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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/05/15


みんなの思い出



オープニング


 昨年末に行われたアウルスポーツ大会KOB。
 それをレギュラー化すべく発足したのがAOB(アスリートオブブレイカー)協会である。
 今回のスポーツはゴルフ。 体力のない年配者でも若者と渡り合える競技。
 ただし、普通のルールではない。

 大会前日。
 下見プレイが協会関係者によって始まろうとしている。
「アクティブスキルは禁止なのね、ルールはやりながら適当に覚えるのだわ!」
 ゴルフ場にきて、さっそく死亡フラグをたてている四ノ宮 椿(jz0294)。
「椿ちゃん、同時にティーショットを打つんだな」
 椿の対戦相手は学園教師のクレヨー。 椿の恩師であり、今はAOBの運営をしている。
「同時? ゴルフって一人ずつ順番に打つものじゃないの?」
「第一打目だけは同時に打ってスタートというルールなんだな」
「変なルールね?」
 ティーグランドに並び立つ椿とクレヨー。
 両者とも1番ウッド……ドライバーを握っている。
 V兵器技術の応用で作られたクラブである。
 ふたりが同時にスイング動作をし、ティーショット。
 ゴルフは己をスイングマシンとしてイメージする人もいるほど、ショットフォームに正確性が要求される。
 両者とも練習場で、スイングは体に染みつけている。
 ふたつのボールは弾丸と化して空を飛び、ともにフェアウェイの上に落ちた。
「ナイスショットなのだわ! ……って先生! なぜ走るの!?」
 椿が弾道を悠々と見送っている間に、クレヨーは元力士の巨体をゆすって全力で走り出していた。
「これはスピード勝負のゴルフなんだな! 打数無関係に先にカップインしたほうが勝ちというルールなんだな!」
 ゴルフは本来、少ない打数でのホールインを競うもの。
 だが、AOBのゴルフはふたりで同時スタートして先にカップインしたものを勝者とする。 勝負に打数の観念は存在しない!
「そういうこと!ならこの脚力を活かすのだわ!」
 椿も自分のボール目掛けて走り出した。

 先に走り出したのはクレヨーの方であるが……。
「ぜぇぜぇ……体が重いんだな」
 元関取のクレヨー。 立ち合いで鍛えた瞬発力は抜群だが、走るのは苦手である。
 椿は軽くクレヨーを追い抜かし、自分のボールのもとへ辿りついていた。
「すごい! 私のほうが少しだけ飛んでいるのだわ!」
 椿のボールはティーから250y(ヤード)ほどの地点に落ちていた。 約228mだ
 クレヨーのボールは240y地点にある。
 腕力や筋力はクレヨーのほうが遥かに上なので、本来なら椿より飛んでもおかしくない。
 このクラブは、飛距離をコントロールし、ミスショットさえしなければパワーは無関係に同じような距離が出る仕組みになっていた。

「池越えの場面ね、スプーンなら余裕で越えられる距離なのだわ」
 ゴルフバッグから3番ウッド……スプーンを取り出す。
 ドライバーに次いで飛距離が出るクラブ。 しかも、フェアウェイで打つのに適している。
 目標方向と落下予測地点を確かめ、ボールの前でスイング動作に入る。
 クラブを掲げ大きく腰をひねったその瞬間!
「ぎゃっ!」
 硬いボールがGカップの胸の上にぼゆんとぶつかってきた。
 クレヨーが追い付いてきて、椿の背後にあった自分のボールを打ったのだ。
 10yの至近距離からスイング中に狙い撃ちされては、避けられるものではない。
「先生! 人にボールをぶつけたらダメでしょ!」
「このゴルフは相手にぶつけてナンボなんだな。 ボールをぶつけられたプレイヤーは“対戦相手のプレイヤーが次にショットをし、そのボールのもとに着くまで”一切動いてはならないんだな」
「ふぁ!?」
 紳士のスポーツにあるまじきとんでもルール。
 いつ狙撃されるのかわかったものではない。
 裏を返せば、ボールを相手にぶつけるスナイプショットに成功すれば、次のショットは報復を心配する必要もなく集中して打てるのだ!
 性質上、ゴルフのスイングはその場にほぼ制止して行わなければならない。
 打つ瞬間には、誰もが動かない的となるのだ。 近距離ならばスナイプ成功率は大!
「椿ちゃんは、僕が打つのを指をくわえて見ているんだな」
 悠々とクラブを選び、方向を見定めているクレヨー。
 椿は報復したいのに、動くことすら許されない。
 クレヨーは心穏やかにショットに専念できた。
 クレヨーの第三打は白い虹を描き、コース半ばの谷にかかる橋を越え、その向こうのフェアウェイに落ちた。
 のんびり歩き、自分が打ったボールの前で立ち止まるクレヨー。
 この瞬間から、ようやく椿は動作再開が許される。
「仕返しにぶつけてやるのだわ!」
 大急ぎでスプーンを構えなおす。
 クレヨーは、クラブを持ってショット方向を模索している。
 その間に椿は最短の動作でショットした。
 クレヨーの背中は190y先。 遠くはあるが、このボールには相手の持つクラブに引き寄せられる性質がある。 クレヨーの傍に落とせば命中は不可能ではない。
 ショット!
 前方にクレヨーが見えているので、スナイプされる恐怖に集中力は乱されず、大きなミスはなかった。
 だが、ぶつけようとコントロールを重視するあまり飛距離が減じていた。
 クレヨーが渡った橋、その下に広がる谷の底にボールが吸い込まれた。
「やっちまったのだわ!」
「わははっ! OBもフリーズペナルティなんだな。 僕がこれを打ち終えるまでは動いちゃダメなんだな!」
 OBの場合、フリーズペナルティを受けた上で、元の場所から再ショットが許される。
 椿が戸惑っている間にクレヨーは二回のショットを行い、グリーンにボールを乗せた。

 グリーンは池の中に設置された小島にある。
 島はドーム型をしており、頂点にカップが切られている、 強めに打ってしまうとカップインどころか、勾配に従って崖下まで落ちてしまう高難易度グリーンである。
 椿がいつスナイプショットを仕掛けてくるのかわからない。 警戒しつつクレヨーはパッティングプランを模索した。
「読めた!」
 ラインをとらえ、パターをふりかぶるクレヨー。
 ウイニングパッド……と思いきや!
「ごふっ!」
 太鼓腹にボールがめり込んだ。
 猛追してきた椿が、スプーンでクレヨーに全力ショットを打ちこんだのだ。
 グリーンに乗せることなんか考えていない。 恩師への敬意もどこへやら、復讐のスナイプショット!
 クレヨーの腹に当たった椿のボールは勢いそのまま、池の中にダイブした。
 十分に警戒していたつもりのクレヨーだが、予想以上に弾速が早く察知できなかった
「や〜い、先生のお腹は大きいから当てやすいのだわ! フリーズペナルティね!」
「や、やられたんだな……でも池ポチャだから椿ちゃんもフリーズなんだな。 今のボールを打った場所に戻るんだな」
 両者ともが同時にフリーズペナルティくらった場合は相殺され、お互い自由となる。
 だが、クレヨーのボールはすでにグリーンにあるのに、椿は100y以上戻ってから再びグリーンを目指してショットせねばならない。
 間に合うはずもなく、クレヨーが再パッドでホールにねじこみ勝利。
「先生に思い切りぶつけられて楽しかったのだわ!」
「そういうスポーツじゃない……とは、断言しがたいんだな」
 スピーディにグリーンを目指したい! だが、急げば背後からスナイプショットが襲ってくる!
 ジレンマに満ちたこのゴルフの名は、SS(スピードスナイプ)ゴルフ!
 キミよ、最強のスナイプゴルファーを目指せ!


リプレイ本文


 一戦目。
 さいきょー撃退士・雪室 チルル(ja0220)VSメカ撃退士・ラファル A ユーティライネン(jb4620)。
「ゴルフ知らないけど要はボールをカップにシュートすればいいんでしょ?簡単ね!」
 元気全開なチルル。 登場台詞から死亡フラグ満載。
「はっはー、この勝負俺様がもらったぜ」
 絡め手上手なラファル。 自分の土俵にチルルを引きずりこめるのか?

 同時のティーショットからスタート!
「さいきょーショットなのよ!」
 ドライバーを、文字通りにぶんまわすチルル。 快音とともにボールは弾丸となって飛ぶ!
 対してラファルは、
「ちっ、ダフりやがった」
 いきなりのミスショット。
 ボールはティーの下をくぐり、フェアウェイにこぼれ落ちた。
「ダメねえ、これもさいきょーたるあたいが放つプレッシャーというやつかしら? 自分のさいきょーさが怖いわ」
 チルル、さんざんドヤ顔を見せてから、250yの彼方へ飛び去ったボールを追いかけていく。
 その背中を見送るラファルの片目がギラリと輝いた。
「俺は自分の読みが怖いぜ!」
 ラファル、至近距離にころがり落ちたボールをドライバーでショット!
 かわしようのない距離からの弾丸ライナーがチルルの背中を襲撃する!
「ぎゃばっ!」
 チルルの小さな背中に、白球がぶつかり転がり落ちた。
「いたい! なにすんのよ!?」
「フリーズ、ホールドアップ! 残念だったな、最初のミスショットは罠だったのさ」
 ラファルはチルルが性格上、ドストレートにくるであろうと読んでいた。
チルルだけにナイスショットをさせれば、背中を見せるし、油断も誘える。 計算づくのスナイプ成功!
「へへっ、俺が打ち終わるまで、そこでテントウムシとお話しでもしていろ」
 ラファルはスプーンを構え、悠々とショットの準備にかかる。
「ムッキー! あんたテントウムシかと思ったら、カメムシじゃない!」
 まんまとフリーズペナルティを喰らわされたチルル。 テントウムシを捕まえようとしたら、手が臭くなってしまった。

 ラファルの三打目は、チルルの一打目と同じようなところに落ちた。
 のんびりと歩いて行き、自分の打ったボールを確認する。

 ここでようやく、チルルのフリーズペナルティが解ける。
「ついに自由を取り戻したわ! バイバイ、カメ吉!」
 友達になったカメムシに別れを告げ、走り出す。
 ところがチルル、ゴルフバッグをティーに置きっぱなしにしている。
「チルルちゃん、バッグを忘れているのだわ!」
 審判の椿が慌てて呼び止めたが、
「いらないわ! 一番、飛ぶ奴があれば十分よ!」
 なんとチルル、ドライバー一本ですべてをまかなわんとしている。
 果たして、そんなことが可能なのか!?
 チルル、先行するラファルを追って第二打目!
 フェアウェイからのドライバーショット!
 スパッと振りぬく! 失敗を恐れぬ心は純粋さの証!
 ボールは遥かなフェアウェイへと落ちた。

「どう? さいきょーのあたいには、さいきょーのクラブがあれば十分なのよ!」
 ドヤ顔しているチルル。 だがボールは転がり、ラフに突っ込んでいた。
「草むらね! でもこのさいきょークラブなら……」
グリーンめがけて三打目!
 だが、クラブはラフの草を滑った!
「しまった! 手元が狂ったのよ!」
 ボールはスライスして飛び、池に落ちた。
 クラブ1本で距離を打ち分けるゴルフ、これに挑戦するものは多い。
 そして、クラブには役割分担があることに気づく。
 優れた一本を使いこなすのではなく、各クラブの個性を使い分ける競技だと悟るのである。
 ラフに埋まった球をドライバーで打つのは、プロでも難しい。
「ドライバー最強じゃかったのね……奥が深いのよ」
 チルル、池ポチャにより再びフリーズペナルティ
 さすがのさいきょー娘にも、致命傷となった。

「KOBでの決着をつけたぜ」
 チルルがドライバーに振り回されている間にラファルは、スピーディにことを進めていた。
 ボールとボールの間をロケット速度で移動、 堅実にアイアンで刻んで、正確な動作でパッティング。 難なくホールインした。

 記念すべき一勝目のインタビュー。
「動作も正確だし、移動も速かったのだわ、義体を調整してきたのね?」
 椿の質問を受けてうなずくラファル
「この競技なら脚力(移動力)は鉄板だろ。 あとは動作の正確さ(物理命中)かな。 最後が腕力(物理攻撃力)かと思ったんだが、誰が振っても等距離に飛ぶクラブじゃあイマイチ恩恵を感じなかったな」
 技師に調整してもらった義体をヴィーンキュルルと回転させるラファル。
 この読みは競技の真髄を突いていたのか? あるいはより真髄に近づくものが現れるのか?


 二戦目は雫(ja1894)VS鬼塚 刀夜(jc2355)。
 刀夜は早めにコースに向かった。
「あれが噂の雫ちゃんか、お近づきに飴でもあげようかな」
 到着した頃、雫はもうティーグランドで試し打ちに入っていた。
 撃退士としての頂点を最初に極めたことで名を轟かせた雫。 だが容姿は可憐な幼女である。
「えいっと! ……う〜ん、普通のクラブなら一発でグリーンに乗せられるのに残念ですねー」
 なんと雫、ロングコース第一打でグリーンを仕留めるというパワープレイ!
 公式クラブを使用しないデモプレイ。 何度も打った中の一球であろうので、勝負に影響しないが……。
「うぅ、とんでもないのと当てられてしまった」
 刀夜はKOBの頃よりも遥かに己を鍛えあげている。
 それが今、頂点より来たるプレッシャーを受けている。
 果たして重圧をはねのけ、強キャラ雫を打倒することは出来るのか?

 ティーショット。
「この棒でボールを叩いて穴にいれるだけ! 刀で落ち葉を斬るよりは楽勝だよ」
 重圧に対し、無心にボールを叩く刀夜。
 白球は力強く飛び立っていく。
 会心の笑みを浮かべかけたそのとき!
「ぎゃっ!」
 またも第一打の悪夢! 雫のティーショットはスナイプショットだった!
 刀夜の脚をめがけたキラーショット!
「獲物はまず脚を潰すのがセオリーですからね」
 元野生児なので獣狩りの感覚である。
「うぅ……飴あげたのに」
 刀夜、早速のフリーズペナルティ。
 この競技、ティーショットスナイプが極めて強い!
 雫は間髪入れずに第二打を軽快に前に飛ばした。

「くっ、こんなことで!」
「刀夜ちゃん、脚は大丈夫よ、がんばってね」
 応急処置に入っていた椿が刀夜から離れる。
 深刻な怪我ではないようだ。
「刀夜ちゃん、バッグは!?」
「いらないよ! 速度勝負!」
 なんと刀夜、クラブ1本で雫を追う!
 前の組のプレイは見ていないので、同じ轍を踏んだチルルがどうなったのか結果をしるよしもない。
 だが、この作戦にもメリットがある。
 軽量化が功を奏し、三打目で雫に追いついた!
 ゴルフバックはかなりの重量。 刀夜は、この競技において速度を重視していた。
 軽量化した分、速度はほぼ互角といっていい。
 刀夜が雫に追いついた時、雫はグリーンへ向けてアドレスの体勢に入っていた。
 旗を注視している。 もしかするとチップインを狙っているのかもしれない。
 刀夜もアドレスに入り、背後からのスナイププレッシャーをかける。

 刀夜の接近に気づいた雫は、すかさずアプローチショットを放った。
 この競技は集中力が命だと研ぎ澄ませていたのだ。 急げど慌てずの絶好球!
「いけっ……あ、あれ?」
 ボールは狙いを逸れて勢いあまり、グリーンから池へと落ちてしまった。
「華麗に旗つつみで決めたかったのに」
 しょぼーんとする雫。
 旗つつみとはカップにたてられた旗に直接ボールを打ち込み、旗布につつませて勢いを殺しカップインを狙う超高等技である。
 決まるとかっこいいが、失敗すると勢いあまってグリーンをオーバーする。
 成功例は歴史上数えるほどしかない。
 技と言うより奇跡に近い事象なのである。
 そして、このミスは刀夜のチャンス!
「この位置でのフリーショットは絶妙!」
 最も精度を求められるグリーンへのアプローチで、刀夜は邪魔を受けずに打ち込める権利を得たのだ。
 グリーンを注視し、力を加減してショット!
 ボールは白い鷹と化してグリーンへ降りてゆく!
「いけえ!」
 だが、
「とまれ……え、ええ!?」
 グリーンへ降りたった白鷹は、傾斜を滑るようにして池へと沈んでしまった。
「なんで!?」
 これもクラブの役割分担である
 ドライバーはボールに弾丸の勢いを与え、着地後もフェアウェイを転がって進ませる、いわば距離稼ぎためのクラブ。
 狭いグリーンにピタリと止めるようには出来ていない。
 それをこなすのはウェッジ系。 高くあがって、短く飛び、落ちたところでとまるクラブなのである。
「では、今度は私がフリーですね?」
 チャンスは再び雫への懐へと入った。
「旗つつみはやめましょう、よく見れば旗がなびいてません」
 そう、今日は事前予告通り無風なのだ!
 なびかぬ旗にボールを包ませるのは不可能である。
 サンドウェッジを使用し、手堅いアプローチでグリーンにボールを乗せた。
 一方、刀夜はドライバーでのアプローチに大苦戦。
 あえなく、雫にホールインを許してしまった。

 大金星を逃した刀夜。
 何が足りず何が不要だったのか考察する。
「腕力は不要だったかな、誰が使っても同じ距離が出るクラブだもんね」
 雫も刀夜も脚力(移動力)と集中力(魔法防御)は必要と睨んで調整してきていた。
 それが正しい確信は勝負を通して得られたが、あと一つが掴み切れない。
「精度もそこまで求められていないような……」
 雫も首を傾げる。
 さほど障害物が多くないコースである。
相手の持つクラブにボールがひきつけられる性質がある以上、スナイプにも精度はあまり必要ない。
 果たしてラストで正解はでるのか?


 ラストは、渋イケ残念男、ミハイル・エッカート(jb0544)VS乳神様・月乃宮 恋音(jb1221)。
「おい、あれは大丈夫なのか?」
 開始前にティーで準備をしている恋音を見て、ミハイルは審判の椿に尋ねた。
 心配しているのは、恋音のアレである。
 入学時から巨乳だったが宇宙と当速度で膨らんでいき、現在255cm!
 世界が恋音の乳に飲み込まれる日も近いだろう。
「正しいスイングをすれば巨乳は邪魔にならないのだわ。 むしろ変なスイングが染みついてしまうのを避ける天然の矯正ギプスになるのだわ」
「乳万能説は本当だったのか」
「おぉ……?」
 乳が邪魔でゴルフが出来ないという出オチが心配された恋音。 そのフラグすら、乳は粉砕してしまった。

 ティーショット。
 ミハイルは、タイピンをいじっている。
 婚約者からもらったものらしい。
「この勝利は彼女に捧げるぜ」
 ミハイル、誓いの第一打!
「がふぅ!」
 出オチはここに待っていた! 至近距離から相手を狙撃するティーショットスナイプ!
「おぉ……失礼いたしましたぁ……」
 恋音はなにくわぬ顔でさくさくと歩き、ボールが落ちたティーの脇から第二打を打とうとしている。
「だ、大魔王と呼ばれるだけはあるぜ」
 ミハイル、口から血を流しつつヨタヨタと立ち上がる。
 サングラスの下の目は闘志を失っていなかった。
「見ていろ、数々の接待ゴルフをこなしてきた経験を」
 恋音がアドレスに入り、クラブを振り下ろさんとしたその瞬間。
「ぶえっくしょん!!」
 わざと大きなくしゃみをした。
「お……!?」
 恋音、くしゃみにスウィングテンポを狂わされた!
 前には飛んだもののスライスしてラフに落ちてしまった。
「ゴルフ的にマナー違反ではぁ……?」
「花粉症だ、不可抗力不可抗力」
 クレームはひらりとかわす。
 二人とも、使う手がえげつない。

 ミハイルのフリーズは恋音が自打球に追いつくまで解けない。
 先にボールに辿りついた恋音は、ラフからのロングアイアン!
「おぉ……!」
 脱出に成功し、橋の手前までボールを運んだ。
「くそっ、置いて行かれてたまるか!」
 ミハイル、年甲斐もなくダッシュ!
 “全力移動”である。
 ラフなどにボールが隠れた場合は自打球を見失う危険もあるが、視界が開けた状態でフェアウェイに落とせたのなら問題はない。
 前方には、移動する恋音の背中が見える。
 ミハイルは全力移動なのに、なかなか距離が縮まらない。
「どうなってんだあの速度は? スーパーボールみたいに乳で弾んで移動してんのか!?」
 恋音はこの競技に移動力を重視し、調整を加えていた。
 乳の弾力をどう利用しているのかは、定かではない。
 ミハイルは二打目となる打球をスプーンでショット!
 恋音の前に打球を置いた。
 二人の球は至近距離にある。

 恋音は、自打球に辿りついたもののなかなか打とうとしない。
 ミハイルがアドレスに入るのをじっと見ている。 明らかなスナイプ狙い!
「大魔王からは逃げられない、か!」
 ミハイル、ここで賭けに出た!
 後ろから狙撃者がいることを知りながらショット!
「おぉ……!」
 この機を待っていた恋音、ミハイルめがけてスナイプ!
 一瞬後、ミハイルが倒れた!
 ボールが当たったのではない
 避けるために自ら倒れた!
 スタイリッシュに上体をそらしたかったのだが、スイング直後では泥臭く倒れこむしかなかった!
 至近距離のため軽く打ったつもりの恋音だったが、手にしていたのはプロでもコントロールショットが困難なロングアイアン!
 ボールは突きぬけてOBゾーンに入ってしまった!
「しまったのですよぉ……(ふるふる)」
 巨乳も凍る、痛恨のフリーズペナルティ!

「やったぜ! これで俺がフリーだ!」
 芝まみれになりつつサムズアップするミハイル。
 自由を得て、万全の状態でアプローチショットに挑む。

 その結果が池ポチャフリーズである。
「キミたちなぜ、風がないのに旗包みをしたがるのだわ……」
「日本のコミックでやっていたんだ、実現可能だと思ったんだよ!」
 今日は事前情報通りに風がない。 あったところで成功確率は果てしなく低い。
「おぉ……追いつけましたぁ」
 この間に恋音は堅実にアイアンで刻み、池のふちに打ち込んできた。
 ミハイルよりやや手前の位置だ。
「この位置でのスナイプは成否に関わらず池ポチャ濃厚だな」
「素直にアプローチするしかないでしょうねぇ……」
 二人でほぼ同時に打つ。
 二球のうち一球だけがグリーンに乗った。
「うぉ? 飛ばねえ!」
「池越えアプローチにスプーンは無謀なのですよぉ……」
 低弾道でグリーンを狙ったミハイル。 だが、スプーンでのコントロールショットは、うまく打ちあがらない場合が多く、池越えにはリスクを伴う。
 グリーンに転がして乗せられる状況なら有効だが、池の中にあるドーム型グリーン相手には恋音のようにウェッジを使うべきである。
 またも池ポチャフリーズ。
 その間に恋音、難なくホールイン!
「猿になれなかったか……」
 ミハイル、風なき天を仰ぐ。

 全組ラウンド終了。
 椿が本競技の重要要素に関して結論を出した。
「この競技で大事なのは、広い場所での速度勝負だけに脚力(移動力)、己をスイングマシンとしてイメージする人もいるほどの正確さ(物理命中)、スナイプされる恐怖に惑わされない集中力(魔法防御)だわね」
 OPで椿たちが出した物と一致する結果である。
 完全正解者は出現しなかったが、三つ中二つまでを当てたものは何人かいた。
 初挑戦で素晴らしい洞察力である。
 MVPはプレイングに優れた勝者、ラファルと恋音に贈られた。

 高度な戦略と、駆け引きが要求されるSSゴルフ。
 果たして、撃退士たちの進路の一つとなるか?
 答えは、池の底に沈んだ無念の白球たちだけが知っている。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 大祭神乳神様・月乃宮 恋音(jb1221)
 ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
重体: −
面白かった!:11人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
戦場の紅鬼・
鬼塚 刀夜(jc2355)

卒業 女 阿修羅