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マスター:スタジオI
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2016/05/30


みんなの思い出



オープニング


 激安デパート・リーズを覚えているだろうか?
 1年ほど前、久遠ヶ原島に出来た、あらうる商品を不自然なまでに安くうるデパートである。
 安さの秘密を探るべく、撃退士諸君にレポートしてもらったことは記憶に新しい。
 そのリーズが名を変え新装開店した。
 その名も、最高級デパート・リッチ。
 あらゆる商品を最高級ランクで扱う、デラックスでゴージャスな高級会員制デパートである。
 極端から極端に走っているのは、経営者の性格なので仕方がない。
 高いものには理由がある。 お値段が良いものは、やはりお値段なりに良いものなのだ。 
 このデパートで扱っている商品の素晴らしさを世に広めるべく、久遠ヶ原ケーブルTVは特別番組を編成した。
 学園生諸君には、今回もレポートをお願いしたい。
 まずは独身アラサー女子所員・四ノ宮 椿(jz0294)が先陣を切ってくれたので、それを参考にして欲しい。

「ここは一階食品売り場! 青果コーナーなのだわ!」
 女子アナ気取りのスーツ姿をした椿。 一つ一つが桐箱やら藤篭やらに入れられたお高そうなフルーツの並ぶコーナーでマイクを握っている。
「見て欲しいのだわ、このたたずまい! 扱いからして違いすぎるのだわ! いつも私が食べているカットフルーツが庶民の子なら、ここの果物はリムジンに護衛車つきで送迎される王子様のようなのだわ!」
 なんだかよくわからない例えだが、高そうな箱に厳重に梱包されている上、売り場には警備員がいて、盗まれないように見張っている。
 ただものではないオーラがフルーツひとつひとつから噴出しまくりで、ギュインギュインである。
「この季節はサクランボが美味しいのだわね、ここのサクランボは――ええーっ!?」
 椿レポーターの表情に衝撃!
 このデパートのサクランボ、五万久遠である。
 箱詰めで五万久遠ではない、一粒が、である。
「なんでこんなに高いのだわ!? 店員さーん」
 スタンバイしていた店員を呼び出す。
 むろん、ここまで台本通り。
「このサクランボ、お値段が良すぎる気がするんだけど?」
「まずは一粒、ご試食ください」
「試食OKなのだわ!?」
 サクランボは、漆塗りの盆にのった、名匠の手作りらしき和皿の上で赤い光を放っている。
「それでは、味あわせていただきます」
 手を合わせ、うやうやしくサクランボを口に含む。
 目を閉じ、頬に掌を当ててみせた。
「う〜ん、美味しい! 果肉に弾力があって、噛むと口の中に果汁が広がって! いつも食べているサクランボ味の味海苔とまるで違うのだわ!」
「はい、最高級ですので」
「これは、栽培方法も違うと見たのだわ」
「お客様、御明察です。 こちらのサクランボの木には与えている水は、水ではありません。 ランチタイムに1982年もののシャトー・ムーラン・ロイヤルランプを毎日与えているんです」
「シャトームー……?」
「最高級ワインです」
「えーっ! 水の代わりに最高級ワインを!」
「むろん、全欧ワイン協会公認のソムリエがお注ぎしています」
「サクランボの樹に公認ソムリエ様が注ぐなんて、贅沢すぎるのだわ!」
「それだけでは栄養が偏るので、ディナーには三ツ星レストランのシェフが気仙沼産の最高級フカヒレで作ったスープを与えています」
「ランチに最高のワイン! ディナーに高級フカヒレスープ! うらやましい! 私もサクランボの樹になりたい!」
 椿、衝撃で気を失いそうなほどフラフラする。
「一本あたりの樹に実がなる数が、通常と比べても極めて少ないのでこのお値段なのです」
「それが一粒たったの五万久遠! 納得のお値段なのだわ!」
 ハイテンションな声をあげて、レポートを終える椿。

 カメラを止め、売り場を去ると声を潜めて呟いた。
「あのサクランボ、別に美味しくなかったのだわ。 実が稀少なのって、変なもの与えているから樹が元気をなくしているんじゃないのだわ?」
 こんなしょうもない理由で高い商品もあれば、ちゃんとした理由で高い賞品もある。
 普通なら一生縁のないほどの高級商品。 憧れのあれこれを、お試しで体験出来る役得な依頼なので、是非、頑張ってレポートして欲しい。


リプレイ本文


 学園生たちに行ってもらう超高級デパート・リッチの生レポート。
司会進行役として、本日は椿がTV局のスタジオから中継する。
「まずは一階、生鮮食品フロア! 誰がいるのだわー?」

「キュウ!」
 元気よく答えたのは謎のラッコ怪人。 中身は鳳 静矢(ja3856)。
『ラッコ君、そこは何売場なのだわ?』
 こちらからは椿の姿が、ポータブルモニターごしに見える。
「キュウ! キュウ!」
 鳳はちゃんと喋っているつもりだが、キグルミに仕込まれたラッコ語変換装置によりキュウキュウとしか伝わらない。
 ホワイトボードを取り出し、ペンで人語を書く。
(私は今、幻の貝と言われるアラコスカ貝が売られていると聞いて此方に来ています )
『幻の貝? お高そうなのだわ』
「キュウ(99999久遠です)」
「ただのゴロ合わせなのだわ?」
 大きな二枚貝を店員から受け取るラッコ。
 じゅるりと涎をすする。
「キュウ……(これがアラスカ産でラッコの大好物のアラコスカ貝……)」
 寝そべって、愛用の石を取り出し胸の上で貝をコンコンする。
 割れた貝の中から、白亜の身がプルリと溢れ出した
 ひょこっと立ち上がり、食欲を抑えつつ震える手でホワイトボードに筆記。
「キ キュウ(試食させていただきます)」
 貝を啜るラッコ。
 口の中で咀嚼した後、突然、動きがおかしくなる。
「キュー!(うーまーいー!)」
 口から怪光線を放射しながら、ガクガシクィーンと回りだしたのだ。
 スタジオの椿が慌てる。
『ラッコ君大丈夫!? その貝、変な毒でも持っているんじゃ!?』
 心配をよそに二口目を食う。
「キュウシュー!(うーまーいーぞー!)」
 喜びのスキル“全力跳躍”で天井めがけて飛び上がる。
 ラッコロケットは、その勢いで天井に突き刺さった!
『ちょっと、ラッコ君ー!』
 シャンデリアのようにプランプランしているラッコ。 失神したのか反応がない。
『あの貝、怪しいのだわ。 検索してもアラコスカ貝なんて物、出てこないのだわ』
 謎の貝を食べたラッコ君の運命はどうなってしまうのか、答えはこの後!


『二階婦人服フロアには誰がいるのだわ〜?』
 椿が呼びかけると、現れたのは乳だった。
「おぉ……私ですぅ……こちらは高級インナーを扱っているお店ですぅ……(ふるふる)」
 激震する乳こと月乃宮 恋音(jb1221)である。
『恋音ちゃんが下着売り場? なんでそんな場所に?』
 不思議がる椿。 バスト197cmに合うサイズのブラがあるとは思えない。
「良いものが一つは欲しいのでぇ……」
『いや、そうじゃないのだわ』
 ツッコミもそこそこにレポート開始。 
 恋音は店に入り下着を見繕い始めた。 
 白のシルクブラを手に取り、女性店員に渡す。
「あのぉ……こちらをフィッティングしていただきたいのですがぁ……」
 ポップにはフィッティングとサイズ調整可能な定額サービス品とある。 書かれている以上はいけるはずというのが、恋音の判断だった。
 「ひょっ!?」
 変な声を出す年配女性店員。
 恋音の乳を見て笑顔を引きつらせる。
「お客様……まずはお胸の“お詰め物”をお外しいただいてもお宜しいでしょうか?」
 恋音の乳をリアルサイズだと信じたくないらしい。
 戸惑っている恋音を、試着室に案内する。
 カーテンを閉めたため、音声だけが聞こえる。
「そのぉ……これを外すと余計大変な事にぃ……」
 恋音は特製のさらしを巻いてサイズを抑制している。
 それでも、信じがたいサイズなのだ。
「お胸が貧しいのはわかりますが、そこまでお見栄をお張りにならなくともお客様は十分にお魅力的です、お若いのですからお自信をお持ちになって」
 店員は、恋音のさらしを外してしまった。
 とたん、ぼむんという破裂音!
 店員が試着室の外へと吹っ飛ばされた。
 圧縮から解放された乳圧は圧倒的! 伝説の乳王拳となって店員に襲いかかったのである。
 ふっとばされた勢いで顎が外れた店員は、倒れたまま眼球を交錯させている。
「れけえ……ほんろにれけえ」
「なんというかそのぉ……申し訳ないのですよぉ……(ふるふる)」
 シクシク泣きながら店員を介抱する恋音。
『なんでいけると思ったのだわ?』
 そのサイズでは、なんともならない。
 視聴者の声を、椿の呟きが代弁した。

 続いて隣の店。
「きゃはァ、たまには女の子らしく綺麗なアクセサリの紹介でもしてみようかしらァ♪」
 可愛いんだか、恐ろしいんだかわからない雰囲気を漂わせているのは、黒百合(ja0422)。
 ここは宝石店である。
 ガラスケースに入った宝石には、目玉がマシンガン連射されそうな値札がつけられている。
「これぇ……一千万久遠……?」
 黒百合がダイヤの首飾りを指さして店員に尋ねる。
「おやすいわねぇ……♪」
 にっこりと笑う黒百合。
「はい、お手頃価格となっております」
 オールバックの若い男性店員が笑顔で答えた。
 この店では一千万久遠でもリーズナブルな部類なのだ。

 店員の説明を受けた黒百合は、首飾りを手にカメラに向かって笑顔でアピールし始めた。
「この人工ダイヤモンドの首飾り、お値段一千万久遠! なぜ、こんな模造品が高級なのか? 実はこのダイヤモンドはとても貴重なのです!」
 撮影班がざわつく。
 黒百合が普通に喋っている!  
 あのねっとりとした不気味さと色っぽさの混濁した喋りではない。 まともな喋りも出来たのだ!
 しかし、説明が進むと雲行きが怪しくなってきた。
 首飾りを構成するダイヤを一つ一つ指さしながら、
「このダイヤモンドを所持した女性は未解決事件の犯罪に巻き込まれました。 このダイヤモンドを所持した男性は不治の病に犯され自殺しました。このダイヤモンドを所持した富豪は些細な事件で全財産を失いました 。そんな希少な経験を何度も何度も何度も経験したダイヤモンド達を集めたのがこの首飾りです!」
 明らかにやばい品である。
「このダイヤを買い取る権利をTVの前のみなさんに差し上げます。 まずは一千万! 一千万で買い取るという方はお電話を下さい!」
 なぜかオークションが始まった。 
 だが、電話はかかってこない。
 黒百合、つまらなくなったのかいつもの喋り方に戻る。
「いないのぉ……? じゃあ1万久遠でいいわぁ……♪」
 下がりすぎだろ! と撮影班がツッコんだが黒百合は意に介さず、なおかつ電話もかかってこない。
「じゃあ……もらってくれたら、逆に一万久遠払うわねぇ♪ このダイヤを扱った店って代々全部潰れてきたんで、早く手放したいらしいのぉ……♪」
 とんでもない品である。
 引き取り手など現れなかった。
「なら仮に私が預かるわねぇ……♪ 忘れたころに誰かに差しあげるからぁ……♪」
 恐ろしい品が恐ろしい人に渡ってしまった。
 果たして、どの依頼で誰が犠牲になるのか!?

 和やかかつ絢爛な空間に樒 和紗(jb6970)
 西陣帯、京友禅、江戸小紋や琉球紅型まで様々な品が取り揃えられている。
『すごく雅やかなお店なのだわね、和紗ちゃん』
「そうですね、俺の実家も呉服屋だったんで、こういうところは却って落ち着きます」
 俺っ子美少女、和紗。 長い黒髪は和の美における極致である。
「この店はいいものを取り揃えていますね、着物も数百万から数千万でも不思議ではない品揃えかと」
『よく目利きが出来るのだわね』
「実家の店にもこのクラスのは時々、並んでいましたから」
 スタジオの椿の声がワンオクターブあがる。
『和紗ちゃんってお嬢様? お兄さんいる!?』
「いても紹介しません」
 お嬢様属性に、アラサー独身女の食いつきは良かった。

「これは、浜ちりめんですね」
 和紗はカメラを連れたまま、薄青灰地の着物に歩みよった。
『お魚からそんな綺麗なのが出来るのね。 日本の技術って凄いのだわ!』
「ちりめんじゃことは違いますよ? これは花鳥風月、伝統的な加賀友禅です」
『食べられないの?』
「止めはしませんよ。 なお、お値段これです」
 値札をちらりとカメラに向ける。
『これだけあったら、一生ちりめんじゃこ食べ放題なのだわ』
「生地に世界最古の蚕の絹糸を使っているそうです。 発見されたDNAからクローン蚕を作り出し、それ故に少量しか糸が作れないそうです」
『虫のクローンか、ハイテクなのだわ』
「人間国宝の染めも美しい、それでも値は張りすぎですが」
 着物を眺めつつ、和紗は眉をひそめた。
「思い出しましたが、この作家は故人ですね」
『どういう事?』
「高いと思いましたが……クローンが作家の方もなら納得のお値段です」
『和紗ちゃんの発想が、黒いのだわ』

 隣の茶道具店では、木嶋香里(jb7748)が最高級茶道具店のレポートをしていた。
 翡翠色の色留袖に身を包み、茶室に正座してさらさらと茶をたてている。
『結構なお点前なのだわ』
 椿がスタジオから話しかけてきた。
「ありがとうございます」
 笑顔を浮かべる香里。
「さて、私はクイズを出させていただきます」
『いい演出ね、受けてたつのだわ』
「今のお茶、道具を含めて全く同じもの揃えを飲むとしたら総額おいくらほどかかると思いますか?」
『う〜ん、お茶の道具全部最高級品だものね? 三千万久遠くらい?』
「一億久遠です。 一億久遠あって初めてこのお茶が飲めるんです。 けれど茶筅も柄杓も手触りが全く違います。 お茶の色だって、ほら」
 自分がたてたお茶をカメラに移す。
 渋みと鮮やかさを兼ね備えた風情のある色をしていた。
「そして一番高いのが、こちらの茶釜! 正長年間の頃から伝わる最高級品なんですよ」
 香里が差し出した掌の先には、黒い円盤型の釜が煮えている。
『茶釜にしてはタヌキの手足が生えていないのだわ?』
「ふふっ、椿さん、童話が混ざっています。 茶釜は本来、お茶に使用する湯を沸かすための釜です」
『お茶にしか使っちゃいけないの? カップ麺にかけちゃだめ?』
「だめではないですが……」
「あんまり煮えない釜なのかしら? 電気ポットから九十度くらいのを入れちゃうと、麺が硬くていけていないのよね』
「カップ麺の食べ方はどうでもいいです……」
 椿相手に茶の心は理解させられなかった。

 さらにその隣にある婦人服店。 主にパーティ用のドレスを扱っている店である。
 サムライガール・不知火あけび(jc1857)がメカ娘・ラファル A ユーティライネン(jb4620)を連れて、ドレスを見繕いにきていた。
「まだかよ、女の買い物はなげえなあ」
「ラル、女の子だよね?」
 ラファルは、奥さんの買い物に付き合わされている旦那モードになっている。
「ドレスは、何回か着る機会があったけど、レンタルで済ませたから一着位は持っていたいんだよ」
「ここのドレスなんか買えるわけないだろ」
「それがとってもお安いんだよ。 見て、一万久遠均一だって!」
 ドレスはどれも質が高く豪勢で、そんな値段には見合わないものである。
「お買い得だよね、バーゲンなのかな?」
「……お前、ちゃんと読め、一万久遠均一なのは“試着”だ」
「ええ?」
 ポップをよく見ると、確かに一万久遠均一の文字の横に“試着”と書かれている。
「ど、どうしよう、さっきから試着しまくりだよ」
「耳揃えて払えよ」
 ポンチ目になってアワアワ言っているあけび。
 勢いでもう、二十四着も試着してしまった。
「一着だけならおごっちゃる、あとはこの店で働いて返せ」
「そんなー!」
 本来二十四万久遠払うべきところであるが、宣伝番組の撮影ということで今回は免除してもらった。

「ふう、とんでもない罠だったね」
「ほとんど詐欺だろ……。 そもそもなんで服ってのはこんなに高いんだ? たかが布きれだろ」
 小さめのハートカップがついた、半袖のAラインドレスを手に取るラファル。
 上品な印象だが、値段は試着200回分である。
「これはね、フランスのリバーレースだよ」
「こんなの着て川下りするのかよ? フランス人はイカレてんな」
「違う! そのリバーレースじゃない!」
 どうにも、会話が噛み合わない。
「もう懲りただろ? 次は俺のお目当ての店だ、付き合えよ」
「何のお店?」
 二人はエレベータに乗り、別の階へと向かった。

「さいきょーのあたいに相応しい洋服を見つけないとね!」
 雪室 チルル(ja0220)は、二階を歩き回っていた。
 いつも改造学生服姿のチルル。 さいきょーのじょしこーせーとしてはそれもどうかと思い新しい服を探しに来た。
「どこもかしこも可愛いのばっかりね! だめだめ! あたいはさいきょーにかっこよい服でないと」
 可愛いと一部の大きなお友達から人気のチルル。
 だが、本人的にはかっこよくないとだめらしい。 
『甥っ子が同じこと言っていたのだわ、五歳男児並みの自己認識なのだわ』
 椿につっこまれつつも、服屋を歩き回るチルル。
 ついにお気に入りの服を見つけた。
 ダークグレーのジャケットとズボンのセットだ。
「これよ、こういうのでいいのよ、あたいは!」
 それを手に取るが、値札を見て驚く。
「五百万久遠! なんでこんなに高いのよ?」
 値札の裏を見ると“伝説のライダー愛用品”と書いてあった。
「本当に着ていたものなの! それならうなずけるわ、あのライダーは45年経ってもさいきょーだもの!」
 ぜひ欲しいと思うチルル。
 だが五百万久遠では買う術がない
「せめて試着よ」
 TV局に一万久遠払ってもらい試着したチルルだが、全然、サイズが合わない。
 歴代ライダーさんたちは、体格がよろしいのだ!
「うぅ、待ってなさいよ! さいきょーに大きくなって着こなしてやるんだから!」
 捨て台詞を残して去っていくチルル。
 チルルが大きくなるまでにジャケットが売れ残っている可能性は、低い。

 婦人服売り場の一角で、アルティミシア(jc1611)がレポートをしていた。
「このボディスーツは、素晴らしい物です」
 マネキンの前でカメラに向かって喋っている。
 マネキンが着ているボディスーツを紹介しているのだ。
「サイズがと言うものが、存在しません。 こちらの大柄なマネキンが着てるものと、ボクが着てるものは、全く同じものです」
 アルティミシアは小学校低学年並の体型、対してマネキンはいわゆる高身長モデルである。
『まあ、本当に!?』
 適当な合いの手を入れる椿。
「特殊素材で作られたこのスーツは、首元のボタンで、体ぴったりに、圧縮されます。 体を締め付けず、ボディラインを、崩しません。更に耐熱耐寒、防刃防弾耐衝撃。通気性抜群で丸洗い可能。 此が一着十五万久遠です」
『その長台詞を丸暗記したの? アルティミシアちゃんの記憶力しゅごいのだわ』
 椿は変なところで関心している。
「どんな体型の方にでもフィットします、自信を持ってお勧め出来る商品です」
 ドヤ顔で言いきるアルティミシア。
『ん? 今、どんな体型の方にもって言ったのだわね』
 椿が、悪戯っぽい声をあげた。

「おぉ……大丈夫でしょうかぁ……?」
 アルティミシアと同じボディスーツを押し付けられたのは恋音。
 椿が面白半分に試着役に押し立てたのだ。
『爆殺ボディの恋音ちゃんが着られれば、商品の性能が実証出来るのだわ』
「爆殺ボディ……(シクシク)」
 恋音はいやいやながら、ボディスーツを持って試着室に入っていった。

 数十秒後、試着室から悲鳴があがった。
 ボディスーツを着込んだ恋音が、試着室から飛び出してきた。
「あ、足元から誰か出てきましたぁ……?」
 撮影班が駆けつけると、そこにいたのはラッコ!
 床に空いた穴から首を出して、辺りを見回している。
「キュウ?」
 このラッコ、一階で全力跳躍して天井に突き刺さった鳳である。
 元々は激安デパートの建物。 床と天井の間が薄いのでこうなったのだ。
 撮影班、事情を一階のスタッフに確認。 穴にはまっているラッコを取り囲む。
 辺りから和紗、黒百合、チルルを呼び寄せた。
「なるほど、真上が婦人服売り場だと知っていて全力跳躍したわけですか」
「あはぁ♪ 計画的犯行ねぇ……♪」
「キュウ!キュウ!(違う! 違う!)」
「弁解の余地なしなのよー!」
 エロラッコ、穴にはまって動けないままぼこぼこにされる!
「キュウ?(なぜこんな事に)」
 運命を嘆くラッコ。

 そんな様子を、恋音はふるふるしながらその様子を見ていた。
「おぉ……?」
 胸のあたりでビリッと音がした。 
「ボディスーツがぁ……!?」
 ボディスーツに圧縮されていた恋音の胸がジッパーを突き破った。 
 最新技術による超圧縮で抑えこまれていた胸が、その反動で膨張!
 二十倍の乳王拳がラッコをデパートの外へと吹っ飛ばす。
「キュウーー!?」
 数日後、エベレストの山頂付近でラッコ型のUMAを見たという報告が出たが、真偽は明らかでない。


 三階紳士フロアは全員スルー。 久遠ヶ原に紳士はいない。


 四階、チャイルドフロアには普通の子供がいた。
「わ〜、いろんなマジックの道具があるな〜、すごいな〜、かっこいいな〜」
 無邪気な子供みたいな恰好をしているが、どう見てもエイルズレトラ マステリオ(ja2224)である。
『なにをしているのだわ、エイルズくん』
 椿が話しかけてもエイルズは完全にスルー。
 マジック好きな、ただの子供を装い続けている。
「わあ“鳩が出てくるシルクハットキット”だって? 欲しいな〜! ん? “このキットに鳩は入っていません”1/144のアニメプラモみたいだ〜」
『そんな古い事を知っているだなんて、さすがはエイルズレトロ君なのだわ』
 今日日のHGやMGにはそんな事は書かれていないのだ!
 エイルズ、ツッコミにめげない。
 どこかの頭は大人な探偵の如くお子様を演じ続ける。
「このトランプは? なになに“表が裏、裏が表のカードが一枚混ざっているから探してみてね”」
 メッセージポップにはそう書かれていた。
 一見、普通のトランプが棚に置かれている。
「表が裏で裏が表、何て珍しいんだろう!」
 感心した顔を作りつつ、トランプをカメラにかざすエイルズ。
 だが、カメラが止まるとふと顔を曇らせる。
「表が裏で裏が表……妙だな。 それって普通のトランプとおなじじゃないですか?  詐欺まがいというより完全に詐欺ですね」
『表が裏で裏が表ねえ。 もともと、昭和の漫画にあったネタなのだわ』
「椿さん、僕は一応、素でも若いんです」
 アピールするが、どうにも感性がエイルズレトロなエイルズレトラだった。

 同じくおもちゃ売り場。
 ここに素でもあんまり若くない人がいた。 
 小宮 雅春(jc2177)二十九歳。 
『それでも私より二歳若いのだわ』
 ふてくされたように言う椿。
「まあまあ、お人形さんを見て童心に帰りましょう」
 小宮は苦笑しながらカメラを手招きした。
 熊や兎など様々なぬいぐるみたちが暮らす大きなドールハウスの前だ。
『ドールハウスね、大きいのだわ! ホテルみたい』
「はい、このデパート自慢のドールハウスです。 近年ではぬいぐるみを図書館へ一泊させ、“ぬいぐるみお気に入りの一冊”を貸し出す“ぬいぐるみのお泊り会”なるものがあるそうで、こちらはそれをイメージしたものですね」
『子供がいないから、そーゆーのわからないのだわ』
 シクシクと涙を流す椿。 ついでに旦那も彼氏もいない。
「ははっ……とりあえずご覧ください、こちらのぬいぐるみ」
 高級そうな毛並の熊ぐるみを示す小宮。
「ブルジョワの香りがしますね! こんな子が“お泊り会”に現れたら、周りの子が跪いて崇め奉ること受け合いですね!  この子たちは職人が一つ一つ丹精込めて作った逸品、同じ物はこの世に二つとないのです! シリアルナンバーがふられています」
 ぐぬぬと唸る椿。
『ぬいぐるみ如きに負けていられないのだわ! 私にだってシリアルナンバーがふられているのだわ! ほらほら!』
「椿さん、マイナンバーカードをTVに晒すのはやめて下さい。 個人情報ダダ漏れです!」
 メルヘンチックなドールハウスのレポートは、まったくメルヘン要素のないまま終わった。

 CDショップにはアイドル撃退士の川澄文歌(jb7507)がいた。
「はーい、皆さん♪ 今流れている曲、お聞きになれますかー? 川澄文歌さんの“マホウ☆ノコトバ”という曲なんです♪」
『店の宣伝のふりして自分の曲を宣伝とは、相変わらずあざといのだわ』
 椿の呟きをよそに文歌は店の紹介を続ける。
「こんな素敵な“マホウ☆ノコトバ”を含め様々なCDが置いてあるこのお店ですが、普通のCD屋さんですと、千久遠とか三千久遠で買えますねー。 ところがこのお店では同じものを一万久遠から、一千万久遠で取り扱っているんです♪」
『お財布に厳しすぎるのだわ!』
「椿さん、ちゃんと理由があるんです! ショップ特典が凄いんです!」
『どう凄いのだわ?』
「例をあげますね♪ アイドルと一緒にカラオケが出来る権!  アイドルの手料理が食べられる権! アイドルと1時間のデートが出来る権! アイドルのレッスンを見学できる権! アイドルのライブを一人で鑑賞する権! アイドルの前でライブを行える権!」
『最後が地味に気になるのだわ』
「目の前で痛芸されて精神汚染された子が……あわわ。 みんな、買ってくれるよね☆」
 流れをガン無視したウインクで撮影終了。

 カメラが止まったあと、椿が小声で話しかける。
『そのお店大丈夫なのだわ? さっきから怪しげなおじさんたちがうろついているけど?』
 文歌も小声で答える。
「あの人たちはアイドル事務所の社長です。 自分のポッケにお金を入れるためにこのお店を作ったらしいですよ? この特典に従わないアイドルはセンターを降ろされたり、干されたりするらしいです」
『横暴なのだわ』
「引き続き、捜査します」
 びしっと敬礼。
 激安デパート時代にここで行われていた違法行為を暴いて逮捕という名のバックドロップを食らわせた文歌。
 今は、プロレス修行をしてNBDでブイブイ言わせている身。 今度の逮捕はバックドロップじゃすまない!


「前の格安店の方が遥かに良かったのに……」
 ぶつぶつ言いながら五階を歩いている銀髪幼女・雫(ja1894)。
『ぐうの根も出ない正論なのだわ』
 まだ収録前なのをいいことに、椿とヘイトを共感しあう。
『前回、雫ちゃんはどのお店に行ったんだっけ?』
「刀剣店です。 ……同じ場所にまだありますね?」
 激安デパートと同じ場所に、刀剣店があった。
 雫はここで再びレポートをすることになる。

 カメラが回り、収録開始。
 店の場所は同じでも、内装は大きく変わり荘厳な雰囲気となっている。
 刀も一歩日本が防犯装置付きの立派なガラスケースに入れられている。
「成程、前回の時とは違い無名の刀匠では無く、人間国宝に指定された人の作を販売しているのですね」
 じっくりと刀を眺める。 
「今回のは、刃の輝きがまるで違いますね……まあ、値段も天と地ほどの差がありますが」
『RPGでラスダンに入る前の、最後の町で売っている武器くらいの値段なのだわ』
「集めたアイテムを、全部売り払って買い揃えます」
『でもラスダンには伝説の武器が落ちているから、高い割にすぐ使わなくなるのだわ』
「コスパ最悪です」

 収録を終え、カメラが止まった後、また雫がぶつぶつ言い始める。
「ここの店主は何を考えているんですか? 刃物自体の質は文句の付けようは無いですし、ナイフや包丁を打たせてるのも時代的に問題は有りませんよ。 ですがね……柄や鞘部分に張り付けた宝石等はなんですか!? あれのせいで持つと痛いし、彫り込まれた絵柄のせいで悪趣味な一品に成り下がってますよ」
『雫ちゃん、ストレスを溜め込むと白髪が増えるのだわ』
「元々、銀髪です」

 続いても元々、銀髪なRehni Nam(ja5283)。
 こちらがいるのは包丁などを扱う金物屋。
 雫がレポートをした刀剣店・孫七とは隣り合わせの兄弟店である。
『銀髪でひんぬーだと思考が似るのだわ?』
「なにを言っているですか、フシャー!」
 レフニーは猫耳を逆立て、インカムの向こうの椿に向かって吠えかかる。
『どうどう。 レポートのお時間なのだわ』
「いじいじ、これだから巨乳は」
 いじけながらも、カメラを連れて店に入るレフニー。
 金物店らしく、色も形も様々な品が並んでいる。
 普通と違うのは、画面越しにも伝わってくる金属の質感である。
「良いものなのはわかりますが、私には手の出ないお値段なのです」
 店の中を見回るレフニー。
 ふと、ある場所で足を止める。
「お、これは今度買っても良いかもしれないですね」
 目を付けたのは、桐箱に入れられ袱紗に包まれた包丁である。
 お値段は三万久遠。
レフニーはこれを実演PRすることにした。

『包丁にそんなお金を掛けたくないのだわ』
 椿がレフニーが用意した台本を読む。
 レフニー、まな板の前でチッチッと指を横に振る。
「ノン、ノン! それは大間違いです。 この孫七包丁は、全て関の刀匠が一本一本丁寧に全霊を込めて鍛え上げた逸品! 肉も魚も野菜も果物も、全部これ一本で大丈夫! どうですか、この鮮やかな切れ味」
 包丁を手にしたレフニーは、まな板の上の鮮魚を骨ごとバスッと切った。
『大マグロを真っ二つに!』
「きゅうりを輪切りにしている時、包丁にくっ付いて困った覚えはありませんか? この孫七なら心配ご無用!」
 たたたん、とテンポよくきゅうりを切る。
 続いては大根。
 二つに切った大根を切断面同士で合わせた。
 そのまま片手で持ちあがると……落ちない!
 切断面の細胞組織が潰れていないので完全に元通りになるのだ!
『凄い! 指を切ってしまっても医者いらずなのだわ!』
「しっかりした鍛造品だから、一生どころか、娘や孫、そのまた子孫まで引き継げる逸品です! 今なら砥石付き!」
『子子孫孫まで使えて三万久遠はお得なのだわ!』
「お買い上げは、孫七リッチ店までー!」
 レフニーは笑顔で〆た。

 撮影終了後。
『完璧だったのだわ、レフニーちゃん』
 椿に褒められ、イケメン風に銀髪をかきあげる。
「ふっ、お任せあれ……ところで」
 包丁を握りっぱなしのレフニー、なぜか目つきが怪しくなっている。
「なんだか乳が切りたくなってきたのですよ」
『え、まさか』
「シノミヤさんのそれ、狩らせてもらえませんか?」
 レフニーが指さしたのは画面の向こうに揺れるGカップ。
『ひえー、妖怪・乳置いてけがまた出たのだわ!?』
 妖怪・乳置いてけ。 
 それは乳を狩る妖怪。
 久遠ヶ原に漂うひんぬーの怨念が、レフニーに憑りついて生まれる。 “包丁”や“巨乳”が覚醒のトリガーになる、などの仮説が立っているが、そうではない場合も多く、謎の存在である。
「置いてけー、乳置いてけー」
 妖怪・乳置いてけがデパート内を徘徊し始めた。
「なあ!? お前巨乳だろー?」

 番組続行。
 今度は蓮城 真緋呂(jb6120)付の撮影班と通信を繋ぐ。
「レストランへ行くと思ったか、残念だったわね!」
『まだなにも言っていないのだわ』
 繋いだとたん、真緋呂に意味不明なドヤ顔を向けられた。
『今、真緋呂ちゃんがいるのはどこなのだわ?』
「楽器店よ」
 真緋呂の周りには管楽器やら弦楽器やら様々なものが並んでいた。
 それらの放つオーラは、普段目にしているものと違う。
 歴史上の偉人をさえ思わせる威厳を醸し出しているのだ。
「見た目も偉そうだけど、値段も偉いものね、普通の高級品より一桁高い気がするなぁ……何このヴァイオリン、十億って」
『本日の最高値商品きたのだわー!』
 店の中央台座に鎮座するこのヴァイオリン。 なんと十桁価格!
『なんでそんなにするの?』
「確かに高級ヴァイオリンで十六億の値がついたケースはあるけど、それオークションだし」
 真緋呂は説明書きを読み、お値段の秘密を探り出した。
「ふむふむ、弓に欧州ダービー優勝馬の毛を使用してるのね、でもそれだけでこの価格?」
 真緋呂が首をかしげた時、奥からかすり着物姿のお婆さんが出てきた。
「値段の秘密は儂だ」
『ヴァイオリン買ったらお婆さんがついてくるの? 嫌なのだわ』
「私もいや」
 揃って首を横に振る椿と真緋呂。
「そうではない、儂はいわゆるイタコなんじゃ」
「死者の霊を呼び出す、あの?」
「そうじゃ、儂の霊媒でモーツァルトを呼び出し、演奏を教えてやるというサービスじゃ」
 あまりにもトンデモな発想である。
「ヴァイオリンの方までインチキ臭く見えてきたわ」
「むむ、信じぬというのなら特別に今、モーツァルトを儂におろしてやろう」
 合掌し、にゃぬにゃぬと呪文を唱え始める
 そして数分後。
「こんにちは! モーツァルトです!」
「本当にモーツァルトがきたわ!?』
 顔面蒼白になる真緋呂。
『いやいや、モーツァルトがなんで日本語の挨拶するのだわ!?』
「XXXXXXXX! XXXXX!」
「ドイツ語よ、ドイツ語! どうしよう、せっかくモーツァルトが演奏を教えてくれるのに私、わからないわ!」
『真緋呂ちゃん、これはただの津軽弁なのだわ』
 真緋呂は、割といいカモだった。


『六階インテリアフロア。 まずは、この夫婦なのだわ』
 銀髪の若夫婦、浪風 悠人(ja3452)と浪風 威鈴(ja8371)夫妻である。
「ここ……前に行った……デパート……と違う……の?」
「女児ワンピの恨みは忘れてないぞ店員!」
 この二人は激安デパート時代にご来店。 悠人は、女児用ワンピをカメラの前で着せられたという黒歴史があるのだ。
「今日は、心配ないですよ。 なにせ眼鏡屋ですからね」
 二人の周囲には、眼鏡フレームの並ぶ棚がある。
「……悠人……眼鏡……変える……の?」
「そろそろ新しいフレームに新調することも考えているからね」
 フレームの棚を眺める悠人。
 威鈴は、その隣でガタガタ震えている。
「悠人…の本体? 沢山…」
「眼鏡が本体じゃない!」
「……フレーム変えたら……悠人……別人になっちゃう?」
 涙目で悠人を見つめる威鈴。
 極端な世間知らずなのだ。
 そんな夫婦の会話を聞いていたのか、背後から派手な色つき眼鏡をかけた熟年女性が話しかけてきた。
 
「ンマーッ! ユニークなご夫婦ね!」
「……また変なのに絡まれた」
 蒼然とする悠人。
「……悠人の……不憫体質?」
「あなたたちお似合いよ! せっかくだからうちのお店の眼鏡をご夫婦でどう?」
 この女性が、どうやら店長らしい。
「威鈴は目が悪くないんです」
「なら、ファッション眼鏡よ!」
「でも、お金が」
 この店も例外ではなく、値段がお高い。
「ならこういうのはどう? うちの眼鏡をご夫婦でかけて番組で紹介してくれたら、久遠ヶ原ケーブルTVさんのスポンサーになってあげるわ! うん、素敵なアイディア!」
 この手の提案に地方TV局が逆らえるはずもなく、企画実行。
 二人はカップル用眼鏡のモニターをさせられた。

「まずはこれ! これかけてね!」
 椅子に座らされた二人。 まな板の上の鯉状態。
 店長が勝手に背後から眼鏡をかけてくる。
「人間関係を円滑にする眼鏡よ」
「なんすかそれ」
「作り笑顔を浮かべても“目が笑っていない”って言われる事はない? それを防ぐための眼鏡なの」
 鏡で自分の顔を見る二人。
 この眼鏡はレンズ部分に、にっこり笑った目のイラストが描かれている。
 口元さえ微笑ませれば、確かに目まで笑った笑顔になる。
「いやいや、これかけて人と会う時点で人間関係破壊する気満々ですから!」
 ツッコむ悠人。
 威鈴は、残念そうに溜息をついている。
「……これだめ……まつげ……長すぎ」
「ツッコミどころ、そこ!?」

「こちらは?」
 次の眼鏡をかけてくる店長。
 モノクロームタイプの眼鏡だ。 メカニカルなデザインである。
「これ……どこかで見たことありますよね?」
 げっそりした顔になる悠人。
「相手の力がわかる眼鏡よ。 まだ開発中だから数字は表示されないんだけど、強い人が近くにくるとボンッて爆発するの」
「それ欠陥商品ですよね! 爆片が目に入ったら失明しますよね!?」
 威鈴はじっと鏡の中の自分を見つめている。
「……服も欲しい……肩ガードつきの……旧タイプ」
「威鈴気に入ったの!?」

「最後はこれ、愛が深まる眼鏡よ」
 フレーム的には普通の眼鏡である。 だがレンズに写真が入っている。
 悠人のものには威鈴の写真。 威鈴のものには悠人の写真。
「“あなたしか目に入らない”という表現なの」
 かけていると確かにパートナーの写真しか見えなくなる。
「視界、封じてますよね? 生活、成り立ちませんよね!?」
「……悠人……この顔……変」
 威鈴がかけている眼鏡にプリントされた自分の姿に、悠人は勘付いた。
「あ! この写真、俺の免許証のやつだろ! 勝手に人の財布から抜き取るな、そして加工するな!」
 全方位にツッコむ悠人と、天然でボケる威鈴。
 息のあった夫婦の、素敵なお買いもの風景だった。

 通路を二人の少女が歩いていた。
 肌が黒い方の少女は天願寺 蒔絵(jc1646)。
 白い方が咲魔さとり。 本名は咲魔 聡一(jb9491)。
 今はなぜか女装し、花と大地の魔法少女姿になっている。
「わっ、カメラ!」
 撮影班が来たのを見て、蒔絵の背中にかくれるさとり。
「だーめ、何でもする約束でしょ? 」
 ドSなことを言いつつ、さとりの姿をカメラに晒す蒔絵。
 ポータブルモニターの中から椿がねっとりと尋ねる。
『ん? 今何でもするって言ったのだわよね?』
「言うと思いましたよ、椿さん!」
 ポータブルモニターを強制的に切る。
「さとりちゃん、口調が元に戻ってるよ♪ 麻雀で勝った約束だからね、女の子同士のショッピングと洒落込もう♪」
「あ〜、変化の術なんか覚えるんじゃなかった〜」
 咲魔は罰ゲームで女装しているのだった。
 こんな二人が選んだお店は?

 雑貨屋とブティックをミックスしたオサレ系のお店。
「蒔絵ちゃん、スゴイよここ。高級なオーラがビンビンだよ。 私たちみたいな若輩者が来るべき場所じゃないよ 」
 高級感に動揺するさとり。
 冥界で迫害されていた層出身なのでこういう雰囲気には弱いのだ
 一方、蒔絵はそんなことまったく気にしていない。
「さとりちゃーん、これ着て♪」
「ゼッタイこんな気軽に試着していい服じゃないよ、店員さんスゴイ見てるよ」
「やっぱりさとりちゃんはクラロリが似合うよ!次はこっち着て着てー」
 さとりを着せ替え人形にして遊んでいる。
 高価な服を着た女装姿の自分。 もう、自分が何をしているのかわからなくなりかけていた。
「雑貨の方見ようよ、何かプレゼントするよ!」
 財布を犠牲にそう宣言。
 さとりは、ようやく着せ替え人形からジョブチェン出来た。

 二人は、スチールで出来ている缶型の貯金箱を見ていた。
「百万久遠溜まっている貯金箱か……。 溜まってる? 溜まるではなくて?」
 手で持つとずっしり重くジャラジャラいう、すでに硬貨で百万円が入っているらしい。
「お値段百二十万久遠」
「一見、お得感があるけど、お得じゃないね」
 商品を見て回っていると、蒔絵が見覚えのあるものに目を止めた。
「あれ、お師匠様の作品だ」
 蒔絵の師匠は木工職人である。
「へ〜、なんなのこれ?」
 見た目は三角錐型で錘の入った木である。
「ペーパーウェイトだよ。 わかりやすいように言うと文鎮かな」
 言われてみればとさとりも納得する。 
「七万久遠か〜、コインが入っているわけでもないよね」
「ふわぁ、高っかーい!さすがおししょーさま、プロになると違うんだねえー」
「こんな繊細な彫刻…やっぱり難しいんだろうね」
 話を合わせるさとりだが、内心では他に心辺りがある。
(弟子が壊しまくってるからこんなに高いのでは……?)
「そうだよ、難しいんだよ! 撃退士のパワーがあると尚更! あたしなんてもう何度も壊してるんだから!」
 蒔絵は自分が原因だと気づいてもいない。
「はあ、僕が蒔絵さんの手を押さえておく文鎮にならないとだめだな」
「ん? なんか言った?」
 蒔絵の追及をかわしていると、今度は椿がモニター越しに割り込んでくる。
『咲魔君! さっき何でもするって言ったのだわよね?』
「まだ、こだわっているんですか!?」
 己に宿る女難の相を実感しながらも、さとりは蒔絵とのショッピングを楽しむのだった。

「お花屋さんをのぞいてみるのですぅ〜。 少し遅れですが、お母さんにカーネーションを贈るのですよぉ〜」
 母の日の盛況から一息ついたお花屋さんに入る深森 木葉(jb1711)
 和服姿に大きなリボン姿の幼女である。
「おおぉ〜、色とりどりのお花がいっぱいですぅ〜」
 店内には季節の花に加え、ハウス栽培などで咲いた花が並んでいる。
 それぞれにあった環境で保存され、年間通した花が咲き誇っているのだ。
「一、十、百…。一万久遠ですかぁ……きれいな花束ですけど、一万久遠」
 カーネーションの大きな花束を前にお財布を開き、むむむっと悩む木葉。
 若い女性の店員が話しかけてくる
「お客様、失礼ですがこちら一輪がこのお値段となっております」
「えっ?」
 木葉、目が点になる。
「一輪一輪専用のハウスで育てておりますので」
「花一輪のごとにおうちを? 凄いのですぅ! 一人暮らしなのですぅ!」
「毎日、最上級のお水と肥料を与え、一輪に一人、警備員を常駐させています」
「それで一万はお安すぎるのですぅ! 謎の価格破壊なのですぅ!」
 あまりの驚きに木葉、ぴょんぴょん飛び跳ねっぱなしである。
「母の日が遅れたおわびに最高のカーネーションを買ってあげたいですぅ……あと椿ちゃんにも……二輪だから二万久遠」
 ガクガク手を震わせながら財布からお金を取り出そうとする木葉。
『無理しなくていいのだわ、木葉ちゃん!』
 その様子があんまり可愛そうなので椿がストップ。 TV局の製作費から出してあげることになった。
「わー!ありがとうなのですぅ。 じゃあ、お母さんには白いカーネーションを」
 その花言葉は『あなたへの愛は生きている。亡き母を偲ぶ』である。
「畏まりましたお客様。 白いカーネーションに鈴はお付けいたしますか?」
「鈴?」
「はい、転生のことを英語でリィンカーネーションと申します。 鈴のついたカーネーションを亡き母に送り続けていると、大人になって自分が母親になった時、母の生まれ変わりを子として授かる……そんな伝説からそう呼ばれるようになったそうなのです」
「お母さんが、私の子供に?」
 木葉が驚くと店員は寂しそうに笑った。
「あまり本気になさらないで下さい。 実はいくら調べても根拠となるそのものは出てこないのです。 私の父の作り話なのかもしれません。 私も幼い頃に母を亡くし、悲しみで、人に心を閉ざした時期があったのです」
「お姉さん……」
 木葉は撮影班が去ってもお花屋さんの店員と、お話をし続けていた。


 七階レストランフロア。
 ここには初々しい大人のカップルがいた。
「この局では初公開だな! 俺の彼女、沙羅だぜ!」
「お初にお目にかかります、よろしくお願いいたします」
 金髪グラサンイケメン、ミハイル・エッカート(jb0544)の隣に、髪の長いふんわりした雰囲気の美女がいる。 真里谷 沙羅(jc1995)だ。
 二人ともアラサーだが、出来立てのカップルである。
『ミハイルさん、彼女獲得おめでとーなのだわ!』
 スタジオから椿が祝辞を送る。
『さんきゅ! 椿もがんばれよ!』
 同い年だが、椿は相変わらず独り身である。
 その目がギランと光った。
『ミハイルさん、ちゃんと彼氏とは別れたのだわよね?』
 とんでもない問いかけが飛んできた。
「何言ってんだ、お前!?」
『だって、彼女が出来たということはそういう事なのだわ』
「いねーよ! 俺はノーマルだ! ホモキャラは噂が独り歩きしただけだ!」
 沙羅がじっとミハイルを見つめた。
「ミハイルさん、いつか話したくなった時にゆっくり話してくれればいいんです。 私はずっと待っていますから」
「沙羅も無駄な包容力を発揮するな!」

 お付き合い記念にTV局がディナーデートを用意していてくれていた。
 ハイソなレストランの見晴らしのいい窓辺の席に座る。
 すると、給仕に紙を一枚ずつ渡された。
「お客様、申し訳ございませんが、こちらの用紙にご記入ください」
 アンケートである。 好きな食べ物や嫌いな食べ物を記載する欄があった。
「それぞれに合った料理を作ってくれるということですね」
「さすが最高級、気の利いた趣向だぜ」
 ミハイルは嫌いな料理欄にピーマンと書いた、筆に迷いがない。
 やがて給仕が前菜を料理を運んできた。
メインは肉料理。
 運んでくるときに給仕が料理名を伝えてはくれたが、どれも母国語名。 ミハイルと沙羅には理解出来なかった。
「何料理かわからんが、どれも旨いな!」
「はい、自分でも作ってみたく思います。 レシピを教えていただけたりしないでしょうか」
 お会計の時に沙羅が頼んでみると、嫌な顔一つせずレシピを渡してくれた。
 
 店の外でそれを沙羅が広げる。
「え〜と“最高級絶品料理、プロの秘伝レシピ〜君にこのレシピを使いこなせるか〜”とありますね。 いいサービスです」
「出来そうか?」
「準備1:まず肉を用意します。 それをボババンバ族のシャーマン長に渡し、神に祈りを捧げる事で肉素材は完成します……だそうです」
「どこの部族だよ!?」
「グンマーらしいですね」
「大秘境じゃねえか!」
「だからお高いのでしょうね」
「見せてくれ」
 ミハイルは沙羅からレシピを受け取り、隅から隅までを読んだ。
「う、うそだろ!?」
 その顔が真っ青になる。
「どうしました?」
「苦手克服コースって書いてある。 全部にピーマンが入っているじゃねえか」
 ディナーデートは番組の仕込み。 ピーマン嫌いなミハイルにそれを食わせるための罠だったのだ。
 ミハイルの青い瞳が潤んだ。
これほど嫌いとは沙羅もびっくりである。
「ううっ……帰りにプリン食っていかないか」
「プリンですか、今のお店のメニューには十万久遠と書かれています」
「なんでそんなに高いんだ!?」
「材料に、ボババンバ族が産んだ卵を使っているそうです」
「ボババンバ族、卵生なのかよ!?」
 

 放送終了後、数人の姿が確認出来ない事に椿が気づいた。
 一階から七階までを調べたが、学園生はもういない。
『あら、このデパート屋上があるのだわ?』
 七階までのレポートで終わる予定だった番組。 だが、その上にある屋上に向かったものがいるのである。

 デパートの屋上にあがると軍事基地のような小屋があった。
「なんでこんなものが?」
「準軍事用だからな仕方ねえんだ」
 いぶかしむあけびをよそに、平気な顔で店に入るラファル。 
 あけびのカクテルドレスを見たあと、二人が来たのがラファルのお目当て店である。
 ドアを開けると、その向こうの光景にさすがの侍ガールも声をあげた。
「手とか足が売ってるよ!?」
 店棚に人間のものと思われる手や脚が整然と並べられているのだ。
「指や掌の皺まで再現されてる、凄い技術だけど少し怖いよ」 
 猟奇殺人犯の部屋かとすら思える光景である。
 しかし、ラファルは平気な顔。
「義体専門店だ、俺が使っているこれな」
 ギューイガシャンガシャと自分の義手を動かして見せるメカ撃退士。
 ここは負傷して欠損した撃退士の肉体を補うための店らしい。
「なんでそんなお店がデパートに!?」
 ツッコむだけ無駄である。

 ドイツ製品コーナーに行くとガトリングガン付の腕や、ロケラン付の脚なんかが置かれていた。
「ちょっといいものだと八千万久遠するんだな。 まあ、標準でV兵器重火器がついてるんだしやむなしか」
 ラファルはロケラン付の脚を借りて試着室に向かった。
 そこに、見覚えのある銀髪長身の背中が待っていた。
「レフニーじゃねえか、なんでこんな店に来てるんだ?」
 ここは特殊な店ゆえ、客層は限られている。
「お前、足りない部分なんかないだろ?」
 乳以外……という言葉をラファルが呑み込んだのは、振り向いたレフニーが別人のように不気味な笑顔を浮かべていたからだ。
 彼女にとって唯一足りないものである胸が、今は恋音の如く盛り上がっていた。
「お前!?」
 レフニーが騒ぎ始めた。
「乳もろたー! 乳もろたー! 私、巨乳だろ? なあ! なあ!」
 伝説の妖怪・乳置いてけ。
 レフニーの魂は今、それに乗っ取られていた。
 胸の義体をつけた乳置いてけが、ケラケラ笑い出す。
「乳ある! 乳ー!」
 服をまくり上げて見せた胸義体。 そこには二門のミサイルが突き出ていた。
「もっと巨乳、なるどー!」
 ミサイル発射口が、キュイーンと唸りをあげ始める。
「おいバカ、やめろ!」
「爆乳ーッ!」
 そのままミサイルが発射されてしまう。
 デパートの屋上に爆音が響いた。

 この日、商品の暴発により建物が半壊。 最高級デパート・リッチは、しばしの閉店となった。
 せっかくレポートしてもらって申し訳ないが、事故だから仕方ない!
 再々オープンした時には、さらに違う姿で皆を出迎える事だろう。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 赫華Noir・黒百合(ja0422)
 おかん・浪風 悠人(ja3452)
 撃退士・鳳 静矢(ja3856)
 白銀のそよ風・浪風 威鈴(ja8371)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 あなたへの絆・蓮城 真緋呂(jb6120)
 外交官ママドル・水無瀬 文歌(jb7507)
 食べ物は大切に!・天願寺 蒔絵(jc1646)
 愛しのジェニー・小宮 雅春(jc2177)
重体: −
面白かった!:13人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
祈りの胡蝶蘭・
礼野 静(ja0418)

大学部4年6組 女 アストラルヴァンガード
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
和風サロン『椿』女将・
木嶋香里(jb7748)

大学部2年5組 女 ルインズブレイド
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB
破廉恥はデストロイ!・
アルティミシア(jc1611)

中等部2年10組 女 ナイトウォーカー
食べ物は大切に!・
天願寺 蒔絵(jc1646)

大学部2年142組 女 アーティスト
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍
Eternal Wing・
サラ・マリヤ・エッカート(jc1995)

大学部3年7組 女 アストラルヴァンガード
愛しのジェニー・
小宮 雅春(jc2177)

卒業 男 アーティスト