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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/01/05


みんなの思い出



オープニング


 KOB最終競技100kmハードル。
 地獄と悪評高きこの競技は沿岸コースと海岸コースという二種類のコースを以て行われた。
 だが、その影に封印されてしまった第3のコースが存在したことはあまり知られていない。

「第3のコース? どこを走るんですか?」
 久遠ヶ原にある某斡旋所。
 四ノ宮 椿(jz0294)の務める斡旋所であるが、本日はその椿が非番である。
 久遠ヶ原ケーブルTV局長のワルベルトが依頼を持ってきた依頼は、椿の後輩所員である堺が対応している。
「ガハハハッ、コースはもうある!」
 ワルベルトは、トランプに描かれた王様に例えられる黒ひげを震わせて笑った。
 100kmハードル第3のコースの考案者は、KOB自体のきっかけとなったアールト・カルス。
 彼が学生時代に考えだした秘密のコースということだった。
「もうある? 100kmに1万個もハードルを並べなきゃいけないはずですよね?」
 そんな大がかりなことをしたら、目立たないわけがない。
 パソコン青年の堺、自分なりに局長の言わんとすることを察してみた。
「ヴァーチャルリアリティですか?」
「いやいや、あのふたりと我輩は同世代であるが学生当時にそんなハイカラなものはしられていなかったのである」
「じゃあ、どこなんです?」
「ずばりここだ」
 ワルベルトは己の厚い胸板を叩いた。
「心のハードルである! 参加者にはレース前に心理的障壁となるなにかに挑戦してもらう! その難易度に応じた数のハードルを越えたことにするのだ! さしてハードルが高くないことなら10個、ものすごく恥ずかしいことや、無理目なハードルを超えたら9千個というようにな」
「はあ」
 堺には、なぜ学園長がこのコースを実施しなかったのかわかった。
 進級試験込みの全体行事で、そんなものに挑戦させたら問題が多発するに決まっている。
「学園使わないのなら、我が局でもらおうということで準備をさせてもらったのだよ。 それぞれが持つ心のハードルをTVカメラの前、生放送で超えてもらう!」
「生放送でって……ハードル高くしすぎですよ、それ」
「まあ、モザイクは即時入れられるようにする。 それはそれで美味しいが、全員そういうのだとだとなにをしている番組かすらわからなくなるから、参加者同士で相談してバランスをとってくれ」
「わかりました、そう依頼書に書いておきます。 他はどんなルールですか?」
 挑戦できる“心理的ハードル”は各選手1人につき1つだけ。
 その難易度、そして超えることに成功したかどうかで、その後の本レースにおけるハードル免除数を決める。
 本レースにおけるハードルはKOBの時と同じく10mごとに設置される。
 陸上競技場のトラックにそのハードルを並べ、免除されなかった残った距離だけ走ってもらう。
 残りハードル個数が100個なら1km走ればゴールだが、残り個数が9000個なら90kmを走らねばゴールできない。
「それ勝負になりますかね? 走力にかなり差があっても残りが1km対90kmじゃあ」
「まあ、走るのはおまけみたいなものだ。 ヘロヘロになりつつ必死で走りようやくゴールが見えたと思ったら突然、隣のコースに元気満タンのライバルが現れて全力疾走しだすのだ! こいつはインパクト満点なのであーる!」
「インパクトありすぎて、ハラワタ煮えくりかえりますね」
 なお心理的ハードルを飛び越えることに失敗し、失格として競技場での出走自体が許されない場合もある。 逆に100kmすべて免除され、ゴールテープの向こう側に笑いながら姿を現す選手が出てくる事態も想定できるという。
「つまり無人、空いているコースがあったとしても、油断も絶望もできないということですね」
「そう、勝負はゴールテープをきるまでわからんということだ!」

 パソコンで依頼手続きをしていた堺に局長が尋ねてきた。
「堺がこの競技にでるとしたら、なにをするかな? 堺が心にハードルを感じることはなんであるか?」
「そうですねえ」
 堺がハードルと聞いて思い浮かべるものは目の前のこの男、局長である。
 椿のことを好きな事を自覚している堺だが、その椿は叔父である局長に強く憧れている。
 局長を超えられたという自信が持てない限り、椿に自分の気持ちを告げることはできないだろう。
「……ひとり焼肉ですかね」
 しかし、そんなことを口には出せない小心もの。 無難な回答でお茶を濁してしまう。
「ひとりで焼肉屋か、確かにハードルは高いのである! だが堺は地道キャラだから免除しても2000個程度だろうな。 うぇーい系リア充キャラなら5000個くらい免除してもいいが」
「そこ、差別するんですか!?」
「むろん、それぞれのキャラクター性によって同じ行動でも判定は異なる。 独断と偏見だからあしからずである! 人知れぬトラウマ的ものもあるからな。 いかに自分にとって高いハードルか、それを表現しないと伝わらないぞ」
「結構、難しいもんですね」
 KOBで心残りがある人もいるだろう。 第3のコースにその無念をぶつけて欲しい。
 なお、優勝したところでメダルもアールトアームも手に入らない。
 自分を超える覚悟のみで参加するのだ!


リプレイ本文


 第3のコース。 第一走者は雫(ja1894)。
 幼くして最強撃退士の一角を占めた彼女にも、それゆえの悩みがある。
「おしゃれです。 同年代の女の子のような服を着て化粧をすることです」
「できないのであるか!?」
「普通の服って防御力0じゃないですか! 天魔に襲われたら裸で対応しろと言っている物ですよ!」
「そういう思考であるか」
 心のハードルの高さを測る局長。
 番組的な結論が出た。

「ハードル3千個分くらいだな、成功率は7割」
 アシスタント役の堺が驚く。
「低いですね!?」
「雫も仲間に囲まれ、入学当初とは比類にならぬほど感情豊かになったと聞く。 手ほどきをするものがいれば乗り越えられるはずだ」

 雫のドレスアップ指導のために、別パートから呼んだのがこの人!
「雫さんは素材がいいですから、おしゃれをすればますます可愛くなるのですよぉ……(ふるふる)……」
 面倒見のいい少女、月乃宮 恋音(jb1221)である。
 雫と向かい合い、まずはお化粧を施す。
「マスカラはこの色、グロスはこちらがあうのではないかとぉ……」
「月ノ宮さん、これはなんですか?」
 雫、化粧に対する知識はゼロのようだ。 恋音が丁寧に説明する。
「マスカラはまつげをカールさせるものです……グロスはぁ」
 雫が荒い語気で説明を遮った。
「違います! 目の前でふるえているこの不愉快な物体について訊いているのです!」
「お、おぉ……(ふるふる)……」
「私なんか全然大きくならないのに! チチノミヤさんの乳は卑怯な乳です!」
「えらい言われようですぅ……」

 雫改造計画は完遂された。
 青いプリンセスラインドレスを着て化粧を施したその姿は、おとぎ話のお姫様である。
「可愛いのですよぉ……」
 周りの人間はでれっとした顔でそれを見ているが、お姫様自身は憮然としている。
「あまり変わったようにみえません」
「そうであるか、可愛いであるぞ」
「この程度では私だと敵に判別されてしまいます! 香水も不自然ですよ、潜伏出来ないじゃないですか」
「……雫さん」
 戦争以外に自分の価値を見いだせない雫を、恋音が悲しげな眼で眺めた。
「まあ……服や化粧品の銘柄とやり方は記憶しておきましょう。 何かの依頼で役に立つかもしれませんから」
 ツンとすましつつ言う雫。
「おお、ツンデレであるか」
 雫は仲間との絆により成長していた。 やがて訪れる平和な世界へ向け、己のハードルを飛び越えたのである。


 ザジテン・カロナール(jc0759)は、斡旋所の前に椿を呼び出した。
「どうしたの、ザジ君」
 椿に笑顔を向けられザジの褐色肌が赤らむ。
 ザジのハードル、それは椿への告白だった。

 ザジははぐれ天使である。
 人界に来て、友達や義理の兄や姉はできた。
 だがザジは、元々みなしごで肉親を知らない。
 そんな中、椿に出会いなんとなく“いっしょにいたい”気持ちが芽生えたのだ。
 一緒に家庭を作れたら素敵だと思う。
 だが、告白が成功する確率は万に一つだ。
 期待と不安がせめぎあう。
 失敗したら、椿と顔を合わせる時に気まずくなるかもしれない。
 それを乗り越えることがザジのハードルだった。
「ピィ」
 物陰からヒリュウが応援してくれる声が聞こえた。
 ザジは考えるのをやめた。 自分に素直になった。
「ツバキさん、僕はあなたが大好きです!僕と家族になってください!」
「え?」
 椿は驚いた顔をしたが、やがて優しい大人の微笑みに戻った。
「ありがとう、嬉しいわ。 ……でも」
 “でも”の一言でザジはすべてを悟った。
 頭が真っ白になった。
 椿の言葉の続きは耳に入らなかった。
 せめて恐れる事態だけは避けようと取り繕いの言葉を出した。
「ごめんなさいアプローチもせずに急に。 それに僕、子供すぎますよね、外見も中身も」
「ザジ君、それは問題じゃないのだわ。 私が好きなのは少年のような心の持ち主だもの」
 言葉の意味がザジにはわからなかった。
 胸の痛みだけが切なく残った。

「己の夢を持ち、追い続けるものでなければ椿さんの心を掴む事は出来ない」
 玉砕の原因を堺は、そう分析した。
 椿が恋を出来ないのは局長に対する憧れである。
 自分のTV局を持つ夢を持つ裸一貫から実現させていった叔父の背中を、少女時代から椿は見ていたのだ。
 その局長は宣言した。
「少年の勇気ある行動を評価しよう、ハードル8千個である」
 成否は問題ではない。 この失恋からザジがなにを学ぶかである。


「今年の芸能界の流行に乗って、私もとんでもないことをみんなに告白しようと思います!」
 シリアスブレイクなテンションでスタジオに現れたのは、袋井 雅人(jb1469)。
 恋音と長く恋仲にある少年だ。
「心から愛しているのは、恋人の恋音だけだとこの機会にみんなに宣言しておきたいのです!」
「つまり、もう浮気はしないと?」
「浮気はしますよ? 僕のレーダーを反応させる方なら、男の娘でもノンケでもハントさせていただきます! 浮気は僕にとっていわば生業なのでやめることはありません!」
「本当にゲスの極みですね、この眼鏡は」
 あきれ果てる堺。
「ところで恋音はどこに? 撮影日は今日のはずですが」
「もうロケに出ています、新宿でサラシを外すそうで」

「ついに公衆でこれを外す時が来たのですよぉ……」
 豊満すぎる胸は、恋音にとって小学生の時からコンプレックスだった。
 学園に来た頃、過度の恥ずかしがり屋だったのはその影響である。
 だが、二年ほど前にある夢を見た。
 恋音が前世で“乳神様”と呼ばれる神であり、太古に袋井と恋の誓いを結んでいた夢だ。
 それを事実だと信じることで、自分の胸を受け入れられるようになってきた。
 しかし、今も胸のサイズを抑制するサラシを付けている
 これを外して、歩けば乳へのコンプレックスを越えられるのではないか……そう考えた

 新宿。
 すれちがう人は皆、恋音の胸を二度見してくる。
 サラシをつけたままの時点である。
「よく考えてみると特に変化がない気がぁ……(ふるふる)……」
 サラシありでも140cm。 目立つことには変わりがない。
 どうせ目立つのなら五十歩百歩である。
 恋音はやけくそ気味にサラシを外した。
 230cmの乳が新宿の風に震える。
 人々はさらに巨大化した恋音の乳に驚いたようだが、却って現実感が薄れたらしい。
 作り物だと判断したのか、視線の数はむしろ減った。
「おぉ……どうということはなかったのですぅ」
 恋音が安堵して帰ろうとした時、紺色の服の男たちが声をかけてきた。
「キミ、ちょっといいかな?」
 警察官である。
「不審なものを持ち歩いている女がいるという通報があってね」
「見せなさい、服の下に隠している物体を」
 新宿は犯罪が多く、その分警戒も厳しい。
「……お、おぉ!?……(ふるふる)」
 恋音の乳の震えに警官たちが血相を変えた。
「動いているぞ!」
「爆弾か! 爆発しかけているのかもしれん!」
「機動隊の要請をしろ!」

 気づけばジェラルミン盾で武装した男たちに完全包囲されていた。
「……なぜこのようなことにぃ……(シクシク)……」
 困り果て、立ち尽くしている恋音。
 そこに、王子様が訪れた!
「待ってください!」
「……袋井先輩……」
 袋井が恋音の危機を察し、新宿に駆けつけてくれたのだ。
「恋音のこれはおっぱいなんです!」
「嘘をつけ、こんな乳がこの世にあるものか!」
「本当なんです! 彼女は僕の恋人で、あのおっぱいで楽しませてもらっています、具体的に言いますと……」
 袋井は恋音との夜の営みを、描写も生々しく警官たちに伝え始めた。

「な、なるほど……それは羨ましい」
「確かにおっぱいのようだ、騒がせてすまなかったね」
 警官たちが鼻の下を伸ばした顔でひきあげていく。
 袋井のいかがわしい話術が恋音を救った!
「助かりましたぁ……」
「ほかならぬ恋音のためですから」
「……ところでぇ」
 恋音が袋井に穏やかな笑顔を向ける。
「さっき袋井先輩のしてくださったお話の中に私の記憶にないものがあったようなぁ……」
「え?」
 のべつまくなしに手を出している袋井。 他の女性との艶話を混在させてしまっていたのである。
 修羅場間違いなしの状況。
 しかし、二人の顔色は変わらない。
「アハハ、そうでした! これはうっかりしていました!」
「……きっとおつかれなのですよぉ……お食事をして、ふたりでゆっくりお風呂に入りましょう……」
 恋音の胸に爆弾はなかった。

 局長と堺はその様子を中継で見ていた。
「とんでもなく“懐の深い”女性であるな」
「見たまんまですね」
 ふたりに越えたハードルの数が言い渡される。
「仲良く2千個ずつだな」
 恋音はしょっちゅう乳暴走を起こしているし、袋井は恋音が許してくれることを確信していたのだろう。
 それはこの勝負では不利なことだった。
 だが、人生においてこの上ない幸なのである、


「俺がどのくらいピーマンを嫌いか、教えてやろう」
 嫌いな食べ物に対するハードルの高さはまちまちである。
 ミハイル・エッカート(jb0544)のそれは極めて高かった。
「青椒肉絲はピーマン無しを注文する! 肉詰めピーマンはピーマン無しで作らせる!」
「それもう別料理じゃないですか」
 堺に呆れ顔でツッコまれる。
「当然だ! ヤツは臭い、苦い、まずいの三拍子だからな!」
「汗水垂らしてピーマンを作って下さる農家の方、申し訳ありません。 こういう三十代もいるのが日本の現実なんです。 勘忍してやってください」
 TVカメラに向かって頭を下げる堺。
「俺、完全に悪者じゃねえか!」
 TV的に悪者となることと引き換えに、ハードルの高さを示したミハイル。
 ザジと並ぶハードル8千個の評価を得ることに成功した。

 そのハードルへのチャレンジ!
 局が用意したピーマン料理を食べてもらう。
「クソ! たかが食材のくせになんで存在感がありやがるんだコイツは」
 ピーマンがエメラルド色に輝く回鍋肉を前にミハイルは青ざめている。 この場から逃げたいのか食卓の下では貧乏ゆすりが始まっていた。

「これは無理ではないか?」
 局長は挑戦失敗を預言した。
「メリットがないからな、ピーマンを我慢して喰ったら、今後も面白がって周りにピーマンを喰わせられるという暗黒ループが見えておる。 この挑戦、百害あって一利なしだ」

「いや、あるぜ」
 ミハイルが局長に反論した。
「未来の家庭料理の幅が広がる。 婚約者を献立で悩ませたくはない」 
「またのろけですか」
 堺のツッコミを無視し、箸で回鍋肉を大胆に掴む。
「いくぜ! 愛の力で乗り越えてやる!」
 一気に口へ押し込む!
「おお! いった!」
 肉や調味料を凌駕して広がり始めた苦みと戦い、咀嚼する。
「うぐ……こ、こんなもん!」
 眉間に寄った皺には、戦う大人の男の色気があった。

 やがて、戦いは終わった。
「人生は短いんだ。 無理せず自然体で生きようぜ!」
 カメラにはさわやかな笑顔でサムズアップするミハイルが映っている。
「かっこをつけていますが、あっさりギブアップしましたよね」
「うるさい! 嫌いなんだからしょうがないだろ!」
 三十路を過ぎようが、婚約者が出来ようが、ピーマンの前では子供なミハイルだった。


 最後は長身の美少女、遠石 一千風(jb3845)。
 越えるべきハードルは?
「1vs1でサスカッチマンを倒す!」
 一千風はアウル格闘家である。 大会では三位入賞も果たした。
 そんな彼女の無念は、雪男マスクのアウルレスラー・サスカッチマンに敗れたこと。
「奴は変態だが実力は認めている! 年内に乗り越えたい!」

 金網リングの中にフリル付き黒ビキニ姿の一千風がいた。
 すでにゴングは鳴っている。
 アウトレンジの闘いに徹している。
 雪男が掴もうと腕を伸ばしてくると、それを払いのけてドロップキック。
 クレバーな戦い方だ。
 雪男には、1秒以上掌に掴んだ人体を凍結させる技がある。
 掴まれては終わりだった。

「勝てる確率は?」
「3割だな、ハードル7千個だ」
 局長の評価は厳しい。
 雪男は学園生ではなく、専業のアウルレスラーである。
 リングに特化すればプロが勝るのは当然だった。
「しかも、いつになくモチベーションが高い」
「ミハイルさんが、なんでもするって言っちゃいましたからね」
 雪男は最初、再戦を渋った。
 翻意させるために一千風は“勝ったら自分を好きにしていい”と魅惑的な提案をした。
だが、雪男はガチホモである。 まったく興味を示さなかった。
 そこで局長が“勝ったらミハイルがなんでもしてくれる”という条件にすりかえて企画を成立させたのだ。
「本人に確認をとっていませんが」
「もう既成事実化しておる! 問題ないのである!」

 試合が動いたのはゴングから3分後。
 何発目かのドロップキックを雪男がかわした。
「しまった!」
「もらった!」
 ドロップキックはかわされると、マットに倒れてしまう欠点がある。
 雪男は倒れた一千風の腕をすぐさまとりにいった。
 予想される戦術へのカウンターを用意しておいてこそ、プロである。
 
「やはりそうきたか!」
 一千風もすでにプロだった。
 ドロップキック回避後の展開を予想し、対策は用意していた。
 腕をとりにきた雪男の腕を、逆にとって捻り関節に極めようとする。
 ここが天王山! 先に関節を極めた方が試合を制する!
 掴まれては払いのけ、掴まれてはふりほどくの激しい攻防!
 最終的にそれを制したのは、
「くっ!」
「がははっ! 腕は上げたが俺に一日の長があったようだな」
 雪男だった。
 一千風は、肘と膝の関節を凍らされた。
(だが、まだ!)
 狼の目は諦めていない。
 逆転の策はあった。
 雪男の決め技であるクリスタルバスター。 それを“徹し”で崩すことだ。
 過去戦で成功した策である。 だが、
「同じ手は喰わん!」
 雪男がかけてきたのは、別の必殺技・シベリアクローバーホールド!
 関節を凍らされた足を極められた!
 レフリーストップによるゴングで試合は終わった。
「くっ、無念だ」
「ガハハハッ! 励ましなど言わんぞ! それ以上、お前に成長されるとミハイルになんでもしてもらえなくなるからな!」
 リング上で勝ち誇る雪男。
 瞬間、銃声。
 ミハイルである。 愛銃から硝煙が靡いている。
「お、お前、なんでもしてくれるって」
 銃弾を受けた胸を抑えて、ふらつく雪男。
「なんでもしてやるぜ、ほら」
 マットに倒れた雪男にミハイルは容赦なく銃弾を撃ち込む。
「ぐお〜!?」
 それを堺が不安そうに見ていた。
「あれ死にませんか?」
「バラエティ番組だから大丈夫であーる!」


 陸上競技場にスタートの号砲が鳴り響いた。
 選手たちは、免除されなかった分のハードルを越えてゴールを目指すことになる。
 だが、選手たちには結果が見えていた。
「がんばれよ」
「失恋を乗り越えてこそ、大人の男になるんだ」
 ザジである。
 他の選手が100kmから60kmを走らねばならないのに対し、一人だけ20kmでゴールという大アドバンテージを得ている。
 優勝は揺るぎなかった。
 走る少年の顔には、真摯さだけがあった。
「ふられちゃいましたけど……すっきりはしました」
 辛くないといえば嘘になる。 それを忘れるために目の前のハードルを飛び越える。
(辿りつくことがなくとも、目指すだけなら)
 目指すゴールへ辿りつける人生の方が少ないのかもしれない。
 けれど、目指すべきものを決め、その道を現れるハードルをひとつひとつ飛び越える毎日を送れるのならば、その人生は決して不幸なものにはならないだろう。
 破れた初恋に痛む胸を抑えながら、ザジはまた新たなハードルを飛び越すのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 海に惹かれて人界へ・ザジテン・カロナール(jc0759)
重体: −
面白かった!:5人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅
海に惹かれて人界へ・
ザジテン・カロナール(jc0759)

高等部1年1組 男 バハムートテイマー