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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/11/13


みんなの思い出



オープニング


「おお! ついに通ったんだな!」
 久遠ヶ原学園教師、クレヨー先生こと小暮 陽一先生は職員室に届けられた郵便物に感嘆の声をあげた。
 “第三回スクール対抗アイドルコンテスト”出場許可通知である。
「去年も一昨年も出られなかったんだな、鍋岡の野郎のせいで!」
 二百キロの巨体を、思い出し怒りに震わせる。
 鍋岡というのは、クレヨー先生の中学時代の同級生で、現在、西原体育大学付属高校の教師をしている。
 若い頃から、嫌味な性格でクレヨー先生が太っている事をネタにイジメめいた嫌がらせをしてきた。
 ずっと学年トップの成績をとっていた鍋岡を、一度だけクレヨー先生が中間テストで抜いてしまった事を根に持っているのかもしれない。
 四十路を過ぎたこの年になっても“スクール対抗アイドルコンテスト実施委員会”の役員たちに『ダメですよー、久遠ヶ原学園に出場権を与えちゃ、あそこの生徒は爆発オチとか平気でしますからねー』と吹き込んで出場権を出させないように、根回し続けてきたのである。
 反論しようにも、事実無根とは言い難いので反論しきれなかったクレヨー先生だった。

「ようやく、鍋岡の鼻薬も効かなくなってきたんだな」
 うきうきしながら封筒を開き、出場要項書類を開く先生。
 だが、プリントの一番上に書かれていた文字に目を見開いた。
“スクール対抗アイドルコンテスト実施委員会委員長 鍋岡 正志”
「な、なんでアイツが委員長に就任しているんだな!?」
 唖然とするクレヨー先生だが、考えてみれば散々、根回しをして嫌がらせをしてきた奴なのだ。
 組織内で権力を握る事もお手の物だろう。
 嫌な予感を募らせながら出場要項を読む。
 上の方には、“各校の代表者は七人まで“とか”個人もしくはグループから為した一ユニットで一パフォーマンスを行う“とか至って当然なことが書かれている。
 問題は最下部である。
 久遠ヶ原学園参加に辺り、特記事項が書かれている。
 “アウル能力、スキル全般、V兵器の使用を一切禁ずる”
 これは、先生も驚かなかった。
 充分に予想された事だし、禁止されなくても使わせるつもりはなかった。
 普通の学生が参加するコンテストに、超能力や特殊アイテムを持ち込んでは、競技の公平性を著しく損ねることになるからである。
 先生が驚愕したのは、その次の行――最終項目である。
 “久遠ヶ原学園所属の出場者に限り、踊り及びジャンプを一切禁止する”


「なんなんだなこれは!? ウチだけ踊りなしで歌えとか、勝ち目ないんだな!」
 慌てて“スクール対抗アイドルコンテスト実施委員会”に電話をかける。
「鍋岡先生! このルールはどういう事なんだな!?」
『オーッホホホ! お声が大きいですよ、クレヨー先生?』
「西体附(西原体育大学付属高校)の生徒だって、圧倒的な動きで飛んだり跳ねたりしているんだな! ウチから引き抜いた連中なんだな、あれは!?」
 去年、一昨年と西体附の代表アイドルが行ったパフォーマンスは、ステージ上でダイナミックなアクロバットをしながら完璧に歌いこなすというものだった。
 久遠ヶ原学園の生徒を金で引き抜き、その出自を隠したまま、そういったパフォーマンス要員として利用しているのだ。
 優勝は当然、二年連続で彼らがものにしている。
『なんのことでしょう? うちの生徒に言いがかりを付けるのはやめてほしいものですね』
「そっちだけ自由に動いて、こっちは一切動くなで、それで勝負しろとか横暴も甚だしいんだな!」
『あら、何もステージ上で棒立ちになれとか、一切動くなとか言っているわけじゃございませんよ! 踊りがダメっていっているだけでございます』
「歌う時にダンスなしとか、ありえないんだな」
『頭が固いのですねぇ。 そんなあなたに、あたくしからアイディアのプレゼント! クレヨー先生の経歴を活かして、お相撲したりプロレスしたりしながら歌うアイドルを育ててはいかが? さぞかし久遠ヶ原らしい、へんてこりんパフォーマンスになるでしょうよ! あたくしったら名プロデュサーね! オーッホホホ!』
 ガチャン!
 乱暴に電話を切るクレヨー先生。
 話しても無駄な事を、再確認しただけだった。
 こちらは撃退士の強みと思われたダンスパフォーマンスを封じられ、相手は自由に踊り、跳ね、回転しながら歌ってくる。
 これで、勝ち目があるのだろうか?
 歌は、西体附のアイドルだって最高レベルに上手い。
 さらにスーパーアクロバティックなダンスをしてくるアイドルに勝てるのか?
 圧倒的不利な条件の中、クレヨー先生はスクール代表となるアイドル候補生たちを集めねばならなかった。


リプレイ本文


「参加辞退します」
 指宿 瑠璃(jb5401)は、クレヨー先生にそう言った。
「どうしたんだな? 体調でも崩したんだな?」
 心配そうな顔をするクレヨー先生。
 まだ皆が、最初のミーティングに集まる前の事である。
 理由は二つあった。
 一つは、瑠璃のコンプレックス。
(やっぱり私みたいなブスなんかが参加しても、足引っ張るだけだよね)
 これを口にすれば先生は、前半部分も後半部分も否定しただろうが、それはそれで面倒臭い。
 さらに大きいのが、もう一つの理由だった。
(これで自由に動ける……)
 瑠璃は、鬼道忍軍の諜報力を活かし、陰から仲間を支える事に決めたのだ。


 瑠璃の辞退という波乱の一報から、ミーティングが始まった。
「何この縛りプレイ、イジメ? こういう理不尽な我慢強いられるのってボクも嫌いだなぁ」
 始めてルールを知り、ストレスを口にしたのはイリス・レイバルド(jb0442)。
 ハイテンションな金髪美幼女である。
「……ルールは絶対遵守し、違反しないよう行動しよう」
 静かに呟いたのは染井 桜花(ja4386)。
 落胆しているわけではなく、元から無口でローテンションなのだ。
「アイドルたる者、視線の先にあるのは審査員でもライバルでもなく! ただ目の前のお客さんであるべき、だね。 文化会館を熱狂の渦に叩き込んでみせてこその、スーパーアイドルだよっ。」
 どこまでの前向きなのが、下妻ユーカリ(ja0593)。
 このミーティング中にも、スカウトされた時用にサインの練習をしている。
「ん……眠い……」
 うとうとしているカナリア=ココア(jb7592)。
 常におねむな、マミー娘。
「心を込めて歌えば、お客さんに気持ちはきっと届く、瑠璃さんの分まで頑張ろう!」
 川澄文歌(jb7507)は、さすがのアイドル部。部長。
 苦境の中で、皆を取りまとめようとしている。
「鍋岡×クレヨー先生、うん、薄い本が厚くなるわー♪」
 おぞましい妄想をしているアリス セカンドカラー(jc0210)。
 安定のオチ要員。
 不利な条件下でどう歌を届けるかを話し合う六人の出場者たち。

 そんなミーティングの録画を瑠璃は、自室で見ていた。
 天井に仕掛けておいたカメラで、昼間撮影したものだ。
 不公平なルールに、仲間がショックを受けている所を想像していたのだが、皆、制約の中で、悩みつつも勝利を目指している。
「これを煽りVにするのは、難しそうですね」
 瑠璃が考えていたのは、会場でミーティングの盗撮映像を流し、お客さんの判官びいきを買うというものだ。
 だが、仲間たちはあくまで前向きで、想定していた悲壮感は感じられない
 ならば自分に出来る事は――。


 コンクール当日。
 文化会館のステージ。
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! ボクを呼ぶ声がする! そう、ボク参上!」
 キメ台詞に合わせて登場、イリスちゃん。
 初弾は、一番元気な突撃隊長だ。
 翼&虹の飾りに空色ステージ衣装を着けたその姿、まさに天使!
「みなさーん! こーんにちわー! 煌く笑顔で夢をお届けするイリスちゃんだよー♪ 今日はボクの心の中のように晴渡る快晴で気分も絶好調ぉ! みなさんの心の中は晴れ渡っているかなー?」
『金髪ロリっ娘さいこー!』
 客席から野太い声援があがる。
「いいお返事あっりがとーう! カラッとしたお返事聞くとますます気分が上がっちゃうよねって誰がロリかー! おっとと、時間じかんー、それではパフォーマンスに入る前にぃ――鼓膜と心臓が弱い方は耳を塞いで置いて下さいね」
 謎の前置きをすると、イリスは大きくすうっと息を吸った。
 そして、吸った空気を歌声に変え、マイクに向かってバズーカのように吐き出す!
「―――――――!!」 
イリスは、小さな体に関わらず、超声量の持ち主なのだ!
 音波のダイダルウェイブが会場全体に広がり、振動させる!
「な、なんざんしょ!?」
 二階のVIP席でそれを見ていた鍋岡も耳を塞いだ。
 だが、無暗に大声を放っているわけではない。
 歌っているのだ。
  踊りが封じられたから派手なパフォーマンスは出来ない? 斜め上のルートを探す?
 甘い! あくまで正面から派手に直線的にぶち抜くのがイリスの流儀なのだ!
 ハートヒートな大声量ラブソングは、観客たちのお腹にズンと響き、脳天を甘く直撃した。


 大音量の後は、耳に優しい癒しの時間。
 アイドルたちはプログラム編成にも油断がない。
 赤から黄色に変わるグラデーションのドレスを纏う、ユーカリ。
 そのステージは弾き語りだ。
 ギターではなく、ヴァイオリンの弾き語り。
 さらに、アイドルソングを合せるとなると相当に珍しいらしい。
 曲はユーカリのオリジナルソングである。

『秋色革命』

律の調べ纏え秋色アイドル 葉鶏頭のドレス翻しいざ戦場へ
艶のない風を受けて ただクールに可憐にしとやかに いたかっただけなのに
貴方がその気なら 仕方ない 仕方ない どうしようもないほど仕方ない
眠りにつく動物たちを起こして 染め上げるしかないじゃない世界を

(※)
律の調べ纏え秋色アイドル 紅に橙に
鶺鴒の歌 彼方まで届かせるよ おまかせあれ

律の調べ纏え秋色アイドル 椋鳥のブーツ鳴らし戦場へ
艶のない風を受けて ずっと儚く優雅に軽やかに いたかっただけなのに
貴方がその気なら 仕方ない 仕方ない どうしようもないほど仕方ない
山粧うあの日の景色夢見て 染め上げるしかないじゃない世界を

(※)繰り返し

 調べや歌に聞き惚れるタイプの観客だけではない。
 時折、ヴァイオリンの弓を振ったり、回したりして、目で楽しむ観客へのサービスも忘れない。
 踊る事も跳ぶ事もなくステージを終えたユーカリがお辞儀をすると、会場から大拍手が巻き起こったのだった。


 黒の着物姿の桜花が、マイクスタンド前に立ち、熱唱し始める。
 曲は“さくらさくら”のロック調アレンジ
 奏でるは、三味線。
 クレヨー先生は舞台袖で照明を操作し、ライトで舞い散る桜のイメージを再現した。
 本当は、ここで“ちび桜花”のCGを背後のスクリーンで踊らせたかったのだという。
 仕様書を書き、アキバ系の部活に依頼してもみたのだが、資金が相当にかかるということで実現しなかった。
 自力で技術を学ぶ時間もなく、演出を最小限にし、その分を歌唱と演奏の練習に廻した。
 おかげで音楽的には、高い域に達したが――。
(どうにも地味なんだな)
 クレヨー先生が、ライトを操作しながら、溜息をついた時だった。
 桜花が踊った!
「え?」
 一瞬、反則かと驚いた。
 だが、桜花自身は動かずに歌い、三味線を奏で続けている。
 踊っているのはデフォルメされた、ちび桜花たち。
 背後にある巨大スクリーンで、愛らしく踊り始めたのだ。
 和楽器を演奏するちび桜花たちもいる。
 見せてもらった仕様書にあったようなCGではなく、手作り人形を糸で動かす素朴なものだったが、概要は仕様書通りだ。
「……映像と歌声の円舞」
 間奏中、本物の桜花がマイクに呟いた。
「……さあ、ご照覧あれ!」
 桜花が、着物を大胆に脱ぎ捨てる。
 すると、映像の中のちび桜花たちも同じく着物を脱ぎ捨てた。
 全ての桜花たちが、和風ゴスロリのステージ衣装にチェンジした。
 歌う桜花、踊る桜花、演奏する桜花。
 三位一体のステージに、観客席から喝采の拍手が巻き起こった。

「あの映像、いつの間に用意したんだな?」
 舞台から降りてきた桜花にクレヨー先生が尋ねた。
 桜花はずっと歌唱と演奏の練習に徹しており、そんな暇はなかったはずだ。
「……わからない。 昨晩、私の部屋にDVDが投げ込まれていた」
 そう答える桜花だったが、投げ込んだ人間については確信を得ているような目だった。
 仕様書を手に入れられるような諜報力と、自由に動ける立場の持ち主といえば――。


 照明が消え、ステージは真っ暗になった。
 闇の中から流れ出すのは、まだ誰も聞いた事のない新たな音楽――

『マホウ☆ノコトバ』

“♪ホントの気持ち 伝えたくて
勇気出して 貴方の前へ“

“言わないと 伝わらない
その一言が 言えない私“

“素直になれない そんな時
マホウ☆ノコトバを唱えよう“

 スポットライトが、照らされた。
 歌声の主が、光の中に姿を現す。
 学園制服風のアイドル衣装にオーバーニーソ。
 スクールアイドルの王道をいく、川澄文歌。

“きっと 大丈夫
元気のおまじない そっとつぶやく
きっと 大丈夫
ひとこと言えたら また言えるよ
貴方に伝えたい 想いを胸に♪“

 照明が、ステージ一杯に広がった。
 文歌は、ニーソに挟んであったメッセージカードを観客席へと放り投げた。
 通常のアイドルの腕力では、かぶりつきにいる客くらいにしか届かないだろう。
 だが、文歌は学園生活と、戦いの中で自然、鍛錬されている。
 会場の後方にいる観客、それどころか二階VIP席にいる鍋岡のところにまでカードを飛ばす力が、文歌にはあるのだ!
「ひい! 細い体でなんて投擲力! あの娘はマスドライバーなの!?」
 観客たちが手にしたメッセージカードに書かれているのは『アイドルに必要なのは歌やダンスの技術ではなく皆を喜ばせようとする気持ちだよ!』という文歌の心意気。
 『続けて掛け声を言ってね☆』という、お願い。
 それに伴い書かれた歌詞に合わせて、会場が歌う。

“♪きっと 大丈夫(きっと 大丈夫)
元気のおまじない そっとつぶやく“

 文歌が一枚、また一枚とカードを投げるたびに、歌の輪は大きく、会場から返ってくる歌声も大きくなっていった。

“きっと 大丈夫(きっと 大丈夫)
ひとこと言えたら また言えるよ
貴方に伝えたい 想いを胸に♪“

 全てのカードを投げ終えられた時、会場全体が数分前までは聞いた事もなかった“マホウ☆ノコトバ“を合唱していた。


 楽屋で文歌が尋ねる。
「お二人は、何を唄うんですか?」
「般若心教アレンジでいくわ」
 衝撃発言するアリス。
 アイドルコンクールでその発想はなかった。
「オチ担当ゆえのラスト希望だったんだね! その目ざとさ、僕にもレッスンして欲しいよ!」
 イリスが羨ましがる。
「うふふ、鍋岡先生の歪んだ愛を浄化して魅せるわ♪」
 しかも動機が酷い。
 あくまでクレヨー×鍋岡推しのようだ。
「歪んでいるのは、アリスちゃんの愛情じゃないかな?」
 笑顔が引きつるユーカリ。
 アリスとコンビを組む、カナリアもカナリアで、
「ん……眠い」
 脳が、ピラミッド四千年の眠りについている。
「時間ね、いくわよ☆」
 カナリアを連れて楽屋を出ていくアリス。
「……がんばれ」
 二人の背中に手を振る桜花。
 オチ担当は果たして、ちゃんとオトせるのか?

 ステージには、他校のパフォーマンスでも見られなかった奇妙なものが置かれていた。
 机、椅子、バケツ、お鍋の蓋、デッキブラシ。
 意味不明なものばかりだ。
 しかも、カナリアは相変わらず無気力にうとうととしている。
 このマミー娘、般若心教なんか唱えたら、成仏してしまわないだろうか? 
 ところが、ステージにあがったとたん、カナリアの目がパッチリと開いた。
「こんにちは〜♪ カナリア=ココアです。 よろしくお願いします♪」
 アイドルスマイルを浮かべるカナリア。 プロである。

「私たちの想いを聞けー!!」
 カナリアのシャウトを引き金に、パフォーマンスが始まった。
 本当に般若心教を唱え始める二人。
 それだけなら出オチどまり。
 持ち時間の大半はスベりっぱなしになってしまうのだが、そこでは終わらなかった。
 アリスとカナリアが鍋蓋を持ち、それをシンバルのように打ち合わせる。
 これは、ストンプ!
 本来楽器ではないものを使って演奏をする、アクロバティックなパーカッションミュージック!
 机や椅子を打ち合わせたり、水の量を変えたコップを叩いてハンドベル代わりにしたりと、様々な音色を産み出していく。
 見せ場は、二人がデッキブラシを持ち、それを打ち合わせての演武。
 演舞なら踊りで反則になってしまうが、演武はあくまで武道。
 戦士の学び舎である久遠ヶ原学園に、相応しいパフォーマンスだ。
 最後は、スコップを三味線に、革きり包丁をバチに見立てた三味線ロックでのハードコア般若心教!
 アリスとカナリアが、それぞれソロで歌い、ラストに合唱してキメ!
 二人で手を繋いでお辞儀をする。
「ありがとございました!」
 オチ担当の期待を裏切り、恐るべき完成度のパフォーマンスを魅せた!


 全参加校のパフォーマンスが終わり、審査発表の時となった。
 まずは各賞。
 桜花が特殊演出賞を獲得した。
 これは手作り人形の演奏とダンスを、観客審査員が評価してのものらしい。
 他の各賞は他校の生徒が獲得する。
 現役の若手歌手や、ピアニスト留学中だという他校生もおり、これは仕方がない。
 そして上位三名の発表。
 三位に、アリス&カナリア組が入った。
 お経と、スタンプを組み合わせたパフォーマンスが、新鮮と受け止められたらしい。
 だが、二位と一位は、共に西体附の学生。
 優勝は逃した。
「私たちの全力、出し切ったね、これで悔いはないよ」
 文歌が、笑顔で楽屋から出ようとすると、
「なんだか、廊下が騒がしいけど何だろう?」
 アイドル番組の記者が来ていた。
 その手には、独自に集計した各校別総合成績ボードを持っている。
 ボードを覗くと、総合一位は久遠ヶ原学園!
 ステージ審査員点が著しく低いものの、観客審査員点が全員軒並み高く、この結果につながったようだ。
「不利なルールにめげず、固定観念に捕らわれないパフォーマンスを演じた事が評価されたようです」
 記者がカメラに向かって中継をしている。
 会場からの声に文歌が気付いた。
「うん? アンコールの声が聞こえるよ」
 アンコールは久遠ヶ原学園に向けられていた。
 個人一位の参加者にはアンコール舞台が許されるのだが、今回急遽、学校総合一位にもそれが認められることになったとの事だ。
「わお! これってネットで騒ぎになったのが、原因だよね?」
 興奮しているユーカリ。
「鍋岡がクレヨー先生にデレたって事ね、今夜はアツい夜よ☆」
 別の意味で興奮するアリス。 
「マジ? 踊っていいの? 跳ねてもオールライツ?」
 欲求不満から解放されて嬉しいのか、ぴょんぴょんジャンプするイリス。
「アンコールは競技じゃないですからね、踊っちゃいましょ♪」
 カナリアが目をパッチリ開けて、笑顔を浮かべる。
「六人一緒でのパフォーマンスをする事になりますが、何をされますか?」
 マイクを向けられる文歌。
 だが、首を横に振った。
「いいえ、六人では何もしません」
 その時すでに、桜花がその場から駆け出していた。
 人混みに紛れ、遁甲の術で逃げ出そうとしていた少女の肩を掴んだ。
 昨晩、DVDを投げ込んでくれた少女の肩を。
「……七人一緒だ、瑠璃」
 振り向いた瑠璃は、頬に涙伝う顔を頷かせた。


依頼結果