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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:7人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/02/10


みんなの思い出



オープニング


 歴史クイズ番組「ニセカコ」。
 史実を元にした歴史ドラマVTRに、参加者たちが新たに作った捏造歴史ドラマVTRで挑戦。 その時代に不案内な回答者たちに両方を観てもらい、真実の歴史だと信じ込ませたら勝利というゲームである。
 

「リベンジ依頼では“なぜ近代以降文明が急速発展したのか”をテーマにニセカコVTRを作ってもらう!」
 久遠ヶ原ケーブルTV局長ワルベルトは、恰幅のいい体で言い放った。
 江戸編でまさかの逆転負けを期した学園生たち。
 彼らのリベンジのための時間枠を設けたのである。
 会議室内では例によって、姪である独身アラサー女子所員、四ノ宮 椿(jz0294)と、学園教師で局とのパイプ役を務めるクレヨーがいる。
「文明開化から150年もあったんだから発展して当然、と普通に受け止めてしまっているけど、よくよく考えてみると不思議な現実なんだな」
 江戸初期から末期までは250年の時間があるが、文明的な発展度は実にゆるやかなものである。
 その後、急加速。
 世界的に見ても、ここ200年間のみ発展速度が異常であり、今なお加速を続けているのだ。
 人間の十倍近い寿命を持つはぐれ天魔たちには、この感覚がわからない。
 なぜ自分たちにとって“ほんの少し前”に江戸時代レベルだった世界が、わずか150年で現在のような超文明世界になったのかが理解しがたいようなのだ。
「はぐれ天魔の回答者たちに、この150年で文明が発展した理由を納得させるのが今回の目的なのだわね」
「さようなのである!」
「ライバルとなる真の歴史VTRはどんな感じなんだな?」
「実はもう出来ておる、それを見てみよう」


 史実VTR視聴終了。
 3人とも言葉がない。
 しばらく経って、ようやく局長が尋ねた。
「椿よ、今の内容わかったのであるか?」
「モチロンワカッタノダワ、オジサマ」
「椿ちゃん、イントネーションがおかしいんだな」
「見栄を張らずともよい。 わからんかっただろ? 我輩もよくわからなかった」
 理解出来たのは文明の加速には、蒸気機関、ベルトコンベア、電気、電話、自動車、戦争などが関係していたらしいことくらいである。
「正直、発注先を間違えた気がする」
 苦虫をかみつぶしたような顔の局長。
「誰に発注したんだな」
「専門の学者先生に監修してもらったのである。 出てきた役者は教え子や助手、つまり全員が歴史エリートであるな」
「確かにそんな感じだったんだな、堅苦しい上に専門的な解説が多くてよくわからなかったんだな」
 だが、架空史の方も内容が良くないと、椿のように「わかったふり」を回答者がしてしまう可能性がある。 油断は禁物である。
「捏造側支援として今回はサンプルドラマを撮る。 椿、お前をヒロインにしたショート脚本を書いたから演じてくれ」
「叔父様作の脚本で私がヒロイン! やるやる!」
 目を輝かせて撮影スタジオに向かう椿だが、クレヨーにはオリハルコンで出来た決して折れることのないフラグが見えていた。


 明治23年。 家事手伝いの女性、四ノ宮 椿はお見合いに奔走していた。
「あ〜、なんで私だけ結婚できないのだわ」
 椿は良家の娘で器量良しだったが、いわゆる良妻賢母的性格ではなかった。
 この時代、女性の平均初婚年齢は21歳程度。 じきに30歳を迎える椿は行き遅れだった。
 そんな椿にもチャンスが訪れた。
「もう少し若いのがいいんだけど、あんたのオヤジさんには世話になったし、まあもらってやってもいいんだな」
 父の知り合いで、小豆相場で一山当てた富豪の男性が結婚を申し込んできたのである。
 年齢は椿より一回り上、体重は3倍上、前妻との子供もいる。
 親や友人はこれが最後のチャンスとばかりに背中を押してきた。
 椿に他の選択肢はない。 プロポーズを受けようとしたその瞬間、ある光景が頭に蘇ってきた。
 それは乗合馬車に乗っていた時、噂話をしていた女学生たちの姿だった。

「聞きましたか、異人さんたちの国では30歳すぎて結婚出来ないと魔法使いになってしまうそうなのですわ」
「まあ怖い! 日本人もそうなのかしら?」
「さあ、周りに30歳すぎても結婚したことのない女性などいませんからわかりませんわね」

 椿はこれを思い出し、ワンチャンあると思ってしまったのである。
「好きでないもの同士で妥協の結婚をするくらいなら、魔法使いになったほうがいいのだわ! 魔法で若返れるかもしれないし、王子様を召喚できるかもしれないのだわ!」
 まさにアホの発想だった。
 椿は富豪からの求婚を断り、ついに30歳を迎えた。
「チンカラホイ!……だ、だめなのだわ、魔法が出ないのだわ」
 当たり前である。
「魔術書がないとダメなのかしら……ああいうのって全部、異国の言葉なのよね」
 椿は古書店に赴いた。
 魔術書など当然なかったが、英語で書かれた適当な本を手にとって開いた。
 すると……。
「読める! 女学生時代あれほど勉強してもわからなかった英語が、なぜか読めるのだわ!」
 さらに椿は、当時最高学府だった皇国大学の入試問題集を手に取った。
「解ける! 追試常連だった私が、10年以上もまったく勉強していない私が、難問奇問をすらすらと!」
 まさに、魔法だった。
 椿は本当に皇国大学の入試を受け、若い受験生たちを抑えて首席合格。 卒業後は日本初の女性大学教授になり脳医学の研究を始めた。
 なぜ自分が突如、天才になれたのか? その研究である。
「30歳過ぎて処女のままだとごく一部の人間だけだけど脳の未使用領域が覚醒するのだわ、これが異人さんのいう魔法使いというやつね」
 その後、魔法使いとなった女性が結婚し、子供を産むとそれが男の子でも魔法使いとなれる素質が高いことが判明。
 椿学説がきっかけで世界的に晩婚化が進み、次々と天才が誕生。 魔法使いや魔法使いの子と呼ばれる彼らの活躍により飛躍的な文明発展につながったのである。
 この事実は、昔から30歳処女童貞魔法使い説として世界各地に流布はしていたが椿が科学的に解明するまでは迷信とされていた。
 若年での結婚率が高かかったこと、30過ぎた人間が勉強をする風習があまりなかったこと、そもそも魔法使いになれる因子の持ち主が稀であったことがその主な原因としてあげられている。
 まさに愚者の閃き、崖から飛び降りての無謀な挑戦こそが世界を変えたのである。


「……」
 酷い内容に言葉もない椿。
「がはははっ! こんな感じだ! 学術的な内容、現実の歴史に即しているか、そんなものよりは、インパクトと強引なまでの説得力、そして偉人の魅力が重要なのだよ! あの天魔たちにとってはな!」
 姪の心など知らず豪快に笑う局長。
 クレヨーは肥満体に汗をかいている。
「ま、まあ、こういう方向性でいいなら今回は軽く勝てそうなんだな」
 すると局長は、顔を引き締めた。
「油断大敵である! 今回の勝負には大型地雷が存在する」
「触れたら即敗北な事項があるこということ? 連敗誘発は鬼畜すぎなんだな」
「いやいや、我輩が用意したわけではない、必然的に存在するのだ」
 局長は2人にだけその地雷のありかを教えた。
「……確かにそれは触れたら負けなのだわ」
「踏んでしまう人はいると思うんだな、仲間が気づいて指摘するか、事前に止めるかしかないと思うんだな」
 決して油断のならないこの依頼、果たして潜む地雷を避け、はぐれ天魔たちを説得しうる架空の近代史を作ることはできるのか?


リプレイ本文

●楽屋
 収録当日の楽屋。
「スイマセンでしたー!」
 着流し姿の大男、鐘田将太郎(ja0114)が床をズザーッと滑ってスライディング土下座をしていた。
「彼は、何をしているのかな?」
 今回から参加のV系イケメン、ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)が、不思議そうな目で見ている。
「地雷を踏んだ時の謝罪訓練だそうです」
 銀髪幼女、雫(ja1894)がジト目で答える。
「前回の負けが、よほどこたえたんだね」
 プロレス娘、桜庭愛(jc1977)も新規参戦。 だが、前回の話は聞いている。
「局長の言う地雷は、“天魔”“撃退士“”久遠ヶ原学園“あたりじゃないかと思うんだけどどうかな?」
 人妻アイドル、水無瀬 文歌(jb7507)が自信なさげに答える。
「私は回答者に知識が有る内容と矛盾がある場合が地雷だと思うのですよぉ……(ふるふる)……」
 月乃宮 恋音(jb1221)も、爆乳の震え方に精彩を欠いている。
 皆、自分が地雷を踏んでしまわないか戦々恐々としているのだ。
「それよりも、また妙なあだ名がつかないかのほうが不安だぜ」
 金髪グラサン男、ミハイル・エッカート(jb0544)は、前回、天下の将軍様のお尻を掘ったような絵面を作られた。 そのためネット掲示板で“天下をアーッと言わせた男”となどというあだ名を広められてしまっている。

 この七人が近代文明の躍進をテーマに作成したドラマ。 それがVTRとして流れ始めた。

●世界編
 19世紀後半、大英帝国の古代遺跡、ストーンヘンジ。
 ここで奇妙な集会が行われていた。
「天に火を掲げろ! 二ビルの星に呪いの力を求めるのだ!」
 激しくドラムを叩くのはロシア系英国人、ズット・オトコスキー【ミハイル】。
 その青い目には、狂気が宿っていた。
 二ビルとはズットたちの呪術会があがめる架空の星である。 愚にもつかない妄想の儀式だったが、ある時、不可思議なことが起きた。
「アヌンナキ! 偉大なるアヌンナキの声が聞こえた!」
 それは古代メソポタミア人に文明を授けたといわれる神の名だった。
 ズットは猛然と紙に何かを描き始めた。
 無意味な図形を書きなぐっているかのように見えたが、完成してみると意外にも何かの設計図をなしていた。

 設計図通りに組み立てると、一つの機械ができた。
 機械に水を注ぎ、スイッチを入れるとまわり出し、白い霧を噴きだした。
「うぉ! アヌンナキの霧だ! 浴びろ! 知恵をさずかるぞ!」
 ズットと仲間の男たちは、霧を浴びだした。
 男たちは三日三晩、全裸で踊り続けた。
 だが、何も起こらない。 それも道理で霧はただの湯気だったのである。
 怪訝そうな顔をする仲間の目に、気まずくなったズットは苦し紛れの説明をした。
「これは二ビルの星へいくための船の動力なんだ!」
 小舟に機械を積み、外車をつけると……動いた!
 外車が水をかき、船を前へと進ませたのである。
 世界初の蒸気船の出航だった。
「水と火だけで動くとは、なんとすごい発明だ!」
 それを見かけた造船秘術者はズットを賞賛した。
「違う! そんなもので鉄の塊が動くわけがないだろ! アヌンナキだ! この機械はアヌンナキの力で動いている!」
 ズットは持論を固持し続けた。

 作った人間に問題はあるが、間違いなく、新時代の動力となる。
 造船会社は、ズットと契約を結び、動力機関としてそれを開発した。
 これが蒸気エンジンのはじまりである。
 なぜ、ズットが設計図を描くことができたのか?
 彼は、もともと技術者だったことがわかっている。
 蒸気機関の原型はさらに2世紀ほど前から存在していた。
 ズットはその研究をしていたものの、行き詰ったあげく妙な呪術に感化してしまった。
 優れた科学者がオカルトに走るのは、古今を問わず起こりうることである。
 呪術儀式の最中に、行き詰りの原因を取り除くアイディアが思い浮かび、形をなして設計図を描かせたのであろう。
 だが、ズットは自分の描いた設計図が科学的なものであることを、認めなかった。
 だから、蒸気機関の特許契約をする際も製造会社にあることを義務づけた。
 今も蒸気エンジンを開けると内側に入っている意味不明の刻印。
 それはアヌンナキを讃える詩なのだ。


 ズットの蒸気機関は交通を加速させた。
 もう一つ、この時代生まれたエネルギーがある。
 家電の力の源、電気である。

「凄い勢いで走っていますね、そんなに私から逃げたいですか?」
 ロシア人の少女、アーニャ・ロマノフ【雫】。
 彼女は、動物好きなのにも関わらず、なぜか動物に恐れられる体質だった。
 飼っているハムスターにまでもが、アーニャが近づくと猛然と逃げ出した。
 籠の中に飼われているハムスターは、そこに据え付けられた車輪の中をひたすらに駆けることしかできない。
「無駄なエネルギーを何かに使えないんですかね」
 半ば自嘲気味の愚痴だったが、それが新しい案を産んだ。
 小麦をひくための水車、それを動物の力で回せないか?
 厳寒のロシア、農家の悩みは冬に水が凍り水車が回らなくなることである。
 牧場主の娘だったアーニャは馬でそれを試した。
 ハムスター用の車輪を大型化し、その中に馬を入れてみた。
 だが、馬はハムスターよりも賢い。 アーニャから逃げられないとわかるとパニックになり車輪の中で暴れはじめてしまった。
 これでは馬に怪我をさせてしまう。
 試行錯誤を繰り返したが、うまくいかなかった。

 転機が訪れたのはある冬の日である。
 アーニャがセーターを脱ごうとすると、小さな生き物がたかってきた。
「あっ、こら! またお前たちは!」
 雷が落ちた時には大量発生する、電気ネズミである。
 普段は静電気を細々と喰って生きている。
 タンスに収納しておいた衣類にいつのまにか穴が開いているのも、このネズミの仕業である。
 アーニャの頭に閃きが走った。
 電気ネズミを罠で捕まえると、それを車輪の中に閉じ込めた。
「ふっふっふ、働いた分、ごちそうをあげますからね」
 車輪には琥珀が仕掛けてあり、ネズミが動くと摩擦により電気が発生する。
 電気を喰うためにネズミが動く、また電気が発生する。 電気を喰ってネズミは力をつける。 さらに強い力で車輪が回り電気が発生する。
 半永久機関ともいえる電気動力機の開発に成功したのだ。
 電気ネズミは小さいので小型の機械に組み込むことが出来る。
 大きな機械を動かしたい時は、ネズミの数を増やせばいい。 動力は文字通り、ネズミ算式に繁殖させることが出来るのだ。

 安価で大量生産が効く電気動力は、さまざまな家電製品に使用され、普及と発展の礎をなした。
 雷が落ちると電化製品が動かなくなるが、それは雷の電気を喰いにネズミが揃って外に出てしまうためである。 この場合は、雷が去れば帰巣本能で戻ってくるので放っておけば復旧する。
 むやみに開けるとネズミが逃げてしまうため、素人が機械を解体するのは禁物である。

 なお電気ネズミには二種類がいる。 一種類は日本でも使われている黄色の品種。 もう一種類は漆黒の瞳を持つ恐しきネズミである。
 黒きネズミについては語るだけで財産を失うとされており、多くを開示することは出来ない。
 ともかく、アーニャのネズミにより生み出された電気機関は、ズットの蒸気機関をも淘汰し現在の電気文明の基礎を築いたのである。


 新王朝末期の中国。
 ここに近代医療の母と呼ばれる女性がいた。
 月 恋華【恋音】である。
 最初は小さな町の女医だった彼女だが、救うことの出来ない命があまりに多い事に限界を感じ、皇立医療機関の研究職に転向した。
 入所した恋華は、そこで多くの皇族や富豪と知り合い求婚を受ける。
 恋華は美貌もさることながら、須弥山になぞらえられるほどの巨大な胸を持っておりそれに惹かれたのである。
 余人のうらやむ縁談の数々であったが、恋華はそのいずれをも選ばなかった。
 求婚者たちに対し、意外な条件を出したのである。
「これから私の挙げる七つの難病を解決して欲しいのですよぉ……それが最初に出来た方の妻となりましょう……(ふるふる)……」
 世に二人といない巨乳の振動は皇族や富豪をも狂わせた。
 彼らは金に糸目をつけず医療技術、医療機器の開発に投資をした。
 短期間で医療技術は目覚ましく発展を遂げた。
 漢方薬にだけ頼っていた清王朝の医療技術は、医療技術は近代化を始め、欧米に追いつかんものとなり始めていた。

 恋華も自身の手で研究を続け、当時は死病とされていたチチシーボム病のワクチンを自らの爆乳から採取した血清により造りだした。
 だが、この功績が意外な副作用を産む。
 チチシーボム病克服の功績を讃え、皇帝は恋華を宮廷に呼び寄せ、褒美をとらせようとした。
 500人の側室を抱える皇帝であったが、恋華の姿に骨抜きになった。
 恋華ほど見事な乳の持ち主は、後宮にひとりとしていなかった。
 乳狂いを起こした皇帝は皇妃を追い出し、恋華を新皇妃として強引に迎え入れてしまった。

 これに怒ったのが、前皇妃一族、そして医療投資を続けていた富豪たちだ。 約束が違うと謀反を起こしたのである。
 乳をめぐる乱は、民衆をも巻き込む地獄の如き内戦へと拡大した。
 爆乳地獄の乱と呼ばれる内戦である。
 命を救おうとした恋華の行いが、皮肉にも多くの命を奪ってしまった。
 乱は十数年続き、王朝を著しく疲弊させ滅亡へと導いた。
 恋華は、大国を傾けるほどの乳という意味で傾国の極乳妃と呼ばれている。
 期せずして戦乱の源となってしまった恋華。
 だが、彼女が残した医療技術は今も静かに命を救い続けている。

●楽屋
 VTRが流れている間も楽屋では、出演者たちが騒いでいた。
 撮影には参加したものの、編集には立ち会っていない。
 局がした編集が予想外だったものもいたようである。
「なんだ俺の役名は!? さらに誤解を広げているじゃないか!」
「ズット・オトコスキー……元ネタがワットさんでしょうし、ロシア系でミハイルさんらしい名前だと思います」
 ミハイルには、ロシアの血が流れていることを文歌も知っていた。
「ロシア系だからスキーってのはわかるが、なんでオトコをつけた!?」
「普段の行いの賜物じゃないかな?」
 前髪をかきあげ、耽美にさわやかな笑顔を浮かべるジェラルド。
「そんな行いしてねえよ! ねつ造だ! あれは悪意ある編集なんだ!」
 この局でのミハイルは、すっかり男色キャラにされていた。
「彼女さんが出来てもズット男の人が好きということでぇ……本名にしてもよいほどではないでしょうかぁ……(ふるふる)……」
「改名するな!」

 ツッコまれた恋音だが、彼女も被害者である。
「私の方も酷いのですよぉ……医学者から皇妃になるところまでは台本に書きましたが、まさか戦乱の源になるとはぁ……(ふるふる)……」
 “爆乳地獄の乱”近辺のくだりは、全て局側の編集で出来たものである。
「乳は平和の敵! 確信しました!」
 コクリとうなずく貧乳少女、雫。
「……目が敵意に満ちていますよぉ?……(ふるふる)……」

「私が動物に恐れられるのは事実なんですよね」
 雫のパートで追加されたのは、そこである。
 最強級撃退士のオーラなのだろうか? たいていの動物は雫を見ると怯える。

 一方、スタジオの回答者たちは、ミハイルや雫の歴史を信じかけているのか、持っているスマホを解体しようとしてADに止められていた。
 中に謎の刻印も電気ネズミもないことがわかれば、捏造がばれてしまう、

「わあ、いまのところ好調ですねえ」
「A,のVTRと比較して、わかりやすさに問題がからないな。 だが、問題は地雷を踏んだかどうかだ」
 地雷を踏んでも音がするわけではない。 最後に回答者が判定を下すまでわからないのだ。
 世界編は終わったが、日本編も残っている。
「残り四人……私たちのラウンドはここからかな?」
 愛の呟きとともに後半、日本編のVTRが流れ始めた。

●日本編
 明治初頭、日本はまだ和服文化が中心であった。
 急激に洋服文化が普及したのは、水無月奏歌【文歌】の影響だとされている。
 奏歌は寒村に育った少女だった。
 父を早くに亡くした上に、病弱な妹がおり学校へも通えない。 妹の看病をすることだけが奏歌の生きがいだった。
 だが、年に一度の村祭りで転機が訪れる。
 歌舞を披露したところ、村人や町から来た見物客が感動した。
 歌と踊りの才能が奏歌にはあったのである。
上京する事を勧められた。 村長の親戚に歌声喫茶を開こうとしているものがいたのだ
 汽車賃にも事欠く状態だったが、村人たちから寄付をもらい奏歌は上京することができた。
 東京でも奏歌の歌は人気を博し、歌声喫茶は繁盛した。
 わずかだが実家に仕送りをすることも出来た。
 そんな折、ファンとなった常連客の中に妙な男がいた。
 篇吟出版社の社長ある。
「奏歌ちゃん、歌いながら世界一周旅行をしてみんかね。 80日以内に世界一周という誰も遂げたことのない挑戦だ。 その冒険譚を雑誌で連載するんだ。 きっと売れるぞ!」
 飛行機もないこの時代に世界一周。 ましてや80日以内などいうのは馬鹿げた発想だった。
「海外旅行なんてお金がかかるんじゃ?」
「ギャラは払うよ。 ただし80日以内に世界一周を遂げて帰ってきたときの成功報酬だ。 失敗したら雑誌は売れんからね。 現地では歌って自分でお金を稼ぐんだ。 苦労した方がスリリングだろ?」
 20世紀末なら、番組企画として通用しただろう発想だ。
 だが、この時代にはまだ早すぎる。
 奏歌は、申し出を一蹴した。

 それから数日後、事態は一変する。
 妹の病状が悪化したのだ。
 当時は死病とされていたチチシーボム病。
 治療に必要なワクチンを作れる恋華は皇妃になっており、しかも戦乱の最中。
 ワクチンの入手は困難を極め、値段も恐ろしいものとなっていた。
 歌声喫茶の店員が稼ぐには時間が足りなさすぎる。
 奏歌は賭けに出た。
 妹を救うため、うさんくさい出版社の社長の提案に乗ることにしたのである。

 奏歌は同行者数名を従え、海を渡った。
 今でいう海外冒険ものの企画。 それをさらに先が見えなくしたような旅である。
 旅程は困難を極めた。
 公演は場所も衣装も現地調達、いわば路上ライブだ。
 稼いだおひねりで汽車と船を乗り継ぎ、次の国へ向かう。
 言葉は通じない。 ガイドを頼めば詐欺に遭う。 海賊に襲われる。 風土病に倒れる。
 鉄道が普及していない国では象で移動した。
 屋根のない家で36人家族とともに寝泊まりをしたりもした。
 西遊記もかくやの苦難。
 だが、様々な環境で暮らす人々の価値観を学び、大きく強い女性へ成長していった。
 苦労の分たくさんの友とファンを掴んだ。
 幼かった歌声も、それに伴って雄大な音色へと変わっていった。
 
 80日後、奏歌は日本へ帰ってきた。
 同行したスタッフはもはや誰も残っていなかったが、世界一周の証拠に現地の人からもらった衣装を携えていた。
 その衣装を着た写真を交えながら語る冒険譚は日本のみならず世界的に大好評を博した。
 成功報酬でワクチンを買い、妹を救うことが出来た。
 意外な副産物もあった。 民族衣装を真似た服が日本女性たちの間で流行したことである。
 これにより、ファッションの多様化が進んだのだ。
 旅は後年、“星をまわる女神”という題名で映画にもなり大ヒットをした。
 世界的に海外旅行ブームが起こり、それを実現するために飛行機が発展。 現在のように、気軽に海外旅行が出来る時代が訪れたのである。


 文明開化の恩恵を受けて、日本は大きく様変わりしていった。
 見るもの全てが新鮮であると同時に、それらは外国からもたらされたものである。
 長い鎖国の果てに取り残されたという劣等感。 日本人の顔にはどことなく暗いものが漂っていた。

 そんな中でも子供や若者たちは、新しいものを素直に受け止めていた。
 外国から入ってきた少年小説や絵本が和訳され、日本人作家によりインスパイアされた新作が生み出された。
 小説は舞台や講壇、紙芝居となり、広く流行した。
 闇夜に舞う怪人と、それを追う少年探偵の戦い。 列車で星空を旅する冒険物語。 際どい衣装で悪を討つ格闘ヒロイン。
 若者たちはこれらの主人公になりきり、真似をした。
 いわゆる、ごっこ遊びである。
 実際のところ、町の屋根を飛び回って怪人と追いかけっこするのは非現実的だ。
 列車が空を飛ぶような時代は未だ以て来ていない。
 そして、悪と対決するのは華やかなヒロインではなく、現実にはいかめしい顔と制服の警官たちなのである。
 だからこそ、物語の中の登場人物になりきりたい。
 桜庭 愛はそんな願望をもつ一人だった。
 小説ヒロインの衣装を自作し、それを着て外に出た。
 だが、華麗に活躍するどころか対決すべき悪と巡り合うこともできない。
 風邪をひいたり、時には補導されたりするだけだった。
「どうしたらいいのかな」
 現実は物語の台本のように、都合よくは進行しない。
 このままではダメだと愛は思い始めた。
「そうだ、台本がないなら自分で書いちゃえばいいんだ」
 愛が閃きを得たのは、大衆劇場で芝居を観ている時だった。
 悪を討ちたいのなら悪玉を用意すればいい。
 小説のような大立ち回りが危険ならば、安全性を確保した場所で戦えばよいのだ。

 愛はマットをしき、そのマットをロープで囲んだ。
 このロープが、現実世界と空想世界とのしきりである。
 リングと呼ぶこの舞台で愛は、闘いを中心とする芝居を開いた。
 リングでなら、現実にはありえない華麗な戦いを演じられる。
 物語のように、少女が大男を組み伏せることも出来る。
 露出の多い衣装を着ても、オイコラと警官に怒鳴りつけられることはない。
 公演を続けるうち、退治すべき悪役はいつしか大衆の敵を象徴する存在となった。
 強大な外国や不況、政治不信や戦争など、世相を暗喩する敵である。
「歴史の中には、いつだってヒロインがいるんです!」
 愛の技も、空手チョップのような単純なものから高度に複雑化していった。
 パイルドライバーや、ロメロスペシャルの原型となる技が生み出された。
 この闘劇が形を変えて伝わり、プロレスとして今の世に残っている。
 SF小説の中に登場するメカに憧れ、科学者となりそれを現実に作り上げたものたちと同じく、空想を現実化しようとした愛は、人々に勇気を与えたのである。


 今さらながら、働きすぎに気づき始めた日本人。
 画面の前のあなたも、疲れた顔をしていないだろうか?
 疲労は生産性を低下させる。
 滅私奉公こそが美徳、日本人が長く守り続けていたこの観念が今、経済の足を引っ張っているのである。
 そのことに七十年も前に気づいている男がいた。
 ゴイス=アマ=イーモン 【ジェラルド】。
 日本に渡ってきたばかり頃の若く美しい彼から、21世紀のあなたたちに向け、メッセージがある。

「貴方が何かに集中したいとき、何を飲みますか?
何かに疲れて元気が欲しい時、どんなものが食べたいですか?
珈琲とケーキは如何でしょう?
適度な休憩は想像力や集中力を回復し、生産性を飛躍的に高める
この事は体感した事が無い方のほうが珍しいのではないでしょうか? 」

 あなたのオフィスにコーヒーサーバーや自動販売機は設置されているだろうか?
 テーブルの上にスイーツバスケットは置かれているだろうか?
 かつての日本は勤務時間中に飲み物を飲むことも、飴をなめることもタブーとされてきた。
 そのタブーを打ち破ったのがゴイスである。

「真面目で従順だが想像力や柔軟性に劣る。 私が日本人とふれあって感じた第一印象はそれでした。 それさえ補えばこの国は欧米を凌駕する存在になると感じたのです」

 ゴイスは『CofeeHaveLuck』商会という珈琲問屋を起ち上げた。
 明治に歌声喫茶があったように、コーヒーそれ自体は日本人に知られていた。
 ゴイスが狙ったのは会社にコーヒーサーバーを置くこと、それを飲むための休憩時間を設けることである。
 最初は営業をかけても“仕事中に休憩などとんでもない”と断られ続けた。
 そんな社長たちも、休憩時間と生産効率を比較したデータを示すと、とたんに真剣な顔になって話を聞きだした。
「うむむ、外国に比べて日本は遅れていますな」
 明治から続いた欧米コンプレックスも、こういう時には役に立つ。
 職場の片隅にコーヒーの香る小さなオアシスが出来てから数年後、日本は高度経済成長を迎えた。
 甘い物とカフェインという組み合わせは日本人の真の力を引き出し、文明の発展を牽引したのである。
 ゴイスが今、生きていたならこう言って、あなたにケーキと珈琲を差し出すことだろう。

「こうして日本人は私の読み通りに欧米を凌駕しました。 しかし、最近また心に余裕を失い始めて長時間労働を強いていますね? ブラックこそが大人の証? 馬鹿馬鹿しい。 砂糖を入れましょう、甘いものを与えてこそ珈琲も人も力を発揮するのです」


 “尊敬する人は誰か?”
 面接等でこの質問を受けて悩んだ人も多いだろう。
 両親など身近な人物を挙げてもその人柄は伝わらず、偉人の名を挙げても夢見がちと受け止められる。
 この命題を解決できてしまう環境を、この男は出現させてしまった。
 尋常小学校教師、鐘田将太郎。
 不器用な男だ。 頭の中は、教育の在り方ばかり。 30歳になって未婚どころか恋人もいない。
 そんなパッとしない男に、さらなる災いがふりかかる。
「わっ!」
 考えごとをしながら学校の階段を下りる途中、転落。 強く頭を打ってしまった。

 朦朧とする意識の中で、鐘田は懐かしい女性の顔を見た。
 数年前に他界した母だった。
 母は天才だった。 30を過ぎてから皇国大学に入学し、日本初の女性大学教授となった。
 そんな母に比べ自分はなんと情けないのだろう。
 涙する鐘田に瞼の母はこう告げた。
『魔法の呪文を唱えなさい』

 目を覚ました鐘田は、言われるがまま教えられた呪文を唱えた。
「ドウニデモナーレ!」
 しかし、なにもおこらなかった。
 子供たちにプークスクスされ、鐘田はふてくされて帰宅した。

 翌日、職員室に入った鐘田は仰天した。
「わっ、なんだその恰好は!」
 驚きの声をあげる鐘田を校長はたしなめる。
「鐘田くん、物事をわかっている人間は大きな声など出さないものだよ」
 鐘田は言い返した。
「わかるか、こんなこと!」
 校長は図書館の偉人伝にあるレオナルド・ダ・ヴィンチにそっくりな格好をしていたのである。
 それだけではない。 他の教師陣もエジソン、アルキメデス、平賀源内といった偉人そのままの格好をしている。
「仮装大会なんて聞いていないぞ!?」
 いくら学校の行事表を見ても、それらしきことは書いていない。
 わけのわからないまま始業のベルが鳴り、教室に入るとそこでも仰天した。

「子供たちよ、お前もか」
 児童たちも過去の偉人たちと同じ格好をしていたのである。
 だが、格好だけではなかった。
 能力も過去の偉人そのままだったのだ。
 天性の天才。
 授業が始まっても、鐘田には教えることがなにもない。
 偉人たちは己の得意分野を互いに講義しあい、ダイアモンドがダイアモンドを磨くかのように互いの天才を高めあっていった。

 鐘田が行ったのは一種の降霊術だった。
 歴史に漂う英霊を、教師や子供たちの体に降ろしたのだ。
 これは、鐘田が以前より頭の片隅で考えていた究極の教育方法だった。
 自らも鼻で笑っていたそれを、鐘田は実現させていたのだ。
「おふくろの呪文の力か! 俺はモーレツに感動した!」
 童貞のまま30歳になった鐘田、彼もまた魔法使いの子供だった。

 蘇った天才たちにより文明は飛躍的に進歩。
 偉業を為した鐘田は日本のリーダーと讃えられ、史上最年少の総理大臣となった。
 しかし、平教員時代に校長を怒鳴りつけた暴言癖は直らなかったようで。
「パンとかコーンフレークとか軟弱なもん食ってんじゃねえ! 日本人は米を食え!」
 農業政策を強引に推し進めようとしてこの発言。
 史上最年少の総理は、わずか数日で史上最年少の元総理となってしまった。

●楽屋
 日本編VTRを観ながら、出演者たちは口々に感想を述べ合っていた。
「私の妹の病気、チチシーボム病だった。 恋音さんのパートとつなげたんだね」
 人妻アイドル文歌、乳はほどよくある。
「爆乳は万病の元! 淘汰されるべきです!(コクリ)」
 乳がほどよくない雫、敵意むき出し。
「あれは架空の病気なのですよぉ……(ふるふる)……」

 架空の世界に架空の世界を重ねてきたのは愛のパート。
「う〜ん、みんなが物語の模倣をするっていうのは、ごっこ遊びにされちゃったのかぁ」
 改ざん内容に残念そうな愛を、文歌とミハイルが励ます。
「それは仕方ないよ、みんなが物語の主人公みたいに正義心で戦っていたら、近代文明どころか有史以前の無法世界になっちゃうもん」
「正義というのは人それぞれだからな、正義同士の衝突をさけるために出来たのが法というやつだ。 正義の物差しを作ることにより国ができ、最初の文明のきざしとなったと言えるな」
「痛快な勧善懲悪は憧れを呼ぶことも事実だからね。 リングで物語を演じてストレスを発散させるのは、いい手段だと思うよ」
 
 ジェラルドにも意外な面はあった。
「ボクのはオフィスのコーヒーサーバーの販売会社になったのか」
 やや首を傾げている。
 あるいは喫茶店でケーキをつつきながらの、もっとゆとりある休憩を意識していたのかもしれない。
「回答者の天魔さんたちは、今の日本を知っているわけですからね。 仕事中の休憩といっても、デスクで仕事をしつつコーヒーを飲むくらいが関の山だと気づいているのかもしれません」
「喫茶店にも、くつろいでいるビジネスマンはそんなにいないよね」
 時代はゴイスの理想には、まだ追いついていなかった。
 ブラック企業をよく知るジェラルド、それもわかり切っている。
「30分休憩したら代償として3時間のサビ残! 休憩しなければ集中力が落ちるからミスをしてゴメンナサイのサービス残業! それが今の日本の空気!」
「……生々しいのですよぉ……(ふるふる)……」

 一番改ざんされていたのは、おそらく鐘田。
「降霊術にされたか」
「死者を蘇らせる手段があるとなると、まるで違う世の中になっちまうからな。 俺のパートでも降霊術まがいはあったし妥当な線だろ」
 大きく改ざんされた部分はもう一つある。
「平賀源内に歌を唄いながら、授業させたかったんだがな」
 日本初のCMソングを作ったと言われる平賀源内のエピソード。 それを元に考えた台本だったが、カットされてしまった。 その理由は……?

「テンポ系は爆死すると寒い事この上ないのであーる! そんなリスク避けるに決まっているのであーる!」
 ワルベルト局長が楽屋に入ってきた。
 威風堂々としているが、言っていることは情けない。
「さてそろそろ判定の時だが、諸君らは例の地雷の在処に気づいたのかな?」


 最大の懸念材料、地雷。
 目算をつけたのは恋音と文歌である。
 果たして的中しているのか?
「回答者の持つ知識と矛盾のある内容でしょうかぁ……?」
 恋音の回答に局長は首を傾げる。
「それは疑われて当然だが、ちと曖昧すぎるな」 
 続いて文歌
「アウルとか天魔とかですか?」
「前回、文歌がドラマでやったことであるな。 我輩はそれを失敗理由にあげなかった。 回答者たちの疑念材料ではなかったということだな」
 どちらも正解ではないらしい。
「え、じゃあ」
「おっと時間だ! お前たちもスタジオに来るがよい! 答えはそこでわかる! ガハハハッ!」

●回答タイム
 出演者たちも、スタジオの舞台袖に移動。
 身をひそめて回答者たちが札をあげるのを待つ。
「思い切り不安を煽られたままですね」
「土下座の用意をしておいたほうがいいな」
 屈辱を味わった前回出演者の雫と鐘田、特に緊迫している。
 AのVTRよりわかりやすかったのは確実。
 だが、地雷を踏んでいればアウト!
 回答者3人中2人以上がAの札をあげてしまえば、悪夢の連敗である!
 果たして判定は?

『B』
『B』
『B』

 勝負はあっさりついた。
 前回とは逆の完全勝利!
「やったー! 勝ったよー!」
「今回の課題である“わかりやすさとインパクト”はクリア出来たようですね」
「結局、地雷はなんだったのかな?」
 ジェラルドの問いに司会席から局長が答えた。

「ズバリ“前回の架空史内容を引きつぐこと”である!」

 文歌と恋音が目を見開く。
「そうか! 過去に造った設定やキャラクターを登場させるのが定番だもんね!」
 これまでの架空史依頼では、ほぼ100%の確率で前回キャラの子孫が出ていた。
 実に踏まれがちな地雷だったのである。
「回答者が前回で真の江戸時代を学んだ方たちですから偽の江戸時代も把握しているわけですねぇ……それを踏まえておきましたから助かったのですよぉ」
 在り処の的中はなかったが、誰も踏まなかった。
 地雷回避成功である!

 胸をなで下ろす間もなく、出演者たちは局長に急き立てられた。
「勝利した出演者たちよ、スタジオに出てキメポーズをとるがよい!」
 皆で顔を見合わせる。
「そういえば、そんな段取りでしたね」
「決めポーズなんか、考えてないよ!?」
 ドラマ作りと地雷探しに夢中でそんな余裕はなかったのだ。
 困っていると鐘田が、意を決したかのように頷いた。
「仕方がない、アレでいくぞ」
「アレ?」
「俺が練習していたアレだ」
「まさかアレですか!」

 出演者たちは揃ってスタジオに駆けこむ。
 勢いそのまま、床をズザーッと滑ってスライディング土下座をした。
「騙してスイマセンでしたー」
 今回はこれが、勝利のポーズである!


依頼結果