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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:4人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/04/02


みんなの思い出



オープニング


 日本人は疲れている。
 これは万人が周知の事実である。
 そこで久遠島観光では“究極の癒し”をテーマにしたツアーを企画することにした。
 名付けて少年の家!
 林間学校などで利用するいわゆる“青年の家”に名前が似ているが、内容はまるで違う。
 多くの社会人にとって、心癒す追憶の対象である少年時代を再現したツアーである。
 少年の頃に土日の二日間だけでも帰り、リフレッシュしてもらおうという企画だ
 この企画の起ち上げと、PVを作成するのが本依頼の主旨である。

 参加者には一人に一つ個室を与える。
 個室は経費節減のため、古いアパートを利用する。 第一号としてドギワ荘という昭和中期に建てられ平成初期まで使われていたアパートを使う。
 かつては一世帯が生活していた2LDKアパートである。
 ここに少年時代を彷彿とさせる、ノスタルジックな家具やら家電やらイベントやら必要人員やらを詰め込んで、少年時代を再現するノスタルジー空間を作り上げる。
 日本の中流一般家庭、小学生時代の土曜の午後から日曜日にかけた日常を再現してもらいたい。

 20代、30代、40代、50代、60代の各年代、男女別を意識した癒し用の部屋を、一人一つずつ企画して欲しい。
 20代男性対象の部屋担当者、30代女性対象の部屋担当者などを決めるということである。
 ただし、現段階ではサンプルなので、同じ対象向きのものが重複しても構わない。
 例えば20代の男性向きの部屋担当者だけが複数いても、部屋がいくつあっても問題ないということである。
 また、これらの部屋で起きるイベントを各自必ず一つだけ用意してほしい。
 例えば、友達が遊びにくる、寿司を注文して家族で食べるなどの日常的でちょっと嬉しいイベントである。
 むろん、ツアーに組み込めるものでなくてはならない
 このイベントの様子を中心としてPVを作成してもらう。
 PVの主役は企画者自身だ!
 ノスタルジーと癒しに満ちた、キミたちの感性に期待する!


リプレイ本文


 今回は対象視聴者年齢が若い順に制作していく。
 まずは30代女性対象。
「やたー! 30代が一番若いカテゴリなのだわ! 私、大勝利ー!」
 大喜びしているのは先日32才になった椿。
 肉体年齢はともかく、この様子では精神年齢は若い。
「おぉ……四ノ宮さんには、同世代の友人役を演じて欲しいのですよぉ……」
 このカテゴリの主演件制作者は、歩くエベレストこと月乃宮 恋音(jb1221)。
 実年齢は18才だが、30代っぽくメイクしている。
「私と恋音ちゃんが同世代……問題ないと思うのだわ、どうせ視聴者は恋音ちゃんの乳しか見ないだろうし」
「そ、それは酷いのですよぉ……(ふるふる)」
 この乳揺れでは、乳しか見て貰えなくても仕方がない。
 乳しか見て貰えないだろうがPVスタート。

 少年の家の一室。
 古道具屋で揃えた90年代の家具が並ぶ部屋で恋音は、コミックを読んでいた。
 “ケモノドクター”の1巻。
 当時流行った獣医コメディである。
 そこに友人役の椿が尋ねてくる。
 部屋に入ってくるなり声をあげた。
「恋音ちゃん! 戸棚の裏はネズミの卵でいっぱいなのだわ!」
「おぉ……!? それは大変なことにぃ!? ……し、しかし、ネズミは卵を産まないのではぁ……!?」
 パニックになった恋音に椿はほくそ笑む。
「ふっ、やはりエセ30代ね、早くその乳の間にしまってある続きの巻を読むがいいのだわ」
「私の胸は、本だなではないのですよぉ……? (ふるふる)」

「お土産どうぞ」
 椿がお土産に持ってきたのは、当時流行ったスイーツ。
 90年代にはたびたび、大きなスイーツの波が訪れていた。
「おぉ……ティラミスに、ナタデココに、パンナコッタですかぁ……ありがとうございますぅ」
「今思うと内容の想像がつかない、けったいな名前ばかりなのだわ、流行ったのが不思議なのだわ」
「謎な横文字がオシャレだという風潮があったのかもしれませんねぇ……うぅん……」
 今回はふたりでティラミスを食べる。
「相変わらずハイクオリティなのだわ! ブーム無関係に今でも売られているのも納得の味なのだわ」
「クリームとチョコパウダーのハーモニーが素晴らしいですねぇ……昼は食べたのですが、デザートがなかったので助かりますぅ……」
 恋音もお気に入りのご様子。
「お昼はなにを食べたの?」
「蒸しパンですぅ」
 ふわふわもちもちの甘い菓子パンである。
 これも当時ブームになり、その後は定着した。
「虫パン!? ハチ入りなのだわ? ハエ入りなのだわ?」
 こうして、名前をいじった思い出がある人も多いのではないだろうか?

 ご飯を食べたらTVゲーム。
 まさに90年代小学生の土日!
「電源を入れると、これよこれCDがまわる物理音! いかにも次世代機なのだわ!」
 この時代のゲーム機、とにかく読み込みが長い。
「ローディング時間は、携帯ゲーム機をやって過ごすのだわ」
「おぉ……“ソシャゲで暇つぶし”の起源がそこにぃ……」
 携帯ゲーム機はモノクロだが、読み込みが早く単純明快なゲームが多い。
 それだけにハマってしまい、読み込みが終わってもなかなか次世代機でゲームをはじめないまでがデフォである。
 しかし、今回は恋音がそれを止め、2P対戦のポリゴン格闘ゲームを始める。
「なんというか……カクカクな方たちですねぇ……」
「この時代のポリゴンで恋音ちゃんを作ったら、乳が刃物の塊になりそうなのだわ」
「おぉ……!?」
 3次元CG表現としてポリゴンが普及し始めたのもこの頃。
 過渡期ゆえにエッジだらけの3Dキャラクター。
 今見れば未熟な技術だが、当時の小学生はそこに未来を感じたのである。

 夕方までゲームを続けるふたり。
 お腹が減ってきた頃、玄関のタイムが鳴った。
「さっき注文したピザでしょうかぁ」
「さすがに速いのだわ」
 宅配ピザが普及し始めたのもこの頃、30分以内の配達速度が話題になった。
「友達の家でゲームして、ご飯にピザをとってもらう……懐かしいのだわ。 恋音ちゃんの時代にもそういうことあったのだわ?」
「……厳しい家だったのでそういうことはなかったのですよぉ……」
 厳格なエリート家庭に育った恋音、幼い頃の思い出は複雑である。
「でも、学園に入ってからは、たくさんお知り合いも出来て楽しいのですぅ……」
「私も、恋音ちゃんとこうして遊べてよかったのだわ」
 恋音は幼い頃に得られなかった思い出を、この一日で堪能したのだった。


 40代男性向けPVを担当したのは咲魔 聡一(jb9491)。
「1980年代とかこないだじゃないですか、どこにノスタルジーがあるんです?」
 無機質に眼鏡をくいっとあげる。
 200年以上生きている悪魔に、ノスタルジーは難しい。

 咲魔がコーディネートした部屋は花柄の家具が並んだ和室だった。
 入り口をくぐると玉のれんが揺れてガラガラ鳴る。
 80年代の一般家庭リスペクトである。
「なぜこの時代を選んだのだわ?」
「日本が元気に満ちた素晴らしい時代だったようですから、僕はこの時代には詳しくないので80年代といえばまずこれですね」
 本棚には、徐々に奇妙な冒険になっていくコミックが全巻並んでいる。
 この連載が始まったのも80年代である。
 その一冊を開いてみる椿。
「うわ〜、懐かしい! それなのに鮮明に話の内容を覚えているのだわ……ってこれ、こないだアニメで見たばかりの話なのだわ!」
「なぜか最近になって本腰入れてアニメ化し始めましたからね、当時から人気はあったようなのに謎です」
「未だに連載は続いているのよね、これだけ巻数があれば一晩どころじゃなく飽きずに過ごせるのだわ」

「おしゃれも楽しめるようになっています、ほら」
 クローゼットを開けると、当時の流行の服が並んでいた。
「80年代の子供たちはお兄さんやお姉さんがこれを着ているのを見て、憧れたんじゃないですかね? それを大人になった今、着るのはオツな体験ではないでしょうか?」
「それはない気がするのだわ」
 なにせ、竹の子族の服である。
 原色ぎらぎらのサイズはダボダボ。
 なぜ流行してしまったのか理解しがたい。
「流行は巡りますから、そろそろもう一度来そうな気がします」
「二度と来なくていいのだわ」

「服に関しては、この辺りで妥協しましょう」
「こっちのほうが、まだ受け入れられるのだわ」
 ポップスバンドが着ていたチェック柄の服に着替える咲魔と椿。
 前髪を額に一房たらしているのも当時の再現。
 これを着て行うイベントは、アナログゲーム大会である。
「要は簡易型麻雀ですね。 混ぜるとドンとかジャラとかいう音がします」
「アニメキャラが牌になっているのね、最近の萌えキャラにアレンジしても売れそうなのだわ」
「いろいろなバージョンがありましたが、あえてメジャーな青狸をチョイスしました」
「この青狸もまったく変わらないまま、アニメが続いているのよね」
「新レギュラー追加よるテコ入れすらありませんからね、すでに完成した黄金律だったということです」
「あのころのクリエイターは偉大だったのだわ」
「さて椿さん、今夜は徹ドンといきますか」
「徹ドン? これ一晩中やるってこと!? 30代にはきついのだわ!」
「大丈夫です! 24時間戦うための栄養飲料が用意してあります! “飲む点滴”をコンセプトとしたスポーツドリンクがあるから倒れても問題ありません!」
「なにそれ? 不健康感極まりないのだわ!」
 日本に無茶のきいた80年代。
 咲魔プロデュースのお部屋は、この時代に帰りたい方をお待ちしております!


 ブラウン管TVには、山荘をクレーンに吊るした鉄球で破壊する動画が流れている。
雫(ja1894)が選んだのは50代の女性。 この立てこもり事件を幼い目で見つめていた、かつての少女たちが対象である。
「飛行機ブーンにょろー!」
 部屋では幼い弟が、ソフトグライダーを飛ばしている。
 ゼロ戦を模したそれが、雫の慎ましいお胸にコンとぶつかった。
「ニョロ夫! それ部屋でやらないでって言っていますよね!」
「にょろ〜……」
 雫の弟役はニョロ子(jz0302)である。
 男の子のヅラをかぶせて、蛇の頭を隠している。
「お姉ちゃんはなにをしているにょろ?」
「リリアンです」
 雫は少女たちの間で流行していた手芸遊びをしている。
 プラ製の小さな筒の中で糸を編みこんでいく遊びだ。
「なにが出来るのにょろ?」
「こういうひもです」
 雫は作りかけのきれいなあみひもを見せた。
「なにに使うひもなのにょろ?」
「私にもわかりません」
 雫がこの時代を体験しているわけもなく、ネットで資料を調べたのだがイマイチわからなかった。
「もしかしたら、作ること自体が目的で完成品には用途がないのかもしれませんね」
「そういう拷問があるって、聞いたことがあるにょろ」
「穴を掘らせて、すぐに埋めさせるやつですか」
「和やかな会話をするふりして、飛行機ブーン!」
 不意打ちでソフトグライダーを雫の眉間にぶつけるニョロ夫。
「いたっ! こら!」
「わ〜ん、お姉ちゃんが起こったにょろ〜!」
「こら、喧嘩はやめるのだわ! ごはんができたのだわ!」
「だって、ニョロ夫が!」
 雫はお母さんに釈明をする。
 お母さんを演じるのは当然、椿である。

 カレーを食べながらTVを見ていると、今度は超能力者を称する外国人が現れた。
「スプーンまげですか! すごいです! 私にも超能力とかあるんですかね?」
 興奮して目を輝かせる雫。
「マガレマガレ……」
 TVの真似をしてスプーンを指でこすりはじめた。
 その様子を椿とニョロ夫がジトーと眺めている。
「あの演技はどうなのだわ?」
「しらじらしいにょろ」
 撃退士は超能力者、雫はその中でも最高レベルなのだ。
「うーん、曲がりませんね」
「曲がる以前の問題なのだわ」
「金属のスプーンを粉々に砕いているにょろ」

 撮影終了後、雫は椿たちに尋ねた。
「私の演技どうだったでしょうか?」
「しらじらしいエスパー芝居以外は良かったと思うのだわ」
「そうでしたか……私には家族の記憶がないので、家族との接し方があれで良いのか不安だったのです」
 撃退士として高みに登った雫。
 だが、いかな高所から俯瞰しようとも己の記憶を見つけることは出来ずにいた。
 孤高の少女は、孤独だった。
「……家族……ニョロ子、学園で雫お姉ちゃんそっくりの人に会ったことがあるにょろ」
 ニョロ子の言葉に、感情の薄い雫がそれを高ぶらせた。
「本当ですか! どこで!? どんな人でした!?」
「中等部の教室から出てきたにょろ。 顔は雫お姉ちゃんと同じだったにょろ、瞳と髪は黒かったにょろ」
「あとは!?」
「背丈も同じくらいだったにょろ、トシも雫お姉ちゃんと同じくらいだと思うにょろ」
「同じくらい? 年子か双子なのだわ?」
「他には! なんでもいいですから情報をください」
 雫の掌がニョロ子の両肩を強くつかむ。
 雫の剣幕に動揺しつつも、ニョロ子は記憶を辿り人物の姿を思い起こした。
「そうだ! おっぱいが大きかったにょろ!」
 雫はニョロ子の肩を離した。
「赤の他人です」


 黄色いチューリップ帽をかぶった女児が通学路を駆けていく。
 赤いランドセルに入ったそろばんがカタカタと鳴った。
「ただいま!」
 女児……築田多紀(jb9792)は自宅のアパートの玄関に駆けこんだ。
「いってきます!」
 玄関にランドセルを放りだすとすぐにまた来た道を駆け戻る。
 駆け続ける赤い靴がとまったのは、学校の手前にある駄菓子屋だった。
 いろとりどりのお菓子が入ったビンやガラス棚を眺め、わくわくと思い悩む。
 もう一度食べたいものと、食べてみたいものが頭の中で交錯する。
 握りしめたおこずかいではそのすべてを買う事はかなわない。
 少しの時間の後、多紀は決めた。
 カラーゼリー、都昆布、きなこ棒だ。
 そしてもう一つ、検討するまでもなく買うと決めていたものがある。
「どれにするのだわ?」
 糸引き飴。 いわば飴籤だ。
 箱にたった一つしかない、ピンク色をしたダイヤ型の飴。
 きらきらしたものはいつの時代も子供の憧れだ。
 そしてどの糸が、憧れのそれに繋がっているのかはわからなかった。
 なに味がするのか、どうしても知りたい。
 だから毎日引き続けている。
途中で複雑に絡み合っている糸を必死で目で辿っていると、一本の糸の先が多紀に語りかけてきた気がした。
 自分を引けと言っている。
 今まで何回もこういうことはあった。
 全部ハズレだった。
 けれど、今日も信じて引いてみる。

 帰り道。
 口に入れた飴は大きくて息が苦しかった。
 それでも目元が微笑んでいるのがわかる。
 家族に自慢したくて速足で帰る。
 飴がとけてしまわないうちに。

 家に帰ると、茶の間に入る。
 母や祖母が家事をしながら多紀を迎えてくれる。
 戸棚から宝箱を取り出す。
 もらい物の洋菓子缶箱。
 中ではおはじきやビー玉がキラキラしながら待っている。
 取り出して祖母が作ってくれたぬいぐるみと一緒に、ひとつひとつ並べて遊ぶ。
 何十年後かの子供たちは、こういうものでは遊ばなくなっているのかもしれない。
 けれど子供の遊ぶ時間は、いつの時代でも宝物。
 大人になった頃には、思い出すこともなくなるかもしれない。
 けれど、心を育んでくれる人生の宝物なのだ。


「撮影終了! おつかれさまなのだわ!」
 それぞれの収録を終えたメンバーは、打ち上げと試食を兼ねて少年の家の食堂に集まっていた。
 まったく食堂らしくない部屋がそこに広がっている。
「……小学校の教室の再現ですねぇ」
「うむ、僕プロデュースだ」
 恋音の言葉に頷く多紀は今、アルマイト食器から給食を食べている。
 コッペパンと牛乳、竜田揚げという献立。
 他のメンバーの前にもそれぞれの時代の給食が並んでいた。

「……なんというか、独特の触感だ」
 80年代の給食を食べる咲魔が、微妙な顔をするソフト麺。
 学校給食が独占しているのも納得のお味である。

「90年代にはバイキング方式も現れたんですねぇ……これは嬉しいですぅ」
 バイキング方式の給食は好き嫌いの多い子や、恋音のような小食にも安心である。
 食べきれなかった給食を、昼休みに無理やり食べさせられるトラウマを作る子も減るだろう。

「三角形の物体はなにかと思いましたが、牛乳が入っているんですね。 おしゃれで楽しい気がします」
 70年代の雫。
 三角パックの牛乳は運搬上の問題でこういう形になったらしい。
 プリントに一工夫すれば、いつの時代でも通用しそうなデザインである。

「牛乳ならいいが僕のは脱脂粉乳だからな」
 コスト対策で牛乳の代用品とされた脱脂粉乳。 それを含んでなお、多紀が食べている60年代の給食はこの食堂で一番高価だ。 今では入手困難な鯨肉が竜田あげに使われているためである。

 若者たちは少年の家に自分たちが体験していないノスタルジーを再現するとともに、異なる世代の人間たちへの理解を深めたのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 学園長FC終身名誉会員・築田多紀(jb9792)
重体: −
面白かった!:3人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB
学園長FC終身名誉会員・
築田多紀(jb9792)

小等部5年1組 女 ダアト