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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/04/05


みんなの思い出



オープニング


 アウル異種格闘技NBD、即ちネットブレイクデスマッチ。
 二代目アウル格闘王の座を賭けた本戦が、ついに始まろうとしていた。

 協会本部で、いつもの如くクレヨー先生と、ホセが打ち合わせをしている。
「今回はどういう方式で格闘王を決めるんだな、個人戦、団体戦?」
「本戦大会は六回開こう、個人戦、団体戦、称号戦を順番にやっていく予定だ。 他に面白い方式を思いついたらそれを実行するかもしれないね、最初は個人戦で勝利者に10Pだ」
「ポイント制にするんだな?」
「そう今回はこの10Pだけだが、後々の試合では個人勝利の10Pに加え、いろいろな条件で加算ポイントが加わるようにする。 六回終わった時点で最高得点の者が格闘王だ。 スタートダッシュに成功したものは有利だが、後から参加したものや、晩成型のものにも逆転の機会があるようにしたい」
「なるほど、いずれにせよ初戦は大事だし、みんな頑張ってほしいんだな」
 というわけであっさりと本戦開始。

 以下は出場者必読のNBDマガジンになる。
 前回までの号と同一の記事はタイトル前に“★”マークが、新規記事には”☆”マークがついている。

 重複する部分もあるので、新規の記事や更新された部分にはタイトル名に”☆”マークを付けておく。 前号までと同じ記事はタイトル名の前に”★”マークである。
 なお今回の新規項目は” フィニッシュブロー(FB)を確立させるべしver2”” アウル技は強いver2”“☆7・有効な技とその対策ver.2”“☆8・使う技のビジョンはくっきりと!”となる

●NBDマガジン四月号

☆1・フィニッシュブロー(FB)を確立させるべしver2
 相撲で自分の”型”を持つ力士が強いように“この技で決める”というものを持っている選手は強い。
 自分の中でFBを定めてしまえば、技に磨きがかかり威力が増す。
 決め技はリングから相手を弾き飛ばすための技でも良いし、戦闘不能やギブアップに追い込むための技でも良い。 とにかく“自分にはこれがある”と断言できるFBを一つ見出すべし。
なおアウル技でないと威力不足。

★2・決め技を決められる状態に持ち込むべし
 「FBだけ磨いて、試合開始直後にいきなり決める」というのは流石に困難である、
 そこで、決め技が成功する状態に持ち込めるよう、試合を組みたてる必要がある。

【序盤は打撃戦を挑み、その中で相手の右腕を掴む。 関節技に持ち込み、相手の右腕を封じる。 その状態で右脇腹を狙ってエアロバーストブローを打ち込み、リング外に吹っ飛ばして勝利】

 といったものが、単純ではあるが流れの一例である。
 むろん、多くの試合はここまで自分の思い通りには展開しない。
 相手も、やはり自分の流れに持って試合をいこうとするからだ。
 そこで、次項の対策技が存在感を帯びてくる。

★3・対策技で相手の流れを潰すべし
 関節技が得意な相手に対し、ゼロ距離発射可能な打撃技。 蹴り技が得意な相手に対し、足をとっての関節技。 など、対戦相手に会わせて対策技を用意することにより、相手が掴みかけたペースを崩し、試合の流れを有利に変える事が可能である。
 さらにはそれらの対策技に対して、さらなる対策技を用意し、自分の流れを押し通すタイプの闘い方も有効だ。
 対戦前に相手の格闘スタイルを予測して作戦を立てよう。

 ただし、対策技ばかりを用意していて自分の格闘スタイルが見えなくなるのは本末転倒なので、バランスには注意が必要である。

★4・FBに至る流れを複数用意しよう。
 FBに至るまでの流れを潰されてしまい、そこから攻め手がなく崩れる戦いが多い。
 この手がダメなら次はあの手。 FBは一つでもそれに至る道は複数用意しよう。

★5・相手のFBを予測的中させると!?
 相手のFBを予測し、それに対する有効な防御策を用意しておくと形勢が一気に逆転出来る。 FBは渾身の力で放つ技ゆえ、破られた時の影響も大きいのだ。 予想を外すと完全な空振りとなるので必ずというわけではないが、一発逆転を狙いたい場合は予測してみてもよいかもしれない。

☆6・アウル技は強いver2
 アウルスキルで強化した格闘技(アウル技)は、使用していない格闘技(ノーマル技)に比べると圧倒的に強い。
 回数制限があるとはいえ、出し惜しみをしていると流れを掴まれ、負けてしまう。
 相手が全力で来るなら、自分も全力!
 アウル技は最初から、出し惜しみなく使うべし。
 またベースになる技とスキルとの相性にも注意が必要。
例:ブレーンバスター・オーガ
 相手の肉体を武器に見立て“鬼神一閃”を乗せたプロレスのブレーンバスターを放つ。

☆7・有効な技とその対策ver.2
 ここまで累積した試合データでは以下の事がわかっている。

・ダメージ系のFBには”不撓不屈”などの蘇生系が有効。 相手の渾身の一撃に耐えて、まさかの逆転が狙える
・その蘇生系を使う相手に対しては関節技や、極め技でじりじり体力を奪う戦術が有効。投げ技でRO(リングアウト)でも蘇生技を事実上無視できるので有効。
・アウルを利用した投げ技はRO(リングアウト)勝ちが狙えるので強い。 現在のFBはこれが主流となっている。 対策技の開発が望まれている。
・予測系の技はどれも強い。 ただし、以下のような使い分けが必要。
予測攻撃……後の先を狙える。他のものより安定性がやや低い。
予測防御……確実性の高いブロック。痛打のスキルなどに弱い。
予測回避……回避狙い。状況により回避が間に合わない場合あり。
予測連撃……二連撃の可能性。反撃手段がしなる打撃に限定される。

なお予測されていると気づいたら下手に手を出さず、相手のスキルが切れるのを待つという対策がある。

☆8・使う技のビジョンはくっきりと!
 単に「こういう時は関節技を使う」「投げを使う」という曖昧なビジョンよりも「脇固めを使う」「DDTを使う」と具体的な技を思い描いた方が強いぞ!

★金網リングについて
 6.5m四方の土の闘技場に、特殊金属の金網をかぶせたリング。
 金網の網の目はひし形になっており、網を伝っての上り下りも可能。
 金網は弾性のある特殊合金で出来ており、ぶつかるとプロレスリングのロープのように伸びる。 
 ただし弾性を越える圧力が加わるととたんに砕ける。
 リングを覆うネットの弾性や砕けやすさは場所によりまちまち。
 ただ、脆い部分でも自分からぶつかった場合、壊れる事はまずない。
 威力のある必殺技で相手を吹き飛ばした時に、壊れる可能性がある。

 屋根部分の金網のみ別の弱い金属で出来ており、体重40キロ程度の者なら雲梯のように移動可、体重60キロ程度の者なら数秒間なら何とかぶらさがれるレベル。 それ以上だと重みのみで千切れる。

 レフリーがリング外におり、阻霊符で透過スキルを防止している。
 透過スキルは事実上使用不可。

 以上、勝利の方程式と舞台の特性を心に刻み、勝利を目指してリングに臨んで欲しい。


リプレイ本文


 NBDはついにアウル格闘王の座をかけた本戦に突入。
 雪ノ下・正太郎(ja0343)に続いて誰がその称号を手に入れるのか、あるいは雪ノ下が二大会連続の覇者となるのか?
 会場にはその始まりを見ようと、満場の観客が詰めかけている。

 一回戦、意外な顔がリングにあがる。
 川澄文歌(jb7507)。 歌や、バラエティで活躍しているアイドル撃退士である。
 フリル付アイドル系水着に包まれたスタイルと笑顔が観客を魅了する。
「格闘界のニューアイドル、颯爽登場です☆」

『文歌ちゃんがNBDに参戦してくれるとは意外なんだな』
『一年ほど前に、リングカーを使用してプロレスを見せてくれたことはあったが、それからずっと稽古はしていたらしいね』
 実況のクレヨーやホセは、文歌がリングにある程度の素養を持っている事を知っている。
『しかし、プロレス娘の愛ちゃんの相手になるのかな』
 相手は、桜庭愛(jc1977)。 青い水着姿で、長い黒髪を靡かせながらリングイン。
「可愛いアイドルレスラーな文歌ちゃんと闘えて、うれしいな」
「私もだよ、愛ちゃん」
 健闘を約束する二人。
 本戦最初のゴングが響いた。
 初手をとったのは、愛。
 左右のフットワークを活かしながら得意のローキックで攻める。
『愛ちゃん得意の戦術からスタート!』
『ここから寝技にいくのが愛ちゃんスタイルだね……ああっ!』
 実況が声をあげたのは、愛に比べれば素人に近い文歌にローキックが破られたためだ。
 文歌は、ローキックと見るや前へ踏み込み、クリーンヒットを避けた。 同時に掌底を繰り出し、愛からカウンターをとったのだ。
 狙いとは逆に愛の方が転倒。
 空中に舞った文歌が空中に飛び、倒れた愛に背中浴びせる。
 文歌、セントーン!
「はぐっ」

 色めき立つ実況席。
『文歌ちゃんは可愛いだけじゃなく頭がいいんだな。 愛ちゃんの過去の戦い、ローキックからの関節技を研究して、そのカウンターを用意していたんだな』
『日本でいう知勇兼備、いやさ、彼女の場合は知勇兼美と呼ぶべきか』

 セントーンを決めた文歌だったが、これはとっさのもの。 練度を高めた技ではなかった。
 愛はすぐに立ち上がり、膝蹴りで反撃!
 文歌の腹に食い込む。
「はうっ」
 愛は転倒した文歌の足首を掴み、捻って体を反転させた。
『逆エビ固め!』
 そこから、文歌の両足の間に、自分の足を差し入れ足首のロックを強化する。
『から、サソリ固めへ!』
 しかもこれには、”痛打”のスキルがかけてあった。
「私の必殺、”痛恨固め”だよ……ギブアップ?ギブアップでしょ?」
下半身を引き伸ばしながら、降参を尋ねる愛。
 文歌は、目じりに涙を浮かべつつも首を横に振る。
「うぅぅ、痛いよぅ……でも私、耐えてみませますっ」
 文歌のけなげな姿にファンからコールが起きる。
「文歌! 文歌!」
 コールに呼応するかのように”聖なる刻印”が文歌の背中に浮き出した。

 リング下選手席でもその光景を控え選手たちは見ていた。
「……スタン回避?」
 染井 桜花(ja4386)が文歌の背中を見て呟く。
「痛打対策だな、だが、サソリ固めの痛みそのものを防げるわけじゃない」
 狼マスクのフェンリルこと遠石 一千風(jb3845)の言葉通り、聖なる刻印で関節技が外せるわけではない。
 文歌は痛みに耐え続けた。

 愛は技を解いた。
 文歌は痛みでぐったりしている。 ここからFBに持ち込もうという判断だ。
 愛は、力を込めて文歌に逆さまに抱きついた。
 そのまま、文歌の体を持ち上げて空に飛翔する。
「プロレスのルールじゃないってわかっているけど、私は美少女レスラーだから。試合を決める時はプロレス技で終わりにしたいんだよ」
 フォールはとれなくともKOや、ロイヤルランブルのようにリング外に投げてしまう等、いくらでも勝つ手はあるのである。
 愛は、杭を打つように文歌の頭を地面に叩きつける。
『パイルドライバー!』
 これはただのパイルではない。 “薙ぎ払い”を改良し、確立させたFBである。
『これは決まったんだな!?』

 決まった。 だが、文歌は立ち上がった。
「まだだよ、ピィちゃんの魂が私に力を貸してくれるよ」
 ピィちゃんとは青い鳳凰の姿をした文歌の召喚獣の事。
 ”起死回生”のスキルで文歌は立ち上がっている。
 実際に呼んだわけではなく、ピィちゃんはイメージだけだった!
 残りわずかな力を注いで、打撃戦に持ち込む。
 打撃戦に応じ、突きを繰り出す愛。
 文歌は愛の突きを躱すと右腕をとり、背中に乗せるように投げを打った。
『この形は柔道の一本背負い!』
 クレヨーの解説は、完全に正確ではなかった。
 文歌は自身を盾に見立てていた。
 アウルをまとわせた体を振りぬき、愛の体を弾くように投げる!
「アイドルマスドライバー!」
 マスドライバーの名の如く、長距離射出を目的とした投げ技!
 その威力に愛の体がリングを破り、リング外へと落ちた。
 文歌、見事に初戦をRO勝利!
「これがアイドルの力ですっ」
 文歌は笑顔で右腕を天に掲げた。
 会場に文歌コールが起こる
 相手の戦法を読み、適切な対策を用意する知恵。 自分のやりたい事を思い描き、実現させる勇気、文歌は知勇のバランスが優れていたのである。


 バランスとかそういう問題じゃないだろうという光景がリング上に展開されていた。
「私ィ……。 こんなに小柄でェ、か弱い身体なんだから皆ァ、手加減してねェ♪」
 新参戦の黒百合(ja0422)である。 140cm、40kg。
「お、おう」
 対するは、阿岳 恭司(ja6451) 183cm、100kg。
「なんというやりにくい相手だ」
 阿岳は黒のショートタイツにリングシューズスタイル、今日はATAKEでもチャンコマンでもなく本名で参戦。
 本気の証だが、これは出鼻を挫かれる。
 黒百合が差し出した握手に、阿岳も紳士的に応じる。 応じざるをえない。
 会場のアウェイ感がやばいのだ。

 ゴング!
 開始と同時に黒百合が突撃してくる!
 心中でほくそえむ阿岳。
 黒百合はパンチを入れてくる。
「速い! だが、軽い、そして……正当防衛、成立!」
 先に殴られたなら、殴り返しても罪の意識は軽いという論理。
 黒百合の攻撃を受けつつ、ローを浴びせる。
「くっ」
「顔をしかめる黒百合」
 2.5倍体重がある相手からの蹴りはきついはず。
 阿岳だって、自在に動ける250kgの相手とやる事を想定するとぞっとする。
 だが、ひるまず黒百合は果敢に掌底を、膝を連続で入れ続けてくる。
 阿岳も突き離して自分の距離を作っては、蹴りで膝や踵を狙うという戦術で反撃。
 手数こそ黒百合が多い、だが数を絞る代わりに、関節を狙って打撃を入れたのである。
 手足の動きが鈍り始めたら、関節技でトドメを指すのが阿岳の作戦。
 しかし、黒百合の動きが一向に鈍らない。
「どうしたのぉ? もっと楽しみましょお……♪」
「?……そうか!」
 服が邪魔で見えなかったが、おそらく黒百合は回復スキルを使っているのだ。

(気付いちゃったかしらぁ……?)
 ここまでは気づかれなかったが、黒百合は”吸気拳”という技を使っている。
“リジェネレーション”で傷を再生させながら殴る事で結果的に、相手の体力を奪い自分は回復していくという技だ。
 まともに殴り合って勝てる体格差ではない以上、回復力で補うしかない。
 ボディに打ち込んだ拳のいくつかに” 破口拳”と名を付けたものを含めた。
 そこに込めた仕掛けにも、阿岳が気づいたかが問題だ。
「ならば!」
 阿岳が後ろに飛び退いて距離をとった。
 戦術の軌道修正をしたらしい。
 黒百合は改めて吸気拳をかけなおす。
 回復しながらの攻撃とはいえ、まだまだダメージは大きい。
「逃げちゃうのぉ……? つれないわぁ……♪」
 黒百合、今度は上を狙う。
 身長差をカバーすべく陰陽の翼を広げる。
 飛行して阿岳より高い位置から回し蹴りを喰らわせるのが狙い!
「あらぁ……?」
 気づくと阿岳は真下にいた。
“逆風を行くもの”で間合いを詰められたのだ。
 阿岳のジャンプハイキックが、空中の黒百合を襲う!
「てい!」
 とっさに腕でガードする黒百合。
 だが体重差は大きく吹き飛ばされ、地上に落ちる。

 着地した阿岳は、倒れている黒百合に襲い掛かった。
「今だ」
 今のハイキックには痛打がかけてあった。スタンしている今こそ、関節技のチャンスなのだ。
「幼女に乱暴するなー!」
「何を本気になっているんだ、大男!」
 会場からブーイングの嵐が吹き荒れるが、阿岳は逆風をゆく。 ヒールレスラーの経験も持つ男だ。
 黒百合の小さな体に掴みかかる。
「あはぁ……♪ ひっかかったぁ……!」
 倒れていた黒百合がいきなり起き上がり、掴みかかろうとした阿岳の顎にパンチの連打を浴びせてきた。
 阿岳はその手を離す。
「スタンしていなかったのか!?」
 言われてみればと阿岳も気づく。 先ほどのハイキックに込めた”痛打”自体が発動していなかったのだ。
 ガードに”シールドバッシュ”でも込めてあったのだろう。
「それよりィ……効いてきたみたいねぇ……♪」
 くすくす笑う黒百合の視線に阿岳は気づく、視線の先にあったのは鍛え上げてきた阿岳の胸と腹。 それらが、焼けただれたように変色している。
「俺の体が!?」
「私の破口拳よぉ……♪」
 さきほどの攻防で黒百合は”アシッドショット”のスキルを拳に込めていたのだ。 阿岳の肉の鎧を腐食させるために。
「く、まて!」
「待たなぁい……♪」

 黒百合が体にアウルを纏わせ、三連撃を放った。
 特に名前はない”デスペラードショット”をかけた連続パンチである。
 腐敗しかけた阿岳の肉体にそれが食い込む。
「ぐああぁ」
 激痛! 大男悶絶!
 だが、黒百合は残念そうな顔。
 実は吹っ飛ばしてリングアウト勝利を狙っていたのだ。
「体重差って厳しいのねぇ……。 でも、これでKOしてくれればぁ……」
 巨漢に渾身のFBを放った黒百合はふらふら。 ある程度は回復したとはいえ、重い打撃を受け続けた手足も疲弊している。
 だが、結果は期待したものではなかった。
「プロレスラーはもっと厳しいぞ!」
 声とともに鋭いローキックを阿岳が飛ばした。
 またも痛打入り! 
転倒する黒百合。
「一度じゃ倒れられんのよ!」
 阿岳は”起死回生”で立ち上がった。
 倒れた黒百合を掴み、両足の間に足を入れる。
 ここから入れる技は?
「私と同じサソリ固めです!」
 狙いは愛の言う通りだった。 阿岳的にはシャープシューターというもう少しオサレな名前だが。
 黒百合の両足を掴み、捻って裏返しにする。
 そのまま腰を落とす。
 さらに”外郭強化”のスキルを使ってロックを万全にした。
「FBウォール・オブ・チャンコ完成だ!」

「くっ……」
 黒百合は、極め技に反撃の手段として、回避射撃で掴みかかってきた腕を払うというものを用意していた。
 だが、今の体勢からはどうやってもそれが出来ない。
「散々、”徹し”やら”発勁”で関節技が破られてきたからな、私も技選びに努力したさ!」
 黒百合に暇を与えず、一気に折る!
 じわじわと痛めつけるためではなく、KOのための極め技!
 黒百合は声もなく気を失った。
 だが、初挑戦で体格差を知恵で埋めての健闘、MVPである。

 勝者・阿岳がマイクパフォーマンス。
「俺はプロレスが最強と言う事を証明しにこのNBDで闘って来た!だから今回はいつも通りだったけどよ、次からは俺のプロレスの引き出しを、一段ずつ開けていって、このトーナメント全勝してやるよそして!あのベルト、今度こそ必ず、俺が!巻いてやる!楽しみにしとけいいか!一番すげぇのはな!プロレスなんだよ!イヤァオ!」
 テンション高く腕を天に掲げた阿岳だったが、
「自分の半分もない娘に勝って喜んでんじゃねー!」
「幼女に乱暴するなー!」
 空き缶やらペットボトルを投げつけられる。
「勝ったのに、またボロクソに言われた……」
 団体戦に引き続きの仕打ち、不憫である。


『もっと不憫な人が来てくれました! ザ・不憫! 浪風悠人ーっ!』
 マイクから響いた声に、顔を青ざめさせる浪風 悠人(ja3452)。
「なんですか、その選手紹介!?」
 今日は黒タンクトップとボクシングトランクスというスタイル、眼鏡はかけていない。
 リングに入ると待っていたのは、穏やかな表情の女性、翡翠 雪(ja6883)だった。
「この時が来るのを、心待ちにしておりました」
「ああ、貴女とは本気で死合いたかったんだ」

 解説席では、二人のデータをモニターに表示している。
『雪くんは前回、八極拳で旦那さんと激戦を繰り広げたね』
『二人とも強かったんだな』
『浪風君の方は、どんな流派かな?』
『我流喧嘩空手とあるんだな、空手を基にした自己流という事かな?』

 リング上の浪風は、空手に似た構えをとっている。
 一方の雪は震脚と呼ばれる八極拳の基本動作に入ろうとしていた。 
「全霊でもってお相手します……いざ」
ゴング!
先に仕掛けたのは浪風!
 潜るような姿勢で突っ込む。
 アウルを身にまといつつ、中段突きを雪の鳩尾に仕掛けた。
「鳩墜撃!」
 雪、それを十字受けでガード。
 しかも、発勁壁と呼ばれるアウルの鎧をまとう技で防御力を高めている。
 ダメージは薄い。
 だが、気づけば雪の体はネット際に追い詰められていた。

「ガードしたのに吹っ飛びましたよ!?」
 驚く文歌。
「仁良井 叶伊(ja0618)が、豊富な経験から浪風の拳を分析する。
「おそらく、何らかのスキル”ウエポンバッシュ”辺りが突きにかけてあったのではないでしょうか?」

「もう一発!」
 浪風がさらに追撃のため間を詰める。
 その間に雪は” 震脚”を為し、迎撃準備を完遂していた。
 体を開き、放つのは掌底!
 開拳と呼ばれる八極拳の技だ。
 だが悠人は、それを左腕で払う。
 再び、“鳩墜撃”を雪にめがけて放った。
 雪もそれを腕でガードするが、ふっとばされる。
 衝撃に、伸びるネット。
 すわ決着かと思われたが、ネットは雪の細い体を受け止め、弾性でリング中央付近にまで押し戻した。
『これは軽量級の強みだね』
『僕なら今ので終わっていたんだな』
 実況を聴きつつ、ネットの反動で跳ね飛ばされた雪は、悠人の右側面をとっていた。
 間合いを詰めると震脚からの肘打を放つ。
 悠人はとっさに向き直り、再び” 鳩墜撃”
 肘が悠人の胸に、鳩墜撃”が雪の脇腹に入った!
「ぐっ」
 雪は、さきほどよりも大きく吹っ飛んだ。
 アウルの鎧が、ダメージを軽減してくれてはいるが、攻撃に意識が集中している時ゆえ、防御がおろそかになっていたらしい。
 再びネットにはじき返される雪、距離をとって悠人に語りかける。
「強くなりましたね、悠人様」
「あの時は実力を出し切れなかったからね、全力でやり合える日を待ち望んでいたよ」

 実況席でホセが首を傾げる。
『はて、何か因縁があるのかな、あの二人は』
『僕にもわからないだな。 でも、口ぶりからして、昔、悠人君は少なくとも勝てなかったように聞こえるんだな』
リングの中、雪は熱っぽい眼で浪風を見つめた。
「ある意味、夫よりも待ち望んだ相手、ここに来て間もない頃に、手を差し伸べてくれた悠人様。 貴方と戦えて、私は間違いなく高揚している。 この一瞬を、楽しみましょう全力で」

 選手席で、雪ノ下は真顔だ。
「意味深な台詞に聞こえるんだが」
 慌てる文歌。
「あわわ、そんな事ありません! 雪さんは天然なだけです。 悠人さんも奥様以外は、メガネに入りません!」

 そんな勘繰りとは別にリング上では激戦が続く。
 押しているのは悠人だ。
 浪風の攻撃にはアウル技を混ぜてあるが、雪の攻撃にはそれがない。
 スキルは、防御に傾けているのだ。
 回復や防御をしていても、少しずつダメージは蓄積されていく。
(やむえません、悠人様には隙が見当たらない)
 乾坤一擲に賭けるべき時が来た。
 つまりはFBによる、一撃決着。
 雪のFB金剛掌は、”粛清”を乗せた手刀を全力で打ち下ろすものである。
 単純な分、技の出が早い。
まずは靠撃、八極拳の技で背中をぶつける。
「うっ」
これは浪風のガードを崩すだけの目的。
そこに、金剛掌を打ち込んだ。
「悠人様、ご覚悟!」
 狙うは悠人の眉間!
 身長差は20cm、右腕を真上に伸ばせば十分に届く。
 だが、その瞬間、浪風は動いた。
 迫りくる手刀に、頭をぶつけてくる!
 返砕撃。 これは”肉を切らせて…”を乗せた頭突きである。
 悠人にとって打撃カウンターの切り札だった。
 ぶつかりあう手刀と、頭。
 雪の手刀に痛みが走る。
 同時に、浪風の額が割れる。 紅血が滲み出した。
 浪風は、ふらりとした。 が、一瞬だけですぐに立ち直る。
 前回は、一撃で夫を昏倒させ蘇生技に追い込んだ金剛掌だが、悠人には効果が薄い。
 原因は二つある。 一つは位置エネルギー、前回は夫が座り状態の時放ったため、雪の方が高い位置から攻撃出来たのだ。 今回、悠人は立っている。 もう一つは相性、いわゆるカオスレート差が、夫とほどはないのである。

「勝たせてもらうよ」
 浪風は己の左手の甲に、熱と光を感じた。
 渾身のエネルギーをそこに集中させる。
 身を渦に変え、負傷している雪の右側面をめがけそれを振りぬいた。
 裏拳が雪の右肩に当たった瞬間、蓄積していた力を放出する。
「壊転撃!」
 裏拳から”封砲”が放出される。
「はあっ!」
「……!」
 ほとばしる熱と閃光!
 雪は、それをこらえようと足を踏ん張る。
 浪風としては、このままネット外にふっとんで欲しい
 光が晴れた後、そこに現れたのは雪の笑顔だった。
「悠人様、お見事です」
 ノックバック力はなかった だが、威力としては十分すぎたはずである。
 アウルの鎧はもう切れている。
 おそらくは、”起死回生”で耐えたのだろう。
 再び攻撃がくるか。
 力を解き放った今の状態で受け切れるかと構えた浪風、だが、
「……失礼ながらここは、降参させていただきましょう」
「降参?」
「はい、用意した攻め手が不足だったようです。 仮に全力の金剛掌を当てても悠人様は根性で耐えてしまうでしょう――あまり無理をすると夫が心配しますので」
「わかった、対戦してくれてありがとう」
リング上で爽やかに握手をする二人。
 観客から惜しみない称賛が、降り注いだ。

『前回、雪ちゃんが出てきた時も強い子が来たなと思ったけど、浪風君も逸材なんだな』
『自己流だなんてもったいない、これは立派に流派だよ』
 実況席からも称賛され、照れて頭をかく浪風。
「そうですか、でも特に名前ってないんです」
『ふむ、浪風君が主力に使っていたのは” 鳩墜撃”だったね?』
「そうです」
『だったら”クルックー空手”というのはどうだろう、浪風君、色も鳩っぽいし』
 ホセに勝手な名を付けられ、青ざめる浪風。
「なんですかそれ、鷹拳とか鶏拳とかは実在しますけど、なんで鳴き声なんですか? 色なんか髪色だけじゃないですか!?」
 勝ったのに、不憫なのは変わらない。


 四戦目。 狼マスクをかぶった女レスラー、フェンリルが手を拘束する鎖を断ち切る。
「ウォーーン」
(連敗の流れを断ち切って、弾みをつけたい、大事な一戦だな)
 二連敗中のフェンリル。 黒星が並べば次は白星という法則があるわけでもない。 勝ちは実力でもぎとるしかないのだ。
 対するは桜花、彼女の絶技は総合格闘技系。
「……久々に重体相手じゃない」
 実は桜花、NBD参戦以来重体者として闘っていなかった。
 ようやく、本来の絶技を見せられる相手とのマッチング。 衣装も本気モードだ!

 ゴング!
 フェンリルが間を詰め、激しい掌底の連打を繰り出す。
「……望むところ」
 それに対応する桜花。
「……絶技・拳断舞踏」
 桜花の拳断舞踏は、相手の打撃に合わせて自分の打撃を、相手の拳や足にカウンターで打ち込み返す技である。
 リングに女闘士同士の拳の花園が咲き乱れる。
 だが、時とともに桜花側の花が徐々に蕾んでいった。
 桜花の拳が痛み、徐々に圧されてゆく!

 選手席。
「これは、フェンリルさんの方がスキルを使っているんでしょうか?」
 愛の分析に阿岳が頷く。
「”外殻強化”だな、 当然、拳も固くなっている。 殴り返した桜花ちゃんの拳だけが痛むレベルにな。 桜花ちゃんの拳断舞踏も、スキルの裏付けを以て強化しないとこれからの戦いは厳しいぞ」

 ついに桜花の拳に限界が訪れ、フェンリルの強力な掌底が顎に入った。
 ふらついた桜花、フェンリルは間を詰める。
「追撃の牙だ!」
 その名の如く、牙の如く尖らせた肘に、”疾風突き”の速度を加えて桜花の胸に突き刺す。
「……っ!」
 小柄な桜花がネットまで吹っ飛ばされた。 さらに追撃を狙うフェンリルだが、今回は事前練習した技のレパートリーが少ない。
 迷っているうちに、桜花が反撃してきた。
「……絶技・雀蜂」
 “神速”で大地を蹴りながらの地獄突き。
 フェンリルは何とかかわしたものの、懐に飛び込まれてしまう。
 桜花の両掌から雷を思わせる光が発生していた。
「……絶技・雷閃」
 フェンリルの頭に、雷鳴を思わせる音が二発鳴り響く。
 桜花の連続平手だ。
 フェンリルが視界に白い光を見ているうち、首元に柔らかな何かが絡まってきた。
 桜花の両脚だ。 三角絞めかと思われたが、前からの絞めである。
 体で視界を塞ぐ意図があるらしい。
「……絶技・蛇太鼓」
 そのまま、フェンリルの頭を殴りつけてくる。
 絞めと同時に、頭にダメージを与える技なのだ。
「今まで断ち切ってきた鎖と比べれば!」
 フェンリルは両腕に力を込めた。 力ずくで、桜花の脚を引きはがさんとする。
 前からの絞めな分、三角絞めと比べればロックが甘い。
 スキルもかかっていないらしい。
 桜花も引き離されまいと、太ももを必死で絞める。
「それならこうだ!」
 フェンリルは前に飛び込むように地面に倒れた。
 頭を叩く事と、足を絞める事に意識を集中していた桜花はこれに対応出来ない。
 桜花の腰に、体重の乗った頭突きが食い込む!
「……くう」
 動けない桜花、フェンリルにとって千載一遇の好機!
「もらった!」
 フェンリルは、”荒死”を発動した
 小柄な桜花の腰に手を回し、抱き上げた。
「いくぞ、新・FB!」
 狼が吠えた瞬間、もう一頭の狼の咆哮がそれをかき消した。
「!?」
 フェンリルの体勢が崩れる。
 二頭目の咆哮の正体は”絶技・吼撃”
 声を”ソニックブーム”に変えるという荒業
 耳の付近で叫んだことで、フェンリルの鼓膜が破れ、脳が揺れたのだ。
「……獣同士の晩餐 ……メインデッシュ」
 桜花は”死活”の反動で動けないフェンリルの後頭部を掴み、顔面を地面に叩きつけた。
 “神速”を発動し、やすりがけるように地面を引きずり回していく。
「……絶技・紅葉卸」
 さらに金網に叩きつける。
 桜花自身は左右のウィービングをかけながら、テンプシーロールを浴びせる“絶技・散華乱舞”を発動するというFB、だったのだが……。
 金網に叩きつけた時点で、桜花の動きが止まり、フェンリルが体の動きを取り戻した。
「やったな、めちゃくちゃしやがって」
 序盤の攻防で限界に達していた桜花の体力が、FBの複雑さについていけなかったのだ。
「今度こそ! 双頭の狼だ!」
 まずは、後ろ手にロックしてのタイガースープレックス!
 桜花の後頭部を、背をそらして地面に叩きつける!
「……くっ」
 だが、これでは終わらない。
 大地に叩きつけた桜花をひっこ抜きつつ、腰にロックを変える。
 トドメのジャーマンスープレックス!
 二匹の猛獣の牙が桜花の頭を噛み破った。

 選手席に戻ったフェンリルが呟く。
「勝つには勝ったが、技が少なすぎだな」
 技の数や質では桜花に圧倒されていたフェンリルだが、最初の拳断舞踏での攻防を制した事と、最後のFBに桜花が要素を盛りすぎて隙が出来た事に救われた。
「……一つの技に多数を組み込むのは注意が必要か」
 勝っても負けても桜花は表情が変わらない。
「桜花ちゃんは、ドSだから仕方ないわわねぇ……♪」
「黒百合さんに言われたくないと思うぞ」


『真打は最後に登場! 前回王者・雪ノ下ー!』
 ホセのコールで、雪ノ下がリングにあがる。
「我・龍・転・成! リュウセイガー!」
 リングで青龍を模したヒーローに変身。
 会場から驚愕と歓声が沸く。
 対戦相手は、出場者中、最も体に恵まれている仁良井だ。
(共に鍛えてきた親友。 体格、パワー、技術、戦術と剛柔兼ね備えた俺の上を行く男。だからこそ挑み甲斐がある!)
 青龍のマスクの下に静かな闘志を燃やすリュウセイガー。
 対する仁良井の表情は淡々としていた。

 実況席では、ホセとクレヨーが試合展開の予想をしていた。
『二人は前大会では当たっていないが、別の依頼ではプロレスで戦っているんだな』
『その時は雪ノ下君が勝ったんだね? 精神的に雪ノ下君有利は否めないか』
『わからないんだな、NBDに入ってからの仁良井君の伸びは目を見張るものがあるんだな』
『そういえば仁良井君は二戦して二勝しているね』
『現段階で互角と見ているんだな。 王座の龍と、実力の虎、龍虎の決戦なんだな』
 満場の観客が注目する中、今回の最終戦のゴングが打ち鳴らされた。
 仁良井の長身が、先に動く。
 まずは打撃戦。
 リーチの長さを活かして有利な距離から突きを出していく。
 リュウセイガーは、うねり咆哮する龍を思わせる拳法・龍形拳の動きでそれを迎え打つ。
仁良井の打撃を捌いて懐に飛び込もうとするが、仁良井が円の動きで向かってくる龍を捌き返し、間合いに入らせない。
「くっ!」
一発、二発と仁良井の打撃が、雪ノ下に入っていく。
決定打はないものの、じわじわとダメージが蓄積していった。
『ヘビー級VSフェザー級のボクシングを見ているようだね、これは厳しい』

 不利と見たリュウセイガー。 大きくバックステップで距離を置く。
 懐に飛び込んでの掌打を狙っていたのだが、仁良井に隙がない。
 龍形拳の基本姿勢に構え、迎撃を試みる。
 だが、仁良井は追撃してこない。
 距離を置いたまま、構えて動かないのだ。
 そのまま五分、十分と時間が過ぎていく。
 固唾を飲んで見守っていた観客たちもざわめきを起こし始めた。

 選手席。
「お互いに手の内知り尽くしているだけに、動けないという感じでしょうか?」
 雪の言葉に浪風が真摯な顔で答える。
「何をしても対策をとられるイメージが湧いてしまうんだろうね」
「互いに認めあっているのねぇ……。 でもやりゃあ、何とかなるわよぉ……♪」
 黒百合がお気楽に笑ったとたん、実況席から怒声が飛んできた。
『こらー! いい加減、動くんだな! お腹が減ってきたんだな!』
『”相手がこう来たらこうする”ばかり考えていると膠着するよ。 その通りに相手が動くとは限らないからね。 お客さんを退屈させないように積極的に攻めていってくれ』

主催者から教育的指導を受けてしまった二人。
 互いに、困った顔を見合わせる。
(いかん、絶対に勝負を諦めずに、前に進む。 それがヒーローじゃないのか)
 どうにも思考と体が一致していない。 守りに入りすぎている自分を痛感するリュウセイガー。
 心と体を重ねるべく自ら動く。
 仁良井の射程ぎりぎりまで詰め寄ると、半歩踏み出しつつアウルを籠めた拳を解放する
「リュウセイガーパンチ!」
「!」
 対応しようとする仁良井。 だが、反応が追い付かない。
 鳩尾に、青い拳が捻りを巻きながら食い込む。
相手が払いに来るなら、それを上回る速度やパワーで攻撃すればいいのだ。
仰け反った仁良井をタックルで倒すと、得意の関節技を極めた!

『この足の形は!?』
『4の字固めなんだな』
 かけられた側の足が算数字の4の形に似ている事から名づけられた古典的な技である。仁良井の左足に激痛が走る。
 何とか反撃に出ようと、ロックされていない上体を起こそうとしている。
「もがけばさらに、痛みが強まりますよ!」
 警告通りの痛みに耐えながら仁良井は鬼気迫る表情で無理やり上体を起こし右腕でリュウセイガーの脚を叩いた。
「覚悟は出来ているぜ!」
 リュウセイガーは対組技へのさらなる対策として、”金剛の術”をかけていた。
 走る電撃!
「ぐっ」
 痺れにリュウセイガーの脚が外れる。
 仁良井が打ち込んだのは“スタンロック” ”金剛の術”では防ぎえない魔法攻撃なのだ
(読まれたか、さすがは仁良井さん)
 麻痺した体をこわばらせるリュウセイガー。
 だが、仁良井もすぐに攻撃には転じられない。 4の字を無理やりはがそうとした代償だ。

 互いにダメージが大きい。 もはや短期決戦しか選択肢がなくなった。
 組み合う二人。
 相手のこめてくる力に力で応える。
 気迫を籠める声と、二つの体に燃えるアウルだけが高まっていく。
 共に狙うFBは、投げ技!
 力で、技で、魂で勝った方の投げが決まる。 
(俺はこの戦いで親友を越える!)
 雪ノ下の激しい心の叫び。
 対して仁良井は、
(隠している手などない、環境に併せて自分を進化させるしかない)
 勝つ手段を冷静に模索している。
 永遠とも思える数瞬の後、互いのバランスが崩れた!
「噛み砕くは龍の牙っ!!」
 リュウセイガーは、青いアウルを流しながら捻るように投げるドラゴンスピン!
 対して仁良井は、流派”うちはらいて”の投げ技「白鯨」。
 回転して巻き込むように相手の体を浮かし、” 掌底”スキルを籠めた大外刈りの蹴りで引っこ抜いて投げる!
 投げの打ち合い!
 互いの体が宙に飛ぶ!
 地面に強く背中を打ち付けながら、仁良井が落ちた。
「うぐっ」
 リュウセイガーは受け身をとって、着地に成功。
「ふう」
 決着のゴング!
 大ダメージを受けたのは仁良井。
 だが――勝ったのも仁良井だった。
 仁良井の投げの威力はネットを突き破り、リュウセイガーの着地地点をリング外に変えていたのだ。
 勝敗を分けた原因は序盤、仁良井が序盤に積極的に攻めてペースを掴んだ事で、より多くのダメージを与えていたがゆえの体力差だった。
「まいりました、さらに稽古を増やさなくては」
「私もです、お付き合いしますよ」
 リングに戻ったリュウセイガーは、起き上がれない仁良井に手を差し伸べた。
 親友に肩を貸されつつ満場の拍手と共に、勝者・仁良井は闘いのリングから安息の世界へと戻っていくのだった。


 本戦初戦終了。
 文歌、阿岳、浪風、フェンリル、仁良井が10Pを獲得する。
 だが、全ては始まったばかり、アウル格闘王の座は全ての選手にとって、まだ明け方のほのかな光のようにしか見えないのだ。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 赫華Noir・黒百合(ja0422)
 おかん・浪風 悠人(ja3452)
 チャンコマン・阿岳 恭司(ja6451)
 外交官ママドル・水無瀬 文歌(jb7507)
重体: −
面白かった!:17人

蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
花々に勝る華やかさ・
染井 桜花(ja4386)

大学部4年6組 女 ルインズブレイド
チャンコマン・
阿岳 恭司(ja6451)

卒業 男 阿修羅
心の盾は砕けない・
翡翠 雪(ja6883)

卒業 女 アストラルヴァンガード
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅