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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2017/09/12


みんなの思い出



オープニング

※注意
このシナリオは、エリュシオン世界の未来を扱うシナリオです。
シナリオにおける展開は実際にこの世界の未来に存在する出来事として扱われます。
参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。


 2067年。
 かつて独身アラサー女子所員と呼ばれた四ノ宮 椿(jz0294)も82歳になっていた。
「ウマ〜なのだわ、冷凍庫で凍らせた味のりはバリバリ感が二倍で格別なのだわ」
 外見も中身も成長がない。
 祖先の血が目覚め、天魔と同じ不老体質になっていたのだ。
「椿さん、今日くらいはもう少しマシな夕食を作って下さいよ」
 椿の婿となった四ノ宮 臣人。 旧姓・堺 臣人。
 こちらは71歳の実年齢通りに加齢している。 椿を年上のお姉さんとして見ていた若者も、今では椿の親のような外見になっていた。
「お祝いの日なんですから、僕の最終作品である“エリュシオン”が公開される」
 臣人は若き日の夢を叶え、ゲームデザイナーとなり、会社を興していた。
 その引退作品として発表したのが“エリュシオン”である。
 50年前の大戦において、大功をあげた撃退士養成機関・久遠ヶ原学園を舞台としたWTRPGだ。
 四ノ宮夫妻も学生として在籍し、卒業後は斡旋所員として影から支えた思い出の場所。
 大戦を知らない世代に当時の様子を体験してもらうこと。 そして存命しているかつての撃退士たちに、あの頃に帰ってもらうことが開発の趣旨だった。
 プレイヤーキャラ(PC)の事前登録期間を経て、今夜20時にそれが本格稼働を開始する。


 夕食後、臣人の部屋。
 この時代のゲームインターフェイスは多種多様に発展している。
 現在、ふたりが使っているのは網膜に直接映像を投影する方式の小型ゴーグルである。
「インフィのままでいくの?」
「キャラ設定は2011年当時の僕そのままです」
 臣人は自PCを披露していた。
 引退後にプレイヤー(PL)として自らが楽しむのがこのゲームの隠れた開発意図だった。
「ヘタレ撃退士だったんだから設定変えたら? ジョブも種族も変えていいのだわよ」
「いいんです! それよりゲームスタートですよ!」

 20時ジャスト。 ふたりが見ている映像がPCのステータス画面から、風景へと切り替わった。
「あの頃の久遠ヶ原学園なのだわ! 懐かしい!」
 50年前の人工島、そのままの風景が網膜に再生される。
 あの時のあの場所に移動したかのような体験が楽しめる、それがこの時代のゲームだった。
「すっごくふさふさしているのだわ!」
「また髪の話してる……」
 PCのビジュアルは、画像をもとに3Dで加工形成される。
 映像内には16歳当時の堺臣人そのままの人物がいた。
 若き臣人が仮想久遠ヶ原を歩くと、今は亡き黒髪が風に靡いて踊る。
 しわがれている肌も、この世界では陽光を弾き返すような張りに満ちていた。
「今歩いている方向に、インフィの校舎があるんだっけ?」
「違います、登校前に寄りたい場所があるんです」
「こっちの方角? なにかあったかしら? 久遠ヶ原の地理はあんまり覚えていないのだわ」
「僕は髪が減りましたが、椿さんは頭の中身が減ったんじゃないですか?」
「むかっ、自分で歩けば思い出すのだわ! 私もログインしてくる!」
 椿は臣人の部屋を出た。
 彼女も自分の部屋にコンピュータを持っており、自分モデルのエリュシオンPCを作ってあるのだ。
 臣人はそのまま久遠ヶ原の道を歩き続けた。
 この先に目標としている場所がある。
 作ったPCはあの頃のままでも、歩ませる人生はあの頃のままである必要はない。
 あの頃の願い、無念、それを晴らすために臣人は歩いた。


 古びた木造の斡旋所。
 卒業後に臣人が就職し、椿とともにさまざまな依頼を出した思い出の場所だ。
 個性的な撃退士たち、非常識な依頼、目を疑うような結果報告、椿がつけるしょうもない称号。
 戦時中とは思えない日々を過ごせた。 掛け値なしに楽しい青春だった。
 けれど、ここへ来たのは所員になるためではない。 2011年の臣人はまだ学園生であり、撃退士だった。
 斡旋所のロビーで依頼掲示板を見る。
「あった、この依頼だ」
 この斡旋所では数少ないまともな戦闘依頼だった。 平凡なディアボロ退治。
 臣人が撃退士になり、最初に受けた依頼。 そして――。
「僕のせいで失敗した――今度は逃げない」
 初の実戦の恐ろしさに耐えられず臣人は逃げ出してしまったのだ。
 失敗報告をする時、非常に気まずく情けなかった。 担当の斡旋所女性所員が憧れの女性でもあったので、なおさらだった。
 今度は逃げない。 あの女性に誇らしい顔で成功報告をする。
 臣人が二度目の学園生活で果たしたい願いはそれだった。

「すみません、この依頼を受けたいんですけど」
 無人のロビーから斡旋所の奥にいる女性に呼びかける。
「問題ありません、参加受付完了しました」
 受付をしてくれたのは、憧れていた女性ではなかった。
 臣人が引退する前に発注した汎用NPCだ。 美しく優秀だが彼女の中に生きた人間はいない。
 会いたかった年上の女性所員は、思い出の斡旋所にはいなかった。

「自由さがWTRPGの魅力だもんな」
 斡旋所をあとにしながら呟く。
 過去に歩いたのと同じ道を再び辿る必要はないのだ。
 椿にとっても同じことだ。 それが斡旋の女性所員にならず、臣人と出会わない道だとしても。
「むしろそうするべきなのかもしれない」
 臣人はもう71歳。 人生のゴールは見えてきている。 だが、天魔の命を得た椿は今後も長い人生を歩まねばならないのだ。
 自分がいなくなったら別の伴侶を探して新しい幸せを掴んでほしい。 これは秘かにしたためた遺言書にも記した内容だ。
 ゲーム内で臣人と出会わない別の人生を送ることは、椿の将来にとって良いきっかけになるかもしれない。
 臣人はうつむかせていた顔をあげた。
「僕は僕で別の人生を探そう」
 まずは依頼を成功させる。
 まだLV1だが、他のPCも今はLV1だから気後れする理由はない。
 ベストを尽くそう。 まずは学校に行こう。 役に立つスキルを身に着けるのだ。

 臣人が校舎の入口に差し掛かったその時だった。
「堺くん」
 肩をぽんと柔らかに叩かれた。
 振り向いたそこに笑顔があった。
 見慣れた、だが見たことのない年代の笑顔。
「椿……さん?」
 50年連れ添った妻、四ノ宮 椿だった。
 高等部の女子制服を着たその姿は、肉眼で見たことがない早春の輝きを放っていた。
「ここインフィの校舎ですよ?」
「私も今回はインフィでいくの! 堺くんと同じ16歳! 同じ学級にしたのだわ!」
「どうして……」
 長い寿命を得た椿からすれば、臣人とともに歩む人生などほんの数歩程度でしかない。
 悠久の時を一緒に過ごせる相手を探すのが、然るべきだと考えていた。
「私ね、堺くんとずっと一緒だったでしょ? でも青春時代だけは一緒に過ごせなかったのよね。 歳が違ったから……この世界なら私の願いは果たせるのだわ!」
 長い人生の果てに待っていた青春。 自分はなんと幸せな男なのだろう。
 臣人はあげていた顔を再びうつむかせた。 そこに伝う涙を隠すために。
「一緒にディアボロ退治に行きましょう……僕が椿さんを守ります」
「え〜、そういうのはいいのだわ。 私たちらしく、もっとバカバカしい依頼に入るのだわ」
 再来の春に、撃退士たちは再びあの校門をくぐる。
 時の彼方に置き忘れた想いを取り戻すために。


リプレイ本文


 水無瀬 文歌(jb7507)が女子高生に戻ったら、学園のミスコンを制するなどたやすい。
 誰の目にもそう思えた。
 2067年現在、すでに大物歌手であり大女優。
 若い頃の写真も時折TVで紹介され、たまねぎ頭の超ベテラン司会者に件の部屋で「まあ、おかわいい!」と絶賛されたばかりだ。
 久遠ヶ原学園内の大手ミスコンは、文歌が入学してくる前年を以て廃止されてしまった。
 ミスコン優勝をアイドルへと至る階の一段目と考えていた文歌には、それが無念だった。
 WTRPGエリュシオン公開後、自らが草の根運動をしてゲーム内ミスコン開催に至らせたのだ。

 問題もある。
 文歌はプロである。 半世紀に渡る研鑽。 歌も表現力も別次元だ。
 運営側もデキレース化を案じたらしい。
 「誰にでも勝機が得られるよう審査方式に工夫をしました」と宣言してきた。

 その審査方法がいかなるものかはわからない。
 だからこそ、全力で戦った。
 夢を理解してくれた家族と、応援し続けてくれたファンへの感謝!
 音符を刻んで曲を創るように、これまでの一つ一つの活動を大切に丁寧に思い出しつつ歌い、踊る。
 自分のイメージキャラでもあるペンギンの着ぐるみを着て、ミスコンへの想いを観客席に訴えた。
「歌にダンスにグラビアに、絶対的アイドル目指してこれまでがんばってきましたっ ! 皆さん、ぜひ私に投票お願いします!」
 大物芸能人による、若き日そのものの姿での挨拶。
「ふみかわ〜!」
「ふみかわ〜!」
 会場から歓声が飛んだ。
「あわわ、またファンを増やしてしまいました♪ これは勝ち確ですね♪」
 文歌はあざとくウィンクした。

「審査の時間です! 各審査員が自分の担当の部門賞を決定します! もし、二つ以上部門賞を獲得される方が現れましたら、奇跡にして栄光の総合優勝となります!」
 今回のミスコンの内容を想い出し、文歌は推察する。
(三つならビジュアル部門、歌唱部門、パフォーマンス部門かな?)
 司会者の説明は続いた。
「なお審査員には久遠ヶ原を代表する三種族から一名ずつを選出しなっていただきました」
 文歌は静かに瞼を閉じる。
(天使、悪魔、人間から一人ずつだね。 あれからまだ50年。 異種族間の溝が完全に埋まったわけじゃない。 確かに、必勝の大会ではないのかも)
 やがて閉じていた瞼を開く。 その目には自信を宿していた。
(関係ないよ、積み上げてきたもの全てを出し切れたから!)

「審査員入場!」
 反対側の舞台袖から、三名の審査員が姿を現した。
 その姿に文歌、いや司会者以外の全員が顔をこわばらせた。
 猫とパンダとペンギンである。
 動物型天魔でも着ぐるみ人間でもない。
 ナマ動物だ!
「にゃ〜」
「ぱう〜」
「きゅ〜」
 ここまでの歌や踊りや想い語りは意味があったのか?
 芸術を理解する知能がない畜生どもである!

「まずは猫部門の発表です!」
 三匹の審査員の前に出場者が全員並ぶ。
 各審査員が最初にタッチした出場者が部門賞に決定する。
 猫モチーフの衣装を着てパフォーマンスをした出場者も複数いる。
 彼女らは50年前の久遠ヶ原における流行を研究していたのかもしれない。
 そんな努力は水泡に帰した。
 猫審査員は、舞台をちょろついていたネズミを真っ先に捕まえてしまったのだ。
「猫部門受賞者はネズミ! すでに頸動脈を断たれていますがネズミさん受賞おめでとうございます!」

 続くパンダ部門の発表。
 パンダ審査員はタイヤで遊んでいるだけだった。
「パンダ部門優勝はタイヤです! タイヤさん、回され続けていますがおめでとうございます!」

 残るはペンギン部門の発表のみとなった。
(もう総合優勝はない……けれど)
 文歌は諦めなかった。
 50年間積み重ねた演技力を発動させた。 最も得意とするペンギンの演技!
「きゅ〜」
 するとちょこちょことペンギン審査員が歩みよってきて、文歌の足元にテシッとお腹をくっ付けた。
「ペンギン部門優勝決定!」
 努力はわずかに報われた。

(総合優勝はお預けか……)
 ペンギン部門賞のトロフィーを手に、わずかな切なさを胸に退場していく文歌。
 その背中に、歓声が浴びせられた。
「ふみかわ〜!」
 このコンテストで文歌が新たに得たファンたちだ。
 会場に手を振る文歌
「みんなありがと〜! お礼に私のデビュー曲、歌っちゃうよ〜♪」
 形なき総合優勝トロフィーは確かにその手にあった。


「おぉ……なぜ私はこんな依頼をぉ?」
 月乃宮 恋音(jb1221)が受けている依頼は“あなたのパチモノ徘徊中!”。
 元ネタは2014年秋に募集された依頼である。
 撃退士の偽物が町をうろついているので自分の偽物を尾行し、正体を捕えて欲しいという内容であった。
「完全に不向きな依頼ですねぇ……(ふるふる)」
 依頼の目的は“偽物に気づかれないよう尾行しつつ、その正体を探ること”。
 恋音は乳が目立ちすぎる上、尾行の準備もしていない。
 街を行く恋音の姿を認めたPCたちから驚愕の声があがった。
「また魔王様だ!」
「初日から魔王が二人も!」
「勝てるはずがない! バランスがおかしい」
「クソゲーだ! 始まる前から終わってた!」
 魔王は恋音が学生時代、定着していたあだ名だ。
 人並み外れ過ぎた乳と、戦いもしないのに無駄に高い戦闘力が憶測と風聞を呼び、広まったものだ。
 半世紀を経て風聞は風化するどころか、尾ひれまでついてしまっていた。
 ゲームの早期配信終了を予感し、課金してしまった絶望感に慟哭するPCたち。
「お星様返して!」
 絶叫が空に轟く。 街はまさに地獄絵図と化した!
 だが、それは同時にもう一人の魔王が近くにいる証拠でもあった。

 偽恋音は繁華街で少女たちに囲まれていた。
「おぉ……貧乳の民よ。 乳なき罪を悔いるがよいのですぅ……(ふるふる)」
「乳神様! 乳貧しき私にお慈悲の増乳を!」
 跪く貧乳少女たち。
 偽恋音は神々しく宣言する。
「備えよ、乳の日は近い」

「と、とんでもないキャラにぃ……」
 おそらく偽恋音は、噂についた尾ひれをベースに形成されたキャラなのであろう。
 外見も乳のサイズもほぼ同一。
 相手が偽物であることを自力で証明することは困難だ。
 恋音は友人の花祀 美詩(jb6160)を呼んだ。

 恋音と美詩は現在、政界人。 同じ党でともに大臣を務めた仲である。
 美詩は政治家らしくW恋音に答弁をしかけることにした。
 その答えで偽物をあぶりだす作戦だ。
「質問よ。 2017年8月当時のプロフィールに記載されていた公式のバストサイズは?」
 W恋音から答えが返ってくる
「「255cmですぅ」」
 両方とも正解である。
 美詩は第二の質問をする。
「当時、どうやって胸サイズの抑制をしていた?」
「「特製サラシ+薬品ですぅ」」
 自信満々だった美詩の表情が崩れた。
「本物の恋音と私たちしか知らない情報のはずなのに!?」
 そして思い出す。
「恋音って、あの頃は胸関係の情報を学園のデータベースに晒しっぱなしだったじゃない?」
「「はい……しかし他の方が把握しているものでしょうかぁ?」」
「大臣経験者だから興味を持つ人が多いのよ、見た目のインパクト凄いし。 ネット掲示板に“魔乳宰相の乳について語るスレ”っていうのが立っているも見たことがあるわ」
「「有名になりすぎたのが裏目にぃ(シクシク)」」
 ともに絶望の涙を流すW恋音。
 そんな彼女らの前に一つの小さな影が現れた。

「待って! あたいわかるわ!」
 雪室 チルル(ja0220)である。
「「おぉ……雪室さん、御懐かしゅうございますぅ」」
 何度も依頼をともにしたさいきょー撃退士だ。
 今回の“あなたのパチもの徘徊中!”の参加者名簿にも、その名は記されていた。
 力強い救援である。
「こっちが偽物よ!」
 チルルが指さしたのは真恋音の方だった。
「な、なぜ!?(ふるふる)」
「勘よ! 間違いないわ、あたい天才だもの!」
 自信満々に言い放つチルル。
 周りのPCたちもそれに頷く。
「野生の勘で、大戦を戦い抜いたと言われる“とてもすごい撃退士”だ!」
「伝説の撃退士の勘ならば間違いない」
 PCたちはすっかりチルルの言う事を信じ込んでいる。
「こっちの恋音をしょっぴけば依頼成功ね! 正体? そんなもん、ひんむけばわかるわ!」
 相変わらずな脳筋ぶりに恋音は乳を震わせて絶望した。
「おぉ……(ふるふる)」

 その時、人ごみの中から、小さな人影がもう一つ現れた。
「待ってください! そのチルルこそが偽物です!」
 二人のチルルの姿はほぼ同じ、だが!
「私が本物! 雪室チルル! 日本の心の雪解けを目指す雪室チルルです」
 もう一人のチルル、なんと敬語キャラ!
 しかも選挙風挨拶だ!

 敬語チルルを見た周囲の反応は?
「ナンセンス! 動画でみたチルルさんと違いすぎる」
「コピーにしてもキャラクター性を忘れるなんて! お粗末な海賊版さ」
 欧米系PCにさえ嘲笑われた。

 チルルは議員にはなって長いもののまだ大臣職についていない。 所属党も小さく恋音や美詩ほどの知名度は確保していなかった。
 追い詰められた敬語チルルは勝負に出た。
「もう一人の私、勝負です! どちらがさいきょーか! それですべてを証明出来るはず」
「望むところよ!」

 かつて学園さいきょーを名乗ったチルル同士の戦いが始まった。
 ふたりのチルルの実力は互角!
 なぜなら、これは新作WTで両者ともLv1なのである。
 スキルも身に着けておらず、幼女同士の単調な殴り合いになる。
 裏を返せばチルルたるものの意地をかけた、ぶつかり合い!
 あたいチルルvs敬語チルル!
 激戦に勝負をつけたのは、この一言であった。
「こんなしょぼい拳が最強? 聞いてあきれるわ!」
「最強? あなた今、最強って言いましたね? 本物のチルルなら……」
 敬語チルルの拳が白氷色の輝きを宿した。
「さいきょーって言うのよー!」
 かつての力が宿った一撃!
 敬語チルル、KO勝利!

 あたいチルルは虫の息の下でわずかに微笑んだ。
「先生、先生はやっぱりそうじゃないといけないっす」
「その口調、あんたまさか!?」
「はい、林っす」
 あたいチルルの正体は、長年仕えている第一秘書の林であった。
「僕は、先生にこのゲームをやめて欲しかったんす」
「議員がゲームやったらダメなの?」
「違うっす! 僕は学園にいる頃からチルルファンだったっす。 天真爛漫でまっすぐで……そんなチルルが議員を目指すと聞いた時、この人こそ日本を変えるべきだと感じました。 それで秘書に志願したっす。」
 林の目には涙が浮かんでいた。
「先生はあの頃のままなら総理大臣にだってなれていたはずなんす! けど先生はいつの間にか、まともな大人になってしまいました。 賢くなった分、おバカパワーもなくなって……そんな姿を学園の仲間たちに見せたくなかったんす」
 自分が偽物を演じた意味を熱く訴える林。
 チルルは声をあげた。
「林こそゲームから出ていきなさい! 偽チルルなんかいらないわ!」
「……」
「だってあたいがチルルだもの!」
 かつてと同じ屈託ない微笑みがそこに浮かんでいた。
「ありがとう! 林のお陰で自分のキャラを思い出せたわ! あたい、絶対に総理になってやるんだから!」
「先生!」
 チルルと林はひしと抱き合った。

「「しかし、まだぁ……(ふるふる)」」
 依頼はまだ解決していない。 どちらの恋音が偽物か判別出来ていないのだ。
「あたいわかるわ!」
 チルルが叫んだ。
 その笑顔は自信満々である。
「こうすればいいのよ!」
 片方の恋音を思い切りぶっとばす!
「おぉ!?」
 恋音をKO!
 あおむけ倒れてもなお余りすぎる乳をひっぱると、綿の如く千切れた。
 KOされたのは、偽物だったのだ。
「おぉ……なぜわかったのですかぁ?」
「わかる必要なんかないわよ! 捕まえてからひんむけばいいの! あたいってばやっぱり天才ね!」
 屈託ない笑顔を浮かべるチルル。
「これが総理大臣候補……」
「日本の将来が怖いですねぇ……(ふるふる)」


「50年ぶりの依頼がラキスケプールだなんて、一千風ちゃんむっつりなのだわ」
「むっつりじゃない!」
 遠石 一千風(jb3845)がリベンジしたい依頼は“ラキスケランドで遊ぼう!”。
 ラッキースケベの頻発する謎のプールに行き、実情を報告してもらう依頼である。
 一千風は半世紀前にも参加し、あられもない姿を衆目にさらしてしまった。
 今回は椿を連れての再参加となる。
「このプールで起きるラキスケ現象の原因を破壊したいんだ!」
「原因なら依頼書の冒頭を読めばわかるのだわ、ラキスケ寮の資材が使われているからなのだわ、そもそも破壊する依頼じゃないのだわ」
 原因除去は施設全破壊、もしくは“ラキスケ寮の日常”の依頼を受けて原因の根本を探さない限り不可能である。
 一千風は一瞬口ごもり。
「わ、私は現役のころ母への反発から依頼を成功させることにこだわっていたんだ! 今は依頼を楽しむのが目標だ!」
「意気込みでごまかしたのだわ」

「とりあえずは一通り回るか」
 一千風は黒ビキニを、椿はスク水をつけて園内にある四つのプールをまわる。
 一つ目、流れるプール。 謎の急流に水着が奪いさられてしまう。
 二つ目、色が変わるプール。 本来は水の色が変化して見た目に楽しいプールだが、なぜか漬かったものの水着の色が変わり、透明になってしまう。
 三つ目はバンジープール。 バンジージャンプ式飛び込み台を経てプールに落ちる仕掛けがしてある。 プールにはどこかから侵入してきたウナギが大量に泳いでおり、ぬるぬるの体で水着の中はおろか、穴という穴へ遠慮なくインしてくる。
 四つ目、ウォータースライダー。 現実のウォータースライダー同様、スタート地点にシャワーがあるのだが水圧が暴走して水の刃となり、水着に切れ目を入れてくる。 滑っていくごとにドスケベな姿へ変わっていくのだ。

 一千風と椿はこれらを順番に回った。
 そして、ここがかつてのラキスケランドではないことを悟った。

 流れるプール。 水着は脱げるのだが、謎の光が入って肝心な部分が見えなくなる。
 どう動いても都合よく光は移動し、絶対に見せてくれない。

 色が変わるプール。 水着はおろか人間の体まで透明になってしまう! 透明人間&透明な水着! つまりなにも見えない!

 バンジープール。 なぜかウナギがなごみ系ゆるキャラ化している。
 人間が飛び込んでくると、なぜかウナギが脱ぐ。
 自ら脱いだウナギは蒲焼になり、玄人の舌をも唸らせる風味と味を醸し出してくれる。
 精はつくのだがそれを解消する方向にはまったく導かない。

 四つ目が酷い。 スタート地点のシャワーが水の刃と化して水着に切れ目を入れるのは変わらない。 だが、水着が脱げる直前になると水の刃が再発射される。
 攻撃目標は滑っている人間ではない、周りで見ている人間すべての眼球だ!

「目が〜! 目が〜!」
「こんなプールじゃなかったのに〜!」
 水の刃に眼球を斬り割かれ、プールサイドで悶絶する二人。
 視界は血の闇に染まった。
 前回に続いて悶絶する一千風だが、今回は色気ゼロである。

 プールの係員がきて、二人に回復スキルをかけてくれた。
「どうなっている、全然ラキスケじゃなかったぞ!」
 係員に文句をいうと寂しげな顔で返事をしてきた。
「仕方ありませんよ、時とともにこの手の規制が厳しくなっていますから」
 表現の自由が保障されている日本。 だが事なかれ主義な民族性もあって、一般向けコンテンツの性表現は規制を強める一方だ。
 100年前は、ポロリをゴールデンタイムのお茶の間に平気で流していたのに50年前にはそれが見られなくなり、2067年現在では……。
「ラキスケって言葉も死語になったのか」
「時の流れね、寂しいものなのだわ」
 50年前を完全に再現しているのかと思えば、時代の波はやはりその形を侵食しているようだ。
「いいさ、それならそれで50年前となにが違うか、いろんな依頼を楽しんで確かめてやる!」
「いいわね! 一千風ちゃんも今度はむっつりキャラ全開にすればより楽しめるのだわ」
「だから、むっつりじゃない!」


 ミハイル・エッカート(jb0544)の参加依頼は“スキルでかくれんぼ 百貨店編”。
 夜の無人デパートでのかくれんぼ大会である。
 ミハイルは椿、堺とともに三人編成の潜伏側チームに属する。
「バラけて隠れよう。 俺に考えがある」

 ミハイルは、三階の紳士服フロアに隠れていた。
 照明の消えた薄暗いデパートの中で紳士服マネキンのふりをしている。
 ミハイルの体型に似ており、カムフラージュになると踏んだのだ。
 時々、“鋭敏聴覚”で敵の周囲の音を探る。
 敵はクレヨー、サスカッチマン、ホセ。 三人とも格闘家出身の巨体である。 一般体型の者と足音や呼吸音が違う。
 デパートを見回っている警備員の足音と混同しないための知恵だ。
(むっ、この音は?)
 ミハイルの耳が、フロア内に呼吸音を見つけた。
 だが、激し過ぎる!

『ハァ!ハァ! ミハイル、お前が島からいなくなって寂しかったぞ!』

(げぇ! サスカッチマン!)
 サスカッチマンは、雪男マスクのプロレスラー。
 ガチホモであり、ミハイルの貞操を半世紀前にも狙っていた。

『俺をこんな薄暗いデパートに呼んでくれるだなんて! 50年分の欲望を今夜はぶつけあおう! あー想像したら辛抱たまらん!』

 ナニかをマネキンにスリスリしつつ、ペロペロしている
 聞いてはならない音を“鋭敏聴覚”が捕えてしまった。
(なんであいつを呼んだんだ、俺!?)
 混乱し、悪寒に震えつつフロアから離れようとしたその時!
「誰だ!」
 強力なサーチライトを浴びせられた。
 用意したスキルや作戦もこうなっては意味がない
 ガチホモをご指名した時、運命は定まったのだ。
(ホられてしまう! 今度こそ!)
 怯えるミハイル。 だが、返ってきたのは若く爽やかな声だった。
 デパートの警備員だ。 かくれんぼ中に見つかっても問題はない。
「魔銃先輩! 魔銃先輩じゃないですか!」
「魔銃先輩だと!?」
 聞いたこともない名で呼ばれた。
 嫌な予感がしたが、軽く受け流す。 ミハイルはいまや企業の会長。 器を見せねばならない。
「ははっ、確かにアウル銃は魔銃とも解釈できるな、半世紀経ってもその代名詞にされているとは名誉なことだ」
 会社の若い子との合コンにでも誘って買収しかくれんぼに活かそうかとも考えたが、警備員は興奮していた。
「僕、貴方の大ファンなんです! 動画全部見ました!」
「動画?」
「椿Pの動画です! あの名台詞の数々! “32歳学生です!”に“ん?今なんでもするって言ったよね?” はネットでは定番です! 日常会話でも使っています!」

 数分後。
「椿! どこにいる! 隠れてないで出てこい!」
 ミハイルは拳銃を手にデパート内を駆けまわっていた
「なにしているんですミハイルさん、見つかっちゃいますよ!?」
 堺に咎められたが怒りが治まらない。
 椿は50年前に流行った動画ネタキャラをコラージュしてミハイルの顔と声に差し替え、ネットにアップしていたのだ。
「俺は鬼側に回る! 椿を捕まえて動画を削除させてやる!」
「まさかの寝返り!?」
 悪鬼と化した魔銃先輩!
 逃げ回る椿を探し回る、迫真のかくれんぼが夜通し繰り広げられた。


「本当に昔のままだな…… これなら、あの日できなかったこともできるか」
 向坂 玲治(ja6214)は久遠ヶ原の映像と、そこに存在する若い自分の肉体を交互に眺めた。
 現実でも体は元気だが、あの頃の姿とはかけ離れてしまっている。
 恋人・葛城巴(jc1251)との外見年齢差は、祖父と孫ほども離れてしまった。
 半世紀前、向坂は巴にプロポーズをした。
 確かに紡いでいた二人の絆。
 だが、巴から返ってきたのは謝罪だった。
 半天使であり、数百年の寿命を持つ巴。 数十年しか生きられない向坂とはいずれ別れの時が訪れる。
 時の亀裂が二人の間を隔ててしまっていた。

 結婚はせずとも巴は向坂とは別れなかった。
 お互い踏み込むことも離れることもできずに見つめあうだけの関係。
 流れゆく時の河の底には、常に後悔が沈んでいた。
 だが、仮初とはいえ時の河をさかのぼる機会がやってきた。

「ずいぶんと遠回りしちまったな」
 向坂の言葉に巴はかぶりを横に振った。
「私のいくじがなかったからです」
「それはお互いさまだ。 断られても傷つけられても前に前に進んで手に入れるべきだったんだ。 “崩れずの光翼”の名が泣くぜ」
 軽く自嘲すると向坂は巴の掌を握った。
「昔から、これだけは俺の中で変わってない……俺と、結婚してくれ」
 返事も聞かずに向坂は跪いた。 巴の指に指輪を付ける。
 巴は返事をしなかった。
 ただ嬉しさにすすり泣いていた。
「喜んで…」
 言葉が聴けたのは涙が枯れ果てた後だった。

 小さな教会で二人は結婚式を挙げた。
 あえて神父は呼ばず、二人だけの誓いの言葉を立てた。
「貴方と共に老い、 死が2人を分かつまで添い遂げることを誓います」
 答える前に向坂が尋ねる。
「いいのか? 誓いに応えたら後戻りできないぜ」
「戻れない、貴方を知る前の私には……。 戻りたくない…貴方に愛される前の私には」
「たとえ短い時間でも、巴を幸せにする」
 誓いの口づけは交された。

 式のあと、向坂が用意した一軒家に移る。
 50年間待望した新婚生活が始まるのだ。
 夜、縁側に並んで座る。
 星を見上げながら向坂が呟いた。
「今さらだけど、俺が天魔になってもよかったんだぜ」
 今回、PC登録段階で巴が種族を人間に変更していた。
「貴方と同じ世界で50年も暮らしたのです、心はもう人間ですよ。 それとも、年老いた私を見たくありませんか?」
「見てやるよ、お前がしわくちゃのババアになるまで見てやる」
「では“短い間”では足りませんね」
「だな、式での誓いは一部修正だ」
 向坂は預けられた妻の頬のぬくもりを肩に感じながら、夜空を見つめ続けていた。
 何億もの時を生きる星に比べれば、数百年の寿命の差など些細なことだ。
 そう考えれば、不安も不満も消え失せてしまうのだった。


 向坂夫妻が奏でた式の鐘の音。
 それを同じ空の下で聞いている男がいた。
「結婚式か、昔はそんな妄想もしてたな」
 男がこの島に戻ってきたのは、かつての恋人を探すためだった。
 同期でありながら様々な依頼を華麗に解決していた少女。
 憧れは尊敬に、やがて恋愛感情へと変わった。
 想いを伝えるために強くなろうと、懸命に依頼をこなした。
 少し自分に自信が出始めた頃、一通の手紙が手元に届いた。

『学園を休学し、実家に帰ります』

 喪失感と徒労感に包まれた。
 自分も学園を離れようと考え始めた時、現在の妻と出会った。
 それから半世紀、間もなく孫も生まれる。
「今さらだな」
 男には自分の気持ちがわからなかった。
 なぜ彼女を探しているのかが、わからない。
「とりあえず、ラーメンでも食いに行くか」
 男の名は佐藤 としお(ja2489)。 かつてラーメン王と呼ばれた男だった。

 学園前の広場を通りかかると、シャウトが響いていた。
「地獄の底から魂こめて叫ぶぜ!!」
 雪ノ下・正太郎(ja0343)がバンド演奏をしているのだ。
 ここは三叉路の中央にあたる広場、何度も通っている道だ。
 そのたびに佐藤は雪ノ下に同じ質問をしていた。
「今日は来たかい?」
「どちらのことですか?」
「嫁さんじゃないほう」
「来てません」
「そうか」
「奥さんの方は来ました」
「そうかぁ」
 佐藤は気まずげに頭をかいた。
 こちらの世界にも妻は来ている。 だが一度も顔を合わせていない。
 佐藤が避けているからだ。
 雪ノ下はここでバンドをしているため、学生たちが周りに集う。 その中のひとりに妻もいるのだ。
 雪ノ下は現実の学園では“変身ヒーロー学”の教授になっている。 大戦世代から現役に至るまで幅広い層の学生と交流を結んでいた。
「どうして思い出の人を探しているんですか?」
「わからん」
 佐藤が首を横に振ると、雪ノ下は爽やかに笑った。
「佐藤さんも青春ですね」
「まさか。 俺は人間だ、雪ノ下さんとは違って背後は若いままじゃない」
 雪ノ下は突如、V兵器のエレキギターを奏でた。
 雷の如く轟音が広場の芝生を振動させる。
「求めるものがある限り、いつだって青春です!」
「若いなあ」
 雪ノ下の言葉の輝きを、佐藤は羨ましく思った。
「佐藤さん、バンドの件は考えてくれましたか?」
「すまん。 こう心がもやもやしていちゃあ決められないよ」
「そうですか」
「他の知り合いはどうだったんだ?」
「月乃宮さんは、体に合う楽器がなくて難航しています」
「あの胸じゃあな」
「チルルさんはステージにあげると自分の選挙演説を初めてしまうし、遠石さんはいろんな依頼を受けて楽しんでいますね。 向坂夫妻は新婚生活中。 ミハイルさんは悪鬼の形相で椿さんを探しています」
「文歌さんは?」
「誘いにくいんですよ、現実では一曲何十万のギャラが発生する人ですから」
「そりゃあそうだわな」
 大戦当時の仲間とバンドを組みたい雪ノ下だったが、簡単にはいかなさそうだ。
「思い出の人の件に関しては、現役の学生たちからも情報集めをしてみます。 ゲームと現実で二重の学園生活を楽しんでいる学生も多いですからね」
「さすがは教授、頼りになるぜ!」

 雪ノ下と別れ、再び佐藤は思い出の人探しを始める。
 幾日、幾週間、探し続ける。
 それでも彼女は見つからない、情報もない。
 この世界には来ていない。
 悟りかけてはいても探してしまう。

 いつもと同じ時間に、佐藤は学園前広場を通っていた。
 雪ノ下がギター奏でて唄っている。
 それを学生たちが囲んで聞いていた。
 いつもの人だかり。 その中に佐藤は諦めかけていた姿を見つけた。
「あ……」
 声をかけようとして、今さらながらおじけついてしまう。
 会ってなにを話せというのか? 姿を確認しただけで十分じゃないのか?
 そんな声が心の奥底から聞こえてくる。
 臆病な声を押しのけたのは雪ノ下の歌だった。

『求めるものがある限りいつだって青春だ』

(ここでは……いや、どこだって青春を生きてやる!)
 歌に後押しされて彼女の前に歩み出た。
 
 話は他愛もないものだった。
 この半世紀、どこでなにをしていたのか。 誰と過ごしていたのか。 他の旧友たちとも話した世間話だ。
 違いは、最後にあの頃の想いを伝えたことだけだ。
 彼女は笑顔で「ありがとう」と答えてくれた。
 佐藤は付け加えた。
「それで俺は今……大事な人がいてとても幸せなんだ」
「私もだよ」
 佐藤は、気づいた。
 この一言を聞きたくて、彼女を探し歩いていたのだと。
 
 ログアウトする。
 半世紀前の久遠ヶ原から2067年の佐藤家に意識が戻ってきた。
 妻に報告しなければ。
 事の顛末が知れたらあらぬ疑いが浮上しかねない。
 下手に隠すより自分から話す方が無難だと思えた。

 妻の部屋に入る。
 無人だった。
 一瞬、ひやりとした。
 だが玄関の方から妻の話し声が聞こえる。 急な来客に対応しているらしい。
 ふと妻用のパソコン画面を見ると、PCのパラメータ画面が映っていた。
 彼女のメインキャラである“若い頃の妻をモチーフとしたPC”ではなかった。
 探し歩いていた“思い出の人をモチーフとしたPC”だった。
 理解は一瞬で出来た。
 佐藤が彼女を探し歩いていることを妻は知っていたのだ。 そしてそれが見つからないであろうことも、見つからない限り佐藤の気持ちにしこりが残ってしまうことさえも……。
 妻の部屋を出た。
 廊下に突っ立っている佐藤に、来客の対応を終えた妻が不思議そうに尋ねてきた。
「どうしたの?」
 佐藤は答えた。
 かつての愛しい人を演じてくれた、現在の愛しい人の手を握って。
「……ただいま」


 “感情表現部”
 雪ノ下が設立した部活である。
 バンド、TRPG、創作などやりたいことが多い雪ノ下だがとりあえず集まって、各部員がやる気のある企画に手を出していこうという部活にしたのだ。
 部員は大戦中からの仲間たちだ。
 ただし本日は、ミハイルがようやく捕獲した椿に自らをモデルにしたMAD“魔銃先輩シリーズ”を消去させるという非創造的な活動を行っている。
「消したって無駄なのだわ! むしろ増えるのだわ!」
 往生際悪く、椿はだだをこねている。
「意味がわかんねーよ!」
 その隣では佐藤がラーメンをすすりながら動画を観賞している。
「へぇ、技術の進歩で誰の顔にでも動画がコラージュできるようになったんだな。 その中でも魔銃先輩がキャラとしてダントツだってはっきりわかんだね」
「さっそくハマるな!」
 ミハイルは、若い頃久遠ヶ原ケーブルTVに腐女子大歓喜な映像を大量に残してしまった。
 そのため、ネタ素材が豊富なのだ。
「私の“乳魔神”シリーズも相当な数がぁ」
「こないだTVで“水無瀬文歌あざとい伝説”っていうのを流されちゃったけど、情報源は椿さんかな?」
「私たちの無茶なキャラ付の何割かは、確実に椿さんが原因ですよねぇ(ふるふる)」
 恋音と文歌も、ネタキャラ化させられた被害者である。
「その点、あたいは経歴に一点の曇りもないから安心ね!」
 自信満々なチルル、知らぬが花である。
「いい、恋音ちゃん? 撃退士は単なる戦士じゃない。 個性を持った楽しい人たちだったってことを後世に伝えていくこと。 それが天魔の命を授かった私の役目なのだわ!」
 きりっとした顔で宣言する椿に向坂がツッコむ。
「その伝え方がロクなもんじゃねえから、怒られているんだろうが」
「向坂くんだって注意したほうがいいのだわ、巴ちゃんのことを怒らせたら死んだあとまで言われるのだわ」
「巴はそんなことしねーよ!」
 一千風も割と焦っている。 ここへきて、むっつりキャラレッテルを貼られてしまったのだ。
「雪ノ下さんも長命種なんだから椿さんが悪さしないよう、私たちの後世の名誉を守ってくれよ」
 頼られた雪ノ下は、
「いいじゃないですか、椿さんの動画! ロックンロールですよ!」
 ジャラーンとギターをかき鳴らした。
「お前は心が広すぎる!」
 皆に一斉に突っ込まれる雪ノ下。
 2067年。 楽園(エリュシオン)での青春は、まだ始まったばかりだ。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:20人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師