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久石久美の取材を続けた我々は記者を撮影スタジオ内に侵入させ、いくつかの意外な事実を見つけ出した。
「どうして、いつもボクはこんな役ばっかり……。 この”ファリオ”って役は本当に自由すぎて難しいよ……」
撮影スタジオのロビーで台本を片手に悩んでいたのはファリオ(
jc0001)役の子役、ミラだった。
その姿は、神経がワイヤーロープと言われ、椿を奔放にからかう悪戯な少年像とはかけ離れていた。
「街を歩いても、ボクだと気付く人は全然いませんよ……。 いえ、良いんですよ。静かな方が良いですし、人と話すのも苦手ですから……。 学校でも友達が居なくて……。 人気ドラマに出演している女優だって誰も気付いていないと思います」
自虐気味に微笑むミラ。
我々はその言葉に隠されたあるキーワードに着目した。
「はい、性別は女ですよ。 どうでもいいでしょう? このドラマじゃ珍しくないですよ」
検索BOXに”EYN”と打ち込むと”EYN 性別”という検索予想キーワードが出るとネタにされるほどの性別不明ドラマである。
しかし、我々はミラがバストサイズアップの薬品や器具を大量に購入している事実を突き止めていた。
「こ、これは、事務所が勝手に買ってきただけで――」
顔を真っ赤にして弁解するミラ。
胸が大きくなれば少年であるファリオを演じるにあたって邪魔になるはず、なぜそこまで急ぐのだろう?
なにより内向的な性格なのに、なぜ役者の道に入ったのか?
記者が半ば確信を以て質問をすると、ミラはそれと大きくは違わない答えを返してくれた。
「ドラマ内では椿さんの事を嫌いとか言ってますけど、僕自身は……。 あ、いえ、久石さんが好きとかそんなんじゃないんですよ!? 憧れと言うか、何と言うか。 と、とにかく違うんですからね!? ど、同性愛者なんかではありませんしっ!!」
どうやら久石には自分が女性である事を告白出来ずにいるらしい。
四ノ宮椿につっかかる姿が人気のキャラクター、ファリオ。
久石に自分が女である事を告白出来ず、愛も求められないミラの苛立ちが、演技に現実感を与えているのかもしれない。
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久石のアプローチに悩んでいる者もいた。
雫(
ja1894)役の月村 雫である。
思春期の少女には深刻な問題かと慮り、我々はまずドラマの内容に関する取材から始める事にした。
メイクを落とした月村は烏の濡れ羽色の髪と、黒目がちな瞳を持つ少女だった。
「劇中でアルビノなのは、妹と見分けが付くようにとの配慮からなんですよ。 役の私だと無口で無表情だから笑顔で対応すると間違えましたって、逃げられちゃうんですよ〜」
大剣を振り回して人を追い回す劇中での姿とはかけ離れている。
旧家の娘らしく笑顔も上品、そして何より饒舌だった。
「劇中で良く貧乳って嘆いてますけど、実際は年相応にはありますからプレゼントで豊胸剤を送って来るのは止めてね〜」
何を聞いても機嫌よく返してくれる。
我々がミラから聞いた悩みを話すと、家にとってある豊乳薬をミラにプレゼントすると言ってくれた。
朗らかな娘である。
「貧乳と言えばSP回の”きょぬー族VSひんぬー族”ですよね。 虎ですよ! 虎! いくらしつけてあると言ってもガブリとされたら終わりですからね。 恥ずかしい話ですけど、何度も泣いたり逃げたりしちゃいましたよ」
放っておくと、日が暮れるまで喋りそうな勢いだった。
我々は、今回の核心に触れる質問をした。
「ああ、久石さんですか、何度も断っているのにしつこいんで、困ってるんですよ〜」
眉を曇らせる月下。
年齢的にも容姿的にも久石のストライクゾーンど真ん中らしく、激しいアプローチを受けているようだ。
「最近だと眼つきが怖いから男性スタッフに付いて貰っているくらいなんです。 かくれんぼ回で言われたみたいに”私がプレゼント”なんてことありえませんからね!」
月下には好きな男性もおり、ノーマルとの事だった。
ファンには残念な情報かもしれないが、その男性が自分であると思い込んで月下を応援し続けて欲しい。
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複雑な造りをした撮影スタジオを彷徨っていると、脱衣所で偶然、その人物と出会った。
「わあっ!? やめてください! 撮らないで下さい」
記者のカメラを見て取り乱したのは、八塚 小萩(
ja0676)役の榛名水月だった。
“天狗姫”という役柄の小萩であるが、その肉体には”姫”にはふさわしくない器官が付いていた。
つまり”天狗”の方である。
慌てた榛名は事実を隠ぺいしようと、記者にしなだれかかってきた。
「実は、ここにカメラ仕掛けてあるんですよ、人生、終わりにしたくないですよねぇ?」
空虚な脅しに入る榛名。
記者がノンケであり、脅しが無意味である事に気付くと、観念したかのようにポツリポツリと事実を語り始めた。
「僕……実は久美さんに一目惚れして……だから……女装して、男である事を隠してドラマで共演すれば仲良くなって。 こ、恋人にしてもらえるかもって思ったんです」
顔を赤くする榛名。
20才以上年の離れた少年をこのような暴挙に向かわせるほどの魔性を、久石は持っていると言う事だろう。
「僕が男である事は監督しか知りません……女の子は、裸やお尻叩きはNGな子が多いんですけど僕はOKですから。 そういう内容の話を撮る時に使い易いんだそうです」
撮影中にはカメラが”天狗”の姿を捉えてしまった事もありはしないだろうか?
「股に挟んで後ろ向きに固定して瞬間接着剤で……。 上手くやってるから久美さんにも見破られてないですよ……。 この間、恋人にしてもらえたんです」
衝撃の事実である。
久石は年齢が一桁の子役にまでを手籠めにしていた!
「でも、限界ですよね。 久美さんが女の子に手を出すっていうのは、つまりそういう事ですから……。 初デートの時も、脱がされかけたんですが、まだ恥ずかしいって、拒んだんです。 でも、いつまでもそんな事続かないし、こうしてバレてしまいましたから、一度でも恋人になれた事を胸に、僕はこのスタジオから去るべきなのかもしれない」
シャバから去るべきなのは久石の方ではないかとも思うのだが、榛名は熱にうかされたような笑顔で思い出を語った。
「更衣室は他の女の子と一緒ですし……ここは天国でした」
その時は引退を決意していたという榛名だったが監督に慰留され、意志を変えたようだ。
男の娘のお尻叩きシーンには、 むしろ、新しいファンがつきそうである。
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あの幼女欲の権化が、さらなる生贄を求めぬわけがない。
そう考えた記者は、久石関係の取材を強化した。
最初に浮かび上がってきたのが、ハル(
jb9524)役の春日井凌である。
「ん? ハル……のこと、が知りたい、の?そんなに? それ……じゃ、ちょっとだけ、だから……ね?」
春日は、いつものハルの口調を、突然、捨て去った。
「このまどろっこしい話し方、超嫌いなんだよね! まあ考えたの俺なんだけどさ、本読んでた時に降りてきたキャラを監督に話したら、なぜか俺がやることになっちゃってさ、本当、参っちゃうよね」
春日は豪快な笑みを浮かべた。
「元々、久石さんにスカウトされたんだよ! この外見が気に入ったらしくて」
言いつつ、白髪のウイッグを取り去る。
その下から出てきたのは黒髪の姫カットだった。
「性別? 俺は女だよ、いわゆる俺っ娘。 そもそも、あの人が男をナンパするわけないじゃん!」
言われてみれば、もっともである。
榛名のように、必死の努力で性別を偽って久石を騙したのは例外なのだ。
「まあ、その恩もあって、あのヒトの言いなりもイイとこだよね。 俺も久石さんのこと…その、好き…だから、さ……って言うなよ?」
最初は自分を匿名にして記事を書くよう要請してきた春日だったが、我々もそれが仕事である。
実名で情報を出せるよう交渉をした。
「久石さんのストライクゾーンは14歳まで?」
事実を知った榛名は、とたんに焦った。
「ヤバい! ぎりぎりじゃん! この通りのマナ板なんだけど、14過ぎたらやっぱダメかな?」
久石には、15歳に達した恋人は持たないという矜持がある。
メル役のエマ・モレッツが15歳の誕生日を迎えた瞬間、別れのメールを送りつけられ、しゃがみ込んでむせび泣いた姿は何人もが目撃していた。
「なんとか俺の誕生日までに一度は恋人にしてもらわないと……ん?久石さんが呼んでるって? じゃ、頑張ってくる!」
気合を込めた顔で、久石の元へ向かう春日。
なぜ捨てられる事を知っていながら、久石に恋焦がれるのだろう。
魔性の女・久石久美とその毒牙にかかってゆく幼女たちに関しては、これからも取材を続けていく方針である。
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我々は久石関係以外にも、さらに驚愕の情報を得る事に成功している。
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)を演じる役者といえば春原・ファルコ。
昨年、ドラマ上の恋人役との結婚を発表、さらには男の娘である事を明かして人気がさらに上昇した俳優である。
ところが、我々が撮影現場で見たラファルは全くの別人だった。
「春原ファルコ? 今日はいないよ、俺様ちゃんは代役」
我々の見たラファルは、ユーティ・留原という北欧出身の少女だった。
春原の売りは、どんな危険な場面でも代役を使わない、体を張った演技ではなかっただろうか?
「それ嘘だぜ。 春原は自分によく似た子を何人も囲ってやばいところは全部代役させてうまい汁吸ってんのさ。 俺様ちゃんもその一人って訳」
衝撃の事実!
我々が春原の事をさらに尋ねると、留原は躊躇うどころか自分から進んで秘密を暴露してきた。
「春原ってーのは大したタマだよな。 俺様ちゃんも含めて何人も愛人を囲っているくせにあーんなかわいい奥さんと結婚できちゃうんだもんな」
なんという鬼畜! 久石よりも酷い!
なぜこんな鬼畜の愛人を、留原は続けているのだろう。
「理由なんて簡単だろ。 こうでもしないと実のある仕事なんて回って来ねーんだよ。 水着シーンや悪い子はみんな俺様ちゃんだな。 奴には感謝してるよ」
芸能界の厳しさを象徴するような現実。
枕営業の上に、危険なスタント、さらには汚れ役までこなさねばならないとは。
そんな現実を受け入れている留原は、果たして何歳なのだろう?
「11歳だよ、ツルペタツルペタ言われるけど、当然の話だぜ」
まだ小学生だった!
これは完全なる犯罪行為である。
義憤に駆られた記者はこの取材結果を警察に持ち込んだ。
春原は現在、取り調べを受けている。 罪状がいくつ付くのかわからないほどだという。
Xデーは近い。
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取材を続ける我々は、スタジオ内の技術室に見覚えのある人影を見た。
鷹代 由稀(
jb1456)役の城乃内 和泉である。
クール&ドライを徹した元傭兵という役柄。
撮影の息抜きに煙草でも吸っているのだろうと気軽に手元を覗いた記者は、意外なものを見てしまった。
漫画の原稿用紙。 しかも、城之内がそこに描いているのは男同士が全裸で絡み合う、いわゆるBL漫画だったのである
しかも、Gペンを這わせながら何かにとりつかれたかのように唸っていた。
「ウヌゥ……積みゲー消化したい……。でも僅かでも固定客ついてるから新刊落とすわけにもいかないし…うーーーあーーーーーーーーーー……」
BL同人誌にヘビーゲーマー。
明るく気さくで姉御肌というイメージで売っていた城之内の知られざる趣味である。
気配を察したのか城之内は原稿用紙から顔をあげた。
記者と目が合い、慌てるのかと思いきや寝ぼけ眼で対応してきた。
「……客? 今月は通販何も頼んでないはずなんだけどな………」
取材を求めると、城之内は我々をスタジオ近くの喫茶店に招いてくれた。
「この時期は、毎年”祭典”に向けてラストスパートなんだよね。 仕事も本当は入れたくないんだけど、ドラマ上どうしても必要だからって監督に頼まれてね、仕方なく原稿を連れてここに来たの」
聞いたところ、城之内はかなりの冊数を出している同人作家だった。
BLだけではなくNLやGLものも出している。
出演者同士のただれた愛欲が多いEYNの現場ではインスピレーションがわきやすく、役者と同人作家の兼任は捗るのだという
「まあ、公開するならどうぞ。別に隠しているわけじゃないもの。ただし、そっちが筋通すならの話だけど。 今日の件はマネージャーに報告させてもらうわよ。いいわね?」
城之内は煙草を吸いながら念をおした。
アニソン歌手も務めている彼女の事、同人作家としての顔も明かせば人気はますます高まるのではないだろうか?
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我々は事前に一枚の写真を入手していた。
紅白出場経験もある人気アーティスト・千条 早霧のものである。
ドラマの中では、夫と実子がいながら他の男性とも恋を楽しみ続ける奔放な女学生、藍 星露(
ja5127)を演じている千条。
だがプライベートでは、浮いた話一つなく、美しさと堅物なマスコミ対応から”サファイアの壁”と呼ばれていた。
その千条が、一般人男性と仲睦まじく腕を組んで歩いている写真を入手したのである。
我々の取材に対して、千条は最初、サファイアの壁に相応しい頑なさを見せた。
「何ですか? 取材は事務所を通して下さい」
だが、我々が写真を見せると、顔色が変わった。
「きゃああああ!? 何で”彼”の写真を持っているんですか!? 」
動揺したのか、千条はしどろもどろになりながら応え始めた。
「その、確かに彼は幼馴染で、子供の頃から親しくさせて頂いてますけど――」
出世作ゆえ、断り切れなかったEYN以外では、お色気仕事を一切やらなかったのも、彼に操立てしていたからだろうか?
「ですから、彼とはただの幼馴染で――」
崩れていくサファイアの壁に、記者はとどめとなる質問をぶつけた。
ここ数ヶ月、EYNを始め、全ての仕事をキャンセルし、姿を消していたわけは?
「か、彼は一般人ですからっ。 本当にその辺りは、勘弁して下さい〜!」
そのまま逃走してしまう千条。
真相は未だ不明のままだが、ただの恋人が出来ただけというのは、全ての仕事をキャンセルする理由としては考えにくい。
あるいはドラマの中の星露と同じく、知らざる出産をしていたのではないだろうか?
千条が記者会見を開くとのFAXマスコミ各社にが流れてきたが、それが単なる婚約発表となるのか、記者の憶測を裏付けるものになるのか、注目したいところである。
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EYN出演者たちの真の顔は、ドラマの中のイメージを破壊してしまうほどのものだった。
だが、それはドラマとしてのEYNを崩すものではない。
全く違う人物を演じているからこそ演技は深みを帯び、EYNに魅力を与えているのだ。
記者として、一人のEYNファンとして、今後も彼らの真の顔を暴くこのシリーズは続けていきたい。