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ゲームを起ち上げたとたん、甲高い合成音が響いた。
『天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! 遊びをクリエイトしろとボクを呼ぶ! そう、ボク参上!』
16ビット時代懐かしのサンプリングボイスとともに、金髪ツインテの美幼女が三頭身ドット絵でタイトル画面に登場する。
「ボクのゲームは飛行系アクションだよー」
斡旋所の一室に集まり、オレゲームのテストプレイ会を始めた撃退士たち。
イリス・レイバルド(
jb0442)が作ったゲームが、これである。
「なんかわかんないけど、凄そうね! あたいがやるわ!」
元気にゲームパッドを握ったのは、雪室 チルル(
ja0220)。
イリスと並ぶ、久遠ヶ原の元気っ娘である。
ゲームが始まると、金髪ツインテを風に靡かせ、空を舞う三頭身のイリスが自機として現れた。
「道中ステージと最後に待ち受けるボス部屋をクリアしてー、それを繰り返していく流れでっす! より美しく難しいコンボを決めるほど高スコアだよー」
「あたい天才だから、美しく決めるわよー」
やる気満々でスタートしたチルルだったが、コンボはおろか、まともに動かせていない。
最初の敵が出てくる前に、自機のイリスちゃんが壁の棘にぶつかって何人も死亡している惨状だった。
「あんた、すぐ死ぬんだけど?」
現実のイリスに向かって、眉を潜めるチルル。
「敵とか障害物はハンマーで壊せるんだよ、まずはAボタンだよ!」
「Aボタンね……Aボタンどこ?」
チルルはパッドをジッと眺め、Aボタンを探し始めた。
その隙に壁にぶつかって、また死ぬ。
「……もしかしてチルルちゃん、ゲーム下手?」
「ゲームやったことないだけよ! 天才だからすぐ出来るようになるんだから!」
「やったことがない?」
絶句する他参加者一同。
「あの、これゲームを作る依頼ですよね?」
エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)は、何度も依頼に同行していてチルルの破天荒ぶりは知っているつもりだが、それでも顔が引きつる。
「やったことないのに、作れるものなの?」
依頼初参加のアルマ・ドヴェルグ(
jc0063)には、全く理解出来ない。
「あたい、天才だもん! さいきょーのゲームを作ったわよ!」
ドヤ顔で胸を張るチルル。
その間にも、画面の中のイリスがどんどん死んでいく。
「ああ……ボク惨状だよ……」
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これ以上、美幼女の散る姿を見るのは忍びないと雁久良 霧依(
jb0827)が嘆くもので、次のゲームに移った。
誰もが気になっているチルルのそれである。
「どんなゲームか不安だけど……ボクのテクを魅せてやんよっ!」
イリスが、ゲームを起ち上げる。
“あたいが無双!”
画面にタイトル画面が表示された。
さらにスタートボタンを押すと、洞窟を思わせるステージの中に、ドット絵チルルが現れた!
「ええ! グラフィックやべぇ! すげぇ!」
「疑似3Dね、16ビットレベルで凝った事するわ」
感心するアルマ。
イリスがパッドを操作すると、画面内のチルルがハンマーを振い、ワラワラと湧き出す雑魚をバッタバッタと殴り倒し始めた!
それによりゲージが溜まり、ボスにも大ダメージを与えられる“氷砲”を放つ事が出来るようになる。
「どう? 気分そーかいでしょ!?」
自慢げな顔のチルル。
「そーかいだよ! そして不可解だよ! 何でゲームした事ないのにこんなの作れるの? チルルちゃんは化け物か!?」
ほぼパニック状態のまま、“あたいが無双!”に挑戦し続けるイリス。
「……これは凄いですぅ……」
月乃宮 恋音(
jb1221)が、驚愕に巨乳をふるふる震わせている。
「Oh、ジーザス……チルルちゃん、あんたマジジーニアスだぜ……」
茫然とするイリス。
「しかし、知識0からこんな凄いゲームを思いつくものなんでしょうか?」
恋音の恋人、袋井 雅人(
jb1469)も眼鏡を何度も拭いて、画面を見直している。
するとチルルが、腕を組んでドヤ顔で言った。
「ふふふっ、これはあんたたちを、“さいきょーなあたい気分”にしてあげるために作ったゲームなのよ!」
「さいきょーなあたい気分?」
「そういう事ですか」
エイルズが頷いた。
「つまり、 このゲームはチルルさんの現実を(やや願望を足して)そのまんま取り込んだものなんですね。 だから、あまりゲームを知らなくても、ここまで作りこめたわけです」
「あー、さっきからいくらミスしても死なないと思ったら、そういう事かー」
「当たり前でしょ! さいきょーなあたいが負けるわけないもの!」
そーかいではあるが、チルルらしいアクションゲームだった。
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「私は、スーパー霧依大戦っていう、マップクリア型のSRPGを作ったわ♪」
「スーパー霧依大戦? まさか霧依さんが沢山出てくるんですか?」
「そうよ、SF漫画“キャッチザスカイ“とファンタジー漫画“舵天照“の両方に私と同姓同名で瓜二つなキャラが出てるのよ♪」
コミックの単行本を取り出す霧依。
確かに、黒髪ロングで白衣にマイクロビキニの霧依激似キャラが二つの漫画に登場している。
「この二つの漫画世界と現実世界の三世界をリンクさせ、三人の私を主人公としたSRPGよ♪」
「霧依さんが三人……ゴクリ……」
何かを期待して、袋井がプレイヤーとなった。
ゲームは、現実世界に他の異世界の霧依たちが飛ばされてくる所から始まる。
三人の霧依は、最初ひたすら幼女ペロペロしている。
性格は、異世界霧依も同じらしい。
すると、異世界から三界を滅亡させんとする敵がやってきた。
三人の霧依のバトルが始まる。
SF界から来た霧依はサイエンティスト。
KVクラーケンというロボに乗って戦う。
「イカちゃん、荷電粒子砲アンゴラオフィング発射よ♪」
カットインで、霧依の乳が揺れる。
ファンタジー界かやらってきた霧依は魔術師。
長葱型滑空艇で空を舞う。
「デリタ・バウ=ラングル! 全て灰に還してあげるわ♪」
カットインで、霧依の乳が揺れる。
現実界の霧依は、鞭使い。
アウルで流星を作り出す。
「うふふ♪ 良い子にはご褒美をあげるわ♪」
カットインで、霧依の乳が揺れる。
鼻の穴を膨らませ、ほっこりとする袋井。
「いやー、記憶喪失なのにこんなことを言うのは変だと思いますが、こういうゲームをプレイしていると子供の頃を思い出してなんだか物凄くわくわくしますねー」
「……どんな子供だったのか、察しがつきましたぁ……」
三人の霧依を操り、初期配備の敵を倒すと、敵の増援が湧き出し、続いて味方の増援ユニットが登場した。
イリス、恋音、エイルズの三人が登場する。
「わお! イリスちゃん、マジ飛行ユニット!」
「……あのぉ、私に装備されている“おっぱいミサイル”という兵器はなんなのでしょうかぁ……」
「袋井さん、僕を敵軍の只中に単騎で突っ込ませるのはやめてください」
「はっははっ、高回避率ユニットを囮&削り役にするのは基本戦術ですよー」
霧依は、漫画二作品の全キャラと、全学園生をユニット化したかったらしいが、
「容量と作業量の都合で断念したのよ♪ でも、大丈夫♪ 幼女は最優先で網羅してあるから♪ 楽しめるはずよ♪」
「確かに楽しめそうですね、霧依さんは」
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「私が作ったのは“ブレイカーパーティー”という見下ろし型のマップ探索方式のホラーゲームです!」
袋井がゲームのスイッチを入れると、画面に、廃墟と化した学校が現れた。
その校章には見覚えがある。
「舞台は“旧久遠ヶ原学園” 次元の狭間にあるかつて天魔に滅ぼされた学園です」
「そんなものあったの!? あたい知らなかったのよ!」
ガチで衝撃を受けているチルル。
「いや、このゲームだけの設定です、実在するわけじゃありません。 スキル訓練中の事故でここに飛ばされた仲間と共に、力を合せて脱出するのがゲームの目的です」
画面を見ると、すでに主人公の袋井は最強状態であり、恋音、チルル、アロマを仲間として引きつれている。
「恋音にラスボス前までプレイしてもらっておいたんですよ、皆さんに感動のEDを見て頂こうと思いまして」
恋音がパッドを握り、続きをプレイし始める。
場所は旧校舎の廊下、そこら中に撃退士の遺体が散乱しているという、阿鼻叫喚な光景だ。
遺体たちは何かを持っている。
「……名札かな? “四ノ宮 椿”って書いてあるけど?」
「遺体から名札を回収するのが目的の一つです。 旧久遠ヶ原学園が舞台なので、遺体の名前は現実の卒業名簿から抜粋しました」
「あなた、後で盛大に怒られるわよ」
廊下を進み、学園長室に入るとラスボスが現れた。
さすがに強く、画面の中の四人が数ターンで瀕死状態になる。
「ピンチになったら“かくせい”コマンドを使って下さい、私がラブコメ仮面に変身しますよー」
「“かくせい“ね、あら恋音さんにもあるのね」
恋音のキャラに“かくせい“コマンドを使用させる。
とたん、大魔王に変身し、おっぱいパンチの一撃でラスボスを粉砕してしまう恋音。
あまりにもあっけない幕切れ。
袋井が、首を傾げる。
「バランス調整ミスりましたかねー? イメージをそのまま数値化しただけだったんですが」
「……先輩、私は、どんなイメージなんですかぁ……」
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「……私のは、経済系の双六と、育成シミュレーションを併せたゲームですぅ……」
恋音のゲームに、アルマが興味を示す。
「興味深いわね、やってみてもいい?」
ゲームが始まると、赤ん坊を一体預かった。
「……撃退士のクローンですぅ、今回は私のクローンを育成するのが目的ですぅ……」
クローンは、別撃退士のデータを取り込んで増やす事も可能らしい。
今度はサブウインドウに、白衣を着た三頭身の恋音が出てきた。
「これは?」
「……ナビ役の“知々ノ宮教授”ですぅ……」
「凄い名前ね」
教授によると今回は三か月以内にクローンを育成するのが目的らしい、そのためには経営パートで資金を稼ぐ必要があるそうだ。
物価変動予想グラフを元に商品を仕入れ、それを売り捌いていく。
株ゲーの一種と言っていいだろう。
ただし、この予想はあまりアテにならない。
確実なのは月に一度だけ教授から貰える予想だ。
そこで稼いだお金を資金に、クローンを成長させることが出来る。
クローンには“アウル”“学力”運動“”芸術“などのパラメがあり、育て方によって起こるイベントが変わってくる。
実際にアルマがやってみると。
「また、ラキスケイベント?」
「……イベントはクローンの元になった撃退士の過去の依頼や日常から作成してありますぅ……」
「つまり、そういう日常を送っているのね」
そんな事を話している間に、新しいコマンドが追加された。
「“食事内容選択“か、少し体力不足だから、多目に与えましょう」
「……あ、やめておいた方がぁ……私のクローンの特性として、余剰養分が全て胸に廻ってしまいますのでぇ……そのあげくぅ……」
顔を赤くし、言いにくそうにしている恋音。
アルマが目を瞬かせているうちにイベントを決定する双六パートになった。
サイコロの目に従い、爆弾の描かれたマスに停まると、
ドカーン
クローン恋音の胸が大爆発した。
経営パラメータが全て赤文字に変わる。
「……おぉ……肥大化した胸が爆発して、在庫が全て吹き飛んでしまいました……大損害ですぅ……」
「あなた、どういう日常を送っているのよ?」
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「私のも“最終目標が定められているだけで、進め方は自由“という観点が、恋音さんのと共通しているのよ」
アルマが作ったのは、アクションRPGだった。
「では、これは僕がプレイさせてもらいますね」
エイルズがパッドを握る。
「天魔襲来により荒廃した架空の街を復興させるのが目的なの、街の人々からの依頼をこなす事で復興率を上げていく事が出来るのよ。 このステージは街を一定レベルまで復興させればクリアよ」
依頼をこなすには、街の住人から情報を集めたり、ダンジョンを探索する必要がある。
ダンジョンの敵や宝箱から集めたアイテムを元に、様々な武具や道具を制作し、依頼解決に役立てていくのだ。
アクションパートで穴に落ちてしまうエイルズ。
「あ、死にましたね」
「大丈夫、すぐに復活出来るわ」
死んだはずのゲームの主人公アルマは、自宅のベッドで置きあがった。
「ゲームオーバーと言う観念は廃したの」
「そこはチルルさんのと、共通してますね」
複雑な顔をするアルマ。
「そうなのよ、ソフトウェアには少し明るいつもりだったんだけど、ゲーム完全初心者と発想がかぶるだなんて」
チルルがひょこっと顔を出す。
「しょうがないのよ! あたいは天才でさいきょーなんだから!」
エイルズが、不敵に笑う。
「死ななきゃ面白いってわけでもないんですよ、今からそれを見せてあげます」
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最後はエイルズのゲームを、霧依がプレイする。
「タイトルは“DEATH ELYSION“です、2DのRPGですが死にゲーですよ」
「死にまくるRPGなんて手ごたえありそう♪」
開始地点は斡旋所だった。
ここで、仲間を集める事が出来る。
「ご指名出来るの? なら、チルルちゃんと、イリスちゃんをお願いね♪」
「再び、ボク参上!?」
「あたいはとーぜん、さいきょーよね!?」
「作らせませんよ、ロリパーティは! 指名出来るのは、仲間のジョブだけ、名前もパラメもランダムです!」
仲間を連れ、最初の依頼に繰り出す霧依。
ゲームシステム自体はオーソドックスなものに見えるが、
「死んじゃったわ♪」
最初のバトルで、いきなり全滅した。
「“玉砕岩”ですか、その敵は最後に残すと必ず自爆して、主人公たちを道連れにするんです」
「じゃあ先に倒す必要があるのね♪」
次のバトル。
今度は敵グループに巨大爆弾を持った敵が一体いた。
爆弾を投げつけてられ、とたんにゲームオーバー。
「“一発屋”ですね、そいつにターンを回しちゃだめです、かならず全滅攻撃してきます」
「INIの高いインフィを連れて、速攻で倒す必要があるのね♪」
「そうです、そうやって死んで覚えていくんです」
さらに次の敵。
“玉砕岩”“一発屋”がセットで現れた。
「あら♪ どっちを先に倒せばいいのかしら♪」
「……おぉ……詰みましたぁ……」
ガチで酷い難易度だった。
「詰みませんよ。 勝てない敵に遭ったら“逃げる”でいいんです。 何も考えないとすぐ死ぬように出来ていますが、逆に考えて良いプレイをすれば、隠しアイテムなどのご褒美が貰えます」
「なるほど♪ いかにもエイルズ君好みの難易度ね♪」
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コンテスト応募日直前、全員のゲームをデバッグがてらテストプレイした斡旋所員・堺は、各々の個性に感嘆していた。
「人生はゲーム、ゲームこそ人生……か」
ならば、こんな面白い“俺ゲーム”を考えられる撃退士たちには面白い人生が待っているのではないか?
堺は、そんな風に思うのだった。