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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/09/29


みんなの思い出



オープニング


 久遠ヶ原にある某斡旋所。
「あら、堺君おひさしぶり」
 四ノ宮 椿(jz0294)は、事務室に入ってきた青年に笑顔を向けた。
 椿の後輩職員、堺 臣人である。
 実は彼、ここ数か月間は事実上休職していた。
 病気だったわけではなく、自分の夢であるゲーム制作に専念するためである。
 なお、形式上は依頼による派遣という形をとったので所員であることに変わりはない。
「お久しぶりです、ようやく例の段階までこぎつけたので今日は依頼を出しにきました」
「例の段階って、キャラクター登録段階?」
「はい、ようやくGPSとの連動がうまくいったんで」
 スマホを取り出す堺。
 彼が作っているのは、いわゆるソーシャルゲーム。
 その中でも昨今、話題になっているGPS連動ゲーム。 別名・位置ゲー。
 スマホを携帯したプレイヤーが現実の空間を移動することにより、現在地をGPSが把握し、様々なイベントが起きるゲームなのである。
「とりあえず、こないだ椿さんに入力してもらったデータを反映させたキャラクター、“椿”を実装してみました」
 堺の差し出したスマホの画面を覗きこむ椿。
「あらかわ! この“椿”ちゃんとデートできるようになったのだわね」
 画面には、この久遠ヶ原島の2Dマップが表示されていた。
 その中にある斡旋所の付近を、デフォルメキャラ化した椿が歩いている。
 このゲームは、実在の撃退士をモデルにしたキャラと久遠ヶ原島内を一緒に歩ける“お散歩ゲーム”なのだ。
 なぜ久遠ヶ原島限定かというと、予算の都合&大人の事情である。
「そうです、さっき実装したばかりでテストプレイが必要なんでさっそく“椿”とデートしてきてください」
「自分とデートって、なんか屈辱なのだわ……」
 ぶつぶつ言いながらもスマホを持って外に出る椿。
 “椿”との初デート開始である。


 歩き始めた椿は、商店街に向かっていた。
「自分の思い出の場所に行けばいいのだわよね、それは覚えているのだわ」
 数週間前に堺からメールでアンケートがきて、島内のスポットにまつわる思い出をいくつか書かされたのである。
 その時に書いたことを思い出せば、何をすればいいかくらいは見当がつく。
 商店街に入った椿は、老舗のスーパーの駐車場に向かう。
 案の定、ポケットの中でスマホがバイブした。
 なにかイベントが起きたということである。
 スマホを取り出すと画面の中の“椿”がこちらへ向かって話かけてきていた。
『この場所はね、ちょっといい思い出があるのだわ!』
 スマホ内の”椿”は笑顔で語り続ける。
『高等部の頃、スーパーの前で福引をやっていたのだわ』
『それを引いたら、味のり一年分が当たったのだわ!』
『味のりは大好物だから、めちゃくちゃ念を籠めて引いたのだわ』
『それで当たったものだから“くじが絶対当たる”スキルに目覚めたと確信したのだわ!』
『その後、購買に行ってくじを引いたら……』
『そんな都合のいいスキル、この世にないことを確信したのだわ』
 最後にはショボーン顔になるスマホ内“椿”。
 なお喋りがぶつぎりなのは、スマホなので表示文字数を少な目にしないと読みにくいがゆえの仕様である。
 “椿”が思い出を語り終えた後、画面が切り替わり一枚のカードが表示された。
 そこに描かれたイラストは高等部の制服を来た“椿”が福引器を回し、その福引器から味のりが大量に出てきているというもの。 イラストのjk”椿”の目はキラキラと喜びに輝いている。
「あらかわいい! こういうイラストになったのね」
 むろん、現実には福引器から海苔が直接出たわけではないのだが、そこは漫画的表現というやつである。
「一緒にお散歩しているキャラの反応しそうな場所に行って、思い出を語らせ、それにまつわるイラスト入りカードを集めるゲームなのだわね」
 じっくり眺めると、カードの左下端には☆のアイコンが2つ描かれている。
「ハッピーLV2か、まあ書店街の福引に当たる程度ならこんなものなのだわ」
 この☆がレア度である。 思い出が幸せかつ、希少なものであるほど☆の数が多い。
「お散歩に目標ができるのはいいことなのだわ。 ここのところ出不精になってきて腰にお肉がついてきたから助かるのだわ」
 せっかくだからもうちょっと歩こうという気分になった椿、 次の目的地に向かう。


「こっちの方がレア度が高いカードがゲットできそうなのだわ」
 椿が向かったのは島内の結婚式場である。
 堺に回答したアンケートに“将来の夢”という項目があり、そこに“幸せな結婚”という回答を出しておいたのを覚えている。
 スマホでデートしているキャラが“椿”本人だからこそここがカードゲットスポットだと察したのである。
「ありふれてはいるけど、幸せ度では福引より遥かに上のはずなのだわ」
 結婚式場の門前に近づくと案の定、スマホが震えた。
「さあ、“椿”ちゃん夢を語るがいいのだわ!」
 意気揚々とスマホを取り出す椿。
 レア度☆5くらいは固いと睨んでいる。
 画面の中の“椿”をタップすると、先刻と同じく思い出語りが始まった。
 予想に反して“椿”はどんより顔をしている。
『結婚式場に来ると、いつも鬱になるのだわ』
『同僚が結婚していくだけでも鬱死なのに』
『後輩にもどんどん先を越されていくのだわ!』
『最近では後輩が、結婚式に大きな子供を連れてきている始末!』
『jsのくせに彼氏のことで悩んだりしていて!』
『あたしなんか31なのに彼氏の悩みなんかねーのだわ!』
『いないこと以外ねーのだわ!』
 画面の中の“椿は”プンスカモードでまくしたてた後、カードをくれた。
 ウェディングドレスの花嫁姿――の友達を、いまいましそうに見送るスーツ姿の”椿”。 やぶにらみの瞳に、恨みがこもっている。 そういうイラストだ。
 レア度は★6。
「なにこれ……」

 椿は予想と違う結果に憤慨して、電話をかけた。
「堺くん、なんなのだわ! このカードは!」
 かなりの剣幕で怒鳴ったのに、電話の向こうの堺の声はケロッとしている。
「バッドレアですよ、☆の数がハッピー度数、★の数がバッド度数です。 いずれもレア度6はなかなか滅多にお目にかかれるものじゃないですね。 おめでとうございます!」
「そうじゃなくて! 私の幸せな将来の夢がなんで、鬱告白になっているの!?」
「だって椿さん、友達の結婚式から帰ってくるたびにグチりまくっているじゃないですか、その“椿”が言ったことは僕が椿さんに聞かされてきたグチそのままですよ」
「そ、そういえば」
 結婚式翌日にはストレスにかまけてこんなことを言っていたことを、思い出してきた。
 ゲーム内の椿がこんなキャラにされたのは、自業自得なのである。
「アンケートに入力した通りにキャラが作られるわけじゃないです
「うう、ひどい……」
「客観的かつプレイヤーに楽しさを与えられるよう思い出の内容から解釈までアレンジをさせてもらってます」
「じゃあ、これからモニターになってくれる子たちも?」
「そうなりますね、ある程度はイジられること前提で応募してきてもらいましょう」
 というわけで堺が開発中のGPSゲーム“久遠ヶ原SANPO”にキャラクターを登録し、モニターとして自分のキャラと一緒にお散歩を楽しんでほしい。


リプレイ本文


(これが噂のGPSゲームか、本当に画面の中でも俺が歩いてくれるんだな)
 パンク系ファッションの青年、浪風 草慈(jb6615)は、スマホを眺めつつ、校舎の中庭に向かっていた。
(ここだったよな、アンケに書いたのは)
 歩いていると、スマホのバイブが鳴った。
 ポケットから取り出すと画面の中から“草慈”が話しかけてきた。
『この中庭で寝ていた時の話だ』
『暖かい日だったんで、気持ちよく寝ていたら』
『突然、不良が俺につまずいて体の上に倒れてきたんだ』
『つまずいたのは向こうなのに”邪魔だ”とか文句をつけてきて』
『むっときた』
 あの時は生徒たちも騒ぎに気づいたらしく、喧嘩に期待して窓から顔を出したり、煽りの歓声をあげたりしたものもいた。
『でも立ちあがったとたん向こうがいきなり土下座しはじめて』
『なにかと思えば、身長差』
『粋がっていたけど、あっちはちびっこだったから』
 浪風は190cmある。 むこうは150cmあるかないかだったから驚いたのだろう。
『観客には俺が悪者に見えたかも』
 しょぼーんとする画面内の”草慈”
 続いてカードが配布された。 草慈に土下座するショタヤンキーの絵だ。
 草慈の顔が恐ろしげにガラ悪く描かれている。
「なんだこのイラスト、誤解が広がるじゃねえか」
 ブツブツ言いつつ、場所を移動する。

 校舎を離れて、街の路地裏に入る。
 すると画面の中の”草慈”がガクガクと怯えだした。
『奴が奴が来る!』
『逃げろ!』
 画面の中から警告してくる。
「大げさだな、まあ演出ってやつか」
 浪風本人の方は慌てていない。 溜息をつきつつ画面をタップする。
『ここでは本格的に喧嘩したんだ』
『女の子がカツアゲされていたんで、思わずな』
『負けたからビビっているわけじゃないぞ』
『喧嘩には勝った、だが女の子を助けたはずが』
『よくみたらオネエだったんだ!』
『”運命の人(はあと)”とか言われて抱き着かれて』
『とっさに逃げたのに!』
 浪風はこの時ようやく、画面の中の”草慈”が怯えている理由を悟った。
 あの時に感じた香り、得体の知れぬコロン臭が背後から近づいてくる。
 振り向くと、電柱の陰から”それ”が笑顔を覗かせていた。
「信じていたのよ、必ずここで出会えるって」
「違う! お前に会いに来たわけじゃない!」
「わかるわ、それを見せにきてくれたのね」
 オネエが指さしたのは、スマホの画面だった。
 二枚目のカードが表示されている。
 オネエに抱き着かれている浪風のイラストだ。
「あの運命の時を絵にして……しかも、待ち受けにしてくれるだなんて」
 オネエは感涙している。
「違う!」
 否定したところで、この状況を誤解だと理解させるのは困難である。
 この場に戻ってきた事で浪風の運命は定まってしまったのだ。

“俺は悪くない” ★4
“受け入れた運命” ☆6

 なお上記はイラストのテーマとレア度である。
「受け入れてねえよ!」


「自分をモデルにしたキャラとデートたぁねぇ。 キャラ選択できるようにしてほしい。どうせなら美人のねーちゃんとデートしたい」
 ぼやきながら歩く鐘田将太郎(ja0114)
 だが、この要望は危険である。 単純に女体化されかねない。
「最初はここだな」
 目の前に見えてきたのは島の片隅にある大衆食堂。
 ここだけ昭和といった風情である。
 スマホ画面の中ではデフォルメ化された鐘田“将太郎”語り始めていた。

『撃退士になりたての頃、依頼がこなせず収入が少なかったんだよ』
『そんな俺に美味いメシ食わせてくれたのが、ここの主人だったんだよな』
『味噌汁も美味い、米は魚沼産コシヒカリ。大盛りで食わせてくれた』
『ごはんの友の味海苔に鮭も美味かった』

 喋り出した“将太郎”を見て、現実の鐘田の喉から唾がこみあげてきた。
 カードも仕様書通りに満面の笑みを浮かべながら大盛り丼飯を食う自分の絵になっている。
「よしっ! 久しぶりにいくか」
 味蕾の記憶と、活性化した胃袋がのれんをくぐらせる。
「久しぶり! 焼肉定食、ご飯丼で頼むわ」
「将太郎ちゃんか、元気でよかった!」
「おやじさんもな」
「飯は大盛りにするかい」
「おお、依頼だから今日は経費で落とせるぜ」
「お大尽だね、将来、汚大臣にはならんでくれよ」
「おやじギャグだな、出馬する気もないぜ」
 鐘田は歳月がたっても待っていてくれていた店と、どんぶり飯に満足するのだった。

 次に鐘田が訪れたのは、これまた昭和の香りのする酒屋。
 スマホの中の“将太郎も語り始める。
『ここで売っている酒は、俺の地元の米で作られている』
『たまに買ってる、最高だぜ』
 “将太郎”は腰に手をあてて酒を飲み始めた
「お前と二人酒、色気はないがまあいいか」
 酒を一杯買い、遊び心で同じポーズで呑んでみる。
 出てきたカードもまったく同じポーズで酒を飲んでいる構図である。
「こんな店ばかり廻っているからだな、彼女を連れてこられるところがありゃしねえ」
 自嘲する鐘田。
 カードは二枚とも、注文通りのハッピー仕立てである。

“米がうまい!” ☆4
“酒は米だ!” ☆4


(いつでも来られたはずだけれど、意外に久しぶりです)
 パッツン前髪の大人しそうな少女、玉笹 優祢(jc1751)は、島内のとあるビルの前で足を止めた。
 優祢の父親が経営するホテルグループの一つ、久遠ヶ原に建てたビジネスホテルである。
 画面の中の“優祢”が喋り出す。
『このホテルはおすすめです』
『外見は普通のビジネスホテルです』
『内装も普通です』
『宿泊料も普通』
『では、なにがおすすめかというと』
『驚きの秘密があるのです』
『わかりますか?』

「な、なぜクイズ仕立て?」
 リアル優祢の乳がふるふる震えている。 99cmという小学生にあるまじき巨乳である。
『答えはこれです』
 画面の中の“優祢”も同じく乳を震わせ始めた。
『このホテルに泊まるとおっぱいが大きくなるんです!』
『私も入学前にホテルで暮らしていて大きくなりました!』
『理由は不明ですが、友達もこの通りです!』
 画面にカードが映し出される。 優祢と和服姿の小学生――このホテルで出会った優祢の親友――ふたりが仲睦まじく、乳の比べ合いをしているイラストだ。

 慌てて斡旋所に電話をかけた。
『タイアップしたんですよ、優祢さんのお父さんのホテルと』
 電話口に出たのは堺だ。
『時々、出来る空き室を有効活用するため島内の人に泊まりにきてもらおうという意向です』
 わかるようでわからない。 島に家がある人間がビジネスホテルに泊まるだろうか?
『そこです。 この島、格差が大きいでしょう。 さっき斡旋所に来た学園生何人かに話したら、かなり食いついていましたよ』
「格差って、もしかして」
 ふとホテルのロビーを見ると、貧乳少女たちが群れをなして受付のホテルマンに食いついていた。
「とっとと泊めるのです!」
「乳! 乳くれよー!」
「空き室がないなら、壁をぶちぬいて部屋にしてやる!」
 破壊工作を始めるひんぬー族。 優祢は乳を震わせながら逃げた。

「……おぉ……それは災難でしたぁ」
 優祢が訪れたのは、とある研究所。
 この島での“乳格差”を研究している施設である。
 “室長”と呼ばれる超巨乳少女に、一連の出来事を報告する。
「ところで、そのアプリは大丈夫でしょうかぁ……この場所と研究内容がばれると大変なことにぃ……(ふるふる)」
「はい、堺さんにこの場所の詳細は秘密にしてもらいましたから」
 この場所では訪れても“優祢”は何も語らない、真っ白なカードが排出されるだけだ。
 この島のひんぬー族は凶暴なのである、上陸される方は十分に注意されたし。

“乳と出会いとビジネスホテル ☆5”
“謎の施設 ☆?”


「ここですね、懐かしいな」
 ザジテン・カロナール(jc0759)が訪れたのは海辺だった。
 ザジの呟きに応えるかのように、スマホが震える。
『天界から初めて降り立った場所で、その夜は嵐でした』
『そこで偶然来ていた久遠ヶ原の職員さんに拾ってもらいました』
『その時に職員さんのお家で食べた塩おにぎり、とっても美味しかったですっ』
『今、僕が学校にいられるのは、その人のおかげです! 』
 “ザジ”トークが終わるとカードが配布される。
 白いローブ姿のザジが、波打ち際からあがりつつ喜びに満ちた顔で、雨降る大地を見回している絵だ。
「おお、かなりレアですね……生涯一度の思い出でしょうから」
 亡命など、再び出来ないだろう。
 大胆な事をしたものだと、感慨がこみ上げる。

 ザジは商店街の肉屋で行列に並んでいた。
 この時間、あげたてコロッケを求めて小規模ながら行列が出来るのである。
 行列が進むのを待ちながらスマホをタップする。
『この商店街は、ほぼ毎日放課後に寄っているです』
『顔見知りの店主さんが時々おまけをくれたりするです』
『この間はお肉屋さんでコロッケを3個買ったら1個おまけしてくれたです!』
 出たカードは、コロッケを頬張っているザジ。 ☆は1。
「う〜ん、平凡すぎましたか」
 コロッケくらい誰でも食うのである。
 ちょっと残念に思っていると、
「あら、ザジ君なのだわ」
 顔を覗き込んできたものがいた、椿だ。
 今日は斡旋所が非番らしい。
 もう買い終えたらしく、肉屋の紙袋を持っていた
「うふふ、依頼ご苦労さま、あ〜んして」
「え?」
「おまけをもらったから、頑張っているザジ君にあげるのだわ」
 椿は自分の紙袋からコロッケを取り出すと、ザジの顔の前に差し出してくれた。
 顔が熱くなるのを感じながら、コロッケをかじる。
 いつもよりお芋が甘い気がした。

 斡旋所に戻ったザジは、堺に報告書を渡した。
 そこに肉屋での思い出の内容を変えてもらうようお願いを書いておいた。
 あの思い出は何らかの形で残しておきたかった。
 堺は、報告書を眺めたまま無言だ。
「だめですか?」
「いいよ、これは変えておこう……ザジ君に譲る気はないけどね」
 堺の返事の意味が、今のザジにはまだわからなかった。

“海に惹かれて人界へ ☆7”
“放課後の楽しみ ☆1”


「楽しそうだから空中散歩にしようっと」
 葛城 巴(jc1251)は背に翼を広げ、大空へ舞い上がった。
 最初の目的地は初めて受けた依頼の地。
 豪奢な邸宅を眺めながら巴は語る。
「最初の依頼では晩餐会に出席して」
「ゴスロリ趣味の依頼主を励ましたり、アドバイスをしました」
「男装で依頼主やお人形や仲間を姫として丁重に扱って」
「初めてで緊張したけれど楽しかったなぁ」
 語り終えた巴は、やや引きつった笑顔を浮かべた。
「こんな感じでしょうか?」
「そんな感じですが――巴さん、どうやったらスマホをこんだけ滅茶苦茶に出来るんですか!?」
 アプリを立ち上げたものの機械音痴で操作法がわからない巴、
 変な画面が出てしまいパニックになった。
 元に戻そうといじっているうちに、怪しげなアプリを続々とDLしてしまい、どうしようもなくなって、堺をここへ呼び出したのだ。
 堺が必死に復元作業をしている間、手持ちぶたさで気まずいので自分のアバターの物まねをしていた。
「元には戻しましたが、これだけ出鱈目にいじっているとなると身に覚えない請求も来るかもしれませんね」
「はい……」
 渡されたスマホの画面には王子風衣装で微笑みつつ人形にケーキを差し出している巴のイラストが映っていた。 ☆は5つ。
「私的には、★7くらいな気分です」

 堺と別れた巴は、公園に来てきた。
 今は何もなく、散歩をしている人もまばらな公園。
 だが巴には、思い出があった。
『ここは、前にガチャ祭りっていうお祭りが開催された場所です』
『ガチャ廃人どもの夢の跡です』
 “巴”は少し毒舌が入っている。
『私は手芸品ガチャの店を開きました』
『女の子向けだったんだけど、彼氏が来てくれて』
『生命力をコインに変えて、ガチャりまくったんです』
『どうなったのかって?』
『きゃー!』
 画面の中の巴、赤くした顔を横に振っている。
『手芸品も“私を1日使用人に出来る権”も根こそぎお持ち帰りされました!』
 我がことながら微笑ましい。
 カードイラストは、彼氏にお姫様抱っこされている巴の絵が描かれていた。
「よかった、本当に良い思い出でしたから」
 巴は遠い目で空を見上げた。
 幸せな時は、今も続いている。 だが、永遠ではありえない。 じきに終わりが来る。
「だからこそ、残された時を」
 巴は歩き出した、今はまだ思い出が作れる時。
 よりよき思い出を紡ぎ合える人の元へ。

“初依頼はゴスロリ ☆5”
“ガチャから出た思い出 ☆7”



「このゲーム、学園生以外に売れンのか?っつー疑問はあるが校内新聞の記事にするにゃ、絶好のネタだぜ!」
 学生記者、小田切ルビィ(ja0841)はそんな理由で、依頼に参加。
 最初の目的地である新聞部室へ向かった。
「なにをしているのかね」
 部室近くで、誰かに話しかけられた。
 スマホから目を離さずに応える。
「自分を客観視しているんだ」
 小田切は自分が歩くと共に歩く画面の中の“ルビィ”を複雑な視線で見つめていた。
 他者によりデフォルメ化された自分に様々な想いが湧いてくる。
「肝心な部分が、客観出来ていないじゃないか」
「え?」
「キミは今、歩きスマホになっているよ」
「あ」
 慌てて立ち止まる。
 画面の中のルビィは話をし始めていた。
『ここが俺の所属する新聞部の部室だ』
『俺は将来の報道大賞候補と呼ばれる期待の星だぜ』
『ここの部長はパンダだ』
『パンダが新聞部長をしているのを報じたら、受賞出来る気がするが』
『この島はこういう島なので記事にすらならねえ』
『理不尽だ……』
 嘆息する“ルビィ”。
 出てきたカードは、授賞式に臨む小田切の姿。 プレゼンターはパンダで、伝統あるメダルの代わりに笹の葉を渡されている。 ★3つ。
「不幸扱いされた上に低評価だな」
 この島では、パンダが部長であることなど特にレアではないのだ。

 続いて小田切、一件のラーメン屋を訪れる。
 店には入らない、金がないからだ。
『ここは知る人ぞ知る、隠れた名店だ』
『そのラーメンは五つ星級!』
『だが、この店の素晴らしさは味だけじゃない』
『不治の病である“金欠病”によって俺が餓死しかけていた時』
『店主の慈悲によってラーメンを御馳走になったんだ。 一生忘れねェ…!』
 号泣する“ルビィ”、見つめる小田切もかつての恩を思い出し、うんうんと頷いている。
 だがタップをすると“ルビィ”の方の顔が一転して、怒りに満ちた。
『そんな店主と正反対な奴がいる』
『金欠病のくせに、スマホゲーに手を出しているお前!』
『画面の外にいるお前のことだよ!』
『そんな金があったら、金を払って飯を食え!』
『それが恩返しってもんだろ』
 画面の中にいる自分に叱られ顔を青ざめさせるルビィ。
「いや、今日は依頼で……」
『言い訳してんじゃねえ!』
「はい」
 自分の分身に叱られるというレア体験をする小田切。
 出てきたカードも、今まさにこの瞬間を切り取ったような構図だ。

“パンダ賞受賞 ★3”
“貴方が深淵を覗く時 ★8”


 依頼翌日の斡旋所では報告書作成が行われていた。
「課金勢を叱るシナリオはどうなのだわ? 大事な顧客なのに」
「う〜ん、僕、ツッコミ体質なんでつい」
「堺くんも自分のキャラを入れて、自己を客観視するといいのだわ」
 椿が堺にツッコミを入れるという珍しい風景である。
「そうですね、気づかせてくれた小田切さんに金一封あげときましょうか」
「このお金でラーメンを食べにいくといいのだわ」
 小田切と巴、合計得点の高い二人にMVPである。
 君たちもこのゲームに自己キャラを登録すれば、自分には見えていない自分が見えてくるかもしれない。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 戦場ジャーナリスト・小田切ルビィ(ja0841)
 永遠の一瞬・向坂 巴(jc1251)
重体: −
面白かった!:6人

いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
理不尽パンク・
浪風 草慈(jb6615)

大学部7年51組 男 ナイトウォーカー
海に惹かれて人界へ・
ザジテン・カロナール(jc0759)

高等部1年1組 男 バハムートテイマー
永遠の一瞬・
向坂 巴(jc1251)

卒業 女 アストラルヴァンガード
ホテル王女・
玉笹 優祢(jc1751)

中等部2年1組 女 バハムートテイマー