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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/07/28


みんなの思い出



オープニング

 ※注意
このシナリオは、エリュシオン世界の未来を扱うシナリオです。
シナリオにおける展開は実際にこの世界の未来に存在する出来事として扱われます。
参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。

※子孫の登場(可)
このシナリオでは通常と異なり、PCの子孫(実子または養子、孫など)を一人だけ追加で登場させることができます。
追加で登場するキャラクターは、PCとして登録されていないキャラクターに限定されます。
子孫の設定は、必ずプレイング内で完結する形で記載してください。


 2042年7月。
 久遠ヶ原島内に新しいホテルが開設された。
 ここに久遠ヶ原学園の卒業生たちが再集結し、自ら育てた子供を紹介しあうパーティが開かれようとしている。
 親世代が温めた絆を子世代にも伝えようというのが、その趣旨である。
 主催者はこのホテルのオーナーであり、学園卒業生でもあるはぐれ天魔のニョロ子(jz0302)だった。

 自らが経営をするそのホテルのロビーに、ニョロ子は懐かしい面影を見つけた。
「失礼しますにょろ、四ノ宮 椿さんの御関係者の方にょろですか?」
 ロビーのソファーに座っていた女性の面差しに学生時代、姉のように慕っていた四ノ宮 椿(jz0294)と重なるものを感じたのである。
 あれから25年を経た今、人間である椿が当時と同じ姿のままであるはずはない。
 天魔であるニョロ子でさえ、容姿的には18歳前後に変化している。 天魔の能力で外見的の加齢は止めているものの、時は流れたのだ。
 ソファーの女性はしばらく不思議そうな顔でニョロ子を見つめていたものの、やがて思いついたように口を開いた。
「母のお知り合いの方ですか?」
 やはりそうであった。
 椿は戦争終結の後に悲願の結婚をした。 結婚式にはニョロ子も参列した
 祝宴は、同時にニョロ子にとって切なさを伴った儀式だった。
「学生時代、お世話になったものにょろ。 椿お姉ちゃんと……堺お兄ちゃんはお元気にょろか?」
 ニョロ子は、初恋の男性の名を25年ぶりに呼んだ。
 女性は寂しそうな笑顔を浮かべて頷いた。
「父は元気です。 新作ゲームの詰めの作業中で今日は来られなくて」
 夢を叶えてゲームクリエイターとなり、堺は婿入り後は会社を持つまでになった。
 ゲーム系のサイトを見ると、インタビューに答える四ノ宮臣人の姿を見ることが出来る。
 そこまでは既知の事実だったが、続く言葉は楔となってニョロ子の胸に打ち込まれた。
「母は三か月前に交通事故で……」
 ここまで頭が真っ白になったのは、堺と椿の婚約を知らされて以来のことだ。
 白い世界の中に浮かび上がる、戦時中とは思えぬ暖かさとお気楽さに満ちた斡旋所の風景。
 それはやがて涙という形となって、ニョロ子の頬を伝った。
 ニョロ子を見つめている眼前の女性の表情も変わった。
 ただし、変化はニョロ子との予想とは正反対のものだった。
「なーんてね! ニョロ子ちゃん! 私なのだわ!」
 お気楽な笑顔、特徴的な語尾。 それは、そう……。
「椿お姉ちゃん!?」
「いえ〜すなのだわ!」
「変わってなさすぎにょろ!」
 椿は60手前の年齢のはずである。 どう頑張って若作りしようとも、人間ならば容色の変化は隠せないはずだ。
 そのことを問いただすと、椿からこんな答えが返ってきた。
「ニョロ子ちゃん、偽結婚式のこと覚えている?」
 斡旋所に学園生による協力を依頼として出したため、覚えているものもいるのではないだろうか?
 四ノ宮家の女は家訓により30歳までに結婚せねばならない。 当時の当主だった爺様にそうどやされたため、椿が突貫工事で作り上げた偽の結婚式があったのだ。
「あの家訓ね、実は四ノ宮家のご先祖様に天魔がいたのが原因だったのよ。 その四ノ宮家の女は三十ちょい過ぎまでに子供を産まないと天魔の血が覚醒しちゃうの。 って言っても角や羽根が生えるわけじゃなくて年を取らなくなる程度の変化なんだけどね。 今の時代なら天魔のことも理解されているからいいけど昔だったら、年をとらない人間なんて妖怪扱いでしょ? 四ノ宮家が妖怪扱いされないために出来た家訓だったのよ」
「あれって伏線だったにょろか!?」
 うなずきつつ、若々しくウインクを返す椿。
 加齢がストップしたのはアラサーになってからのはずであるが、自分ではもっと若く見られる自信があるので25歳以下で通るのか試してみたく、ニョロ子にウソをついたらしい。
「バカ! バカ! 相変わらずのアホにょろ〜!」
 ニョロ子は自分の頭の蛇さんを1匹引っこ抜くと、それを鞭にして椿をビシバシ叩いた。
「痛い、痛い! その攻撃えぐいからやめて!」
 
 しばし話し込んだ後、ニョロ子は椿をホテルの大ホールへ連れ込んだ。
「ウソをついた罰として、リハーサルに協力してもらうにょろ!」
「リハーサル……懐かしい響きなのだわ」
 椿は地方TV局である久遠ヶ原ケーブルTVの番組リハーサルを仕事として度々、行っていた。
 その久遠ヶ原ケーブルTVが、本日のお見合いパーティの模様を生中継する。
 すでに若いスタッフがリハーサル準備を始めていた。
「協力って、なにをすればいいのだわ?」
「親御さんはナレーション席に座るにょろ、ここからお子さんがステージにあがる姿を見ているのにょろ」
「わかったのだわ! 牡丹ちゃん、あそこにあがって!」 
「え〜、まだお客さんが来てないなのわよ!?」
 不満げに返事をしたのは和服姿の少女である。
 四ノ宮 牡丹 16歳。 椿と堺の娘だ。
「せっかくTVが着ているんだから、放送が始まってからオンステージして私の美貌を世界に広めたいなのわよ」
 ドヤ顔をする牡丹。
「まったくもって、椿お姉ちゃんの娘にょろ。 本番でも出番は用意しておくからリハに協力してほしいにょろ!」
 ニョロ子が頼むと、牡丹は嬉々としてステージにあがった。
 スポットライトが牡丹に浴びせられる。
 笑顔でデルモ立ちする牡丹。 だが、ここで歌やトークショーを始められるわけではない。
「お子さんの紹介は親がナレーションでやるのにょろ。 自分の子供が魅力的に見えるように工夫して紹介するにょろ! そしてお子さんに許されるのは、そのナレーションに対するツッコミのみにょろ!」
 スポットライトの中でポーズをとっている娘を見上げながら椿はマイクに向かってナレーションを始めた。

『ウチの娘、牡丹は久遠ヶ原学園高等部の一年生なのだわ。 でも将来は撃退士にはならないでタレントになりたいらしいの。 学園に入ったのは、大叔父さんがここのTV局長で芸能界とコネがあるから懐に飛び込んでおきたいというセッコイ理由なのだわ!』

 牡丹からのツッコミが返ってくる。
「ママだって局長のコネでTVに出まくっていたくせに!」

『私はタレント志望じゃなかったもの、それでもこの美貌だから男性ファンから引く手あまただったのだわ!』

「その割に、地味な職場結婚じゃない! いつもママがしているこの島のマドンナだったっていう自慢が本当なのか、あとで会場の御父様方に聞くわ!」
『ごめんなさい、ママはウソをついていたのだわ! それはやめてー!』
 会場設営をしている若いスタッフたちも、親子の掛け合いに思わず笑い声をもらしている。
 彼らが知らないはずの四半世紀前の雰囲気が島に帰ってきている!
 キミも手に塩かけて育てた子供を連れてきて、思い切り親馬鹿自慢をしよう!


リプレイ本文


 本番開始と同時にひとりの少女が壇上にあがった。
 会場のざわめきが一際大きくなる。
 その黒髪と金眼の美しさが、TVや雑誌で見知ったものだったからだ。
 水無瀬 奏。 いわゆる二世タレントでアイドル。
 来客たちは母親も来ているのではないかとナレーション席に視線を集めた。
 そこに座っていたのは父親の水無瀬 快晴(jb0745)だった。
 妻は映画収録中のため、ここには来ていない。
「……やりにくい」
 芸能人一家にあって、一般人をやっていると多々ある状況である。
 快晴は強く咳払いをすると、子供紹介のナレーションを始めた。
『……お久しぶりの方もいるのではないかと思います。 ……水無瀬 快晴です。』
 ざわついていた会場から、安堵を含んだ声があがった。
 快晴は当時から難病で余命を宣告されており、周囲もそれを知っていた
 医療技術の発達、そして妻と子の支えが宣告を大幅に覆し、今も快晴はここにいる。
『……学生時代は、体の事でご心配をおかけしました。 ……今はどうにか父親をしています』
 当時と口調が違うが、 社会人生活25年は伊達ではない。 公の場ではしっかりとした敬語を使うようになっていた。
『……今日はひとりの娘としての奏をご紹介したいと思います』
 前口上を終えたとたん、可愛らしい声が飛んできた。

『アイドル生命を断たない範囲でお願いするのです♪』

 奏が壇上からアドリブを入れてきたのだ。
 プライベートを語る父親に対する牽制ネタだろう。
 バラエティにも出ているだけあってタイミングが絶妙だ。
 快晴もテンポよくナレーションを挟んだ。
『奏の名前は単純にアイドルの母親のイメージでつけた名前です。 そのせいか奏までアイドルになってしまわれました』

「なんで娘にへりくだり気味なのです!?」

 娘のツッコミ。
 快晴は苦み走った顔で返答をした。
『……年収』
 快晴も同年代の平均に比べて高年収だが、奏は売れっ子芸能人だ。 十八才としてはありえない額を稼いでいる。
 ビタージョークを交えつつ、快晴は淡々と娘自慢を続ける。
『家での奏は、母親と同じくペンギンフェチです。 ペンギンのグッズに埋もれてにへにへしていて大変気持ちが悪いです』

「気持ち悪くないのです! あのグッズはみなさんからの愛なのです!」
 ドヤ顔で胸を張る奏。 ファンからのプレゼントだと自慢しているらしい。

 だが、快晴はペンギンたちの出自を知っていた。
『実は半分以上、ゲーセンで捕獲してきたものです』
 大半はクレーンゲームで獲得したものなのだ。 アイドルは、ゲーセン荒らしのゲーム狂だった。

 奏の隠しプロフォールはまだあった。
『……奏の一番の趣味は家族にプロレス技をかけることです。 ……こないだはモルモン・シクル・バックブリーカーをかけられました』
 極めてマイナーな技。 これだけで奏がディープなプロレスオタであることが伺い知れた。

「あれはモルモン・シクル・バックブリーカーじゃないです! ぺんぎんさんすぺしゃるなのです!」
 どうにかアイドルとしての体面を繕おうと言い返す。
『……名前だけ可愛くしても』
 呟きツッコミを入れつつも、快晴は改めて目の中に入れても痛くないほど奏を愛おしく思った。


「芸能人一家の直後とかハードルが高すぎだろ」
 奏が舞台を降りる中、舞台下で背の高い短髪の青年が呟いた。
「ここは望兄さんに譲ります、お先にどうぞ」
「いや、莉来が先に行け。 30前のおっさんがすべったら許されないが、女の子ならまだなんとかなる」
 星杜一家の子供たちである。
 芸能人一家がハードルをあげた直後という困難な出番を譲り合おうとしている。
 兄妹の間におっとりとした声が差し込まれた。
「望さん、莉来さん、喧嘩をしていないでふたりで一緒にあがりなさい」
 ふたりの母親、星杜 藤花(ja0292)である。
「でも、それじゃふたり揃ってスベる結果に……」
「望、よいことを教えましょう」
 二人の父である星杜 焔(ja5378)が笑顔で息子にアドバイスをした。
「お前たちの次の順番も芸能人です」
 即ち、順番無関係に逃げ場はない。
 望と莉来は、すべてを諦めた顔で舞台にあがった。

 まずは焔がマイクを握る。 焔が紹介担当をするのは長男の望である。
『お久しぶりです、星杜 焔です。 今では児童養護施設と小料理屋経営 をしています。
ここへ戻ってくるのは25年ぶりです……』

 言いかけた焔の口を望の言葉が先んじて封じた。
「嘘だよね?」

 焔が苦笑してうなずく。
『はい、嘘です。 実は十何年か前にシーツを被って学園に潜り込んだことがあります。 望が撃退士になると入学したのが心配で心配で……。  学園七不思議の飯くえおばけ、あの正体は何を隠そう父さんだったのです』

 息子から返ってきたのは溜息だった。
「僕ももう学園講師だし、30手前なんだからそういう話は勘弁してくれないかなあ?」

 息子に呆れられた焔。 だが、その眼元からは笑みが消えなかった。
『今、言ったように望は29歳です。 戦時中に学生結婚をした僕たち夫婦が引き取った子なのです。 血の繋がりはありません。 けれど私も望も小さい頃、キャベツ畑から赤ちゃんは生まれないと知りショックで部屋に引きこもったという共通の過去があります。 血が繋がらなくとも魂は親子なのだと信じています。 違うところは、私が非モテだったのに、望はモテなところですかね。 そこが似なかったのは血の繋がらない親子のよいところではないでしょうか?』

 望は、胸の奥からじんわりと暖かいものがこみあげてくるのを感じていた。
 照れ隠しにそっけない態度をとってみせたことを、少し後悔した。

 マイクが藤花に渡る。
 今度は莉来の紹介をするのだ。
『娘の莉来です。 歳は22になります。 私と焔さんは学生結婚だったのですが、莉来は大学部卒業後すぐに生まれた子になります。 あの時は慌てました。 ちょうど小料理屋と児童養護施設を準備しているときでして、小料理屋の立地も決まっていなかったのです、候補としては茨木県の高萩市と群馬県の板倉町があったのですが、茨木は……』

 莉来が母の昔話を制止した。
「お母さん、その話を全部すると私の登場がいつになるかわからなくなると思うの」
 おっとりした母の人生語りは、並外れたロングストーリーである。 莉来はもう懲りていた。

 藤花がニコニコしながらうなずく。
『そうね、かいつまんで言うとそれで莉来ちゃんが撃退士になったのよ』

「かいつまみすぎだろ」
「なにが“それで”なのか」
 望と焔が呟く。
『え〜と、ジョブはアーティストなのよね? 私のおさがりの筆を今でも使ってくれているの』

 莉来も元気よくうなずく。
「はい、撃退士の合間に書家もやっています。 ネットに作品をアップしたりもしていますので興味のある方はご覧下さい。 雅号が“来夢”ですのでそれだけで検索すると違うところに引っかかっちゃうんですが、マルチーズのブリーダーもやっていますので“来夢 マルチーズ”で検索すれば出てくるかと思います」

 娘のセルフプロデュース。
 それを聞いた藤花が興味を持ったのか、自分のモバイルをいじった。
『……検索したけれど、来夢ちゃんっていうマルチーズ犬しか出てこないわよ?』

「あれ? もっと有名にならないとダメですね〜」
『そうね、がんばって有名なマルチーズを育てましょうね』
 この母娘、ボケにボケしか返さない。 話の方向をどこに持っていきたいのか、会場の誰も理解出来なかった。

 最後に藤花が悩みを呟く。
『莉来ちゃんはとても可愛いと思うんですけど……何故かモテないみたいで、彼氏が出来ないんですよ』
 焔もそれに頷いた。
『いや、莉来はまだ若い。 心配なのは望だ、モテるのに30前まで彼女ナシとはどういうことなのか?』
 やがて、焔がなにかを思い当てたかのようにくわっと目を見開いた。
『まさか、俺が譲ったアハト・アハトが原因なのでは?』
 アハト・アハトはライフル型の高性能V兵器である。
 腐女子撃退士から譲られたものだ。
 そのためか、アウルの弾丸が┌(┌ ^o^)┐の形になってしまうという特徴がある。
『┌(┌ ^o^)┐のせいで望の性癖が歪んだんじゃ……』
 頭を抱える焔。
「違う! ┌(┌ ^o^)┐のせいでホモだと誤解されているんだ! だから男からしか告白されないんだ!」
 望も┌(┌ ^o^)┐をなんとかしたいのだが、焔から改造を禁止されているためどうにも出来ない。
「兄さんが男子生徒に懐かれているのを見ると、なんだかほわ〜とします」
 焔と藤花に孫ができるのは、まだまだ先のことになりそうだ。


「久しぶりね、悪魔君!」
「椿さん、悪魔じゃなく咲魔です」
「25年ぶりなのに、この間も会った気がするのだわ」
「そりゃ、TVで僕を見たのを錯覚したんでしょ? 加齢がとまった割に天然ボケは進行していますね」
 咲魔 聡一(jb9491)は卒業後、俳優になった。
 外見上加齢しない悪魔のため、当初は永遠の少年役かと悩んだようだがどうにか大人びた容姿にはなれたようである。
「そっちの子は咲魔君の子供?」
 椿は咲魔が連れている5歳くらいの男の子を見て尋ねた。
 クールだった咲魔はとたんに破顔した。
「はははっ、いやだな〜。 陸は僕の孫ですよ!」
「孫! もうおじいちゃんなの!?」
 25年が経っている。 卒業後、ほどなく結婚したものなら孫ができていても不思議ではない。
 陸が咲魔に尋ねた。
「このおばちゃん、おじーちゃんのおともだち?」
 陸の頭を咲魔は抱き寄せてもふもふする。
「ふふふ、賢い子でしょう? 椿さんをおばあちゃんと呼ばない。 この年で、命の尊さを知っているんです」
「そう陸君偉いのだわ! それを咲魔君にも知ってもらいたいものだわ!」

 数分後、陸が舞台にあがった。
 咲魔は巻きたての包帯姿も痛々しくナレーションを始めた。
『孫の陸です。 娘が早くに嫁いだ時は悲しみの涙に暮れたものですが、孫が生まれてからというもの毎日嬉し泣きの連続で……それというのもトンビが鷹を生み、その鷹が鳳凰を生んだのがこの陸でして……』
 舞台上の陸は、練習用のヴァイオリンを抱えていた。
『ご覧の通りとヴァイオリンを習っているのですが、その腕前たるや、将来世界中のヴァイオリニストがこの子のために職を失うことになりはしないかと心配で心配で』

「もうオチが見えたのだわ」
『そう言う椿さんも驚くはずです! 陸が奏でる鳳凰のさえずりの如き音色を聞けば』
 陸は咲魔に促されてヴァイオリンを弾き始める。
 結果、椿の予想が正しかった。
 場内の客が冷める中、だが咲魔だけは呆けた顔で孫の演奏を聴いている。
『鳳凰が幻の鳥である以上、咲魔君が聴いているのも幻の音色なのだわ。 孫バカの脳内修正は甚だしいのだわ」

 咲魔の孫自慢はまだ続いた。
『幼稚園で、お友達二人がおもちゃを取り合って喧嘩をしていたのですが、陸は片方に自分のおもちゃを与えたのです! 大岡越前もかくやという名采配!  でしゃばるリーダーではなく、潤滑油として組織に貢献する人間ですね。 これからの時代に必要とされるタイプです』
 陸は皆の前で舞台の上で溜息をついた。
「おじーちゃん、いいかげんにするです」
『ああ、呆れてる陸も可愛いなぁ』
 未だに呆けている咲魔だが、陸の言は辛辣だった。
「僕はあれを反省しているです。 潤滑油タイプの人間は25年前に大量生産されたあげく、供給過多でネタ化したのでしゅ。 じいちゃんはこの時代を生き抜くのに必要なものが見えていないのでしゅ」
 老人が“これからの時代の〜”などと言った時、大抵それはとっくに旧式化したものなのである。
 咲魔聡一老いたり。 かつての彼を知るもの全てがそれを認識した。


 この騒ぎを見て一人の女性が呟いた。
「なんだか昔の久遠ヶ原に戻った気分ですね」
 銀髪と赤い目、身長は伸び、顔も大人びていたが間違いなく雫(ja1894)だ。
 戦時中、最強の一角と謳われた撃退士である。
「ただ焔さんは……同性愛を助長する武器を子供に渡すとはOHANASHIの必要がありますね」
 焔の横顔を遠くに眺めながら、拳をべきべきっと鳴らす雫。
 久遠ヶ原は相変わらず同性愛が多い。
 先日も娘に同性婚を申し込んできた少女を駆逐したばかりである。
 OHANASHIは厳しいものになりそうだった。

 雫のナレーションが始まった。
『私の娘で鏡花と言います』
 青い髪の少女が舞台に立っている。 同性婚を申し込まれるだけあって、凛とした顔立ちの美少女だった。
『久遠ヶ原高等部の一年生で、私の跡を継ぐためと公言しています』
 母の言に、鏡花本人は小さく右手を横に振った。
 否定もしくは謙遜の意志を示しているのだろう。
 スポーツの世界同様、レジェンドの子にかかるプレッシャーは大きいのだ。
『でも実際は私と夫が出会った場所だったから、自分も将来の伴侶と出会えると期待をしているみたいですね』
 雫は学園で出会った悪魔族の男性と結婚をした。 間にできた鏡花は、ハーフ悪魔ということになる。
『親の贔屓目を抜きにしても美人だと思いますし、在学中の私と違って身長も少し高い程度ですからモテてもおかしくは無いんですよ』
 子煩悩全開でベラベラ喋りまくる雫。
 かつての雫を知るものたちは、雫本人なのかと怪訝な顔をしている。
『性格だって別に粗野だとか男勝りって言う訳じゃないんですよ? 私に似て少々クールな所もありますが……』

 沈黙していた鏡花が、ここでようやくツッコミを入れた。 
「お母さんのどこがクール?」
『え?』
「学生時代から怒ると大剣でザクザクやっていたし、巨乳相手には敵意むき出しだったし、お父さんに片思い中はデレデレでしたよね?」

『なぜそれを……』
 知られるはずもない過去の記録を娘に掘り返され動揺する雫。

「久遠ヶ原ケーブルTVで過去の番組の再放送を見ました。 お母さんが猛獣を恐怖で従えていたり、覆面レスラーを怪物と勘違いして腕をへし折ったりしているシーン、さらには巨乳の女性に嫉妬して……」
 娘の口から列挙され続ける過去の自分の業。
 雫は肩を震わせた。
『再放送……なぜ余計なものを……これはOHANASHIせねばならない相手が増えましたね』

 雫は会場にいた番組スタッフの襟首を捕まえると、片っぱしからポイポイと隣室に投げ込んだ。
 蘇るレジェンドの力。
 この後、隣室でどんなOHANASHIあいがされるのか、想像するだに恐ろしい。


 戦時中、島は個性豊かな撃退士であふれかえっていた。
 島に育った無数の個性が花を咲かせ、戦争の中から平和を掴んだ。
 戦後、それらの個性同士が交わり合い、新たな個性を生み出した。
 それは平和を長く保たせるための個性。
 島に咲く花の色も移り変わってゆく。
 新たな花々の色がさらに鮮やかに彩られていくことを、親世代の撃退士たちは懐かしき久遠ヶ原の空に祈るのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 紡ぎゆく奏の絆 ・水無瀬 快晴(jb0745)
 そして時は動き出す・咲魔 聡一(jb9491)
重体: −
面白かった!:7人

ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB