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マスター:スタジオI
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:11人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/01/11


みんなの思い出



オープニング


 ここは久遠ヶ原島にある某斡旋所。
「堺くん、斡旋所の忘年会の日って24日に変更できない?」
 独身アラサー女子所員・四ノ宮椿(jz0294)が、後輩所員の堺臣人に尋ねたのは、師走も23日の夜であった
 今年の忘年会は堺が幹事である。
「は? 何言ってんですか? 椿さんが”忘年会とクリスマスイブが被るのだけは絶対に避けてなのだわ”っていうから、お店に無理言ってこの日に移したんですよ」
「その段階では、クリスマスイブを一緒に過ごす彼氏が出来る確率が存在したのだわ! でも、今やそれもゼロになったのだわ! 三十歳にもなってイブになにもないのはみっともないから職場の忘年会ってことで周りに誤魔化すのだわ!」
「“重なっちゃったからしょーがねーわ。 社会人だから、仕事の付き合い優先でしょーがねーわ。 クリスマスの予定あったのにマジ残念だわー”なスタイルですか? そんなしょうもない格好つけに付き合っていられません! 第一、今から明日の店探しなんて不可能に近いですよ!」

 いくら断っても椿が変更しろとギャーギャーうるさいので、堺は久遠ヶ原ケーブルTVのワルベルト局長に電話をかけた。
 椿の叔父であり、理想の男性。 こういう時に、椿を抑えられる唯一の人間である。
 だが、話を聞いた局長は意外な事を言い出す。
『ふむ、考えてみるとクリスマスと忘年会は、同じ時期に、同じ客層、同じ会場を取りあうライバルであるのだな』
 局長は、堺の電話でなぜか年末特番の企画を思いついてしまったらしい。
『よし、クリスマスパーティと、忘年会を同じような会場で同時に開くのだ! どちらがより盛り上がるか、島民は果たしてどちらが好きなのか見極めよう』
「今から24日に会場を抑えるんですか? いくらTV局の力を以てしても難しくないでですか?」
「収録日を後ろにずらせばなんとかなる。 どうせ番組の放送は年末ぎりぎりだ。 椿も24日はその収録に参加していた事にすればアリバイ作りが出来るだろう』
 毎年イブは、自宅アパートで電気と携帯電源を消して息を潜めて過ごしていた椿のことを局長は流石によく把握している。
「もはや、保つような体裁があるとは思えないんですが」
 堺にすれば意図しない、無茶苦茶な方向に話が進んだわけだが、まあいつもの事なので気にしない。
 そんなわけで緊急収録が決定!
 年末の某日にクリスマスパーティと忘年会を同時に開くことになった。
 参加出来るのは、どちらが片方のみ。
 盛り上がり、エキストラ客をより多く呼ぶことが出来るのはどちらなのか?
年末二大イベント決戦が始まる!


リプレイ本文


 TVをつけたとたん、中年男の豪快な笑い声が響いた、
「ガハハハッハハハッ! 皆の者、吾輩が”クリスマスパーティVS忘年会”総合司会者のワルベルト一世なのである」
 悪の帝王風の衣装をつけた黒髭のメタボオヤジ。
 これでもこの久遠ヶ原ケーブルTVの局長である。
 その隣では、さらにメタボな中年男がサンタ衣装を着けてマイクを握って立っている。
「メリクリスマスー! アシスタントのクレヨーサンタなんだな!」
 なんと、総合司会にメタボ中年オヤジ二人を起用する絵面の汚さ。
 画面の片隅に、せめて綺麗どころを添えるような視聴者に対する心遣いを、局長が自ら破るという破天荒ぶりである。
「この番組は、クリスマスと忘年会どちらが人を集められるかというゲームである」
「まずはホストとなるメイン出演者が、それぞれの会場にどれだけいるか確かめてみようと思うんだな」

「最初、クリスマスサイドの皆さんなんだな! 果たして何人いるのかな?」
 モニターにクリスマスパーティ会場が映し出される。
 とたん、うにゅっと幼女のドアップがカメラのレンズを塞いだ。
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! トナカイくんがボクを呼ぶ! そう、ボク参上!」
 カメラのマイクが壊れそうな大声で叫ぶ金髪ツインテ幼女は、イリス・レイバルド(jb0442)。 ご覧の通り目立ちたがり。
「っていうかさー、とっくにクリスマスじゃないよねー! 収録している時点で実は……」
 クレヨー先生がモニター越しに言葉を遮る。
『イリスちゃん言ったらダメなんだな! 収録日は12月24日という体にしないと、困っちゃう某お姉さんがいるんだな!』
「あ〜、そういうコンセプトだっけ? ごっめんね、椿ちゃん!」
『それも言ったらダメなんだな!』
 のっけから収集がつきそうにもない。
 カメラが引いて、モニターは会場全体を映し出した。
 ツリーに、クリスマスイルミネーション、いかにもジングルベルな音楽。
 クリスマスパーティ会場でしかない風情である。
 一番大きなツリーの前に、ミニスカサンタ衣装を着けた、黒髪ロングの女の子が立っている。
『おや? あっちにもサンタさんがいるんだな。 おーいサンタさん!』
 クレヨーサンタが呼びかけると、女の子サンタが手を振りかえした。

「は〜い、サンタ見習いの川澄文歌ですよ〜」
 アイドル撃退士の川澄文歌(jb7507)だった。
 文歌は、マイクを手に画面に向かって手を振っている。
「私は、本日クリスマス会場の司会をさせていただきますよ♪」
『おお、会場司会であるかご苦労さまなのである』
「ありがとうございますー♪ まずはメンバー紹介!」
 文歌サンタの誘導で、会場に併設されているキッチンが映し出される。
 ボブカットに眼鏡の少年、黒井 明斗(jb0525)がそこに立っていた。
「まずは調理担当の一人目、黒井さん!」
 黒井は、ボールに向かって、一心不乱に生卵を割っていた
『黒井君は何を作っているんだな?』
 クレヨーサンタからの質問に、卵を割る手を止めないまま答える黒井。
「出来てからのお楽しみです。 ただ、食べ物ではなく飲み物であるとだけお答えしておきましょう」
『生卵が飲み物? なるほど、黒井はボクシングの人なのであるな』
 局長の唐突な発言に、驚いて卵を一つ握り潰してしまう黒井。
「違いますよ! そんなベタな映画の真似じゃありません!」
『その生卵を全部、グッと飲んでしまえ! グッと!』
「あんなえぐい真似できませんよ!」
『いかんな、低予算でアカデミー賞を狙うのなら、そのくらいはしないと』
「狙ってないです!」
 全く会話がかみ合っていない二人の間に、文歌が割って入る。
「あわわ、局長さん、黒井君をいじらないでください! 次のメンバーを紹介します」

 画面が切り替わった。
 今度は会場内にあるバーカウンターでグラサン金髪渋イケ男が、スタイリッシュにシェイカーを振っている。
 ミハイル・エッカート(jb0544)である。
「ミハイルさんは、カクテルを作って下さっているんですよー♪」
「おう、そういう事だ。 局長やクレヨー先生は酒が飲めるのか?」
『むろん、飲めるが今日は遠慮しよう。 我輩らが酔ってしまうと番組がますますグダグダになってしまうからな』
「グダグダ前提なのかよ。 まあいい、ならノンアルヴァージョンを作ろう、後でそっちの部屋に運ばせるからな」
 キラッとグラサンを輝かせるミハイル
 今日は、外見通りのイケメンモードである。
「クリスマスパーティのホスト、最後はアイリスさんとイリスさんのレイバルド姉妹ですねー♪」
 カメラが二人金髪の少女を映しだした。
 イリスに指示されながら、もう一人の少女がテーブルで何やら工作をしている。
「お姉ちゃん! 双六のゴールを” 狂気の山脈”にしたらダメだよ! そんなゴール目指したくないよ!」
「ふむ、最後は全て闇に呑まれるのが人の運命だという表現なのだがな」
「双六は哲学や神学を持ち込む遊びじゃないよ!」
 首をかしげているのは、イリスの姉のアイリス・レイバルド(jb1510)だ。
 妹に頼まれて双六を作っているらしいが、趣味なのか名状しがたきデザインにしてしまっている。
「出来るまでもう少しかかるから、しばし待て」
 カメラに横目を向けながら言うアイリス。
 文歌は仲間のホスト5人の紹介をこれで絞めた。
「というわけで、クリスマスパーティ会場のホスト役は以上の5人ですー!」

 画面が総合司会室に返ってくる。
「ガハハッ、皆、宜しく頼むであるぞ! 楽しいクリスマスパーティにしてくれ!」
「局長、忘年会場の方も頑張っているみたいなんだな」
「画面越しにもやる気が伝わってくるな、ではそちらもチラ見してみよう」
 画面が今度は、忘年会会場の方に移った。


 忘年会組の会場は和風ホールだった。
 カメラが来ても、うにゅっと画面を占領したり、司会を買って出るものはいない。
『忘年会だけあって、大人のイメージなんだな』
 クレヨーサンタがそう評した時だった。
 画面を銀色の人影が二つ横切った。
「クワワワワワワーーーッ!」
 人影の足元には、けたたましい鳴き声。
「シェリーさん、邪魔しないで下さい!」
「本当にこの子食べちゃうの!? ダメだよ!」
 大剣振りかざした銀髪幼女・雫(ja1894)と、羊のきぐるみを着た銀髪jkのシェリー・アルマス(jc1667)が、ホール内を逃げ惑う鶏を追いかけまわしていた。
「殺しちゃうの? このまま飼ってもふった方がよくない?」
「その鶏は今日、食べるために買ったのです、天に召される運命なのです」
 雫はサバイバル料理を好んでおり、鳥をぎゅーと閉めてごはんにするのは日常茶飯事だった。
「なんで生きてるの買ったの? 可哀そうな感じがするじゃない!?」
「活きがいいからです」
「良すぎるよー」
 鶏は、クワクワ鳴きながらホールの椅子やテーブルの間を駆け回っている。
『あー、これはしばらくインタビューに答えられそうにもないんだな』
『TVでお見せできないシーンも繰り広げられそうだしな……次に行こうか』

 底なし胃袋お嬢・蓮城 真緋呂(jb6120)は両腕一杯に抱えるサイズのトレイに、肉をたっぷり乗せて運んできた。
 クレヨーサンタと局長がカメラ越しに話しかける。
『真緋呂ちゃん、ずいぶんたくさんなんだな。 3000久遠でそんなに買えたんだな?』
「ええ、露店で特売やっていたのよ」
『何の肉であるか?』
「よその国の言葉で書かれていたから、よくわからないわ。 お店の人もカタコトだったし、でも”ダイジョブダイジョブ”って言っていたから大丈夫だと思うわよ」
『大丈夫じゃない気がするんだな……』
「この肉を焼くために燃やすものを募集するわ。 忘年会なんだから燃やして忘れてしまいたいものを燃料に肉を焼くわよ。 名付けて“断捨離焼肉”よ」
『なるほど、面白そうであるな、では皆のもの、燃やしたいものがあれば真緋呂に渡してくれ、これはクリスマスパーティ組からでも構わんぞ。 咲魔なんか色々と持っていそうなのである』

 画面が再びクリスマス会場に戻る。
「個人的にはクリスマスそのものを燃やしてしまいたいところだな」
 話を振られた咲魔 聡一(jb9491)は、鶏肉を捌いていた。
 こちらは生きていない。 スーパーで買ってきた、普通の鶏肉である。
『あれ、咲魔君は彼女さんが出来たんじゃ? “去年までは同じ、クリスマス中止活動家だったのに、裏切られた”って椿ちゃんがぼやいていたんだな』
「クレヨー先生、僕は今でもクリスマス中止活動家ですよ、理由は多少、変わりましたがね」
 咲魔の隣には、現在、天願寺 蒔絵(jc1646)という小麦色の肌をした可愛い恋人がいる。
 蒔絵も機嫌が良さそうだ。
「私は忘年会でもクリスマスでもみんなで楽しめればいいかな」
 機嫌良さそうな蒔絵。
 何やらしゃがみ込んで、土に満たされたプランターに苗を植えている。
 咲魔のスキル”ボタニカルリカバリー”で野菜を育てるらしい。
『咲魔君は恋人が出来たのに、なぜクリスマスを中止にしたいんだな?』
 クレヨーサンタの質問に、咲魔は神妙な顔で応えた
「僕は神に祈るなと厳しく親に教えられたものですから、一生祝うことのないクリスマスに負けたくはないんです」
 咲魔は、冥界で無神論者の一族だった。
『う〜ん、真面目に考えているようだけど大半の日本人はクリスマスに神に祈っているわけじゃないんだな』
『うむ、お祭り騒ぎに乗せられているだけであるな』
 クレヨーサンタと、局長の言葉に目を見開く咲魔。
「なんと! 信者以外さえ、自分を祝う祭りに採りこむとは、恐ろしい洗脳力だ――ますます中止にせねば」
 危機感に満ちた顔で、掌を震わせる咲魔。
 
 画面が、総合司会室に戻ってくる。
「う〜ん、咲魔くんは真面目すぎて何かズレているみたいなんだな」
「忘年会の方のホストは雫とシェリー、真緋呂に咲魔、蒔絵、この五人で良いであるかな?」
「うん、クリスマスの方も文歌ちゃん、アイリスちゃん、イリスちゃん、黒井くん、ミハイルくんで5人なんだな」
「5人ずつであるか、これはいいバランスになった。 これはどちらがどれだけゲストを集められるか楽しみであるな」
これから両サイドのホストによる、ゲスト誘致合戦が始まるのだ。
 局長とクレヨーサンタは納得した顔をしたが、一瞬後に、それが崩れた。
「計算が合わないのであるぞ!?」
「今日のホストは11人って聞いていたんだな!?」
 そうなのである。
 今日のホスト役は合計11人。
 急用が出来て不参加とかではない。 TV局のロビーに集合した時点でちゃんと11人いたのは確認済なのである。
「誰がいないのであるか?」
「聞くまでもないんだな、見た目で一番目立つ娘がいないんだな」
「あの娘であるか」
 二人は脳裏に同じ人物を思い描いた。

カメラがTV局のロビーの様子を映し出した。
「あれ? あの娘はまだ、局のロビーにいるみたいなんだな」
「……お? おぉ?……皆さん、どこに行かれたのでしょうかぁ?……(ふるふる)……」
 ロビーで、月乃宮 恋音(jb1221)が180cmに及ぶ超巨乳を震わし、おろおろとしていた。
『恋音、そんなところで何をしているのであるか?』
 局長にインカムマイクごしに話しかけられた事に、恋音が気付く。
「……おぉ?……会場行きのマイクロバスを待っているのですが、時間をとうに過ぎても来ませんし、他のホストの皆さんの姿も消えてしまったのですよぉ……(ふるふる)……」
『バスはとうに出たのであるぞ、もう皆、パーティの準備真っ最中だ』
「……おぉ?……なぜ私だけがぁ?……(ふるふる)……」
 この謎に対する回答に、クレヨーサンタが気付いた。
「原因がわかったんだな! 恋音ちゃん、エントリーシートに、忘年会とクリスマス、どちらのパーティに参加するか書き忘れているんだな!」
「……おぉ!?……」
 クレヨーサンタが手に持っているのは、この依頼の参加申込書。
 他のメンバーは”参加希望パーティ”の欄に”クリスマス”もしくは”忘年会”と書いてある。
 だが、恋音のエントリーシートはそこの部分が空欄のままになっていたのである。
「会場行きバスの搭乗リストは、このエントリーシートを元に作られておる。 なので恋音は、クリスマス会場行のバスの運転手にも、忘年会会場行のバスの運転手にも搭乗者として認識されなかったというわけである」
「……おぉ……やってしまったのですぅ……なんというかそのぉ……申し訳ないのですよぉ……(シクシク)……」
 涙を流す恋音。
『う〜ん、今日出せるバスはもうないから、恋音ちゃんには独力で会場に行ってもらうしかないんだな』 
「……どのようにして行けば良いのでしょうかぁ……」
 恋音にADから二枚の地図が渡された。
 クリスマスパーティと忘年会の会場になっている二店の位置が記された地図だ。
 しかし、どちらの店でどちらの催しが書かれているのかは記されていない。
「……お……おぉ……?」 
『どちらに行くのか、勘で決めてくれ、運が良ければ恋音が行きたいほうに着くだろう』
『現在、5人VS 5人で偶然にも拮抗しているホストの数が、恋音ちゃんの参加によって崩れるんだな!』
『うむ、恋音を獲得した方が、今から始めるゲスト誘致合戦でも有利になるのである!』
「……数文字書き忘れたばかりに、えらい事態にぃ……(ふるふる)……」
 期せずして重大なポジションに収まってしまった恋音。
 どちらの会場に辿り着くか、乳の揺れるまま決めるしかないのだ!


 この番組のメインイベントであるゲスト誘致合戦が始まる。
 これを制した側のチームメンバーだけが、MVPに選出される権利を得るのである。
 モニターに、ゲスト控室が映し出された。
 パイプ椅子に座っている21人の一般ゲスト。
 そして、一番前には3人のSPゲストが座っている。
「楽しそうな方にいくのだわよー!(バリバリ)」
 SPゲスト1人目は、味海苔をむさぼり食べている椿。
 これは味海苔だけで簡単に釣られないようにと、局長が段ボール単位で用意したものだ。
「美味しそうなもの求むにょろ、ただしありきたりのものじゃあ惹かれないにょろ。 たいていのものの味はニョロ子の舌が記憶しているにょろ」
 2人目のSPゲストはニョロ子(jz0302)。 可愛い顔だが、顔パンしたくなるような事を言っているおしゃまな蛇っ娘幼女。
「あんまり騒がしいイベントは好きじゃないんで、基本静観で」
 最後のSPゲストとなる堺。
 この控室に引きこもりを決め込んでいるらしいが、その性格からして、ツッコまざるをえないものを見てしまった場合、ツッコみに向かうだろう。

『現在のところ、ホストの数が同数なので先攻後攻はコイントスで決めるのである!』
 総合司会室では局長の宣言に応じ、クレヨーサンタがコインを投げていた。
『ほいっ……表が出たんだな! というわけでクリスマス側からゲストにアピールして欲しいんだな』

 まずはクリスマス側のターン
 先鋒はミハイル。
 先刻からシャカシャカやっていたシェイカーの中身をグラスに注いでいる。
 赤いジュースを注いだ後、白い牛乳を削ぎ二層式のツートンカラーにした。
「こいつはウォッカとカシスのジュースにミルクで、赤白のサンタをイメージしたクリスマスドリンクだ。 同じくクリスマスカラーの緑はミントの葉を添えて出来上がりだ。 創作カクテル” 聖夜の雪”ってとこだな」
 本日は、イケメンモードのミハイル。
 むろん、カクテルだけでは終わらない。
「クリスマスだからな、ケーキもいくぜ。 聖夜の奇跡に相応しいミラクルケーキだ」
 差し出したのは、下がスポンジケーキで、その上にプリンアラモードが乗っているというデザートだった。
 乗せただけではなく、蒸してあるので二つが一体化しており、見ただけでも滑らかそうな触感が伝わってくる。
「甘いトッピングと果物でデコったふわふわハニートーストも用意してあるぜ! どうだ食いたい奴はクリスマス会場に来い!」
 ミハイルの誘惑に乗せられ、若い男女が3人立ちあがった。
「よし、ゲットだ、お前たちもどうだ?」
 ニョロ子、椿、堺に話しかける。
『ニョロ子は“見(ケン)”にょろ、最後まで見てから、一番、美味しそうな食べ物のところにいくにょろ。 今は幼女でも熟慮の時代にょろ』
 熟慮と熟女をかけたダジャレらしいが、誰も気が付かない。
『味海苔でお腹は満足しているのだわ、何か楽しい事あれば動くのだわ(バリバリ)』
 椿も動かず。
『ミハイルさんにしてはまともですね、ツッコみどころがありません』
 堺はツッコミどころがないところに、軽くツッコむだけだった。
「なんだ、俺にしてはってのは!」
 ともかく一般ゲストを3人ゲット。
 クリスマス側の得点は、ホストの5人で得た5点と合せて8点となった。

 こちらも得点を増やしたい忘年会チーム。 現在はホストの5人の5点のみ。
 今度は、咲魔&蒔絵のカップルで挑む。
 咲魔が挑戦的な目で、モニターの向こうのミハイルに話しかける。
「ミハイルさん。 クリスマスならオサレ系のデザートで充分でしょう。 しかし忘年会はなりふりに構わない、同じデザートでもゲーム性を帯びた楽しいものに演出出来るんです……ねえ、蒔絵さん」
「うん、聡一さんこんなに出来たよ」
 蒔絵が差しだしたのは、パンに似た姿をしたお菓子だった。
 それがトレイいっぱいに乗っている。
「これは?」
「ベルリーナです、ドイツの大晦日の定番菓子です。 端的に言うとジャム入りの揚げパンですね」
「ほとんどTV局にあるもので作ったんだよ」
『揚げパンの、どこがゲーム性なんだ?』
 ミハイルの問いに、咲魔が眼鏡をたくしあげ不敵な笑みを浮かべる。
「簡単な話です、ベルリーナの中に入れるのはさきほども言ったようにジャム。 しかしこの中に一つ、マスタード入りのを混ぜたとしたら?」
『……ロシアンベルリーナか、俺の十八番を奪いやがって』
 ミハイルには、ロシアの血が混ざっている。
 だからと言ってロシアンルーレットが得意なわけではない。
 軽くボケたのだが、堺にツッコミに動く気配はなかった。
「マスタードを当てた人には、カラオケで一曲披露してもらうの!」
『くっ、楽しそうだな、敵陣営でなければ俺も参加したいところだ』
「そうでしょう、そうでしょう、来たれゲストたち!」
 咲魔と蒔絵の企画に好奇心をそそられた者たちが、ゲスト控室から立ち上がる。
 カラオケ好きそうなおっさんや、アイドル志望でとにかくTVの前で歌いたい女の子グループが忘年会会場に向かった。
 合計5名。
「やったー! 追いこしたの!」
 これで忘年会10点 クリスマス7点。
「会場にきてから舌でも楽しんでもらおうね、蒔絵さん」
 咲魔と蒔絵はゲストを歓迎する料理の準備をうきうきと始めた。

 クリスマス側はアイリスとイリスのレイバルド姉妹で勝負。
「レイバルド家ではね24日はゲーム大会になっちゃうからー! というわけで僕たちがおススメするのはこれ!」
 イリスは、テーブルの上に広げたそれをバーンと見せつけた。
 双六である。
 だが、雑誌の付録についてくるような平面的なものではない。
 アイリスが作った彫刻を飾った立体的双六。
 マス目には撃退士をディフォルメ化したと思われる可愛らしい人形が乗せられている。
 携帯ゲーム”チミっこモンスター”に登場するキャラクターだ。
「ふふっ、精巧なマップとチミモン駒だろ?  レベルと仲間と名声を集めてチャンピオンを目指す正統派ボードゲームさ!」
 ドヤ顔でナイチチを張るイリス。
 そこに堺のツッコミが入る。
『さっきから見ていましたが、イリスさんは何も作っていなかったような……頑張っていたのはアイリスさんですよね?』
 堺の言う通り、アイリスは今も淡々とフィギュアを作り続けている。
「技術で沸かすぐらいしか能が無いんだ、すまないな」
 一方、イリスはお姉ちゃんに話しかけるばかりで手が動いていなかった。
『イリスさんが自慢するのはどうなのかと……』
「うるさいなー、チミモン双六はボク原案なの! それにゲームマスターもボクがするの! お姉ちゃんにやらせると、パソコンゲーム黎明期のコンピュータRPGみたいに殺伐としたゲームになっちゃうの!」
「ザンネン アナタハシンデシマッタ PUSH SPACE KEY」
 無機質な口調でそれを再現するアイリス。
「こんな具合だ、私に話術の類は期待するな」
『それはそれで面白い気が』
「堺くんシャラップ! とにかくGMはボクがするの! 優勝者には、お姉ちゃんがその人のデフォルメフィギュアを作ってプレゼントー!」
 昔、別依頼で作った椿のデフォルメフィギュアを見せるアイリス。
『結局、アイリスさん頼みな気が……』
「堺くん、ツッコミたいなら、そこにいないでこっちにきてツッコンでよ!」
『いや、イリスさんって、ツッコんだ時に手が髪に触れるとキレるから遠隔ツッコミで充分です』
 イリスと堺がモニター越しにごちゃごちゃ言い争っている間に、ゲスト部屋から数人が移動。
 みんなで集まってボードゲームというのは楽しいのだが、それを出来る機会というのはそうそうあるものではなくい。
 またアイリスの賞品も魅力的だったため、一挙に6人がクリスマス会場に移動した。
 再び忘年会10点 クリスマス13点とリードをする。
 残る一般ゲストは8人、SPゲストは3人。 牌の取りあいになってきた。

 続いて忘年会側。
 さっきまで雫とシェリーが追いかけっこしていた鶏は、ピンク色のお肉になっていた。
「散々、手こずらせてくれましたが、こうなってしまえば美味しそうなものです」
 ドヤ顔で鶏を捌いている雫。
「うぅ、さっきまであんなにモフモフだったのに〜」
 泣きながらそれを手伝うシェリー。
 シェリーは、鶏を自分が捕まえて飼いたかったのだが、戦士としての経験で及ばず
雫に目的を果たされてしまったのである。
「仕方ないです、忘年会とは皆で食事をするものです」
「もう食べて供養してあげるしかないね」
 シェリーはる〜る〜と泣きながら、雫が捌いた鶏肉を焼いていく。
 こうなってしまった以上、美味しく食べてあげるのが鶏さんに報いる道である。
「出来たのです、皮は皮煎餅と鳥皮ポン酢に、鶏がらから出汁を取って海苔とネギを散らしたスープに、肉は焼き鳥と、唐揚げ! 内臓はモツ煮込みにしたのです」
「うん、ここまで有効活用してもらえれば鶏さんも報われるね!」
 シェリーも涙を拭いてすっきり。
「まだまだ作るよ〜」
「咲魔さんもおっしゃっていましたが忘年会は、クリスマスのように制限が掛からず色々な料理を作る事が出来ます」
 二人はまだやる気だが、紹介の持ち時間がここで終了。
 幸いにも、鶏を絞めるグロイ場面は画面に映らなかったので、ゲストたちから見ればただの新鮮な鶏である。
 しかも美幼女と美少女の手作り料理!
 老若男女問わずに好まれる鶏肉料理は、すきっ腹を刺激し4人を忘年会場に向かわせた。
現在、忘年会14点 クリスマス13点。

「クリスマスといえば、プレゼント交換ですよ♪」
 ミニスカサンタ文歌が中身のずっしり詰まったサンタ袋を背負ってカメラの前に登場した。
「プレゼント交換って言われても、僕たち何にも用意していないんですが」
「予算はみんなカツカツだからな、文歌だって3000久遠で人数分用意したんだ。 大したものは用意できなかっただろ?」
 困惑する黒井とミハイルに、文歌は首を縦に振った。
「まあその通りです。 このプレゼントも綺麗にラッピングはしていますが中身は入浴剤とか、手鏡とかお手頃価格のものばかりですよ、ピンポイント爆撃用に味海苔も入れたんですが、あれだけ食べている分には効果がなさそうですね」
 控室の椿は段ボール入りの味海苔を、現在もバリボリ食べている。
「しかしですね! TV局の方から予算不足で申し訳ないと提案があり」
 サンタ帽子を脱ぐ文歌。
 その下には、プレゼント風のリボンが絞められていた。
「プレゼントに当たりマークが描かれていた方には、アイドルを30分貸出しすることになりました〜! ”私がプレゼント”ってやつです! あ、アイドルの限界を超えることは、だめですよ〜! リクエストにお応えして歌を唄うとか、ツーショット写真をとるとかならOKです!」
 文歌はアイドルスマイルでポージングする。
 すかさずミハイルがその案に乗ってきた。
「じゃあ、俺の描いたマークを引いた奴には俺がプレゼントだ! 言っておくが俺も歌には自信があるぜ。 日本の歌だって、なんでも歌ってやるからな」
 するとゲスト控室の一般ゲストから、問い合わせの声が聞こえた。
『なんでもいいんですか?』
「ああ、なんでもだ」
 自信ありげにミハイルがうなずくと、問い合わせの声が野太く怪しげなものに変わった。
『ん? 今、なんでもするって言ったよね?』
『ああ^〜いいっすね〜』
 ゲスト控室には、タンクトップを来た体育会系の男二人組がいた。
 不穏な気配を察し、慌てるミハイル。
「なんでもするとは言ってねえよ! おい局長! 一般ゲストの選別くらいしろ! 変なのが混じっているぞ!」
 他のクリスマスホストも顔を引きつらせつつ、プレゼント交換案に乗る。
「じゃあ、ボクは翼型の髪飾りをプレゼント! ついでに一緒に空を飛んであげてもいっかな〜?」
「私は、リクエスト通りのフィギュアを作ろう」
 レイバルド姉妹は、それぞれ自分の得意分野のものをプレゼントすると提案。
「僕はやはり料理ですね。 お好みのものをお作りしますよ」
 黒井も、料理の腕をプレゼントに付けることにする。
「というわけで、こちらに来て下さった方はプレゼント交換にご参加いただけます〜、いかがでしょうか〜♪」
 文歌が呼びかけると、ゲスト控室から4人が立ちあがった。
 その中には当然、例の2人もいる。
 体育会系マッチョ、実に怪しげな雰囲気の男たちだ。
「おい、お前らは来るな! 俺は何でもするとは言ってねえからな!」
 野獣たちに狙われたミハイル。
 もはや彼らが、ミハイルのプレゼントを引き当てないことを祈るしかない。
 
 これで、一般ゲスト21人が全ていなくなった。
 現在、忘年会14点 クリスマス17点である。
 しかし、まだ1人5得点のSPゲスト3人は控室に残っている。
 勝負はまだどちらに転ぶかわからない。
 忘年会側のラストバッター、真緋呂は囲炉裏の前にしゃがみこんでいる。
 囲炉裏の上には七輪が乗せられていたが、肝心の火がついておらず冷ややかなままの色をしていた。
「私は宣言通りに焼肉よ。 ただ、肉を買うのが精一杯で燃やすものがないわけ。 まあ、肉も全然足りないんだけど――というわけで、何か燃やしたいものはないかしら? 忘れたい思い出の写真とか、黒歴史日記とか、美味しいお肉とか持ってきてくれて構わないわ」
 呼びかけに、SPゲスト三人が控室から答えた。
『燃やしたいものはたくさんあるけど、あいにく持ち込んではいないのだわ』
『僕のは、ほとんどデータ化してハードディスクに保存してありますから、燃料にはならないですね』
『ニョロ子、人生まだ短いから燃やしたいほどの業はないにょろ』
 三人とも釣られなかった。
 しかし、堺は別の部分に反応。
『それよりも真緋呂さんのその格好はなんなんですか?』
 実は真緋呂、いつのまにか着替えている。
 あろうことか幼稚園児の着るスモッグ姿だ。 真緋呂は、とっくに女子高生。 そんなものを着る年齢ではない。
「ああ、これね? 忘年会って、年を忘れる為の会でしょう? 年齢を忘れるために着ているのよ。人は忘れる為に隠し芸で自分の限界を突破し、忘れる為に弾け過ぎて自分を失う、そうよね!?堺さん!」
 真緋呂、実は堺を釣るのが狙いだったらしい。
『……忘年会は”その年を忘れないようにするための会”ですよ』
「すぐにツッコまないでよ! こっちに来てからツッコンでよ!」 
 露骨すぎるツッコミ待ちに、意地でも立ちあがろうとしない堺。
 だが、その隣で別の人影が立ちあがった。
『年齢を忘れるための会! なんてステキなのだわ!』
 春には31歳になる椿が、浮かれたように忘年会場に向かった。
「あれ、狙ってない人が釣れちゃった? まあいっか」
 というわけでSP枠最初の5点は真緋呂が獲得。
 ちなみに、燃やすものが足りない問題に関しては、大量の没企画書が補った。
 この局にも、日の目を見なかった企画がたくさんある。
 肉くらいいくらでも焼けそうである。
 これで忘年会19点 クリスマス17点。
 残るSPゲストは2人!

 クリスマス側最後の刺客は黒井。
「僕は見聞を広げる意味で世界のクリスマス料理を少々披露させていただくことにしました」
 黒井がテーブルの上に出したのは、 こんがりと焼けた丸い褐色の生地だった。
 関西方面の人になじみ深い、アレに似ている。
『たこ焼き、ですか?』
『たこ焼きはクリスマス料理にょろ?』
 首を傾げるニョロ子と堺。
「いえ、これはエーブレスキーバというデンマークのケーキです。 日本には専用焼き機が無いのでタコヤキ機で代用しました。 でも、元から外見はたこ焼きそっくりですね。 ホットケーキミックスを丸く焼き上げて、粉砂糖をかけるんです。  食べる時は、イチゴジャムをたっぷり付けて食べるのがおススメですよ」
『これはさすがのニョロ子も食べた事がないにょろ、惹かれるにょろ……』
 ニョロ子、珍しい料理に迷っている様子。
『ただ、恋音お姉ちゃんの料理も見てみたいのにょろ、恋音お姉ちゃんも上手だからたぶん、料理でせめてくると思うのにょろ』
『あ、そういえば恋音さん! 今、どこにいるんだろう?』
「エーブレスキーバの形で、あのおっぱいを思い出したにょろ。 ニョロ子の判断は恋音お姉ちゃんの料理をみてからにしたいと思うにょろ」
 どちらのパーティに出るかエントリーシートに書き忘れたがゆえ、地図だけ渡されて独力会場に向かっている途中の恋音。
 だが、未だどちらの会場にも姿を見せない。
 乳がどこかにつっかえて動けなくなってでもいるのか?
 そこに総合司会室から、局長とクレヨーサンタの声が響いた。
『黒井よ、我輩も思い出したが、さきほど割っていた生卵はどうなったのだ』
『あれを飲みほして、エーブレスキーバを焼くための筋肉を付けたんだな?』
「エーブレスキーバを焼くのに、そんな筋肉いりませんよ!? あの生卵は、この飲み物のために使ったんです」
 黒井はジョッキに入ったクリーム色の液体を差し出した。
「エッグノックという飲み物です、欧米ではクリスマス定番ドリンクみなっていますね。
卵黄と牛乳に砂糖とシナモン、ナツメグを混ぜて鍋でとろみが出るまで中火で暖めたら完成です」
 とたん、ゲスト控室でガタっという音がした。
 ニョロ子が立ちあがったのだ。
『それ生卵たっぷりにょろか?』
「はい、たっぷりです」
 ニョロ子が控室の出口に向かい始める。
 だが、歩き方が不自然である。 自分の意志で歩くというより、見えざる何かに引っ張られている感じだ。
「ニョロ子は恋音お姉ちゃんの料理を待ちたいにょろ! でも頭の蛇さんが許してくれないにょろ! 蛇さんは生卵が大好物にょろ! 恋音お姉ちゃんごめんにょろ〜!」
 出口に向かいたがる頭の蛇に引きずられるようにして、控室から出て行ってしまうニョロ子。
『あ〜、珍しい料理だったし、好物だから仕方ないね……』
 不本意そうにクリスマス会場に向かうニョロ子の背中を、一人控室に残った堺は見送った。
『堺はどちらにも行かないのであるか?』
『まだ決めていませんね、どっちかに決定的なツッコミどころが発生するのを待とうと思います』
 あくまでツッコミに徹する堺。
 現在の得点はこれで忘年会19点 クリスマス22点。
 勝敗は5点を持つSPゲスト、堺の動向次第で決まる状況となった。

「堺さん、そろそろお腹減りませんか?」
「お鍋美味しいですよ〜」
 咲魔と蒔絵が、忘年会会場から堺に呼びかける。
 鶏肉と、咲魔の育てた野菜で作った鍋である。
「蒲鉾ケーキとかもあるんですけど……」
 雫が魚のすりみを使って作った色鮮やかなケーキをみせた。
『う〜ん、特に空腹というわけでもないので……』
 反応が薄い。
 ニョロ子と違い、美味しいものや珍しい食べ物に釣られる性質ではないようだ。
「なら喉とか乾かない? 聡一さんが氷結晶で作ったゆずはちみつのシャーベット美味しいよ!」
『喉も特に……』
 堺は局が用意したペットボトル水を飲んでいる。
「ではこっちか、一献どうかな?」
 磁力掌で熱燗の杯をとり、御酌をするようにモニターの向こうの堺に差し向ける咲魔。
『まだ十九なんで……』
 酒にも興味はないようだ。
「うわ〜、全く釣れませんね」
「決定的なボケが出るまで、粘る構えかな」
 雫とシェリーも困惑顔である。
『まあ、ツッコみキャラとして番組に呼ばれたわけですからそこは徹しないと』
 くそまじめな堺は、食の誘惑に負けず控室に籠り続ける。

 続いてクリスマス会場から、ミハイルが誘惑。
「堺は職人気質だな、ならこれだ!」
 ミハイルはカラオケマイクを手に取り、歌謡いのスキルで洋楽を唄いながら、匠のスキルを発動。
 匠のスキルは、職人気質の人間に好印象を抱かせる効果がある。
『僕、好きなアイドルの曲くらいしか興味ないんで』
 職人気質相手なら、絶対にうまくいくわけではない。
「くっ、予想以上に強敵だな堺は」
「堺くんってゲーム好きなんだよっねー、一人でこもっていないでお姉ちゃんの作った双六しない?」
『スマホがありますから……これで世界中の人とゲームは出来るんで』
 レイバルド姉妹も撃沈。
 勝負を決定付ける男は、腰が重かった。

 忘年会場側からも誘惑の手が伸びる。
「堺さん、この音聞いて、お肉が焼ける音! 美味しそうでしょう」
 椿を釣った真緋呂が、再び堺の一本釣りに挑戦した。
『どうせ僕が着くまでに、真緋呂さんが全部平らげているでしょう』
 あっさりと、返される。 オチが読まれていた。
「まあ、その通りなんだけどね……もきゅもきゅ……そもそも元々、足りないのよね。 月乃宮さん、お肉買って来てくれないかしら?」


 その時、会場入り口に”肉”が到着した。
「おぉ……やっと着いたのですよぉ……(ふるふる)……」
 胸に二つの柔らかな肉塊を震わせて、月乃宮恋音ついに到着!
「恋音ちゃん、ボクらの方に参上!」
「随分と苦労したようだがどうしたのだ?」
 出迎えたレイバルド姉妹が問いかける。
「……うぅ……近道をしようと細い路地を通った時に、胸がつっかえてしまったのですよぉ……(ふるふる)……」
 まあ、大方の予想通りである。 デカすぎるから仕方がない、いつもの事。
「……ところで、ここはどちらの会場なのでしょう……」
「見ての通り、クリスマスだ」
 会場に入るとミハイルが、クリスマスツリーの飾りつけを増やしながら言った。
「……おぉ……」
 恋音が果たして、本当はどちらに行きたかったのかは伺い知れない。
 聞けばわかるのだろうが、忘年会志望だった場合に気まずくなるのは必定なので、あえて誰も聞かない事にした。
 ともかくこれで、クリスマスはホストが1人増えて1点入手。 だが、これは勝負を左右する得点ではない。
 忘年会19点 クリスマス22点。
 最後のSPゲストである堺の5点が、どちらに入るかによって勝敗が決するという状況に変わりはないのだ。
「恋音ちゃん、実はかくかくしかじかな状況なんだよ」
 恋音に文歌が現状説明をした。
「……おぉ……もう最終局面ですねぇ……私の胸がもう少し小さければぁ……(シクシク)……」
「落ち込まないで恋音ちゃん、ファイトだよ!」
 何かのアニメで見たポーズをとる文歌。
「……はい、予定通りには進めさせていただきますぅ……」
 恋音はキッチンに移動した。
 局が用意した調味料やキッチン用品に、紙袋に自ら持参した材料を合せ何やら作り始める。
「それは焼き海苔ですね?」
 キッチンで待っていた黒井が尋ねる。
「……はい……自家製の韓国海苔を作るのですよぉ……他では入手出来ない味海苔のはずですのでぇ……」
 ごま油を塗り、塩を振った焼き海苔を遠火で炙る恋音。
 その背中を、イリスが残念そうに眺める。
「恋音ちゃん、クリティカルに椿ちゃん狙いだったんだねー」
 椿は、真緋呂の”年齢を忘れる会”という言葉に釣られ現在、忘年会場に向かっている。
 途中での行く先転換は、ルール上出来ない。
「僕もお手伝いします」
 黒井も手伝ってくれて作成し始めたのは、ピザパイ。
 韓国海苔や、キムチを載せた韓国風ピザ。
 トウモロコシ、ベーコン、マヨネーズをのせたマヨコーンピザ。
 この二種類を作成していく。
 生地からこねる本格派である。
「美味しそうだねー♪ ニョロ子ちゃんもこっちに向かっているし、来たら皆で一緒に食べよう!」
 顔をほっこりさせる文歌。
「ありがとうございますぅ……堺さんも来てくださると嬉しいのですがぁ……」
 ゲスト控室のモニターをチラ見する恋音。
 肝心の堺はパイプ椅子に座り、スマホゲーをしている。
 時折、モニターを見ているので恋音がピザを作っているのも知っているようだが、動く気配はない。
「あの目はスナイパーの目だな、無関心を装いながら決定的なツッコみどころが出てきた瞬間に、トリガーを引き放とうって男の目だ」
 ミハイルがプロっぽい分析する。
「……ピザでツッコミどころを作れと言われても無理がぁ……(ふるふる)……」
 弱気な恋音をレイバルド姉妹が励ます。
「大丈夫だよ! 恋音ちゃんはおっぱいのデカさ自体が、ツッコミどころだから!」
「うむ、乳オチ担当と聞く」
「……お……おぉ……?……」
 恋音の乳ネタを持ち出しても、堺は動く気配がない。
「これダメだ恋音ちゃん! ピザ生地と間違えて自分のおっぱいをこねるくらいはしないと!」
「ピザと間違えて、自分の乳を食べてしまうというボケはどうだ?」
「……それは無理がぁ……(ふるふる)……」
 ごたごたやっていると、モニターの中の堺が動いた。
 スマホゲーをやめ、立ちあがる。
 控室の出口をくぐった。
「あ! 堺さんが行きましたね! あれはツッコむ時の表情です!」
「この騒ぎを聞いて、こっちにツッコみに来てくれるんでしょうか?」
 期待に満ちた顔の文歌と黒井。
 そして数十分後、彼らの前に堺が姿を現した!

「なにやっているんですか椿さん!」
 堺が現れたのは、反対側の忘年会場の方だった。
 クリスマス組ががっかりとモニター越しにそれを見つめる中、堺は幼稚園児用のスモッグを着ている椿にツッコみを入れている。
「いくらなんだって無理があるでしょう! 30過ぎてるんですよ!」
「忘年会は、自分の年を忘れる会なのだわ」
「椿さんの場合、忘れているのは羞恥心です! すぐこれに着替えてください!」
 堺は椿に普段着を差し出していた。
 それを見つめるのは、同じくスモッグを着ている真緋呂。
 彼女は、仲間である忘年会組のメンバーに問いかけた。
「私が用意したスモッグに四ノ宮さんが食い付いて、その四ノ宮さんのボケに堺さんが食いつたって事は、二人とも私が釣ったと解釈していいのよね?」
 蒔絵と咲魔がうなずく。
「はい、結果的に真緋呂さんの垂らした釣糸にかかっていますからね」
「お見事です、MVPは間違いないかと」
 シェリーは万歳している。
「わーい、これで私たちの勝ちだね!」
 いつも恋音の巨乳に悩まされている雫も嬉しそう。
「乳の加勢が向こうについた時はどうなるかと思いましたが、団体戦とはいえチチノミヤさんに勝てました!」
 最終結果は忘年会24点 クリスマス22点。
 “クリスマスパーティVS忘年会”は、忘年会側の勝利で幕が閉じた。


 幕が閉じたのは勝負だけ。 パーティはまだ続く。
 忘年会場では、咲魔と蒔絵主催のロシアンベルリーナが繰り広げられていた。
「辛いっ、外れは私ですね〜」
 シェリーがマスタード入りを引き当てたようだ。
「罰ゲームでデュエットかー。 でも歌はクリスマスの方から散々、聞こえてくるんだよね、代わりに思い出語りで良いかな?」
「構いませんよ、どうぞ」
「むしろ、忘年会に相応しいと思うよ」
 咲魔と蒔絵の許可が下りたので、思い出語りを始める。
「まだここに来て半年足らずだけどいろんなことがあったねー、南極レストランと架空史ドラマは人生的な意味でもいい経験でした。 TV局の皆さん、来年も宜しくお願いします♪」
 それを皮切りに、他のメンバーも次々に思い出を語ってゆく。
 まずは雫。
「チチノミヤさんに散々やられましたけど、今日は勝てて満足です、貧乳でも巨乳に勝てるんです!」
 続いて真緋呂。
「この局の番組に出るといろんなものが食べられるのよね。 今日の焼肉も、鳥鍋も、鳥の丸焼きも、かまぼこケーキも、ゆずシャーベットも、このベルリーナーも美味しかったわ。 あっ、クリスマスの方で余ったんならこっちに運んでくれても構わないわよ」
 咲魔と蒔絵は幸せそうにデレデレしている。
「2015年の思い出は何と言っても蒔絵さんと出会えたことですよ、放課後王選手権で撮ったプリクラのツーショットは宝物です!」
「私も、あの時に当てたタンクローリーのフィギュア大事にしているよ! でも何回やってもお目当てのロードローラがでないんだよね」

 一方、クリスマス会場では、レイバルド姉妹製のチミモン双六を皆で遊んでいた。
「うわぁぁ〜! ボクのチミモンがイリリンちゃんを黒井くんにゲットされたー! 髪に触るなー! ボクの分身の髪に触ることはゆるさーん!」
「双六の駒ですよ? じゃあ、こう持てばいいんですか?」
「レディの胸に触るなー! お尻もダメだー!」
「持ちようがありませんよ?」
 恋音は、ゲームの駒であるフィギュアを作ったアイリスに恐る恐る話しかけている
「……あのぉアイリスさん……私のチミモンだけ、ジャンルがチチモンになっているのですが誤植でしょうかぁ……(ふるふる)……」
 恋音のチチモンフィギュアは、乳を触らずに持つ事が不可能な構造になっていた。

 文歌はプレゼント交換で、自分のプレゼントを当てたニョロ子のために歌を唄っている。
「アーティスト文歌のクリスマスライブ! オンステージ!」
「ニョロ子の蛇さん百匹がスタンティングオベーションにょろー!」
 こちらは一般ゲストも集まり、盛り上がっている。

 番組終了。
 収録を終えた両陣営は、TV局のロビーに再集合していた。
 そこでようやく、1人足りない事に気付く。
「あれ、ミハイルさんがいないのだわ?」
「そういえば、プレゼント交換会の後から姿が見えませんね」
 文歌がプレゼント交換の主催者として申し訳なさげな顔をする。
「”何でもする”って約束しちゃっていたから、仕方がありませんよ」

 案の定、ミハイルのプレゼントは体育会系の怪しげな男たちに当たってしまっていた。
 男3人、今どこで何をしているのだろうか? 
 TVでは、とてもお見せ出来る事ではないだろう。
 闇の中から、こんな声だけが響いている。
「何でもするとは言ってねえよ!」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: あなたへの絆・蓮城 真緋呂(jb6120)
 そして時は動き出す・咲魔 聡一(jb9491)
 食べ物は大切に!・天願寺 蒔絵(jc1646)
重体: −
面白かった!:9人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
深淵を開くもの・
アイリス・レイバルド(jb1510)

大学部4年147組 女 アストラルヴァンガード
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB
食べ物は大切に!・
天願寺 蒔絵(jc1646)

大学部2年142組 女 アーティスト
もふもふコレクター・
シェリー・アルマス(jc1667)

大学部1年197組 女 アストラルヴァンガード