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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/09/29


みんなの思い出



オープニング


 久遠ヶ原将棋会館。
 この地で発祥した、“久遠ヶ原将棋”の正殿である。
 本日、その特別対局室で運命の対局が行われていた。

 和畳の敷かれた荘厳な部屋。
 榧の木で作られた将棋盤を挟んで二人の棋士が対峙している。
 下座に、スーツ姿の眼光熱い青年・桐野八段
「定石とは常に塗り替えるもの――名人! あんたの定石、塗り替えさせてもらうぜ!」
 彼も撃退士、阿修羅のジョブに相応しい攻め将棋。
 上座には、和服姿の傲岸げな顔をした老人。 彼がこの世界の第一人者、鮎川名人。
「徳川の昔より、数多の棋士が積み上げた戦いが定石、それを一人の力で打ち破るなどとは、青い! そしておこがましいぞ小僧!」
 こちらはディバインナイトの持ち味を活かした、受けの将棋を得意としている。
 敵意に満ちた視線が絡み合う。
 将棋とは棋士同士のプライドを賭けた戦い。
 互いに20の将兵の預かり、将棋盤という戦場の上で命をぶつけ合うのだ。

 開始された将棋は、名人優勢。
 角を軸として桐野の陣に切り込んでいる。
「くっ……俺の駒たちが、次々に倒されていく! 万が一、俺の王を倒されたら敗北だ!」
「グワハハハッ! これが“蹂躙の怪物”と呼ばれる我が“角”の力よ!」
 勝ち誇る名人・鮎川。
 その時、桐野の唇が小さく笑みを漏らした。
「ふっ、その怪物の力を、俺のものに出来るとはな!」
「なに?」
「気付かないのか? お前の怪物に突きつけられた白銀の剣に!」
 見れば鮎川の“角”の右斜め上の駒に桐野の“銀将”がいる。
「怪物の蹂躙もここまでだぜ! もらった!」
 6三の位置の位置にいた銀を、桐野の指が鮎川の“角”に叩きつける!
 桐野、会心の5四銀! 
「やったか!」
 角を仕留めた事に、歓喜する桐野。
 だが、盤の上からは“角”が消えていない。
「ばかな!? 手ごたえはあった!」
 鮎川は角の二マス後方にいる“歩”を盤から拾い上げ、桐野の駒台に乗せてやる。
「くれてやるわ! お前が仕留めたこの雑兵をな!」
 駒台に乗せられた“歩”を茫然と眺める桐野。
「歩だと!?」
「儂は先程、その“歩”に触れた時に“庇護の翼”を仕込んでおいた。 そしてお前の“銀”の攻撃の瞬間、そのスキルを発動させたのだ」
「“庇護の翼”は味方の受けた攻撃を肩代わりするスキル! それでは!?」
「そう、我が最強の“角”は健在! “歩”が身代わりになったお蔭でなあ!」
 盤上では鮎川の“角”が元の5四の位置に、桐野の“銀”は6三の位置に戻っていた。
「忘れるな小僧! 本将棋ならいざ知らず、これは久遠ヶ原将棋! 駒にスキルを込める事が出来るのよ!」 
「くそぉ!」
 歯噛みする桐野の前で、鮎川は盤に手を伸ばす。
「将棋スキルは、様々だ! 例えばこのようにな!」
 鮎川が光纏に輝く指で“角”を掴むと、“角“の駒は小さな天使の翼を生やした。
「我が蹂躙の獣よ! 翼以て大空へと羽ばたけ! “小天使の翼”」
 翼の生えた“角”の駒は飛翔し、間にいた“銀”を飛び越え6二の位置にいる桐野の“玉将”に襲い掛かった。
「立ち塞がる俺の“銀将”を無視して、王にダイレクトアタックだと!?」
「その玉貰ったぁ!」
 “玉”を打ち据える“角”
 だが、“玉”は動かない。
 焦げたかのように煙を噴きながらも盤に留まっている。
「まだだ……まだ、俺の王はまだ死んじゃないないぜ!」
 桐野は拳を握りしめ、高らかに雄たけびをあげる。
「これはまさか“死活“か!?」
「その通りだ! “死活”の将棋スキル効果で俺の王は5手の間、無敵! 勝負はまだついちゃいないぜ! 鮎川名人!」
「面白い……だが残りはわずか5手。 その間に我が王を詰ませる事が出来るかな? 桐野!」
 見ればいつのまにか鮎川の“王”も追い詰められている。
 桐野の将棋スキル“時雨”により、本来他の駒と同じく一手で一回しか行動出来なかったはずの“龍馬”が、相手の駒を取る、即ち“攻撃”出来た場合に限り一手で二回攻撃できるようになっているのだ。
 激しく睨みあう両雄。
 棋士たちの戦いは、まさにクライマックスを迎えようとしていた。

 こんな具合で駒にスキルを込めて性能を変える事の出来る将棋である。
 キミのスキルで駒に熱い力を宿して欲しい!


リプレイ本文


 久遠ヶ原将棋会館。
 今宵ここで三局の対局が行われようとしていた。
 第一対局室に入ってきたのは、紅の和服も艶やかな女流棋士。
「今宵は中秋の名月……。 私たちは月見将棋と洒落込みましょう」
 川澄文歌(jb7507)四段。
 対するは、和服姿に眼鏡の青年、咲魔 聡一(jb9491)。
「えっ、麻雀の大会じゃないの?」
 慌てて“こども将棋入門”を読み始めている、これでも四段。
 対局室の障子の向こうに満月が浮かび、萩焼の花瓶にススキが揺れている。
 なおススキは、フローリスト咲魔様よりの提供にて使用させていただきました。

 先手・咲魔
「月にはススキもいいが、モウセンゴケも素晴らしく似合うな。朝露のような先端が月光を反射して美しい」
 風流に呟く咲魔。
 5六歩。
 凡庸な手に見えたが、とたん歩から蔓が伸び、文歌の王を食虫植物の鞭で叩いた。
 王将にわずかな傷がつく。
「一手目から王を攻めますか」
「今なら、対抗スキルが込められていないのは確実だからね、削れる時に削っておきたい」
 続いて文歌が5四歩、咲魔じゃ2七歩と指す。
 ここで文歌は、自軍中央の歩を掌に取り、歌を唄い出した。
「私はこの歩(あゆむ)くんに、歌を贈りましょう」
 文歌の持ち歌“マホウ☆ノコトバ”である。
 駒の文字が“歩”から“術師”に変化する。
 まず5五歩。 
 続けざまに5六歩と指される。
 先程、王を撃った5七歩を、韋駄天の速度で盗った。
「一手で二度指した?」
 目を瞬かせる咲魔。
 文歌は落ち着いて、彼に説く。
「盤上において王は偶像(アイドル)……偶像に狼藉を働くような暴漢は、ファンが瞬く間に取り押さえるものです」
「ふむ、道理だ」
 恭しく頷く咲魔。
 月明かり降り注ぐ和畳の上、二人の棋士は荘厳に駒を指し続けた。
 
 序盤、文歌が自軍の王を他の駒で囲って守りを固める。
 一方、咲魔は懐から和紙を取り出し、筆をさらさらと滑らせている。
「俳句を、詠んでおられるのですか?」
「いや棋譜をね、川澄さんはアイドルだから衣装替え用に“忍法「雫衣」”を活性化させているかもしれない、それを駒に使われては幻惑を受けかねない」
「良い読みです」
 文歌、ゆったりと頷きつつも内心、焦る。
 雫衣で飛車を歩と誤認させ、咲魔の飛車を盗る手を考えていたのである。
 だが棋譜があっては、誤認させられない。
 ひたすらに奮戦して王を守り続ける。
「銀之助くん、金之助くんが頑張ってくれています、香ちゃんも桂馬くん、飛田さん、角野さん――ファンの期待には必ず応えますからね」
 文歌は王将を自分に見立て、駒をファンと見て一つ一つに名を付けていた。
 やがて、転機が訪れる。
 受け続けていた文歌が、咲魔の一瞬の隙をつき、王を中心とした囲みを保ったまま敵陣に切り込み始めたのだ。
「囲みは守りの陣形と油断しましたね。ここからは一気に攻めさせてもらいます」
「ほう、果敢な」
「偶像は、親衛隊に守られつつ栄光の舞台へと昇ってゆくのです」
「栄光の舞台にはそう易々とあがれるものではない、その事は芝居の道を志す僕が身を以て知っている」
 歌と芝居、道は違えど共に輝ける舞台を目指す二人が中盤の攻防戦を繰り広げる。
 そして六十手目、文歌の王が咲魔の陣に辿り着いた。
「5七王成“鳳”」
 自らの王を裏返すと、そこに“鳳凰”の字が浮かんでいた。
「王が成った?」
「古来より鳳は皇帝の象徴――王が鳳と化しても何ら不思議はないでしょう」
「どんな力を秘めた駒なんだ」
 駒が変化した場合、初見ではその動きが読めない。
 それが久遠ヶ原将棋の恐ろしさである。
「だが、うかつだ。 そこは僕の飛車の直線上」
 咲魔、7七のマスにある飛車を掴む。
 未知の駒への恐怖からか、その目には悪役じみた凶悪さが宿っていた。
「咲魔さんの飛車と私の鳳の間には、咲魔さんの歩がありますよ?」
「ふっ、雑魚の命など構うものか! くらえぇぇ、邪悪の鉄輪(ロードローラー)だ!」
 咲魔の飛車が味方であるはずの歩を蹴散らし、文歌の鳳の上に一気に襲い掛かる!
「ピィちゃん!」
 鳳の駒から炎の翼が生え、邪悪の鉄輪を一マス前に弾き飛ばした。
「なにぃ!」
「鳳は、動きが変化するにあらず、攻撃に耐性を得る駒なのです」
 文歌の指が、すっと鳳を指して逃がす。
「盤は舞台、ファンは駒、自分のファンを犠牲にするような指し手は感心しませんね」
「く、くそ、こうなれば」
 この形勢では程なく、詰まされる。
 咲魔、追い詰められた悪役面。
 ガタガタ震える指で5八玉を指す。
「呪術忍法“木の葉隠れ”だ!」
 玉から木葉を纏った嵐が巻き起こる。
 周囲五マスの様子の視界が断たれた。
 駒が見えなくては、玉の周りで攻防戦を繰り広げる事すら出来ない。
「そろそろ月も飽きたろ? 緑でも見て目を休めるがいい」
 傲岸な笑みを浮かべる。
「なるほど」
 文歌は手を伸ばすと、盤越しに咲魔の懐から和紙をすっと抜き取った。
「な?」
「先程から、ここに棋譜を記しておられましたね。 これさえあれば、盤が見えなくとも、将棋を指す事は出来ますよ」
 たおやかにアイドルスマイル。
「しまったぁぁ!」
 悪党は月下に吼える。
 相手の策を封じるつもりの棋譜が、自分の策をも封じてしまった。
 策士策に溺れ、咲魔四段投了。


 第二局。
 元気よく対局室に飛び込んできたのは、雪室 チルル(ja0220)
「さいきょーのあたいは将棋でもさいきょーなのよ」
 対するは盤の前で居眠りしている十三月 風架(jb4108)。
「ふぁ〜……もう昼御飯ですかぁ?」
 緊張感のない二人が月下に盤を挟む。

「要は王を盗ればいいのよね!」
 チルル、性格そのままにガンガン駒を進めていく。
 王も強い駒だからと、最初から最前線へ突撃!
 守り? なにそれ? ヤモリの親戚? なスタンス。
「それじゃあ、将棋は勝てないと思いますけど」
 十三月はチルルの動きに合せつつ、受けの体勢を固める。
 チルルが十三月の陣に切り込んできた。
 王の前に銀を据えて突撃してくる超攻撃的布陣!
「王手! なのよ!」
 王手の意味がわかっていないチルル。
 格好いいから王手と宣言しながら王を前進させる。
 そこは、十三月が築いた陣の只中!
「これならあと三手で自分の勝ちかな」
 十三月が勝利を確信した時、チルルの王将から冷たい光が放たれた。
 次の瞬間、周りを囲んでいた十三月の歩が、三枚砕け散った!
「え?」
「氷静『完全に氷結した世界』なのよ! さいきょーな王に、雑魚は近づく事すら出来ないのよ!」
「範囲攻撃ですか」
 十三月、あまりの強引さに呆気にとられる。
 しかし、チルルの攻撃範囲にいた桂はダメージが浅い。
 ワイドだが、威力はお安めな攻撃のようだ。
「ならば」
 十三月は、4二玉と指す。
 三マスは隔てているものの、チルルの王の直線上に十三月の玉が現れた。
 チルル、大歓喜。
「飛んで火に入る夏の虫ね!」
 チルル、王にスキルを籠め、再び指す!
「氷砲『ブリザードキャノン』なのよ!」
 白い彗星が十三月の玉めがけて打ち放たれる!
 チルルの十八番、氷砲!
 実戦におけるその威力は、知れ渡っている。
 自分の駒が前にいようが識別して敵だけを貫く高性能技!
 だからこそ十三月はそれを読み、自らの玉に仕掛けを籠めていた。
 チルルの氷砲に穿たれた玉が、後ろへ吹っ飛ぶ!
「やったのよ!」
 が、玉は4一のマスに下がっただけ、傷一つついていない。
「あれ?」
「自分の玉には、受身のスキルを籠めておいたんです。 一マス下がって攻撃無効!」
「むむむ、チョコザイねー!」
「さて、今度はこちらの番です」
 駒台の上に金に掌を這わせ、盤に叩きつける。
「血拳!」
 とたん、金から衝撃波が飛び、チルルの銀が後方へ吹っ飛ばされた!
 銀の後ろに控えていた王と金とまでをも巻き込んで、後方のマスへ吹っ飛ばされていく。
「あたいの駒たちがぁ!」
「ふふっ、疾風突きの応用スキルです。 ダメージに加え、後ろの駒をも巻き込んでノックバック!」
 せっかく切り込んだ王が、5マスも後ろに下げられてしまった。
「ムキーッ! せこい手使って! また突撃してやるんだから!」
「その前に自分から行きますよ! 瞬の風は快走の力!」
 瞬風のスキルを銀に込め攻めていく十三月。
 銀は三ターンの間、前と斜めに無限に進めるという超強力駒“ミスリル”に変化した。
 それを軸にひたすら攻める!
 いわば、超棒銀戦術。
 守勢を苦手とするチルル、これは辛い!
「うぅ、こうなったらあ!」
 チルル、涙目になりながら、ついに奥義を解き放つ!
「氷剣『ルーラ・オブ・アイスストーム』」
 王に全パワーを込め、盤上に叩きつける。
 正面にいた十三月のミスリルにヒビが入り、粉々に砕け散った。
「自分の切り札が!」
「フッ、これがさいきょー王のパワーよ!」
「まだですよ! 諦めません、今度は金に“瞬風”」
 金将の上に“オリハルコン”という文字が浮かび上がる。
「オリハルコンの刀よ! 敵の王を貫け! 天叢雲凶蛇!」
 十三月が必殺の天叢雲凶蛇を放つ!
 相手を破壊すると、次の自分の手番を飛ばさねばならないという危険な技! ――なのだが、今回は威力とは無関係、普通にチルルの王を盗る。
 十三月の勝利。
「うわーん! さいきょー王が負けるなんて!」
「まあ、とっくに詰んではいたんですけどね……なんか派手な事やらないとチルルさん納得しそうにないから」
「こんなはずないわ! あたいの王なら囚われても自力で脱走してくるはずよ! 続きよ、続き!」
「そういうゲームじゃないですから……」
 チルル、将棋のルールを理解出来ないまま、終了。

 ●
 大人の雰囲気漂うバーのカウンターで、二人の棋士が将棋盤を挟んでグラスを傾けている。
「今宵の月は特に美しい、俺の勝利のために乾杯」
 飾り窓から見える月に、月と同じ色をしたシャディフガフのグラスを翳す大人の男、ミハイル・エッカート(jb0544)。
「酒場ってのは酒じゃなくて雰囲気で酔わす所なんだぜ?」
 肩出しドレスに美しい金髪を垂らした淑女、イリス・レイバルド(jb0442)。
 ――どう見ても女子小学生。
 さっきから他の客が、イリスに訝しみの視線を向けてくる。
「ボクは花の女子高生ですからして! あと、ボクのはノンアルだから、ダイジョウブ!」
 それ以前にオシャレなバーのカウンターで将棋を指すのは止めていただきたい。

「あははー、燃やせ燃やせー! 敵陣に火計だー!」
 イリス、いきなり将棋盤を燃やし始める。
 トーチをかけた香車を、敵陣に突っ込ませたのである。
「これが本当の火の車ってねー! あははー」
 笑っていると、バーテンダーに無言で水をぶっかけられた。
「冷たい……キミ! レディに失礼だぞー!」
「レディは、バーで将棋盤を燃やさねえよ」
 苦虫を噛み潰した顔で、パチリと指すミハイル。
 盤は焦げたが、まあなんとか続行出来る。
「んゆ? なぜ桂がいきなりそんなところに? ズルくね?」
「クククッ、瞬間移動のスキルを使ったのさ、油断大敵、どこに現れるかわからねえぜ?」
「むむむ、ならばボクは翼で飛ぶぜ!  ビューンとね!」
 大人のバーで三十路男と幼女が“瞬間移動だ”“飛行だ”と、子供のように言い争っている。
 周りの客の目は、白い。
 
「伊達に桂太郎を突出させたのではない事を教えてやろう!」
 ミハイルが指した桂から火球が放たれ、盤上空で炸裂、炎の雨を周囲に降り注がせた。
 ファイヤーブレイクのスキル。
 なお、効果範囲内にいるミハイルの駒は傘をさして炎の雨をしのいでいる。
「レディは将棋盤を燃やさないと言ったが、大人の男は燃やすんだぜ」
「くっ、狼狽えるな! 熱いハートで敵の熱量を凌駕しろ!」
 王や金銀がダメージは受けたものの、破壊されたのは歩の1枚のみ。
 イリスは、どうにか戦線崩壊には至らなかった。
「お返しに、こっちも範囲攻撃だー! さっき飛ばした香車を潰さなかった事を後悔してもらうからー」
ミハイルの陣に飛んだ香は、成香に成っていた。
 イリス、それにスキルを籠めつつ右にスライドさせる。
「連鎖破壊! アーマーチャージだ!」
 成香の隣にいたミハイルの歩が突き飛ばされ、さらに隣に並んでいた歩たちが玉突き事故式に次々と突き飛ばされていく。
 ミハイルの歩は五枚まとめて死亡した。
「あー! 歩三郎が! 歩四郎が! 歩五郎が! 歩六郎が! 歩七郎が! おのれぃ! ……ぐほっ」
 ミハイルは無念に吐血し、椅子から転がり落ちた。

 数分後、全身を復讐心に戦慄かせながらミハイルは立ちあがった。
「お、お前らの無念は俺が晴らすっ」
「ほう? でっきるかなー? 物量で、ボクが圧倒してるけどー?」
 ミハイルは赤く染まったハンカチを口元にあてたまま、イリスと交互にパチパチ指していく。
 やがて、その指がほんのりと輝いた。
 殺された仲間の無念を抱きつつ叫ぶ。
「布団がふっとんだ!」
 聞く者の心にブリザードが吹き荒れた。
 盤上に、薄く氷が張っていく。
「ミハイルくん、オヤジギャグさむっ――え? なにー!」
 盤面を見て凍りつくイリス。
 駒の文字が“眠”に変わっていた。
 玉と、その周囲の駒たちが眠っている! 
「氷の夜想曲だ、そいつらにはしばらく、いい夢を見てもらうぜ」
「寝るな! 寝たら死ぬぞ!……うぅ、親父ギャグからのピタゴラ死なんて二階級特進にも値しないよー!?」
 涙目のイリス。
「こうなったら、攻める! 敵陣に食い込んだボクの銀に“銀の盾”かけて突撃だー!」
 普段から大きな声を、興奮で増々大きくするイリス。
「その盾、ぶちやぶってやるぜ! ファイヤーブレイクゥゥゥ!」
 なぜかロボットアニメのようなエコーでシャウトするミハイル
 大人の雰囲気漂うバーのカウンターに、二人の雄叫びが響いた。

 対局を終えた棋士たちは、夜路を歩いていた。
 イリスが満月を見上げながら呟く。
「将棋ってさー、愛と絆的にどう思うんだっよねー。 だって取った駒が盤面の好きな所に現れるとか意味わかんないし、つまり仲間裏切ってコロッと敵陣に加わったわけでしょ?」
 文歌が首を傾げた。
「そうかな? 私はファンを獲得したって考えるけど」
 悪役俳優として場を盛り上げた咲魔、眼鏡を月光に光らせる。
「敵であれ、人材や個性は活かすという見方もあるな」
 十三月は、十五夜を見上げながらうつらうつらしている
「そんな話、何かで読みましたねえ」
 チルルは将棋の結果などもう忘れている。
「個性? あたいの個性はさいきょーである事ね!」
 五人の棋士は、出店で団子を買うと、月が照らす道をゆったりと歩き続けた。

 ミハイルはひとり、あのバーに残っていた。
 第三局は、バーの雰囲気を壊して騒いでいた二人の前に怖いお兄さんが現れ、強制終了。
「俺を置いて帰っちゃったお前らの方が、どうかと思うぜ」
 酒場の用心棒たちに囲まれ、ミハイルは今、別の意味で詰んでいた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 そして時は動き出す・咲魔 聡一(jb9491)
重体: −
面白かった!:4人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
黒き風の剣士・
十三月 風架(jb4108)

大学部4年41組 男 阿修羅
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB