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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/09/05


みんなの思い出



オープニング


 八月も終わりに近い日のある日。
 職員室でクレヨー先生こと、小暮 陽一先生が二百キロの巨体で頭を抱えていた。
「うう、とうとう一通も来なかったんだな。 みんな協力してクレヨー」
「どないしたん?」
 声をかけたのは、一見、ヤクザ風の教師・伊佐 潔先生だ。
「夏休みの絵日記が、一通も提出されていないんだな。 自由課題とはいえ、誰も日記を選ばないとは思いもよらなかったんだな」
「そらしゃあないわ、今の子は日記じゃなく、ブログやろ」
「ブログじゃダメなんだな、あくまでノートに書いた絵日記なんだな」
「なんやねん、そのこだわりは」
「僕のじゃなく上の人の指示なんだな。 皆が夏休みに描いた絵日記をスライドショーにして、昼休みに校内放送で流すように言われているんだな」
「あー、上の世代だと、絵日記にしか頭が行かんかもな」
「でも一通も出ないんでは、放送のしようがないんだな。 何も放送出来ないと、僕の信頼問題に関わってくるんだな」
「そんなら斡旋所に依頼を出しや、金で解決や、世の中金で解決出来へんことはあらへんでー」
 潔先生は、見た目だけでなく考え方もアレだ。
「金で解決出来ない事もあるんだな! これがまさにそうなんだな!」
 職員室の壁時計をちらりと見るクレヨー先生。
「あと十分で放送開始なんだな」
「ギリギリすぎるやろ!」
「だって、課題に夏休みの絵日記を選ぶ子、少しはいると思っていたんだな!」
 そんな短時間で夏休み中の絵日記をつけてもらうなど、いくら金を積んでも不可能である。
 二人は頭を悩ませた上、企画を大幅変更することにした。
「もうこれしかあらへん! 夏の間の子供らの過ごし方や、成長ぶりを絵で見せれば、お偉いさんは満足するんや!」
 二人は、斡旋所に参加してくれる撃退士を、大至急集めてくれるよう頼んだ。
 そのまま、放送室に飛び込む。
 当然ながらまだ、参加者は集まっていない。
「まずは、僕がやって場を繋ぐんだな」
 クレヨー先生は、スケッチブックを取り出し、そこにマジックで絵を描き始めた。


 クレヨー先生の絵のタッチは、体同様に丸っこかった。
 慌てているせいもあるだろうが、それを差し引いても下手だ。
 縮尺はめちゃくちゃだし、何を描かんとしているのかよくわからない。 
 四十過ぎた男の絵なのに、児童画の域を出ていない感じだった。


 正午、校内放送番組『夏の絵日記』のオンエアが開始される。
 クレヨー先生のスケッチブック、一枚目に描かれていたのは、長くて鋭いものが、角の生えた建物に突っ込んでいく絵だった。
「なんやこら、ロケットがエビフライの生えた家に突撃しとるで?」
 潔先生が自分でも、スケッチブックに絵を描きながらツッコミを入れる。
「違うんだな! 新幹線が名古屋に到着した絵なんだな!」
「これ名古屋城か!?」
「うん、日帰りで娘と名古屋まで行ってきたんだな」


 スケッチブックをめくり二枚目。
 二人の人間が、四角いブロックを積み上げているように見える絵だ。
「名古屋に、ピラミッド作ったんか?」
「違う! これは僕と娘がひつまむしを食べている絵なんだな」
「ひつまむしって、見た目うな重みたいだけど三度旨いってあれやろ」
「僕は十九杯だけど、娘は二十杯も食べたんだな。 子供に自分を超えさせるのは、親のとしての義務なんだな」
「それは超えさせとるんちゃう! 肥えさせとんのや!」


 スケッチブックの三枚目をめくる。
 睨み合う四つん這いの獣が、二匹描かれていた。
「戦闘任務? こういう天魔と戦ったんか」
「違うんだな! 仕切りをしている力士なんだな」
「力士って、これ大相撲観戦か!?」
 どう見ても角の生えた獣にしか見えなかったが、マゲを生やした力士のつもりだったらしい。
「最近は日本出身力士もあと一息で賜杯に手が届きそうな展開が増えているんだな。 若い頃、土俵に賭けた者としては頑張って欲しいんだな」


 スケッチブックの四枚目。
 巨人が、泣きながら別の巨人に殴りかかっている。
「今度こそ戦闘任務やな!」
「違うんだな! 殴られている方は丸山親方なんだな!」
「丸山親方って、元・前龍山やろ? 動きが速い突き押しのええ力士やったなあ。 ――それを張り手で殴り倒しているのは何者やねん」
「僕の娘なんだな」
「娘!? クレヨー先生の娘って何歳やねん?」
「十歳なんだな」
「明らかに前龍山より大きく描かれているやん!」
「実際そうなんだな、今、百七十五センチで、百五十六キロだったと思うんだな」
「でか!」
「歩いていたら親方が娘を力士にスカウトしてきただな、男の子と間違われて、娘は泣いてしまったんだな。 スカートを履かせればよかったと、父親として反省した夏の思い出だったんだな」
「反省すべきはスカートやあらへんやろ!」


 放送室の隣の控室を覗くと、参加者たちが来ていた。
 どうやら依頼募集は、間に合ったらしい。
 だが、まだ皆、必死で絵を描いている途中の様子だ。
 クレヨー先生のサンプルで、十五分は繋いだ。
 だが、まだ四十五分の放送時間が残っている。
「みんなー、急いでやー」
「出来上がった子から、順番に出演してもらうんだな!」
 参加者たちは、絵を描くのに精一杯で返事も出来ない。
 まずい、あまり間が空くと放送事故扱いになる。
 クレヨー先生の評定が下がって、給料が減らされると、娘に腹一杯ご飯を食べさせてやれなくなる!
 二百キロの巨体が脂汗に塗れた時、最初に書き終えた一人が手を挙げた。


リプレイ本文


 最初に書き終えた一人は、五十嵐 杏風(jb7136)。
 勢いよく手を挙げる。
「早いな、描き上げたのは杏風が一番最初やわ」
 チンピラっぽい潔先生が感心している。
「は、はい、すぐに放送に入りますぅ……」
 放送スタジオに駆け込もうとする杏風だが。
「ああ、慌てんでもええで、もう放送に入っている奴がおるから」
「え、え?」
 スタジオを覗くと、そこには白衣に黒ビキニ姿の美痴女 雁久良 霧依(jb0827)が立っていた。
「か、雁久良 霧依さん、もう描き終えたんですかぁ?」
 潔先生は、首を横に振った。
「いや、アイツは描いてへん。 だから早く描きあげられたんや」
 潔先生の理不尽な言葉。
 そっとスタジオに入り、観客席から霧依の発表を眺めていると、その意味が徐々に理解出来てきた。


「私の夏休み最初の思い出は、これよ♪」
 霧依がカメラの前に差し出したのは、青い画用紙だった。
 何も描いていない、本当に青いだけの画用紙である。
「それの、何が思い出なんだな?」
 クレヨー先生が首を傾げる。
「あるイギリス人監督の名作映画を、レンタルDVDを借りてうちの皆で鑑賞したの♪ ずっと画面が青一色のままだからびっくりしちゃった♪」
「ず、ずっと青ですかぁ? TVが、壊れちゃったんですねぇ」
 杏風が同情すると、霧依はイタズラっぽく笑った。
「違うのよ、杏風ちゃん。 これは青一色と散文の朗読と音楽だけで構成された映画なの。
 監督は死病で、盲目になった中でこの映画を作り上げたの」
「そうなんですかぁ……なんだか切ないですね」
「でも……詩の朗読と素晴らしいサウンドでいつしか映画に夢中になっていたわ。 素晴らしい名作よ……うちの子の中には、寝ちゃった子もいたけどね♪」

 霧依は次の画用紙を取り出した。
 今度は、赤一色。
 やはり、何も描かれていない。
「うちの子達と、世界の名画を描いてみたの♪」
「め、名画っていいますと、ひまわりとか、落穂ひろいとかですかぁ?」
「そうね♪ でも私がモデルにした画家さんは、今でも活躍されている方よ。 赤一色で塗りつぶしたようにしか見えなかったから、同じように描いたわ。 うちの子達は、モナリザとかゲルニカとか描いてたから簡単でずるい! とか言われちゃった♪」
「ま、真っ赤に塗っただけで名画なんですかぁ?」
 霧依がスマホで、本物の方の絵を表示する。
「この絵、本物は一億円するのよね……」
「い、一億ですかぁ。 赤い絵の具って、高いんですねぇ」
「杏風、ちゃうから」

 最後に霧依は、真っ白な画用紙を出す。
「こ、今度は、真っ白ですかぁ」
「千ピースの、白いジグソーパズルを作ったわ♪」
「せ、千ピース、全部が真っ白なんですかぁ?」
「そうよ♪ 白いから何が何だか分からないし、一つ一つがわずかな違いしかなくて間違ったとこに無理矢理嵌めると、あとで一からやり直しになる事もあったわ。 本当に辛かった……」
 霧依が視線を落とした時、スタジオに月乃宮 恋音(jb1221)と、袋井 雅人(jb1469)が入ってきた。
「……お待たせいたしましたぁ……」
「ボクらも、描き終わりましたよ!」
 クレヨー先生と潔先生が、ハンカチで脂汗を拭いながら耳打ちしあう。
「これでどうにか放送事故にならずにすみそうだよー」
「ワシ、霧依って純粋な痴女や思うてたけど、えっらい頭のキレる女やなあ」
 潔先生が小声で褒めた時、発表を続ける霧依の胸元に、悩ましげな汗がにじみ出てきた。
「でも、何かの拷問で作るのを強制されてると想像したら、なんだか興奮してきちゃった……♪ 癖になりそうよ♪」
 上気した肌で、白衣を脱ぎ始めようとする霧依。
「前言撤回! この痴女は映したらあかーん!」


 続いて、杏風の発表である。
「ゆ、友人と、り、旅行に行ってきましたぁ……い、急いで書き上げたので、へ、下手ですが、ご、ご容赦くださいぃ……」
 緊張しつつも、カメラに映された杏風の絵は決して下手ではなかった。
 飛びぬけているわけでもないが、十歳女子としては上出来だ。
 一枚目は、花火を見ている親子の絵だった。
「い、一枚目は、い、行った先で、花火、大会がありましたぁ……お、音にビックリしてしまって、な、泣いていたら、こ、子供に、あ、あやされてしまいましたぁ……」
「あ〜ん、泣き虫なのね、杏風ちゃん、その涙、お姉さんがペロペロしたいわ♪」
「おい、誰かこの痴女つまみだせ」
 潔先生は、小さいがドスの効いた声で呟いたが、霧依は全く動じる様子がない。

 二枚目は大きなジェットコースターの絵だった。
「に、二枚目は、遊園地に、い、いきましたぁ……じ、ジェットコースター、こ、怖くて、気絶しちゃいましたぁ……」
「今度はお姉さんと一緒に行きましょう♪ 介抱してあげるわ♪ 気絶はもちろん、おもらしだって大歓迎よ♪」
「あ、ありがとうございますぅ」
 無邪気な笑顔を咲かせる杏風。
「あかん、杏風、わかっとらんわ……」

 三枚目はひまわり畑の絵だった。
「さ、三枚目は、ひ、ひまわり畑ですぅ……自分より、大きな、ひ、ひまわりで、び、びっくりですぅ……」
 雅人が、うんうんとうなずく。
「わかります、僕も時々、自分の体より大きなおっぱいがあるのを見て、びっくりするんですよ」
「……先輩ぃ……そこまで大きくないですよぉ……」
 最後はミリタリールックで銃を構えあっている二人の人間の絵だった。
「さ、最後は、さ、サバゲーに、さ、参加したときの絵ですぅ……サバゲーの参加は、に、二回目、で、でしたが、や、やっぱり、む、難しいですねぇ……すぐに、や、やられちゃいましたぁ……」
 雅人と恋音が、溜息を吐いた。
「杏風さんって、サバゲーに向かないタイプですよね」
「……狩人に狙われているのに……気付きませんからねぇ……」
 発表が終わり、ほっと胸を撫で下ろす杏風の小さな体を、霧依が熱い視線で追っていた。


「次は合作か」
 雅人と恋音が、スケッチブックを持ってカメラ前に出る。
 その時、神谷 愛莉(jb5345と礼野 明日夢(jb5590)がスタジオに入ってきて、観客席に着いた。
「こちらも仕上がりました」
「ボクら以外にも合作がいたんですか」
 雅人と恋音が、発表を始めた。
 二人で一枚の絵を差し出す。
 海水浴の絵だ。
 海パン姿の雅人と、牛柄のビキニ姿の恋音が、浅瀬でゴムボートに乗り、まったりとした笑顔を浮かべている。
「わあ、絵が巧いですね!」
「カラーペンしかないのに、輪郭線の色を変えることで、あたかも色を塗っているかのように表現していますね、これは高度だ」
 褒められた雅人が朗らかに笑う。
「私も恋音もトークは得意ではないので、絵の方に力を注がせて貰いましたよ」
 画の技術は主に雅人のものらしい。
 まともな画材さえあれば、写真レベルに緻密なものも描けるそうだ。
「ハハハッ、この後に何があったかは皆さんの御想像にお任せします!」
 潔先生が、ニヤニヤしながらグラサンを光らせた。
「想像せんでもわかるわ、おっぱいやろ」
 コクンと頷く恋音。
「……この後、転覆して、先輩の上に乗ってしまう形に……。……えと、その、うぅ……」
「その図も用意してございます!」
 パァンと絵を切り替える雅人。
 合作の他にも、個人の絵を仕上げていたらしい。
 雅人が、大きなおっぱいを揉んでいる絵が出てくる。
「おっぱいでかすぎやろ! 地球並になっとるやんけ!」
「……うぅ……。 ……将来、本当にこれくらい成長しそうで怖いですぅ……」
「んなアホな!」

 合作の二枚目を披露する二人。
 今度は、神社の縁日だ。
 浴衣姿の二人が、夜店を笑顔で回っている。
 恋音は、ヨーヨー釣りで獲得したと思われる水ヨーヨーを、嬉しそうに雅人に見せていた。
「……こ、この後は、その、ヨーヨーが急に割れて、水浸しに……。 ……うぅぅ……」
「その図も用意してございます!」
 パァンと、また個人作成の絵を晒す雅人。
 濡れて透けた恋音の胸をガン見してしまった雅人が、恋音に殴り飛ばされている絵だ。
 後方へ飛ばされながら、なおガン見し続けるという、雅人のおっぱいへの執念が見事に表現されている。
「……先輩ぃ……このような画をいつの間にぃ……」
 抗議する恋音に、頭を掻いてニコニコと答える雅人。
「恋音が個人で絵を描いている隙に、ささっとね」
「恋音さんも、個人制作の画があるんですか?」
 明日夢に尋ねられ、恋音が自分のスケッチブックを出す。
「……はいぃ……海やお祭りに行くための、服を買いに行った時のなんですがぁ……」
 服と言いつつ、恋音が描いたお店には、服の形をしたものは売られていない。
 生地と思わしき、反物が並んでいるだけだ。
「服屋さんじゃないんですか?」
 豊満すぎる胸を抑えながら、顔を赤らめる恋音。
「……え、えと、その、自作しないと、サイズが……」
 愛莉を目を丸くする。
「服を自分で作っているんですか? すごーい!」
「……え、えと……そんな大したものではなく、ちょっとしたもので……」
 この後、恋音は規格外の胸にあった服をいかにして作っているかを説明した。
「――う〜ん、その知識は成長しても、活用出来そうにないです、私の場合」
「わ、私もですぅ……」
 愛莉と、杏風が自分の胸を見て溜息をつく。
「あら♪ あなたたちはそのままでいいのよ♪」
 幼い二人の胸を、満足げに眺めている霧依。
 雅人と恋音に、潔先生が呆れたように尋ねる。
「キミら、夏の思い出全てがおっぱいだらけやな。 ドキッおっぱいだらけの夏休みか? 渡る世間はおっぱいばかりか!?」
「……うぅ……否定出来ないようなぁ……」


 最後は愛莉と明日夢、幼い二人の合作だ。
 幼馴染同士で、家族ぐるみの付き合いらしい。
 二人は同じ日のエピソードだという絵を描いたそうだ。
 同時にそれを出す。
「一枚目です。 お兄ちゃんや近隣の人達と里帰りしました。 車に台に別れて乗って帰ったんです。 途中のサービスエリアでお風呂に入ったりご飯食べたり、後は寝てたかな?」
 愛莉の絵は、いかにも児童画だ。
 画用紙の上半分が黒く塗られ、下半分には、二台の箱が描かれている、箱の中には先の丸い棒を生やしたものが、ぎっしりつまっている
「ワゴン車に分乗して、高速道路を主に使って車で帰りました。 日中は暑いので夕方から夜が主です。 僕が乗った車は姉さんともう一人、エリの車はエリの従姉さんと従兄さんが交代で運転でした」
 一方、明日夢の絵は、小学二年生とは思えない。
 デフォルメ等の技術も使っている。
 崩れた道路の脇に車を停め、明け方の紫空の下、大人たちが地図を覗きこんで話し合っている絵だった。
「明け方途中の道が崩れて通行不能の為、迂回路を運転手の皆さんが話し合っている所です」
「明日夢くん上手ね♪ 説明なしでもよくわかるわ♪」
「愛莉の方は、先生にはようわからんな」
 サングラスを外して、愛莉の絵を見直す潔先生。
「マッチ棒みたいのは何やねん?」
 雅人が補足する。
「箱が自動車で、先が丸い棒が人でしょう。 人生を競うボードゲームとかだと、あんな感じです」
「あれかー、先生、いつも詰み切れないくらい家族が増えるねん」
「いますよね、渡る世間が子作りばかりになる人」
「あれは割と、リアルが反映される気がするんだな」

 続いて、二枚目の絵を愛莉と明日夢が差し出す。
「この日はお墓参りに行きました。 エリのお父さんお母さんはここにはいないけど、一応お墓はあります。 いつか帰れたら、遺品を回収して治めるんだってお兄ちゃんが言っていました」
 画用紙の上が緑色、下が茶色に塗られ、茶色の上には灰色のブロックが並べられている。
 灰色のブロックは、墓石だと解釈出来た。
 ただし、墓石は縦横に乱雑に並べられている。
「横倒しになっているお墓は、家族の方がお引越しして遺骨を回収されたり、供養をお寺でしているお墓なんだと、お姉ちゃんが言っていました」
 明日夢の方は、供養の意味なのか、ミニ向日葵に百日紅の花を描いている。
「お、お二人とも小さいのに、大変なんですね〜」
「……いつか帰れると、いいですねぇ……」
 杏風と恋音がしんみりと言う。
「でも、ボクにはエリも姉さんたちもいるし」
「私には、アシュやお兄さん、お姉さん、従兄弟たちもいますから」
 愛莉と明日夢は、健気に微笑んだ。

 三枚目の絵は、一転して楽しそうな色使いだった。
「近くの町のお祭りにいきました。 これは金魚なんです」
 上下二段に並んだ箱。
 上段には朱色の小さな丸が、下段には白色の丸が入っている
 箱と箱の間には、人生なボードゲーム的丸棒人間がぎっしり立っていた。
 愛莉の絵を見て、クレヨー先生が首を傾げる。
「朱色のが金魚すくいの金魚だとすると、白い丸は何なんだな?」
 明日夢の描いた絵を見ると、白い丸の正体がわかった。
 細かく言えば、赤い丸も金魚ではない。
 両方とも、ちょうちんだったのだ。
「フグちょうちん、ってありますよね? あれに似た形で、枠に紙を張って作られているのがこの金魚ちょうちんです。 この日に行ったお祭りは、昔の江戸時代――くらいかな? 
 の街並みの軒先にずらっとこの金魚が並べられて、夜になるとこの中に灯りが灯って不思議な色に町が彩られていました」
「き、金魚のちょうちんですかぁ、可愛いですねえ」
「金魚ちょうちんは、山口県の祭りが有名やね」
 ぺこりと頭を下げる愛梨と明日夢。
「これで、僕たちの発表を終わらせていただきます」
「ありがとうございましたー」


「校内放送終了! どうにか乗りきったんだな」
 クレヨー先生が、TVカメラのスイッチを切りふうっと溜息をつく。
「みんな、ありがとな。 ええ夏の思い出ばかりやったわ」
 人懐っこい笑顔を浮かべる潔先生。
「それにしても、霧依さんのアイディアには驚かされました」
「私も絵が苦手だから、ああいう知恵で表現をする人って、本当に凄いと思いました」
 雅人と愛莉が霧依に感嘆の眼差しを向ける。
 霧依はそれを、笑顔で受け止めた。
「あら♪ 私、絵は苦手じゃないわよ?」
「そうなんですか?」
「ネットのお絵かきサイトにも投稿しているのよ、見てみる?」
「ぜひ!」
 放送室のパソコンから、ブラウザを起ち上げる霧依。
 霧依の絵が表示されたとたん、皆は顔色を変えた。
 子供たちは真っ赤に、先生たちは真っ青になっている。
「こ、これは」
「……確かに、上手ですけどぉ……」
「ヤバい方向に、エロ過ぎです!」
 霧依の絵は、裸の幼女があられもないポーズをしたものばかりだったのだ。
「リクエストあれば杏風ちゃんと、愛莉ちゃんをモデルに描くわよ♪ 明日夢くんもどう?」
「い、い、いえ〜! 結構です!」
「遠慮いたします!」
「ボク、男の子です……」
 こうして2014年の夏は、一部の子供たちの心に衝撃的な思い出を残しつつ、去って行ったのであった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 群馬の旗を蒼天に掲げ・雁久良 霧依(jb0827)
重体: −
面白かった!:5人

群馬の旗を蒼天に掲げ・
雁久良 霧依(jb0827)

卒業 女 アストラルヴァンガード
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
リコのトモダチ・
神谷 愛莉(jb5345)

小等部6年1組 女 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
礼野 明日夢(jb5590)

小等部6年3組 男 インフィルトレイター
いちごオレマイスター・
五十嵐 杏風(jb7136)

大学部1年69組 女 アーティスト