.


マスター:スタジオI
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/10/21


みんなの思い出



オープニング


 放課後、この甘美で郷愁を誘う響き。
 社会人になったら決して経験出来ない学生だけの時間、それが放課後である。
 今日々の学生は、どんな放課後を過ごしているのか?
 そしてどんな放課後がベストであり、最強なのか?
 久遠ヶ原ケーブルTVは、TVカメラを大量動員し、それを探ることにした。
 授業終えた学生たちについていき、放課後の様子を撮影しようというシンプルかつ大胆な企画である。
 撮影した放課後の様子は、100人の大人審査員に見てもらい「うらやましい」「楽しそう」「学生に戻りたい」という大人視点から採点する。
 最も高得点を得られる放課後の過ごし方をしたものが栄誉ある“放課後王”となるのだ。
 またそれに準ずる成績を得た者にも“放課後貴族”の称号を贈る。
 大人にとって平日の夕方を自由に過ごせるのは、それほどまでにロイヤルな事なのだ。

 前フリは長かったが、要するにキミ達の全力で凄く楽しい放課後を見せてくれという企画である。
 フレンド時間、ラブラブ時間、ぼっち時間。
 勉強、部活、カラオケ、部活、ショッピング、食べ歩き……いろいろな過ごし方があるだろう。
 三千久遠のお小遣いもあげるので、放課後の過ごし方を紹介して欲しい。


リプレイ本文


 久遠ヶ原TV第一スタジオには学園生たちが集まっていた。
 先日収録したVTRをここで再生し、放課後審査員たちに審査してもらうのだ。
 果たして、最初に選ばれたVTRは誰のものか!?

「今日は、シェリーちゃんのおすすめのお店だよね!」
「そうだよ、いざゆかん! 甘味処!」
 桐生 凪(ja3398)とシェリー・アルマス(jc1667)のJKコンビだった。

 店に入ると、着物姿の若い女将が笑顔で待っていた。
 学園生の木嶋香里(jb7748)だ。 
 ここは彼女の経営する和風サロン「椿」。
「いらっしゃいませ♪ ごゆっくりとお寛ぎくださいね♪」
 香里が、お茶を出してくれる。
「香里さん、南極レストランではお世話になりました♪ 」
「南極レストラン?」
「依頼だよ、そういうお店が久遠ヶ原にあったんだ」
 凪に聞かれて、それに纏わるお喋りを開始するシェリー。
「ふふ、懐かしいですね、イカペンちゃんやイモペンちゃんは大きくなったのかしら?」
 一頻り、ガールズトークを終えたところで香里が業務を思い出した。
 小皿に乗ったサイコロを差し出す。
「なにこれ?」
「振って下さい、うちのお茶請けはダイスロールで決めるんです」
「変わってる……」
 それぞれ1D。 シェリーの出目は1、凪は6。
「大きい数字と小さい数字で当たり外れがあるのかな?」
「甘いものがいいな〜」
 香里が厨房に下がっていく。
「ふふ、何が来るか楽しみだね〜」
 期待の笑みを浮かべる凪とシェリー。
 やがてシェリーの前に御饅頭が、凪の前に御煎餅が運ばれてくる。
「あー、シェリーちゃんいいな〜」
「交換しようか?」
「いいもん……メリメリ……御煎餅も美味しい!」
「ふふ、凪の食べ方、兎みたい」
「香里さん、お茶請けダイスもう一度お願いします〜」
「夕方ですよ、そんなに食べて大丈夫ですか?」
「甘いものが来るまでやりたいの」
 その後、香里も店の仕事の合間を見ながら会話に加わり、ガールズトークに花を咲かせるのだった。

 なおVTR後に審査員のコメントが付く。
「放課後に、お茶とお喋りは女学生の基本だよね!」(20歳・OL)
「本業(学業)が終ったら、また本業(飲食業)とか、身につまされすぎます」(52歳・会社員)


 続いてのVTRに登場するのは?
「へっへー、俺だぜ」
 ラファル A ユーティライネン(jb4620) ペンギン帽子のメカ撃退士。
『放課後と言ったらこれだぜー』
 ラファルがいるのは緑色のネットに囲まれた屋外の施設だった。
 雰囲気的にはバッテングセンターを思わせる。
「違うぜ、射爆場だ、軍隊なんかがが射撃や爆撃の演習をするための場所だな」
 確かにライフルを撃ったり、封砲の練習をしている人々がいる。
 だが、ラファルはその列には加わらなかった。
「本当の目的はもっと奥さ」

 そこは粗大ゴミ集積場だった。
 ラファルは、積み上げられている家電製品を確認している。
「よし、今日も三種の神器が揃っているな」
 古くは“白黒TV、洗濯機、冷蔵庫” 十年くらい前だと“デジカメ、DVDレコーダ、薄型TV”――ともかく、皆が欲しくて欲しくて一生懸命働いてようやく買った家電製品。 それが、今はゴミとなって積まれている。
 ラファル、それらにバズーカやミサイルを撃ちまくっている。
「それをこうして粉々に壊すのが俺のマイブームだぜ」
 ラファルはメカ撃退士。 全身の義肢に振り回される身。
 募るストレスをこうして解消するのが放課後の楽しみ方だった。

「家電製品を包んでいるプチプチじゃダメなの?」(45歳・主婦)

● 
「今日は秘密基地で遊ぶぞー」
 元気に拳をあげる銀髪幼女クリス・クリス(ja2083)
 彼女がいる空教室の隅には、机や椅子を積み上げた場所があり、プラ食器が置いてある。
 どうやら秘密基地のつもりらしい。
「ミハイルさんまだかなー? あ。 きたきた」
 三十路の金髪男子、ミハイル・エッカート(jb0544)が入ってきた。
「おうクリス、友達を連れて来てやったぞ」
 ミハイルの後ろにいるのは、髪が蛇さんの幼女・ニョロ子(jz0302)だった。
「……インパクトのある髪型だね(汗」
「毒はないから安心にょろ」
 クリスが顎の下を撫でてやると、蛇さんたちは気持ちよさげにゴロゴロと喉を鳴らした。
「でもこの子たち、ちょっと可愛いかも?」
「よし、打ち解けたな。 出会いの記念の会食としゃれこもう!」

 ミハイルが二人を連れてきたのは学園の片隅にある自販機だった。
「謎の自販機だ、前から気になっていたんだ」。
 まず目に付くのはチャレンジャーな新作“リアジュース”
「恋人が出来るらしいぞ、リア充とかけているのか?」
「ならパパたくさん飲まないとだね」
「なにを言う、パパは立派なリア充だぞ!」
「かぼちゃ味コーラっていうのもあるにょろ、恐いもの見たさで飲んでみたいにょろ」
 思い思いのものを買う三人。
 秘密基地に帰り、窓から夕日指すノスタルジックな雰囲気の中で会食を始める。
「ふぐふぐ、このおでん缶、味が染みているね」
 二百の視線に気づくクリス。
 見ればニョロ子の頭の蛇が、羨ましそうにこちらを見ている。
「食べたいの? っていうか食べられるの?」
「卵なら食べられるにょろ」
「へえ……ゆで卵、どうかな」
 クリスが、箸に突き刺した茹で卵を差し出すと、蛇の一匹が瞬時にかぶりつき丸のみにした。
「うわ〜、すごい! 胴が膨らんじゃっているよ!」
「この瞬間は“ツチノコ”っていう一発芸が出来るにょろ」
「なんだこのサイダー味コーラって、ただのサイダーじゃねえか、騙されたぜ!」
 新しい友達が出来たクリスは、謎の食べ物をおやつに三人でトランプをしながら、夕日差す秘密基地で遊び続けたのだった。

「美幼女二人と夕方の教室に籠る……犯罪的……! 通報せざるをえない犯罪……!」(21歳・賭博中毒者)
 審査員たちのノスタルジーを買ったクリスと、一部の人間の嫉妬を買ったミハイル。
 それぞれ放課後男爵に決定!


「僕はロリコンじゃありませんよ? どこかの三十路グラサンと一緒にしないで下さい」
 ゲーセンにいる赤髪の少年は、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)。
 一緒にいる、金髪ツインテ幼女ははぐれ悪魔のレイである。
 だが自分も外見年令10歳なので合法、と言いたいらしい。
 
 レイはさっきから、レトロな対戦格闘ゲームに挑んでいた。
「エイルズー! これ全然、勝てないー!」
「ああ、この赤ゴリラは選ばない方がいいです。 レバーをぐるっと回す吸い込み技に拘っている間にボコられて死にますから、ちゃんと廻しているのに認識しないんだから腹立たしいったらありゃしないですよね」
 ゲーセンの時計はAM9時を示している。
 つまりまだ朝、授業中の時刻なのだ。
 撮影班が、気を遣って学校は大丈夫なのか尋ねる。
「……は? 勉強? ”命短し、遊べよ少年“と言うでしょう? そんなつまらないことにかまけている時間はありませんよ 」
 結局、エイルズは朝から晩までゲーセンに入り浸って過ごしたのだった。

「エイルズさん、こないだまで外見年令がもう少し高かった気がするんですが、僕の気のせいでしょうか?」(19歳・斡旋所員)


「放課後ゲーム大会にボク参上!」
 元気な金髪少女、イリス・レイバルド(jb0442)は、斡旋所の会議室にメンバーを集めていた。
「今日のゲームは知る人ぞ知るハンティングゲームだー!  グラフィック良好!操作性良し!  好きなヒーロー&アクションを再現できる自在なキャラメイク! しかし難易度が鬼畜世紀末風味に狂ってまっす!」
 16人同時プレイ。 同じゲームをやっていてもぼっちには、生涯縁のない夢の光景である。 
 イリスの持ちキャラはふわふわとんでいる女の子。
 プレイヤーの堅い意志の表れか、どのアングルからもパンチラしない。
「ではスタート!……全員避けろー!! くっ出オチの雑魚の群れの土砂崩れでほぼ全員の残機が一つ減ったか! あいつさえ!あいつさえ倒せばーッ!」
 一人で十六人分の盛り上げをそつなくこなすイリス。
 そんなイリスのおみ足にすがりついてうっとりしている亜麻色の髪の乙女がいる。
「ああ、イリス様、ダメな私を踏んでくださいまし、雑魚な私を蔑んでくださいまし」
「うわ〜! 亜麻色子ちゃん邪魔! っていうかボクのキャラが誤解されるからやめて! カメラまわってるぅぅぅ! 撮られちゃってるかっら〜!」
 イリスは、放課後もハイテンションだった。

「どうか踏んでくださいまし!」(16歳・学生)


「放課後は、恋音とデートですよー!」
 メガネ少年、袋井 雅人(jb1469)もイリスに負けないハイテンション!
「……おぉ……よろしくなのですよぉ……」
 牛のようにおっとりしている月乃宮 恋音(jb1221)、なお乳は牛以上。

 二人が向かったのは庶民の味方スーパーマーケット。
「……良いさんまが出ていますねぇ……」
 さんまの刺身をチョイス、大根や大葉など旬の食材を買う。
「恋音、荷物を持ちますよ」
「ありがとうご……おぉ……それは荷物ではないのですぉ……(ふるふる)……」
 袋井が、何を持ち上げたかは言わずもがな。
「あはは、すみません、重そうだったものでつい」
「……絶対わざとなのですよぉ……(ふるふる)……」
「うんうん、前よりも柔らかさが増していますねー」
 袋井、まだ何も食べていないのに満腹顔。
「……前より重くなったのは事実なのですよねぇ……さらしを買い直さないと……」
 恋音は日々成長中の乳を揺らしながら、袋井と共に手芸屋に向かった。

 恋音は袋井にセーターや、ベスト、手袋を編んであげたいらしい。
「それは嬉しいですねえ」
「……どんなデザインがいいでしょうかぁ……?」
「恋音とお揃いがいいです!」
「ペアルックですかぁ……少し恥ずかしいですぅ……」
 恋音は頬を赤らめつつも毛糸を見繕い始めた。
「いや、ペアルックはやめましょう」
「おぉ?……やはり照れてしまいますものねぇ……」
 少し残念そうな恋音。 
 袋井は真剣な顔で語る。
「いえ、そうではなく恋音の乳を包める毛糸となると、このお店の在庫全てでも足りないかと思います、買占めは他のお客様にご迷惑ではないかと」
「そんなには大きくないのですよぉ……(ふるふる)……」
 乳カップルの放課後は、今日もふるふるだった。

「乳もげろ」(27歳・貧乳業)


 ボーイッシュなjc鷹野 あきら(jc1550) は、駄菓子屋で放課後を過ごしている。
「わーい! ここなら三千久遠で大金持ち気分だね!」
 十久遠で買えるデリシャスステックを始め、リーズナブルなお菓子盛り沢山だ。
 レジに目を移すと、先客がいた。
 紫の人だ。

 鳳 静矢(ja3856)は、レジの前で楊枝に刺さった酢漬けイカを齧っていた。
「お兄さん運が強いね、二連続じゃないか」
「ふっ、おばあさん、当たりは決まっているのですよ、吸盤の数とゲソ先の丸まり具合で100%わかるのです」 
 当たり棒と、新しい酢漬けイカを交換する鳳。
「このイカも法則にあてはまっています、即ち、当たり」
 落ち着いた動作と確信に満ちた顔で、酢漬けイカを串から抜く。
 串を見たとたん、鳳は白目になり、顔に縦線が入る。
「何故だ! 我が絶対の法則が崩れるとは!」
 どうやら、小学生たちの間で流れていたデマに騙されたようだ。
「あの〜」
 背後から、誰かが話しかけてきた。
 鳳、顔の縦線をべりっとはがし平静を取り繕う
「同じ局のカメラだね、キミも出演者かな?」
「鷹野 あきらっていいます」
「うむ、ここを選ぶとはいいセンスだ、ここまで風情のある駄菓子屋は最近少ない」
「ですよねー! せっかくだからたくさん買って、他の出演者の方たちとお菓子のトレードとか出来たら楽しいかなと思っているんです」
「良い案だ、これから知り合いの店に行くつもりなんだが、一緒にいかがかな?」

 鳳が、あきらを連れて行ったのは、和風サロン「椿」だった。
「木嶋さん、新しいお客を――」
 店に入った途端、鳳の足が止まる。
 香里は、凪とシェリーと三人でガールズトークに夢中になっていた。
「いかん、あのトライアングルに成人男性が踏み込むのは自殺行為に等しい」
 香里が気付いていないのをいいことに、踵を返そうとする。
 だが、連れてきたあきらは、無邪気に香里たちの元へ飛び込んでいってしまった。
「わ〜い! 美味しそうなお団子!」
 香里、凪、シェリーはあきらに気付いた。
「あら、いらっしゃいませ:
「それ駄菓子ですか、懐かしい」
「私たちのと交換しない? 同じ物が重複して当たっちゃったんだよ」
 駄菓子を媒介に打ち解けるjkとjc。
 鳳は、そっとその場を離れた。
「新しい友情が生まれたか、仲良きことは美しきかな」
 
 夕焼けの商店街。
 趣のある肉屋に鳳が顔を出す。
「こんにちは、開いているかな?」
 肉屋のじいさんから、あげたてコロッケを受け取ると、さっそくその場でかぶりつく。
「うむ、肉屋のコロッケは味が違うのだよねぇ」
 紫の人は、紫色の夕日をしみじみと見つめるのだった。

「俺も妹が家に友達連れてくると、いないふりをする」(21歳・学生)


 初依頼の西郷寺 南郷(jc1833)。
 彼は、エイルズのいたそれとは別のゲーセンでシューティングゲームに興じていた
「くっ、まだ連打が足りない! 255発当てないと、空飛ぶ金属板は破壊出来ないんだ!」
 悔しがる西郷寺に話しかけてきたものたちがいる。 咲魔 聡一(jb9491)と天願寺 蒔絵(jc1646)だ。
「それデマですよ」
「かなり古い時代のものだな、幼き日に騙されたのだとクレヨー先生がぼやいていた」
「そんな……破壊を夢見て日々、連打修行をしたのに」
 しょんぼりと肩をつぼめ、西郷寺はゲーセンから去って行った。

 蒔絵は、ゲーセンの片隅にあるガチャ機にコインを投入していた。
「わぁ、重機のミニチュアストラップだって! れっつガチャ!」
 蒔絵は先日のガチャ祭以来、ガチャ廃人まっしぐらなのである。
「ロードローラー出ないかなー♪あたし達の出会いのきっかけだもん  ……あ、タンクローリだ、シークレットだけど、コレジャナイんだよね」
「思い出を残す方法ならいくらでもあるよ、例えばあれとか」

 咲魔は蒔絵をフォトシールボックスに誘った。
 いろいろな機能が付いた最新版のようだ。
「美白に撮ってくれる機能かぁ……」
「美白なんかしなくても、君は今のままが一番綺麗だよ」
 と、言おうとする咲魔だが、緊張で声が裏返った。
 言語として成立していない。
「どうしたの聡一さん、猫が喧嘩する時の声?」
「そうなんだ、今度芝居で猫役をね」
 誤魔化す咲魔。
「なら聡一さんに猫耳スタンプ押してあげるねー」
 画面の中の咲魔に猫耳がついた。
「なっ、猫耳だと!?」
「私もつけちゃおう! 黒猫ぷろじぇくと〜」
「そんなの蒔絵さんに付けた日にはえらいことに……!」
 猫カップルのフォトシール完成。
 咲魔はさっそく、携帯の裏に貼った。

「ガチャもいいけど、実力でとれるこいつもいいよ」
 今度は二人で、クレーンキャッチャーゲームに挑戦。
 十分後。
 蒔絵は笑顔だった。
「やはりガチャは至高ですね」
 実力がない以上、運頼みの方がマシという結論が出たのだ。
 空っぽになった財布を見つめ溜息をつく二人。
 今さら、ハッと蒔絵が気付く。
「そうだ、この機械の内側にヒリュウくんを召喚して……」
「さすがは蒔絵さん! 他にも受け取り口から食虫植物を伸ばしてキャッチ……いや、わたあめを召喚して押し出してもらうという手も……」
 どんどん案が閃きはしゃぐ二人を店員が呼び止めた。
 手書きポスターを指差している。
“プライズゲームでのスキル使用厳禁!(学園に通報の上、出禁にします)”
「そりゃあそうですよね」
「久遠ヶ原だからね」
 西郷寺同様、肩をつぼめ二人はゲーセンから退散した。

 だが大人審査員の受けは良い。
「いいね、8ビットの青春」(38歳・自営業)
 二人は揃って伯爵位を贈られた!

 舞台は飛んで、デパートの屋上。
「まて! 貴様の相手はこのエレクトロガーだ!」
 怪人の前に颯爽と飛び出したヒーロー、その正体は西郷寺その人。
「新必殺技! エレクトロガー16連打!」
 エレクトロガーが、怪人の胸元に一本突きの連打を繰り出した。

 帰り道。
 西郷寺は、倒した怪人の中の人と共にラーメン屋のカウンターにいた。
 彼はヒーローショバイトの先輩だ。
「熱血赤いキムチ豚骨味二つ」
 ラーメンを作るオヤジさんを眺めながら、先輩が話しかけてくる。
「今日のアドリブ、なかなかよかったぞ」
「あの技ですか、実は騙された結果生まれた技なんですよ」
「なんだそりゃ」
「失敗を糧として成長する、それがヒーローですから」 
 運ばれてきたラーメンをすすりながら、いつかは本物のヒーローにと誓う西郷寺だった。

「夢を目指して努力する青春! 眩しい! 闇に生きる拙者の目には耐えられぬ!」(36歳・忍者)


 カウンターの西郷寺の隣に、両目を包帯で覆った男が座った。
 元 海峰(ja9628)だ。
 彼は着席するなり、注文をする。
「チョモランマラーメンで」
 とたん、店の中の雰囲気が凍り付く。
 思わず、声をかけてしまう西郷寺と先輩。
「この店は小盛が、普通の店の大盛に匹敵する量ですよ」
「チョモランマ盛は、未だ一人しか登頂者がいない神々の高き峰!」
 だが、元は首を横に振った。
「三千久遠では腹が満ちん」
 この店の大食いチャレンジは、三十分以内完食で無料。 ただし失敗したら三千久遠払うというルールがある。
 オヤジがチョモランマ盛を作り上げた。
「悪いけど、近くの人たちは移動してくれるかい?」
 カウンターの両サイドの人たちをどかさなれば置けない巨大丼!
「これが三千久遠!? サービスよすぎだろ!」
 合掌して箸を動かし始める元。
 大きさに臆さないのは、盲目がゆえなのか?
 
 30分経過。
 元はまだ食っていた。
「ふむ、炒飯は米がパラけていて旨い」
 浮いた三千久遠で注文した炒飯と餃子をだ。
「こいつは驚いた、例の姉ちゃんと勝負させてみたいもんだね」
 二代目登頂成功者の欄に、元 海峰の写真が貼られる。
 初代成功者の欄には、蓮城 真緋呂(jb6120)の写真が飾られていた。

「学生時代は毎日ガッツリ食べられた……最近は契約を外すたびに食が細くなる」(30歳・営業職)
 胃が痛い大人たちに羨まれ、放課後公爵誕生!


 噂の真緋呂は商店街で放課後を過ごしていた。
「真緋呂ちゃん、試食していくかい」
 1mはあろう鰹を切り分け、切り身にしてくれる魚屋の大将。
「いただきまーす!」
 真緋呂が、箸を伸ばす。
「おいおい、今日こそ本体じゃなく、切り身の方を食ってくれ、商売にならないだろ」
「もきゅもきゅ……脂が乗ってておいしー!」
 真緋呂は大体、こんな具合である。

 今度は肉屋。
「おばちゃん唐揚げお願い」
「真緋呂ちゃんこれ好きだねえ、若い人はコンビニの家族チキンとか、唐揚げサンとやらが好きじゃないのかい?」
「だって、量が足り――じゃなく親しみのある商店街の方が好きなのよ、私は」
「素敵な事を言うねえ、はい、おまけ」
「さすがおばちゃん、コンビニじゃあこうはいかないわ!」
 
 さらに八百屋で果物、パン屋で新作コロネ、酒屋でノンアルカクテルを試飲する。
 最後は本屋で読書。
「読書はこういう空腹の時が捗るのよね」
 本屋の老主人が、胸以外細い真緋呂の体を不思議そうに見ながら尋ねてくる。
 物知りで、色々な事を教えてくれる人だ。
「時に蓮城さんは、質量保存の法則とか知っているかね?」
「え? そうだ! 調理実習でクッキー作ったんです、一緒に食べませんか?」
 
「いつか大食い対決番組を企画したいです」(24歳・AD)


 深森 木葉(jb1711)は椿の家に来ていた。
「椿ちゃんと、お買い物と夕飯作りをやりたいです!」

 まずは二人でお買い物。
「お肉にジャガイモ、人参、玉葱、糸こん……う〜ん、他になにか必要かな?」
「カレー粉なのだわ」
「メニューは肉じゃがですよ?」
「失敗した時用に確保しておくのが、大人のやり方なのだわ! そもそもカレーライスは失敗した肉じゃがを誤魔化すために海軍で生みだされたものなのだわ」
「ふえ〜! 知りませんでした、椿ちゃんは物知りなのです」 
 完全に嘘である。
 椿は、インド人に謝らねばならない。

 台所に並んで料理をし始める二人。
「木葉ちゃん、包丁で切るのは私がやるから見ていていいのだわ」
「いえ、やってみます、お手伝いしたのですよ――あうう…、痛いのです…。ぐすんっ」
「あらら、大変。 指を出して」
 絆創膏を貼ってくれる椿を、ぼうっと眺めている木葉。
 子供がいないはずの、椿の顔には母性が滲み出ていた。

 美味しく食べ終わり、カメラが去った後。
 二人で洗い物をしながら、木葉は椿に話しかけた。
「椿ちゃん。 今日はありがとなのです。 お母さんと一緒にお料理。 出来ないものと思ってたけど、こうやってお手伝いできました〜」
 椿は、木葉の頬を笑顔でそっと撫でた。

「木葉ちゃんは天使、椿さんは女神なのだわ!」(30歳・斡旋所員)
 歳をとるほど親を大事にしたくなるもの。
 大人審査員の共感を得て木葉は男爵さんになった。


 六道 鈴音(ja4192)はカフェでぽけ〜ッとしていた。
 窓際の席でカップを片手に、道行く人々をただ眺めたり、手元の雑誌に目を移したりしている。
 何をしているのかよくわからない。

 コメント枠を拡大し、スタジオでクレヨー先生が尋ねる。
「結局、これは何をしているんだな?」
「大人がうらやましいと思う事…… だら〜っと過ごして、働かなくていい事とかって思ったの。 学生なら取引先の顔色を伺いながら過ごさなくてもいいし、ノルマ表を神経尖らせて見つめる必要もない! そして明日も、会社はないですっ(きりっ!)」
「う、う〜ん、超絶美少女撃退士とか自称している割には発想に若さを感じないんだな」
「いやいや私だって、スポーツに打ち込む姿も青春っぽくてアリかとも思いましたよ? でも せっかく三千久遠もらえたし、ここはカフェにでも洒落込もうと思ったわけ」
「要は、貰える予算は消化できる期間に消化してしまおうと――公務員的な考え方なんだな、鈴音ちゃんは大人なんだな」
「誉められている気がしないんですけど!? 結構、酷い事言われてますよね!?」


 一人暮らしの寮に帰るなり、緋打石(jb5225)は収納BOXをがばっと開けた。
 大量に買い込んだゲームやアニメDVDが入っている。
「学生で誇れるものといえば趣味に費やせる莫大な時間かのう」
 寝転がってそれら思うままに見続け、遊び続ける。

「夜更かししても誰も文句を言わない、ようやく一日が終わったという虚無感と共にベッドに倒れ伏すこともない、それで目が覚ましたらもう仕事の時間の無限ループなんてこともない」
 大人審査員をなにげに煽る緋打石。
 それを鈴音がジト目で見つめる。
「私より酷いじゃない、放課後ニート?」
「ふふふっ、我ニートに非ず! 遠大な計画を以て生きておる!」
 VTRの中、部屋の片隅にある超大型冷蔵庫が映る
「憧れのペンギン殿と暮らすべく、準備を進めているのじゃ」
 
 これは、緋打石伯爵爆誕!
「だらけつつも未来に夢を見る放課後、これまさに学生の特権なんだな」(43歳・学園教師)
 

 放課後、礼野 智美(ja3600)は部室の台所にいた。
 文化祭の下準備の最中である。
「今年も焼きそば?」
「うん、ダイスを転がして出目でおまけをつける方式にしよう」
 智美たちはおまけの試作を始める。
「デザートにパウンドケーキはどうだ? 甘煮にした林檎を刻んで入れるんだ」
「中身は栗の方がいいんじゃない? より旬が近いし」
「でも、林檎のジューシーさも捨てがたいね」
「なら、両方用意しよう」
 まずパウンドケーキ二種誕生。
「旬が近くてジューシーといえば蜜柑でしょう」
「牛乳寒天に蜜柑入れてみない?」
「生の果物はどうする?」
「洋梨にする?」
「ラ・フランス? いいかもね、まだ出した事ないし」
 仲間と共に、文化祭の準備を進める放課後を智美は過ごすのだった。

「文化祭って学生のお祭りなのにリキ入りすぎて怒鳴り散らす先生とかがいると、もにょるよね」(23歳・アニメーター)


「まぁ、学生のホンブンは恋愛だよね☆」
 ナンパ師スマイルを浮かべるV系男子、ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)。
 廊下を一人で歩いていた金髪縦ロールお嬢様の足を流し目で止め、話しかける。
「ねぇ、今、時間ある?」
 御嬢様は突然の出来事に、顔を輝かせ眉間に皺を寄せ無言になる。
「時間があるか……ですか?」
「今日は時間がないのかな、メアド頂戴☆」
 難しい顔でメアド交換だけはしてくれる御嬢様。
「まあ、お楽しみは後日だね☆」
 ムフーと、鼻息。
 打率にはそこそこ自信のあるジェラルド。
 数打っちゃ当たるとばかりに次々に声をかけていると、携帯にメールが届いた。 

“早くお会いしたいですわ”

「さっきの娘か、保健室のベッド開いているかな?」
 女の子のニーズには答えたいもの。
 今、引っかかりかけていた委員長系を諦め、足取り軽く向かう。
 待っていた御嬢様は、深い想いを打ち明けるかのような目でジェラルドに問いかけてきた。
「答えはなんですの?」
「答えかい、それはもちろんキミが……」
 ジェラルドは甘く囁きながら、縦ロールに指を這わせようとする。
 しかし、お嬢様はエキセントリックにまくしたてた。
「貴方は“時間はあるのか?”と私にといかけました。 わたくしに“時間”が存在する証明せよとは! なんたる難問」
「え、そういう意味じゃ」
「そもそも時間とはなんですの? ああ解らない!?」
「む、難しいね、また今度」
 顔を引きつらせて退散したが、その後も御嬢様からは“哲学的メール”がガンガン送られてくる。
 仕方なくメアドを変更するジェラルドだった。

「学生の頃、頻繁にメアド変えまくる面倒くさい奴っていたよね」(25歳・会社員)


「羨ましい放課後か、依頼には参加したものの、よくわからんな」
 ルーカス・クラネルト(jb6689)は、バーのカウンターでウォッカを嗜んでいた。
「実際の学生時代――というべきか? 十代の頃は士官学校だったからな」
 カウンターの向こうにいる、髭のマスターに話しかける。
「マスターも、人生いろいろあったんだろ?」
 マスターはグラスを磨きながら、にこりと笑った。
「そりゃあもう。 今は、こんな島にいますが、以前は官庁で働いていた事もあったんですよ」
「エリート官僚というやつか」
「安定は得られましたし、肩書きで信用もされますが――疲れたんですよね。 気付いたら、この島にいました」
「すまじきものは宮仕えか、同じだな軍隊と」
「退職金で隠れ家的なバーを開いたんです、この島に住む大人が心を癒せるよう――自分も含めてね」
「お蔭で救われるよ」
 グラスを傾けるルーカス。
「まさかその隠れ家にTVカメラを入れられるとは思いませんでしたよ」
 マスターは、ニコニコしているが目は笑っていなかった。
「すまん……モザイクを入れさせる」
 ルーカスは、背後にいる撮影隊を早々に帰した。

「店までの道程もモザイクをお願いします」(56歳・飲食店店主)


「おーほほほっ、目立てる好機が巡って来ましたわね!」
 桜井・L・瑞穂(ja0027)が百合の刺繍が入ったTシャツに、短パンというラフな格好でカメラの前に立っている。
 高笑いだけで揺れる爆乳、すでに目立ちまくりな御嬢様である。
「瑞穂さん、いつまで笑っているんですか? もう配信時間始まっちゃいますよ」
 顔パン大好き系美少年ファリオ(jc0001)は、大画面薄型TVにゲーム機、ネット配信の準備をすでに整えている。
 二人は、放課後ゲーム実況に挑戦する

 実況開始。
「ファリオです! 今日はチミっこモンスターの実況をさせていただきます!」
「わたくしは何をすればいいですの?」
 コントローラはファリオが握っているので、瑞穂は手持ちぶたさ。
「抱っこしてください」
 瑞穂の膝の上にちょこんと座るファリオ。
「も、もう……甘えん坊ですわね」
 顔を赤らめつつも、瑞穂は豊かなお胸をファリオの背もたれにしてあげる。
「さーて、最初は水モン、火モン、草モンどれにしますかね」
 なにくわぬ顔でゲームを進めるファリオ。
 頭を動かすたびに、瑞穂の爆乳が形を変えるので配信を見ている方がモンモンである。
「あぁんっ、いけませんわ、そんなに動いたらブラが外れてしまいます」
「この“あえぎごえ”は、防御力を下げて攻撃力を上げる技ですね」
 ちなみにゲーム画面と、実況部屋は同時に映す方式をとっている。
 ブラが外れて防御力が落ちた瑞穂のTシャツからは何かが透けてみえそう。
 視聴者への攻撃力急上昇である。
「瑞穂さん、喉が渇きませんか?」
「あはぁ……そうですわね。 さっきからファリオが動くたびに体が熱くて」
 瑞穂と水のボトルを回し飲みするファリオ。
「おっと、手が滑っちゃいました」
「きゃあ、透けてしまいますわ! 映さないで……いえ、むしろ目立てますわ! 映しなさい!」
 もはやゲームなど空気である。
 Tシャツスケスケ爆乳お姉さんと、ショタ少年のちちくりあい実況はこの日のランキング上位に入るのだった。

「放課後王に輝きましたファリオです!」
「おーっほほほ! 公爵とは、高貴なわたくしに相応しい称号ですわ!」
 ファリオのドヤ顔と瑞穂の高笑いが、番組エンドを飾った。
「部屋でゲームをしながら綺麗なお姉さんに存分に甘える。 これ以上、羨ましい放課後があるか!?」(32歳・野手)
「小悪魔な美少年に翻弄される放課後、これもありえない! でも羨ましい!」(28歳・女教師)

 放課後――それが貴重なものだと自覚していないまま無為に過ごしてしまった過去の自分を悔やむ大人もいる。
 ダメな番組スタッフは、キミ達が我々と同じ轍を踏まぬよう祈るのである。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: ラッキースケベの現人神・桜井・L・瑞穂(ja0027)
 アルカナの乙女・クリス・クリス(ja2083)
 惨劇阻みし破魔の鋭刃・元 海峰(ja9628)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 ねこのは・深森 木葉(jb1711)
 新たなる風、巻き起こす翼・緋打石(jb5225)
 そして時は動き出す・咲魔 聡一(jb9491)
 神経がワイヤーロープ・ファリオ(jc0001)
 食べ物は大切に!・天願寺 蒔絵(jc1646)
重体: −
面白かった!:12人

ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
アルカナの乙女・
クリス・クリス(ja2083)

中等部1年1組 女 ダアト
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
君のために・
桐生 凪(ja3398)

卒業 女 インフィルトレイター
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
元 海峰(ja9628)

卒業 男 鬼道忍軍
ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
新たなる風、巻き起こす翼・
緋打石(jb5225)

卒業 女 鬼道忍軍
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
暁光の富士・
ルーカス・クラネルト(jb6689)

大学部6年200組 男 インフィルトレイター
和風サロン『椿』女将・
木嶋香里(jb7748)

大学部2年5組 女 ルインズブレイド
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB
神経がワイヤーロープ・
ファリオ(jc0001)

中等部3年3組 男 アーティスト
『久遠ヶ原卒業試験』参加撃退士・
鷹野 あきら(jc1550)

中等部3年1組 女 ナイトウォーカー
食べ物は大切に!・
天願寺 蒔絵(jc1646)

大学部2年142組 女 アーティスト
もふもふコレクター・
シェリー・アルマス(jc1667)

大学部1年197組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
西郷寺 南郷(jc1833)

大学部4年48組 男 インフィルトレイター