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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/11/21


みんなの思い出



オープニング


 独身アラサー女子所員・四ノ宮 椿(29)は結婚を焦っている。
 ある日、彼女は島の外れに、腕の良い占いババァがいるという噂を聞きつけた。
 胸が将来への不安で一杯の乙女(笑)は、早速、そのババアが住むと言われる占い小屋へと向かった。

「ここが、そのババアのハウスね」
 島の奥地にある林の中にようやくそれを見付ける。
 小屋の扉を開けると、古びた安楽椅子に、いかにも怪しげな雰囲気のババアが座っていた。
「おばあちゃん、占ってほしいのだわ」
「何を占いたい?」
「私が、結婚出来るかどうかなのだわ」
「出来ない」
 ババアは即答した。
 へなへなとその場に座り込む椿。
「一生、喪女なのだわね――扱いからいって、その方向なんじゃないかと思ってた」
「一生? そんな先の事はわからん。 儂に占えるのは、明日一日のことだけじゃ。 だから“出来ない”と言った。 明日結婚予定の女が、そんな質問するわけがないからな」
「え? 明日の事だけなの? 思ったより役に立たないババアなのだわ」
「そういう事を平気に口に出すから、結婚出来んのだと思うが」
 妖しいババアにまで、ダメだしされる椿。
 だが、明日というキーワードにある事を思い出した。
「そう言えば、明日は婚活パーティなのだわ! そこでいい相手を捕獲出来るかどうか占えばすむ話なのだわ!」
「ふむ、恋愛運占いか、よかろう――して、どんな占い方法がいい? おっぱい占いか? 太もも占いか? 目玉占いか?」
「何それ? 星占いとか、水晶玉占いとかないの?」
「儂は、必ず人の体で占う」
「体のどこかねぇ……じゃあ、髪の毛で」
 椿は、とりあえず最も無難そうな部位を選んだ。
「では、お主の髪の毛を見せてみるがよい」
 ソバージュヘアーの頭をババアの前に差し出す椿。
 次の瞬間、
 ブチィ!
「ぐぎゃらぐぼら!」 
 激痛に奇声をあげて、椿が転げまわった。
 ババアが、椿の髪の毛を一束、思い切り抜き取ったのだ。
「ふむ、“ぐぎゃらぐぼら“か」 
「何しやがるのだわ、このババア!」
 涙を流して叫ぶ椿。
「儂の占いは、相手の体を痛めつけて、その悲鳴で占うのじゃ」
「じゃあ、目玉占いだったら?」
「むろん、目つぶしさせてもらった」
 v(`ω´)キリッと二本指を立てるババア。
「恐ろしいババアなのだわ」
「しかし“ぐぎゃらぐぼら“とは珍しい叫びじゃ、お主の明日には数奇な運命が待っておるぞ」
「どういう事なのだわ?」
「では、お主の明日の恋愛運じゃ」
 占いが始まったらしい。
「明日の貴方のラブ運は、ドキドキラッキー☆」
「いきなりノリが変わったのだわ……でもドキドキラッキー☆なら期待が持てるのだわ」
「キラキラした出会いがあるわ☆  相手は貴方の望むものを持った人よ☆ 優しく胸に受け止めてあげて。 シャイなハートが耐えられなくなったら、アナタの特技を見せてあげると、頼りになるメンズに誘われて、いつもとは違う一夜が過ごせちゃうかも☆」
「ど、どういう意味なのだわ?」
「わからん――お主の“ぐぎゃらぐぼら“という叫びから得られたインスピレーションがこの言葉なのじゃ。 だが運命はこの通りに進む。 占いとはそういうものじゃ」
 今、授かった言葉を反芻し、ニマニマし始める椿。
 このババアの占いは当たるという噂だ。
 日照り続きだった人生が、ようやく潤いのオアシスに至るような気がしてきた。
「ありがとう、お婆様!」
 綺麗な目でババアを見つめる。
 態度変わり過ぎだった。
「占い代をお支払いするわね、おいくら万円?」
 財布を取り出す椿。
「金はいらんよ、代わりに人を紹介してくれんか?」
「人?」
「儂も年だし、この占い小屋を去ろうと思うんじゃ。」
「あらもったいないのだわ、凄い占い師だって噂なのに」
「ふむ、そこなのじゃ――実はこの小屋、外国から運んできたいわくつきのものでの。 翌日一日に限定するなら、かなりの精度で占いが出来る。 どんな方法の占いであれな」
「あら、お婆様が凄いのではなく?」
「むろん、素質の個人差はあるさ――そこでお主に頼みたいんじゃが、この小屋を注いでくれそうな若者を何人か見繕って、連れて来てくれんか?」
「後継者探し?」
「そう解釈してくれて構わんさ」
「連れてくる事は無理ではないと思うけれど、いきなり連れてきた子たちに、占いなんか出来るのかしら?」
「それぞれが何かを感じそうな占いの真似事をして、それで感じたものを言葉にすればよい。 その先は文字通り当たるも八卦当たらぬも八卦じゃな」
「素質のある子がいたとして、継いでくれるかどうかは別問題なのだわ」
「わかっておる。 ダメ元じゃ、この占い小屋は畳むべき運命なのか――いわば儂の最後の占いじゃな」


 翌日、椿は期待に胸ふくらませて婚活パーティに出た。
 東京の大手ホテルで行われる、参加料もちょっと良い、ハイソなパーティだ。
(ドキドキラッキー☆でキラキラした出会いがあると言っていたのだわ)
 ワクワクしながら会場で、飲み物を取りに行こうとすると――。
「わあ!」
 スーツを着た、剥げた親父がいきなり倒れてきた。
「え? ちょ!?」
 人混みの中でよけきれず、尻餅をつきながら、その頭を胸で受け止める椿。
 気が付くと親父の禿げ頭が、椿のふくよかな胸の谷間に埋まっている。
「おほほ、これは行幸! 立派なおっぱいがあって助かった!」
 親父はゲヒゲヒ笑いながら、倒れた椿の胸を揉んでいる。
「何するのだわ!」
 椿は反射的、親父の頭に正拳突きを放った。
 現役時代、稽古も含めれば何万回と放ってきた往年の得意技だ。
「お、乙女の柔肌をぉ! 誰にも触らせた事なかったのに」
 腕で胸を隠し、半べそかきながら、立ちあがると、とたん、男性警備員たちに囲まれた。
「キミ! 来たまえ!?」
 手首を掴まれた。
 まるで犯罪者の扱いだ。
「何なのだわ、その態度は? 私は被害者なのだわ!?」
 椿が訴えても、警備員たちは目を吊り上げるばかりだ。
「誰に何をしたのか、わかっているのか!」
「このお方は、我がホテルグループの総支配人様なるぞ!」
「政財界にも顔が効くお方だ! その方を殴りつけるとは! ただで帰れるとは思わぬことだ!」

 結局、椿はその夜、警察で取り調べを受け、一晩を留置所で過ごした。
 警官に理不尽な説教を受けながら、椿は昨日の占いが当たっている事に気付いた。
“ドキドキラッキー☆”は即ち“ラッキースケベ”
“キラキラした出会い”は“禿げ頭の親父との出会い”
“相手は貴方の望むものを持った人なの☆”――椿はリッチマンとの結婚を望んでおり、あの剥げ親父は間違いなくリッチマン、
 そして、その剥げ頭を“優しく胸に受け止めて”あげた、
 シャイなハートが耐えられなくなり、特技の正拳突きを見せたら、本来は頼りになる逞しい警官や警備員に誘われ、警察に連れてこられた。
 そして、留置所でいつもとは違う一夜を過ごしたのである。

 翌朝。 
 どうにか“お許しが出て”留置所から出された椿は、さらなるストレスに見舞われる事になった。
「あのババアに、約束してしまったのだわ」
 占い小屋の後継者候補を、数人紹介すると約束してしまったのである。
 占い代代わりの約束だし、何より占い自体はばっちり当たったのだ。
「うう、タダで剥げ親父に乳揉まれた上に、自腹切って依頼を出さなくちゃならないなんて」
 椿は、泣きながら自分で自分の出す依頼書を書くはめになった。


リプレイ本文


 文化祭の終了翌日
 島の外れにある占い小屋で、撃退士たちが互いを占い合った。
 
「花と大地の魔法少女、マジカルサトリン! 大人しく占われないと、その首スパッと刎ね・ちゃう・ぞッ☆」
 今回の出オチキャラは、咲魔 聡一(jb9491)。
 本人はふざけているつもりはなく、占いに関して偏った資料で勉強してしまったあげく、この魔法少女コスに行きついたらしい。
「おお、魔法少女じゃ! 妾を占って欲しいのじゃ!」
 占い相手のリアル幼女・八塚 小萩(ja0676)に好評だったので、今後も勘違いしっぱなしである。
 「咲魔家に代々伝わる花占いだよ。 そこの花瓶の花から一つ選んで持っててねっ」
「なら、これじゃ」
 花瓶から、小萩が一輪のコスモスを取り出すと、
「マジカル☆一刀両断ー!」
 大鎌で花を切断するサトリン。
「あわわ、なんじゃ?」
「この維管束の向きや形を見て占うのー」
 サトリンの花占い、そこから導き出された言葉は?

【迫りくる勉強漬けから逃れる為必死に逃れるマジカルコハギンは、幼子を食らう豚の怪物に遭遇する。 果たして彼女は、苦痛と欲望から逃れることができるのか? ラッキーアイテムは生首だよ!】

 占い翌日。
「もう嫌なのじゃー!」
 小萩は、家から逃げ出した。
 小等部一年生にして、何度目かの留年が決まってしまったダメ幼女。
 勉強させようと追ってくる保護者から、逃げ回る日々である。
 大通りまで逃げると、道路沿いに幼稚園バスが停まっていた。
 保育士さんに導かれ、園児たちがバスに乗り込んでいく。
「はーい、みんなブーブーに乗ってね」
「ブーブーとな? なるほど、当たったのお」
 幼子を喰らう豚の怪物――それは園児を体内に取り込む、幼稚園バスの暗喩だったのだ。
 その時、小萩に閃き!
「小学生だから勉強を強いられるのじゃ! なら幼稚園児に戻ればいい!」
 ただでさえ落第しているのに、もっと落第しようと考えた。
「妾も乗せてくれ!」
「ん? キミはどこの組の子かな?」
(しまった! この幼稚園に存在しない組の名前を言えば、偽園児であることがばれてしまう! 保護者にまで通報されてしまうに違いない!)
 焦る小萩。
 だが、ラッキーアイテムの話を思い出す。
 服のポケットには、咲魔がちょん切ったあの花の“生首”。
「コスモス組じゃ!」
「コスモス組さんか、じゃあ乗ってね」
 正解! 人生的には間違いだけど、正解!
 コスモス組入りした小萩は占い通り、勉強の苦痛から逃れ、自由という欲を満喫したのだった。


 アイリス・レイバルド(jb1510)は、粒子人形を放った。
「従者が私の制御を半分離れて狂喜乱舞している――この小屋の影響か、興味深いな」
 黒い人形は刃の翼を操って飛び回り、木材を三体の彫刻へと生まれ変わらせた。

 一つ目の像は、魚。
【水生生物、つまり水に関係する何か、何所と無く機嫌が良さそうだ、水にちなんだ益が訪れるかもな】

 二つ目の像は、羊。
【群生生物、何かの群れに遭遇するのかもしれない。 益か難かの判別はつかないが騒がしい事は確かだろうな】

 三つ目の像は、梟。
【夜行性生物、光の無い場所に関するものだろう。 今にも襲い掛かりそうな姿勢だ、まずトラブルの種だろう、夜か暗い場所には気をつけろ】

 翌日。
 占いの対象、ユウ(jb5639)は。図書館で読書をしていた。
 一冊の本を開くと、間に挟まっていた紙切れが落ちてきた。
(これは――銭湯の割引券ですね)
 ショボくはあるが、水に関する益であるには違いない。

 銭湯に来てみた。
(ここでは騒がしい群れに遭うという占いでしたね)
 浴場に入ると、おばちゃんたちがゾロゾロいた。
(当たりましたね)
 ペチャクチャ騒がしい上、ユウに絡んでくる。
「若いわね、いくつ?」
「肌、綺麗ねえ」
「すべすべだよ、私も昔はねえ」
 褒めてくれているのだが、非常にうざい。
 これは確かに、益か難かの判別がつかない。

(最後は、光なき場所で難に遭うという占いでしたよね、さすがに避けたいところです。 夜に部屋を明るくして、暗い場所に寄らなければ大丈夫ではないでしょうか?)
 考えながら、湯船に浸かっていると、湯船にもう一人、おばちゃんたちに絡まれている人間がいる事に気付いた。
「アンタ、普段は若い若いって自慢しているけど、ああいう娘を若いっていうんだよ」
「肌の張りもツヤも、かなわないだろ」
「私らがアンタの年齢の時には、全員、嫁に行っていたよ、呑気に風呂になんか浸かってないで婿探ししな!」
 斡旋所のアラサー所員・四ノ宮 椿がおばちゃんたちに説教を喰らい、ユウに、恨めし気な視線を送ってくる。
「うう、余計なお世話なのだわ」
 気まずげに銭湯から立ち去るユウ。
 トラブルの種は、人の心の闇から生じるもの。
 今は闇から、遠ざかるに限るのだ。


 占い小屋で鷹司 律(jb0791)は語った。
「占いは占いですから学にもなりませんが、トランプを使う場合は時間、事象、方位などを元にして、人が関わる事柄を占う、ト定に分類されると勉強した事があります」
「お、おう……」
 よく意味が分からず、脂汗を流すアサニエル(jb5431)。
 アサニエルの選んだカードから、鷹司が導き出した答えは――。

【思いがけない幸運と悩みの混在。 それなりに面白い出来事が起こりますが、それにより悩み、いえ、戸惑いを得ます】

 翌日、アサニエルは、行きつけのブティックを訪れた。
「デザインはいいけど色が可愛すぎるねぇ」
「そうですか? よく御似合いだと思いますよ」
「お世辞だけ頂いておくよ、また来るからね」
 何も買わずに店から出ようとすると、店長が思い出したかのように声をあげた。
「そうだ、これなんかどうでしょう!」
 店の奥から出してきたのは、色の違いはあれど、アサニエルが気に入ったのとほぼ同デザインのワンピース。
「いいじゃないか。 いくらだい?」
「タダで結構です」
「え?」
「この服、俺が文化祭で女装喫茶をした時のなんですよ。 もう一生着る事はないと思うんで、アサニエルさんに差し上げます」
「女装喫茶――それは面白いねえ、試着してみてもいいかい」
 試着室で、そのワンピースを着てみるアサニエル。
「――丈はいいけど、腰が少しきつい気がするねえ」
「そうですか、俺にはピッタリだったんですが」
 ニコニコしながら言う店長。
 アサニエルとはほぼ、同身長。
(この男、あたしより腰が細いのかい? それとも太りにくい体質にかまけて、最近、甘い物を食べ過ぎたせいかねぇ?)
 面白くはあるが、やはり戸惑うアサニエル。
 午後に予定していたスイーツ店食べ歩きは、控えようと思うのだった。
 

 小萩が関東の某地方に伝わる伝統カルタを使い、咲魔を占った。

【朝から手ひどい悪戯により、火山噴火に巻き込まれるが如き衝撃を受ける。 さらに昼間は雷撃と暴風の如き試練に見舞われるが観音菩薩が如き人の情けにより救われる。 ラッキーワードは世界遺産。 恐らく裁縫技術が鍵じゃ。 じゃが、気を付けよ、葱が汝を狙っておる 蒟蒻の誘惑に負けてはならぬ】

 とりわけ長く、わけのわからない占いである。
 翌朝、玄関から出た咲魔は、赤い噴火を頭から被った。
「わっ!?」
 玄関前に紙パックのトマトジュースが置いており、それを踏んづけてしまったのだ。
 ストローが、人にかかりやすい角度に差してある、
「手ひどい悪戯だな」

 学校に着くと、教師に驚いた声を出された。
「キミ、血塗れじゃないか!」
 咲魔のYシャツが、真っ赤になっていたのだ。
「これはトマトジュースです。 お気なさらずに」
 何食わぬ顔で言う咲魔。
「ぬぬ、悪戯かね!」
「そうです」
 この受け答えが不味かったらしい。
 咲魔が自分をからかうためにした悪戯だと誤解した教師に雷を落とされ、暴風の如く説教された。
 廊下に、正座させられるという罰を受ける咲魔。
 放課後過ぎてもお許しが降りず、結局、寒い廊下で眠りこけてしまう。

 目を覚ますと、見覚えのない部屋。
「ここは?」
 玉葱頭のおばちゃんがソファーに腰かけていた。
「滅子の部屋へようこそ」
 超大ベテランの滅子先生だ。
「まあ、そんな事が? その先生には私がとりなしておきますから、明日からは安心して勉強なさって下さい」
 観音菩薩のような人の情けである。
 お礼をしなくてはと考え、昨日の占いで“ラッキーワードは世界遺産。 恐らく裁縫技術が鍵じゃ”と言われた事を思い出す。
 裁縫道具を使い、滅子のため富士山を縫い込んだスカーフを作る。
「まあ、この歳で男性からプレゼントを貰うだなんて!」
 滅子! カンゲキ!
 あげく。
「咲魔さん。 私と結婚しませんこと?」
 突拍子もない事を言ってきた。
“葱が狙っている”――滅子は見事な“玉葱頭”なのだ。
「私、八十になるこの年まで未婚を貫いてしまいましたのよ、でも一度は結婚というものをしてみたいんですの。 今この場で結婚のお約束をいただければ、何年後かには、全財産を遺産として、咲魔さんにお譲り出来ますわ」
 もしや、“蒟蒻”ならぬ“婚約”の誘惑?
 滅子の預金通帳には、誰しもが誘惑を覚える程の巨額が記されている。
 だが確か小萩は、占いの最後に“肌色的な事が確実に起きる”とも言っていた。
 結婚に付随するものは――。
「お約束の証として、天国まで持っていくつもりだった、私の乙女を差し上げます」
 八十過ぎの乙女がドキドキと頬を赤らめながら、服を脱ぎ始めた。
「すみません、お断りいたします」
 咲魔は、一目散に滅子の部屋から逃げ出した。
 お金持ちになって毎日、美味しいものを食べる生活には憧れる。
 だが、その前に食べなければならないもののハードルが高すぎなのだった。


 アイリスがユウにしてもらった占いは、瞳占い。
「私をジッと見続けて下さい」
 目が常に半開きのアイリス、無言でユウを見つめ続ける
「……」
「あ、あの……瞬きはしても構いませんよ?」
 さて、導き出された言葉は――。

【多くの声の道、漣の音色を奏でる場所で貴女の前に多くの人が訪れる。 熱い視線を送る人、疲れた顔の人、大小二つの顔を持った人、光と闇を拗らせた人様々です】

「さて、淑女的に観察開始だ」 
 アイリスは、街の大通りに繰り出していた。
「わ〜〜ん、助けてにょろ〜」
 メデューサに酷似した幼女が、泣きながら人混みの中を走ってきた。
 アイリスは、彼女を知っている。
 椿の斡旋所に時々いる、はぐれ天魔の子・ニョロ子だ。
「文化祭で買った目薬を差したら、目から変なものが出ちゃうようになったにょろ!」
 ニョロ子は、辺りに向け目からビームを乱れ打ちしていた。
「成程こういう解釈か」
 “熱い視線を送る人“
 そのままである。

  当たった人は熱さに悲鳴をあげ、周りの人もどよめいている。
 “多くの声の道”に小さな悲鳴が、“漣のように”沸き起こっていた。
  子供には甘いアイリスさん。
  ニョロ子を落ち着かせ、目の具合を見てやるが、
「熱……」
 ビームを浴び、指を火傷してしまう。
「わ〜ん、ごめんにょろ〜」
「構わない、気にするな」
 自分の指を癒すため、ヒールのスキルを使う。
 すると――。
「あれ? その光を見たら、ビームが止まったにょろ」
 なぜかヒールの余波で、“目からビーム病”が治ってしまった。
「凄いにょろ! アイリスお姉ちゃんは奇跡の看護婦にょろ!」

 アイリスの元に評判を聞きつけた客が次々訪れた。
 まずは、たぬき少年。
 久遠ヶ原によくいる、着ぐるみ人間の一人である。
 「着ぐるみが脱げないポコ、助けてポコ」
 着ぐるみの頭を、必死で引き抜こうとしている。
 アイリスが粒子人形で着ぐるみの大きな頭を削ってやると、中から少年の小さな頭が現れた。
「ありがとう!」
「大小二つの頭――成程」
 続いて、眼帯を付けた厨二少女。
「クーククッ、闇の者である我が、文化祭で光の薬を飲んでしまった! 光が闇を駆逐せし時、世界は滅亡する!」
 眼帯少女に、アウルから発する黒い粒子を飲ませてやる。
 すると、少女の目に闇が戻った。
「光は閉ざされ、世界は救われた!」
「“光と闇を拗らせたものか” 確かによく当たる、これは調査が必要だな」


「これに書ける限り“ぬ”を書くんだよ」
 占い小屋で、アサニエルは鷹司に大学ノートを手渡した。
 ノート一冊にひたすら“ぬ”を書き続けろとか、拷問にも等しい。
 これがアサニエルオリジナルの“ゲシュタルト崩壊占い”
 「何だか、気が狂いそうになってきました――悪寒もします」
 ゲシュタルト以前に、精神が崩壊しそうな占い方法である。

【新しい出会いと熱い視線。手を取ればめくるめく新しい世界が開ける予感。 でも急ぎ過ぎには注意が必要。 一度は立ち止まった方がいいかも。 ラッキーブラウンはシシリアン・アンバー】

 翌日、鷹司は学園で文化祭の片づけを手伝っていた。
「助けてにょろ! 目からビーム病が再発しちゃったにょろ!
 またも、はぐれ天魔の子・ニョロ子登場。
 熱い視線を乱射し続け、片づけ中の学生たちを邪魔しまくっている。
 ちなみに鷹司とは、初対面であり新しい出会いである。
「落ち着いて、今、医者に連れて行ってあげるから」
 ニョロ子の手を引いて病院に急ぐ鷹司。
 下を向かせ走っているが、目からの熱線がアスファルトを溶かし、道路に亀裂を作ってゆく。
 熱線の威力が秒毎に強まっており、亀裂の深さも増していた。
「このままじゃビームで、地球がアジの開きみたいになっちゃうにょろ!」
 それは確かに新しい世界だ。
「想像するだけでめくるめいてきます」
 ニョロ子を連れ。病院へ走る鷹司だが,
「あ! 踏んじゃったにょろ!」
 ニョロ子が犬の糞を踏んでしまった。
「こんな靴で歩いたら友達にエンガチョされるにょろ、道路になすりつけるから待って欲しいにょろ」
「そんな事、気にしている場合ですか!?」
 地球真っ二つの危機!
 構わず走り続けようとしたが、この時、昨日の占いを思い出した
“一度は立ち止まった方がいいかも。 ラッキーブラウンはシシリアン・アンバー”
 ニョロ子が踏んだ茶色いもの――多分、シシリアン・アンバー。
「止まりましょう!」
 思い切って立ち止まってみると、
「ニョロ子か?」
 道路脇から、アイリスが声をかけてきた。
「あ、アイリスお姉ちゃん!」
 目からビームを出したままのニョロ子が、アイリスの方を見た瞬間!
 ちゅどーん!
 アイリスの背後にあった占い小屋が、ビームで粉々になった。

「わーい、何かわかんないけどビームが止まったにょろー!」
 目が正常に戻り、嬉しそうに飛び跳ねるニョロ子。
 「やはり占いではなく、呪いの類だったか」
 占いが当たるのではなく、テキトーな事を言うとその通りの事が起きてしまう呪いの小屋だったようだ。
 もう、消滅したから安心である。
 文化祭の後片付けも無事終わり、久遠ヶ原にはしばしの平和が訪れるのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 天に抗する輝き・アサニエル(jb5431)
 そして時は動き出す・咲魔 聡一(jb9491)
重体: −
面白かった!:4人

●●大好き・
八塚 小萩(ja0676)

小等部2年2組 女 鬼道忍軍
七福神の加護・
鷹司 律(jb0791)

卒業 男 ナイトウォーカー
深淵を開くもの・
アイリス・レイバルド(jb1510)

大学部4年147組 女 アストラルヴァンガード
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB