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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2014/08/23


みんなの思い出



オープニング


 波の荒い日本海の海上を、一台のクルーザーが走っていた。
「ホームベースがあの浜辺なら、一塁はあの島なんかいいんじゃないかな、お兄ぃ?」
 クルーザーの甲板上で、ビキニ姿の少女が双眼鏡を覗きこみながら言った。
「ホームベースから一塁島まで何キロある?」
 サッカーユニホーム姿の男が尋ねる。
 それに答える男は空手道着を着ていた。
「二キロちょっとですかね」
「お兄ぃ、一塁島の二キロ西にも無人島があるよ」
「いい感じだ、こいつはスケールの大きい三角ベースになるぜ」


 彼らは三角ベース同好会。
 野球から派生したマイナースポーツ、三角ベースを好む一団である
 彼らの三角ベースは独特だった。
 一チームは三人。
 ベースは本塁、一塁、二塁のみ。
 ボールは、ドッヂボール用のソフトなものを使う。
 それをピッチャーがバッターめがけて投げるのだが、バッターは打撃に、生身の肉体やスポーツ用具を使って打っても良い。
 バットを使ってもいいし、同好会内のゴルフが得意なおじさんは、ドライバーを使っている。
 サッカーが得意な者はボレーシュートや、オーバーヘッドキックを使用する。 
 守備側は、打球をフライでキャッチすればアウトをとれる。
 バウンド後もボールを確保したまま、塁を踏んでもアウトをとれる、この辺りは野球同様だ。
 ただ、走者に直接タッチは許されない、代わりに投げてボールを走者に当ててもアウトをとれるというのが特徴だ。


「さっそく、やってみよう!」
 ビキニ姿の少女、真魚が本州にある砂浜でバッターボックスに立った。
 ピッチャー空手男が、マウンドでドッジボールを構える。
 真魚と空手男は同時に、アウルを発現させた。
 今日集った、同好会の面々は全員撃退士である。
「剛球・鬼神一閃!」
 空手男が左掌にボールを乗せ、左掌で叩く。
 戦車砲の勢いで、ボールが飛んだ。
「秘打法・迅雷の舞!」
 真魚は、迅雷で威力を増しつつ、空中回転し、セパタクロー的にボールを蹴った。
 踊るような蹴りで、オレンジのビキニの中で大きく張りのある胸が揺れる。
 それに目を奪われて、正面に飛んできたボールを取り損ねてしまう空手男。
 ボールは彼の頭上を越え、海へと落ちる。
「しまった!」
 空手男は、浅瀬に浮かんでいたモーターボートに乗り込んだ。
 真魚はもう、浜を駆け抜け、二キロ先の一塁島めがけて海を泳ぎ始めている。
 海上の移動は、走者は生身で泳ぐが、守備はモータボート使用可というのが、今回のルールである。
 不公平なようだが、一塁島へ向かい一直線に泳けば良い走者と、広大な海の中でボールを探さねばならない守備側とではハンデがありすぎるのだ。
 各選手が腕に付けたレーダー付き連絡機には、ボールと各選手を探知するレーダーがついている。
 それを見ながら、飛んで行ったボールを探す空手男。
 レーダーといえど、精度は完璧ではなく、そう簡単には見つからない。
 ようやく、赤いボールがマウンド後方、千五百メートルの波間に浮かんでいるのを見つけた。
 水に浮かぶ、フロートボールを使用するのはこれが理由である。
 海底深くに沈まれては、さすがに探しようがない。
 ボールをキャッチした空手男は、レーダーを頼りにモーターボートで真魚を追った。

 

 一方、走者の真魚も腕に付けたレーダーで、モーターボートの接近に気が付いていた。
 しかし野球同様、走塁コースは定められている。
 両サイド三m幅に並ぶブイの回廊から、逸れて泳いだらアウト。
 ひたすら、一塁島めがけて、泳ぐだけである。
「やばっ!」
 空手男が物凄い形相で近づいてきている。
 その左掌の上には赤いボールが乗っていた。
 ボートは、走者用ブイの間に入れない。
 なので、ボールを、真魚にぶつけようというのだ。
「直撃アウトだ! 石火!」
 アウルドッヂボールを思わせる剛速球!
 真魚は慌てて海に潜った。
 浮力のあるボールなので、潜れば当たりにくくなる。
 むろん、威力のありすぎる投球だと、水を突き抜け当たってしまうケースもあるが――、
「危な!」
 今回は躱したようだ。
 逸れたボールは、海水の上をはずみ、あさっての方角へ飛んで行ってしまう。
 空手男が慌てて、それをボートで追う。
「やった! これでしばらく時間が稼げる!」
再び、一塁島へ向け、クロールで泳ぎだす真魚。
やがて、一塁島からもう一台、別のボートが発進してきた。
「お兄ぃ!」
 真魚の兄は、敵チームの一塁手である。
「でも、ボール持ってなきゃ、お兄ぃでも怖くないもんね!」
 ボートの脇を、悠々と泳いで通過しようとする真魚。
「ほれっ」
「あ」
 兄は、クロールする妹のお尻にボールをぶつけた。
 空手男が拾ったボールをすでにパスされており、ボートの中に隠しておいたらしい。
「隠し球? お兄ぃ、せこーい!」
「はっはは! 隠し球くらい野球にだってある! 油断大敵!」
 真魚は、大海原ベースボールにおいて、記念すべき初の出塁者になる事は叶わなかった。
 だが、壮大なスケールの新ゲームを日が暮れるまで心行くまで楽しむ事が出来た。


 夕日沈む浜辺に大の字になり、真魚は心地の良い疲れを感じていた。
「あー、おもしろかった!」
 空手男の方は、ヘロヘロになりながら栄養ドリンクを飲んでいる。
「ひ、ひどくハードです、塁一つ進むのに、三十分以上泳がねばならないとは」
「一点とるのに最低一時間半かかるわけだ、一試合は三イニングが適切かな」
 そう言いつつ、スマホで、同好会ホームページのルールブックを更新してゆく兄。
 『大海原三角ベース』は三角ベース同好会の発足十周年イベントとして、広く一般に楽しんでもらう予定なのだ。
「フェアボールで四キロ以上飛ばしたら、ホームランかな」
「だね、今日は出なかったけど、大会の時はその辺りにもブイを浮かべようか」
 ボールは軽いが低反発のものを使っているので、滅多にホームランは出ないはずだが、撃退士がやる以上、四キロ飛ぶ可能性だってなくはない。
「子供の遊びだと笑われ、苦汁を舐めてきた三角ベースだが、この通り、ルール次第では野球以上に柔軟かつ、ダイナミックなスポーツとなるぞ! アウルサッカー、アウルベースボール、アウルドッヂ――すでにいろいろあるようだが、これからはアウル三角ベースもその一角に加えてもらう!」
 天魔たちとの戦いが終わり、平和が訪れれば、アウルの力を行使する別の受け皿が必要になるだろう。
 そういった物がなく終戦が見えてきた場合、焦った将兵が暴走して、思わぬ結果を生む事などよくある話である。
 まだ終戦の足音は聞えない状態だが、心の余裕として用意しておくべきものなのだ。
 何より三角ベースを楽しんでもらうため、三角ベース同好会の面々は、夏の大運動会を機に“大海原三角ベース大会”の開催を、ホームページで宣言した。


リプレイ本文


「三角ベース……初めて聞くスポーツですが、人数が少ない割に中々壮大なルールですねえ」
 エイルズレトラは、浜辺から海を見渡した。
 塁と塁の間が二キロ離れているという、超スケールマジキチスポーツ。
 こんなもの、久遠ヶ原以外の世界では成立しないと思われる。
「男子対女子ねぇ、しかも相手には姉さんと新井がいるのかぁ、本当に……愉しくなりそうだねぇ」
 歩が言った通り、チーム分けは男女でスッパリ分けてしまった。

【Aチーム】
投手 雨宮 歩(ja3810)
一塁 フェイン・ティアラ(jb3994)
二塁 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

【Bチーム】投手 
投手 一川 七海(jb9532)
一塁 雨宮 祈羅(ja7600)
二塁 新井司(ja6034)


 一回表、トップバッターは白ビキニに、釘バットという、アンバランスなようでいて、ある意味どっちも“ヒャッハー”な格好をした七海。
 野球経験者という事で、知識とモチベから女子チームのエースと目される。
「かっとばせー、ア・タ・シ! 相手チームぶっ倒せー、オー!」
 セルフ応援歌を口ずさんでいる。
「やる気満々だねぇ」 
 男子チーム投手の歩は、オーバースローを振りかぶった。
 Vボールにアウルを込め――第一球!
 しっかり球を見て、見送る七海。
「なるほど、こんな感じか」
 経験者だけに感覚の差を、見て埋めてゆくつもりらしい。
 第二球。
 放たれた速球に対し、バットをぎりぎりまで溜めてから振う!
 独特の軽金属音が響き、Vボールが二塁島方面へ飛んだ!


「はい、準備万端ですよ」
 打球を確認したエイルズレトラのモータボートが、海原を駆けていた。
「ダイヤ、もう見つけたんですか、さすがです」
 ダイヤと呼ばれる翼ある小さな獣が、水面に浮いていたボールを尾で叩く。
 あらかじめ放っておいた召喚獣に打球を追わせたのだ
 エイルズレトラは、ボールをキャッチした。
「次は走者を仕留める段階ですね、一塁島のフェインさんにも連絡しておきましょう」


「一塁島ってここだよねー?」
 連絡したら、むしろ不安になる事を言ってくれたのが、フェイン。
『――だと、いいですねえ』
 とりあえず、船のエンジンをかけるが――。
「乗り物の運転ってー、初めてでどきどきするー」
 何もかも初めてづくし、ファースト島の護り手に相応しい初心さだった。


 一塁島めがけ、クロールで波をかき分ける七海。
 腕のレーダーが、点滅を始めた。
「なに、これ?」
 戸惑う間もなく。
「多分、ボールが来たって事ですねー」
 背後から接近してきたモーターボートからボールが放たれ、七海の背中に当たった。
「ワンナウトです」
 ボールを投げたのは、むろんエイルズレトラだ。
「こういう感じか――やってみればわかるものね」
 落胆どころか、何かを掴んだような顔の七海。
 大海原三角ベースは、壮大にのんびりと始まった。


 二番バッターは祈羅。
「まさか姉さんと、こういうゲームで戦う事になるとはねぇ……愉しくなりそうだねぇ」
 対峙する投手の歩とは、夫婦関係にある。
 呼び方は結婚前からの、引き継ぎらしい。
「歩ちゃん、私、野球もやったことないんだけど、どうしよう」
「愉しい以前の段階ですか」
「とりあえずやり方教えて」
「敵チームなんですけどぉ」
 歩は闘志を萎えさせながらも、とりあえず野球のイロハは教えた。
 変に渋ると、愉しいゲームになりそうにない。
「じゃあ本番、いきますかねぇ」
 オーバースローで直球を投げる歩。
 祈羅のバットがそれを、捕えた!
「歩ちゃん、飛んだら一塁島に走るんだっけ?」
 尋ねたが、コーチ兼、夫兼、敵は、砂浜からとうに姿を消していた。
 打たれた投手は、のんびりコーチングなんかしていられないのだ! 


 ホームより約千m地点。
 水をかく祈羅の右腕に警告音が鳴り始める。
 後ろから、ボールを手にした歩がボートで迫ってきている。
「きたっ!」
「姉さん、仕留めさせてもらうねぇ」
 祈羅の泳ぎの軌道を予想し、正確にショットしてくる歩。
 その時、奇跡めいた光景が起こった。
 海が割れたのだ。
 モーゼのそれのように海底までの道が出来たりはしないが、祈羅の周りに小道のようなものが出来、近づいたボールが跳ね飛ばされた。
「ウィンドウォールですか、やりますねぇ」
 体の周囲に風の壁を発生させて、ボールを避けたのだ。 
 こうして祈羅は、この試合初の出塁者となった。


「初めての真剣勝負ってやつだねぇ。 負けないよ、新井」
 三番打者の司も、歩とは友人関係にあった。
「暑いから、早めに海に入らせてもらうわ、二kmの遠泳なんて良いトレーニングになりそう」
 打ち気満々の司。
 歩が投げた。
「ここ!」
 司が烈風突を繰り出す。
 拳はボールを捕えたが――。
(真芯を外した?)
 ボールに変化がかけており、今までの直球とは感覚がずれていた。
 半端にあがってしまったボールは取りごろのフライになる。
 その後も、歩は打たせて捕る戦法に徹底。
 女子チームは初出塁に成功したものの、無得点でチェンジを許してしまった。


 一回裏。
 女子チーム投手の七海は、男子チームトップバッターの歩を、ファールフライに打ち取る。
 迎えた二番打者は、フェイン。
「ボール打つのはどれ使えばいいのかなー……紫檀に、尻尾で代わりに打ってもらっちゃ駄目かなー?」
 審判の真魚に聞くとOKだという返事が貰えたので、召喚獣を呼ぶ。
「しっかりー、落ち着いてー、ボールをよく見てー」
 紫壇に指示を与えているフェイン。
「あら、そんな指示でいいの?」
「え?」
「いくわよ」
 七海は、振りかぶると同時に足元を強く蹴った。
「魔球! 増える魔球!」
 放たれたボールを紫檀の尾が打ち返す。
「おおー……打てたー! 高くとんだー! ……あっ、一塁にいかなきゃいけないんだっけー?」
 走り出すフェイン。
 しかし、浜辺から海に入る前の彼の体に、ボールがぶつかった。
 Vボールは、海の彼方へ飛んで行ったはずなのに?
「アウト!」
「え……なにー?」
「今、あなたたちが打ったのはサッカーボールよ」
 フェインの体から跳ね返ってきたVボールを手にしながら、七海が笑う。
 七海はマウンドに隠したサッカーボールを投球直前に蹴り出し、わずかに時間差をつけて本物のVボールを投げたのだ。
「自由な発想は、新しいスポーツの魅力よー!」
 七海の笑顔は本当に楽しそうだった。


 続いてエイルズレトラが三番打者。
「さっきみたいな手品は、奇術士には通用しませんよ」
 増える魔球を読まれ、動揺する七海。
 投げられたボールに対して、ギャンビットカードを放った。
 カードの爆発で勢いが増加したボールが、海原へと跳んでゆく。
「打たれた! 二塁島方向!」


 二塁島の番人は司。
 彼女は双眼鏡で、ホームの方向を観察していた。
「こっちへきたわね」
 急いでボートを発進させる。
 フライとしてキャッチするには、打球に勢いがあり過ぎる。
 野球ならばホームラン性の打球だ。
 だがエイルズレトラは、堅実に一塁島で停まった。
「無理しても仕方ありませんし、歩さんに期待しましょう」
 司が双眼鏡確認で早めに飛び出さなければ二塁打か、それ以上もあった打球だった。


 打順が、歩に戻った。
 彼のバットが、血色のオーラ纏う。
「まさかバットでこの技を使う時が来るとは思わなかったけど……容赦はしないよぉ」
「勝負!」
 七海から放たれるVボール。
 対する歩のバットには『抜刀・血翔閃』の奥義が込められていた。
 迷いなき一刀がボールに血の色の翼を与え、空へと羽ばたかせた。


 一塁島の番人である祈羅が海上に落ちた、それを探す。
 ようやく発見し、夫・歩の背中を追わんとすると、無線から七海の声を響いた。
『エイルズレトラ君を狙って! もう二塁島を蹴ったの!』
「ええ、点取られちゃうじゃないですか」
 レーダーと船速を活かし、エイルズレトラを追う。
「いたっ」
 青く壮大な海面の中に、赤く小さな点を見つけた。

● 
 数分後、エイルズレトラは包囲されていた。
 正面から七海、司が後方、祈羅が側面から迫ってくる。
(女性三人に囲まれるとは光栄ですね)
 精神的にはいつも通り余裕なのエイルズレトラだが、肉体的には相当に消耗している。
 延べで一時間半近く、海を泳ぎっぱなしなのだ。
 疲れがピークに達したかのように、その場に仰向けに浮いて止まる。
「いただき!」
 そこへ祈羅がVボールを投げつけてきた。
 HIT!
 ただし、エイルズレトラにではなく、彼が再召喚した召喚獣の尾にだ。
 フェインが打席でしたのと同じく、召喚獣にボールを打ちかえさせたのだ。
「ああ!」
 あらぬ方向へ飛んでゆくボール。
「人の心に隙を作るのが、奇術士の本分です」
 そこまで迫っている砂浜の本塁目指して、泳ぎ始めるエイルズレトラ。
 
 だが――。
「不可視殺球! 超七海ちゃんボール!」
 Vボールが頭に炸裂した。
 深い闇を纏ったそれを、エイルズレトラは認識出来なかった。
「もうボール見つけたんですか、早いですね」
「文字通り人海戦術って奴ね」
 七海の指示で連携を作って、ボールを集中捜索したらしい。
 初得点間近で刺されてしまったエイルズレトラだが、その粘りにより、後続の歩に二塁を確保させる事に成功した。


 続く打順は歩なのだが、彼は現在二塁にいる。
 透明ランナーを二塁島に置いて、歩が浜辺に戻り打席に立っても良いが、それが戦術的に有効な状況でもない。
 現在浜辺にはフェインとエイルズレトラが控えている。
『代打をお願いしましょうかねぇ』
 エイルズレトラはバテバテ真っ最中なので、フェインが打席に立った。
「魔球! 増える魔球!」
 再び足元に埋めておいたボールを、蹴り出す七海。
「白黒はダメだよー、赤いのを打ってー」
 紫檀にそう命ずるフェイン。
 またサッカーボールが飛んできたが、今度こそ騙されず、紫檀の尾はVボールを叩いた。


「代打成功ですかぁ」
 打球を確認し、二塁島目指して泳ぐ走者、歩。
 千四百mほど来た時、頭上に突如、水着姿の妻が出現した。
 一般人なら披露よって見た幻と判断しかねない光景だが、撃退士夫婦は違う。
「瞬間移動――からのワンダーショックですかねぇ」
 夫婦の皮肉な以心伝心というべきか、落ち着いて祈羅の行動を読んでいる。
 祈羅から放たれる魔力による剛直球!
 だが、それが届く前に、歩は海中深くへ逃げていた。
 ボールは、勢いそのままに水面をどこかへ跳ねていく。
 強力な刺し球は、諸刃の剣なのである。


 ボールをフォローしたのは、司だった。
「行かせないよ!」
 船のエンジンを全開にして歩の前に回り込むと。
 空識。
 海中にまで及ぶ衝撃波を、歩の進路に走らせる。
「潜って逃げれば、ただではすまないってことですかねぇ」
 防具がないので、衝撃波を喰らうような危険を冒すわけにはいかない。
「これで逃げ場はないよ!」
 歩の体に、ボールを投げつける司
 だが、その瞬間、歩の周囲に血色の結晶が出現した。
 血晶・万華鏡!
 目が眩んだ、司の手元が狂う。
「しまった!」
 隙を突いて歩は浜辺に上陸。
 本塁に到達し、男子チームが先制点をあげた。

【チームA 1-0 チームB】


 その後、互いに“出塁は出来ても得点出来ない状態”が続く。
 原因は、スタミナだ。
 一塁島までは潜水回避や小回りの効く走者が有利に進めても、二塁島付近になると、体力の低下から反応も鈍ってくる。
 出塁回数を重ねるほど、より手前の地点でその状態となる。
 一得点をするのに、最低でも延べ一時間半泳ぎ続けねばならない大海原三角ベースの特性だった。


 最終回となる三回裏、女子チーム最後の攻撃。
 一点を守り切れば、男子チームの勝利となる場面。
 バッターは司、ツーアウト、一塁島に走者・祈羅、2アウト2S2Bという場面。
「探偵の推理力を活かした投球、見破れるかなぁ?」
 実際に司は、ここまで歩の投法に翻弄されっぱなしで来た。
 だが、司とて基本データは把握してきている。
 歩は、変化球を投げる時はサイドスローなのだ。
(今はオーバースロー――つまり速球かフォークかだ)
 一球目が放たれた。
 低めの球! 打ち頃の速度! 
 ストライクが入れば試合終了!
 だが、見送る。
「ほう、今のに手を出さないとは?」
 返事をしない司。
 理由らしい理由はない。
 直感である。
 後付理由で言えば、歩の性格からいって、ウイニングボールに直球は選ばないだろう、というところだ。
 審判が、ボールを宣言した。
 今のは、フォークだったのだ。
 歩も無言のまま、次のボールを振りかぶる。
 今度はサイドスロー。
(泣いても笑ってもこれが最後だ!)
 どんな変化球か――そんなものは考えない。
 烈風突でとにかく、全力でぶっ叩く。
 打も、走も全てを速度に賭ける!
 芯を捉えきれなかったボールは、一・二塁間に落ちた。
 踏天で、足に力を集中させる。
 大地を越え、海を、波を、強力な力で蹴り進む。
 (水の抵抗は無駄な脂肪が無い胸が軽減してくれている。 この体型は即ち、天が己に与えた“英雄であれ”というメッセージなのだ)
 己に言い聞かせる司。
 だが船でボールを拾った歩は、
「最後は姉さんを仕留めてゲームセットとしますか」
 司を追わず、祈羅の元へ向かい始めた。
 胸の大きさ、関係なかった!


 本塁目指す祈羅に、夫が追ってくる。
「雨宮雨宮大戦、もう終わってると思ったら大違いよっ!」
「泳ぎながら言うと舌噛みますよ? けどまぁ、やるなら全力で。 さぁ、勝負の時だぁ」
 ボールを構え、迫ってくる歩の船。
 祈羅には切り札があった。
 この時を狙っていた。
「異界の呼び手!」
 謎の手を召喚し、夫の動きを拘束したのだ。
「え? これは」 
 乗り手が動けなくなったモーターボートは、ブレーキもかけられず、全速のまま海の彼方へ突っ走っていってしまう。
「やったぁ」


 結局、歩が帰ってくる頃には、地平線は夕日に染まっていた。
「やれやれ、文字通り、あんな“手”があったとは」
 謎の手たちが、勝手に舵を切って、あらぬ場所に連れて行かれたらしい。
 七海が勝利を祝う花火として打ち上げたファイアワークスが見えなければ、ガチ遭難していたところだった!

【チームA 1-2 チームB】

「つ、つかれたよー」
「遠泳って、体力の消耗が半端じゃないですね」
 グッタリと浜辺に寝そべる、皆。
 そんな中、七海は、自分のバッグをゴソゴソと探り出した。
「栄養ドリンクですか、七海さん?」
「チョコレートとかあったら、一口分けてくれると助かります」
 皆が期待する中、七海が取り出したのは――。
「あなた達、三角ベースだけじゃなくて野球もやりましょうよ! 楽しいわよー♪」
 野球ボールとグラブだった。
「い、今からですか!?」
「まだボールが見えるうちに、始めちゃいましょう!」 
 野球好きのやる気と元気に、付いていけそうになかった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・雨宮 祈羅(ja7600)
 魔球投手・一川 七海(jb9532)
重体: −
面白かった!:1人

奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
雨宮 歩(ja3810)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
新井司(ja6034)

大学部4年282組 女 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
雨宮 祈羅(ja7600)

卒業 女 ダアト
桜花の護り・
フェイン・ティアラ(jb3994)

卒業 男 バハムートテイマー
魔球投手・
一川 七海(jb9532)

大学部6年6組 女 鬼道忍軍