。
 科学者は共に闘う同志を求めたが、すでに社会の大半は“義善会”に洗脳されていた。
 絶望しかけた科学者だが、社会の影には“義善会”を憎むものの存在がある事を知る。
 いわゆるアウトローと言われる、社会のはみだし者、ひねくれ者たちである。
 科学者は、地下に基地を設置。
 偽善を憎む心をダークパワーに変換する事の出来る五着のバトルスーツを開発。
 “義善会“に反逆する”ダーク戦隊“の長官を名乗り、スーツを着るに相応しいものたちを探し始めた。


リプレイ本文


 日曜の昼十時。
 橘 優希(jb0497)は、渋谷の裏通りを歩いていた。
 歳は十八歳、少し前までは大学に通っていたが、喧嘩が原因で退学になった。
 橘は、仲裁に入っただけだったのだが、当事者たちが橘に責任をなすり付けたのだ。
 無口が災いして言い訳も出来ず、そのままオサラバである。
 家でも、すっかり不良扱いで居心地の悪い事この上ない。
 お気に入りのドライブゲームを置いているゲーセンの裏まできた時、学生二人が、小さな子供を“説得”しているのが目に入った。
「ねえボクたち、遊ぶお金があったら、義善会に寄付してくれないかな」
「キミ達のお小遣いを正義のために役立ててあげるんだ、きっと気持ちいいよ」
学生たちの襟には、義善会を示す金バッジが輝いていた。
 子供たちは怯えながら、財布を背中に隠している。
「だめだよ、これがなかったら甲府に帰れない」
 泣く子供たちを足蹴にして倒し、財布を奪う学生。
「正義の味方になるための訓練だ! 歩いて帰りな!」
 笑いながらゲーセンに入って行こうとする学生たち
 その肩を、橘が無言で掴んだ。
「……財布を子供たちに返せ」
「あ? なんだ」
「わかってんのか、このご時世、義善会への寄付を妨げたら、どういう目で見られるのか」
「……生憎、もう不良扱いされているんでな」
 不良の片割れの頬を殴る橘。
 橘の倍はありそうなガタイの男が、一撃で吹っ飛んだ。
「て、てめぇ!」
「……先に子供を蹴ったのはそちらだ」

 追撃しようとした時、ゲーセンの裏口からポニーテールの少女が出てきた。
 橘は、この少女を知っている
 川内 日菜子(jb7813)、確か極道の娘で、この界隈を牛耳っている少女だ。
 こいつも義善会の仲間なのだろうか? 
「私のシマで喚いてるガキは、何処のどいつだ」 
 言うなり日菜子は、正拳突きを放ってきた。
 早い! 避けたつもりが胸を拳が穿つ。
「くっ!」
 痛みを堪えつつ、拳を打ち返す橘。
 フックが鎌を薙ぐように、日菜子の横腹に入る。
「……僕に敵うとでも?」
「くぅ……ナメるな、手加減のつもりか?」
 相手は女の子と思い、顔を避けてやったのを見抜かれたようだ。
 本気の殴り合いを繰り広げる二人。
 互いの息が切れかけた時だった。
 二人の戦意を萎えさせるような無気力な声が、どこかから聞こえてきた。



  嘘つきの国、栄える町並み、笑顔の人々
  毒を撒く、毒を撒く、毒を撒く、大地を腐らす毒を撒く……



 声の主を目で探すと、それは激しく殴り合っていた二人の体の間に、最初からいたかのように立っていた。
「ぐぅ……うるさいぞ、アリスの睡眠を邪魔するな……ぐぅ」
 目で探すと、声の主は激しく殴り合っていた二人の体の間に、最初からいたかのように立っていた。
 驚くべき事に、この闘争の間近で眠っている。
 新雪の如く白い髪を持つ、幼げな少女、アリス・レイバルド(jb1509)。
「なんだ? お前もあの薄気味悪い義善会の仲間か!?」
「“今はもう”そうではない……ぐぅ」
「何か、わけありそうだな?」
 日菜子の問いにアリスは、半分寝言のような声で語り出した。

 義善会が、古代世界を支配していたギゼン帝国の末裔である事。
 マスコミや人前ではあからさまに善行を行い勢力を広げているが、その目的は世界征服のための資金と強制労働員集めである事。
 義善会は即ち、偽善の会。

 忌々しげに両拳を打ち合わせる、日菜子。
「半分は知っていたぜ、オヤジの組とドンパチやってるのが、義善会の息がかかった組織だったからな」
 一方、橘の気持ちは複雑だった。
 橘の妹は、義善会の会員だった。
 心の優しい子で、人のためになる事だからと毎日、ボランティアに出かけていた。
 疲れが祟り、四十度を超える熱を出した時も、雨の中をごみ拾いに出ようとした。
 体調管理が出来なかったのは自分の責任、そのために世の為になるボランティアを休むなど人間の風上にも置けない行為なのだと――そう義善会で教えられたのだと、橘や家族の制止も振り切って出ていった。
 高熱のままごみ拾いに出た妹は、車に挽かれて命を落とした。

 アリスと名乗る少女は、スーツと懐中時計を差し出してきた。
「力が、欲しいなら、これを受け取れ……ぐう……スーツは獣の力を、引き出す物……獣以外も、たまにいる……ぐう」
「義善会と戦えってか? 冗談じゃない、アイツらには警察だって手が出せないんだ」
 突っぱねようとする日菜子。
 その眼前で、橘は迷いもなくダークピンクのスーツを受け取った。
「……良いでしょう。その話、受けます」
「お前、正気か?」
 日菜子は驚きつつ、橘を見た。
 その真っ直ぐな目に、脳裏に浮かんだのはかつての恋人の姿だった。
 
 空手道場で知り合った幼馴染。
 日菜子を、人から疎んじられる家柄はと関係なしに愛してくれた少年。
「あんたの背中を守る」
 互いが互いの拳に、そう誓い合った。
 数日後、彼は日菜子の親がらみの抗争に巻き込まれ、生命を散らせてしまった。
 相手の組は義善会の下部組織。
 それでも、日菜子と一緒にいなければ、日菜子に力があれば、こうはならなかったはずだ。
 綺麗ごとを言いながら、彼を守れなかった。 
 力も保障もないのに、綺麗ごとを言ってしまった。
 そんな自分が憎い――自分の中にある、偽善が。
 日菜子は、暗い赤のスーツを手にした。
「いいだろう力をくれるっていうんなら、少しは付き合ってやる」
 ダークレッドのスーツを、戦士が手にした。





  追われる獣、落ちる鳥、泥を這う魚
  毒を撒く、毒を撒く、毒を撒く、世界を蝕む毒を撒く
  嘘つきの王様は笑顔の裏で毒を撒く……



 下町の廃屋に咲魔 聡一(jb9491)は、住んでいた。
 この男、若いが名うての詐欺師である。 
 アリスが彼の元を尋ね事情を話すと、意外にも快い返事がきた。
「ふうん。 義善会が裏でそんな事を、ね……胡散臭いとは思ってたし、嘘と断定するほどおかしくもない……いいよ、信じてあげても」
「では、義善会と戦え……ぐぅ……お前が騙したのは義善会関係者ばかりだ……ぐぅ……奴らが世界征服したら、お前は処刑台行きだ……ぐぅ」
 相変わらず、眠り眠り話すアリス。
「戦えって、命がけでかい? 冗談じゃ……」
 断りかけて咲魔は、目を光らせた。
「……いや、いいよ。 OKだ。 ただし一つ、やってみたい事があるんだ」

 数日後、咲魔は義善大学に来ていた。
「入院生活の為休学しておりましたが、今日からこの四ノ宮ゼミでお世話になります、相馬サクヤです」
 咲魔がしたかったのは、高校中退後、中断していた学生生活だった。
 アリスの腕を借り、大学のサーバーをハッキング、偽学生・相馬サクヤの学籍を学生データベースに捻じ込んだのだ。
「休学開けという事は僕らより年上かな? 若く見えるね」
 隣席に座った男が話しかけてきた。
 イケメンだが、軽そうな顔をしている。
「あはは、やっぱり幼く見えるのかな? あんまり体を動かしたりできなかったからなー」
 咲魔が言うと、男は周りの席の人間に聞こえるよう大きな声、自信に満ちた笑顔で言った。
「困った事があったら、何でも相談してくれたまえ、この僕、秋山卓にね」
 握手を差し出す秋山。
「そっか、卓君っていうのか、よろしく」
 言いつつ、咲魔は手を出さない。
 秋山の手は、宙ぶらりんのまま放置というマヌケな状態になっている。
「……握手は断るよ。 君の胡散臭さが手に付くのは嫌だ」
 にっこり笑う咲魔。
 すると、作り笑顔を保っていた秋山の顔が豹変した。
「臭い……臭いだと! てめぇ、俺が臭いってのかぁ!!」
 怒号すると、教室のごみ箱を掴みとり、ごみを投げつけてくる秋山。
「きゃあー、何なのだわ!?」
 教室中に、教授や学生の悲鳴があがった。

「憧れの大学生活、堪能したよ――七分間だけね」
 学校は秋山の言いなりに咲魔を即、除籍処分にした。
「お蔭で、戦う理由が出来てしまった。 やれやれ、報酬は受け取るけど、代償は払わないのが詐欺師のモットーだったんだけどな」
 ぼやきつつ、咲魔は暗緑色のスーツを受け取った。


 かつて、某社の研究施設があった廃墟。
 そこで藤沢薊(ja8947)は、ゴミ拾いをしていた。
 小学生だが、学校には行っていない。
 家で、好きな実験をして過ごしている。
 ここに来たのは、そのために使えるものを拾うためである。
 廃墟を物色していると、背後から声がした。
「いいねえ、頑張っているチビッ子の姿をブログに、アップ!」
 振り向くと、軽そうな顔をした男がデジカメを構え、ニヤニヤと笑っている。
「あ゛? 俺に何の用ですか?」
 不機嫌そうに振り向く薊。
「そんな釣れない態度するなよ、仲間だろ」
 見れば男――秋山は薊と同じく、ゴミ拾い用の格好をしていた。
「わかるよ、こういう誰も見ていないところで、町の清掃を頑張る! これが見る人の心を打つんだよね」
「偽善者が、一緒にするな」
 薊は口の中で呟いたが、秋山の耳には届かなかったようだ。
「あれ? キミ、バッジがないじゃないか? まだ義善会に入っていないのかな? 僕が取り計らってあげよう」
 義善会員には、月に何人新規会員を集めねばならないというノルマがある事くらい薊は知っている。
(俺を、今月の頭数に入れる腹か)
 心の中で舌打ちする薊に秋山は言う。
「遠慮するなよボク、困った事があったら何でも言いたまえ」
 その言葉が、薊の苦い記憶を呼び起こした。

「困った事があったら、何でも先生に相談しなさい」
 かつて、学校には薊にそう言ってくれた先生がいた。
 幼い薊は、先生を信用した。
 苛めに苦しんでいた時、その事を相談した
 返ってきた返事は――。 
 “お前が我慢しろ、それで解決だ”
 だから学校へは行かない、人は信じない。
 薊は、そう決めたのだ。

 目の前の男を殴りたい衝動に駆られたが、薊は小さな小学生だ。
 勝てない勝負はしない。
 自分にそう言い聞かせて、ガラクタ集めを続けた。



  牙が無いなら与えよう、世界を貫く牙を与えよう
  与えた牙で何を噛む?



「なら、勝てる勝負にすればいい……ぐぅ」
 秋山が去った後、訪れた白い少女は薊にスーツを差し出した。
「何ですかそれ?」
 怪訝な顔をしつつ、脳内会議を始める薊。
 薊の中には、イジメを受け続けた日々に生まれた友人――副人格・刺草がいた。
『ふふ、今の話、良いではありませんか、もし、つまらなければやめればいいだけの話ですからね』
 薊にも、特に反対意見はない。
 暗黄色のスーツを、小さな戦士が受け取った。


 地下闘技場。
 紳士淑女の熱い歓声の中、大柄な男が高く跳躍し、相手戦士の肩に両手で手刀を撃ちこんだ。
「炸裂ぅ! フルムーン・ストライク! ゴングからわずか五秒で春月の勝利だぁ!」
 春月 章吾は地下闘技場の闘士だ。
 仁良井 叶伊(ja0618)という本名は、祖国を追われる時に捨てた。
 本当の自分を知る者は、もはやどこにもいない。
 そう思っていた――試合を終え、控室に戻るまでは。
 白く、小さな少女がそこで待っていた。
「久しぶりだな……ぐぅ……お前が、ギゼン帝国から逃げてきた時以来だ」
「あんた――いや、貴方はドクター・アリス」
 春月の祖国は、ギゼン帝国である。
 一帝国兵だった春月。
 ある日、同じ兵舎の仲間が肉体強化実験の試験体に選ばれた。
 上官は栄誉ある事だと宥めすかし、狂わんばかりに泣きわめく仲間を連れて行こうとした。
 我慢出来ず、春月は上官を殴った。
 人並み外れたその腕力が、上官を殺す事になるとは思わずに。 
 死刑になりかけた春月を逃がす手引きしてくれたのが、アリスだった。
「ドクターが来られたという事は、その時が来たのですね」



  それは優しさではない、それは勇気ではない、それは希望ではない
  与えた牙は誇りである
  故に、噛み砕くのは獣の敵、その首元以外ありえない



 東京の外れにある小さな街に、アリスは春月を連れてやってきた。
「この先にマンホールの下に、アリスたちの秘密基地がある……ぐぅ」
「なるほど、近くまできているんですね……ところで、お前は誰だ?」
 春月が声をかけたのは、二人の背後でこちらを見ている、ニヤつき顔の男――秋山だ。
「お迎えにあがりました、Sleeping Cutie」
 秋山は、アリスを義善会時代のコードネームで呼んだ
「二度と帰るか……ぐぅ……三食昼寝付きゲームし放題と騙しておきながら、一日に三十分もアリスを働かせやがって……ぐぅ」
「ドクター、そんな理由で逃げたんですか!?」
 呆れる春月を、秋山はにやにやと眺めて言う。
「レディ、傍にごみが落ちていますよ? 僕が拾っておきましょう」
 春月の襟首を掴む秋山。
「人をごみ呼ばわりかい、お兄さん」
 春月が凄むと、秋山の姿が変わった。
 コンビニ前にあるゴミ箱が、命を持ったかのような怪人になる。
「そうダスト、お前は社会のごみダスト」
 秋山の周りにいたボランティアたちも、黒タイツの戦闘員へと姿を変えた。
「改造人間・カオスダストか……ぐぅ……渡したスーツを着ろ、春月」
「敵前で着替えなんて?」
「一緒に渡した懐中時計を使え……ぐぅ」
 アリスが自らの懐中時計を開くと、小さな姿が春月の前から忽然と消えた。
「こういう事か」
 春月も懐中時計を開いた。
 
「何だ、お前は!?」
 戦闘員たちの前に、突如、ダークブルーの戦士が現れた。
「暗き山の王! ダークムーンベア!」
 春月は懐中時計が発生させた闇の刻の中で着替え、戦闘スーツを纏ったのだ。
 両腕を威嚇するように掲げ、咆哮するブルー。
 その雄叫びに、数十人の戦闘員が一斉に吹き飛び、地に伏せる。
 だが怪人は、ベアハウリングの威力をものともしない。
「ふん、天才・アリスの闇科学はそんなもんダスト」
 ブルーに飛びかかり、密着してきた。
 自らの腹にあるゴミ箱から電気コードを取り出し、ブルーの首を絞めてくる。
「ぐわぁぁ!」
 凄まじい電撃がブルーの全身を貫いた。
「このスーツを廃品回収すれば、帝王様に高く買ってもらえるダスト」
 笑う怪人。
 その時、闇の炎を纏った蹴りが、怪人を襲った。
「黒炎の鳥! ダークカサウェア(ヒクイドリ)!」 
 立て続けに怪人の肉体を穿つは、暗桃色の大鎌! 
「闇の翼! ダークバット!」
 しなる暗黄色の鞭!
「死毒の蛇! ダークスネーク!」
 舞う、暗緑の鋼紐!
「冥府の人喰い花! ダークネペンテス(ウツボカズラ)」
 集いし五人の戦士! ダーク戦隊 アウトロージャー!
 だが、怪人は倒れない。
「なかなかやるダスト……だが、この身は帝国に不死の命を戴いているダスト」
「不死身だと!?」
 たじろぐレッド。
 だが、アリスは首を横に振った。
「奴に命などない……体を動かしているのは、偽りの生命、偽りの魂、それを撃ち抜くのだ、アウトロージャー」
 怪人の胸にはすでに、アウトロージャー五人の攻撃によって、五つの輪が花びら状に刻まれていた。
 アウトロージャーたちが両掌で、獣の口の形を作り出す。
「D-イレイザー!」
 獣の口から放たれた五色の光弾が、五つの輪の中心を貫いた。
「やっと、自分を偽らずに済む……ありがとう」
 体が木端微塵に砕ける寸前に怪人、否、秋山が残した言葉がそれだった。

「大学で親しく声をかけられた時は、一瞬だが――嬉しくなんか思わなかったぞ」
 怪人の残骸を見つめ、呟く咲魔。
 詐欺師の仕事は、嘘をつく事、だ。
「何か?」
「いや、さ、基地に戻って次に備えよう」
 だが、秘密基地はすでに帝国にその所在を把握されつつある。
 顔合わせも早々、アウトロージャーたちは帝国に乗り込み、それを滅ぼす事を迫られるのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・仁良井 叶伊(ja0618)
 そして時は動き出す・咲魔 聡一(jb9491)
重体: −
面白かった!:2人

撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
八部衆・マッドドクター・
藤沢薊(ja8947)

中等部1年6組 男 ダアト
夢幻のリングをその指に・
橘 優希(jb0497)

卒業 男 ルインズブレイド
年中無休で休んでる・
アリス・レイバルド(jb1509)

大学部6年195組 女 ナイトウォーカー
烈火の拳を振るう・
川内 日菜子(jb7813)

大学部2年2組 女 阿修羅
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB