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マスター:スタジオI
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:21人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/09/24


みんなの思い出



オープニング


「アニマルエスコートパーティ?」
 久遠ヶ原の某斡旋所にクレヨー先生が持ってきたのは、久遠ヶ原ケーブルTVの番組企画書だった。
「番組参加者が自慢のペットを連れて集う屋外パーティなんだな、動物をエスコートして一緒に楽しんだり、お食事してもらったりするんだな」
 独身アラサー女子所員・四ノ宮 椿(jz0294)は、それをパラパラと見る。
「要は動物大集合番組ね、癒されそうなのだわ」
 すぐ企画書を返す椿。
 今は、斡旋所の仕事時間。
 仕事をするふりをして携帯ゲームをするのが趣味の椿としては、それどころではない。
「この番組には、いつも通り椿ちゃんにもに出て欲しいんだな」
「え? 私、ペットは飼っていないのだわ」
「大丈夫! ペットを飼っていない人でも出られる番組なんだな。 椿ちゃんにも出て欲しいからこれから打ち合わせに行くんだな」

 椿が連れて来られたのは、野島動物園。
 様々な動物を飼育している動物園である。
「ここにいる動物から好きなコを、借りて“レンタルペット”に出来るんだな」
「言いだしっぺは、あの園長ね、むちゃくちゃ考えるものだわ」
 園長は、実にエキセントリックな人だったりする。
 檻越しに動物たちを眺める。
 ライオン、象、キリン、水族館、昆虫館、なんでもござれである。
「久遠ヶ原の子だとライオンとか虎とか余裕で連れ出しそうなのだわ、うさぎとか子犬を連れてくる子もいそうだからえらいことにならないかしら?」
「そうさせないのも、エスコートのうちなんだな」
 一応、番組スタッフには対策用の撃退士もいて、動物の身に危険が及んだ場合はバステスキルや治療スキルで何とかするそうだ。
 ただ、視聴者的な好感度が下がりそうなので、そうならないように、エスコート役の撃退士が、動物をトラブルから守れるかが番組的な醍醐味だそうである。
「場合によっては身を挺してペットを守るのも、視聴者の涙を搾り取れそうなんだな」
「その前に、参加者の血が搾り取られそうなのだわ!?」
「いかに自分のペットをパーティで上手にエスコート、つまり楽しませたかを競うんだな、視聴者投票で上位の人にMVPとして金一封が渡されるんだな」
「それは美味しいのだわね、私はどれを借りようかしら」
 リスか兎かと見繕う椿だが、
「ああ、椿ちゃんが借りるペットはもう決まっているんだな」

 クレヨー先生が連れて行ったのは、オラウータンの檻。
 なぜかスーツでビシッと決めたオラウータンが、散歩紐を付けられて椿を待っていた。
「椿ちゃんのパートナー、オラウータンの清四郎くんなんだな」
「なんでオラウータンなの?」
「椿ちゃんが、彼氏が出来た時に備えての予行練習用に飼っているという設定にするんだな、この設定なら椿ちゃんの満たされない愛の行方を視聴者に感じさせることが出来てMVPに近づくんだな!」
「そんな設定いらないのだわ!」
 といいつつも、スーツを着て顎鬚を生やしたオラウータンの風貌は、なんとなく恋焦がれている叔父・ワルベルト局長に重なる。
「……よろしくダーリン」
 椿は、オラウータン、清四郎くんのエスコート役として参加する事になった。
 久遠ヶ原らしい大胆企画、アニマルエスコートパーティ。
 果たして、無事にすむのか?


リプレイ本文


 いかにペットを楽しませるかを競う、アニマルエスコートパーティ。
 TV局が設置した屋外会場に、ペットと飼い主が集った。
 動物園からレンタルが出来ると言う事で、猛獣をペットにするものが現れるのではないかと懸念されたが――やはり、いた。
 白虎、ホワイトタイガーである。
 ベンガルトラの白変種なので体長は三mを越す。
 その首輪に繋がるリード紐を引いているのは体格が七歳児程度の女の子、雫(ja1894)。
 これはどう見ても危険。
 麻酔銃で武装したTV局スタッフ撃退士が辺りの物影から周りを取り囲む。
 そのまま息を殺して推移を見守るものの、どうにも様子がおかしい事に気付くスタッフたち。
「そんなに怯えないで下さいよ、無理やり連れてきたのは悪かったですけど」
 白虎は寝ころび、腹を見せた姿勢で雫に四足を突き出している。
 これは猫と同じ、服従のポーズ!
「へっ、へ、っへっ」
 雫に対して、媚びるように舌を出し荒く息を吐く。
「私の何が怖いんだか」
 切なげに溜息をつく。
 雫は動物好きなのだが、なぜか動物に怯えられるという因果な性質の持ち主なのだ。
 前に動物園に行った時も、最強の肉食獣であるはずのこの白虎に怯えられ、へりくだられてまるで楽しめなかった。
「もっと可愛い子を連れてくればよかったです」
「んびー、んびー」
 白虎は、野太い声で無理やり甘えたミーミー声を出そうとしている。
 雫は溜息しか出ない。
 レンタルのために再び動物園に行った時、他の動物は雫が近づくと皆、檻の奥へと引っこんでしまった。
 この白虎は、悠長に居眠りしていたので、逃げ遅れただけだ。
 そして今も――。
「周りに誰もいないのは、お前のせいだと思いたいところです」
 他の参加者が連れてきた動物たちも、本能的な恐れからか雫と白虎の周りをあからさまに避けているのだった。

 逆に、人が集まっているのはペンギン周り。
「よいかペソよ、お主の祖先は軽やかに空を飛んでいたのじゃ」
 鷲のきぐるみを着た少女、緋打石(jb5225)が、話しかけると、ジェンツーペンギンのペソは首を傾げた。
 額の上の模様が、お爺ちゃんの白い眉毛のようでユーモラスなバードガイだ。
「お前の目からは未知に挑もうという気概を感じる、羽の形も現実的だ、可能性は十分に見える!」
 緋打石の前には滑り台があった。
 先端が跳ね上がったような形になっている。
 この滑り台で勢いよく滑ると、宙に打ち上げられる仕組みだ。
 緋打石は“空飛べペンギン“というドキュメンタリーの撮影を目論んでいた。
 ペソを滑り台の上に乗っける。
 しかしペソは、台の上でヨチヨチ足踏みをするばかりで滑り台を滑ろうとはしない。
「むう……お主、手はともかく足の方が短すぎるのお、これで充分な加速がつくのか……」
 訝しんでいると、人間の大人ほどもありそうな巨大ペンギンがそこへ近づいてきた。
「ペンギンのお悩みは、ペンドルのペンペンにお任せペン!」
「む、面妖な」
「キャラを元に戻すね、私だよ」
 ペンギンの着ぐるみを着ているのは、アイドル撃退士の川澄文歌(jb7507)だった。

 文歌の足元は、ポワポワした生きた着ぐるみがいた。
 皇帝ペンギンの小さなヒナだ。
「何か妙案でもあるのか?」
「走るのが苦手なら、スキルで加速させてあげればいいんだよ♪ ペソちゃん、聞いてね♪」
 きぐるみのヒレにマイクを持って唄い出す文歌。
 “マホウ☆ノコトバ” 聞いた者の身を軽やかにする歌だ。
 それを聞いたペソがペペペペペン!くらいのペースで足踏みを始めた。
「おお、やる気を出したぞ」
 緋打石がその背中を押す。
「とべ! ペソよ! 大空へ!」
 ペソはペペペペペペンッと滑り台を駆けおりた。
 その加速でドヒュウと打ち上げ台から飛び出す。
 自分が空にいる事に気付いたペソは、ヒレをバタバタさせた。
「そうじゃ自分の可能性を信じるのじゃ」
 緋打石が喝を入れると“マホウ☆ノコトバ”による風が吹き、ペソが宙に舞う。
「おお!」
 しかし、一瞬後には地面に向け自然落下開始。
 慌てて空中でヒレをペンペン、足をジタバタさせるペソ。
「仕方がないのお」
 緋打石は闇の翼を広げて、ペソを空中で抱き止めた。

「ぬぬ、なぜ飛べぬかわかったぞ、お主は太り過ぎなのじゃ!」
 空中でずしりとした感触を受けて緋打石は悟った。
 ペンギンが飛べないのは、重すぎるからだ。
 外敵があまりいない極寒の地では空に逃げる必要がなかった。 
 さらには寒空には餌になりそうな生物も少ない。
 そのため、餌の多い海中で力強く動けるように、ヘビーマッチョに進化したのだ。
「太らぬと生きていけないとは因果じゃのう、力士のようなものか」
 緋打石は、しょぼんとしながらペソに生魚を、たっぷり食べさせてやったのだった。

「は〜い、上手上手〜、前よりもうまくなったね〜」
 文歌は、スタッフに用意してもらった氷の上で子ペンギンと一緒に腹這いになっていた。
 きぐるみのヒレで氷をペペーンと叩いて、スススィーと氷を滑る。
 子ペンギンもそれを真似して、ペンッと氷を叩いて、つぅーと滑った。
 トボガンというペンギンの移動法である。
 文歌と子ペンギンは、先月受けた依頼で知り合った。
 名前はイカペンちゃん。 女の子だ。
 まだふわふわでグレーの産毛だが先月よりも、少し成長したように見える。
 ちなみにママの名前はペン丼で、双子の妹はイモペンちゃんだ。
「ペンギンさんは飛ぶより、トボガンの方が可愛いよね〜♪」 
 文歌が“マホウ☆ノコトバ”を唄うとイカペンも真似して“ファーファー♪”と唄う。
「お歌も上手だね〜♪」
 たまらずイカペンを胸に抱いて、もふもふナデナデする文歌。
 傍から聞いていと、メロディも何もないただの鳴き声なのだが、文歌には天使の歌声に聞こえるらしい。
「沢山食べて、パパみたいに大きくなろうね〜♪」
 上手く唄えたご褒美に餌をあげる。
「そういえば、パパどこに行ったんだろうね? 一緒に来たのに?」
 このイカペンは、パパペンギンと一緒にここに連れて来られた。
 全力全開脳筋娘の雪室 チルル(ja0220)が連れているはずだが、どこにいるのだろうか?

「どけどけー!皇帝ペンギン様がお通りだぞー!」
 首輪を連れたパパペンギンを連れて、ブイブイ言わせていた。
「カイザー様のお通りなのよ! 道を開けるのよ!」
 自分もペンギンの着ぐるみを着て、辺りをドタドタ駆け回る。
 チルルは親子ペンギンのつもりらしいが、身長的にあまり変わりがなかった。
 パパペンギンの本名はペンシンハン。
 “なんかハゲそう”とか“額に目が出現しそう”とか“カマセっぽい”とかいう理由で、チルルは勝手にカイザーと仇名を付けて呼んでいる。
 チルルは小五病だった。
「む、道を開けないね? なにやってんのよ」
 チルルの行く先に、金髪ツインテのロリっ娘、イリス・レイバルド(jb0442)が、いる。
 TVカメラに向かって何やらキメポーズしていた。
 アピールタイムのようだ。
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! ペットが呼ぶ声がする! そう、ボク参上!」
 動物のアピールタイムなのに、なぜか自己アピールをしている。
 番組的に主役であるはずの動物を入れた籠には、黒い布がかかり中身が見えなくなっていた。
 チルルはそのイリスに、大声で話しかける。
「イリス、あんたが何を連れてきたか知らないけど、うちのカイザーほど偉くないでしょ!」
「チルルちゃん、ダメ! 今、ボクが一番輝く時間……ってぇ、その子はぁ!」
 イリスが涙目になったのは、ペンシンハンが原因である。
 イリスも文歌と同じペンギン依頼を受けたのだが、その時にペンシンハンにヒレで叩かれ、壁まで吹っ飛ばされているのだ。
 成鳥の皇帝ペンギンは体高130cmを超える。
 並ぶとイリスやチルルとあまり変わりがない。
 ユーモラスな外見とは裏腹、成人男子の太ももを一撃で折るほど力も強い。
 イリスのトラウマなど知らないチルル、皇帝の権威にひれふしたと解釈しドヤ顔。
「む〜、権威になんか負けないもん! ボクのペットを見たら、チルルちゃん、ビビるよ?」
 涙目のまま虚勢をはるイリス。
「ふん、さいきょーなあたいがビビるわけないでしょ?」 
 のけぞって胸を張るチルル。
 イリスは、籠にかかっている布に手をかけつつ、思わせぶりに問いかける。
「ふふふ、ところでチルルちゃん。 フクロウって可愛いと思わないかい? 時計の針じみたどこまで回るんだよ、な、頭とかー」
「フクロウ? あたい知ってる! 森の賢者とか呼ばれんのよね! でも賢者より皇帝の方が偉いわ! 賢者はプレイヤーキャラだけど、皇帝はラスボスなのよ!」
「この子を見ても、そんな事言ってられるっかな〜! ホイ!」
 イリスが布をどけた籠の中には、一羽の黒い鳥がいた。
  その鳥を見たチルル、一瞬固まり、そしてガタガタ震え出す。
「な、なによその鳥! 首が切れているじゃない!」
 その鳥は、顔がなかった。
 首の先には、羽毛で覆われた断面がある。
 どう見ても、首を切断された鳥だ。
 だが、首なし鳥は黒い羽根をワシャワシャと動かしていた。
「あ、あたい知ってる! ゾンビ鳥ね! 中盤くらいにエンカウントするモンスターなのよ!」
 敵だと認識したのか、必殺の氷砲の構えに入るチルル。
 慌ててイリスが、前に立ちふさがる。
「違う違う! この子は僕の相棒なの!」
「相棒?」
「“ブハラ・トランペッター” 通称顔の無い鳩ー、ウズベキスタン生まれのシャイな首なしっ娘さ!」
「え? 鳩なの? 梟じゃないの?」
「ボク、フクロウ借りたなんて、一言も言ってませんよ?」
「何だったのよ、フクロウに関する前フリは!?」
 イリスが、頭の羽毛部分を指でのけると中から普通の鳥と同じ嘴と目がちゃんと出てきた。
「この子、羽毛が長すぎて顔が見えないんだっよねー、空も飛べないしー」
「切りなさいよ、何か月床屋に行っていないのよ」
 イリスが籠から出してやると、ブラハ・トランペッターは“クッ、クッ”と鳴き声らしきものをあげながら、ステルスな頭であちこちをきょろきょろ眺めている。
「こういうデザインの動物が動く姿とかキュンとこね? 擬人化とかしたら前髪で目を隠したシャイガールになりそうな子だよー」
 そんな事を喋っていると、カメラマンが巻きを促してきた。
「そうだったー! エスコートとアピールしなくちゃねー!」
 イリスは、自分の背中に陰陽の翼を生やした。
「人間の都合で飛べなくされて、ちょっと可哀そうだけどね、でもボクがいたら空への夢が叶うよー! イリスちゃん、マジ夢天使!」
 イリスはブハラ・トランペッターを抱きかかえ、パタパタと空へと飛んでいく。
「あー、ちょっといいわねー」
 飛べないチルル、ちょっとうらやましそう
「……あんたも飛んでみる?」
 チルルが問いかけると、ペンシンハンは拒否を示すかのようにぶんぶんと首を横に振った。
 縦に振っていたら、ペンシンハンは力任せにぶん投げられるとか脳筋な事をされていたかもしれない。
 危険を感知する野生の勘は、大したものだった。

 アピールタイムのカメラは黒百合(ja0422)の元へ移っていた。 
「私の連れてきたペットは、このコよぉ……♪」
 黒髪金眼で、幼さに似合わない妖艶性を持つ黒百合。
 それゆえにコアな趣味の隠れファンもいる。
 ペットも、その黒百合に相応しい。
「ナミチスイコウモリのカブちゃんよぉ〜♪」
 体長9cm弱、褐色の背毛と白の腹毛で身を覆ったコウモリである。
 夜行性なので、今までは籠に布をかけていたのだがカメラが来たのでそれを剥す。 
 ガブちゃんは、驚いたようで翼で目を覆い隠した。
「あらぁ……驚かしちゃったわねぇ……♪ ごめんねぇ……今、御飯をあげるからねぇ……♪」
 ナミチスイコウモリはその名の通り、血を吸う。
 このパーティでは、テーブル上に人間用の御馳走、テーブル下には動物用の餌が用意されているのだが、さすがに生血はない。
 どうするのかとカメラマンに尋ねられた。
「大丈夫よぉ……♪ 餌は自前で用意するからァ……♪」
 黒百合は自分の唇を八重歯で噛み切った。
 紅の血が口端に、なだらかな線を描く。
 黒百合はコウモリを両掌に乗せ、流れ出る血に近づけた。
「うふふ、仲良しアピールよぉ、しっかり撮影してねぇ……♪」
 まるで接吻でもするかのように両者は顔を近づける。
 コウモリは、黒百合の唇に吸いついた。
 魔物との契約に接吻をするような、どこか退廃的で淫靡な光景だった。
「吸われたい人は居るかしらァ……♪」
 黒百合が蠱惑的に誘いをかけると、カメラマンが手を戦慄かせながら懇願してきた。
「黒百合様、どうかわたくしめの血をお吸い下さい!」
「あらァ♪ あなただったのぉ……カメラで顔が隠れていたから気付かなかったわァ♪」
 このカメラマン、以前、デパートでの依頼で黒百合が買ったダークな書籍を預かった。
 それ以来、たびたび自分のアパートに黒百合が本を読みにきているのだ。
 今ではもう、黒百合の魅力にすっかり骨抜きにされていた。
「ん〜……そうねぇ♪ このコ、伝染病予防用にワクチン注射をしているのよぉ♪ あなたもそれを打ってくれれば吸ってあげてもいいかしらァ……♪」
「打ちます! 何百本何千本! 例え体が針の山になろうと! 黒百合様に吸っていただけるなら!」
 腕を差し出すカメラマン。
 黒百合に渡された注射を、自ら打つ。
 とたん、その首と持っていたカメラが落ちた。
「ん〜? 間違ったかしらぁ……? あらァ、この薬、大型動物用の麻酔薬だったわァ……♪」
 カメラマンは、しばらく入院生活。
 当面、職場復帰出来そうにない。

「うぁ〜! うさちゃん、もふもふだねー! 綿で出来ているのかってくらいだよ〜」
 ボブヘアの巨乳少女シェリー・アルマス(jc1667)は、金髪のハーフ天魔少年・御剣 正宗(jc1380)が抱いている兎を見て目を輝かせた。
「アンゴラという種類の兎だ……昔、バム次郎というのを孤児院にいたころ飼っていてな。
 それと同じ種類のを借りてきた……」
 懐かしげに兎を撫でる御剣。
「男の子? 女の子?」
「男だ……ああ? バム次郎の事か……雄だぞ……」
 男の娘な御剣、性別を訊かれるはいつもの癖が出てしまった。
 御剣がテーブル下に置いてあった人参をバム次郎の口元に寄せると、ガリガリっと元気よくそれを齧ってきた。
 鉛筆でも削っているような震動が御剣の指に伝わってきて、懐かしく微笑ましい。
「シェリーのそれも人参食べるのか……?」
 御剣が“それ”という言葉を使ったのは、シェリーが連れている白い動物がなんだかわからないからである。
 少なくとも草食獣ではあるようだが、駱駝か? 羊か? 犬か? 毛深い小型のキリンなのか?
 見ようによっては何にでも見える不思議な奴である。
 体長は二mといったところか。
「アルパカっていう種類の動物だよ! ね、パッカーちゃん!」
 言いながらパッカーの背中に、もふもふ〜と体を擦り付けるシェリー。
「う〜ん、この背中の毛が最高級品なんだよね〜! 肌触りがセッレブ〜!」
「アンゴラの毛も服飾品に使われているな……」
「アンゴラウサギの毛は高級品だよねー! ちょっと貸して!――ダブルもふもふ〜!」
 アンゴラとアルパカ両方に挟まれて、ご満悦なシェリー。
 ヘブン状態になっている。
 御剣が人参を差し出すと、パッカーは御剣に近づいてきて、人参をハムハムと食んだ。
「わ〜、人参も好きなんだ! 林檎は? 林檎も好きみたいだねー」
「バム次郎も林檎好きだな……食いものの趣味は合いそうだ……」
 そこへカメラがやってきた。
 メインの人は黒百合にリタイアさせられたが、サブがいたようである。
 御剣とシェリーのアピールタイムだ。
 御剣はバム次郎の体を撫でて丸まらせる。
「萌え芸……わたあめ……!」
 続いて、バム次郎を自分の頭に乗せる。
「合体芸……アフロヘアー……」
 このレベルのアフロだと、巨人力が発動して宇宙が滅亡しそうである。
「それじゃあ、私も合体芸いくよ!
 アルパカに跨るシェリー。
「アルパカライダー!」
 颯爽とキメポーズ!――しようとした時だった。
 パッカーが座りこんでしまった。
「え? なんで!?」
「重いんじゃないか……?」
「私、そんなに重くないよ!」
 御剣が、パッカーの首輪のタグを見た。
 “積載限界重量50kg”とある。
 アルパカは非力なのだ。
「だそうだが……?」
「うぅ」
 口ごもるシェリー。
 アルパカから降りる。
 代わりに御剣がパッカーに跨ると、ご機嫌に、辺りをパカパカ歩いてくれた。
 御剣は体重40kg、積載限界量以下だ。
 テーブルの上には御馳走が山盛りあるのに、この日シェリーは何も食べなかった。


「なぜ、久遠ヶ原には犬好きが好きないんだ……」
 ゴウライガ―こと千葉 真一(ja0070)は、切なそうに呟いた。
 会場では様々な動物がエスコートされているが、犬は千葉が連れてきた豆柴のかける一匹しかいない。
「こんなに可愛いのに」
 千葉の気持ちなどつゆ知らず、かけるはボールと戯れては、そのうち自分の尻尾を追いか出し、コロンと転がるという愛らしい仕草をしていた。
 その可愛さに千葉が嘆息すると、猫をエスコートしている一団がアピール用カメラ前に集まっているのが見えた。
「猫はあんなに人気なのに」

 大柄な眼鏡男、鐘田将太郎(ja0114)は着流しの懐に白い毛に青い目の子猫を入れていた。
「マルコメ、御挨拶しろ」
 その鐘田と並んでいるのは、全体的に緑っぽい眼鏡少年、咲魔 聡一(jb9491)
 だらしなく顔を蕩けさせて、白い毛に翠の目の長毛種猫に頬ずりをしている。
「さあ、ホイップ。 他の猫さんにご挨拶しましょうにゃー」
 その隣が衝撃的、身長が150cmはありそうなデカ猫である。
 しかも、それをエスコートしているのは身長2m近い二足歩行の黒猫
 カーディス=キャットフィールド(ja7927)、久遠ヶ原島名物きぐるみ人間の一人だ。
「じゃーん“朝”って言います\にゃー!/」
 そんな猫軍団&猫好き芸人の中に、千葉がかけるを連れて乗り込んできた。
「ちょっと待て、ツッコミどころありすぎだろ」
「どこがです?」
 カーディスが首を傾げる。
「お前だよ、お前とその猫だ!」
「どの猫です?」
 150cmある猫は、長い胴と尾でカーディスのお腹を巻きつけるかのように周りをくるくる回っている。
「デカすぎだろ! その猫、実はきぐるみで中に人が入っていたりしないだろうな?」
「ははは、そんな人いるわけないじゃないじゃないですか」
 にゃにゃと笑い飛ばすカーディス。
 千葉は、どうにも納得がいかない。
「もしかして、千葉さんは猫人気が納得いかないのかな?」
「わからんなら仕方がない、猫の魅力というものを見せてやろう」
 咲魔と鐘田が同時に、メガネクイッしながらレンズを日光に反射させた。
「見たまえ、僕のホイップを! 白い毛皮と緑の宝石で着飾った淑女のような気高い佇まい!人懐っこく甘えん坊な仕草! 脳髄を鷲掴みにする魅惑的な声!」
 咲魔は、愛猫の喉の下をくすぐってゴロゴロさせている。
 ホイップは嬉しそうな様子だが、それを眺める咲魔はもっと蕩けそうな顔をしていた。
「さあお嬢様、本日の高級キャットフード、魚介の旨みたっぷりの極上猫用スープを召し上がれですにゃー」
「――飼い主とペットというより、お嬢様とじいやじゃないか」
 同じ猫サイドの鐘田にまで呆れられたが、咲魔は気にしていない。
「ふふっ、冥界ではあんなに人に頭を下げるのが嫌だったのに、お猫様には喜んで傅けるよ……あ、お疲れですにゃ? マッサージしますにゃ」
 ますますかいがいしく、ホイップのご機嫌とりを始める咲魔。
「いかん、いかんぞ、甘やかすのは猫自身のためにならん」
 鐘田は隠れている愛猫マルコメを着流しの上からポンポンと叩いた。
「着流しの懐に隠れるな! 顔出せ、顔!」
 うにゃっと鐘田の胸元から顔を出すマルコメ。
 見慣れない人間や会場の雰囲気に、怯えている様子だ。
「……人見知りが激しいなぁ、お前。 直さにゃいかんぞ」
 鐘田はそう言いつつも、デレデレ顔でマルコメに頬ずりをしている。 
「鐘田さんだって、似たようなもんじゃないですか」
 ボソッと呟く咲魔。
「うるさい! マルコメは生まれて間もないのを保健所で引きとった子なんだ! 親の愛情を教えてやらねばならんのだ!」
 鐘田はムキになって反論する。
 不毛な論争を始める二人を背後に、カーディスは愛猫、朝にアピールを始めさせている。
「ウチの子は賢いので芸もできます! 朝! にゃんもないと!」
 カーディスの号令で、朝はくるんと丸まりアンモナイト風な姿になる。
「可愛いですー!賢いですー!!」
 愛しさの余り朝をナデクリワッシャーする黒猫人。
 猫の親子か兄弟にしか見えない。
 そんな朝に千葉が、挑戦をしかけた。
「猫で芸が出来るとは珍しいな、だが芸なら犬が専門家だ。 特にうちのかけるは芸犬だぞ」
「ほう、そこまで言うなら勝負しますか」
 千葉の言葉に琥珀色の目を光らせるカーディス。
 咲魔と鐘田も言い争いを中断し、注目を寄せる。
「犬の実力がどれほどか見せてもらおう」
「猫に勝てるとは思えんがな」
 犬VS猫、伝統の一戦の開始。
 まずは千葉とかけるが芸に挑む。
「かける! ざる犬だ!」
 千葉が声をかけると、かけるは千葉が地面に置いた蕎麦ざるの中に入り、くるっと丸まって寝ころんだ
「うぅ……可愛い」
「若干、鍋猫のパクリな気もするが、まあ可愛い」
 咲魔と鐘田も、頬を赤らめてうんうんと頷く。
 千葉はまだ気を緩めない。
「続けていくぞ、かける! アイキャッチだ」
 かけるはカメラの前で毛づくろいを始めた。
 そのうちに自分の尻尾が気になって、くるくる回り出して倒れる。
 短時間でオチがつく萌えコントを展開。
 アニメのアイキャッチでも、通用しそうな流れである。
「ふふふ、飼い主の俺がヒーローなせいか、かけるも自然に人が喜ぶアクションを取るんですよ」
 腕を組み、勝ち誇る千葉。
 しかしカーディスも負けてはいない。
「そちらがヒーローなら、こちらは忍者です。 朝! 手裏剣!!
 カーディスがフリスビーを全力投擲すると、朝はシュバッ!と走り出し華麗にジャンプ! そしてキャッチ!
「可愛いですーー!流石ですーーー! 立派な忍猫ですー!」
 ナデクリワッシャー。
「それ本当に猫か? 中にドーベルマンとか入っていないか?」
 朝を疑わしげな目で見る千葉。
「失礼な! 中に犬などいません!」
「中に人が入っている猫に言われてもなあ」
 千葉は疑いの眼差しを緩めない。
「そっちの豆柴こそ、中に猫がいませんか、その仕草、なんか猫っぽいですよ!」
 かけるは千葉の頭の上に乗り、ぐてぇとしている。
「いや、これは――外で散歩する時はちゃんと自分で歩くんだけどな。寮の中とかでこうしてたら、かけるもすっかり慣れっこになっちまって――」
 弁明している間に鐘田と咲魔は犬VS猫に興味を無くしたのか、互いの愛猫を交換して愛でていた。
「おう、ホイップも可愛いじゃないか」
「いてて! 鐘田さん、マルコメが全然、慣れてくれないんですけど」
 猫好きには他人の猫も可愛いようだ。
 指を噛まれても、頬を引っかかれても、二人ともニコニコ笑っている。
 どんなペットも皆、可愛い。
 純粋で和む。
 ディレクターが、そんな番組終わりのテロップ原稿をスマホで書き始めた時、指が凍りつくような事件が起きた。


 ここからは未放送VTR分である。
 この日の朝、眼鏡少年、袋井 雅人(jb1469)は、黒い水牛を連れて悠々と会場に向かっていた。
「さあダンくん、もうすぐお友達に会えますよ〜」
 水牛は体重1.2tを超す事もある大型の牛である。
 三日月状の二本角が、特長だ。
 日本では、あまり水牛が飼われていない。 肉が不味いからだ。
 袋井はこれを愛玩用として放し飼いにしていた。
 会場につくと、恋人の月乃宮 恋音(jb1221)が待っていた。
「……おぉ……袋井先輩……おはようございますぅ……」
 恋音は乳牛のきぐるみを着て、ペットに乳牛を連れていた。
「おはようございます、恋音! 今日も……あれ、少しひんぬーになっていませんか?」
「……おぉ……先輩、そっちは本物の牛さんですぅ……(ふるふる)……」
 恋音は爆乳である。
 体全体との比率で見ると、乳牛をも圧倒する。
 乳牛は恋音に平伏していた。
 動物園から借りたこの“やつで“という名の乳牛も、ボスに対する子分のように恋音に従っている。
 これも、厳しい乳界の掟なのだろう。
「ところでさっきから気になっていたんですが、この屋台はなんでしょう」
 やつでが繋がれているのは、カラフルな屋根のついた屋台、その柱である鉄柱だった。
「……おぉ……今日はミルクソフトの屋台を開こうと思うのですぅ……先輩、試食はいかがですかぁ……」
 恋音はソフトクリームマシンを使い、ミルクソフトをコーンの上に巻いた。
「絞たてミルクですか?」
 袋井の鼻の穴がみるみる膨らんでくる。
「うはっ、恋音の母乳で出来たソフトクリーム!?」
 袋井は、見当違いな理由で興奮していた。
「……うぅ……違いますぅ……いくら大きくても赤ちゃんが出来ないと母乳は出ないのですぅ……」
「なら、作りましょう! 今すぐ!」
 白昼堂々自分を襲おうとして、TVスタッフの撃退士たちに制圧されている袋井を見て涙を流す恋音。
「……なぜ……(ふるふる)……」
 ミルクソフトの材料はもちろんやつでのもの、しぼりたてでミルク風味たっぷりの生ソフトと、まだ暖かで動物たちが飲むのに適した温度の生ミルクがこの屋台の売りである。
“どでかい看板”が胸にぶら下がっているだけに、ミルクショップには朝から人だかりが出来ていた。
 
 袋井は大型動物用の鎮静剤を打たれ、大人しくなった。
 恋音の屋台を手伝い、しばらく時間が経った。
「……おぉ……袋井先輩……やつでさんのミルクも枯れてきたようなので、しばらく休憩をとるのですよぉ……」
「そうですね、それじゃあ二人で皆さんのペットを見て回りましょうか?」
 屋台に“休憩中”の張り紙を貼り、デートに出る二人。
 やつでは休憩させたまま、ダンくんだけを連れて歩く。
「……みなさん、いろいろな動物さんを連れていますねぇ……」
 会場の外れで雫と遭遇する。
「お、雫さんのペットは白虎ですか、かっこいいですねー!」
 白虎は、食いでのある水牛を目にして本能的が疼いたのか襲いかかろうとしている。
 雫はその首根っこを押さえて止めた。
「あ! こら、ダメです! 白昼堂々襲おうとかケダモノのすることです!」
「ハハハっ、動物は欲望のままに行動するから仕方ありませんよね、そこが人間との差ですよ」
「……おぉ……さきほどの先輩の行動と矛盾しているような……(ふるふる)……」
 さらに会場を歩いていると、入り口の外辺りで何やら騒いでいるような声が聞こえた。
 気になるので会場の外に出てみる。
 
「私は袋井様のペットの綾女と申します。 皆様どうかお見知りおき下さいね」
「丁寧に挨拶してもダメだ! 会場には入れないよ!」
 兎のきぐるみを着て首輪を付けた人間が会場に“入れろ、入れない“で番組ディレクターと押し問答していた。
「あの方は!」
「……おぉ……先輩、お知り合いですかぁ?……」
「綾女さんですか?」
 きぐるみの中身が織神 綾女(jc1222)だと気付き声をかける袋井。
「ああ、袋井様、お会いしとうございました」
 きぐるみ姿で袋井に抱きついてくる綾女。
 どういう事なのかと袋井が番組ディレクターに尋ねられる。
「彼女の素性ですか? 私のペットですよ」
 衝撃的な発言をさらっとする袋井。
 恋人の恋音が隣にいる状況、すわ修羅場か?
 ディレクターやスタッフは緊迫と期待をないまぜにしたが、当の恋音は悠然としている。
「……おぉ……また新しい方ですかぁ……」
「アハハッ、またですよ〜!」
 頭をかく袋井。
 いつもの事なのである。
 袋井は相手が男の娘だろうと、光の巨人だろうと、欲望のままに手を出してしまう人なのだ。
 恋音も巨大な胸が示すように、大きな胸襟の持ち主なのでそんな袋井を当たり前のように許してしまう。
 綾女の方も綾女の方で、愛しい袋井に恋人がいるのなら、自分は守り刀に徹しようと覚悟を決めている。
 全員、変人すぎて修羅場にはなりえなかった。
「困りますよ、“他人に首輪を付けてペット扱いするのは禁止“って依頼書にちゃんと書いておいたじゃないですか」
 ディレクターの言葉に、綾女が反論した。
「私は天使と悪魔のハーフで人間ではありません!」
 きぐるみの上から陰陽の羽を披露してみせる。
 どうあっても袋井のペットとして会場に入るつもりらしい。
「そう言われても」
 困り果てたディレクターは、黒いアゴひげの恰幅のいい壮年男性を連れてきた。
 TV局長のワルベルトである。
「ふむ、なるほどそういう理屈か。 だがな綾女とやら、お主は人間だ。 少なくとも久遠ヶ原島の皆はそう思っておる」
「しかし、私は……」
「久遠ヶ原島は天界、魔界から逃げてきたものたちを人として、仲間として受け入れてくれる救いの地でもあるのだ。 生まれた地が違う、流れる血が違う、そんなもので人と認めなかったらどうなる? お主のように見た目が人間そのままの者だけではなく、頭が蛇の少女だっているのだぞ。 翼が生えているくらいで人でないというなら、はぐれ天魔たちの居場所がなくなってしまう。 例えどんな姿であれ、人の心を持つものは人として認める、それが久遠ヶ原島なのだ、わかってもらえるだろうか?」
 しばし静花に瞼を閉じ、それから素直に頷く綾女。
「――はい」
「ガハハッ、わかってくれて嬉しい。 まああれだ、今回は動物番組というわけで良い子もたくさん見てくれるだろうからな。 あまりそちらの方向に走られるとあちこちカットせねば放送出来なくなるのだよ。 そんなわけで、綾女も一人の人間としてペットを連れて出てくれんか?」
「わかりました」
 綾女は、木陰に隠していた鳥籠を持ってきた。
「この雀の“リン“が私のペットです」
 鳥籠の中には褐色の小鳥が、ちゅんちゅん元気よく飛び跳ねている。
「さすが綾女さん! ダメだった時の場合をちゃんと考えていたのですね!」
「……おぉ……備えあれば憂いなしですぅ……」
 感心して顔を見合わせる袋井と恋音。
「はい、万が一のために備えております。 いかに豊かな国とはいえ、いつ食糧難に陥るかわかりませんからね」
「え?」
「非常食は大事です」
 綾女は籠の中の“リン”を、愛しげな目で見つめている。
 結局、ここは全部カットしなければ、放送出来なかった。


 放送分に戻る。
 ほとんどのものがペットのエスコートに夢中。
 どんな餌をやれば喜んでもらえるのかと試行錯誤している中、一人だけテーブル上の料理の処理に夢中な者がいた。
「まったく、こんなに御馳走があるのに、みんなどうして食べないのかしら? もったいないじゃない! もきゅもきゅ」
 いいとこのお嬢さん風の少女、蓮城 真緋呂(jb6120)である。
 ほぼ手つかずのままの料理を、物凄い勢いで平らげている。
 恋音や袋井の牛には胃が四つあるが、牛よりもご機嫌な調子だった。
 そこにアピール用のカメラがやってくる。
「むぐむぐ……私のペットね? はい!」
 真緋呂が取り出したのは、密封されたガラスの水槽。
 淡水の中に、緑色の球体が佇んでいる。
「何って、毬藻よ? お土産品で有名でしょ? 動物じゃないとダメなの?」
 局長的にはTVの映像的に動いてくれるのならば、食虫植物でもロボットでも構わなかったらしいのだが、毬藻は動いているかどうか怪しいためNGという事になった。
「あら残念、ごめんね、くさもち」
 真緋呂は毬藻に謝罪する。
「なんつう名前のセンスしてんだ、そのうち食うつもりじゃないだろうな」
 メカ撃退士、ラファル A ユーティライネン(jb4620)がニヤニヤしながら、真緋呂に近づいてきた。
「失礼ね、こんな小さいの食べないわよ」
「大きさの問題なのかよ、まあ、小さくても俺のヒナちゃんの方がかーいーぜ!」
 ラファルは胸の前で組んでいた両掌を広げた。
 掌の上には青い球体が乗っている。
「なにこれ? 青い毬藻?」
「毬藻じゃねえよ! ヒヨコだ! ヒナちゃんだよ!」
 丸まっていた青い球体が降り注いだ陽光に目を覚ます。
 二本足でラファルの掌の上にぴょこんと立つと、あちこちを見回しながらピィピィと鳴いた。
 縁日などに売っているカラーヒヨコと言うやつだ。
「どうだ、かーいーだろ! 毬藻じゃこうはいかないぜ! 動かないもんな!」
 ラファルが勝ち誇ると真緋呂が真顔で言った。
「負けないわよ、からあげ!」
「からあげ!? おい、まさか俺のヒナちゃんを食う気じゃないだろうか!?」
 ヒヨコを隠すラファル。
「くさもち選手登録除外時のために、念のためスーパーサブを連れて来ていたのよ! 来なさい、からあげ!」
 その呼び声に、何かが飛び出してくる――と、思いきや何も来ない。
「もう、仕方ないわね! あのコ、全然、動かないんだから!」
 真緋呂は運営用のテントへ駆けていくと、大きな手持ちゲージをうんせうんせと運んできた。
「これが私のペット、からあげよ」
 ゲージに入っていたのは、グレーの羽毛に巨大な嘴、ややアンバランスなくらい長い脚を持つ奇妙な大型鳥だった。
 ゲージ越しにそれをラファルは覗き込むと、顔をしかめた
「死んでる?」
「死んでないわよ! からあげはハシビロコウって種類の鳥なの、動かない事で有名なのよ」
「動かないからくさもち選手登録除外だったのに、結局動かないのかよ」
 ハシビロコウはアフリカのビクトリア湖周辺に生息する鳥である。
 何だかわからない見た目をしているが、学術的にはペリカンの仲間とも、コウノトリの仲間とも、サギの仲間とも言われている、 本当になんだかわからないのだ。
「本当に動かないのよ、ほら」
 真緋呂が“春一番”のスキルで風を吹かせても、からあげは微動だにしない。
「動かないにもほどがあるだろ、剥製じゃねえのか?」
 ゲージを揺らしても動かないからあげに、疑いの眼差しを向けるラファル。
 真緋呂は、にこっと微笑むとゲージの入り口を開け、“アイビーウィップ”のスキルでからあげの口元に、生魚を突きつける。
「こうすればたぶん動くわ、お魚が好きなのよね、からあげ」
 と、その時だった。
 真緋呂の手にあった生魚が、一瞬にして消えた。
「あ!?」
 からあげは相変わらず動いていない。
 上空から襲撃してきた何者かが、かすめとったのだ。
 襲撃者は、わさわさ翼を羽ばたかせながら低空を飛んでいる。
「あれなに?」
「鳥か!?」
 二人がいぶかしんでいると、背後から男が慌てた声で走り寄ってきた。
「わ〜ん、鈴木さんー! 逃げちゃだめだよー!」
 頭に大きな向日葵の飾りをつけた黒髪の男、九鬼 龍磨(jb8028)だ。 
「あれ、クッキーのペットか?」
 ラファルが尋ねる。
「うん、動物園から借りたんだよ、アメリカワシミミズクの鈴木さん、脚綱が古くなっていたみたいで切れちゃったんだ」
「動物園で羽根を切っておいたのかしら? そう上手くはとべないみたいね」
 鈴木さんの飛行は、野生の鳥と比べるとやや精彩を欠いている。
 羽根も見た目に短かった。
「自分の餌くらい自分で取り返しなさい! さあ、からあげ飛んで!」
 真緋呂が命じたが、からあげは微動だにしない。
 鈴木さんが地面に降りて生魚を呑みこんでいるのを、ジーと眺めているだけだ。
「本当に剥製なのかしら……」
 真緋呂まで疑い出す。 
 自分の食べ物を勝手に食べられて、黙っているような感性は真緋呂にはなかった。
「相手が飛ぶなら俺が捕まえてくるぜ! ヒナちゃん、ここで待っていろよ!」
 カラ―ヒヨコをテーブルの上に置くラファル。
 陰影の翼を活性化させつつ、鈴木さん目がけて飛び出す。
 結果的にこの突進は、行き違いを生んだ。
 鈴木さんが再び翼を広げ、こちらへ襲い掛かってきたのだ。
 狙いは、テーブルの上でピョコピョコ歩いている青いヒヨコ!
「ヒナちゃん!」
 ラファルはヒナの元に戻ろうとしたが、間に合わない!
 鈴木さんは鋭い爪が、ヒナを掴もうと襲い掛かる!
 ほのぼの動物番組で、あわや惨事か!?
「完璧鉄壁ー!」
 かけ声とともに、鈴木さんの爪が見えざる何かに弾き返された。
 九鬼が、庇護の翼でヒナちゃんに向かった攻撃を肩代わりしていた。
「危ない危ない、鈴木さん、おっきくてパワフルでワイルドなんだよね。 僕もちょっぴり腕から血が出ちゃったよ」
 九鬼の筋肉質な腕に、鳥の爪痕が残されていた。

「すまん、クッキー」
「いやいや、元々、僕が逃がしちゃったのが原因だからね。 夜行性なのに、昼間、しかも知らない場所に連れ出したからパニックになっちゃったんだね」
 鈴木さんは足紐を新しいものと交換し、今は小手をつけた九鬼の腕の上でのんびりと眠っている。
「それより、ヒナちゃんは大丈夫?」
「ああ、おかげでな」
 青いカラーヒヨコは、一時は怯えていたのだが、三歩歩いたら忘れたようでラファルの肩の上でピョコピョコしていた。 さすがは鶏の子である。
「こいつは決して親鳥にはなれないからな……せめてもう少し可愛がってやりたいぜ」
 切なげな目で、顎の下をくすぐってやるラファル。
 気持ちよさげにヒナちゃんは目を細めた。
 カラーヒヨコは概して寿命が短い。
「ううん、諦めちゃダメなのだ! カラーヒヨコでもちゃんと成鳥になって子孫繁栄したって話も時々聞くのだ!
「そうか、そういう話もあるか」
 ヒナはラファルの恋人から取った名。
 愛しいものと同じ名を持つこの鳥には出来るのなら幸せになって欲しい。
「長生きしろよ」
 ラファルは幸せの青い鳥にそう話しかけた。
 
 四ノ宮 椿は幸せを探すうちにオラウータンとカップルになっていた。
「どこかで間違ってた気がするのだわ」
 眉をしかめる椿。
 リード紐を付けた清四郎くんは、好奇心旺盛で会場にあるいろいろなものを手に取り、いじっては飽きると投げ捨てる、を繰り返している。
「困ったものだわ、夫にはもう少し落ち着きのある人が理想なのに」
 ブツクサ言いながら歩いていると、突然、椿の下半身が涼しくなった。
「え?」
 ひらひらするミニスカに興味を覚えた清四郎くんが、その俊敏さでスカートを抜き取ったのだ。
「きゃあ、返してなのだわ!」
 追いかけようとする椿。
 だが、シャツの裾を伸ばしてショーツを隠している体勢。
 どうにも、上手く動けない。
 清四郎くんはしばらくミニスカをいじっていたが、またすぐに飽きてスカートをポイッしてしまった。
「ちょっ、どこに投げたのだわ!?」
 椿が戸惑いながらスカートを探していると、金髪グラサン黒スーツの男、ミハイル・エッカート(jb0544)が現れた。
「彼氏とずいぶんお盛んじゃねえか、椿」
「袋井くんじゃあるまいし、昼間っからそんな事しないのだわ!」
 椿は赤くなったまま裾を伸ばしてミハイルの目から、必死でショーツを隠している。
「椿さん、はいこれ」
 銀髪の幼い女の子が、赤いスカートを返してくれた。
 ミハイルの義娘、クリス・クリス(ja2083)だ。
「ありがとうクリスちゃん」
 物影でスカートを履きなおしてくる椿。
「もう、ダメよ清四郎くん――って二匹になってる!?」
 椿が握るリード紐の先にはオラウータンが二匹いて、激しく取っ組み合いの喧嘩をしている。
「やめなさい!」
 人間の非でないくらい力が強いだけに、撃退士でも女の力では止められない。
「やめろ、モリス」
 ミハイルも引っ張るが、男の力でもどうにもならないようだった。
 力での停戦を諦めたミハイルは二匹の間に割って入ると、忍法「友達汁」を使用。
 互いを落ち着かせた。
「ふう、動物園で同じ檻に入っていたから仲はいいはずなんだがな」
「そのコ、ミハイルさんのレンタルペット?」
「ああ、モリスってんだ、よろしくな」
 モリスは清四郎と同程度の大きさのオラウータン。
 タキシードに蝶ネクタイがキザな五歳の雄だ。
「ボクのはこのコ、ま二郎さんだよ!」
 クリスが連れているのはアルマジロ。
 体長1m近くある鎧姿の四足獣である。
 しゃがみこんで、その頭を撫でながらクリスは語る。
「ま二郎はねえ、モリスの弟なの」
「え!? オラウータンとアルマジロでは種類が全然違うのだわ」
「そこのところはどうなっているかわからないな、パパの責任だからパパに聞いて」
 クリスの言葉を聞き、ミハイルを睨む椿。
「そんなミハイルさん、ふしだらすぎるのだわ! オラウータンはともかく、アルマジロとまで子供まで作るなんて」
「どんな変態だよ!? 子供のままごとだよ、考えりゃわかるだろ!」
 ミハイルがツッコンでも、椿は疑いの目でミハイルを見続けていた。

 家族団らんお食事タイム。
 人間たちと清十郎とモリスが、林檎をそれぞれ一つずつまるかじりして食べている。
「同じものを一緒に食べると家族の絆が深まるね」
「こうやって食っている姿は、オラウータンも人間と変わりがねえな」
 大好きなアルマジロとお食事出来てクリスも機嫌。
 と、思いきや肝心のま二郎が顔の前に置かれている林檎に口を付けていない
「食べないのかな?」
「首輪のタグに飼育員データを書いてくれているな」
 プラスチック板に書かれたデータを読み込むミハイル。
「ま二郎はミミズが大好物らしい」
「ミミズ――ごめん、ま二郎、お姉ちゃんミミズ触れない」
「次に好きな餌は蝸牛、あと蟻も好きだそうだ」
「蝸牛は大丈夫〜」
 用意してあった生エスカルゴを、ま二郎にあげる。
「はい、あーん♪ おー パリパリもしゃもしゃ食べてるー」
 喜ぶクリスを微笑ましく見つめるミハイル。
 しばらくするとクリスは、ミハイルの目の前に掌を差し出した。
「パパも食べて」
 何か胡麻のようなものが指先に蠢いている。
「なんだこれ?」
「蟻だよ、今、蟻が好きってパパが言ったでしょ? 地面にいたのを拾ったんだよ」
「お、おう……パパは遠慮しよう、いい子だから自分でお食べ」
 クリスは話を半分しか聞いていなかったらしい。

 椿がげんなりした顔を二人に近づけてきた。
「あの〜、モリスくんがさっきからずっと私に抱きついてくるんだけど……」
 モリスは椿のGカップバストに抱きつき、顔をすりすりしていた。
「モリス〜、さっそく美人に目をつけたか」
「なんで私、オラウータンにばかりにモテるのだわ」
 低テンションな椿をよそに、ミハイルは、その辺りに咲いていた花を摘むとモリスに渡した。
「ほら、好きな女性にはプレゼントだぞ」
 気を利かせたつもりだったがモリスは、その花をモグモグ食べてしまう。
「ふられた?」
「ふっ、お前とは遊びだったって事だな、椿」
「めっちゃプライドが傷つくのだわ……」


 番組の最後はフリータイム。
 皆がそれぞれ動物たちとの思い出を作っている様をEDロールに合せて流すための撮影である。

 雫は、白虎に乗ることを試みている。
「う〜ん、嫌がりますねえ……映画では狼でしたが、ちょっと試して見たかったですよね」

 ミハイルはオラウータンのモリスに絵を描かせている。
 良く言えば前衛的、普通に言えば絵の具のついた筆をキャンパスに叩きつけているだけだ。
「素晴らしい! 天才だ! 椿、金持ちと結婚相手にモリスとはどうだ? 一流芸術家は儲かるぞ!」

 袋井はめげずに綾女に首輪をつけてカメラを映ろうとしている。
「一瞬、一瞬だけなら、TVの前の良い子もデカい兎だと認識してくれるかもしれません」
 それを見て震えるカーディス。
「あれが、きぐるみ人間のなれの果てですか」
「袋井先輩……ルール違反ですぅ」
 恋音が袋井にファイアワークス、ライトニングを立て続けに打ち込み、カメラに映る前に全てを無かったことした。

「連れて帰ってはダメか?」
 緋打石は飼育員にペンギンのペソを連れて帰りたいとごねている。
 だが、自室を冷凍庫に改造しなくてはならないと知り、風邪を引くので断念。

「アルマジロガード!」
 ま二郎とクリスは揃って丸まる。

 シェリーは全動物のもふりに挑戦。
 途中、黒百合のナミチスイコウモリ、ガブちゃんに血を吸われた。
「うぅ、吸血蝙蝠に血を吸われたよ、日光を浴びたら灰になるのかなぁ?」
「あはァ……♪ 可愛い娘が眷属になるのは大歓迎だわァ♪」

 動物たちを楽しませるためのアニマルエスコートパーティ。
 しかし、より楽しませてもらい、日々の仕事や戦いによる疲れを癒して貰ったのはやはり人間の方だった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
 赫華Noir・黒百合(ja0422)
 アルカナの乙女・クリス・クリス(ja2083)
 二月といえば海・カーディス=キャットフィールド(ja7927)
 ハイテンション小動物・イリス・レイバルド(jb0442)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 あなたへの絆・蓮城 真緋呂(jb6120)
重体: −
面白かった!:10人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
アルカナの乙女・
クリス・クリス(ja2083)

中等部1年1組 女 ダアト
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
撃退士・
藤村 蓮(jb2813)

大学部5年54組 男 鬼道忍軍
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
新たなる風、巻き起こす翼・
緋打石(jb5225)

卒業 女 鬼道忍軍
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
圧し折れぬ者・
九鬼 龍磨(jb8028)

卒業 男 ディバインナイト
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB
愛の守り刀・
織神 綾女(jc1222)

大学部4年215組 女 阿修羅
『AT序章』MVP・
御剣 正宗(jc1380)

卒業 男 ルインズブレイド
もふもふコレクター・
シェリー・アルマス(jc1667)

大学部1年197組 女 アストラルヴァンガード