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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/08/17


みんなの思い出



オープニング


 東京都墨田区にある、とてつもなく高い展望室。
「こいつぁ、酷ぇ」
 夏休みで人の賑わう展望室の中、あちこちの内壁外壁が無残に破壊されていた。
 壁の所々には、人の拳の跡がついている。
 現在、警察がその惨状を捜査し、勤務職員に事情聴取をしている。
「はい、その日はカップルが多かったんです。 とりわけイチャイチャしているのが一組おりまして、その後ろに並んでいた男が、時折、苛立ったかのようにカップルの背中を睨み付けていたのが、印象に残っています」
「ふむ、そいつだな、その男が壁を破壊した可能性が高けぇ」
 ベテラン刑事は、とっとと捜査を終わらせようとした。
「いえ、その男自身ではないんです。 男が苛立ちの限界に達したかのようにメールを打つと、どこからともかく別の人間が出て来まして、男の代わりに壁を殴り壊して逃げ去りました」
 警官たちは、顔を見合わせた。
「壁殴り代行業者か――」


 壁殴り代行業者とは、ストレス解消を目的としている業者である。
 ここ数年、首都圏を中心に増殖しており、マイナーな動画サイトなどを見ると、再生前にこんなCMを見せられる。

●【壁殴り代行業者CM】
 大学の講堂。
 長身イケメン君が、隣の席のずんぐりむっくり君に話しかけている。
「俺さ、もう二か月もカノジョいねえんだよ、やばくね?」
「そ、そうなんだ?」
 机の下で拳を握りしめ震わせている、ずんぐりむっくり君。
(僕なんか二十年以上、いねえよ!)
 
会社のオフィス。
 地味な眼鏡のサラリーマンが、課長席の前に立っている。
 課長はイケメンで、机の上の写真たてには新婚の美人嫁の写真が飾られている。
「またまたー、彼女くらいいるでしょ、若いんだから!」
「いえ、本当にいないんです、彼女」
 課長、素で驚いた顔。
「え? なんでいないの? 欲しくないの?」
「欲しいんですが――すみません」 
気まずげにお辞儀しながら、足早に廊下に出る地味眼鏡くん。
 その拳も怒りに震えている。
(何で、いて当たり前って口調なんだよ!)
 
 ずんぐりむっくり君と、地味眼鏡くん、非モテ男二人が、それぞれ自室に帰り、悔しそうに壁の前で拳を震わせている。
『こんな日は、家に帰って壁を殴りたくなりますよね? でも、その前にちょっと確認、壁を殴る筋肉、ありますか?』
 流れてきたナレーションに、ガクッと肩を落とし同時に答える非モテ男たち。
「ない」

 筋肉隆々の男たちが、二人の部屋にそれぞれ現れ、両手でガンガン壁を殴り始める。
『そんな時に、壁殴り代行! 屈強なスタッフが貴方の代わりに壁を殴ってくれます!』
 崩れてなくなってゆく自室の壁を、ニコニコ顔で見つめる非モテ男二人。
 壁が粉砕されると、嬉しそうに顔を合わせ、カメラ目線で声を揃える。
「気分はスッキリ! 料金、ポッキリ! 壁殴り代行」


 このCMには嘘がある。
 大半の人間は“家に帰って”ではなく、“今、この場で”壁を殴りたくなるのだ。
 そして多くの壁殴り代行業者は、そのニーズに応えてしまう。
 依頼主のストレスを晴らすため、学校や会社など、公共の場で壁を殴り壊してしまうのだ。
 CMのように自宅の壁を殴り壊す分には、違法性は全くないのだが、現実には無関係な他人の壁を、無断で殴り壊して、逃げ去ってゆくという業者がほとんどなのである。
 違法な壁殴り代行業者の仕業と思われる、破壊された壁は首都圏各地で、毎日のように発見されている。
 警察も事を重く見て、何件もの業者を摘発した。
 だが、ストレスの多い現代社会。
 壁を殴れるほどの筋肉を持たない貧弱な現代人も多く、壁殴り代行業者の需要はあとを絶たなかった。
 需要があれば供給も自然発生する。
 いくら逮捕しても、新たな業者はボウフラのように湧いてきた。


「壁を殴り壊したのは、筋肉隆々の大男だったか?」
 ベテラン刑事が言うように、世間的な壁殴り代行業者の典型的イメージは、ムキムキに鍛え上げた頑強な男である。
 だが、それが最近、変化してきた。
「いえ、幼くて細い少年でした――ただ、光のようなものを纏っていたようにも見えましたが」
「ふむ、撃退士型の代行業者か」

 最近、壁殴り代行業者に、撃退士が増えてきた。
 従来型の大男に比べて、周囲から浮かない、目立たない事に業者が目を付けたのだろう。
 久遠ヶ原島のあちこちに、こんな求人チラシがばらまかれている。

『急募 壁殴り代行業者スタッフ
 内容 好きな時間に行楽地に直行し、壁を殴り壊して帰るだけの簡単なお仕事です
 報酬 時給1000円+壁一枚につき3000円〜 必要経費別途支給』

 戦闘依頼に比べれば遥かに安全だし、報酬も良い。
 人気スポットで遊びながら、依頼主がムカついた時に代わりに壁を殴ればいいだけ、というお手軽さも相まって、ついついアルバイトに手を出してしまう者も出てくるというわけだ。
 この仕事にハマって、正社員になったり、卒業、あるいは退学後、自分で壁殴り代行業会社を経営したりするものも出てきているという。


 警察署に帰り、部下たちを前にベテラン刑事は宣言した。
「撃退士を以て撃退士を制すだ! 久遠ヶ原と協力して、違法壁殴り代行業者を一斉摘発する!」
「しかし、これは我々の管轄の仕事です!」
 部下の言葉に首を横に振る刑事。
「普通の代行業者でさえ、壁を壊して逃げる。 その上、撃退士の違法業者となると足は速いわ、空は飛ぶわ、相手によっては壁をすり抜けるわでどうにもならん!」
「それは、確かにそうですが」
「何より、撃退士連中ならおとり捜査に手を出せる」
 おとり捜査、即ち、犯罪を起こすであろう人間の前で、それを誘発する行為をし、現行犯逮捕してしまう捜査方法。
 日本では、法律上禁止されている行為である。
 だが、撃退士は依頼解決に必要と認められれば、それを超える事が出来る特殊な存在なのである。
「撃退士たちにカップルを作らせて人の多そうな場所でイチャラブさせろ! 壁殴り代行業者が出てきて、壁を殴り出したら現行犯逮捕させるんだ! 相手がいない撃退士には、理想の相手を探してやれ! 警察の力を以てすればそのくらい出来るだろ!」
 ある意味悪辣とも言える捜査方法。
 だが、これ以上、違法な壁殴り代行業者を野放しには出来ない。
 正義のため、平和のため! この夏は理想の恋人とイチャラブするのだ!


リプレイ本文


 ある海の家。
「ガキどもがイチャラブしやがって!」
「俺らなんか三十年生きてるのにイチャもラブもねえんだぞ」
 二人の男の視線の先には海岸。
 そこでは、ビキニ姿の少女と、シャツにショートパンツを姿の少年が、二人で一本のアイスキャンディを舐めあいながら歩いていた。


 少女は桜庭 ひなみ(jb2471)少年の方は八塚 小萩(ja0676)。
 実は、小萩も女の子であるのだが、さほどの問題ではない。
 二人は、海の家でレンタルしたバナナボートに乗りこむ。
「狭いね……あっ!」
 小萩がバランス崩し、ひなみに抱き付いて密着する。
「ひ、ひなみ……んっ」
 そのまま発情したかのように見つめ合い、唇を求めあったり、抱き合ったまま、耳をハムったりし始める。


 非モテ男二人の片方が、我慢の限界に達したかのように携帯でメールを打ち始めた。
 もう片方が、自重を促す。
「おいやめろ、気持ちはわかるが、自重しろ!」
「いいや! 限界だ、押すね!」
 送信ボタンが押される。
 一分と経たずに、メールが返ってくる。

『ご利用ありがとうございます。 すでに担当者が現場に向かっておりますので、そのままお待ちください 壁殴り代行サービス(株)』


 海で、豪快なバタフライを披露していた、色黒巨漢の目が突如光った。
 胸筋をはばたかせ、海岸に泳ぎ着く。
 黒巨漢は唖然としている客たちの前で、マッチョアピールすると、叫びながら、海の家の壁を殴り始めた。
 その筋力は凄まじく、ガコガコと壁が砕き壊されてゆく。
 慌てて批難する海の家の客たち。
 

 異変に気付いたひなみと小萩が、海の家に駆けつけた。
「やめるのです! 違法なことはいけないのです」
 ひなみが拳銃を黒巨漢に向ける。
「黙れ! リア充ガキどもが!」
 個人的な怒りで襲ってくる黒巨漢。
 ひなみが引き金を弾いた。
 弾丸が、黒巨漢の肩の上をかすめるように飛ぶ。
「やめなければ今度は当てるのです」
 本当はゴム弾なのだが、萎縮した黒巨漢はホールドアップした。
「当ててくれよー“当ててんのよ!” って女の子に一回言われてみてぇよぉ!」
 泣きながら、警官に連行されてゆく黒巨漢。 
 せめてもの情けをかけてやりたいところだが、ひなみも小萩も当ててあげられるほどないのだった!

 ビーチを改めて見回す。
 リア充や家族連れが多く、業者と契約していそうな人間は少数だった。
「次はもう少し、いそうな場所に移動しよう!」


 比較的、空いた電車の中。
「今日も暑いね」
 美森 仁也(jb2552)は、まだ高校生である妻・美森 あやか(jb1451)耳元に優しく囁いた。
「あなたと一緒なら、どんなに暑くても平気だもの」
 夫の腕に抱きつくあやか。
「俺もあやかと一緒ならどこでも天国だよ」
 見つめ合う若夫婦、
 その正面に座っていたヨレヨレシャツの男が、引きつった顔で、携帯の送信ボタンを押した。


 電車の天井から、突如、青い顔をした男が振ってきた!
 隣の車両に降り立った男の姿を、仁也が遠目に確認する。
「え、肌が青色って……同族ですか」
「透過能力ですね」
 業者の男は、すぐさま壁を殴り始めた。
 アウルを纏った拳の威力は凄まじく、一撃で壁に穴が開く!
 高速で走り続けている電車に穴を開けるのは、危険極まりない行為だった。
「うわー! 壁殴り代行業者だー!」
「逃げろー! 振り落とされるぞー!」
 ヨレシャツ男のいる車両を選ばなかったのは、業者として依頼主への気遣いなのだろう。
 だが、他の乗客への気遣いはまるでなかった!


「そこまでです」
 車体を内側から破壊し続ける業者に、あやかが背後から声をかける。
 男はビックリしたのか、反射的にソニックブームを撃ち返してきた。
 シールドをかけた鞄で、それを受け止める仁也。
「こんな場所で、スキル攻撃まで!」
 仁也が鞄の影から顔を出すと、すでに武器を手にしたあやかが男を殴り倒していた。

「逃げ出さないように気をつけて下さい」
 車体の一部を破壊されたため、緊急停止した電車から降りて、警察に男を引き渡す。
 阻霊符のついた手錠をかけられ、連行される男。
 まずは一人逮捕成立だった。
 

 美森夫妻は、水族館へ移動した。
「涼しいからくっついていても、あなたに負担にならないのが嬉しいわ」 
 マナティが泳ぐ大型水槽の前で、そう囁くあやか。
 仁也はあやかの頭を撫でた。
 とたん、マナティの水槽に大きくヒビが入った。
 大量の水が、水槽から館内に漏れ出してくる!
「キミ! やめるんだ!」
 水槽を殴ったのは少年だった。
 それを、仁也が素早く組み伏せると少年は大声で騒ぎだした
「離せ! 児童虐待だ!」
 業者にそういうマニュアルでもあるのか、加害者アピールしている。
「メッです! たとえ子供でも、悪い事をした子は叱らないといけません!」
 あやかが、少年の目を正面から見て怒る。
 しゅんとなり大人しくなる少年。
「僕は妻がまっとうな神経の持ち主で嬉しいですよ」
 大量の水が顎の下まで浸食してくる中、仁也は妻の頭を撫でた。

■逮捕数
 美森仁也&美森あやか
 逮捕数二名
 備考:捜査中に電車一両と水族館を破壊。 イチャラブする場所の再考を求む。


 アティーヤ・ミランダ(ja8923)は自室のパソコンの前で、頬を紅潮させていた。
「来たわぁ……テンション上がって来たわぁ……」
 画面には、“パートナーメイキング申し込みフォーム”という文字が表示されている。
 ここに、条件を入力する事で、それに近い人物をお上が捜して連れてきてくれるという、税金万歳なシステムである。
「金髪碧眼のショタっ子希望――人数は」
 “希望人数“という入力欄に、アティーヤの指が震えながら”1000“と打ち込んだ。
「あぁん、ダメよぉ、みんなぁ、おねーさん体が持たない」
 数秒後、“0”の文字を三つ消す。
 すんごい贅沢な妄想に酔えた!

「初めましておねーさん、ジョン=スミスだよ」
 捜査当日、希望通りの少年が送られてきた。
 お坊ちゃま風ヨーロッパ人の坊やで、可愛らしい顔をしている。
 服は有名学校の制服を着ていた。
「ジョン君、十五歳なの? 犯罪寸前じゃなぁい、ハァハァ」
 このシステムを、与えちゃいけないタイプの人だったかもしれない。
 ジョンが来るまでの時間、島内を巡回し、集めた代行業者のビラをそばにあった灰皿に突っ込むアティーヤ。
「さあ、ジョンくんデートの時間だよ! いざ出陣だぁ!」


 デート場所には映画館を選んだ。
 「ねえ、映画と同じ事、あたしたちもしよっ」
 スクリーンにキスシーンが映し出された時、わざと大きな声で言うアティーヤ。
 「だめだよ、おねーさん、ボク、ドキドキしすぎちゃう」
 可愛い事を言うジョンくん。
 だが、アティーヤの目の前には一枚の紙を差し出している。

『これ以上の行為は、契約違反です』

「フリだよ!! フリならいいよね!! いいって言ってよ!!」
 アティーヤは必死すぎる。
 無理やり顔を近づけると、劇場の壁からドンっという大きな音が響いた。


「やー、苦戦したねー」
 無音歩行や高速機動、壁走りを駆使し、撃退士型の業者を逮捕出来た。
 しかし、アティーヤにとっては、ここからが本番だ。
 帰り道、人気のない路地で二人きりになったのを見計らい、体を寄せる。
「ねぇジョン君、これからもあたしとさぁ……」
「申し訳ございません、契約時間終了です」
 口調も変わっている。
 元は、お役所仕事なキャラのようだ。
「……意外とドライだね、チミ。 おねーさまと坊やの禁断の愛のはじまりの予定だったんだけどなぁ?」
 寂しそうに見送るアティーヤの前で、“元ジョン=スミス”はそそくさと去っていった。

■逮捕数
 アティーヤ・ミランダ
 逮捕数一名
 備考:自重不要。 次回は千人ハーレムを求む。


 小柄でふわふわした雰囲気の少女アリス セカンドカラー(jc0210)は、甘ロリ姿の少女と寄り添い、夕焼けの街を散歩していた。
 一見、微笑ましい光景だったが、よく観察すると金髪少女は、性別を見間違うほどの美少年。
 さらには首輪を付けられていたのだ。
「ナルちゃん、恥ずかしくないの、男の子なのにそんな恰好をして」
「は、恥ずかしいですよぅ〜、着ろって言ったのはアリスですぅ〜」
 スカートの、足元スースー感に慣れないのか、もじもじとお尻を動かしている。

 二人は、喫茶店に入った。
「アリスぅ、じらさないでぇ、早くしないと、ボクの甘いのとろけちゃうよぉ〜」
 アリスと隣り合わせに座ったテーブルで、切なげな声をあげるナル。
 アリスはクスクス笑いながら、アイスクリームの乗ったスプーンをナルの唇の傍に寄せる。
 ナルが食べようとすると素早くスプーンを引いてお預。
 それを繰り返している・
「どうしたのかしら仔猫ちゃん? もっと食べさせてほしいのかしら? 仕方のない子ねぇ。 こうしてあげるわ――」
 ナルはそういうと、アイスを自らの口に含み、ナルに唇を近づけた。
「……ん……」
 その時、喫茶店中に絶叫が響いた。

「吾輩も男の娘と変態プレイしてぇよ〜!」
 光纏した人間が泣きながら店の壁をガコガコ破壊している。
 アリスはナルから顔を離す、
「壁殴り代行業者! 代弁サービスのオプション付きね!」
 代弁サービスは、契約者が口に出したくても出せない苛立ちを、業者が壁を破壊する時に声に出して叫んでくれるというサービスである。 
 ほとんどの業者が導入しており、料金の相場は三千円程度。
 アリスは竜の模様が描かれた布槍を構えると、それを縄のように操って業者を捕縛した。

 捉えてみると、今回の業者はアリスと同年配の少女だった。
 「あなた可愛いわね?アリスのペットになりなさい」
 くすくす笑いながら、リア充型の壁ドンをするアリス。
 こうして、新たなペットをデートに加えたアリスは、それを利用して次の店でも新たなペットを捕獲するのだった。

■逮捕数
 アリス セカンドカラー
 逮捕数二名
 備考:“イラッ”状態より“キマシ”状態に見惚れた契約者が多かったと思われる。



 休日。
 人の多く集まる公園のベンチに神龍寺 鈴歌(jb9935)と、神ヶ島 漸斗(jb5797)は座っていた。
 ただ座っているのではなく、鈴歌が漸斗の膝の上に向かい合うようにして座るという、大胆な格好をしているのだ。
「漸斗、漸斗……ぁぅ……これは恥ずかしいのですぅ〜」
「逃げちゃだめっす、恥ずかしがっている鈴歌の顔が可愛いっす」
「でも、漸斗とぎゅぅしてるみたいで嬉しいですねぇ〜……えへへ〜♪」

 自販機の影からその様子を見ていた男が、甘さMAXなコーヒー缶を怒りで握り潰した。

 大男型の業者が、公園の自販機をガゴガゴ殴り始めた。
 周囲に殴る壁がなかったので、自販機が犠牲になったのだ。
 中身の入ったジュース缶が、辺りにゴロゴロと転がる中、鈴歌と漸斗は気配を殺して、業者に接近していった。

「そこの方〜♪ 私たちと一緒に遊びましょぉ〜♪」
 鈴歌が、大男の手を握った。
 ハニートラップ気味に逮捕するという作戦だったが、すぐに手を振り払われる。
 勘付かれた!
 巨体に似合わない素早さで、大男は走り出した!
「逃げても逮捕するですぅ〜鬼ごっこは得意なのですよぉ〜♪」
 縮地で追う鈴歌。
 間合いを詰めると、大男の鳩尾に痛打を撃ちこむ。
 動けなくなったところで、付近にいる警官に連絡をし、引き渡した。
 顔は可愛いのに、やる事はえげつない。


 末端をいくら掴まえても、壁殴り代行の会社はいくらでも出てくる。
 根本から潰さねばダメだと鈴歌は考えた。
 まず鈴歌は、島中を廻って貼ってある壁殴り代行業者の求人チラシを剥して廻った。
 その間、漸斗には大仕事をしてもらう。
「漸斗お願いなのですぅ〜、少し協力してくださいなぁ〜♪」
 彼に業者のCMを、動画サイトのサーバー上から削除してもらったのだ。
 といっても、大仰にハッキングするまでもない。ただ一通、日本の警察と撃退士が違法行為と認め業者を逮捕している件を動画サイトへメールで案内すればいいだけだ。
 どちらに正義があるかは火を見るより明らかなのだから。
 ベンチに座ったままノートPCでそれを済ませた漸斗の唇に、不意打ちのちゅぅをする。
「な、なんすか?」
「頑張ったご褒美なのですぅ〜、漸斗……大好きなのですぅ〜……」
 壁も自販機もない公園に、今度は大木が倒れる音が鳴り響いた。
 二人きりの甘い時間は、なかなか過ごせそうになかった。

■逮捕数
 神龍寺 鈴歌&神ヶ島 漸斗
 逮捕数二名 
 チラシ大量回収
 業者CMの削除
 備考:海外サーバーの業者広告を削除、警察は撃退士の手際を見習うべき。


 「ここなら、たくさん捕まりそうなのです」
 ひなみと小萩が海岸から移動してきた場所は、秋葉原。
 非リアの聖地でロリとショタが、チュッチュを見せつけたらどうなるか。
 業者大量ゲットの予感がした。

 聖地の中でも、特に濃度が濃そうな同人ショップ前で、小萩が、ひなみに壁ドンをした。
「ね……僕もう我慢できないんだ……ひなみが欲しいよ」
 甘い声で迫りかけたその時、
「違う! 違うでござる!」
 同人ショップの中から肥満眼鏡男性が飛び出してきた。
 血涙を流しながら叫ぶ。
「その壁ドンは、マスコミが間違って広めたものでござる! 本物の壁ドンはこうでござるーっ!」
 ショップの壁を、ドゴドゴ殴り出す肥満眼鏡氏。
 一瞬、業者かと思ったが、違う。
 壁は砕けない。
 殴った拳が砕け、血が噴き出している。
 この男性には、壁を殴るだけの筋肉もアウルもない。
 それをわかっていながら、殴らざるをえないほど憤りを感じているのだ。
「壁ドンは我々、非リアのものだったでござる! お前らリア充への怒りを示す、数少ない手段だったでござる! それを、それを、マスコミが真逆の意味で広めやがった――チクショー! チクショーでござるーー!」
 絶叫しながら、強く壁を殴る肥満眼鏡氏。
 鍛えていないその拳が、紅の飛沫をまき散らしながら、完全に砕けた。

 彼が救急車で運ばれた後、警察は肥満眼鏡氏の素性を説明してくれた。
 壁殴り代行の第一号会社は、元々、『正しい壁ドン』を啓蒙するために彼が設立した非営利組織だったそうだ。
 だが、願い虚しく、『壁ドン』の意味はリア充解釈の誤ったバージョンで世に広まってしまった。
 その事に対する憤りが、彼の会社を違法な壁破壊行為に走らせ、後発の会社もそれに続いたのだそうだ。

■逮捕数
 桜庭 ひなみ&八塚 小萩 
 逮捕数三名  
 備考:大規模違法組織の元締め逮捕に貢献。


 秋葉原の空に、赤い夕陽が揺らめいている。
「哀しい事件だったね」
「はい、二度と繰り返してはならないのです」
 夕日の中で長く伸びる、ひなみと小萩の影。
 二人の影が、誓うように固く手を繋いだ。

 またどこかで、壁を殴る音がした――。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: ●●大好き・八塚 小萩(ja0676)
 翠眼に銀の髪、揺らして・神ヶ島 鈴歌(jb9935)
重体: −
面白かった!:4人

●●大好き・
八塚 小萩(ja0676)

小等部2年2組 女 鬼道忍軍
単なる女のコ好き?・
アティーヤ・ミランダ(ja8923)

大学部9年191組 女 鬼道忍軍
雷蜘蛛を払いしモノ・
桜庭 ひなみ(jb2471)

高等部2年1組 女 インフィルトレイター
最愛とともに・
美森 仁也(jb2552)

卒業 男 ルインズブレイド
翠眼に銀の髪、揺らして・
神ヶ島 鈴歌(jb9935)

高等部2年26組 女 阿修羅
腐敗の魔少女・
アリス セカンドカラー(jc0210)

高等部2年8組 女 陰陽師