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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/10/28


みんなの思い出



オープニング


「何もないにょろ、みんな忘れているにょろか?」
 ニョロ子(jz302)の番組出演が決まってから一週間が経った。
 しかし、身の回りに何ら変わった様子はない。
 ニョロ子が首を傾げると、頭の蛇さんたちも一緒に首を傾げる。
 オファーを受けたのは“弱点を克服しよう!”という番組。
 自分の弱点を告白し、それを克服しようと奮戦する様を公開する番組である。
 ニョロ子が克服したい弱点は“驚くと頭の蛇さんが抜けてしまう事”だった。
 物凄く驚くとスキンヘッドになってしまう。
 一時的にではあるが、女の子として恥ずかしいのだ。
 そこでTV局に、自分に不意打ちをして驚かせてくれるよう頼んである。
 何事にも動揺しないよう、耐性をつける作戦だ。
 部屋に、撮影用カメラが据え付けられて一週間。
 だが、驚くべき事は何一つ起きていない。
「う、う〜ん、驚かせてくれないと、何も始まらないにょろ」
 などと考えていると、ニョロ子の部屋のインターホンが鳴った。
 一応、警戒してから玄関に出る。
「どうも、御届け物です」
 ただの宅配業者だった。
 小包を受け取り送り主を見ると、四ノ宮椿(jz0294)だった。
「むむ、これは警戒すべきかにょろ?」
 椿なら、久遠ヶ原ケーブルTVに協力している可能性は充分にある。
 というか、毎日斡旋所に遊びにいっているのにわざわざ郵送で何かを渡すなど、不自然極まりない。
「ニョロ子の読みでは、中身はびっくり箱でナメクジさんのぬいぐるみが飛び出てくるのにょろ。 わかっていれば驚かないにょろ」
 ニョロ子はナメクジが苦手である。
 小包を開けて本物のナメクジが出てきたら、即ツルッパゲクラスで驚くが、さすがにそこまでのグロをやるとは考え難い。
 なぜなら、ニョロ子は幼女だから。 そんな場面、放送したらTVの前の大きなお兄ちゃんが全力で電突してくるに違いない。
 彼らにとって、幼女虐待はこの世で最も重い罪なのだ。
 警戒しながら小包を開けると、中身はアルバムだった。
 表紙の上に、椿からの手紙が添えられている。

『突然、ごめんね! ある依頼で堺くんの学園生時代のアルバムが手に入ったから、ニョロ子ちゃんにあげるのだわ。 斡旋所で渡そうかと思ったけど、堺くんに見られたら、ニョロ子ちゃんが気まずそうだから、こうして郵送させてもらったのだわ。 手に入れた事は堺くんには内緒にしてね!』

 ニョロ子、顔が灼熱化する。
「ええ〜! 堺お兄ちゃんの学生時代の写真にょろか!?」
 ニョロ子は斡旋所の椿の後輩、堺臣人に片思いをしている。
 堺の写真がぜひ欲しいと思っていたのだが、クソ真面目で仕事人間の堺はあんまり外に出ず、記念撮影をするきっかけなんかもない。
 仕事をしている横顔をスマホで撮影する手も考えたが、恥ずかしくてどうしても出来ない。
 そんな初恋中の七歳女児だった。
 欲しかったものがアルバム単位で手に入って、しかもニョロ子の知らない学園生時代のものとあれば驚くよりも嬉しいが先に立つ。
「ど、どきどきにょろ……」
 甘く震える手でアルバムを開くニョロ子。
 そこに広がっていた世界は……。
「誰にょろ!?」
 金髪リーゼントのヤンキー少年がそこに映っていた。
 一枚目の写真から改造学生服を着て、うんこ座りをしている。
 二枚目では、難しい漢字の書かれてた紫色のガウンから胸を大きくはだけ、両腕で二人のヤンキー少女を抱き寄せてピースをしている。
 三枚目は、仲間のヤンキー三人とともにカメラに向かってガンをつけた写真だ“チャリで来た”と書き文字がしてあった。
 信じがたいが、どれも確かに顔は堺その人だった。
「さ、堺お兄ちゃんは昔、ヤンキーさんだったにょろ……」
 歯の根をガクガク言わすニョロ子。
 頭の蛇さんが次々に抜けていく。
 真面目で地味な堺お兄ちゃんにこんな過去があったなんて……。
 一瞬、気が遠くなりかけてからハッと気付き、頭を横に振る。
「お、驚いたらダメにょろ! ニョロ子は知っているにょろ! こんなの画像加工でいくらでも出来るのにょろ!」
 蛇さんが百匹中四十匹ほど減った状態で、それを食い止めた。
「たぶん、最後まで見た時に“ドッキリだったのだわ!”的な事を言いながら椿お姉ちゃんが部屋に入ってくるにょろ! そういうTV的オチにょろ」
 平常心を取り戻さんとしながら、アルバムを眺める。
「ふふっ、よく出来た合成写真にょろ……」
 やや裏返っているが、笑いも漏れてくる。
 だが、最後を飾っていた写真を見たとたん、それまで残っていた蛇さんがすぽぽぽーん!と全部抜けた。
 “初代総長”と題された写真に映っていたのは、特攻服からはだけた胸にGカップの巨乳にさらしを巻いた女総長が映っていた。
 メンチを切るその顔は、まさに椿のものだったのだ。
「つ、椿お姉ちゃん!?」
 その時、ニョロ子が予想していたタイミングそのままに、マイクを持った椿とカメラさんが部屋に飛び込んできた。
「挑戦失敗残念〜! ドッキリだったのだわ! それね、一週間かけてわざわざ撮影したのだわよ。 私たちが元ヤンだと思って驚いた?」
「す、少し、驚いたにょろ」
「ふふっ、少しって割には全部、抜けちゃっているのだわ」
 ニョロ子のスキンヘッドをナデナデしてくる椿。
「いや、一番驚いたのは椿お姉ちゃんが、年甲斐もなく女ヤンキーの格好をしていたことにょろ……だってこれ、どう見ても若い頃の顔じゃないにょろ!」
「え、ええ……若い頃と、あんまり変わってないって自信があるんだけど……」
 子供ならではの率直で残酷な発言に、椿はもにょるのだった。

 ニョロ子は弱点克服ならなかったが、自分の弱点を乗り越えるべくキミたちも果敢にチャレンジをして欲しい。
 結果はどうあれ、視聴者はその勇気に感動するのである!


リプレイ本文


 久遠ヶ原ケーブルTV、第五スタジオ。
「弱点?  僕に弱点など、身長以外ありませんよ」
 カメラの前で自信ありげに微笑む、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)。
 中学二年生、140cm。 その自信は、コンプレックスの裏返しでもある。

 その隣、第六スタジオでは別出演者の収録が同時に行われていた。
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ!高みへ駆けろとボクを呼ぶ! そう、ボク参上! 」
 金髪ツインテちびっ娘のイリス・レイバルド(jb0442)だ。
「いぁいぁ弱点克服ですかー、プライバシーというかコンプレックス晒せって意味ですよね 、ふっボクのように魅力に溢れていると弱点を探すのも一苦労だぜ」
 このパターンはもしや……。
「身長……」
 ぼそっと呟くイリス。
 奇しくも身長コンプレックスを持つもの同士、合流して解決に挑む。

「高2で132cmですか、完全に小学生並ですよねー」
「誰が小学生かー!?泣くよ!?遍く銀河に轟き渡るほどに泣き喚くよ!?  小動物でもなーい!? 誰がハムスターのように滑車を回す姿が似合いそうかッ!? 」
「そこまで言っていませんよ……」
 イリスの大声に耳を塞ぐエイルズ。
「で、どうやって解決する?」
「身長を伸ばすなど、天使か悪魔でもなければ無理でしょうねえ……というわけで、悪魔を呼んでおきました」
「ボクサンジョー!」
 いきなりイリスの芸をパクッて登場したのは、はぐれ悪魔レイ。
 昨年の夏にエイルズが無人島から攫ってきた幼女である。
「僕、背を伸ばす方法知ってる!」
「おお!」
 期待に満ちたエイルズとイリスの前で、レイは語り出した。
「まず、飛行機に乗る」
「飛行機? 飛行スキルで代用可能かっなー?」
「気圧や重力の問題ですかね、宇宙飛行士って身長って変わるって言いますよね」
 ふむふむと話の内容を検証するイリスとエイルズ。
「次に、赤い玉と青い玉を探す」
「なにそれ、薬?」
「抽象的な表現でしょうか?」
「飛行機で赤い玉にぶつかる、墜落する」
「!?」
「銀色の宇宙人が出てくる、もらったカプセルを掲げると背が伸びる」
「40mくらいになりますよね?」
「3分間だけじゃん! ジュワっしか言えなくなるじゃん!」
 悪魔の知識は全く役に立ちそうにない。

 エイルズとイリスは別の方法を探しに、外に出ていた。
「とりあえずは大人っぽく見られればいいのさ! 身長なんか一夜で伸びるもんでもなし! ボクが魅力溢れる女子高生だということを広めていこうじゃありませんかー」
「僕の目的はこの時点で抹殺されましたね」
 元々、無理な注文である。
 エイルズもその辺りは割り切っていた。
「じゃあ、ライブでもする?」
「何でそうなるんですか!?」
「アイドルと言えば永遠の17歳!  つまり女子高生の体現者!! レッツスクールガール!」
 とにかく勢いに任せるのがイリススタイル。
 その場で、路上ライブ開こうとする。
「じゃあ、イリスさん歌ってください、僕はタイミングを併せて奇術の演出でもさせてもらいますから」
「いいねー! んで、何歌う?」
「著作権にひっかかると、面倒ですよね」
「じゃあ、オリジナルだねー! 作詞から始めますかー! まずは今の女子高生の心に、ガーンとくるフレーズを調べて見よっかー」
 二人はスマホで、女子高生の流行語を検索調査し始めた。

「2015年度最新女子高生流行語というのがありました。 3位はメンディーだそうです。 面倒くさいという意味です」
「いかにも女子高生な感じだっねー!」
「二位は“まぢルンルン御機嫌丸!”だそうです」
「“激おこ”の類でしょ? まだ流行ってんの!?」
「らしいですね、一位が“ガチしょんぼり沈殿丸”になってますから」
「そういうの使いこなさないとまぢルンルン御機嫌丸な女子高生になれないのかー、メンディーね。 諦めよう、ガチしょんぼり沈殿丸だよ」
「それなりに使いこなしているじゃないですか」
 背は伸びなかった二人だが、ちょっぴり大人になれた気がした。


 続いては曲作りも手掛ける本格派アイドル川澄文歌(jb7507)。
 だが、悩みはそこにあった。
「私って地味じゃないですかね?」
 この島では金髪銀髪は当たり前、緑とか紫とか色彩豊かな人々が跋扈している。
「あと、種族が人間でジョブは陰陽師なの? ふつー……って意見もあったんですよ」
 陰陽師のどこが普通なのだろうか? スタッフには理解しかねる意見である。
 しかし昨今の島は、はぐれ悪魔天使はおろか、希少種のはずのハーフなんちゃらまでがやたらいるように錯覚するほどの状況、人間が普通すぎると思うのも無理はない。

「というわけで、ふみのん星からやってきたふみのん星人ですのん!」
 金髪に染めてきた文歌。 確かに宇宙人は希少だが、間違った方向に行っているのは誰の目にも明らかだった。
「あれ?なんですのん、その反応は?」
 語尾に何か付けてキャラ付けしている。
 言いたい事もあるスタッフだったが、局長の姪からして“なのだわ”とか言っている状態である。 余計な一言で、ハローワーク通いになりかねない。
 とりあえず好きにさせようという事で放置し、一週間後。

「あれ、あんまり人気が出てないですのん」
 文歌が毎週行っている週末ライブには人が集まっていなかった。
 電波キャラが受け入れられず、明らかに人気が減衰している。
 他にもぶりっ子など様々なキャラ付けを試す文歌だが、一向に良い反応を得られない。
「うぅ、何キャラなら皆、受け入れてくれるんだろう」
 悩む文歌の元へ、ニョロ子が訪れた。
 かつて悩みを文歌に解決してもらった仲だ。
「いつもの文歌お姉ちゃんが一番いいと思うにょろ」
「ええ、それじゃあ目立たないよ」
 ニョロ子は、文歌の綺麗なストレートヘアーを羨ましげに見た。
「ニョロ子は文歌お姉ちゃんの黒髪が羨ましいにょろ。 日本人の男の人は黒髪が一番好きだそうにょろ。 いつもの文歌お姉ちゃんが一番魅力的だと言う事にょろ」
 そのままの自分が一番魅力的に受け止めてもらえるとは、何という幸せだろう。
 顔を輝かせる文歌。
「でも、どうしてもというなら、ニョロ子の蛇さんと黒髪を交換して、ニョロドルになる道もあるにょろが、どうにょろ?」
「ううん、普通のアイドルのままでいい、私のまま真っ直ぐ突き進むよ!」
 スクールニョロドルは誕生せず、文歌はアイドルのまま立ちあがるのだった。

「ニョロ子的には、トレードOKして欲しかったにょろ……」


「私の弱点か……“女性らしい可愛らしさがない”事かな」
「そんな事ないんだな」
 遠石 一千風(jb3845)の悩みを、速攻で否定したのはクレヨー先生。
「一千風ちゃんは、ちっちゃくてとっても可愛いんだな」
 2mの高みから頭をぽんぽんしてくる。
「いやいや、先生に比べれば小さいですけど!」
 現在、身長が大台の180cmに近づきつつある一千風。
 どうにかして、女の子らしい可愛さを身に着けたいらしい。
「むしろ長身を逆手にとって、性格や仕草でギャップ萌えを狙うのが正解なんだな」
「なら、甘い物好きになりたいです」
 昔、激甘チョコレートで地獄を見た経験から甘いものが大の苦手なのだそうだ。

 どのくらい苦手か検証する。
 まずは一粒で三百m走れると言われたキャラメル。
 栄養価も甘さも充分な定番コンビニ菓子。
 だが、箱を見ただけで一千風の眉間には皺が寄る。
 恐る恐る口に含むと、天魔と激戦を繰り広げているような表情になる。
 完食した後は肩で息をしていた。 栄養補給どころか消耗している。
「すみません、無理ですよね、これ……ご迷惑でしょうし降板させてもらいます」
 集まってきた不安そうな視線に、しょぼんとする一千風
 だが、クレヨー先生には妙案があった。

「二人でに食レポ生放送にょろ〜」
 ニョロ子と一緒にケーキ店に食レポに向かう。
 一千風は責任感が真面目で強い。
 仕事ならば食べるだろうし、良質な甘味を食べればきっと好きになるだろうという算段。
「ここの苺オムレットは、フルーティな甘さにょろ。 限定50食だから、買いたい人は開店30分くらい前から並んで欲しいと店員さんが言っていたにょろ」
 カメラに向かい、流暢にレポートするニョロ子。
 流石のグルメ幼女、慣れている。
 その横で、一千風はオムレットを必死に食べていた。
「すごく甘くて美味しいぞ……」
 笑顔を浮かべつつも、顔が引きつっている一千風。
 それを見たニョロ子もオムレットを口に含む。
「うん、本当にょろ! 蛇さんたちも大満足にょろ!」
 ニョロ子が微笑むと、頭の蛇さんたちが“にょろ〜♪” “にょろ〜♪” “にょろ〜♪”と歌いながら立った。
 その姿に一千風の緊張が解ける。
「あはっ、何だそれ可愛いな」
「美味しさによって立つ蛇さんの数が変わるにょろ、次のお店では何匹立つにょろか〜?」
「うん、行こう! 次は、タルトの店だな」
 ニョロ子と蛇さんたちと楽しく美味しくスイーツ巡り。
 一日で、すっかり苦手が克服出来た一千風だった。


「泳ぐのが苦手なのを克服したいな」
 依頼で溺れてしまった経験のある藍那湊(jc0170)。
 25mプールを泳ぎ切ることを決意して参加。
 しかし、いざプールサイドに出ると決意が鈍る
「プールを凍らせたら渡りきれるよね、氷伽藍のスキルで……」
 いきなりズルしようとする。
一筋縄ではいきそうにない。
 そこで番組スタッフは、爆乳スポーツインストラクターによるレッスンを提案する。
「え? 爆乳……僕、あんまり耐性が」
 顔を赤らめる藍那、だがどこか期待しているように見える。
 そこに登場したインストラクターを見て藍那が目を剥く。
 測定不能の大爆乳! 
 しかもトップレス!
「人間、誰でも泳げるはずなんだな!」
「ああ、クレヨー先生ですか、お約束ですね」
 アホ毛が萎れる藍那、ちょっと残念そう。

 プールサイドに何故か浴槽が運ばれてきた。
「何です、これ!?」
「水が怖いのは根性がないからなんだな! 熱湯風呂で根性を付けるんだな!」
「それ大昔の体育会系理論ですよ!」
 なにせクレヨー先生は昭和時代に相撲部屋で修行した身、指導方法にやや難があった。」
「入らなくてもいいから縁に腰かけるんだな、度胸付けの問題なんだな」
 番組的お約束という雰囲気には勝てず、熱湯風呂の縁に腰かける藍那。
「押さないで下さいね! 絶対に押さないで下さいね! 熱いの苦手なんですから!」
 番組的には、絶対、押すべきである。
 だが、優しいクレヨー先生は押さなかった。
 代わりに、浴槽の縁が突然崩れた!
 番組スタッフの方が鬼畜だったのだ!  
「あっ! あっつつつ!」
 崩れた浴槽から溢れ出る熱湯を全身に浴びる藍那。
「藍那君、プールに飛び込むんだな!」
 体を冷やすため、藍那は25mプールに飛び込む。
「ふう」
 体が冷え、あがろうとした時、クレヨー先生がプールの中央めがけてポリ袋を投げ込んだ。
「あー、手が滑っちゃったんだな! あれには藍那君の大事なアレが入っているのに!」
「ええ! まさかアレですか!」
「しかも、手が滑って袋の中に時限爆弾も仕込んでしまったんだな、水に浸かって30秒以内に引き上げないと木端微塵になるんだな!」
「どんな滑り方ですか!」
 大事なものを守るため、プール中央に向かう藍那。
 必死さが遺伝子に眠る本能を呼び覚まし、気付けば藍那は見事な平泳ぎをこなしていた。

 回収したポリ袋に入っていたもの、それはお守りだった。
「安産祈願のお守りです、恋人に貰ったんですよ」
 ほっとする藍那、笑顔が可愛らしい。
「これからもマタニティスイミングに励んで、藍那君そっくりな可愛い赤ちゃんを産んで欲しいんだな」
「妊娠してない! っていうか僕、男ですよ!」


 いつもは渋イケ残念男なミハイル・エッカート(jb0544)。
 だがこの日、スタジオに現れた彼は、普段と様子が違っていた。
「誰か俺に“人を愛してもいいんだ”と納得させてくれないか」

 ミハイルにはかつて、結婚まで考えた女性がいたという。
 だが、恋人はある日、銃口をミハイルに向けた。
 恋人は使徒だったのだ。
 かつてミハイルが討った使徒が恋人の姉であり、その復讐のために恋人自身も使徒になりミハイルに近づいたのだという。
 愛情が偽物である事を知ったミハイルは怒りと絶望のままに、恋人を返り討ちにした。
 だが、恋人が握っていた銃は模造品だった。
 偽物だったのは愛情ではなく、殺意のほうだったのだ。
 かつては愛情が偽物で、殺意が本物だった。
 いつしかそれ二つの感情が入れ替わっていた事に、恋人本人も気付いていなかったのだろう。
 後悔は深くミハイルの心を蝕み、今も彼女の死に様が脳裏にちらつくのだという。

「というわけだ、悪かったな、つまらん話を聞かせて」
 話を終え厭世的な笑いを浮かべるミハイル。
 スタッフは困惑していた。
 明らかに他の悩みとは違う、ヘビーな課題。
 ミハイルが参加すると聞いた時に大量に買い込んでしまったピーマンと同じく、どうしてよいかわからない。
「カウンセラーに相談しては?」
 スタッフの一人が、常識的な意見を出す。
 番組的には地味だが、やむをえないだろう。
 局のネットワークで、カウンセラーを探し始めようとしたその時だった。
「その必要はないのである」
 局長のワルベルトが声を発した。
「ミハイルよ、お主の悩みはすでに解決されている」
「どういう事だ?」
「お主は仲間たちと随分、仲良くやっておる。 我が姪の椿や、この番組参加者のイリスやニョロ子ともな、それに義理の娘とも先日共演しておったな」
「そいつはそうだが、恋愛と、友情や家族愛は別だ」
「我輩はそうは思わない、恋も愛も本質的には同じものだ。 違いは、性欲が伴うか否かのみ。 なあにそんなものすぐに蒸発する、あとは泉が干上がるか、愛と言う名の水が湧き続けるかだけの違いだ」
「そんなものか」
「お主には友や娘を愛する心がある、健全な心の持ち主だ」
「だが、また恋をするのが怖いんだ、その相手を殺してしまうんじゃないかと」
「確かに大きな過ちだったかもしれん、だが、特殊な状況で、しかも一度だけだろう? 恋をするたびに、相手を殺してしまうというなら確かに問題だが、もしそうなら、そうなった時に大いに悩めばいいではないか。 日本男児が一度の失敗にくよくよ悩むな!」
 局長の恫喝は、ゼウスの雷の如く会議室に響いた。
 スタッフたちは文字通り感電したように顔を強ばらせる。
 ミハイルは力を抜いて笑った。
「わかったよ……失敗は二度繰り返してから悩むとしよう」
 立ち上がり会議室から立ち去るミハイル。
 彼は出口で、スタッフにこう言い残した。
「ただ、俺は日本男児じゃねえからな、訂正とお詫びのテロップは入れておけよ」


 欠点のない人間に魅力はないという。
 背負い続けるのも魅力なら、それを克服したのも魅力。
 皆は欠点を砥石とし、人間性を魅力的に砥ぎあげて欲しい。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 外交官ママドル・水無瀬 文歌(jb7507)
 蒼色の情熱・大空 湊(jc0170)
重体: −
面白かった!:7人

奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA