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(これが噂のGPSゲームか、本当に画面の中でも俺が歩いてくれるんだな)
パンク系ファッションの青年、浪風 草慈(
jb6615)は、スマホを眺めつつ、校舎の中庭に向かっていた。
(ここだったよな、アンケに書いたのは)
歩いていると、スマホのバイブが鳴った。
ポケットから取り出すと画面の中から“草慈”が話しかけてきた。
『この中庭で寝ていた時の話だ』
『暖かい日だったんで、気持ちよく寝ていたら』
『突然、不良が俺につまずいて体の上に倒れてきたんだ』
『つまずいたのは向こうなのに”邪魔だ”とか文句をつけてきて』
『むっときた』
あの時は生徒たちも騒ぎに気づいたらしく、喧嘩に期待して窓から顔を出したり、煽りの歓声をあげたりしたものもいた。
『でも立ちあがったとたん向こうがいきなり土下座しはじめて』
『なにかと思えば、身長差』
『粋がっていたけど、あっちはちびっこだったから』
浪風は190cmある。 むこうは150cmあるかないかだったから驚いたのだろう。
『観客には俺が悪者に見えたかも』
しょぼーんとする画面内の”草慈”
続いてカードが配布された。 草慈に土下座するショタヤンキーの絵だ。
草慈の顔が恐ろしげにガラ悪く描かれている。
「なんだこのイラスト、誤解が広がるじゃねえか」
ブツブツ言いつつ、場所を移動する。
校舎を離れて、街の路地裏に入る。
すると画面の中の”草慈”がガクガクと怯えだした。
『奴が奴が来る!』
『逃げろ!』
画面の中から警告してくる。
「大げさだな、まあ演出ってやつか」
浪風本人の方は慌てていない。 溜息をつきつつ画面をタップする。
『ここでは本格的に喧嘩したんだ』
『女の子がカツアゲされていたんで、思わずな』
『負けたからビビっているわけじゃないぞ』
『喧嘩には勝った、だが女の子を助けたはずが』
『よくみたらオネエだったんだ!』
『”運命の人(はあと)”とか言われて抱き着かれて』
『とっさに逃げたのに!』
浪風はこの時ようやく、画面の中の”草慈”が怯えている理由を悟った。
あの時に感じた香り、得体の知れぬコロン臭が背後から近づいてくる。
振り向くと、電柱の陰から”それ”が笑顔を覗かせていた。
「信じていたのよ、必ずここで出会えるって」
「違う! お前に会いに来たわけじゃない!」
「わかるわ、それを見せにきてくれたのね」
オネエが指さしたのは、スマホの画面だった。
二枚目のカードが表示されている。
オネエに抱き着かれている浪風のイラストだ。
「あの運命の時を絵にして……しかも、待ち受けにしてくれるだなんて」
オネエは感涙している。
「違う!」
否定したところで、この状況を誤解だと理解させるのは困難である。
この場に戻ってきた事で浪風の運命は定まってしまったのだ。
“俺は悪くない” ★4
“受け入れた運命” ☆6
なお上記はイラストのテーマとレア度である。
「受け入れてねえよ!」
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「自分をモデルにしたキャラとデートたぁねぇ。 キャラ選択できるようにしてほしい。どうせなら美人のねーちゃんとデートしたい」
ぼやきながら歩く鐘田将太郎(
ja0114)
だが、この要望は危険である。 単純に女体化されかねない。
「最初はここだな」
目の前に見えてきたのは島の片隅にある大衆食堂。
ここだけ昭和といった風情である。
スマホ画面の中ではデフォルメ化された鐘田“将太郎”語り始めていた。
『撃退士になりたての頃、依頼がこなせず収入が少なかったんだよ』
『そんな俺に美味いメシ食わせてくれたのが、ここの主人だったんだよな』
『味噌汁も美味い、米は魚沼産コシヒカリ。大盛りで食わせてくれた』
『ごはんの友の味海苔に鮭も美味かった』
喋り出した“将太郎”を見て、現実の鐘田の喉から唾がこみあげてきた。
カードも仕様書通りに満面の笑みを浮かべながら大盛り丼飯を食う自分の絵になっている。
「よしっ! 久しぶりにいくか」
味蕾の記憶と、活性化した胃袋がのれんをくぐらせる。
「久しぶり! 焼肉定食、ご飯丼で頼むわ」
「将太郎ちゃんか、元気でよかった!」
「おやじさんもな」
「飯は大盛りにするかい」
「おお、依頼だから今日は経費で落とせるぜ」
「お大尽だね、将来、汚大臣にはならんでくれよ」
「おやじギャグだな、出馬する気もないぜ」
鐘田は歳月がたっても待っていてくれていた店と、どんぶり飯に満足するのだった。
次に鐘田が訪れたのは、これまた昭和の香りのする酒屋。
スマホの中の“将太郎も語り始める。
『ここで売っている酒は、俺の地元の米で作られている』
『たまに買ってる、最高だぜ』
“将太郎”は腰に手をあてて酒を飲み始めた
「お前と二人酒、色気はないがまあいいか」
酒を一杯買い、遊び心で同じポーズで呑んでみる。
出てきたカードもまったく同じポーズで酒を飲んでいる構図である。
「こんな店ばかり廻っているからだな、彼女を連れてこられるところがありゃしねえ」
自嘲する鐘田。
カードは二枚とも、注文通りのハッピー仕立てである。
“米がうまい!” ☆4
“酒は米だ!” ☆4
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(いつでも来られたはずだけれど、意外に久しぶりです)
パッツン前髪の大人しそうな少女、玉笹 優祢(
jc1751)は、島内のとあるビルの前で足を止めた。
優祢の父親が経営するホテルグループの一つ、久遠ヶ原に建てたビジネスホテルである。
画面の中の“優祢”が喋り出す。
『このホテルはおすすめです』
『外見は普通のビジネスホテルです』
『内装も普通です』
『宿泊料も普通』
『では、なにがおすすめかというと』
『驚きの秘密があるのです』
『わかりますか?』
「な、なぜクイズ仕立て?」
リアル優祢の乳がふるふる震えている。 99cmという小学生にあるまじき巨乳である。
『答えはこれです』
画面の中の“優祢”も同じく乳を震わせ始めた。
『このホテルに泊まるとおっぱいが大きくなるんです!』
『私も入学前にホテルで暮らしていて大きくなりました!』
『理由は不明ですが、友達もこの通りです!』
画面にカードが映し出される。 優祢と和服姿の小学生――このホテルで出会った優祢の親友――ふたりが仲睦まじく、乳の比べ合いをしているイラストだ。
慌てて斡旋所に電話をかけた。
『タイアップしたんですよ、優祢さんのお父さんのホテルと』
電話口に出たのは堺だ。
『時々、出来る空き室を有効活用するため島内の人に泊まりにきてもらおうという意向です』
わかるようでわからない。 島に家がある人間がビジネスホテルに泊まるだろうか?
『そこです。 この島、格差が大きいでしょう。 さっき斡旋所に来た学園生何人かに話したら、かなり食いついていましたよ』
「格差って、もしかして」
ふとホテルのロビーを見ると、貧乳少女たちが群れをなして受付のホテルマンに食いついていた。
「とっとと泊めるのです!」
「乳! 乳くれよー!」
「空き室がないなら、壁をぶちぬいて部屋にしてやる!」
破壊工作を始めるひんぬー族。 優祢は乳を震わせながら逃げた。
「……おぉ……それは災難でしたぁ」
優祢が訪れたのは、とある研究所。
この島での“乳格差”を研究している施設である。
“室長”と呼ばれる超巨乳少女に、一連の出来事を報告する。
「ところで、そのアプリは大丈夫でしょうかぁ……この場所と研究内容がばれると大変なことにぃ……(ふるふる)」
「はい、堺さんにこの場所の詳細は秘密にしてもらいましたから」
この場所では訪れても“優祢”は何も語らない、真っ白なカードが排出されるだけだ。
この島のひんぬー族は凶暴なのである、上陸される方は十分に注意されたし。
“乳と出会いとビジネスホテル ☆5”
“謎の施設 ☆?”
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「ここですね、懐かしいな」
ザジテン・カロナール(
jc0759)が訪れたのは海辺だった。
ザジの呟きに応えるかのように、スマホが震える。
『天界から初めて降り立った場所で、その夜は嵐でした』
『そこで偶然来ていた久遠ヶ原の職員さんに拾ってもらいました』
『その時に職員さんのお家で食べた塩おにぎり、とっても美味しかったですっ』
『今、僕が学校にいられるのは、その人のおかげです! 』
“ザジ”トークが終わるとカードが配布される。
白いローブ姿のザジが、波打ち際からあがりつつ喜びに満ちた顔で、雨降る大地を見回している絵だ。
「おお、かなりレアですね……生涯一度の思い出でしょうから」
亡命など、再び出来ないだろう。
大胆な事をしたものだと、感慨がこみ上げる。
ザジは商店街の肉屋で行列に並んでいた。
この時間、あげたてコロッケを求めて小規模ながら行列が出来るのである。
行列が進むのを待ちながらスマホをタップする。
『この商店街は、ほぼ毎日放課後に寄っているです』
『顔見知りの店主さんが時々おまけをくれたりするです』
『この間はお肉屋さんでコロッケを3個買ったら1個おまけしてくれたです!』
出たカードは、コロッケを頬張っているザジ。 ☆は1。
「う〜ん、平凡すぎましたか」
コロッケくらい誰でも食うのである。
ちょっと残念に思っていると、
「あら、ザジ君なのだわ」
顔を覗き込んできたものがいた、椿だ。
今日は斡旋所が非番らしい。
もう買い終えたらしく、肉屋の紙袋を持っていた
「うふふ、依頼ご苦労さま、あ〜んして」
「え?」
「おまけをもらったから、頑張っているザジ君にあげるのだわ」
椿は自分の紙袋からコロッケを取り出すと、ザジの顔の前に差し出してくれた。
顔が熱くなるのを感じながら、コロッケをかじる。
いつもよりお芋が甘い気がした。
斡旋所に戻ったザジは、堺に報告書を渡した。
そこに肉屋での思い出の内容を変えてもらうようお願いを書いておいた。
あの思い出は何らかの形で残しておきたかった。
堺は、報告書を眺めたまま無言だ。
「だめですか?」
「いいよ、これは変えておこう……ザジ君に譲る気はないけどね」
堺の返事の意味が、今のザジにはまだわからなかった。
“海に惹かれて人界へ ☆7”
“放課後の楽しみ ☆1”
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「楽しそうだから空中散歩にしようっと」
葛城 巴(
jc1251)は背に翼を広げ、大空へ舞い上がった。
最初の目的地は初めて受けた依頼の地。
豪奢な邸宅を眺めながら巴は語る。
「最初の依頼では晩餐会に出席して」
「ゴスロリ趣味の依頼主を励ましたり、アドバイスをしました」
「男装で依頼主やお人形や仲間を姫として丁重に扱って」
「初めてで緊張したけれど楽しかったなぁ」
語り終えた巴は、やや引きつった笑顔を浮かべた。
「こんな感じでしょうか?」
「そんな感じですが――巴さん、どうやったらスマホをこんだけ滅茶苦茶に出来るんですか!?」
アプリを立ち上げたものの機械音痴で操作法がわからない巴、
変な画面が出てしまいパニックになった。
元に戻そうといじっているうちに、怪しげなアプリを続々とDLしてしまい、どうしようもなくなって、堺をここへ呼び出したのだ。
堺が必死に復元作業をしている間、手持ちぶたさで気まずいので自分のアバターの物まねをしていた。
「元には戻しましたが、これだけ出鱈目にいじっているとなると身に覚えない請求も来るかもしれませんね」
「はい……」
渡されたスマホの画面には王子風衣装で微笑みつつ人形にケーキを差し出している巴のイラストが映っていた。 ☆は5つ。
「私的には、★7くらいな気分です」
堺と別れた巴は、公園に来てきた。
今は何もなく、散歩をしている人もまばらな公園。
だが巴には、思い出があった。
『ここは、前にガチャ祭りっていうお祭りが開催された場所です』
『ガチャ廃人どもの夢の跡です』
“巴”は少し毒舌が入っている。
『私は手芸品ガチャの店を開きました』
『女の子向けだったんだけど、彼氏が来てくれて』
『生命力をコインに変えて、ガチャりまくったんです』
『どうなったのかって?』
『きゃー!』
画面の中の巴、赤くした顔を横に振っている。
『手芸品も“私を1日使用人に出来る権”も根こそぎお持ち帰りされました!』
我がことながら微笑ましい。
カードイラストは、彼氏にお姫様抱っこされている巴の絵が描かれていた。
「よかった、本当に良い思い出でしたから」
巴は遠い目で空を見上げた。
幸せな時は、今も続いている。 だが、永遠ではありえない。 じきに終わりが来る。
「だからこそ、残された時を」
巴は歩き出した、今はまだ思い出が作れる時。
よりよき思い出を紡ぎ合える人の元へ。
“初依頼はゴスロリ ☆5”
“ガチャから出た思い出 ☆7”
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「このゲーム、学園生以外に売れンのか?っつー疑問はあるが校内新聞の記事にするにゃ、絶好のネタだぜ!」
学生記者、小田切ルビィ(
ja0841)はそんな理由で、依頼に参加。
最初の目的地である新聞部室へ向かった。
「なにをしているのかね」
部室近くで、誰かに話しかけられた。
スマホから目を離さずに応える。
「自分を客観視しているんだ」
小田切は自分が歩くと共に歩く画面の中の“ルビィ”を複雑な視線で見つめていた。
他者によりデフォルメ化された自分に様々な想いが湧いてくる。
「肝心な部分が、客観出来ていないじゃないか」
「え?」
「キミは今、歩きスマホになっているよ」
「あ」
慌てて立ち止まる。
画面の中のルビィは話をし始めていた。
『ここが俺の所属する新聞部の部室だ』
『俺は将来の報道大賞候補と呼ばれる期待の星だぜ』
『ここの部長はパンダだ』
『パンダが新聞部長をしているのを報じたら、受賞出来る気がするが』
『この島はこういう島なので記事にすらならねえ』
『理不尽だ……』
嘆息する“ルビィ”。
出てきたカードは、授賞式に臨む小田切の姿。 プレゼンターはパンダで、伝統あるメダルの代わりに笹の葉を渡されている。 ★3つ。
「不幸扱いされた上に低評価だな」
この島では、パンダが部長であることなど特にレアではないのだ。
続いて小田切、一件のラーメン屋を訪れる。
店には入らない、金がないからだ。
『ここは知る人ぞ知る、隠れた名店だ』
『そのラーメンは五つ星級!』
『だが、この店の素晴らしさは味だけじゃない』
『不治の病である“金欠病”によって俺が餓死しかけていた時』
『店主の慈悲によってラーメンを御馳走になったんだ。 一生忘れねェ…!』
号泣する“ルビィ”、見つめる小田切もかつての恩を思い出し、うんうんと頷いている。
だがタップをすると“ルビィ”の方の顔が一転して、怒りに満ちた。
『そんな店主と正反対な奴がいる』
『金欠病のくせに、スマホゲーに手を出しているお前!』
『画面の外にいるお前のことだよ!』
『そんな金があったら、金を払って飯を食え!』
『それが恩返しってもんだろ』
画面の中にいる自分に叱られ顔を青ざめさせるルビィ。
「いや、今日は依頼で……」
『言い訳してんじゃねえ!』
「はい」
自分の分身に叱られるというレア体験をする小田切。
出てきたカードも、今まさにこの瞬間を切り取ったような構図だ。
“パンダ賞受賞 ★3”
“貴方が深淵を覗く時 ★8”
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依頼翌日の斡旋所では報告書作成が行われていた。
「課金勢を叱るシナリオはどうなのだわ? 大事な顧客なのに」
「う〜ん、僕、ツッコミ体質なんでつい」
「堺くんも自分のキャラを入れて、自己を客観視するといいのだわ」
椿が堺にツッコミを入れるという珍しい風景である。
「そうですね、気づかせてくれた小田切さんに金一封あげときましょうか」
「このお金でラーメンを食べにいくといいのだわ」
小田切と巴、合計得点の高い二人にMVPである。
君たちもこのゲームに自己キャラを登録すれば、自分には見えていない自分が見えてくるかもしれない。