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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/05/11


みんなの思い出



オープニング


 アウル異種格闘技NBD、即ちネットブレイクデスマッチ。
 五月の青空の下、二代目アウル格闘王の座を賭けた本戦は二回戦を迎える。

 今回は、5人VS5人の団体戦方式である。
 東軍、西軍の二チームに分かれ、先鋒戦、次鋒戦、中堅戦、副将戦、大将戦の5試合を行ってもらう。
 これで勝ち数の多かった軍に所属していた選手全員に4Pを付与する。
 さらに個人として勝利した選手全員に、8Pを付与する。
「つまり、勝ったチームに所属し、なおかつ個人としても勝利をしている選手は12Pが得られるという事なんだな」
「個人で負けても強いチームに所属していれば4Pは得られるわけだ、これは美味しいね。 チーム分けの段階から駆け引きが必要になる」
 いつも通りクレヨーとホセがルール決めをした。

 以下は出場者必読のNBDマガジンになる。
 なお今回の更新項目は“☆3・対策技ver2””☆8・使う技のビジョンはくっきりとver.2”のみとなる

●NBDマガジン五月号

★1・フィニッシュブロー(FB)を確立させるべしver2
 相撲で自分の”型”を持つ力士が強いように“この技で決める”というものを持っている選手は強い。
 自分の中でFBを定めてしまえば、技に磨きがかかり威力が増す。
 決め技はリングから相手を弾き飛ばすための技でも良いし、戦闘不能やギブアップに追い込むための技でも良い。 とにかく“自分にはこれがある”と断言できるFBを一つ見出すべし。
なおアウル技でないと威力不足。

★2・決め技を決められる状態に持ち込むべし
 「FBだけ磨いて、試合開始直後にいきなり決める」というのは流石に困難である、
 そこで、決め技が成功する状態に持ち込めるよう、試合を組みたてる必要がある。

【序盤は打撃戦を挑み、その中で相手の右腕を掴む。 関節技に持ち込み、相手の右腕を封じる。 その状態で右脇腹を狙ってエアロバーストブローを打ち込み、リング外に吹っ飛ばして勝利】

 といったものが、単純ではあるが流れの一例である。
 むろん、多くの試合はここまで自分の思い通りには展開しない。
 相手も、やはり自分の流れに持って試合をいこうとするからだ。
 そこで、次項の対策技が存在感を帯びてくる。

☆3・対策技ver2
 関節技が得意な相手に対し、ゼロ距離発射可能な打撃技。 蹴り技が得意な相手に対し、足をとっての関節技。 など、対戦相手に会わせて対策技を用意することにより、相手が掴みかけたペースを崩し、試合の流れを有利に変える事が可能である。
 さらにはそれらの対策技に対して、さらなる対策技を用意し、自分の流れを押し通すタイプの闘い方も有効だ。
 対戦前に相手の格闘スタイルを予測して作戦を立てよう。

 ただし、対策技ばかりを用意していて自分の格闘スタイルが見えなくなるのは本末転倒。
 リングに持ち込む思考として理想的なバランスは、攻撃60% 対策20% その他(意気込み、駆け引きなど)20%と言われている。

★4・FBに至る流れを複数用意しよう。
 FBに至るまでの流れを潰されてしまい、そこから攻め手がなく崩れる戦いが多い。
 この手がダメなら次はあの手。 FBは一つでもそれに至る道は複数用意しよう。

★5・相手のFBを予測的中させると!?
 相手のFBを予測し、それに対する有効な防御策を用意しておくと形勢が一気に逆転出来る。 FBは渾身の力で放つ技ゆえ、破られた時の影響も大きいのだ。 予想を外すと完全な空振りとなるので必ずというわけではないが、一発逆転を狙いたい場合は予測してみてもよいかもしれない。

★6・アウル技は強いver2
 アウルスキルで強化した格闘技(アウル技)は、使用していない格闘技(ノーマル技)に比べると圧倒的に強い。
 回数制限があるとはいえ、出し惜しみをしていると流れを掴まれ、負けてしまう。
 相手が全力で来るなら、自分も全力!
 アウル技は最初から、出し惜しみなく使うべし。
 またベースになる技とスキルとの相性にも注意が必要。
例:ブレーンバスター・オーガ
 相手の肉体を武器に見立て“鬼神一閃”を乗せたプロレスのブレーンバスターを放つ。

★7・有効な技とその対策ver.2
 ここまで累積した試合データでは以下の事がわかっている。

・ダメージ系のFBには”不撓不屈”などの蘇生系が有効。 相手の渾身の一撃に耐えて、まさかの逆転が狙える
・その蘇生系を使う相手に対しては関節技や、極め技でじりじり体力を奪う戦術が有効。投げ技でRO(リングアウト)でも蘇生技を事実上無視できるので有効。
・アウルを利用した投げ技はRO(リングアウト)勝ちが狙えるので強い。 現在のFBはこれが主流となっている。 対策技の開発が望まれている。
・予測系の技はどれも強い。 ただし、以下のような使い分けが必要。
予測攻撃……後の先を狙える。他のものより安定性がやや低い。
予測防御……確実性の高いブロック。痛打のスキルなどに弱い。
予測回避……回避狙い。状況により回避が間に合わない場合あり。
予測連撃……二連撃の可能性。反撃手段がしなる打撃に限定される。

なお予測されていると気づいたら下手に手を出さず、相手のスキルが切れるのを待つという対策がある。

☆8・使う技のビジョンはくっきりとver.2
 単に「ルチャで戦う」「●●流の技で攻撃する」「「関節技を使う」という曖昧なビジョンよりも「脇固めを狙う」「DDTを使う」と具体的な技を思い描いた方が強いぞ!

★金網リングについて
 6.5m四方の土の闘技場に、特殊金属の金網をかぶせたリング。
 金網の網の目はひし形になっており、網を伝っての上り下りも可能。
 金網は弾性のある特殊合金で出来ており、ぶつかるとプロレスリングのロープのように伸びる。 
 ただし弾性を越える圧力が加わるととたんに砕ける。
 リングを覆うネットの弾性や砕けやすさは場所によりまちまち。
 ただ、脆い部分でも自分からぶつかった場合、壊れる事はまずない。
 威力のある必殺技で相手を吹き飛ばした時に、壊れる可能性がある。

 屋根部分の金網のみ別の弱い金属で出来ており、体重40キロ程度の者なら雲梯のように移動可、体重60キロ程度の者なら数秒間なら何とかぶらさがれるレベル。 それ以上だと重みのみで千切れる。

 レフリーがリング外におり、阻霊符で透過スキルを防止している。
 透過スキルは事実上使用不可。

 以上、勝利の方程式と舞台の特性を心に刻み、勝利を目指してリングに臨んで欲しい。



リプレイ本文


 皐月晴れの空の下、東西両軍に別れての団体戦が始まろうとしていた。
 東軍先鋒は雪ノ下・正太郎(ja0343)。 今日はもう一つの姿、リュウセイガーでリングにあがる。
 西軍は、翡翠 雪(ja6883)、黒のチャイナ服に赤マフラー、掌に包帯バンテージ姿。
 ヒーロー相手の対比らしいが、どちらかといえば色っぽい。
 包拳礼でお辞儀をするリュウセイガーに、雪もお辞儀。
「先駆け一番槍を頂きましょう。 宜しくお願いします。 いざ、尋常に……」
 二人は礼を重んじた。

「昨日の自分を越えて前に進むぜ!」
 リュウセイガー。 開幕と同時に、攻めたてる!
 雪の肩を目がけ、上から下に、鉈の如く拳を打ち下ろす! 
 劈拳と呼ばれるこの技から身を躱す雪。
 続いてリュウセイガーは、右拳を下から上めがけ錐の如く捻りながら打ち上げてくる!
 鑚拳!
 雪はまたもかわすが体勢は大きく崩れた。
 リュウセイガーは残った左拳を雪の腹めがけ打ち込んだ! 
「くっ」
 有効打! だが浅い。 雪は崩れた体勢を利用し、反撃の震脚!
 大地を踏み込むと、その力を爆発させ掌底を放つ。
 スキルではなく、八極拳の技術・開拳!
 炸裂!
 演武を思わせる拳法同士の戦いに、観客から歓声が沸く。

「何か物足りんね」
 西軍ベンチで初参戦の鷺谷 明(ja0776)が呟いた
 彼が感じた“何か”の正体はすぐさま明らかになる。

 開拳をこらえたリュウセイガーが突き出した崩拳。
 右の拳を突きだしっぱなしにしたまま踏み込み、左の拳で突く。
 これまでと同じ五行拳の技だった。
 かわそうとする雪。
 だが、速い!
 崩拳にみせかけたこれには、“烈風突き”OSであるリュウセイガーパンチが籠めてあった。
 雪の右頬に食い込み、大きくふっとぶ!
「がは……」
 雪の体を受けとめたネットがたわむ。
 決着かと思われたが互いの軽量が作用し、雪の体はリング内に弾き返された。
 倒れるも、立ち上がろうとする雪。
 だがダメージは大きく、体がまともに動いていない。

「もの足りなさの正体はスキルですね」
 同じく西軍・仁良井 叶伊(ja0618)からの問いに無言で頷く鷺谷。
「ああ、今のでそれが消えた」
 リュウセイガーは五行拳一連の流れの中に、“烈風突き”系のアウルスキルを忍ばせる事で必殺の一撃を為したのだ。
「ここから関節技かな?」
 川澄文歌(jb7507)が過去の試合から、リュウセイガーの動きを予想した。
 しかし、リュウセイガーは倒れた雪を追い撃たない。
 どうやら今日は立ち打撃中心のスタイルのようだ。
 
 スタン状態での攻撃を受けず、立ち上がる雪。
(さすがはアウル格闘王! けれど抑えるべき形は覚えました)
 雪の作戦は“攻勢防御”
 盾の一族である雪が、得手である防御を攻撃に転じるために編み出した技である。
 為すには、相手にとって要となる打撃技を見極める事が肝要。
 幸いなのは、崩拳が非常に特色のある型である事だ。
 構えをとりなおした雪に、リュウセイガーの攻勢が再開される。
 まずは突き! だが、先程とは異なる。
(え!?)
 リュウセイガーが今、放った突きは崩拳のそれではなかった。
 指先で突く様な技だ。
 動きが、五行拳とは別物になっていた。
 雪の裏をかくかのように、試合中に流派をスイッチしてきたのだ。
「はう!」
 打ち込まれた打撃が重い!
 “掌底”のスキルがかけてある。
 またもふっとばされる雪。
 リュウセイガーはすぐさま追撃してくる。
 今度は掌根での打撃。
 これにも“掌底”が!
 気を失いかけた雪、口の中に唱える。
「地に伏し倒れながら、尚も心折れず立ち上がらんとする英雄よ」
“神の兵士”応用技・凱歌でKOを回避する。
 だが、もうネットに追い込まれている。
(こうなれば、全てを重要な打撃と見るしか!)
 変幻自在の拳法を見極めている余裕はもうない。
 次のリュウセイガーの打撃に賭け、雪は前に踏み込んだ。
 両腕に“ブレスシールド”を籠め、強力な盾とする。
 “掌底”入り打撃を腕の盾と踏込で押し込む!
「ぐっ」
 体勢を崩すリュウセイガー! 雪にチャンスはここしかない!
「金剛掌!」
 雪は振り上げた手刀をリュウセイガーの肩めがけて振り下ろした。
 “粛清”を乗せた手刀を打ち下ろすだけの単純な攻撃。
 それだけに、出が速い。
 威力不足の面もあるが、今回は問題にならない。
「雪ノ下様には魔の血が流れていらっしゃるはず」
 粛清は魔を宿すものに大きな打撃を与えるスキル。 
 悪魔の因子を受け継いだリュウセイガー、強烈な衝撃に膝をつく。
「ぐあぁぁ!」
 因子による苦痛に断末魔があがる。
「これで」
 雪も攻勢を受け続けた末のFBで、力を振り絞ってしまった。
「倒れてくだされば」
 願いは儚く断たれた。
「さすがは翡翠さん、乗り越えねばならない恐るべき新たな龍殺しだ」
 “不撓不屈”で立ち上がってくるリュウセイガー。
 龍殺しと呼ばれたのは、雪の夫がやはり龍の名を持つものであり、以前の大会で夫婦対決の末にそれを破ったからだろう。
「はあ!」
 再び崩拳を放ってくるリュウセイガー。
 対応して再び“攻勢防御”で対抗する雪。 
 が、堪えきれない。 それだけの力が雪には残っていない。
 
 リュウセイガーはアルゼンチン・バックブリーカーの形に雪を担ぎあげた。
「いくぜ新FB! リュウセイガー・ダイナミック」
 プロペラを回すヘリのように空中へ跳躍。
 ”飯綱落とし”の要領で、天地を逆転させる。
 蒼いアウルを流し込みつつ、雪の腹を地面に叩きつける!
 轟音。 
 技が完全に決まった。
 そこに、聞こえてくる声。
「地に伏し倒れながら、尚も心折れず立ち上がらんとする英雄よ」
 凱歌で、再び堪えようとする雪。
 だが、ダメージはあまりにも大きい。
 最後まで詠唱することも叶わず、雪は気を失った。
「打撃の稽古もサボらなくてよかったぜ」
 先鋒戦は、リュウセイガーが圧倒的攻勢で東軍に勝利をもたらした。


 次鋒戦、開始前のインタビュー。
 殺気を迸らせ、東軍ゼロ=シュバイツァー(jb7501)が吠えた。
「我流が弱い?そんなの誰が決めた。いくつもの死線を抜け数多の流派を潰し屠ってきた俺の技がぬるいってか…舐めるのも…大概にしてもらわんとなぁ」
 これは協会の出した“何らかの流派を持った方が格闘家としての芯が出来て強い”という意味の言葉を受けてのものである。

 発言元は、いつも通り解説席にいる。
『なんでもありってのは、日本でいう器用貧乏だからね』
『その反骨心は買うが、茨の道なんだな』
 ボクサーのホセは、パンチ一つに命をかけた男。
 力士兼レスラーのクレヨー先生も、二つの武道の長所を取り入れるくらいが限界だと考えている。
『こと今日の相手は三戦三勝中の仁良井くんなんだな』

 そう、対戦相手は、NBDに入ってから土つかずの仁良井。
 その流派は”うちはらいて” これも我流であるとはいえ、組打ち術、即ち柔術というベースがある。 
「能力者に色は与えられないとのことで白帯ですけどね」
 果たしてゼロに燃える反逆の炎は、前評判を覆す事が出来るのか?
 
 両手を合わせて一礼をする仁良井に対し、ゼロは傲然と構えている。
 ゴング!
 先に動いたのは仁良井。
 2mの巨体が跳んだ!
 飛び蹴りでゼロを襲撃する。
 飛び技を使うのが珍しい仁良井にとっては奇策。
 その後の詰めも万全に考えている。
 だが、ゼロは楽しげに笑った。
「ビンゴや」
 ゼロの手から星の色をした鎖が放たれた。
 それが空中にいた仁良井に絡みつき、捕える。
「しまっ!?」
 地面に落ちる仁良井。
 全身に落下ダメージが響く。
 そぐには起きあがれない仁良井に駆け寄るゼロ。
(このまま!)
 足を掴む、関節技に入ろうとするゼロだが、一瞬、動きが停まった。
 その隙に仁良井が逆の脚でゼロの脚を払う。
 体をかわしたゼロに乗じて、仁良井は立ちあがった。

 東軍フェンリルこと遠石 一千風(jb3845)がその様子を睨みつつ呟いた。
「星の鎖から関節技に持って行こうとしたのか」
 雪ノ下が隣で頷く。
「具体的な技のイメージがなかった、流派なしの弱点の一つだな」 
「プロレスに絞っている私でも同じ事が起きた事はあるから決定的とはいえんが、流派を絞っていれば出るときは出る」

 だが、ペースをゼロが握ったのは事実である。
 リングを縦横無尽に走りながら速度でかきまわし、打撃を与えていくゼロ。
「止まってるなら蹂躙する、考える暇があると思うな」
 対して仁良井は、円の動きと“闘気開放”でその直撃を避けている。
 だが、攻撃の方が決まらない。
(無拍子が使いこなせない?)
 武術の奥義から繰り出す突きに“サンダーブレード”や“スタンエッジ”を乗せて打つのだが、突きそのものが当たらないのだ。
 恵まれた体にダメージが蓄積されていく。

「無拍子……極限のリラックス状態から放つ反応不能な速度の動きだったかな?」
 東軍ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)の呟きに頷く雪ノ下。
「一度、ペースを握らせてしまうと、体のどこかに緊張を帯びてしまうんだろう。 特に仁良井さんは、身体能力に恵まれている」
「頼りになる武器を持っているがゆえに、それを捨てる脱力の完成は誰よりも難しいだろうね。 そもそも老師向きの技だもんね、あれは」

 一方的に攻撃をしていたゼロ。
 グロッキーになった仁良井の頭を、その右掌で掴み、指をめりこませた。
 プロレスのアイアンクローである。
「くっ」
 ただのアイアンクローなら耐えようもあるが、不穏なものを感じる仁良井。
 ゼロがにいと笑う。
「焼き加減は一択や」
 仁良井の顔を掴むゼロの右掌に火球が出現した。
 “炎陣球”の高熱で仁良井の顔を焼くつもりなのだ。
 掌のロックを外すことは間に合わないと見た仁良井、覚悟を決める。

「灰にはせんから安心しとけ」
 炸裂する火球。
 同時にゼロも掌のロックを外し、仁良井から離れた。
 識別能力のない“炎陣球”を密着したまま撃っては高熱のダメージを自分も受けてしまうからだ。
 その体が後ろに落ちた。
 動かない体にゼロが気付く。
「まさか、さっきのタックルが」
 掌のロックを外したその瞬間、仁良井は苦し紛れのようなショルダーアタックを放ってきた。
 ダメージは浅かった。 だが“スタンエッジ”がかけてあったのだ。

 顔を焼かれた仁良井は、ゼロが動けないこの数秒に全てを賭けた。
 辛うじて片目の視力は残っている。
「ここだけがチャンスですね」
 ゼロの体を巻き込む様に鋭く反転しながら肩の上に乗せる。
 警戒しつつ、脚に“掌底”スキルを帯びさせる。
 蹴り足で跳ね上げる。
 ここまで反撃はない。
「はっ」
 仁良井が放つFB! その名は“旋風”
 巻上げる様に投げ飛ばした。
 ゼロの体が、ネット目がけて宙へ放たれる。

『これは決まったか』
 漆黒の矢と化し、ネットを突き破るかに見えたゼロ。
 だが、その勢いが空中で衰えた。
 火球陣により、衰えた片目の視力が認識障害を引き起こし、仁良井の動きに狂いを生じさせていたのだ。
 さらにゼロは投げの瞬間、“予測回避”を発動し、望みの空中制動を得ていた。
 ネットを蹴り、仁良井の真後ろに立つ。
「全てを滅する闇之如く」
 ゼロの体から、より深き闇が浮き上がった。
 首根っこを掴むと、発生した闇の塊とともに自らの体を叩きこみ、仁良井の首をリングに突き入れる。
 “鬼神一閃”を闇に染めしスキル“闇撫”。
 闇が地面に炸裂する。
 仁良井が土の中から首を引き抜こうとすれば、予測回避も手伝い、足で後頭部を踏みつける。
「俺は攻防なんか望まん、一方的にやり続けたいんや」
 時間を稼いでから再びの“闇撫”で地面に顔面を串刺しにする。
『えげつないんだな』
『ゼロくんらしいねえ』
 二度にわたる頭部への衝撃により、仁良井の長身がぐったりと倒れた。
 次鋒戦は東軍ゼロのKO勝利が宣言された。

 NBD初の敗北を期した仁良井。
 西軍ベンチに帰りつつ試合を省みる。
「無拍子という不向きな技に頼った事と、うかつに飛んだのが失敗でしたね。 見せ技のつもりだったんですが」
 興業を意識した仁良井、だがそこに用意されていたのはゼロの用意した罠だった。
 全勝者が消え、絶対強者不在が証明されたNBD。
 この中から抜け出すのは誰か?


 2-0で突入した三戦目、勝利を確定したい東軍はベテランの女子レスラーフェンリルを投入。
「相手がどうあろうが関係ない、今回も限界を超える試合をしよう」
 対する東軍は新鋭、鷺谷 明。
『鷺谷君は、どんな流派なんだな?』
『プロフィールには“今回の私は山育ちの拳法家だ。そういう設定で”と書かれているね』
『設定で、って』
 困惑する解説席の顔。
 一方の鷺谷は、リングの中で薄笑いを浮かべている。
「本業変身術師だ、戦闘スタイルの一つや二つ使い分けられないとな」
 相手は未知の存在。
 だが、憶する事なく咆哮をあげ、鎖を引きちぎるフェンリル。
 いざ、ゴング!

「狼の力、見せよう」
 フェンリル、狼の攻撃性そのままに前に出る!
 まずは、ソバット。
 遠心力で威力をました蹴り!
 だが鷺谷はそれを掌で掴み、受けとめた。
「なにぃ」
 “防壁陣”の応用技・金剛手。
 驚愕するフェンリルの脚を、ふっと笑みを浮かべて離す鷺谷。
 そのまま動こうとしない。
「なめるな」
 フェンリル、さらなるソバット。
 回転速度をあげ、さらに遠心力を増す。
「掴めまい!」
 だが鷺谷、それを今度は腕の甲で殴りつけて逸らす。
 パリィの応用技・求不得。
「同じ技で二度攻撃した……因果応報だね」
 さらに、フェンリルの遠心力を殺さないまま、背中から地面に投げ飛ばす。
「くっ」
 全身に衝撃を感じるフェンリル
 だが、とっさの受け身はとっていた。
 唸りながらも立ちあがる。
「合気か」
「今の“因果応報”は私のFBだったんだがね。 プロレスラーとはタフなものだ」
「拳法家と言いつつ、防御主体の合気道的な流派だな。 それなら!」
 フェンリルが”サイドステップ”で立ち位置変えつつ、鷺谷に迫っていく。

「……あれは?」
 東軍・染井 桜花(ja4386)の問いにゼロが答える。
「合気道に限らず防御主体の格闘術は相手のタイミングを読みきり、合せねばらならん。 それをずらすための戦術やろ」

 “サイドステップ”の前に鷺谷は、いつしかリングの隅に追い詰められていた。
 相手に合わせてのカウンター戦術。
 それは決まれば華麗だが、集中力を極限まですり減らす。
 こうして翻弄されればなおさらだ。
 自分から殴りかかるほうがどれだけ楽だろうと思い知らされる。
 だが、今日の鷺谷はFB以外の攻撃技を用意していない。
 鷺谷に、フェンリルのタックルが襲い掛かる。
「予想済だ」
 衣装の中に手を入れ、それを取り出そうとする鷺谷。
 だが、ない。
 対戦前のボディチェックで没収済なのだ。
 スキル“空蝉”の応用技・愚痴。
 魔人形を身代わりに攻撃を逸らす技なのだが、リング内に道具の一切を持ち込む事はルール上許されていなかった。
「ぐはっ」
 フェンリルタックルをもろにくらってしまう鷺谷。 しかもこれには、“薙ぎ払い”スキルが籠められていた。
 意識が一瞬飛び、体が動かなくなる。
 体が引かれ、地面に倒れる。
 そのまま足を掴まれ、捻られた。
 腰骨に激痛が走る。
『サソリ固め!』
「ぐぐ」
 プロレスの代表格ともいえる、関節技。
 唸りながらも耐える鷺谷。
 このロックにバステがかけられている様子はない。
 スタンが解けるまで耐え、抗いを開始する。
 両腕に力を籠め、自分の上体を持ち上げる。
「あがけばさらに痛むぞ」
「構わないよ」
 痛みは“癒しの風”で和らげて耐える。
 相手のダメージも癒えてしまうのが難点だが、背に腹は変えられない。
「くっ」
 体勢を崩されフェンリルのロックが外れた。
 身を翻して立ち上がる鷺谷。
 だが、ダメージは完全には癒しきれていない。
 しかも、自分から攻勢に転ずる技が鷺谷にはない。
 相手の技を受け切って、FBに持ち込むしかないのだ。
「受け切れるかな、双頭の狼の牙を!」
 フェンリルの体に、一際激しくアウルが燃え上がった。
 身のこなしが倍ほどに速くなる。
(荒死か、ならば)
 鷺谷の背後がとられた。
 いや、とらせた。
 フェンリルのFBは、前回と同じ連続スープレックス。
 初弾はドラゴンプレックス!
 だが鷺谷“不動”で耐える。
 通常の投げ技ならその衝撃に“不動”で対応出来るはず。
 だがドラゴンスープレックスは持ち上げ続ける技。 持ち上げる力と、地面を噛みしめる足の力とでの競り合いとなる。
「ぐううっ」
「ぉぉぉっ」
 荒死が切れれば、フェンリルは無防備。 鷺谷にも逆転の好機が産まれる。
 耐え続ける鷺谷。
「うぉぉぉ!」
 フェンリルが、一際高く狼の如く咆哮をあげた。
 鷺谷の体が大きく持ちあがる。
 一発目のドラゴンスープレックス!
 これに耐えきる。
 光明を見る鷺谷。
 “起死回生”スキルもあった。
 次の瞬間、持ち上げられている鷺谷の体が加速した。
 フェンリルが二発目に放ったのはジャーマンスープレックス。 その発展技!
『投げっぱなしジャーマン!』
(戦場をリング隅に変えたのは、このためか)
 ここはネット際だ。
 解き放たれた鷺谷の体がネットを突き破り、リング外へ飛び出していった。

「一発ネタのつもりだったのさ、手の攻撃を全部いなして倒すとかかっこよいと思ってね」
 西軍陣営に戻った鷺谷はいつも通りの笑みを浮かべている。
「う〜ん、やはり自分からいく技もないと、みすみすチャンスを逃すことになりますからね」
「私は専守防衛ではないですが“防御だけでなく、攻撃技にもアウル技を結びつけた方がいいんだな“と言われたんです。 難しいですね」
 仁良井と雪が共に小さく呻きをあげた。

 大きく呻きをあげたのは解説席。 早くも団体戦の結果が出てしまった。
『う〜ん、こないだの団体戦に続き三タテで決着か』
『両者の勝利確率をともに50%とした場合、二回連続で三戦目に3-0になる確率を答えなさいとかいう問題を生徒に出したくなるんだな』
 早くも東軍勝利が決定。 
 だが、個人得点である8点のチャンスは西軍選手にも残っている。
 チームとしての勝敗は決しても、個人の戦いはなお続く。


「せっかくだから全勝目指そうか」
 東軍ベンチからクールな笑顔で立ち上がるジェラルド。
「さっきからツッコミたかったんやけど、その格好はなんやねん、ジェラやん」
 ゼロが顔をしかめるのも無理はない。 ジェラルドはスーツ姿という、リングには場違いな格好をしていた。
「身だしなみ、かな?」
 前髪をかきあげるV系イケメン・ジェラルド。
「まあ、がんばってや」
 友人の生暖かい視線に見送られながらリングインする。
 
 リングには恰幅のいい巨体が待っていた。
「お噂はかねがね☆プロレスは好きなので♪」
 へらへらしながらお辞儀をするジェラルド。
 カードが決まった瞬間から、相手の研究はしてきた。
 ベテランな分、手の内は晒されている。
 そこに新人の付け入る隙が産まれる。
 予想に反する野太い声が帰ってきた
「なんの噂だ」
「え?」
 顔をあげると予想外の相手が立っていた。
 白い毛むくじゃらの雪男を思わせる大男だ。
 会場にアナウンスが流れる。
『出場選手交代をお知らせします。 西軍副将は――』

「お前、サスカッチマン!」
 東軍ベンチからフェンリルが、立ちあがった。
「久しぶりだな、狼娘」
 サスカッチマンが答える。
「知り合い?」
 リング内からジェラルドが尋ねる。
「サスカッチマンというアウルレスラーだ、私とは二度対戦している」
「あ、プロレスなのね」
 ほっとするジェラルド。
 まるで違うファイトスタイルの相手だったら、研究が全て無駄になるところだった。
「そいつの掌に気を付けろ、握られた部分を凍らされるぞ。 凍った関節をバスター技や、サブミッションで砕くのがそいつのスタイルだ」
「なんという恐ろしい」
 ゾーッとするジェラルド。
「でも、情報なしよりはいいや。 ありがとう、フェンリルちゃん」
 気を取り直す、もう相手は眼前に立っているのだ。
 プロレススタイル同士、副将戦のゴングが鳴る。

 開始と同時に足元から金色のアウルを放つジェラルド。 紅の瞳も金色へと変わる。    
 【藤宮流】機略縦横。 技の正確性や予測精度を高める技である。
「ふっ」
 ジェラルド、長い脚を振う。
 鞭のようにしなやかな打撃が、雪男の右足を打った。
 この二人、身長は同程度だがジェラルドの方が足は長い。
 上昇中予測精度で間合いをとって、ローキックで攻め立てていく。
「足を掴もうったって、そうはいかないよ♪」
「ぐうっ」
 唸る雪男の脚を何発目かのローが掬った。
 倒れた雪男。
 ジェラルドのプロレスラーとしての体が自然に動いた。
 雪男マンの脚を掴み、自分の脚を差しこんでロックすると、そのまま自身も後ろに倒れこむ。
『クロスヒールホールド!』
 現在、雪男の両足はX字状態に交差されて極まっている。
「寝技の経験値なら、誰にも負けない☆」
「男相手、しかもマニアックな体勢とはそそりおる」
 痛みに耐えつつ、意味深な台詞を吐いた雪男。
 膂力の詰まった上体の力で無理やりに起きると、ロックをかけているジェラルドの脚を掴んだ。
 掌から冷気が襲ってくる。
「!」
 慌てて、技をとき、振りほどくジェラルド。
 掴まれていたのは一秒に満たない時間だが、右足首の下から感触が半ば消えている。
 感覚を戻すため、足を動かす。
 その間に雪男が起きあがった。
「もう少しでお前の旨そうな下半身を好きにできたものを」
「あ、そっちの趣味なんだ☆」
「受けはここまでだ、俺の本領は攻めにある!」
 ホモホモしい台詞とともに、雪男の猛攻が始まった。
 凍れる掌という凶器を前に突きだして間合いを詰めてくる。
 射程に入ると、丸太のように太い脚で蹴りをくりだしてきた。
 それに対してジェラルドは、自分の脚を雪男の腰骨にあてがった。
 だが、特に効果はなくそのまま蹴りを喰らってしまっていた。
「ガハハハッ、何をしている?」
 嘲笑いながら猛攻を続ける雪男。
 ジェラルドは『敵の行動を抑制』という独自の戦闘理論を持っており、自分の脚を雪男の腰骨にあてがうことで体勢を崩そうと目論んでいるのだがうまくいかない。
「ジェラやん、やりたいことはわかるけど、それは予測系のスキルをつかわんと」
「そういうもんか」
 後の先や先の先を実現するのは、かなり難しい。
 ゼロに指摘され、足を引っこめようとしたその時、差し出していた足を雪男に捕まれた。
「しまっ!?」
 そのまま逆さづりに持ち上げられるジェラルド。
 掴まれた右膝に冷気! 凍っていくのを感じた。

「いかん、クリスタルバスターがくる!」
 フェンリルが椅子から立ち上がる。
 “氷結! クリスタルバスター“相手の両膝を手で掴んでV字に開き、首を自分の肩口で支えて跳躍。 落下の衝撃で凍らせた関節を砕くサスカッチマンのFBである。
「一秒でも早く技から逃れるんだ!」

「ガハハハ! いい男のV字開脚は絵になる!」
 下品な声をあげ、ジェラルドを肩口に持って行こうと持ち上げる雪男。
「悪いけど、ホモはお断り☆」
 逆さづりにされたジェラルド。 その掌から雪男の顔面めがけて衝撃波が跳んだ。
 “飛燕”である。
「ふぁ!?」
 FB 顔負けの派手なエフェクト。
 雪男は、ジェラルドから手を離す。
「本当はこういう体勢で使う技じゃなかったんだけど、羞恥ポーズとらされるよりマシだからね☆」
 目をやられもがき苦しむ雪男。
 ジェラルドも右膝を凍らされているが、まだ左脚と両腕が残っている。
「はっ
 ジェラルド、端正な顔を一瞬、引き締めると空中前転!
 長身を華麗にしならせて間合いを詰め、左ヒールで雪男の顎を蹴る。
 天才的な観察眼をアウルによりさらに活性化させ、狙うべき場所を見る事が出来るスキル“【HT】Hit That”を持つジェラルドならでは技。
「お疲れ様☆」
 かすめるように蹴られたあご先は雪男の脳を揺らし、陶酔の領域に追いやった。
「東軍ジェラルド選手、KO勝利!」
 東軍が全勝に向け、リーチをかけた。


 大将戦。 西軍は知勇兼美を謳われるアイドルレスラー、文歌。
 白地に紅い線の入った学生服風アイドル系水着が本日の衣装。
「桜花さん、今日一番の最高のパフォーマンスでみんなを魅せましょう」
 文歌の問いかけにコクリと頷く、東軍大将・桜花。
 衣装はモノクロで足と上乳と横乳を大胆に晒した桜嵐・月詠。
「……やろうか」
 会場は文歌のファンの声援と、桜花のエロ衣装に湧き立った。


 ゴングとともに桜花の全身に金色に光る紋章痣が浮かび上がる。
 “心技・獣心一体<臨戦>”身体能力を最初からあげてかかる。
「む、桜花さん本気モードですね」
 やや小柄な文歌だが、桜花はさらに小柄。 そこを狙い体格差を活かして正面からの打ち合いを狙っていた文歌だが、相手の強化に躊躇をする。
 その隙に桜花、さらに“神速”を発動。
 高速でリングを駈ける。
 動きを目で追おうと、鋭く振り向いた文歌。 靡きあがった黒髪を桜花の掌が掴んだ。
「痛っ」

 髪を引っ張り、引き寄せると文歌にビンタをかます。
「きゃ」
 白い掌が白い頬を楽器に、小気味のいい男を奏でた。
「……比べ合いと行こうか」
 挑発する桜花。 それに乗せられ文歌もビンタを返す。 
 一発返されるとまた一発。
 リング中で美少女同士のビンタ合戦が始まった。

 西軍ベンチ。
「最近のアイドルのパフォーマンスはビンタなのかね」
 鷺谷が享楽的な笑みでそれを眺める。
「ステージでは隠しているのでしょうけど、楽屋裏ではよくやっているのかもしれませんねえ」
 のんびりした雪の発言に仁良井が冷や汗をかく。
「恐ろしい事を言いますね」
 

(……遠慮、容赦、躊躇等一切せず)
 桜花、獣心一体で向上させた身体能力をフル動員し全力のビンタを見舞う。
(……全力で叩き伏せる)
 桜花のビンタには“絶技・雷閃”が籠められている。“ホワイトアウト”同様、スタンが狙える技。
「桜花さんと戦えて、私楽しいですっ」
 ところが文歌、顔を張られながらも、屈託なく笑っている。
 桜花のビンタにビンタを返してくる。
 背後には、青い不死鳥のオーラが浮かんでいる。
 前回も使用した“ブルーフェニックスオーラ” バステを防ぐスキルを使用しているのだろう。
 スタンは難しい。
 だが文歌のビンタにも、バステスキルが籠められていない。
 張り続ければ勝機は桜花にある。
(……物理攻撃能力は、こちらが上)
 文歌も“ブルーフェニックスオーラ”で身体能力は向上させているが“心技・獣心一体<臨戦>”に及ぶ攻撃力はない。
 ビンタ同士の応酬。
 キャットファイトに湧く観客たち。
 だが、なぜかダメージを受けているのは桜花一方だった。
 張っても張っても、文歌の顔は緩やかなネットに守られているかのように衝撃を吸収してくるのだ。
(……まさか)
 桜花がそれに気づいた時、強烈なビンタがその脳を揺らした。

「みんな、声援ありがとー!」
 文歌は会場のファンに礼を言う。
 ファンの熱狂的な応援をスキル“乾坤網”に変え防御力をあげていたのだ。
「特に顔中心に守ったよ、アイドルは顔が命だもんね♪」

(……読まれていた?)
 文歌の台詞に、ビンタ合戦に持ち込むところまで看破されていたような気分になる桜花。
 脳が揺れて、四肢がまともに動かない。 
 桜花の紅牙剣闘円舞術の極意である速度が封じられた。
 これも文歌の狙いか。
 だがプロレススタイル。 動けない桜花に極め技をかけてくる公算は高い。
 スゥッと息を吸う。 “絶技・咆撃”の準備は整った。
 顔の近くで“ソニックブーム”を含んだ大声をあげれば、次に脳を揺らすのは文歌の方だ。
 しかし、襲ってきたのは蹴り!
 飛翔して宙を舞うように一回転し、フェニックスキックを桜花の腹に見舞ってきたのだ。
 “絶技・咆撃”の対象にはならない。
「ごふっ」
 しかも“スタンエッジ”入り! 桜花、本格的に動けなくなる。
(……甘い)
 これで諦める桜花ではない。
 おそらくFBを文歌は仕掛けてくる。
 前回は投げ技だった。 あるいは極め技など密着系でも耐えて“絶技・咆撃”で形勢を変えられる。
 桜花は、覚悟完了した。

 文歌が飛んだ。
「私のもう一つのFB技!」
 ネットの反動を利用し、不死鳥が空を舞うように体を捻る。
「ブルーフェニックスプレスVer鎌鼬!」
 鎌鼬を纏いつつ落下! 桜花の上に鋭く背中をぶつける。
 手ごたえは満点。
 蘇生技で凌がれがちな打撃系FBだが、桜花にそれがないと読んでの選択。
「……が」
 桜花が白目をむき、顔ががくりと落ちた。
 選択的中!
 桜花は起き上がって来ない。
 ファンの祝福の声援が場内に響く。
 解説の二人も興奮気味に叫んだ。
『文歌ちゃん完勝!』
『いやー! これは見事だ、奇襲なしで相手の手を読み切ってのほぼ完封に近い勝利』
『NBAの理想の勝ち方を見たんだな』
『歴戦の格闘家たちが挑んで果たせなかった勝ち方を、格闘歴一年の文歌ちゃんがねえ』
 両手を振って、ファンの声援に応える文歌。
 これは皐月の空に舞う、蒼き不死鳥が見せた奇跡なのか? 
 あるいは文歌の背にはアウル格闘王の頂まで羽ばたく強い翼が宿っているのか?
 その答えは、まだ誰も知らない。

 惜しくも全勝は果たせず、だが4-1の圧勝を果たした東軍全員がチーム勝利点の4Pを獲得。
 さらに、個人勝利点の8Pを雪ノ下、ゼロ、フェンリル、ジェラルド、文歌が得た。
 前回の得点と合せ、先頭に立ったのは、22Pのフェンリル、続いて18Pの文歌。
 女子プロレスの二人がトップ争い!
 だが、本大会はまだ序盤。 真の力を見せるのはこれからである。
 次回、タッグ戦! コンビネーション攻撃が闘いの流れを変える!
 


依頼結果