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「実は私、同年代の方とだけ集まってパーティというのもした事がありません」
山寺真人(
jb8868)の自己紹介に、コンビニレジで山木妻が、目を瞬かせた。
「あら、若いのに珍しいねえ」
時刻は深夜一時三十分。
コンビニ二階にある山木家の空き部屋を借りるために、参加者一同がレジで挨拶をした時の事である。
「実家は田舎でしたので、周囲にコンビニはありませんでしたし、此処へ来てからも、そう利用する機会は多くはないのです」
外見通り、朴訥とした話し方の真人。
「ふむふむ、コンビニ初心者やな! 安心せい、一晩で達人にしたるわ!」
葛葉アキラ(
jb7705)が、外見通り華やかに宣言した。
「早くも目的が変わっている気が……」
田村 ケイ(
ja0582)も、外見通りさりげないツッコミをする。
「初心者としては、何を買えばいいのでしょうか……?」
「まあ、とりあえず美味そうなもの買うたらええんや! 自分で喰いたいもの喰わんと楽しいパーティに出来へんからな!」
「はあ、わかりました。 では、まずチキンを――チキンだけでも、こんなにあるんですね、これは予算に収まりそうにない」
レジ内にある、ホットスナックのケースを覗き込む真人。
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その間、他のメンバーは店内を回り、思い思いの品をカゴに入れている。
仏蘭西人少女、リシオ・J・イヴォール(
jb7327)が躊躇いもなく、トランプをカゴに放り込んだ。
個人予算千円の八割を削る、大型商品である。
「いきなりトランプ?」
「パーティーなラ、やっぱリゲームなのでス!」
「それはわかるけど、肝心の食べ物を買えなくならない?」
ケイに尋ねられたリシオは、自信満々に胸を張った。
「ですネー! でモ、秘策があるでス!」
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リシオが日用品コーナーに移動すると、すでに向坂 玲治(
ja6214)が、紙コップセットと紙皿セットを手に取っていた。
「玲治君、それ買うですカ?」
「おう、悪いか?」
ぶっきらぼうに答える玲治。
リシオの目が輝いた。
「皆のためニ黙って気を遣ウ! これゾ、ブシドーですネ!」
「全然、違うぞ」
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怜治がレジに並ぶと、パウリーネ(
jb8709)が、山木夫妻に心配そうな顔をされていた。
「お嬢ちゃん、これしか食べないのかい?」
パウリーネのカゴに入っているものは、唐揚げとサラダのみ。
現在、彼女は本来の姿だという魔女モードではない。
小さな魔女っ娘モードになっているので、老夫妻にたしなめられている。
「食べなきゃ、大きくなれないよ」
「案ずるな! 吾輩、条件さえ整えば大きくなれるわ!」
「大きくなる条件は、まず食べる事だよ!」
パウリーネの特殊な体質は、山木夫妻自身に理解してもらえなかった。
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買い物を終え、全員、二階にある空き室に移動した。
絨毯の敷かれた洋間にテーブルと、エアコンが設置されただけの部屋だ。
「こんな風に部屋に集まった事がないので、どうしていいかわかりませんね……お手伝い出来る事があればぜひ」
真人の申し出に玲治は、コンビニ袋から紙コップと紙皿、レジでもらった割り箸を取り出した。
「とりあえず、みんなでこれを並べてくれ」
「おハシを貰うのハ、気付かなかったでス! ブシドーは奥が深イ」
「だから、違うっての」
「プラスプーンと、フォークも買っておいたわ、何でも食べられるで!」
テーブルの上に、即席の食器が人数分並んだ。
怜治が炭酸飲料、真人が麦茶の大ペットボトルを購入してあったので、皆でそれを紙コップに注ぐ。
「乾杯の音頭は誰がとるのであるか?」
「踊るですカ? 日本ハお盆が近いと音頭ですカ? 要チェックでス!」
「その音頭とちゃうわ!」
集まったメンバーの個性が濃厚過ぎて、開始前からカオス化している。
「もう面倒くさいから俺がやるわ。 なんかよくわからんが――乾杯!」
皆が口ぐちに乾杯斉唱して、パーティが始まった。
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怜治がスナック菓子を背面から開けた。
「スナック菓子のパーティ開けは基本ね」
「誰でも、手を出しやすくなるからな」
ケイも、自分で買ったカップゼリー詰め合わせを背面開けする。
「私のもどうぞ」
「わーイ、じゃあ、さっそくもらうでス」
リシオはスナック菓子と、カップゼリーを手に取った。
だが、すぐに食べるのではない。
トランプの残金で買った食パンを取り出している。
「何する気だ?」
「こレでサンドイッチ作るデス! 具を買うお金なかっタでスかラ、具はミンナの余り物デ」
「それが秘策?」
「スナック菓子と、カップゼリーのサンドイッチ!?」
「もう少し、マシな具があるでしょ」
テーブルの上には、真人が買ったチキンに魚のフライ、パウリーネが買ったサラダ、唐揚げ等、具に向いていそうなものが見える。
「でモ、ああいうの貰うのわるいでス……」
確かに一つずつしかないものは貰いにくい。
「なら、これはどう?」
ケイは自分のコンビニ袋から何やら缶詰を取り出し、開けた。
中身を食パンに挟み、プラフォークで六つに切ってミニサンドを作る。
「はい、食べてみて」
リシオの唇に寄せる。
「ほら」
「あーン」
金髪美少女と、黒髪のボーイッシュお姉さん。
百合好きな人間がいたら、顔がほころんでしまいそうな光景だ。
「お、美味しいでス! むしロ、美味しすぎなほどでス!」
ケイが開けたのは、タイツナカレー緑という小さな缶詰だった
皆が、ミニサンドを一つずつ食べる。
「これは美味い!」
「今、ネットやTVで話題の商品やね、二百円程度で本格的タイカレーの味が楽しめるちゅうて」
「このカレーサンドは主食になるであろう」
「一口食ったら、ガッツリ食いたくなる味だな、残金でこれを買い足すか?」
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皆が買い物をしたレシートを、照らし合わせてみた。
☆ケイ
ウェットティッシュ 100円
ティッシュ 200円
ティーパック 100円
タイツナカレー緑缶 200円
一口ゼリー詰め合わせ 200円
計800円
後片付けの事まで考えたのは、彼女一人。
チキンやスナック菓子で手が汚れる事も見越してある。
仲間と家主への、さりげない気配り
☆玲治
紙コップセット 150円
紙皿セット 200円
大ペットボトル炭酸飲料 300円
スナック菓子2袋 200円
計850円
皆で食べる事を、意識した構成。
基本中の基本を抑えてある。
☆リシオ
トランプ 800円
食パン 200円
計1000円
一点豪華遊戯主義。
かつ、残金でシェア出来る主食を確保している
☆パウリーネ
サラダ 250円
唐揚げ 150円
計400円
サラダ、唐揚げともに一人用だが、資金を残し、後から出たニーズに対応出来るようにしてある
戦争に例えるなら、遊軍ポジか?
☆真人
大ペットボトル麦茶 300円
フライドチキン2個 300円
フィッシュフライ 200円
アップルパイ 200円
計1000円
油物多しだが、胸がもたれぬよう麦茶を用意。
外見によらず、スイーツも好きなのか?
☆アキラ
プラスプーンセット 100円
プラフォークセット 100円
ホットケーキミックス 300円
チョコチップクッキー小袋 150円
プレーンヨーグルト 350円
計1000円
スプーンとフォークは必需品だが、残りの構成が謎。
その理由は、今から明かされる。
総計すると、まだ資金が950円程余っていたので、缶詰を買い足し、グリーンカレーサンドをテーブル上で作って食べた。
そのまま新商品にして、発売しても良いくらいの美味だ。
「そのまま摘まんでもよし、パンにはさんでもよし、最近のコンビニってすごいわねえ」
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「次は、デザートやで!」
アキラは、チョコチップクッキーを粒がわかる程度の大きさに砕いた。
「何をしているのでしょうか?」
「簡単なオリジナルスイーツや! チョコチップクッキーを砕いて、ヨーグルトに投入! ヨーグルトとチョコの相性は意外とイケるんやで?」
「それも美味しそうです」
「今のヨーグルトを冷蔵庫を寝かせている間に、もう一品!」
冷蔵庫がこの部屋にないので、山木夫妻に頼んで、自宅の冷蔵庫、ついでに電子レンジを貸してもらった。
「今度はチョココーティングのビスケットを砕いて、ホットケーキミックスと合わせて練り練りするんや! それを余った紙コップに三分の二位入れて、レンジでチンや。 これで簡易チョコレートパウンドケーキの出来上がりや! ヨーグルトを出してきて、ちょっとしたスウィーツの出来上がりやね」
「完成品ではなく、テーブル上で手を加えて美味しくするっていうのは、ホームパーティらしくていいかもしれないわね」
「冷蔵庫と電子レンジがある状況、限定だけどな。 一人暮らしの撃退士でも部屋にある奴は多いだろうし、何種類かパーティセット商品を組むなら選択肢としては、アリじゃねえの?」
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「そろそロ、トランプしませんカ?」
テーブル上の食べ物がほぼ片付いた頃、リシオがトランプを取り出した。
「いいわね」
「やったるか!」
「異論なしである」
皆が乗り気な中、真一だけは腰が引けている。
「お恥ずかしい話ですがトランプゲーム等もほとんどした事がなくて……教えて頂けますか?」
すると、玲治が折りたたんだ紙を真一に渡した。
「六人で出来る簡単なゲームを調べて、印刷しておいた」
「おオ! 怜治は気配りキングですネー!」
「なんだそりゃ」
ルールブックに書かれていたのは、ババ抜き、七並べ、大富豪の三種類。
まだ、時間もあるし、一通りのゲームを何回かずつやって、順位点を付け、最終的にビリだった者が罰ゲームを受ける事になった。
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一回戦、ババ抜き。
ケイがカードを切り、全員に配った。
「この段階で、同じ数のペアを捨てて構わないんですよね?」
「そうね」
この時、不敵な笑いを浮かべる者が一人。
「フッ、そういうルールなんで、こういう事も起こるわけや!」
アキラが、持ちカードを全て捨て山に置いた。
全てのカードが最初からペアになっていたのだ!
「天和や! ドヤァ! ウチの引きの強さは!」
「お、すげえな」
しばらくドヤ顔だったアキラだが――。
「貴様、引かれたくないカードをガッチリ持つでない! トランプが破れるであろう!」
「フフッ、ケイさン、ポーカーフェイス崩壊でス、顔にでますヨー!」
「あら、心理戦とは面白いわね」
真剣勝負している五人をアキラは、輪の外から眺めている。
「……みんな、楽しそうやね」
「ぎゃワーー! それ取っちゃダメでス!!!」
「真人さん、慌ててシャッフルするのやめた方がいいよ、ババ引いたのバレバレだから」
「言われてみれば……」
「くっ! 今度は強く持っていた方がババとは! 貴様、はかりおったなっ!」
盛り上がる仲間たちの輪の外でアキラは蚊帳の外だった。
「もしかして、ババ抜きって最初にあがった人が、一番楽しくないんちゃう?」
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二回戦、七並ベ
「七並ベは得意でスー!」
「これは、即あがりとかないから安心やな」
ケイが、玲治のルールブックを眺めて、ある部分に目を止めた
「このゴーストルールって何?」
「パスを四回した奴は、脱落になるだろ? まだ脱落してないプレイヤーは、脱落したプレイヤーと会話をしちゃいけないってルールだ。 会話をしてしまうと、そいつも脱落になる」
「地方によって、ルールって違うものね」
「よくわかりませんが、壮絶に嫌な予感がします」
真人の予感は的中した。
最速で四回パスした人間がいたのだ。
「ねえねエ、真人さン」
「はい?」
「ウフフッ、ボクと会話しましたネ! これで真人さんもゴーストでス!」
「やられましたか……」
まだ半分以上残っていた持ち札を、場に並べる真人。
「ケイさン、ケイさン、休みの日何してますカ?」
「……」
「アキラさン、晩御飯何食べましタ?」
「あつは、なついねー」
「玲治さン、何でハートの6持ちっパですカ?」
「うぜぇ」
「フフフッ、玲治さん答えましたね、ゴーストの仲間入りでス!」
「別のゲームになっている気がするのである」
「お前、絶対、わざと脱落しただろ」
七並べは、いかにリシオをスルーするかというゲームになった。
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ラストゲームとなる、大富豪。
「どや! 通らば勝利や!」
アキラが自信満々に出したジョーカー。
その上にパウリーネが3を三枚置いた。
「受けよ! 吾輩の大魔術・砂嵐!」
「なんやねん、それ!?」
「3を三枚出せば、どんなカードにも対抗出来る高位魔術ぞ! 知らぬとは言わせぬ!」
「知らんわ、そんな役!」
「ありえぬ! 砂嵐なくば、毎度3を押し付けられる大貧民に勝ち目はなくなるではないか!」
「工夫すれば、這い上がれるやろ、8切りに4止めで対抗とか!」
「それこそ何を言っているのだか、わからぬわ!」
言い争う二人の脇で、真人がルールブックを再確認している。
「どれも玲治さんのルールブックには書かれていませんね」
「大富豪は、地方ルール多すぎるから、話し合いで決めてくれって書いちまったからな」
この後、皆が、自分の地方のルールを出し合い、どれを採用するかで、白熱したバトルが展開された。
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「罰ゲームは、リシオだな」
怜治が得点票の集計を終えた。
「得意な七並べで、わざと負けまくっておったから自業自得であるな」
「うう、デコピンだけはイヤでス」
「デコピンは罰ゲームの基本ぞ」
いくつか罰ゲーム案が出たため、最後はくじ引きで何をするか決定していたのだ。
「じゃア、これデ!」
リシオはクジを引いた。
「俺が考えた奴だな『シメの挨拶で面白い事を言う』だ」
「いわゆる無茶ぶりって奴やね、人間そう言われると、必ずスベるもんや」
だが、リシオは自信満々にニコニコしている。
「大丈夫でス! とっておキの超面白話をするでス! 大爆笑間違いないですヨー」
「なぜ、自らハードルを上げる……」
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「お疲れ様、そろそろ終わりの時間よ――あら」
山木妻が、ねぎらいにお茶を持ってきた時、部屋中は凍り付いていた。
「寒い……寒いのお……」
「体の震えが止まりません、こんな氷結系スキルがあったとは、勉強不足でした」
部屋の隅で、震えているパウリーネと、真人。
「きっとエアコンの効き過ぎね、私は何も聞かなかった、そう聞かなかったから」
ティーパックから煎れたホットティーを、ひたすらがぶ飲みするケイ。
「あ、あラ? 今の話、面白くなかったでス?」
皆の顔色を見て、おろおろしているリシオ。
「いくら何でも、あれはな」
溜息をつく玲治。
リシオが『とっておキの超面白話』をした結果が、これである、
その様子に、事情がわからない山木妻は、肩を落とした。
「やっぱりコンビニの商品じゃ、盛り上がるパーティなんか出来ないのかねえ」
そんな事はない。
撃退士が購入した物で、十二分に盛り上がった。
セット商品開発の基盤としては、充分だっただろう。
グリーンカレーサンドと、ヨーグルトチョコパウンドのレシピも添え、オリジナル商品としての価値も増している。
ただ、シメの挨拶のせいで、全部台無しになっただけである。