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「ご苦労様」
正木は、役目を終えて帰ってきた七台の自転車に、労いを言いながら会社の倉庫を閉じた。
自転車の籠には、撃退士たちのはからいで、いくつかのお土産が入っていた。
昼休み、それを食べながら夏の旅人たちが書いてくれたブログを改めて読み直す事にした。
「雨宮アカリさんか、アフガニスタン生まれのイラク育ち? 随分変わった経歴だな」
ブログ画像の中のアカリは、銀髪をヘルメットで覆い、サングラスをかけた、華奢な体格の少女だった。
【雨宮アカリ(
ja4010)の旅日記】
■一日目
お土産をいっぱいつめて日の出と同時に出発。 ねむいわぁ
海岸線をひた走り、千葉県は房総半島へと向かう。
海岸線は風がキツい、思いのほか体力を消費したわ。
あまりの風に漁港で休憩。
猟師さんに魚をごちそうになる。 無料では申し訳ないので学園のお土産を渡す。
去り際、もってけと言われ、干物GET。
休憩しながら南下し、なんとか九十九里浜のドライブインのベンチに。
今夜のキャンプは、ここにするわ。
■二日目
嶺岡中央林道を走り、大山千枚田という棚田を見に行ったわ。
棚田が広がっている景色はとても綺麗で、天魔との戦争を忘れるほど。
でも、林道で何度もパンクして、修理キットを使い切ってしまったわ。
困って棚田を眺めていると、作業中のおっちゃんに声をかけてくれたの。
タイヤをオフ用に変えてもらい、さらに、お昼ごちそうになったわ。
お礼にお土産を渡すと、代わりに漬物をくれたわ。
その後は、山の中を走りつつ最終目的地を目指したわ。
途中素彫りのワイルドなトンネルがあったり、中々、凄い林道。
今夜は山の中での野宿になっちゃったけど、得意なので問題は無い!
■三日目
最終目標は“ピーナッツソフト”
必死で走った末、苦労して味わう食べ物の味は至高。
学園の皆には“ピーナッツみそ”を買って電車で帰還したわ。
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ブログに載せられた“漁師の方”や“林道で会ったおっちゃん”との記念写真を”見ていると、正木の顔がほころんだ。
「そうそう、こういう親切な人って、お礼をするとまたお礼をくれるんだよね、キリがないんだよな」
返却された自転車に添えられていた、小さなピーナツ味噌を一掬い舐めながら、正木は次のアドレスをクリックした。
「森田 霙さんはメロンのバウムクーヘンを買ってきてくれた娘か――へー、この容姿で既婚者? 大人しそうに見えて早熟だなあ」
【森田 霙(
ja9981)の旅日記】
●一日目
午前中は大洗磯前神社周辺をぶらり旅なの。
お昼に近くにあった磯料理のお店に行ったの。
そこでは十種類近い魚介類がひしめきあうように並ぶ海鮮丼を食べたの。
午後にホテルを探したの。
その途中でに吉田神社方面に移動したら、安いホテルがあったのでそこにチェックインしたの。
ついでに吉田神社により、ご朱印を頂いたの。
●二日目
午前中は鹿島神宮方面へ移動をしたの。
海沿いを自転車で旅したのは久しぶりだから、磯の香りがどこか懐かしかったの。
途中、メロンバウムクーヘンと言うモノをお土産に買ったの。
サイトで調べたところ、どうやら最優秀賞を取ったことがあるお菓子らしいの。
午後ようやくに鹿島神宮に到着したの。
御朱印を頂き、境内にあるお蕎麦屋さんに行ったの。
せいろ蕎麦と草団子を食べたの。
お蕎麦は、鹿島神宮の御神水“名水・長命の湧き水”を使って打っているらしいの。
草団子は漉し餡で少し平べったい形だったの。
その後、近くにあったビジネスホテルに泊まったの。
サッカースタジアムが近くにあったの。
●三日目
午前中に駒形神社方面へ移動をしたの。
途中、はま栗型のモナカをお土産に買ったの。
これでお土産は二種類なの。
勿論、御朱印もしていただいてきたの。
その後、ご飯を食べにお店に立ち寄ったの。
そこは、田舎の祖父母宅に来たようなどこか懐かしさを感じるお店だったの。
おしるこにお漬物は勿論、初めて飲んだ枇杷ジュースは格別だったの。
旅を締めくくるにはちょうど良い場所だったの。
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ハマグリ型のモナカを齧る。
「モナカってのは不思議だな。 どこの土産を食べても『その土地の味』って感じがする。 材料も製法もそう変わらないはずなのに」
モナカの皮が、口の裏の張り付いたのをお茶で流し込む。
バームクーヘンも面白い、今食べているのは普通の形だが、モノによっては本当にメロンの形をしているそうだ。
「次は、男の子か」
眼鏡をかけた、将来イケメンになりそうな少年のブログを開いた。
【黒井 明斗(
jb0525)の旅日記】
■一日目
今日は栃木県を目的地に、茨城県を走ります。
茨城と言えば納豆ですけど、かくれた名品を食べましょうという事で、 スタミナラーメン(冷やし)を注文しました。
キャベツ、人参、かぼちゃ、味付けレバーを甘辛い餡で包み、それを冷水で締めた麺にかけるというメニューです。
美味しかったので、撮影許可を願うと快く許可していただけました。
午後は、レモン風味の牛乳片手に栃木県に突入しました。
夜は、格安の格安温泉施設で汗を流した後、ジャガイモ入り焼きソバで夕食。
栃木はラーメンや餃子が有名ですが、これもいいんですよ。
■二日目
日光市から沼田市へ移動しました。
撮影したい風景を見るたびにペダルを止めるので、思ったより時間がかかります。
朝食兼昼食は隠れた名物やきそばベーグルバーガー、ドリンクはまたもあの牛乳。
レモン風味にハマったかもしれません。
午後は今日のメインイベント、ヨーロッパの古い城館を移築したお城へ!
中世の情緒漂う、美しい城ですね。
■三日目
群馬の朝は、焼き饅頭でスタートさせました。
昼は、日本ロマンチック街道を撮影しながら移動。
相変わらず、ペダルを止めてくれる風景が多いです。
昼食は上州かつ丼。
いろんなところで、名物になっていますが、ここもソースカツ丼が有名です。
その後は、白根山山頂の湯釜へ
世界有数の火口湖で、白い岩肌の火口壁にエメラルドグリーンの湖水が神秘的ですね。
展望所から写真を撮影してブログにアップ。
帰り道でも、行きとは違う角度で見えた風景に、ペダルとレンズを捕われてしまいました。
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「スタミナラーメンかあ、焼き肉のタレ的な熱々どろどろあんかけの下から、冷たい太麺が出てきて、病み付きになる食感なんだよねー」
学生時代の自転車旅行で食べた味が口の中に蘇り、また食べたくなってしまった。
明斗くんは、ブログに掲載されている写真が多い。
それだけ少年の心に響く風景と出会えたのだろう。
「デジカメが普及して本当に良かった、フィルムの頃は何本あっても足りなかったなあ」
「次は、和風サロン・椿“の女将で十五歳!? 本当に久遠ヶ原って変わった経歴の人が多いな」
【木嶋香里(
jb7748)の旅日記】
■一日目
水戸市南部周辺辺りから国道六号線に入って土浦市を目指ました。
名物のお蕎麦と、レンコン料理を食べた後、土浦市側の大きな湖、霞ヶ浦を観光し、松戸市から東京は葛飾区を目指しました。
知られていない地元の名物と、雄大な風景を堪能出来ました♪
■二日目
六号線沿いに墨田区へ向かいました。
あの日本一の塔を見上げると、やはり圧倒されます。
皇居周りを通って、赤坂の老舗和菓子店に寄り、季節の昼膳と羊羹三種に葛切りを頂きました。
その後は国道二百五十四号線沿いに後楽園、池袋エリアを抜け、練馬区から埼玉の和光市を目指しました。
舗和菓子店と、そのお食事を撮影。
これらを参考に、これから頑張って行きたいです。
■三日目
国道二百五十四号線から、四百六十三号線を経由し、所沢市の手打ちうどんを頂きました。
狭山市のお茶園を訪問し、茶摘み体験をさせてもらいました。
茶園の方に、茶摘み姿の私を撮ってもらいました。
お茶園を直に見れて嬉しかったです♪
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「香里ちゃん、和服が似合うから、茶摘み娘姿も似合うねえ。 しかし老舗和菓子屋といい茶摘み体験といい勉強家だなあ」
他にも、老舗菓子屋のお菓子や、所沢のうどん、自転車と一緒に映した様々な風景がブログを飾っている。
正木は湯のみから茶を啜った。
焙じたてのような豊潤な香りはしないが、香里が撮った茶畑の写真は、それを記憶の底から漂わせてくれた。
「次は――山菜と山魚を求めてさまようRPG〜山の幸パラダイス〜 なんだこりゃ?」
【田村 ケイ(
ja0582)の旅日記】
■一日目
夏だから山の幸を満喫しよう。というわけで夜明けと同時に出発よ。
まずは近場の筑波山から、街道かっ飛ばせばすぐだったわ。
さすがどんな悪路もぶっぱするファットバイク。
快適な走りだった。
朝早いうちに山中腹の川辺にテント立て、タンクに川水と竹炭放りこんでキャンプ地を確保してちょっと休憩。
風が心地いいわ……。
疲れが取れたらまずは山菜を探しに
ウドやオオバコ・ミョウガといった定番の他にシロツメクサとかも採ってみたり、ある程度集まったところでメインの川魚を素手で取りに行きました。
ええ、緑火眼で目を光らせマジになってとりました。おかげで一匹とれました。
全部まとめて天ぷらにしたわ。
薪に炎焼一発撃てば、お手軽にたき火ができる撃退士素晴らしい。
水も竹炭で綺麗になってて美味い美味い。
日が落ちると同時に就寝。明日も早いからね。
■二日目
夜明けとともに起床。
綺麗に片付け次の山へ。
目指すは植生豊かな八溝山!今回は山菜メインよ。
昨日と同じく川辺でキャンプ地と水確保してから一日山菜探し。
おかげさまで籠いっぱいの山菜が。
今回は水も調理に使って山菜の煮びたし、炒め物、天ぷら、そしてデザートに桑の実とあけびという豪華ラインナップ。
ちょっと頑張るだけでこれだけ堪能できる山最高。
■三日目
夜明けとともに起床。お土産用のアケビと桑の実をとってから片付けて帰る。
アケビ美味しいよアケビ。
桑の実はジャムにしてもいいかもね
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「もしかするとケイさん、お金を一銭も使っていないのでは?」
旅費は二万渡して、それでもかなり少ないのではと心配したのだ。
ここまで逞しい生き方をする参加者がいるとは思わなかった。
「さりげなくうちの自転車の宣伝もしてくれたし、ありがたいなあ」
さらに自転車の籠には、桑の実が入っていた。
齧ると、癖のある甘味が懐かしく口の中に広がった。
「次は――これまた育ちの良さそうなお嬢さんだな」
ふと思い出した。
この自転車の旅企画を撃退士に任せたのは、子供を過剰なほど大事に育てたがる、一般人の親の横槍からだったのだ。
【北條 茉祐子(
jb9584)の旅日記】
■一日目
学園を出て最初は、国営ひたち海浜公園に行きます。今はジニアが盛りみたいですけれど、 気の早いひまわりも咲いていて楽しいです。
公園をでたら海岸線を南下。 潮風のにおいを嗅ぐとわくわくしてきます。
途中の海浜公園で休憩。 焼きそばがおいしかったです。
途中で北浦湖の方に行く道に入ります。
その道の半分くらいのところにあるキャンプ場が今日の宿です。
夕飯は途中のコンビニで買ったおにぎりとサラダ。
コインシャワーがあるそうなので、シャワーを浴びたら今日は休みます。
テントの代わりにレジャーシートの端っこを木の枝にロープで結んで、タープ代わりにしてその下で休みます。
■二日目
今日は北浦湖まで出て湖の風景を眺めながら南下。
鹿島神宮まで行きます。鹿島神宮は国防の神様で防人の神様だから、撃退士にも力を貸して下さるように、お参りしてきますね。
お昼は鹿島神宮の御手洗団子をいただきます。 大きくておなかいっぱいになるんですよ。
夜は、鹿島神宮の近くにあるビジネスホテルに泊まります。
素泊まりで、夕食はコンビニのお弁当。
■三日目
最終日は海岸線を北上。ハマナス公園でおみやげを買った後、ハマナス自生南限地帯を見たら私の旅は終わりです。
ふふふ。こういう冒険旅行みたいなの、一度してみたかったんです。
思い出に残る夏になりました。
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「コインシャワーに、レジャーシートのテントで寝袋か、学生の頃の僕より逞しいぞ」
いつか茉祐子の親から苦情が来るんじゃないかと、危ぶんでいた先程までの自分がアホのように思えてきた。
撃退士は、逞しい。
「最後に、一番逞しそうなのが残っているな」
屈強な体格の、なのに昭和のアイドルみたいな顔をした男が、ブログのヘッダー画像を飾っていた。
ブログタイトルも“クッキーのアイドル旅日記”とある。
「一体、この人はどこを目指しているんだろう……」
【九鬼 龍磨(
jb8028)の旅日記】
■1日目
実は僕、関東地方を依頼以外で移動したことが殆ど無いんだ。
まあ、最近のスマホは地図が入っているから、なんとかなるよね!
それにしても暑い。
熱中症対策に、クーラータオルと水を用意しておいたけど、大丈夫だろうか?
最初の目的地は、行方。
行方と書いてナメカタと読むんだよね。
ここは行方バーガーが有名。
鶏肉とか豚肉のもあるけど、僕はもちろん、名物のナマズをいただきました!
おみやげもナマズの山椒煮。
外見から敬遠する人もいるけど、天然ナマズじゃないから生臭さはないんだよ。
九十九里浜ではイワシと焼きはまぐりをいっぱい食べて、海岸でそっと野宿。
■二日目
まず穴守稲荷にお参りして、そこから少し進んで大鳥居に。
浜風すごーい。
羽田湾と空港の歴史を知って、大鳥居の“平和”の二文字にちょっとしんみり。
そして最大の目的である食通の間で有名な羽田の人気料理店にて、穴子天とボサエビのかき揚げを堪能!
ああサクサク……すっきりしっかりおいしい……サクサク……。
結局、ほぼ無言で食べたなぁ。
越谷のホテルにて素泊まり。
ごはんは、地場野菜を近くのお店でいただきました。
お土産に、山東菜の漬け物を購入。
■三日目
土浦に移動してがっつり食事するつもりで、朝一はおにぎりで済ませました。
腹ペコ状態で土浦へ着いたら、レンコンのはさみ揚げ定食を大盛りで。
昼過ぎ、大洗に着くと、そこここに、戦車アニメの立て看板が!
それを眺めつつ、あんこう汁と岩牡蠣をつるりと賞味
れんこんそっくりなサブレと、戦車アニメのグッズを買ったら、あとは一心不乱に帰路。
思えば、魚をたくさん食べた三日間。
楽しかったー!
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「アニメの看板か、大洗も昔と、だいぶ変わったみたいだな」
自転車の籠に入れてくれた、サブレのバター香は変わっていないようだが。
「僕も、久々に行くか」
正木も明日からは夏休みだ。
こんな日記を見せられたら、夏旅人の先輩としては旅立たずにはいられない。
さっき倉庫にしまったばかりの自転車だが、さっそく一台引っ張り出す。
「さて、暑いから山梨の白桃で喉を潤して、甲府鳥もつ煮で精をつけに行こう」