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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/04/12


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


 天魔戦争終結から時が流れた。
 天使陣営、悪魔陣営と双方との和平協定が結ばれ、世界が平和に包まれている。
 久遠ヶ原学園も大きな役目は終え、規模を縮小し治安維持のための最小限の撃退士だけを養成する機関となっている。
 少数精鋭化しただけに、撃退士はエリート職となっている。
 特に今後、撃退士になるものは高級官僚クラスの待遇は間違いないであろう。
 かつては覚醒者なら誰でもウェルカムだった学園も、生徒数を絞らざるをえない。
 特に新設された久遠ヶ原学園幼稚舎は、エスカレーター式で大学院までいけるエリート中のエリート養成機関となっていた。
 それだけに入園競争倍率は高く、勃発するのがいわゆる”お受験戦争”である。

 このお受験で最重要視されるのは親子同伴の”面接”である。
 面接官から親がされる質問、子がされる質問に、いかな答えを返すのかが勝負のカギだ。
 なおユニークな校風は以前のままなので、紋切型の答えでは勝算が薄い。
 久遠ヶ原らしいユニークな答えが求められているのである。
 なお、面接でされる質問は大半が毎年同じものである。
 あらかじめ答えを用意しておくのが定石となっている。
 以下に、出題傾向を記しておく。

●面接でされる事が多い質問

☆親編
・どんなお子さんですか?
・ご両親の現在のご職業は?
・卒業生だそうですが、在学中の思い出は?
・学園に質問があればどうぞ

☆子編
・お母さん(お父さん)は動物に例えると何に似ていますか?
・好きな遊びはなんですか? 誰とどんな風に遊んでいますか?
・お友達に大事なおもちゃを壊された時にはどうしますか?

 なお、以上を必ずしも全部聞かれるわけではない。
 また子供にアドリブ的な質問が飛んでくることもある。 それに対しては子供からすっとんきょうな答えが返ってくることもままあるので、それはそれで運命だと受け入れて欲しい。
 覚悟を決め、厳しいお受験戦争を勝ち抜くのだ。


リプレイ本文


 受験日当日、最初に面接室に呼ばれたのは、銀髪と紅い瞳の美しい女性だった。
 すらっとした長身にスーツ姿がよく似合う。
「恭也くんと、お母様の雫さんですね」
 そうこの長身の美女、誰あろう雫(ja1894)なのである。
 学生時代は貧乳ちんちくりん強キャラというジャンルだった彼女も、時を経て美しい女性に成長していた。
「よろしくお願いします、恭也です」
 教えられた挨拶する、息子の恭也。
 瞳の色は母親に似ているが、髪の色は黒い。
 面接官がプロフィールを見ると、義理の息子とあった。
 この時代、未だ多い戦災孤児というやつだろう。
 雫の方も未婚らしく、苗字がついていない。
「がんばっちゃおうかな〜」
 思わず、本音がでれっと舌から洩れてしまう独身面接官38歳。
「なにをですか?」
「いえ、もちろん面接をです、お互い頑張りましょう!」
 よくわからない健闘を誓われ、雫親子の面接が始まる。
「ではまず現在の家族構成は?」
「私と恭也、そして私の妹の三人暮らしです」
「叔母さんは胸でかいぜー、母さんはパッドー!」
 調子こきな息子に、アイアンクローをかける雫。
「口は災いの門だと教えましたよね?」
「いたいいたい! だってあのおじさん、母さんの胸ばっか見てるから」
「ひんぬーは相変わらずですか、だがそれがいい!」
 眼鏡をきらっと光らせる面接官。
「なんなんですか、あなた」
 雫の体に赤い紋が浮かび上がる。 ”神威”のスキルを発動させたのだ。
「落ち着いてください! 雫さん」
 かつてのトップクラス撃退士とやりあってはただではすまない。 慌てて襟を正す面接官。
「では、まずはお母様に質問です」
「はい」
 雫の顔が引き締まる、ここからが受験生の親にとって最大の緊張タイムである。
「恭也くんは、どんなお子さんですか?」
「昔の私の様に孤独を恐れる所はありますが良い子ですよ。 家の愚妹を確りと躾ける事が出来ますから」
「孤独を恐れますか、まあ、お母様もまだお若いし、お寂しいでしょうなあ。 まあ、そのいろいろと」
「……面接官さん?」
 まだ神威を発動している雫、このままでは実力行使されかねない。
「こほん、では恭也君に質問です。 お母様を動物に例えると何かな?」
「犬……いや、狼だな。時折、怖え時があるし。ちなみに叔母は、腐海に住むナマケモノだ」
「恭也、あの子の事は聴かれていないです!」
 どうも恭也、叔母の方にこだわりがあるようである。
「お母様、現在のご職業は?」
「生憎と縁が無くシングルマ……今は教導官の職に就いてますよ」
 途中まで言いかけて話を変える雫、面接官を警戒している。
「教導官というと、他校の撃退士育成指導ですか?」
「そうです」
「なぜ恭也君をそちらの学校でなく、本校に?」
「やはり思い出深いですからね」
「なるほど、ではお母様にとって学園で一番の思い出は?」
 この流れで、新たな質問である。
「そうですね……灰汁の強い友人や教師が多くって疲れた事くらいしか」
「灰汁の強いお友達といいますと?」
「異常に胸が大きい娘がいて、やりこめられたり……また胸の話ですか! セクハラですよ、面接官さん」
 がうーと狼のように目を尖らせる雫。
「今のは母さんから話し始めただろ」
 的確にツッコむ恭也。
「では、また恭也君に質問。 好きな遊びはなんですか? 誰とどんな風に遊んでいますか?」
「ゲームかな? 母さんとの手合せも楽しいけど、遊びじゃねえから」
「手合せ、もう戦闘訓練をされているんですか?」
「もちろんです、野生動物や野草を狩らせて、サバイバル料理を作らせたりしています」
 かつての雫と同じく、恭也も一般とはかけ離れた環境で育てられているようだ。
「では、恭也くんに最後の質問。 お友達に大事なおもちゃを壊された時にはどうしますか?」
「わざとじゃなけりゃ許すな。 故意にやったなら許さねえけど」
「ほう、わざとじゃなきゃ許すと教育しているんですな、なるほどなるほど」
「偶然を装って私に触ったら、殺しますよ」
 面接官、もう雫に何を考えているか読まれている。
「本当に撃退士ってエリート職なんですか? 在学中の知り合い、あと面接官さんを見ていると、とても信じられないのですが」
 溜息をつきながら面接を終える雫。
 数週間後の合否発表が待たれる。


 続いて、同じ面接室に入ってきた女性を見て、面接官はさらなる深さの溜息を吐いた。
「おお、あなたは」
 美しい。 それだけではなく、オーラがある。 モニター越しに見覚えのあるオーラだ。
「アイドルタレントの文歌さん!」
 水無瀬文歌、旧姓は川澄文歌(jb7507)。 TVの歌番組やバラエティで活躍しているアイドルタレントである。
 その足元では、ミニ文歌と呼べるような小さな女の子がお辞儀をしている。
 スーツの胸に付けたペンギンのワッペンが可愛らしい。
「水無瀬奏なのです、宜しくお願いしますです」
「奏ちゃんだね、宜しくお願いします、ではお二人ともどうぞ」
 笑顔で席を勧める面接官。
 美人タレントとその娘と、三人でお話する機会など滅多にあるものではない。
「……俺の席あるの?」
 ふいの呟きに顔をあげると、金色の目をしたイケメンがボーっと立っていた。
 タレントではないが、文歌の結婚の時にされた報道で世間に顔は知られている。
 夫の水無瀬 快晴(jb0745)だ

「旦那さんもいたんですか、チッ」
「パパー! なんであのおじさんチッって言ったんですかー?」
「……奏、ここはスルーするのが試験的に正解だ、パパも大人だから我慢しよう」
 首を横に振る快晴。 美人タレントの夫は気苦労が多い。
 ともかく、水無瀬一家三人が席についた。 面接開始である。
「家庭環境……は、文歌さんがTVでいつもお話されている通りでよろしいでしょうか?」
「はい、あの通りラブラブです♪」
 家庭の話題になると文歌はいつも夫や子供との仲の良さが浮き上がるようなトークをする。 いわゆるおしどり夫婦として芸能界では扱われている。
「では、お父様にお伺いします。 奏ちゃんはどんなお子さんですか?」
 快晴しばし、考えてから笑顔で答える。
「……ペンギンなアイドルっ子です♪」
「ほらほら、ペンギンさん〜!」
奏は胸のペンギンワッペンを引っ張って面接官に見せている。
 無邪気で、子供らしい子供のようだ。
「アイドルっ娘というと、奏ちゃんも将来はアイドルに?」
「なるー!」
 元気よく手をあげる奏。
 快晴は少し遅れて言葉を添えた。
「……大きくなった時の奏自身に決めさせましょう」
 まだ四歳である。 これからいろいろなものに出会い、いろいろなものになりたくなるだろう。 そう快晴は考えていた。
「なるほど、お母様から見ると?」
「礼儀正しいですよ。それと頑張り屋さんです。 あと、少し天然ですね」
「南極に住んで、ペンギンさんたちのアイドルになるのですー!」
 どうやらペンギンイメージのアイドルではなく、ペンギンたちのアイドルになりたいらしい。
「次の質問です、お母様のご職業は?」
「私はアイドル……」
「ですね、永遠の十七歳ですな」
 言いかけた瞬間、面接官に微妙なフェイントをかけられる文歌。 最近のキャッチフレーズまで添えられた。
「お父様のご職業は?」
「俺は、学生時代語学が好きだったのでそれを糧にして通訳の仕事をしています」
「ほう、語学が堪能でいらっしゃるんですな」
「ママの海外ライブツアーもこれで安心なのです!」
 サムズアップする奏。
「ツアーがあるんですか?」
「この面接が終わったら海外ライブツアーの予定ですよ♪ ジンバブエ講演のチケットでしたら今からでも買えますので、ぜひどうぞ♪」
「いや、さすがにちょっと」
 面接官にチケットを勧める文歌、あざとい。
「では、奏ちゃんに質問です。 パパとママを動物に例えると?」
「パパはねー! 黒猫さんに似ているなのです!」
「……そうか? 自分ではよくわからんが」
 昔から黒猫を飼っている快晴。 ペットは飼い主に似るというが、その逆もまたありなのだろう。
「ママは、ペンギンさん!」
「だよね」
ペンギン好きで、集めているグッズをよく披露している文歌。
バラエティだと、ペンギンのキグルミを着ていることもある。
「私も、キグルミ作ってもらったのです! ママとお揃いで着るのです! とっても楽しいのです!」
 奏のキグルミは子ペンギンのそれである。 灰色でモコモコしていて文歌と並ぶと本物の親子ペンギンのようで可愛い。
 快晴も着るようにせがまれるが、さすがに断っている。
「ご両親とも卒業生だそうですが、在学中の思い出は?」
「旦那様との思い出がいっぱいです」
(〃ノωノ)と顔を隠す文歌。
「修学旅行で伊豆に行って、灯台でキスしたり……。 ゲームで合体スキルをつくったり……。 が、合体……」
 顔をポッポッと上気させながら、文歌は甘すぎる思い出を語り続ける。
「……フミカ、自重して」
 快晴の方が赤くなった。
「何が恥ずかしいんだか、そうでないんだか、もう自分でもわかっていませんな」

「好きな遊びはなんですか? 誰とどんな風に遊んでいますか?」
 この質問は、奏へのもの。
「歌が好きなので、友達とよく一緒に歌っているのです。 あと楽器も好きなのです! パパとママがいっぱい買ってくれました」
「ほう、音楽的な英才教育というやつですか」
「そんな大げさなものではないです、ただ音楽は心を豊かにしてくれますので、触れる機会は多い方が良いかと」
「なるほど」
「あと、パパとはプロレスごっこをします、パパは結構本気風味なのです!」
「ほう、奏ちゃんは得意技とかあるのかな?」
「モルモン・シクル・バックブリーカーなのです!」
「モルモ……プロレスの方がエリート教育のようですな」
 たぶん、プロレスマニアでも一部しか知らない技だ。
「……奏、あれはもっと脚の筋肉が固まってからでないとダメだと言っただろう」
「変形弓矢固めの事だね、幼児が片ヒザ1本で相手をリフトするのは危険だよ」
 文歌も格闘技大会に出た事があるので話についていけた。
「先生の方が話についていけなさそうだから、このくらいにして次の質問にいくね。 お友達が大事な楽器を壊してしまったらどうするかな?」
 変則的な質問をされ、考え込む奏。 それから、笑顔で答える。
「ひどいよ、○○ちゃん……ってアイドルの涙を使うのです。相手の子はいたたまれなくなって謝ってくれます。友達はみんないい子ばかりなのです」
「この年頃でもうあざとさを!」
 自分が教えた作戦をストレートに言われ、慌てる文歌。
「あわわ、奏それは言ったらダメですよ!」
「パパが用意した答えにしなさい」
「え〜と、なんだっけ……そっか。 Please apologize to me! Please apologize to me!!と英語で何度も相手に問い掛けます。 英語を知らない友達は驚いてごめんなさいを言ってくれますなのです!」
「それもどうかと……」
 面接官、この一家の個性的な教育っぷりにたじたじである。
 ちなみに直訳では「どうぞ、私に謝ってください!」になる。
「最後にお父様とお母様、学園に質問は?」
「奏が誰かに取られないか心配です」
 親ばか前回の快晴。 文歌がフォローを入れる。
「有名人の子どもとなるとセキュリティーが心配ですから。 その対策はどんな感じでしょう?」
 文歌の質問に、面接官は真面目な顔で答える。
「モルモン・シクル・バックブリーカーが得意なら、たいていの危機は自力で乗り越えられると思います」
「乗り越えるのです〜」
「……あれはダメ。 ハイジャックバックブリーカーにしなさい、奏」
「え〜、ハイジャックバックブリーカーは私がかけてもパパみたいな大人の足は地面についちゃうのです〜」
 幼女離れした部分で不満げな奏。
 思い切り久遠ヶ原的な回答が多かったが、果たして合否は!?


「懐かしいな、三十路過ぎて学生やっていた頃が」
 久々の久遠ヶ原島にサングラスの下の碧眼を潜める男、ミハイル・エッカート(jb0544)。
 相変わらずスーツにグラサンスタイル。今日はベージュのトレンチコートを羽織っている。
「パパ! みんなが僕たちの事、やくざだって言っているぜ!」
 その後ろから、ミハイルと同じファッションの男の子がついてくる。
 ミハイルの子、カオル。 栗色の髪や黒い瞳からは、ミハイルと血の繋がりは感じられない。
 殉職した同僚の子を引き取ったのだ。
「ふっ、気にするな。 パパはもう慣れっこだ」
 ミハイル親子は、お受験としては無謀とも言える格好で面接会場に乗り込んだ。

 少し年配の面接官は、面接資料を見ながらやる気なさげに頷いた。
「あー、ミハイルさんね、知ってる知ってる、ピーマンと戦った人ね」
「そういう伝わり方かよ!」
 ミハイルが島に名を残しているのは、その部分らしい。
「パパはサラリーマンだぞ! 強いんだぞ!」
 カオルはマンが付けばヒーローか、その敵役だと思っていた。
「面接だからね、一応、質問はしとくね、決まりだからね」
 この面接官、どう見てもやる気がない。
「どういうお子さん?」
「見ての通り、俺に似てイケメンだ。 近所の女の子にもモテるんだぜ、赤ちゃんからお婆ちゃんまで幅広いぜ」
「気に食わないね、減点」
 面接資料に赤ペンで“-8万”と書き込む面接官。
「お前の私見かよ! どういう採点基準なんだよ! そして何点満点だ!?」
 ミハイルがツッこんでも、面接官はリアクションが面倒らしく無視。
「次、せがれの方に質問。 このおやじはキミにとってどんなケダモノ?」
「誤解を招くような聞き方をするな!」
 大人たちのやり取りなど気にせず、カオルは元気よく答える。
「白黒ハチワレ柄の猫! この前、道で見かけたんだぜ!黒スーツ着てるみたいだった!絶対にあれはパパだった!パパが変身したんだ!」
「あー、君のおやじ、学生時代は全裸に猫一丁で通学していたらしいよ。 今は、服を着るようになっただけマシだね」
「うそだ! カオル、パパは服をちゃんと着ていたぞ! TV番組で何回かそういうハプニングがあっただけだ!」
 焦りを帯びた顔で、息子に語りかけるミハイル。
 面接資料に何がかかれているかわからないが、父親の威厳がめちゃくちゃだ。
「学生時代の思い出は、やっぱりその件?」
「そ、そんなものはごく一部だぜ。 思い出なんかありすぎて俺の心のポケットが一杯だ」
「全裸だから、ポケットが心にしかなかったんだね」
「うまいこと言ったつもりか!」
 抗議するが面接官は意に介さない。
「次、せがれ。 普段は何をして遊んでいるの?」
「ゴーストタウンでパパと一緒に模擬戦! パパの会社の施設だぞ!」
「そうえば、おやじは今を何している人なの?」
 ミハイル、自身に満ちた顔で答える。
「企業つき撃退士だ、人間の犯罪対応や、お偉いさんの護衛、テロ鎮圧もするぜ」
「危ないことやってんね、TVで売れなくなったんだから仕方ないね」
「可愛そうなものを見る目をするな! TVは元々、本業じゃない!」
「たまに本物の地雷があってドキドキだぜ!」
 必死な父をよそに、カオルは懐から水鉄砲を取り出し、ミリタリー的ポーズであちこちに発砲している。
「この面接の方が、俺にとっての地雷満載でドキドキだぜ」
 面接官は相変わらずマイペースで尋ねてくる。
「せがれはそのおもちゃを友達に壊されたらどうするの?」
 シュシュッとシャドーボクシングするカオル。
「拳で語り合う! 男は言葉よりも物理的ボディー言語が一番だぜ! そしてスッキリしたら笑って握手だ!」
 すると面接官は血走った眼で、カオルの体を眺めた。
「ふ〜ん、調子こいてるみたいだけど先生が本気になったら、キミ……ワンパンだよ?」
「三歳児相手にムキになるなよ……」
「最後に何か聞いておきたい事はあるかな?」
「学食に今でもピーマン入りのメニューあるのか? 撤去しろと学園長に直訴しておいたんだが」
「あの伝説の学生運動ね、学生たちの間にはネタとして広まっているよ、効果は全くなかったけどね」
「チッ、ピーマンVSサラリーマンはピーマンの勝ちかよ。 なら劇場版part2だ! カオル、お前がピーマンを絶滅させるんだ!」
 妙な野望を早くも息子に植え付けるミハイル。
 こんな調子で合格するのか!?


 そのミハイルと同じ部屋に、入れ違いで入ってきたのはラファル A ユーティライネン(jb4620)。
 さっそく怪訝な顔をしている。
「なんだよ? 今、エカちゃんカッカしながら出ていったぞ」
「いいのいいの、はい、はやくドア閉めてね」
「ひよこ、早く入れ」
 ラファルに呼ばれ、ひよこと呼ばれた女の子がピョコピョコと入ってきた。
「ひよこ、よろしく」
 ドアの前で、ぴょこりとお辞儀をする。
 無口系らしい。
 着席すると、面接官はラファルの顔を眺めた。
「あんたはまだTVに出られている人だね」
「なんだよ、縁起でもない事を言うな」
 ラファルは、現在タレントである。 義体タレントという特殊なポジションにいる。
「傷病撃退士や難病者への夢を与えるための仕事なのさ。 サイボーグだとリハビリとかは大変だが、ここまで元気になれることを教えてやるのさ」
「元気すぎるよね、ツッコミでミサイル乱射して、セット破壊するのは教育上どうなのよ?」
「あれは、台本通りなんだよ。 実際にキレて壊していたら、出入り禁止になってらあ」
「ふ〜ん、まあ職業はいいや、ムスメがどんな子教えてみて」
 ひよこのほうを見る面接官。
 母親や面接官と違い、面接らしくかしこまっている。
「いい子かな。 聡明で聞き分けはいいね」
「なんか含みのある言い方だね」
「まーな、まあ誰にだって少なからず事情はあるわな」
 ラファルが何かはぐらかしているので、面接官、今度はひよこに質問する。
「あんたの親を、動物に例えて?」
「……親ぺんぎん」
「見たまんまだね」
 ラファルは親になっても、トレードマークのペンギン帽子をかぶっている。
「ダメ? じゃあ、アカカブト」
「虫かな?」
「違う、どっかの山に住んでいる大熊のあだ名だ」
「怒ると理不尽な暴力をふるって、おっかないけれど納得いくまでとことん付き合ってくれる」
 ひよこが淡々と語る姿に、面接官は眉を潜めた。
「あんたダメじゃない? 四歳児に。 しかも、こんな大人びたこと言わせちゃ」
「親がダメだから子供が成長するんだよ、そういう教育方針」
 面接官、うさんくさそうな顔でラファルの顔を見る。
ラファルはそっぽを向いて口笛を吹いている。
「あんた、この学園に思いでとかあるの?」
「思い出ねえ、義体特待生としてさんざん苦労させられたけれど、良い遊び場だったよ」
「遊びじゃ困るよ、特待生つったら学園がお金出しているんだから!」
「学校は、勉強するところ……」
 面接官はおろか、ひよこにまでたしなめられるラファル。
「はいはい、勉強ね。 しましたー、しましたー」
 そして、このダメ学生丸だしな態度である。 親に話を聞くのは無駄だと面接官は見た。
「ひよこちゃんは、おもちゃを友達に壊されたらどうする?」
「殺す……とまずいので心を折る」
「はあ、間違いなくあんたの娘だね……普段は何をして遊んでいるの?」
「殺し合い」
 四歳児が、とんでもない事を言い出す。
「ラル母さんは本当の親の仇だ。 いつも殺そうとするんだけれど、まだ勝てないからちょっと悔しい」
「どういう事?」
 面接官が水を向けると、ラファルは寂しそうな顔で答えた。
「この子の実の親は、魔界にいたのさ。 俺と敵同士でな。 コガモよろしくどこまでもついてくるからむげにもできなくてな」
「拾っちゃったの? 施設に預ければよかったんじゃない?」
 ラファル、うつむいて首を横に振る。
 その瞳に、ひよこの顔をまっすぐに映した。
「いつかは殺されてやってもいいかもしれないが今はまだそう言う訳にはいかない。 かつて悪魔への憎悪しかなかった俺でも、ここまで変わったんだ。 こいつにもチャンスを与えないとな。 学園での経験を経て、なおも憎悪に飲み込まれるかそれとも……」
「めんどくさい事は、受かってから考えればいいんじゃない? 今年は特に倍率きついよ」
「シビアな事言うなよ、少しはシリアスさせろ」
 ラファルは、適当すぎる面接官にあしらわれた。


 別の面接会場への道。
「あまり変わった所はないわね。懐かしい感じ」
桃色の髪を持つ柔和そうな笑みの女性が、小さな女の子の手を引きながら歩いている
「刻(とき)は、流れるか」
 緑の髪の青年は、小さな男の子の手を引いていた。
 かつて二十四時間営業のコンビニだった建物に、シャッターが下りている。
 生徒数減少の影響だろう。
 妻はの名は翡翠 雪(ja6883)、夫の名は翡翠 龍斗(ja7594)。
 学園在学中に学生結婚を果たした夫婦である。
「どれが学校なのかな? 紅霞(こうか)」
「島全体が学校なんだよ、青嵐(せいらん)は何にもしらないんだから」
 二人の間には、双子の男女が生まれた。
 紅霞の方が姉、面差しは母親に似ているが、雪と比べると少しクール。
 弟が青嵐、髪の色は母や姉と同じだが、目の青さは父から継いでいる。
「私だけ合格したら、私だけご褒美もらえるよね!」
「ええ、それはひどいよ〜」
 強気な姉に対し、弟はやや不安そう。
「それが一番怖いな、出来れば二人揃って合格してくれ」
「その時は、その時よ」
 夫婦も妻の方が落ち着いている、この家は女性が強い。
 雪は相変わらず翡翠家のラスボスだった。

 面接室に入ると、なぜか面接官はキャッチャーマスクとプロテクターを付けていた。
「あの……なんです、その恰好は」
「翡翠夫妻は、人前で殴り合いを繰り広げた恐ろしい夫婦だと聞いたもので」
「情報が歪んで伝わっているな」
 確かに翡翠夫妻は、島の格闘大会で夫婦対決を行って話題となった。
 しかし、常日頃から殴り合いをしていたわけではない。
 むしろ夫婦仲は、当時から今に至るまで良すぎるくらいに良い。
「大丈夫なんですね、ああ、よかった」
 面接官がマスクを外すと、気弱そうな若い眼鏡男の顔が出てきた。
「ご両親の現在のご職業からお願いします」
「俺は撃退局に務めています、直属の撃退士です」
 龍斗、面接ではちゃんと敬語を使う。
「ほう、エリートさんでいらっしゃる」
「パパは、しょーたいちょーさんなんです」
 青嵐が誇らしげに横から口を挟んだ。
「ほう、小隊長ですか。 角を付ければピンクなら三倍の速度になりますね、緑だと出力30%増し止まりですが」
「量産機の無駄知識はいりません」
「奥様の方は?」
「私は専業主婦です、家を護る盾ですね」
 盾の一族出身の雪、主婦業を盾になぞらえる。
「小さいお子さんが二人ですと、大変でしょう」
「そうですね、でも、主人と子供の笑顔を護る事が仕事ですから」
 相変わらず夫を立てている。 さすがはラスボスである。
「では次は、お子さんたちに質問です。 お父様、お母様を動物に例えるとなんですか?」
 すると双子は声を揃えて答えた。
「父さんは草食系ドラゴン、母さんは肉食系ウサギ」
 微笑ましげに笑う面接官。
「ハモったねー! どういう意味かな?」
「お父さんは怖そうで、お母さんは優しそうだけど、お父さんはお母さんにかなわないです。 怒られる時は、食べられちゃいそうな顔をしています」
 紅霞の回答に、青嵐が口を差し込む。
「知ってるー! ボク達が見てないところで、父さんが母さんにご飯を食べさせて貰ってるよ」
 顔を赤くして俯く夫妻。
「見ていたのか」
「ミラレテマシタネー」
「では、お父様から見て、青嵐君はどんなお子さんですか?」
「青嵐ですか……大人しくて、甘えるのが下手ですね」
「その辺りは、お姉ちゃんの方が上手よね」
「でも青嵐の方は礼儀正しい。 紅霞はやや慇懃無礼なところを直していかないといけないと思っています」
「インギンブレイってなに?」
 四歳児にこの四字熟語は難しい。
「お母様から見ると、お子様たちは?」
「可愛い子達ですよ。 この子達の将来が、今最高の楽しみですね」
 穏やかな笑顔で答える雪。 柔らかな両掌は、双子の頭を撫でている。
「ではまたお子さんたちに質問です。 二人は、いつもどんな遊びをしているかな。 一緒に遊んだりする?」
 青嵐が先に答えた。
「しますー! 母さんに盾を使って遊んでもらってます」
「青嵐、あれは武術の稽古なの!」
「私もそうやって育ったもので、盾の一族の伝統なんです」
 盾を起点とした戦い方を雪が教えているらしい。
「他にはどんな遊びをするのかな?」
 今度は紅霞が答える。
「鬼ごっこが好きです」
「誰と鬼ごっこするの?」
「近所のお友達、あとついでに青嵐」
「ついでってなんだよ!」
 紅霞弟の不服申し立てをスルーして、自分語りを続ける。
「鬼の方が好きだからじゃんけんわざと負けるの、追いかけられるより追い詰めていく方が楽しい」
 うんうんとうなずく龍斗。
「この通り、うちの女性陣は肉食気質なんです」
「男性陣は草食よね」
「お父さんの髪、草の色だもん」
「そういえばピンクは、新鮮な肉の色――そうか、髪の色で俺の人生は決まっていたのか」
 子供の面接で自分の運命を発見をしてしまう龍斗だった。

「ご両親とも卒業生だそうですが、学園に思いではありますか?」
 この質問に雪と龍斗はやや恥ずかしそうに答えた。
「そうですねー、龍斗さまとの出会い、沢山の人との出会いと、成長ですかね」
「雪と出会い、恋仲になり結婚できた事です。 学園に来て、初めて温かな日常を知ることができたんです」
「仲のよいご夫婦ですねー」
 面接官が呆れるほどの砂糖をまき散らす夫妻。
 すると青嵐がとんでもない事を言い出す。
「母さんと父さんは今でも二人でお風呂に入ったり、裸でベッドで寝ていr」
 龍斗の手が、疾風突きよりも速く動き青嵐の口を塞いだ。
 雪は赤くなり、面接官はにやにやしている。
「そういう時は、スルーしてあげるといいよ。 そしたらコウノトリさんがキミたちに弟か妹をプレゼントしてくれるかもね」
「そういうフォローはいりませんから、面接官さんがスルーしてください」

「お子さんたちに最後の質問です、お友達におもちゃを壊されたらどうするのかな?」
 先に紅霞が答える。
「壊れた物は仕方がないかな、そんな事より他のもので遊ぶね」
「ふむ、さばさばしているね。 青嵐君は?」
「泣かずに我慢します」
「文句は言わないの?」
 面接官に尋ねられると、青嵐は無言で頷いた。
 それを紅霞が指差す。
「でもねー! 青嵐はあとでこっそり泣くんだよー!」
「言うなよ!」
「その時、紅霞ちゃんはどうするの?」
「うっとおしいから蹴る」
「強いおねえちゃんだなー」
 面接官、雪、龍斗三人で苦笑。
 青嵐だけが姉を恨みがましげな目で睨んでいた。

「最後にお父様、お母様から学園に質問はありますか?」
 龍斗が尋ねる。
「昔のように、途中で辞めた場合、違約金は発生しますか? 子供の自主性を尊重したいので念のため」
「ないですね、もう戦時下ではありませんし、学園も昔より潤っています」
 面接官の答えに、小さく首を傾げる夫妻。
 政府からの援助金も戦争終結とともに減ったはずだ。
 学費は相変わらず無料。 どうやって財政を潤わせているのだろう。
「私からも質問です……ほとんど、個人的な関心なんですが、まだ科学室の『実験』は盛んなんですかね?」
「ああ、ご夫妻はあの時代の」
「はい、あの先生はお元気ですか?」
 すると、面接官は神妙な顔でうつむいた。
「あの先生は、ご夫妻が卒業されて数年後に実験中の事故で……」
 言葉を詰まらせる面接官。
「そう……ですか」
「お世話になりましたのに」
 沈痛な面持ちで俯く夫妻。
 しばし後、面接官が詰まっていた喉の奥から言葉を取り出す。
「増えました」
「え?」
「あの先生、増えました。 ものすごく増えました」
「あの先生が、増えた?」
「おかげで久遠ヶ原学園は世界一の製鉄所になっています。 財政面では問題ありません」
 戦争が終わっても、無料で学べる名門校。 その秘密は恐ろしいものだった。


 そして合否発表。
 まずは雫家の恭也。
“雫が野生で育てた方が強くなりそう”という理由で不合格。
「そんな理由ですか!?」
 そんな理由なのだ。 久遠ヶ原学園は個性を殺す教育はしない。
「しょうがないですね、一から鍛え直しますよ……まずは全力の私とバーリトゥードで」

 続いて、水無瀬家の奏。
 プロレス教育とあざとさ教育を買って合格!
「さすが奏、あざとさも個性なのですよ!」
 功績は両親ともにあるが、今回は将来、奏にモルモン・シクル・バックブリーカーをかけられそうなパパに評価を置く。
「……鍛えておかないと、病院送りだな」

 エッカート家のカオル。
 親子二代でピーマンと戦う復讐劇を見たいという理由で合格!
「劇場版ピーマンVSサラリ−マン2! 構想十年の大作だぜ!」
 実際のところ、猫をパパの変身だと思い込む三歳児らしさが評価を受けた。
 子供は純粋素直が一番である。

 ユーティライネン家のひよこ。
 残念、不合格。
 学園で習得させた技術で親を殺されたら、教えた教師はたまったもんじゃないのだ。
「そこを何とかするのが教育じゃないのかよ?」
 教育よりもラファルが一刻も長く一緒にいて、愛を注ぐ方がひよこには重要。
 戦闘技術だけを、先に伸ばしてしまうのは危険である。

 そして、翡翠家の紅霞と青嵐。
 なんと、青嵐だけ合格!
「やった! 紅霞に勝った!」
「え〜、青嵐だけご褒美〜!?」
 青嵐を鍛え上げて、下克上をさせてやりたいというのが合否判定理由。
 主に青嵐担当のようなので、父・龍斗に評価を置いた。

 今年のお受験戦争は終わった。
 合格不合格にかかわらず、子供たちには輝かしい成長の春がやってくる。
 果たして彼らがどんな風に育つのか、親たちは胸を高鳴らせて見守っている。


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