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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/10/06


みんなの思い出



オープニング


 野島動物園。
 北関東某所にある、古い動物園である。
 二十七歳の海原敏は、そこで飼育員を勤めていた。
 担当している動物は、ベンガルトラのタマネギくん。
 海原がここに入社したのと同じ年に生まれた、雄の虎である。
「タマネギ、おはよー」
 早朝、あくびをしつつ檻に入る。
 まずは檻の掃除、それからタマネギに朝ごはんをあげるのが海原の日課である。
 ところが、この朝、タマネギの姿が見えなかった。
 いつもなら、寝床から起きあがって嬉しそうに出迎えてくれるのだが?
「タマネギ?」
 海原が呼びかけた時だった。
 背中を柔かな、だが獰猛な感触が襲った。
 首筋に熱い息がかかる。
 次の瞬間、二百五十キロの重みが海原を襲った!
 海原は、床に押し倒された。
「た、タマネギ!」
「がう! がう!」
 タマネギは海原にのしかかって、嬉しそうに吠えている。
 赤ちゃん虎だった頃からの癖なのだ。
 その頃からずっと育ててくれている親代わりの海原に、今でもこうして甘えてくる。
 タマネギ本人は、昔と同じく“ウミハラー! プロレスごっこしよー”とじゃれているつもりなのだろうが、実際、シャレにならない。
 何しろ、今のタマネギは全長310センチ、体重250キロ、地上最大最強級のネコ科動物の成獣なのだ。
「がう〜」
「や、やめろ、タマネギ!」
 さらにやばいのは、これだ。
 海原が無視していると――実際は何も出来ないだけなのだが――“ウミハラー、反撃してよー、つまんないよー”と言いたいのか、首筋を甘噛みしてくる。
「がー!」
 甘噛みだと思っているのは、タマネギだけなのだ。
 なにせ虎の牙は、長さが大人の掌ほどもある。
 鋭さは日本槍のそれだ。
 かぷー、レベルで皮膚が裂ける。
 海原はこれで、過去二度入院している。
「ど、どけ、タマネギ!」
 顔を押しのけようとしたが、力が人間の比ではない。
 海原も学生時代はレスリングで鍛えていたのだが、無意味だ。
 虎はなぜ強いのか? それは虎だからだ。
 そんな名言が頭に浮かんだ。
 走馬灯の代わりだったのかもしれない。
 鍛えたから強いわけではない、技があるわけでも、武術を習得したわけでもない、虎だから強い――理屈なく強い。
 タマネギは世界最強級の肉食獣なのだ。
 首筋に、その牙が喰いこむ。
「うわぁーー!」
 海原が、断末魔をあげた時だった。
「なにやってんだ、おめえ」
 檻にベテラン職員の厳さんが入ってきた。
 厳さんが、箒でタマネギの背中を軽く叩くと、タマネギはあっさりどいた。 
「がう……」
 タマネギは、尻尾を垂らした。
 お気に入りの岩の上に駆け上がり、涙を拭くように顔を洗っている。
 厳さんに怒られると、“おじーちゃんに怒られちゃった、くすん……”と言うようにこうしてへこむのだ。
「げ、厳さん助かりました」
「気を付けろよ、育ててきた獣に殺された飼育員なんか、世界中探せばいくらでもいるんだからな」
「本当、あと少し遅かったら、僕もその列に加わっていましたよ」
「お前さん運が良いな、俺は園長がお前の事呼んで来いっていうから、偶然来たんだ」
「園長が?」
「例の件に関して会議をするそうだ」


 例の件というのは、この動物園で行う新規事業の事だった。
 今の時代、昔ながらの動物園スタイルだけでは客が呼べない。
 そこで、動物関連の新商売を何か始めようと、前々から協議はしていたのだ。
 海原と厳さんが会議室に入ると、園長が立ちあがった。
「皆、揃ったようですね、では、決定事項について説明します」
 現園長のマリスは銀髪の女性だ。
 アメリカで、エンターティメントを学んできたという少女を、先代園長が雇い、新園長に据えたのだ。
「当動物園で行う新事業は、ネコカカフェとします」
「ほう、ネコカフェですか」
「まあ、無難ちゃあ無難だな」
 動物園の近隣に、動物と触れ合える施設を併設するのは割と一般的だ。
 この動物園にも、うさぎやハムスターと触れ合えるどうぶつ広場がある。
「どうぶつ広場より、少し対象年齢をあげた感じですかね」
「現在のニーズは“癒し”だと、園長は読まれたわけですね」
 海原たちは、まあ一応納得をした。
 エンターティナーだというので、衝撃的な案が出てくるのではないかと思っていたが、割と普通な線に落ち着いたようだ。
 だが、マリスは首を横に振った。
「みなさん、聞き違えられたようなので、言い直します“ネコカカフェ”です。 “ネ
コカフェ“ではありません」
「ネコカカフェ――猫科カフェ!?」
「まさか! おめえ……」
「そうです、虎やライオン、豹やチーター、それら大型ネコ科動物と肌でふれあいながら“まったり”過ごしていただくというコンセプトのカフェです」
 ニコッと笑うマリスに、茫然とする従業員たち。
「ま、まったり出来ませんよ!」
 今さっき殺されかけた海原が、思わずツッコムむ。
「マリス園長はアイツらの恐ろしさを知らないんです! 慣れた飼育員にだって、気紛れで襲い掛かってくるんですよ!」
「襲ってくる――フフフッ――だから、いいんじゃありませんか、獣に、人が襲われるのがいいんですよ」
 マリスは、顔を伏せて笑い出した。
 天才と狂気は紙一重だというが、この女はまさにそれではないか――皆が、背筋に寒い物を覚えた。
「お茶を飲んでいると、じゃれついてくる猛獣――今、まさに、襲われるかもしれない、そのスリルを背に抱えたまま撃退士は、ネコカカフェでまったり出来るのか? それをTVカメラ中継でお客様に見て頂いて楽しむ。  
 どう? これぞ、エンターティメントじゃありませんこと?」
「撃退士にやらせるんですか?」
「ネコカカフェの客は撃退士だけです。 あの人たちなら、猛獣に襲われても簡単に死にはしないでしょう、まあ、大けがくらいはするかもしれませんが、それもたまのご愛嬌です――フフフッ」
 やはり、この女はやばい。
 海原たちは痛感した。
「獣性の恐怖が勝つか、精神の強靭さが勝つか? 果たしてネコカカフェで一日を過ごせるのか? 野生の獣と、超人の勝負ですのよ!」


リプレイ本文


 依頼日の野島動物園。
 新設された“ネコカカフェ”の建物に向かいながら、撃退士たちは顔を蕩けさせていた。
「ネコカフェ。 ふふふ、素晴らしい。 猫がたくさんとな」
 ニグレット(jb3052)は、仔猫にじゃれ付かれて、その可愛さにKOされ、すぐに猫を飼い始めてしまったというモフラーだ。
「ネコカフェ……行くのも久し振りね。 どんなコがお出迎えしてくれるかしら」
 クールな雰囲気の黒髪美女、ケイ・リヒャルト(ja0004)も今日は機嫌が良い。
「猫カフェって、何するとこなんだよ?」
 よくわからずに依頼を受けた嶺 光太郎(jb8405)が仲間に尋ねる。
「愛らしい猫を思う存分モフる。 それしかござらん。 猫を愛でながらの茶は美味いであろうな」
 戦国時代の偉丈夫的風貌の鳴海 鏡花(jb2683)だが、実はもふ中毒女だ。
「どのような猫がおるのだろう……」
 猫を想像してぽわ〜んとしている。
 イリス・レイバルド(jb0442)が、ネコカカフェの入り口を開けた。
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! 猫が呼ぶ声がする! そう、ボク参上!」
 金髪ツインテを元気に躍動させながら、玄関に飛び込むと、並んでお出迎えしてくれたのは、二匹の仔猫だった。
 薄茶色の毛皮に丸っこい耳が、キャワワ過ぎる。
「わぁい、早速こんな可愛い子達がお出迎えなんてボクハッピー♪」
 首輪についたタグに名前が記されていた。
「ライ王子とレナ王女というのでござるか。 可愛い名でござるな」
「おいでおいでーもふもふー♪ もふもふー♪ ごろごろー♪」 
 玄関マットを転がりながら、仔猫たちを頬ずりするするイリス。
「ずるいでござる! その子らは拙者のものでござる! お持ち帰りするでござる!」
 イリスと仔猫を奪い合う鏡花。
「ああ、こんな感じで猫がうろついてんのか。 だから猫カフェか」
「可愛いんだけど……子猫ちゃん……達……にしては大きいわよね」
 ケイは軽い違和感を覚えたようだが、丸い大きな瞳で見つめられると、脳が蕩けてしまい、どうでもよくなった。
「まあいいわ、どんなコが他には居るのかしら?」
 思い思いの個室に駆けこんでゆく撃退士たち。
 この時、彼らは予想も出来なかった。
 何人かはこの館から、無事な姿で出て来られない事を……。


「さて、軽く何か食うか」
 嶺は、壁にかかっている内線電話をとった。
「一号室だけど注文いいか? ハンバーガーを持ってきてくれ」
 猫はどうでもいい。
 漫画読んで、ネットやって、腹が空けば飯を食う。
 そういう理想的な一日を過ごしたいだけの嶺だ。
 すると、電話の向こうから憐れそうな溜息が聞こえた。
「ハンバーガー――本当にハンバーガーで、よろしいのですか?  最高級和牛のステーキなどもご用意出来ます。 お命を守るためにも、十キロほどご注文なされては?」
「お命ってなんだ? そこまでガッツリ喰えねえよ」
「し、しかし、最後のお食事がハンバーガーでは、シェフとしてあまりにも忍びなく……」
 電話口からすすり泣く声が聞こえてくる。
(なんだこのシェフ、今日でクビにでもなるのか?)
 怪訝に思いつつ、電話を切り、漫画を読み始める。
 十分後、個室のドアが外側から開いた。
「ご苦労さん、そこに追い……」
 嶺は絶句した。
 個室に入ってきたのは、体長百四十センチはあろうかという“猫”だったのである。
 「……猫? これ猫か?」
  実はチーター、名はカボチャ。
 嶺も五輪選手並みの身体能力を持つ撃退士だが、この“猫”と単純なフィジカルスペックで戦ったら、絶対に勝てないとわかる。
 “猫”は蓋付トレイの乗った背中を、嶺に寄せてきた。
「開けろってか?」
 トレイを開けると、中にはハンバーガーが型崩れせずに入っていた。
「てか、よくこぼさずに運んでこれたなこいつ。すげえ」
 バーガーを手に取った瞬間、“猫”は嶺を睨み付けてきた。
 文字通り、獲物を狙う獣の目だ。
 食わせなければ、俺が食われる!
 本能で察した嶺は、バーガーから肉を取り出し、部屋の隅にめがけ放り投げた。
“猫”がそれにとびかかった隙を狙って、部屋から飛び出す。
 逃げる。 
 だが、すぐ追ってくる。
 バーガーの肉など、一瞬で喰い終えてしまったようだ。
「おかしいだろこれ。 安らげねえよ」
 壁走りで、天井近くの壁を走った。
 それでも、恐るべき速度とジャンプ力で、“猫”は飛びかかってくる! 
 しかたがなく、髪芝居。
 一時的に拘束し、その間に物影に隠れた
「猫カフェって命がけだな。 癒しとかウソだろ」
 げんなりしながら肉のないバーガーをかじる嶺。
 本当に、最後の食事になりかねなかった。


「無念でござる」
 肩を落とす鏡花。
 結局、赤ちゃん猫争奪戦は、動物交渉能力を持つイリスに譲ってしまった。
「これを使えば勝てたでござるが、さすがに非道でござるからな」
 鏡花がポケットから取り出したのは、マタタビ。
 念のために持参したのだが、猫にとってのアルコールに等しい物なので、赤ちゃんに使うのは自重したのだ。
「まあ、他にも可愛い子がいるでござろう」
 内線電話の脇にご指名表という紙が貼られており、部屋に呼べる猫たちの名前が書かれている。
「とりあえず、一番上のタマネギという子を呼ぶでござる」
 しばらくすると、外側からドアが開き、三mを軽く超える巨大なネコ科動物が個室に入ってきた。
「――随分でかい猫がおるのう」
 茫然とする鏡、
「これもモフって良いのでござるか……って! こやつは虎ではないか!」
 ノリツッコミをする鏡花。
 タマネギは、それを不思議そうに眺めている。
「……まあ良い。ネコ科の動物も猫みたいなものでござる。思う存分モフろうではないか」
 大胆にも自分の倍近い大きさのタマネギに抱きつく鏡花。
「モフモフ〜、おー、ボリューミーなモフモフでござる。 これは贅沢でござる」
 鏡花に抱きつかれ、タマネギはきょとんとしている。
 飼育係の海原はモフラーではない。 もふられた事がないのだ。
 やがて、大好きなプロレスごっこなのだと解釈したらしい。
 背中に抱きつている鏡花を、全身のバネで跳ねあげる、
「うぉ!?」
 鏡花が床に落ちた瞬間を狙い、大きく跳躍して巨大な背中を相手の腹に叩き付ける!
 フライングタイガードロップ!
「ぐほっ……過激なスキンシップでござるなあ」
 その後も、されるがままに技かけられ続ける鏡花。
 体格はいいが、プロレス技を知らないのだ。
 こうなるとタマネギの“反撃してくんなと、かぷーしちゃうぞ病”が発症する。
 タマネギは、動けなくなった鏡花の首筋に、虎の牙を近づけた。
「よ、よすでござる! そんなもんで噛まれたら死ぬでござる!」


 ライ王子と、レナ王女。 個室に連れ込んだ二匹の“仔猫”をもふりまくるイリス。
「もふるぞー、超もふもふだぞー」
 ふいに、イリスは背後に視線を感じた。
 振り向くと、猫の範疇に納まらないデカさの“猫”がドアの隙間から、イリスと、それにもふられる子供たちをジッと見ている。
「なんか、マザークイーンがこっちチラ見してるッ!?」
 その後ろには、さらに一回り大きな、王者の風格を讃えた獣の姿。
「おまけに鬣の立派な旦那様もいらっしゃいますよ!? 猫だけどー! 猫科だけどー!? ハッ、まさか――ッッ!!」
 “ネコカカフェ“ の一文字多い”カ“が、誤りではない事に気付いた。
「まいっか♪」
 が、結局、スルーする。
 特に備えがあるわけでもないのに、受け流しちゃう。
 イリスちゃん、マジで三下属性である。
「Hey! ライオンくんあなたのお名前なんてーの?」
 首輪を見ると“ロイ王陛下”その後ろに赤文字で“呼称省略厳禁(命に関わります)”とある。
「そっかー、ロイくんっていうのかー」
 しかし、その忠告までスルーしちゃうイリス。
 
 園内の休憩室。
「あー、言っちまった」
 ネット配信で様子を見ていた厳さんは、目を伏せた。
 モニターの中では、ロイが、どっかの映画会社のロゴの如く、“ぼぐおぉぉぉ”と吠えている。
「あいつ“くん付けだと! 余はこの動物園に君臨する王なるぞ! 不敬である!”とか言ってんだよ……マジ生意気だからな」
「大丈夫でしょうか? 撃退士とはいえ、小さな女の子ですが」
 海原に尋ねられた厳さんは、煙草に火を着けるながら答える。
「朝、普段の倍も餌をやっておいたからすぐに食われやしないさ、すぐにはな」

 カフェの個室で、チッチッと指を振ってみせるイリス。
「なんかスッゲー睨んでる気がするけど駄目だぜ? いくらボクが世界が羨む美少女といっても愛と絆のイリスちゃん! 家庭を持つ相手を相手にすることはできないのっさ
その色目は大事な家族と愛する妻に向けてやりなっ! そーいうわけでイリスちゃんはクールに去るぜ」
 すたこら逃げようとしたイリスの背中を、獅子の牙が襲った。

 カフェの廊下。
 イリスはロイの背中に乗せられていた。
「ボク、猫の背中に乗りたかったんだぜ〜……もふもふ〜」
 朦朧とした意識で、ロイをもふっているが、実は保存食としてねぐらに運ばれている最中である。
 猫大好き、イリスキー。
 ロイヤルな猫様の、キャットフードにされる未来が待っていた。


 個室についたニグレットは、まず内線電話をかけた。
「ビール。 フライドポテトもよろしく。 なお、発泡酒はお断りだ」
 それだけ言って、内線電話の受話器を切る。
 電話の向こうから、憐れむようなシェフの声が聞こえたが、面倒な事は一杯入れてから考える。
 それが、大人のジャスティスだ。
 程なくやってきたのは、三mを越す猫――虎のタマネギだった。
「うーん? 大きなトラネコだな。 そうか、亀のように長生きすると大きくなるのか。 きっと数百年生きたのだろうな。 我が家のポチもいつかはこうなるのか。 そうかそうか」
 一人ごちているニグレット。
 タマネギの背中には、トレイがあり、ビールのボトルと、フライドポテトが入った皿が乗せられていた。
 本職のウェイトレスが、ボーイハントを続けているので、代役にされたのだ。
 とりあえず、コップにビールを注いでいると、タマネギが物欲しそうな目でそれを見ていた。
「一緒に飲むか? だが、猫には酒よりこれだな」
 代わりにと、懐から何かを取り出すニグレット。
「要は共に酔えればよいのだ、酒もマタタビも変わりなかろう」
 マタタビを与えると、大きなタマネギがふにゃーとなり、ゴローンお腹を出した。
 ニグレットの膝枕で、嬉しそうに悶え始める。
「おお、じゃれ始めた。 人懐っこい奴――むう、実に抱きごこち良い」
 首根っこに抱きついてきたタマネギを、もふもふするニグレット。
「もっと堪能したいが、酒も飲みたい」
 振りほどこうとするが、
「うん? 想像以上に力が強いな こら、なにをする。ちょっと待て」
 ニグレットを今度は、前脚で攻撃し始める。
 夢の中で蝶々を追いかけているらしい。
「……やめろ、猫パンチが……うわらばっ!!」
 強烈な虎パンチを浴びてKOされるニグレット。
 だが目を回したまま、まだタマネギをもふっている、
「ああ、巨大な毛玉……もふもふー」
 これはこれで、まったり幸せな一日を過ごせそうだった。


 そんな仲間たちの様子をケイは、個室のパソコンで見続けていた。
 このカフェの様子が、ネット配信されていることにケイは気付いたのだ。
「ネコ科の猛獣……良い、良いわ……っ!凄く良い……。美しくて強くてしなやかで。
普通の猫カフェより良いんじゃない? 皆、何処かまだ野生を持ってるみたいだし、血が騒ぐわね」
 興奮しつつ、内線電話を手に取るケイ。
「そうね、豹柄好きとしては豹柄くんを指名させて頂こうかしら」

 ほどなく、パーテーションを飛び越え、天井近くから黄金の影が降ってきた。
「ふふっ……凄いジャンプね。 でも……人の上に着地は頂けないわ」
 索敵能力で、豹柄のハイジャンプアタックをかわすケイ。
 妖艶な笑みを浮かべているが、実は躱し切れていない。
 艶やかな黒髪が一束ほど豹柄の爪に持って行かれた。
「ち、ちょっと痛かったわね、ブチブチっていったわ」
 直撃を受けていたら首の骨が折れていただろう。
 ライオンや虎に比べれば小柄な豹だが、それでも体重百キロ近くはある。
 だが、六mの跳躍を可能とする肉体は、あくまでも無駄なく、しなやかで、美しい。
「そう言う所も素敵。 調教し甲斐があるわぁ……」
 うっとりと豹柄を眺めるケイ。
 豹柄も、そんなケイを見つめ返している。
 愛が芽生えたわけではない。
 “なんや、ワレにガンつけとんのかい!”的な感じで睨み返しているのだ。
 睨み合いが発生した場合、先に目を逸らしたら負け。 それが動物界の掟だ。
「おイタをするコは……そうね、どっちが上位か教えてアゲル。 あたしの目力とアナタの目力、どっちが強いかしら?」
 猫のように目を見開くケイ。
 キャッツアイ同士の、長い睨み合いが始まった。

 やがて豹柄が、ケイの目力に圧され、怯え始めた。 
 目を逸らしかける豹柄。
「良い子ね」
 ケイが、勝利の微笑みを浮かべた時だった。
「ちょっと匿ってくれ」
 部屋に嶺が飛び込んできた。
「あのウェイトレス、しつこいわ速いわで手に負えないぞ、もうスキルも使い果たしちまった」
 そう嶺に評されたチーターのカボチャが、間髪入れずに個室へと飛び込んできた。
「まあ、そっちの娘も素敵ね」
 ケイが、カボチャに目移りした瞬間だった。
 奇跡の逆転を掴んだ豹柄が、目を見開いた。
 ケイの艶めかしい首筋を、豹の牙が襲った。


 夕闇のネコカカフェに、一台の救急車が到着した。
 そこに人の乗った二台の担架が運びこまれる。
 突き添いで、他の撃退士たちも同乗。
 走り出す救急車を、タマネギらネコカカフェスタッフが、玄関から顔を出して見送ってくれる。
 その顔は“また来てねー”と言いたげに見える。
「二度と来るか」
 憮然と呟く嶺。
 自衛に徹し、無傷で済んだ嶺だが、神経はすり減りまくった。
「タマネギー、きっとまた来るでござるー!」
「うむ、うちのポチもタマネギのように、大きく育てねば」
 怪我はしたものの、深手は免れた鏡花とニグレットは、名残惜しそうにネコカカフェを見つめている。
「懲りねえなあ、マタタビがなきゃ、お前らもあいつらみたいになってたんだぞ」
 あいつらというのは重体で担架に横たわるイリスとケイである、
 嶺はこの時、二人の様子を見て、唖然とした。
 血塗れの体で車窓に張り付き、小さくなってゆく猛獣たちに手を振っているのだ。
「み、みんなー……もっと、もふもふしたいよー――げふっ」
「今度来るまで、良いコにしてるのよ? そのしなやかな美しい身体を撫でてあげるわ、優雅に……ね――ごふっ」
 言い終えると同時に血を吐き、ガクッと倒れる二人。
「お前らは、本当に懲りろ」
 身は傷ついてもモフラーたちの、もふり魂は不滅なのだ。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: モフモフ王国建国予定・鳴海 鏡花(jb2683)
 猫もふらー・ニグレット(jb3052)
重体: 胡蝶の夢・ケイ・リヒャルト(ja0004)
   <豹と睨めっこして敗北>という理由により『重体』となる
 ハイテンション小動物・イリス・レイバルド(jb0442)
   <国王陛下に不敬を働いた>という理由により『重体』となる
面白かった!:7人

胡蝶の夢・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部4年5組 女 インフィルトレイター
撃退士・
セレス・ダリエ(ja0189)

大学部4年120組 女 ダアト
ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
モフモフ王国建国予定・
鳴海 鏡花(jb2683)

大学部8年310組 女 陰陽師
猫もふらー・
ニグレット(jb3052)

大学部6年309組 女 ナイトウォーカー
無気力ナイト・
嶺 光太郎(jb8405)

大学部4年98組 男 鬼道忍軍