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久遠ヶ原フードパークで開幕した食欲刺激合戦。
「よっしゃあー、恋音、今回も気合入れて頑張っちゃいましょうね!!」
「……はい、袋井先輩、頑張りましょうぉ……」
エントランスホールで気合爆発させているのは、袋井 雅人(
jb1469)。
恋人の月乃宮 恋音(
jb1221)と一緒、しかも美味いものをガッツリ食べられる依頼という事でテンションがあがっているらしい。
「ごにゃ〜ぽ☆」
蒼汁娘・鳴神 裁(
ja0578)、こちらは平常運航。
一日目のリーダーはセレス・ダリエ(
ja0189)。
彼女が皆を案内したのは、一階のレストラン街。
「セっちゃんは、自分では料理作らないのかな?」
裁が、勝手に綽名を付けて尋ねる。
「……同居人と交代で普段は料理はしていますが、今日はタダ飯という、太っ腹な依頼なので……決して量を作るのが面倒臭い訳ではないです。 決して量を作るのが面倒臭い訳ではないです……」
大事な事は二回言うスタンスのセレス。
彼女が入ったのは、全ての料理が辛い事が売りのスパイシーレストラン。
「……無難に食欲を刺激させる、辛いものから行きましょうか……」
店に入ったとたん、
「いらっし……」
店員の顔がこわばる。
実はセレス、最近、このパークで行われた依頼で超ガッツリ系女子である事を知られている。
それが仲間を率いてきたのだから、店員としては過重労働が心配なところである。
その店員に、オーダーするセレス。
「先ずはサラダ。 それからスープ、メインは豆腐ハンバーグ定食」
「辛さはいかがしましょうか?」
この店は辛味度の調整が出来る。
辛いのが苦手な人には、普通の料理として出してもくれるのだ。
「このミネストローネ、お腹に優しいお味なのですぅ〜♪」
新婚妻の神ヶ島 鈴歌(
jb9935)もご満悦。
「ふむ、この豆腐ハンバーグは、満腹になりつつも低カロリーで出来ているな、ダイエットを意識している人でも安心できる品だ」
チビッ娘が難しい事を言っているように見えるが、築田多紀(
jb9792)は幼く見えてもそれなりにオトナ。 料理の知識はかなりのもの。
「ごちそうさまでした〜」
食べ終わり、席を立とうという一同。
だがセレスは、片づけに来た店員に追加オーダー。
「……ドリンク&デザート食べ放題を七人前……」
皆、まだまだ食べられそうだ。
食事の適度な辛味で、食欲が増しているのだ。
大規模作戦帰りの只野黒子(
ja0049)は好物のアイスを、何度も店員に注文している。
「寒い中の激戦だったんです。こういうご褒美はあってもいい」
「今は私が激戦ですよ、ご褒美なしの」
ぼやく店員に昼休憩を返上させ、一日目は終了した。
【本日の最大平均満腹度 101%】
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翌胃休日。
「皆さん、胃を休めるだけじゃなくカロリー消費のためにガンガン体を動かしましょう!!」
翌日のリーダー袋井は、皆を誘いパーク屋上で戦闘訓練をしている。
しかも、本人はおかゆも食べずに水だけで過ごすという。
カロリーを徹底的に燃やそうという徹底ぷりである。
「そんな事して、大丈夫ですか?」
「体に悪いぞ、蒼汁飲め!」
黒子と、裁が、食事をするように勧める。
だが、袋井は、あくまで絶食を貫く方針。
「アッハハ、大丈夫ですよ、私はいざんとなれば何日も食事をしていなくても、水だけで戦闘任務こなしますので」
果たして、この方針が明日の飽食日にどう影響するのか?
翌日、袋井は皆を中華料理店に連れてきた。
大テーブルを七人で占拠し、注文するは満漢全席。
実は袋井、最終日を希望していたのだが、他にも最終日希望者がおり、レディファーストという事で自ら順番を譲ったのである。
「……先輩、男らしいですぅ……」
恋人の恋音は、素直に袋井を褒めるが
「男らしいとは一体?」
多紀は、怪訝な顔で国語辞典を開いている。
袋井が、チャイナドレスの女装姿だからである。
中華といえばチャイナドレス、ただそれだけの理由らしい。
「気合を入れて、いただきます!!」
テーブルに並べられる豪華絢爛・満漢全席。
「この北京ダック美味しいですぅ〜」
「ハフハフ、小龍包は舌を火傷する感覚までが御馳走だね」
皆、夢中で食べている。
特に袋井。
昨日、絶食しただけあって、物凄い勢いである。
「この海鮮炒飯、ご飯がふっくらさらさらでいくらでも食べられちゃいそうですよ!」
ところが、ある時、その箸がピタリと止まってしまった。
「……どうかしましたかぁ?……」
小食の恋音でさえ、まだまだ食べられる段階である。
「な、なんか急に満腹感が……」
脂汗を垂らしている袋井。
「だから言わんこっちゃない、胃休日にも食べろっていったろ」
「運動をするのはいいんですが、食べないと胃が縮まってそう食べられないそうなのです。
ある程度食べておいた方がいいんですよ」
裁と黒子に怒られる袋井。
「うぅ、据え膳喰わぬは男の恥、なんとか根性で……」
「……先輩……無理しちゃだめですぅ……」
大食の前に、絶食は禁物なのである。
【本日の最大平均満腹度 96%】
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翌、胃休日の合宿部屋。
袋井を始め、胃が疲れ始めている皆のために裁が薬膳粥を作ってくれた。
「胃を空っぽにするのはいいんだが、消化時間を計算して開始時間にちょうど空になるように調節した方がこの大会の趣旨に沿うんじゃねぇかな?」
「ありがとうございます、助かりました」
「いいってことよ、袋井は最終日譲ってくれたしな、何より鳴神美食格闘を継承するフードファイターとして黙っていられなかったぜ」
そんな裁は薬膳粥を作る傍ら、自分の担当である最終日に向け料理の仕込みを続けていた。
飽食日。
今日の担当は鈴歌。
「最初に、レモネードを皆さんに飲んでもらうですぅ〜♪」
合宿所を起つ前に、鈴歌はレモネードを皆に提供した。
「そういえば、鈴歌さん、いつも飲んでますね」
「大好物なのですぅ〜、爽やかなレモネードの甘酸っぱさでさらに食欲を増やすのですぅ〜♪」
鈴歌が皆を連れて行ったのは、和食料理店。
テーブルに肉じゃがや、鱈鍋など、家庭的な料理が運ばれてくる。
満漢全席の豪華さに比べると素朴だが、並んだ料理を見るだけで安心する光景である。
「自然の恵みと作ってくれた人に感謝して〜♪ いただきますぅ〜♪」
食べ始めると、やはり箸が進む。
料理にはどれも柑橘類の酸味や香辛料の香などが効いており、食欲を増進させる。
焼き鮭、唐揚げ、ブリ大根。
ありふれてはいるが、定番になるだけあってやはりご飯に合うのだ。
特に、鱈鍋を皆で突くのは楽しい。
鱈の塩気と、ポン酢の酸味が相俟って、ご飯を掻きこむ箸をが止まらなくなる。
春雨や白子なんかも良いおかずだ。
お腹が膨れて皆の顔がほっこりしてきたところで、鈴歌が水筒に詰めてきたものを皆に配った。
「ふふふ〜皆さんお疲れ様でしたぁ〜♪ レモネードをご用意しましたのでどうぞぉ〜♪」
「あ、これ、食前に飲んだものよりも、酸味が強いですね」
「胃腸の回復や口直しをしてもらうですぅ〜」
「もう限界かなと思っていたんですが、もう少し食べたくなってきましたよ」
「まだ大丈夫ですぅ〜?」
シメに、暖かい蕎麦を食べる七人。
お米に飽きかけていた舌に滑らかな喉越しは新鮮で、また箸が進む。
「ご馳走様ですぅ〜♪、ありがとうございました〜♪」
【本日の最大平均満腹度 109%】
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翌胃休日の合宿部屋。
『やあ皆、ブートキャンプに入隊おめでとう、元気溌剌な体を作るために頑張っていこうぜ!』
明日担当をする黒子の提案で皆、TVモニターの前で軍隊式のトレーニングをしていた。
「これ、楽しいぜ!」
「……で、でも段々きつくなってきましたぁ……」
動くたびに、恋音の胸が、ふるふる揺れる。
胸から肉が付く体質。 栄養過多なこの依頼のせいでおそらくは、プロフにあるB151センチ以上になっていると思われる。
「……さっきから、誰かいない気が?」
セレスが気付いた通り、いつの間にか部屋から言い出しっぺの黒子がいなくなっていた。
実は黒子、飽きて隣りの部屋で釣り番組を見ていたのだ。
「ふむ、この時期はやはりワカサギ釣りですかね」
最近、釣りに凝り始めたらしい。
翌日。
「沢山食べるには、食欲が無くならない程度に薄味で、噛むことで満腹中枢を刺激しない物が良いとされているのですよ」
そんな見解の元、黒子が皆を連れてきた店は……。
「ツルツルシコシコのうどんの喉越しそのものが官能的ですね、香川の人が主食にするのもわかりますよ」
讃岐うどん店である。
「……ぶっかけ、かけ、冷やし、温玉……豊富な種類に、天ぷら、油揚げ、半熟卵などの多様なトッピング、これでは食べれば食べるほど食欲が湧いてしまいます」
「うむ、麺のエッジが立っている、これだけで“旨い”とわかるぞ」
好き好きに語り合いながら食事をする参加者たち。
食欲は談笑によっても増進するという黒子のアドバイスが的を射ていたのかもしれない。
そんな折、またセレスが気付く。
「……さっきから、誰かいない気が?」
黒子は、アドバイスを投げるだけ投げつつ、自らは好物のカレーやアイスクリームを一人で食べ歩きに行っていた。
「このスープカレーは魚介の味がスパイスに深く染み込んでいますね。 店員さん、今度はタイカレーを大盛りで!」
今日は、どこまでもマイペースな黒子だった。
【本日の最大平均満腹度 107%】
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「僕が担当の今日は、チョコをメインに食べてもらう」
飽食日の朝、多紀はそう宣言した。
「チョコですか? 僕も確かに好きではありますが」
「主食ってイメージじゃないぜ」
皆の少し不思議そうな表情に対し、したり顔でうなずく多紀。
「チョコも充分にメインを張れるのだ、それをお見せしよう」
「板チョコって厚さによって風味が変わるんだな、食い比べてみるとわかる」
「シェルチョコも中身が、ジャムかクリームかと毎回わくわくします〜ぅ♪」
皆が用意されたチョコを食べて待っていると、多紀が奥の台所から鍋を持ってきた。
そこに板チョコを入れ、溶かし込む。
「チョコ鍋ですか!?」
「チョコレートフォンデュだ、フルーツやマシュマロを熱したチョコに浸して食べるものだ」
「体にいいんですか、これ?」
「チョコは昔は薬として使われていたり、唐辛子を入れて飲まれていたが、唐辛子の代わりに砂糖を入れるようになってから躍進する。 ココアパウダーとココアバタのー分離、固形チョコ発明、ミルクチョコ発明、なめらかな口当たりにする発明は四大技術革命と呼ばれている」
「多紀さん、チョコ愛が凄いです〜♪」
「うむ、チョコレー党員だからな、鈴歌さんはレモネー党に入党すると良い」
見た目甘ったるそうだったが、食べ始めるとバリエーション豊富で以外に食が進む。
「これは楽しくて食が進むぜ」
「チョコとオレンジの相性は、抜群にいいですね」
「……苺やバナナも捨てがたい」
「僕の心を掴んで離さないのがマシュマロだ。 冷えたチョコにくるまれた柔らかいのもいいし、まだ熱いまま食べるのも一興」
「……美味しいですがカロリーが高そうですぅ……」
恋音は、また胸に養分がいくのが不安らしい。
「その場合は、どっぷり付けずにちょっとだけ付ければ良し――というか本大会は元を辿ればお相撲さんを太らせるためのもの、高カロリー上等なのでは?」
「即効性のエネルギー食だから、勝負師にはピッタリだな」
ただ、普通の食事のような限界を超えたドカ喰いは難しい。
チョコは血糖値を一気に上昇させ、満腹中枢を刺激してしまうためである。
【本日の最大平均満腹度 100%】
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恋音の担当日。
「……私の用意したのは麺ですぅ……」
麺は噛まずに飲めるため、満腹中枢への刺激を避ける事が出来る。
これは黒子の担当日に実証済である。
「……私はダイエットを意識して蒟蒻麺と豆腐麺を使用したつけ麺を用意しましたぁ……むろん、ガッツリ食べたい方、太りたい方のためにうどん、冷麦、パスタ、中華麺等も用意してありますぅ……」
「さすがは恋音、多様な人に合せた工夫をしていますねえ」
「つけだれは、基本はローカロリーの魚介醤油味、雪塩、岩塩、奄美塩をブレンドした塩だれ、それに担々麺風の三種類ですぅ。 さらにヴィシソワーズ、完熟トマトとオレガノのトマトソース、カレーソース、豚骨、豆乳味噌、鴨南蛮風、ざらめ醤油味醂の甘口麺、粗目煎餅風なんかを追加で用意いたしますぅ」
「麺の種類と合せると組み合わせは、ほぼ無限ですね」
「……これだけ種類があれば、どなたでも何かしら好みが合うものが見つかるかとぉ……」
「これは、フードファイターの血が騒ぐな。 セっちゃん、勝負だぜ!」
「……承諾しました、全組み合わせ制覇します」
思い思いのコラボを作って食べ始める参加者たち。
恋音の意図通り、飽きが来ず、また組み合わせによる好奇心をそそられ、食が進むようだ。
だが、恋音自身はといえば、なぜか豆腐麺ばかり食べている。
「それしか食べられないんですか?」
黒子が尋ねる。
「……好みですのでぇ……本来、大豆は胸を発育させてしまうので、あまり好ましくはないのですがぁ……」
女性陣は、一斉に豆腐麺を食べ始めた。
【本日の最大平均満腹度 103 %】
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最終日は裁だが、実はバーンと名を出せる料理は用意していない。
一見ただの手料理。
だが、それを体が求めるよう緻密に計算した料理だ。
合宿部屋では、厳選したグルメ番組を編集した物を毎日流して食欲を刺激していた。
食べてきた料理から足りない栄養を求め、”体が欲するもの“を計算して手料理を作った。
さらにそこには漢方を仕込んで体の欲求を満たせるようにしたのだ。
つまり、裁自身も含めた七人、提供する料理は異なる。
「さあ、諸々計算されたボクのごにゃ〜ぽ☆な手料理を召し上がれ♪」
【本日の最大平均満腹度 105%】
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「みんなー、依頼お疲れ様なんだなー 優勝した鈴歌ちゃんはおめでとうなんだな」
最終日終了後、合宿部屋を片付けているとクレヨー先生が来た。
「ありがとうございますぅ〜♪」
「大会のVTRは毎日、味釜部屋に送っていたんだな。 力士たちが、今までと比べものにならないくらい食べるようになったらしいんだな」
「おお、効果覿面だぜ! やっぱり美味しそうに食べているのを見れば、自分も食べたくなるもんだからな」
裁はそこまで考え、食べ方も工夫していたらしい。
「何より、可愛い女の子が沢山食べているのを見れば、男としては負けたくなくなるんだな」
「アハハッ、ですよねー、だから私も女装して食べていたんですよー」
「……先輩、嘘はよくないですぅ……」
ダイエットと美容が尊ばれる昨今。
だが、ガッツリ食べればパワーがつく、強敵をも破る力が出る!
撃退士も力士も、それは同じだ。
何より“美味しい物を沢山食べる”のは人生においてシンプルかつ、最高の幸せではないだろうか?