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「こんにちは、取材を申し込こませていただいた者です」
「はい、どうぞいらっしゃいませ」
撃退士の訪問一件目、桜井・L・瑞穂(
ja0027)さんの家
オートロック式の上、玄関に守衛までいる、高級マンションだ。
さすがに撃退士の給与だけで賄える家賃ではなさそうだし、相当なお嬢様だろう。
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エレベータを登り、ドアを開けると、
「ようこそ、わたくし達の愛の巣……じゃなくて! 部屋へ、ですわね、うふふ、おーっほっほっほ♪」
上品なドレス姿の、お嬢様な娘が待っていた。
愛の巣?
気にしながらも部屋を見回す。
小奇麗な内装に、見た目の派手さよりも実用性重視した家具が並んでいる。
だが、どれも高級品だろう。
「何か気になりますの?」
「あ、すみませんジロジロ見てしまって」
この部屋の中にあって、視線を吸い寄せられるものがある。
人形だ。
ゴスロリ服を着た美しい少女の人形が、行儀よくソファーに座っている。
「いいえ、遠慮無く見ていって下さいな。 ね、緋色」
「そうだね、瑞穂」
人形が突然、微笑んだので少し驚いた。
あまりの美しさにそう思い込んでいたが、人間の少女だったらしい。
「ほら、緋色。 貴方の特等席は、此処ですわ♪」
帝神 緋色(
ja0640)さんは、瑞穂の膝の上に当たり前のように腰かけた。
後ろから緋色さんの小さな体を、抱きかかえる瑞穂さん。
そのまま、緋色さんの顔や髪を愛しげに撫で始める。
あまりの甘々さに、独り者の俺は絶句した。
「まあ、驚かせてしまいましたわね、緋色」
愛の巣か、いいなあ。
俺なんか、ブレノスアイノスでさえ行けそうにない。
しかも、女の子同士、物凄い背徳的だ。
「差支えなければ――お二人は、どういった関係でしょうか?」
質問したとたん、緋色さんは蠱惑的にくすっと笑った。
不意打ちのように瑞穂さんの唇を味わい始める。
「あら、緋色? 如何しまし――って、んんぅっ!?」
自分より体の大きい、瑞穂を押し倒す緋色。
「ひ、緋色。いけませんわ、見られて、見られていますのぉっ♪」
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「申し訳ございません、お恥ずかしいところをお見せして」
「い、いえ」
玄関まで見送りにきてくれた瑞穂さんが、頬を赤らめたまま言う。
「普段から何かと、“彼”の言動に振り回されることが多くて」
「男性なんですか!?」
一瞬、頭が真っ白になった。
この上品そうなお嬢様は、少女人形のような姿をした美少年と愛し合っているのか。
それはより背徳的じゃないか!
もう撃退士のノンフィクションなんかよりも、その題材で小説を書いた方が売れる気がしてきた。
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「初めまして、袋井です」
学生寮のドアを開けると掃除の手を止めて出迎えてくれたのは、眼鏡をかけた普通の少年だった。
袋井 雅人(
jb1469)君。
ホッとする。
いかにも健全な高校生ぽい彼なら、甘々になってしまった口の中をゆすいでくれるだろう。
「ここは陽報館っていう学生寮です、久遠ヶ原学園の学生達数人と一緒に共同生活をしていますよ」
そいつは楽しそうだ。
毎日が修学旅行な雰囲気なのかもしれない。
そこへ、ひょこっと、Tシャツ姿のおっぱいが顔を出した。
「……取材の方いらしたんですかぁ?」
いや、おっぱいだけでなく顔も手足もあるのだが、印象的にはおっぱいだ。
それくらいおっぱいなおっぱいだった。
「恋人の恋音です、以前、住んでいたボロアパートが取り壊しになったので、恋人と一つ屋根の下で暮らすために、引っ越してきたのですよ」
月乃宮恋音(
jb1221)さんと並んで、幸せそうに笑う袋井君。
やれやれ、おはぎを喰い終わったと思ったら、次はお汁粉を出されてしまった。
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共同スペースの食堂に案内される。
ここで袋井君がインタビューに答えてくれた。
「私は、戦闘依頼で遠出をしている時以外は、ほぼ恋人の恋音と一緒に過ごしていますね」
奥の台所から、奥さ……いや、恋音さんが声をかけてくれる。
「……コーヒーと緑茶どちらがよろしいでしょうかぁ?……」
「緑茶でお願いします、思い切り苦くして下さい」
そうでもしないと、糖尿病になりそうだ。
ほどなく、恋音さんが緑茶を運んできてくれた。
「ありがとうごうざいます、あっ!」
掃除で使ったワックスが、床に残っていたようだ。
足を滑らせて転ぶ恋音さん。
「恋音! 危ない!」
それを袋井君が慌てて受け止めた――のだが、
「え?」
どうしてこうなったのか?
袋井君の頭が、恋音さんのTシャツの下にツッコまれている。
「ハハハッ、ラキスケ体質っていうんですか、こういうのは日常茶飯事ですよ」
「……先輩ぃ、胸に入ったまま、お喋りするのはやめてくださぁい……」
その後、御馳走になった昼食で、恋音さんは塩の効いたおにぎりを出してくれた。
「ちょうど体が求めていた塩加減だよ、恋音さんは気が効くねえ」
「……熱中症対策には塩を多めにしたほうが良いと聞きましたのでぇ……」
甘々な雰囲気を軽く皮肉ったのだが、真面目に受け止められてしまった。
独身三十路は、これだからダメだ。 僻み深くなっている。
「恋音は気が効くから良いおヨメさんになりますよ! 僕のね」
この二人と一緒に過ごしていると、糖尿病に加えて、熱中症になりそうだ。
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嶺 光太郎(
jb8405) 君の家の前に行くと、インド的な香りが漂ってきた。
内側からドアが開き、嶺君が顔を出す。
「あー、来たか。暑い中ご苦労さん。 っと、今は友人……親友の青海とカレー作ってる。
依頼で結構稼いだから、寸胴鍋で国産牛のビーフカレー作ろうって約束してたんだよ。
食いたいなら食ってけ」
面倒くさそうな表情を見た時は、取材が迷惑なのかと思ったが、言葉を聞いている限りそうでもないらしい。
部屋に入ると、俺より先に俺が思っていた事を嶺君が言い出した。
「あー、家はみての通りボロい。 あちこち軋むし、日当たり悪いし、夜中変な声は聞こえるし、欠陥住宅もいいところだ」
そうなのだ。
このアパートは、かなり古い。
良い感じに表現しろと言われたら、昭和そのままの雰囲気という表現になる。
「だが安いぞ。 六畳1Kで月二千円。 おかげで俺でも住める。 クーラーや洗濯機、冷蔵庫といった家電も大家が譲ってくれたしな……古いのばっかで音がすごいが、ないよりましだ」
安すぎる。
さっきは夜中に変な声が聞こえると言っていたし、いわくつき物件だろうか?
ツッコんで聞こうとした時、嶺君が突然、立ちあがり、台所へ走って行った。
そこで料理をしていた青海 藤(
jb8406)君に注意をしている。
「いいか、お前は触るな。 絶対に触るなよ。 焦げたカレーとか食いたくねえからな」
どうやら、青海君に火を扱わせたくないらしい。
自分がメインになって、カレーを作り始めている。
「炒めたり煮込んだりってのは俺がやる。 必ず、か・な・ら・ず! 俺がやる」
ここまで火から遠ざけられている青海君というのは、何者なんだろう?
水属性なのか?
体が火薬ででも出来ているのか?
性別すらパッと見わからないし、完全に謎の人物だ。
ちゃっかり、ごちそうになってしまった。
袋井君のところで、おにぎりをいただいたばかりだったので、軽く味見だけさせてもらった程度だが、野菜たっぷりで旨かった。
嶺君も大盛りを平らげて、満足そうな顔をしていたな。
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十三歳の少年・音羽 海流(
jb5591) 君の家は、校舎群近くのマンションにあった。
「大きい家だね、海流君の家ってお金持ち?」
個室が六つと客間、LDKとバルコニーのあるかなり広い空間が広がっていた。
「大家族なんで、必要なだけです」
「多分それぞれ一人暮らしするより価格低いと思うぞ」
口を挟んだのは海流より三つばかり上に見える少年、音羽 聖歌(
jb5486) 君だった。
「あ、上の兄です」
「もっと詳しい事は兄貴に任せます。 色々判ってますので」
「引き受けたのはお前だろうか…まったく」
文句を言いつつも、リビングに通してくれた上、アイスコーヒーを御馳走してくれるのだから、面倒見はいい。
「海流は当時小学生だったんであんまり覚えてないんですよ――うちは義弟も入れて七人兄弟なんですが――」
七人! そりゃ確かに、大家族だ。
「一番、上の兄と、一番下ちび以外全員同時期に能力がある事わかりまして、久遠ヶ原に移り住む事になったんです。 ただ小さい子もいましたし、バラバラに寮に入ると家族と連絡がとりにくいじゃないですか、それで、この大きなマンションを借りる事になったんです」
「大家族だと家事も大変でしょ? 当番制?」
「いや、兄貴が一手に引き受けてくれています、兄貴を除くと、家事が壊滅的にダメな兄弟で」
はにかむ海流君。
家事は経験だと思うのだが、頼りになりすぎる人がいるから任せきりになり、余計にやる機会が減っているのもあるのかもしれない。
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海流君と聖歌君は、バルコニーに案内してくれた。
「このマンションは上が大家族用、下に行くにつれて小人数用になるんで、二人暮らし用とか一人暮らし用も見られますよ」
部屋は一番上の直下の階にある、眺めは良好だ。
「今日はちび達の為に屋上でバ―ベキューなんです、良かったらお付き合いしませんか?成人もいるんで軽いアルコールもありますよ」
魅力的なお誘いだが、悔しい事にこの後も取材が残っている。
夕方以降に、アポをもらった相手がいるのだ。
ビールを飲みながらのバーベキューに後ろ髪を引かれつつも、音羽家を去った。
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「つまらない家ですがよければ……おあがりください……」
草刈 奏多(
jb5435) 君の家は、猫&ドーナツだった。
家は猫系の家具だらけだ、そしてドーナツ屋を兼ねている。
アポを夕方にくれたのは、店じまいをしてからという理由らしい。
俺を居間にあげてくれると、ドーナツと紅茶を出してくれた。
「両親がドーナツ屋でしたので……こちらでも開いています……味は、両親の残してくれたメモをもとに改良しています……」
両親の事を過去形で話すのはつまりは、そういう事だろう。
久遠ヶ原にはそういう若者が多い。
「一人暮らしなの?」
草刈君は、こくりと頷いた。
「もう慣れました……今は友人もいますし……何より……一人じゃなくて、“数匹”で暮らしていますから……」
「数匹って――猫だよね」
家具の模様もみんな猫だし、草刈君自身も、猫耳帽子を被っている。
これで犬を飼っていたら、逆にびっくりするレベルだ。
「猫様なら……たくさん飼ってます……」
「猫様?」
「いつも……ドーナツ作って、猫様の世話して、ドーナツ作っての繰り返しです……平和っていう奴ですかね……」
猫様?
生類憐みの令でも出ているのか、この家には。
気になる事は、もう一つある。
「ガレージに、ドーナツで出来た自動車があったけど何なのあれ?」
「お客様に頼まれたものでして……定期的にあのように作っています……」
何かのイベント用の特別なものだと思っていたが、定期的に作るほど需要があったのか?
量産型なのか? 一体、何に使っているんだ?
その客に今度は、取材をさせてもらいたくなった。
「あまり、面白くない家紹介で申し訳ありません……自慢できるのはドーナツと猫様くらいなもので……」
「いや、充分すぎるほど、面白かったよ」
自分のユニークな魅力に気付いていないんだな、と思った。
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「偵察狙撃兵のリリィ・マーティンだ。 会えて嬉しいよ」
リリィ・マーティン(
ja5014)は、金髪で引き締まった体をした女の子だった。
十五歳だというが、一般的なミドルティーンとは表情が違う。
軍人を両親に持ち、戦場で生まれ、戦場で育ったらしい。
「ここが私の部屋だ。 上がってくれ」
俺が靴を脱ごうとすると、
「あぁ、日本人はそうだったな。 そのままでいい」
こういう会話を現実に、体験するとはね。
ハリウッド映画に出てくる、日本人キャラクターになった気分だ。
一方、リリィは土足でスタスタ上がっていく。
歩法からして、戦場ナイズな気がする。
足は俺の方が長いのに、追いつける気がしない。
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「アカリ、今戻った。 付近に異常なし。 全く、平和すぎるな日本は」
リリィが話しかけたその先に、もう一人の女の子がいた。
髪型と、その色以外はそっくりだ。
「こっちはアカリ・アマミヤ。 私の双子の姉で空挺部隊の出身だ。 今はこいつと二人で暮らしている」
「ご苦労様……って、あらぁ?そちらの方々は?」
名刺を渡して、しがないライターである身分を名乗る。
「雨宮アカリよぉ。 リリィがお世話になってるわぁ」
雨宮アカリ(
ja4010)も、リリィと同じく日本の女の子とは雰囲気が違っていた。
もう部屋からして、女の子ってイメージじゃない。
綺麗と言うより殺風景だ。
家具は、長机やパイプ椅子等。
ロッカールームには武器、弾薬、戦闘服、装備一式が整理されて置かれている
「味気ないでしょお?」
「いやいや、あるよ」
火薬の味だ。
数件で体験した甘々とは真逆だな。
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寝室に案内される。
簡素な鉄パイプのベッドと勉強用らしき机が2つ、壁には米仏の国旗、棚の写真には家族のものらしき写真が飾ってある。
「初めて我々家族が揃った時の写真だ。 イラクでな。 この時アカリにも初めて会ったのだ」
双子なのに、大きくなってからの初対面なのか……ドラマみたいだ。
「今、ご両親は?」
家族の職業柄、少し尋ねにくい質問だったが、写真を紹介された時の雰囲気からして、そういう事にはなっていそうにない。
「マーティン二等軍曹は現在基地勤務だと聞いている。アマミヤ少尉はどうなんだ?」
リリィの方は、両親を階級で呼んでいるらしい。
骨の髄から軍人か。
「お父様は、GCP小隊だから活動内容は私でも知らないわぁ」
「お父さんとは、あまり会う機会がないの?」
「そうだな、特に私は主にマーティン二等軍曹に訓練され……訓練……さ……れ……」
リリィの様子が突然、おかしくなった。
ガクガクブルブル震えている。
「あらぁ、ダメじゃなぁい、お母様との訓練を思い出しちゃあ」
この娘らにとって、親に施されたのは教育やしつけではなく訓練なのか!?
一体、どんな恐ろしい目に遭わされてきたんだ!?
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本日の取材を終えた。
ブルジョワ、学生寮で共同生活、安アパート、大家族、ドーナツ屋、軍人。
六人いて、共通項が何一つない。
よく表現すれば個性豊か、正直に表現すればカオスだ。
「こんな連中が任務になると、まとまるんだからな」
呆れ半分に呟いたが、転ずれば、別の世界の住人を受け入れる器量を持っているという事だ。
『彼らと触れ、天魔戦争の良き終結にも希望が見えてきた』
俺は、ワープロソフトにこの一文を打った。
今から書く新作小説の、締めの文章だけ先に書いてしまった。
さあ、この締めに向かって、走れ、俺の指! 走れ、撃退士たち!