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十九時五十分。
合宿所の廊下に七人の撃退士が集まった。
実験室となる部屋に入る前、最後のミーティングを行う。
「皆、何時も以上に気合を入れてきましたわね。 緋色も♪」
最年長の桜井・L・瑞穂(
ja0027)。
爆乳お嬢様は、今日も爆乳お嬢様。
“女性を演じる男性演じる“という複雑な芝居をしつつも、周りの皆をサポートしていくという大変なポジションを選択。
その瑞穂の恋人、帝神 緋色(
ja0640)
「……あ、えっと……皆宜しくお願いします……ぜ」
普段から美少女にしか見えない美少年。
自信のある顔立ちはそのまま、体つきと声のみ女性らしく変装マスクで偽装。
無理して男性を演じている女性を演出したいらしい。
「きっと、これが正解!」
自分のTシャツの胸を張って、自信満々なファリオ(
jc0001)。
こちらも中性的な美少年。
何か大仕掛けをしている様子。
「あた……ううん、オレ様の変装は完璧だぜ!」
体を男の子に、瞳と髪を赤く染め、ツンツンヘアーにしているのは元気っ娘・雪室 チルル(
ja0220)。
鼻に絆創膏を張り付けているのは、レトロ漫画の熱血少年を意識しているのか?
「とりあえず何をしてたらいいのかな? 何かして遊ぶのだー♪」
同じくおバカっ娘であるものの、こちらは全く変装していない焔・楓(
ja7214)。
まだ幼く、どっちともとれる体型ということで、そのままで行くというパワープレイ。
「久遠ヶ原は着ぐるみ天国だから着ぐるみを着た性別不明者にも対応できないとダメやぎ」
こんなキャラいたか?
ヤギのぬいぐるみを着た、ヤギ口調の人。
中身は、うしちち魔王こと月乃宮 恋音(
jb1221)嬢。
なぜヤギなのか? ヤギはウシ科だから化けやすいのか?
懸念された爆乳も変装マスクの威力で抑え込み、恋音とは思えない体型。
「変装できるマスク……これがあれば……ゴリマッチョにもロリ巨乳にも……うふふ……楽しみですね♪」
七人目にして、最もカオスな姿をしてきたのが姫路 神楽(
jb0862)。
変装スーツにより化身したのは恋音の顔と胸に、瑞穂の風貌、楓の身長という姿。
まさしく、キメラである。
十九時。
実験場となる和室のふすまが開いた。
ここから先の光景は、カメラにより音声含めて、審判団に監視されている。
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「ごはんなのだー!」
「お腹ぺこぺこよー……だぜ!」
和室には、すでに夕食のお膳が七つ並んでいた。
「では、いただきますですわ」
変装マスクの準備に数時間かかったため、空腹極まっている参加者たち。
さっそく、性別を誤認させるための芝居が始まる。
「あら、緋色。 そのお茶は、俺……こほん。 何でもありませんわ!」
まず、瑞穂。
一人称を言い間違えた男性の芝居。
隣に座る緋色も、横座りをしかけて慌てて胡坐に切り替えるなど、“女性である中身が零れ出てしまっている男性“の芝居をしている。
「やっぱり秋はサンマよ……ぜ」
「ごはん、おかわりなのだー!」
対照的に、チルルと楓は意識すらせず、元気よく食べている。
様々に食事が進む中、ヤギ人間・恋音だけは食事に手を付けようとしない。
「食べないの?」
緋色に尋ねられ、ふるふると首を振る。
食べる時にぬいぐるみを脱がねばならないので、食事はしたくないらしい。
ぬいぐるみの中で、栄養ゼリーを飲んでいる。
「なら、僕が食べるのだー! ヤギさんには、大好物の紙をあげるのだー!」
合宿のしおりを筒状に丸め、ヤギの着ぐるみの口元にズボッと突っ込む楓。
そのせいで、飲みかけゼリーが気管につまり、むせまくるヤギ。
おバカっ子の前でヤギの格好は、実に危険である。
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七時三十分、食事が終わるとお膳がなくなり、代わりに布団が敷かれる。
「布団だぜー!」
「ふかふかなのだー!」
チルルと楓が一緒に、布団の上をコロコロ転げまわる。
一方、恋音と神楽は、誰がどこに寝るかを話し合っている。
「……うぅん……七人が泊まるには、この部屋は……ちょっと行動し辛いでしょうけどぉ……頑張りましょう……」
恋音が喋っているようだが、実はこの台詞、恋音の真似をしている神楽。
実験中はこれで通すつもりらしい。
「八畳間に七人雑魚寝では、どうしても互いの体が触れ合ってしまいそうやぎ」
こっちが恋音。
ヤギを意識しているのだろうが、なぜ語尾が“メェー”でなく“やぎ”なのか?
魔王様のお考えとは、計り知れないものなのである
その頃、瑞穂と緋色は、お風呂の脱衣所にいた。
タオルで豊満な体を隠しつつ、すまし顔の瑞穂。
緋色はその陰に隠れるようにして、浴場に入る。
「あ、あら? 先客が居ましたのね。気付きませんでしたわ」
浴場の洗い場では、ファリオ(
jc0001)が全裸のまま、仁王立ちになっていた。
天井に向かって胸を張り、ドヤ顔である。
「何をしているんだ……ぜ?」
緋色が尋ねると、ファリオは二人に体を見せつけた。
「フフフ、答えは! これです!!」
思わず目を逸らし、それから二度見する瑞穂と緋色。
ファリオの上半身には、たわわなおっぱいがはずんでいる。
変装スーツで女装しているのかと思いきや、下半身には緋色が普段付けているのと同様のものが揺れている。
上半身が女性、下半身が男性という奇妙な体になっているのだ。
「男性のシンボルと女性のシンボルを兼ね備えて、最強に見える!」
体を仰け反らせ、天井のカメラに全てを晒し出すファリオ。
「さぁ、悩むが良いでしょう。この女性とも男性ともとれる、最強のボディを見るがいい!!」
そこに備えてあるカメラに、自分の体を見せつけているのだ。
果たしてこれは、正解なのか?
続いて、風呂場に三つの影が入ってきた。
「汗をかいたらお風呂なのだー♪」
楓はパタパタと、裸で浴室を駆け回っている。
銭湯でも十歳だと混浴NGになる年齢のはずだが、中身はもっと幼いのか、気にする様子もない。
一応、下半身が見えないよう、タオルを巻いているところを見ると、“よくわからないけど騙せれば勝ちなのかな?”くらいはわかっているらしい。
「風呂は大好きだぜー!」
豪快に浴槽ダイブするチルル。
何も隠さないのは、男の体になっているせいか、素なのか?
「背中、洗いますねぇ……?」
艶めかしく囁きながら、瑞穂の背中を洗い始めたのが神楽。
体の前面で揺れているのは、恋音のそれをコピーした、強大凶悪なそれである。
ちょっと身が寄るだけで、だぷだぷと震えて瑞穂の背中に当たる当たる!
女性である瑞穂も、そのくすぐったさに顔を引きつらせた。
「ひぃ、結構です。 おやめくださいまし!」
「あら、お嫌でしたか? では緋色さんに……」
瑞穂の影で体を洗っている緋色の背中に、移動しようとする神楽。
その結果がどうなるのか察した瑞穂は、慌てて立ちあがった。
「緋色! もう体を洗うのはいいでしょう! お湯につかりましょう!」
「え、でも、まだ」
瑞穂に背中を押され、立ちあがる緋色。
だが、まだ泡をちゃんと洗い流せていながったので、足元がすべってすっころぶ。
「きゃあ!」
二つの女性的な悲鳴が、同時にあがった。
一つは転んだ緋色の物。
もう一つは瑞穂のもの。
転倒を阻止しようと、とっさにそこにあったものを掴んだ緋色に、バスタオルを剥されてしまった。
ラキスケの女神と綽名される瑞穂の、豊満で扇情的な肢体が露わになる。
「どうかしたんですか?」
なんとな〜く、良い予感がしたのか、俯いて頭を洗っていたファリオが、顔をあげて瑞穂の方を見た。
だが、期待したものは見られなかった。
悪あがき虚しく転んでしまった緋色が、ファリオの上に倒れて来たからだ。
ふにょんと、二人の胸が重なり合う。
「ご、ごめん」
二人とも元々、男の子。
胸は詐胸。
女性の乳房を持つ美少年同士が、その柔らかな胸を重ね合ね合うという、実に背徳的で艶めかしい光景が出現した。
「いたた……」
「早く離れて下さいまし、緋色! ファリオ! 変な方向に目覚めてはなりませんわ!」
焦る瑞穂。
緋色は恥じらいに耐えかねたように、浴槽の隅で項垂れてしまう。
それを瑞穂が励ましている。
「はい、ラキスケ歓迎、どんどんどうぞ」
逆に、開き直るファリオ。
見た目は繊細でも、心は鋼で出来ているようだ。
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「よっし!オレ様がゲーム持ってきたし遊ぼうぜ!」
チルルが布団の上に広げたのは、定番の人生ボードゲームだった。
「オレ様からいくぜ! 全力全開!」
撃退士のパワーで力一杯、ルーレットを回すチルル。 ルーレットが毎回外れる。
「保険? そんなややこしいもの入りませんよ、事故ったらその時はその時です」
メンタル鋼プレイを貫くファリオ。
「神楽さん、この紙をあげるから、その家は買わないで欲しいやぎ」
おさつという名の紙を駆使して、裏工作に励む恋音やぎ。
「……みなさん……お菓子いかがですかぁ……手作りクッキーなんですかぁ……」
ゲームよりもお菓子重視の神楽。女子力を磨きたいという狐っ娘(オス)。
「瑞穂、ガキは何人欲しいんだぜ?」
「な、何を言いますの緋色、私たちまだ学生ですのよ?」
「ゲームの事を言っているんだぜ? 子供ピン、何本差す?」
さりげなく瑞穂をからかう緋色と、必死に動揺を隠そうとする瑞穂。
「赤いおさつがいっぱい増えたのだー! 大金持ちなのだー!」
楓よ、それはおさつではなく、約束手形だ。
遊び疲れて皆、文字通りの寝落ちをしてしまった。
雑魚寝でラキスケ発生かと思われたが、変装スーツは想像以上に体力を奪うようだ。
恋音だけが押し入れに隠れて、ガサゴソと体を拭いている。
入浴もせず、意地でもぬいぐるみを脱がないつもりらしい。
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朝六時、布団の片づけに合宿所の職員が訪れる。
時間が早いせいで、まだみんな、うつらうつらしている。
「うぅん……すみませんが、お手洗いに行きますねぇ……」
神楽がトイレに立とうとすると、
「待って待って! あた……俺が先に入る!」
チルルが勢いよくトイレに飛び込んでしまった。
そして、また勢いよくトイレのドアを開けて出てくる。
「お待たせー!」
「ドアくらい閉めてくださいよ」
開けっぱなしで、便座が丸見えな事に呆れるファリオ。
さらに布団を畳み終えた職員が、押し入れを開けると、
「わあ!?」
「やぎっ!?」
中に恋音がいて、互いに驚いた。
寝苦しかったせいか、ぬいぐるみの頭の部分を脱いでいる。
慌ててかぶり直すが、皆しっかり見てしまった。
その下にあったのは――両目を前髪で隠した、少年の顔だった。
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最後に朝食を終え、朝七時、ゲームは終了した。
「皆さん、お疲れさん」
審判団長・小宮が入ってくる。
「キミ達の様子を観察させてもらい、我々なりに結論を下した。 誰が男性で、誰が女性かをね」
審判団が性別間違いを四名以上すれば撃退士たちの勝利。 三名以下なら敗北。
勝利したところで、報酬が多少違うだけなのだが、実際、意地の問題である。
「まず、わかりやすかったところで、楓ちゃん――女の子だね」
「はにゃ? 何でわかったのだ?」
目をパチクリさせる楓。
「演技も変装もしてないだろ、自然体だったからね。 どっちにも見えないようでいても、女の子はやはり女の子。 母親は赤ん坊がお腹にいる時から、動きで男女かわかる時があるという。 十歳にもなったら、男の私にもわかるさ」
「なんだかよくわからないけど面白かったからよしなのだ♪」
やはり、そのまんまというのは無理があったらしい。
「次に、ファリオ君……男性だね」
「あれ、わかりました?」
上半身女性、下半身男性で惑わしたつもりだったのだが?
「キミの精神年齢なら、カメラに向かって全裸を堂々と晒すというのは、例えスーツごしでも、女子なら恥じらいが見えるはずだと判断したんだ」
「むう、あれが裏目に出ましたか」
これで撃退士側二敗。
四敗したら負け確定である。
「さて、ここからが難物だ、あとの五人は演技で素を隠そうとしていたからね――だが、それでも見極められるポイントはある! チルル君! キミは男の子だね?」
話が退屈でうとうとしていたチルルが、ハッと目を覚ます。
「何言ってんの! あたい、女の子よ! (>皿<)=3」
怒り出すチルル。
そういう勝負をしている事を、居眠り中に忘れてしまったらしい。
「いやしかし、さっきトイレを開けっ放しにした時、カメラに映ったのだよ、便座があがっているのが」
「え? あ、そうだったわね! 何か閃いてそうしたのよ! あたいったら本当に天才ね!」
\(><)/ワーイ ワーイ\(><)/と駆け回るチルル。
今回は、本当に天才を名乗って良い。
「次だ、神楽君――男性だね」
「化かしきれませんでしたか」
「風呂での演技があまりにも性的な部分を前に出しすぎたていたからね。 男の煩悩みたいのが見えてしまった」
「ぼ、煩悩」
ナデハグ好きで、普段もあんなものな神楽。
だが、知らない人から見ると、そう解釈されてしまったようだ。
「一番、わけわからんのが、レンネンだ」
レンネンというのは、恋音の事である。
他の面子と違い、本名が完全な女性名の為、コードネームを付けた
「男かなぁ?」
「裏工作成功やぎ!」
「むう、博打を外したか、最後にチラッと見えた少年の顔が本物かフェイクか悩んだんだ――まあ、全てを隠そうと見せつつ、男性らしい仕草も研究していたようだしね、騙されても仕方ないか」
ここまで二勝三敗。
瑞穂と緋色の判定で勝負が決まる。
「あとの二人はまとめていく、瑞穂君は男性、緋色ちゃんは女性、これでどうだ!?」
「どうして、そう思うんです?」
回答はせずに、緋色が尋ねた。
「まず二人が恋人関係にある事には確信がある。 他とは距離感が違いすぎたからね。 そして、二人とも女の体なのに、お風呂で緋色ちゃんは瑞穂くんの影に仕切りに隠れていた。 恋をしている女の子が他人に裸を見られたくないのは当然だからね。 瑞穂君からはそういう彼女を必死で守ろうとする、男の甲斐性みたいなものを感じた、これでどうだ?」
にこっと微笑む緋色。
「ハズレ、です」
イエーイと、全員で万歳する撃退士たち。
皆の素性を聞いて、小宮が納得する。
「なるほど、瑞穂ちゃんから感じたのは男の責任感でなく、誇り高さだったんだな」
辛くも勝利を収めた撃退士たち。
それぞれに帰り支度を始める中、
「……あのぉ……私、胸が大きすぎて不自由なのでぇ……試供品をいただけなかとぉ……」
今回の実験で使った変装スーツを、恋音が持ち帰りたがった。
「構わんよ、ただし装着には高度なSFX技術を持った専属スタッフが三人必要だがね? 彼らを常雇して養う男の甲斐性を見せるかね? ミスター・レンネン?」
「……うぅ……(ふるふる)……」
赤ん坊におっぱいをあげて養うのと、プロを雇って養うのとではわけが違う。
いくらデカくても、それは無理だった!