●
「文字の他に壁画が、天井に書いてありますね」
袋井 雅人(
jb1469)は、箱の中にいる皆にそう説明した。
「七つの檻に、それぞれ獅子、狐、蛇、狼、豚、蠍、熊が入ってます。 罪を告白するとそれに対応した獣が罪を吸収して大きくなり、やがては檻を破って、外へ解き放たれるだろう……そんな文字も書いてあります」
「……私たちが懺悔していかないと、箱から出られないという事でしょうかぁ……」
袋井の恋人、月乃宮 恋音(
jb1221)が、おっとりと分析した。
「ちょ! 何この状態!?……ん。や、ダメ、……動か、ないでっ!」
Fカップの美少女、蓮城 真緋呂(
jb6120)が、目を覚まし、切なげに身もだえした。
「その声は!……と言う事は、私の顔に当たっているこの柔らかな感触は、真緋呂さんのおっぱいですかね?」
嬉しそうな袋井。
「残念、それはおじさんのおケツだ」
袋井の顔面に押し付けられているのは、美少女どころか四十路おやじ、土古井 正一(
jc0586)のお尻。
「ちょ! 間違ってもオナラなんかしないでくださいね!」
「おじさん健康診断の結果が悪いから、それは約束出来ないなあ」
途方もない不安が袋井を襲う。
七人の撃退士たちは、少しでは早く懺悔を終え、箱から出ねばならなくなった。
●
侍娘、礼野 智美(
ja3600)が語り始める。
「俺の罪は、依頼に行って何もしなかった事です」
「あら、真面目な礼野さんにしては、珍しいわね」
真緋呂が言うと、智美はしゅんと目を伏せた。
「直前に別の依頼を終えたばかりで、疲れて気力がわかず、少し体を休める心算が、そのまま眠ってしまって……」
「現場に行けずに、置いてけぼりという事?」
「いえ、どうにか滑り込みで間に合ったんですが、ヒヒイロカネすら持って行かず、実質、皆の奮戦する様を見ていただけでした……」
「要は、“水泳の授業に水着を忘れててきしまった子状態”かしら?」
「……撃退士としては凄く恥ずべき事です」
「その症状、いわゆる“ハクシ病”ね」
「ハッハハ、あの病は大半、背中の疲れから来るらしいです、背中は大切にしましょう!」
この懺悔により、怠惰を司る獣である熊が、壁画の中で一回り大きくなった。
●
「えーとえーとえーと……何か悪い事したかなぁ」
むむむと、唸る真緋呂。
「あれ? おじさん、お腹がゴロゴロ言い始めたよ」
「待って! 思い出すから待ってて!」
土古井に堤防決壊を示唆され、必死になる真緋呂。
狭い箱の中でガス漏れが事故起きたら、もう終わりである。
「そうだ! お腹! 私は“暴食”の罪でいくわ!」
「何か月か前までね、私の家の近くにレストランがあったの」
“一時間食べ放題! 男性1500久遠 女性980久遠”
そう看板に書かれたレストランを真緋呂が見つけたのは、数か月前の事だった
「食べ放題でしょ? 美味しいでしょ? だから遠慮なく食べてたの」
それから毎日通い始めるのが、来店するごとに、店員の表情が変わってゆく。
笑顔が消え、ひきつり、ついには――
空っぽになったバイキングコーナーを見て、キレる真緋呂。
「え? どうしてもう無いの? どうして? おかわりは??」
真緋呂に詰め寄られ、泣き始める店員。
「怒ってたわけじゃないよ、多分、きっと、メイビー……すいませんキレかけてました」
しょぼんとする真緋呂、反省はしているようだ。
「……おぉ……けど、少し食の強い女の子が通うくらいでは、店は潰れないのではぁ?……」
「少しじゃないの! 潰れちゃったのよ、だから本当の原因はわからないのだけれど、沢山食べ過ぎちゃってごめんなさい! お料理無くなったってキレちゃってごめんなさいって言いたいの」
「真緋呂お姉ちゃん食べ過ぎです! お腹ぽよぽよです!」
今まで気絶していたロシールロンドニス(
jb3172)は、暗闇の中で真緋呂のFカップの胸を揉んだ。
真緋呂が話している間に、目を覚ましたらしい。
「あン……違う、そこはおっぱいなのロシールさん」
「だいじょーぶです、僕、子供ですから」
真緋呂の胸の間で、もぞもぞ顔を動かしている。
「そ、そうね、子供だものね――それより早く脱出しないと!」
自分の胸の間でロシールが邪悪な笑みを浮かべている事を、真緋呂はまだ知らない。
●
「……おぉ……栄養が全て胸に行ってしまうのは、私と一緒ですぅ……」
シンパシーを感じたらしい恋音。
「……私、異常発育しているコンプレックスがあるんですぅ……なのでぇ……逆ダイエットに挑戦しましたぁ……」
「なにそれ」
「一度体重を増やしてからバランスよく落とせばと考えてぇ、普段より多めの食事を摂るようにしたんですぅ……でも真緋呂さんと同じで栄養が全て胸に回る上に、胸以外が痩せる体質なので、余計に酷くぅ……」
ちなみに去年B130センチ代だった恋音、現在はB151センチある。
「それで、あるアウル研究所に、胸の成長を抑制する薬を作っていただいたのですぅ、最初は効果があったのですが、成長速度に追い付かず、次から次へと必要になってしまっているのですぅ……」
「なまじ効果があるから、どんどん強力なものが欲しくなるわけね」
コクリと頷く恋音。
「……薬を作っていただく対価として新アウル薬の治験体もやっているのですが、獣娘化薬やら、超巨乳化薬やら、試すうちに体型を変化させることにハマり、そのぉ……段々と、そういう興奮を覚え始めているのですぅ……」
恥ずかしそうに言う恋音。
「ハッハッハ、恋音はHですねー」
「袋井さんには、言われたくないと思うわ」
この告白により、“暴食”の熊が檻を突き破り、さらに“物欲“の狐、”色欲“の蠍が一回り大きくなった。
●
「では、僕は“色欲”の獣を一気に大きくしようかな」
色欲という土古井の言葉にアリス セカンドカラー(
jc0210)が顔をしかめた。
「四十路過ぎの、オヤジの色欲話とかあんまり聞きたくないわね」
ちなみにアリスは、今まで、ショタっ子ロシールの股間をクンカクンカするのに夢中で話に加わらなかったのだ。
お前が言うな状態である。
袋井も、土古井の尻に顔を埋めたまま呻く、
「この状態で、それはきついです」
「いや〜オジサンずっとこの状態でも……いいんだよ?」
ちなみに現在、土古井の顔はアリスの太腿の間にある。
「そんなのごめんよ! 早く語りなさい!」
「私が間違っておりました! お聞かせ下さい、人生の先輩!」
慌てるアリスと袋井。
ラキスケ大好きな二人だが、必ずしも望む形態になるとは限らない。
「ふむ、僕には家族がいるんだよ。 学園に来てなるべく家族の待つ家に帰る様にしてるけどね、ほら、やっぱ付き合いってのもあるからね〜、どうしてもお酒の席があってね〜、そこで飲んじゃうとね〜、やっぱね〜」
「あんた、わざと長く喋ってない!?」
「いや〜、ゴ メ ン ナ サ イ……行きました、おねぇちゃん達がいるお店……いやいやでもホント自分から行ったんじゃなくて、あくまでお付き合いだし、お金は領収書で会社持ち出し、我が家には全く被害はありません」
土古井の懺悔に箱の中が妙な空気になる。
「いかにも過ぎる、オヤジエロ告白だな」
「お酒の匂いがプンプンするわ」
「あんた、お水通いした事よりも、この空気を詫びるべきね」
智美、真緋呂、アリス、娘のような年齢の三人に責められる四十路おやじ。
「……ホント、ゴメンサナイ……」
この告白により“色欲”の蠍は……微妙にしか大きくならななかった。
●
「はぐれたばかり悪魔の女の子を教育したのよ、メルちゃんっていうんだけど、これがまた金髪美少女の上に穢れを知らない純真な女の子なわけ、その子を自分好みに育てていいって依頼だったわ」
懐かしげな顔で語り出すアリス。
「ええ、なんですかその仕事、アリスさんずるい!」
抗議する袋井。
「ぐふふ、自身の趣味と欲望も満たせるいい依頼だったわー♪ それでねー、アロママッサージでセクハラしつつ、腐道へと洗脳したわ☆」
「腐道って何かな?」
土古井のおっさんが尋ねてくる。
「腐女子の道の事よ、一番代表的なのが、男を愛する男の話ね、そういう話を嗜むようになるのが腐道」
「なるほど、おじさんには未知の世界の話だね」
土古井の反応に、アリスの声が鋭くなった。
「すべてを理解しろとは言わないけれど、理解できないものをただ否定するだけというのはしてはいけないことよ」
「否定はしていないよ、未知なだけさ、袋井くんは私のお尻を気に入ってくれているみたいだしね」
袋井は、さっきから土古井の尻に顔を埋めっぱなしだ。
「気に入ってません! 動けないんです!」
「それで、そのメルさんはどうなったんですか?」
真緋呂が尋ねられ答えるアリス。
「まだペットにできてないけど、純粋な子は貴重だからゆっくりと時間をかけて調教していく予定よ☆」
「それは懺悔なのでしょうか? 反省していないように聞こえますが」
「わたしが訓練された変態なのは動かしようのない事実だもの、罪は告白するけど、省みたりはしないわ☆」
この告白により、“傲慢”の獅子 “色欲”の蠍が大きくなり、檻を食い破った。
●
「“色欲“満たされてしまいましたね……」
袋井は残念そうに言った。
「恋人である恋音の目の前で他の女の子の胸を揉んだりするだけでなく、可愛いと男の娘もひからびてミイラになるまでHなことをしてしまった事を懺悔しようと思ってたんですが、今回はパスしましょう」
「待て、今、聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ」
「男の娘と!? あんたこそ羨ましい事しているじゃない!」
智美とアリスが次々にツッコンんだ。
「月乃宮さん、少しは怒ってもいいんだよ!?」
真緋呂が言ったが、恋音は聖母の微笑みを浮かべている。
「……袋井先輩はぁ……こういう人だから、仕方がないですぅ……」
「心広すぎ、さすがは乳神様だわ」
「……ち、乳神様……(ふるふる)……」
アリスに言われ、目に涙を浮かべる恋音。
袋井の乱行より、こちらの方が哀しいらしい。
空気に構わず、あっけらかんと話を続ける袋井。
「私は購買では強力なアイテムを扱ったクジに目を奪われて引きまくるも、お目当てのモノが出なくては大激怒、科学室ではアイテム性能の強化に目がくらみアイテムがくず鉄になっては大激怒する日々を過ごしています。 来年こそはこのどうしようもない“強力なアイテム欲しさに浪費しては失敗して大激怒”のサイクルを直したいのですよ!」
「反省すべきは、そっちの罪じゃないと思うんだけど」
わなわなと震え出す袋井。
「思い出したら、腸が煮えくり返ってきました! くず鉄になった“アバドンの弓”と“戦神の黒衣”、カーーム、バァーーーーック!!」
「そっちもあんまり反省していないみたいね」
この告白により“憤怒”の狼“物欲”の狐が大きくなり、檻を打ち破った。
●
残るは“怠惰”の熊”と嫉妬”の蛇。
最後の一人に期待がかかるところだったが……。
「……ロシールさんは、小さいですからぁ、難しいかもしれません……」
「そうよね、天使のような顔をしているもの」
不安と絶望の雰囲気が漂ったが、ロシールは自信満々に言い放った。
「僕は七匹全部を育てるです」
「全部!?」
「僕、こういう外見なので女性に好かれるんです」
「なんかいきなり、傲慢が来たわよ」
「恋人がいたら魅力的な僕の為にどれだけ尽してくれるかな?って思いまして、大人しいシィルを選び、今年の夏休みに他の同居人が揃って家を空ける事になった時に告白しました。 勿論上手くいきました」
シィルというのは、シィルディア・ギーベリ(
jb3168)。 はぐれ悪魔の銀髪幼女メイドの事だ。
「暫く二人きり……僕はシィルと存分に愛し合いました、ベッド、キッチン、トイレ、地下のお仕置き部屋、玄関、庭……あらゆるところであらゆるやり方で、シィルは初めは躊躇ってましたが、回数を重ねると自分からねだる様になって♪ もう僕の言いなりでしたよ」
「待て、待て! 蠍が育ち過ぎている! “色欲”はもういい!」
顔を赤くして、智美が慌てる。
蠍が大きくなりすぎ、他の獣の檻を踏みつぶしそうな勢いなのだ。
「じゃあ、話を変えるです。 身の回りの事は全てシィルにやらせ、僕はごろごろ、取り寄せた高級食材で料理をたくさん作らせ、食事は全て口移しで満腹に、トイレも面倒なのでおむつで済ませ、シィルにおむつ替えを命じました」
「退廃的過ぎる……」
「ゲーム等を思うままに通販で買い支払いは全てシィルに、お金が無いというので怪しいバイトさせました。 バイト先に様子を見に行くと笑顔でおじさん達の接客していて……“その笑顔は恋人の僕だけのものの筈だ!“と怒りが湧きあがり、帰宅したシィルを浮気者と叱りお尻を叩いて罰しました、シィルは僕のものなんですから当然です」
純心な幼子に見えたロシールの、クズ丸出し告白に唖然として言葉がない一同。
その時、智美が叫んだ。
「見ろ、全ての獣が檻を突き破ったぞ!」
●
懺悔箱の蓋が空き、無事地上に帰還出来た七人。
「アッハハ! 出られましたー」
「いやー、危なかった! おじさんお腹の堤防が決壊寸前だったよ」
青空の下で大きく伸びをする。
「もう腹ペコペコよ! みんな、今から食べ放題行かない? さっき話した店が、最近再開したらしいのよ」
提案する真緋呂。
「あんたも懲りないわねー、アリスもだけど」
「僕もいくです、お腹ペコちゃんです」
そこに、シィルが手を振りながら近づいてきた。
「ロシール君ー!」
姿を消したロシールたちを、警部と共に捜しにきたらしい。
「シィル! シィルもみんなと一緒にごはんいくですー」
「警部さんも、ご一緒しませんか?」
教会跡を、立ち去ってゆく撃退士たち。
その背中を、恋音が物憂げに見つめていた
「どうした?」
それに智美が声をかけた。
「……ふと思ったのです……神様が全てを創ったのなら、なぜ“七つの大罪”のようなものまで創ったのでしょう……袋井先輩も、ロシール君も優しい人なのに、罪に塗れていますぅ……」
智美は、少し考えて答えた。
「考えるにだな、罪は必要だからだ」
「……罪が必要ですか?……」
「物欲があるから仕事して対価を得て物を買おうと思う。 嫉妬を隠して自分を高めようとする。 ご飯を美味しく食べる為調理技術を磨く。 憤怒があるから侵略する天魔に対して抵抗する。 子孫繁栄の為には色欲は外せないし。 軽度の傲慢は自信という名で表せる。 怠惰がないと酷使して体を壊す――人が生きるには必要なんだ、それが過ぎた時のために懺悔があるんじゃないかな? 俺は神様じゃないからわからんが」
「……おぉ……そうかもしれません……」
実に綺麗に締めてくれた智美。
だが、途中が酷すぎる。
袋井とロシールはもう、“もぐ”しかない。
そういう認識が、久遠ヶ原の一部に広まるきっかけとなった事件だった。