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アウル相撲大会 美甘杯。
その会場である青年館で、クレヨー先生は取組表を眺めていた。
「うーん、見事なまでに女の子ばかりになったんだな」
東チーム
先鋒 雁久良 霧依(
jb0827)
中堅 ハルシオン(
jb2740)
大将 遠石 一千風(
jb3845)
西チーム
先鋒 藍 星露(
ja5127)
中堅 アムル・アムリタ・アールマティ(
jb2503)
大将 黒神 未来(
jb9907)
「男に、美甘ちゃんのおっぱい触られないのは安心――のはずなのに、安心出来るのが、大将の二人だけとか、割と酷いんだな」
先生がやきもきしていると、背中から懐かしい名で呼びかけられた。
「あの……暮陽海関ですよね?」
暮陽海――先生が大相撲力士だった時の四股名だ。
振り向くと、繊細な美貌の少女・星露が微笑んでいる。
「クレヨー先生が、暮陽関だったんですね、ネットで調べて驚きました。 大好きなお相撲さんだったんです」
「え、本当に? 嬉しいんだな!」
「やっぱり大きいですねー! 腕触らせてもらってもいいですか?」
鍛えられた固い腕に、柔らかな感触――星露が胸を押し付けて来た。
(うぉっ、柔かい! しかもいい匂いなんだな!)
クレヨー先生は良きパパなので、妻以外の女性には、ほとんど触れていない。
四十過ぎた男の顔が、熱くなった。
「あの、お願いがあるんです……」
胸を押し付けたまま上目使いする星露。
「な、なんなんだな?」
「廻しの付け方がわからないんです。 付けてもらえませんか? ――更衣室で、二人で、ね?」
上着のボタンを外し、競泳水着に包まれた悩ましい体のラインを見せつける星露。
「そ、それは――」
先生が、誘惑に堕ちかけたその時だった。
「父上、今、土俵を見てきたのだが」
二mに迫る長身に、全身筋肉で覆われた鎧――小暮 美甘ちゃん(8)が現れた。
巨体筋肉幼女という新ジャンルに出会い、ギョッとする星露。
「む? その女性は何者だ?」
愛娘の姿に、先生は我に返った。
「今日の出場者なんだな、廻しの着け方がわからないそうなんだな」
「それはいかん、我が着けてやろう」
ひょいっと片腕で肩に担がれる星露。
「ち、ちょ」
そのまま、上着を剥され、もう片方の腕で瞬く間に廻しを巻かれる。
「あっ、きつぃ……」
恐ろしい怪力で、本当にきつくまかれた。
喰いこみに、思わず甘い声が漏れてしまう。
「その姿で土俵にあがった以上、命をかけて貰う! 廻し姿がうぬの死装束と思え!」
床に降ろされ、怒号を浴びせられる。
(な、なんなの? 八歳の女の子を、どう教育をしたらこうなったの、先生!?)
元々は、まっとうな女性観を植え付けるため、先生を堕としにかかった星露。
だが、あまりにまっとうでなさすぎる女児に出会い、己の価値観が崩壊しそうだった。
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先鋒戦
土俵に、白く長い脚があがった。
四股に波打つは、マイクロビキニの中の巨乳。
喰いこんだ廻しの脇からは、艶めかしいお尻がはみ出てはずんでいる。
観客の男どもが、比喩でなく涎を垂らしていた。
(巨体筋肉幼女最高♪ 見られるのも最高♪)
痴女っぷりでは横綱な霧依と、お色気横綱な星露。
ある意味、夢の対決が土俵で実現していた。
「発気よーい! のこった!」
立合い。
霧依は張り手。
本来、張り手は相手の横面を叩き、ひるませるか、脳震盪を狙う技である。
だが、霧依の技は“百烈張り手彗星拳”相手の衣服を傷つけるための技!
狙うは無防備に突き出された、星露の胸!
左右からバインバインと張って揺らす。
「ゃぁぁん、霧依さん上手ぅ」
衣服が破けたタイミングで、観客から肝心なところが見えぬよう体を密着させ四つに組む。
密着状態で体を揺らし、両胸を激しく擦り付けてインパクト!
「奥義・爆乳柔波嵐♪」
お互いの胸をくんずほぐれつさせる。
この間、星露は全くの無抵抗、されるがままだ。
表情に桃色の霞がかかってゆく。
「とどめよ♪ 二指奪衣把・須臾乃極♪」
左手で残った水着を破くと同時に、右手で廻しを解く!
霧依が狙っているのは“不浄負け”
星露の廻しを外して反則負けに追い込もうというのである。
なぜ、水着まで破くのかというと、それは霧依だからだ。
「あ〜れ〜」
御代官様に着物の帯を解かれる町娘の如く、くるくる回る星露。
全裸になった各所に光が灯り、観客からの視界を塞ぐ。
この二人の対戦があると知り、倫理妖精クラーリンが大量出勤していたのだ。
やがて紐から解き放たれた独楽の如く、星露は土俵から飛び出し、宙を舞った。
だが、されるがまま負けたに見えつつ、実は星露は空中で姿勢制御していた。
目指すは、砂被りで観戦している先生!
(うふふ、お尻から先生の顔面へ落下して、女の子の柔かさでメロメロにしちゃおう♪)
これが当初からの、星露の狙い。
土俵での勝負など度外視だったのだ。
だが……。
「父上、危うし!」
先生の隣にいた美甘が、立ちあがる。
迫ってきた星露のお尻めがけ、破壊の光纏う突き――覇王砲を繰り出した。
「きゃぁぁ!」
巨大な掌に撃ち落とされ、地面に叩き付けられる星露。
「こ、こんなすごいスパンキング……耐えられなぁい」
そのまま、気を失う。
既婚男性を誘惑せんとする場合、壁となるのは時として、妻よりも子供なのである。
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中堅戦。
東の土俵から、ハルシオンがあがった。
「相撲じゃ相撲じゃっ♪楽しみじゃのう! 日本の伝統、たっぷりと堪能して――」
一方、西の土俵からあがったアムルの目は、ねっとりとした欲情に潤んでいた。
「うふふ、密着してぬるぬるえろえろするチャンスだよぉ」
二人とも、体操服にスパッツの上から廻しという女子相撲の基本スタイルをとっている。
だが、アムルの方は体操着もスパッツもパッツンパッツン、体操着の下から爆乳が突き上げていた。
「発気よーい! のこった!」
立合い、ぶちかましで突っ込んできたアムルに対し、ハルシオンは変化して右へ飛ぶ。
「やだ、ハルちゃん逃げないで!」
つんのめった体勢を立て直し、慌てて振り向くアムル。
だが、その隙に、ハルシオンは両廻しをしっかりとった。
爆乳がぶつかり、二人の体の間で潰れる。
思わず甘い声があがる。
「あぁん」
「はぁぁん……」
開始後二秒で相撲じゃなくなっている。
二人は、こういう人たちなのだ。
アムルは、逆手にした両掌をハルシオンの両脇の下にあてがった。
いわゆるハズ押しという技だが、その掌からぬるぬるとした汁が出ている。
友達汁。
本来は相手を懐柔するためのスキルである。
だが、アムルの狙いは互いの全身をぬるぬるにする事そのものにあった。
「ハッ!? よもやアムル、お主……!?」
アムルも廻しをとり、ぐいぐいと引きつけてきた。
「は、放さぬぞぉ……あ、ああっ、食い込むのじゃぁぁっ♪」
喘ぐ、ハルシオンの唇をアムルが見つめる。
「目の前でハルちゃんの唇がゆらゆらしててぇ……とっても美味しそぉなのぉぉ……♪」
アムルの唇が、ハルシオンの唇に吸いついた。
吸魂符を併用したキスで、相手の元気を奪い取るという技だ。
「うぅ! ぅぅん♪」
アムルを両掌で突き、唇をどうにか離すハルシオン。
「ぜ、ぜぇったいに許さぬぞぉ!」
必殺技を発動させた。
「“公開禁止(テラーエリア)”じゃ」
周囲にアウルの暗闇を発生させる。
勝つためというより、ただ二人きりで好き放題したいだけの技にも見える。
暗闇の中から声だけが響く。
「ほぉれ、こうか、此処が良いんじゃろっ♪」
「あぁん、もぉ我慢できないぃ〜♪」
「あ、あぁっ♪ アムルぅ、堪忍し――んほぉぉっ♪」
暗闇が晴れ、姿を現した二人は、全身汗だくで、恍惚とした顔をしていた。
「あ、あぁ……凄かったぁ」
「はぁぁ、日本の伝統文化は素敵なのじゃ……」
絶対に違う。
どちらが先に土俵に這ったのか判別がつかなかったが、アムルがハルシオンの上にのしかかっていたので、西方アムルの勝利と判定された。
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「み、美甘、今までのは余興なんだな」
二番続けておかしな取組を見せられ、気を悪くしたのではないかと心配な先生。
だが、美甘はニヤリと笑った。
「動じるな父上、我は楽しみで仕方がないのだ、次の取り組みがな」
東西の溜まりには、それぞれ控えている力士が見えた。
「一千風に未来、あの二人は、紛う事なき強者よ。 父上に見せていただいたアウルレスリングの動画で理解しておる」
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「お世話になった小暮先生の娘さんの、助けになれたらいいのだけれど」
土俵にあがりつつ、ちらりと美甘の姿を見る一千風。
筋肉隆々の巨体、古代の武人そのものの顔付き。
幼い女の子らしさがあるのは、おさげにした髪くらいだ。
「凄い娘さんだなぁ」
一千風はあそこまで女を捨てられない。
今も、アウレスで使用した犬耳マスクを被っている。
学校指定水着に廻しというスタイルに抵抗があり、せめて顔を隠しておきたかったのだ。
対する未来は、スポブラにスパッツの上から廻し姿だ。
「うちはガチンコで相撲やりたかったねん! そやから今回はガチンコ勝負行かせてもらうで!」
未来は、レスリングの他にもシュートボクシングや空手、その他諸々やっていたという、スポーツ少女だ。
「黒神さん、本当に楽しそうね。私も負けられない」
やる以上は、勝ちたい。
相撲は立合いで、七割の勝敗が決まるという。
どうやって自分有利な体勢にするか?
それを考えて、一千風は立合いを決めた。
「発気よーい! 残った!」
審判の掛け声と同時に一千風は飛んだ。
横ではなく、上へ! 跳び箱のように!
身軽な一千風ならではの芸当だった。
(これで、後ろに付けば!)
眼下で未来が、ニヤリと笑う。
その左目が、輝きを放っている。
「しまった!」
未来の左目には、軽い先読み能力があった。
「読まれた変化ほど脆いもんはないで!」
アッパーカット気味に突きが繰り出される。
空にいるところを狙われれば、土俵への撃墜は避けられない!
「まだ!」
一千風は、放たれてきた突きを、薙ぎ払いで払いのけた!
その隙に、体勢を変えて着地。
「さすがに、すぐには終わらせてくれへんね」
元通り、仕切り線を挟んで睨み合う。
先に、未来が仕掛けた。
右の突きを掌底気味に、繰り出してくる。
(右? けど、黒神さんは左利き!)
前に踏み込んで、胸に受ける一千風。
アウルレスリングでの戦友。 その辺りの勝手は分かっている。
囮である右を躱せば、おそらくは左掌から必殺の突きが飛んできていただろう。
ここから、激しい突き押し相撲になった。
互いに突っ張り、張り手を連続で繰り出す。
一歩も譲らぬ攻防が続く。
(一発一発が考えられている! 恵まれているとは言い難い体躯で、スポーツに打ちこんできただけの事はある!)
(速くて、リーチも長い! さすがは一千風クンや! ……なら!)
無数の張り手の中に未来は一発のダークブロウを込めた。
一千風の突きを、パワーで撃ち落とす!
「うっ!」
怯んだその隙に、未来の腕が一千風の首に絡んだ。
首投げ!
シュートボクシングでの技であるが、相撲においても、乾坤一擲の逆転技として存在する。
「させるか!」
一千風もとっさに右上手をとり、鬼神一閃を込めての投げを撃ち返した。
上手投げの威力で、首に絡んだ未来の腕がすっぽぬけかける。
「しもた!」
すっぽぬけたら、即自爆
これが、相撲で首投げが窮余の技とされている理由なのだ。
だが、未来の腕は何かに絡まって止まった。
一千風のマスクだ。
それが腕が絡まり、首投げの支えとなった。
投げの打ち合い!
両者が、わずかな時間差を以て土俵に落ちた。
審判が勝者の名を宣言した。
「黒神未来〜」
一千風は、土俵から立ち上がりつつ、苦笑を浮かべた。
「私は力士に徹し切れなかった、それが敗因だな」
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美甘杯、最終戦。
土俵で向かい合う、未来と美甘。
こうして仕切り合うだけで、美甘の鍛え上げぶりが伝わってくる。
「八歳その体か――将来、どの競技に進んでも恐ろしいアスリートになるで」
未来の呟きに、美甘は無言のまま仕切りを続けた。
立合い。
「発気よーい! のこった!」
美甘は、データ通りにぶちかましてきた。
未来は横に大きく飛ぶ、八艘飛び!
ぶちかましをかわした!
これで後ろをとり、レスリングにおいて得意とするバックドロップに持ち込みたかった。
だが、美甘は即、振り向いた
ぶちかましに、相手の変化に付いてゆく余力を残していたのだ。
「読まれたか!」
間合いを詰め、必殺の吊り“須弥山登”を繰り出そうと、未来の廻しに両腕を伸ばしてくる。
瞬間、未来は笑った。
「思い出したわ、相撲のバックドロップは前からかけるんやったな」
のしかかってきた美甘の膝を押し上げ、肩に担ぎ上げる。
これが相撲におけるバックドロップ――居反りである。
「体重差三倍――普通の相撲なら勝負にもならへんけどな、これはアウル相撲や、パワーはアウルで補える!」
だが、美甘はアウルでは補い切れない武器を持っていた。
それはリーチ。
「まだだ!」
長い左脚を飛ばし、内掛けで未来の足元を崩す!
両者の体勢が崩れ、二つの肉体が土俵に落ちた。
勝ち名乗りを受けたのは――。
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取組終了後の支度部屋。
「頼もぅっ!」
美甘が、のしっと入ってきた。
「おお、お主か、近くで見ると本当に大きいのう」
美甘を見上げるハルシオン。
「でも、おっぱいは小さいのね、うふふ、お姉さんが揉んで大きくしてあげようか?」
「私はちっぱいのままでもOKよ♪ 美甘ちゃんて個性的で素敵♪」
体操着に包まれた美甘の胸を、大胆にも揉むアムルと霧依。
全身、筋肉の鎧で、女らしい柔かさの欠片もない。
「お母さんもこんな感じなのかしら? 先生が可哀そう――美甘ちゃん、先生の電話番号、教えてくれない?」
携帯を取り出そうとする星露を、一千風が止める。
「阻止する。 娘に不倫の手伝いさせるのはよくないな」
そんな面々を置いて、美甘は未来の元に向かった。
未来はベンチで俯き、脳内反省会に没頭していた。
「八艘飛びするなら、仕切りの時にわざと呼吸合せずつっかけて、前に出る気やと思わせた方が良かったんやな。 あるいは睨み付けての挑発とか――無策で変化して通用する相手やなかったわ」
結局、土俵に先に落ちたのは未来だった。
美甘を倒すという目的は、叶わなかったのだ。
「のう、未来よ」
野太い声に顔をあげると、美甘が握手を差し出していた。
「え?」
「友になって欲しい」
頬は赤らみ、はにかんだ幼女の顔になっている。
「うぬは強い。 一緒に稽古したい」
「ええで! でも、相撲だけやなく、いろんなスポーツやろうや!」
握手を受ける未来。
依頼規定は満たせなかったが、美甘を強さという名の牢獄から連れ出すという、友の大きな願いを叶える事には成功したのだ。