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学園内のある会議室に、自己紹介クイズのVTRを持ち寄った学園生たちが集っていた。
「自己紹介ねー? ボクの場合、この長い金髪が名刺代わりっかなー? VTR見た新入生がこの髪を見れば“あっ、あの先輩だ!” ってわかっかるよねー?」
ハイテンションロリっ娘・イリス・レイバルド(
jb0442)が、自称世界一の美髪を靡かせる。
「名刺代わりなら、このデスメタルのサウンドこそが私そのものですわ」
アバンギャルドなメイクをしているデスメタ少女、咲魔 アコ(
jc1188)はギターを派手にかき鳴らす。
「ボクの場合は、左右非対称の翼か……」
男の娘、御剣 正宗(
jc1380)は、右が天使で左が悪魔の翼をパタパタ羽ばたかせる。
「……私の名刺代わりですかぁ……え〜と、そのぉ……(ふるふる)……」
体の前面で震えている巨大な二つの脂肪塊だけで言わずもがなな、月乃宮 恋音(
jb1221)。
一目見たら忘れられない爆乳インパクト。
本日は、この四人で互いの試作したクイズVTRをチェックし合う。
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最初の発表者はイリス。
VTRを廻した途端、モニターから設定以上の大声が響く。
『イエッス! 天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! チャームポイントは願いをこめた金の髪! 好きな物は愛と絆! 飛行とかいろいろ! でも恋愛は専門外! 専門外であって嫌いじゃないっですよー! 名前の由来は虹の女神様っからー! イリスちゃんでっす、よっろしくねー☆』
画面の中で手を振るイリスを前に、会議室のイリスもドヤ顔でナイチチを張っている。
「……おお、相変わらず派手な自己紹介ですぅ……」
「ふふん、人間関係はまず挨拶からってねー! 新入生に対しても、まずはインパクト重視でしょ?」
「最初からドン引きさせる可能性もあるがな……」
正宗の懸念をよそにVTRはクイズパートへと入っていく。
『じゃあ、イリスちゃんからの出題だよー! 愛と絆が好きなのに恋愛が専門外な理由はなんでしょ? レッツ シンキング タイム!』
ここでVTRがいったん止まる。
他の参加者三人で解答が出せるか、試さねばならない。
というわけで、皆の前には、久遠ヶ原ケーブルTVから拝借してきた早押しクイズのボタンが置いてあったりする。
「はい、これは簡単ですわ!」
アコのボタンがいち早く点灯する。
「お姉さまが大好きだからですわ、イリスさんがシスコンなのは私の従兄様からよく聞いております!」
「誰がシスコンかーーっ! まあ、否定できないけど……でも、違いまっす!」
ブーと不正解音。
「ノーヒントじゃ無理かー! じゃあねえ、ヒント流すからスナック感覚で聞いてねー!」
VTRが再び流れ始める。
『別にボク恋人欲しいわけじゃないっしねー、ふむり? 特別な人は欲しくないのかってー? 欲しいよー当然だよー? なら恋愛が専門外はおかしいってー?ボクからすれば恋愛経由だけが愛じゃないからねー、まー恋愛経由も否定はしませんがー』
またVTRがストップする。
「はい第一ヒントおわっりー!」
それを聞いた正宗がボタンを押す。
「なんかごちゃごちゃ言っているが……要はお子様だから恋愛は早いってだけだろ……」
バゴーンと爆発音。
本番ではマイナス得点に繋がる“地雷回答”を踏んじゃったのである。
「誰がお子様かーーっ!」
「小学生なんだからお子様だろ……」
「誰が小学生かぁ!? 泣くよ!?銀河に轟くほどに泣き喚くよ!? ボクは花の
女子高生ですからして!」
「嘘だろ……」
「正宗くん、屋上でちょーっと話し合おうね♪」
新入生たちは誰も信じないと思うが、これでも本当に高等部生なのである。
「わかんないかー、しょうがない! 最終ヒント!」
VTRが再開されると、長い髪を弄っているイリスが映し出されていた。
『大事にしてる理由はいっぱいあるっけどー、その一つが願掛けっかなー? 具体的な願いは教えませんよ、こういうのは秘めとかないと効果薄れるって言うしー』
「はいっ、これがラストヒントでっす!」
VTRがストップ。
唯一回答権を残した恋音が乳を振わせつつ、答える。
「……実はイリスさんには好きな方がいるのだけど、その想いが適わないから“専門外”ということでしょうかぁ……髪は想いが叶うまで伸ばすと言う事でぇ……」
再びブー音、全員不正解である。
「ん〜、当たらなかったかぁ、正解はこれっ!」
最後の正解VTRが流れる。
イリスが思慮深げな顔を作って語っている。
『正解はねー “恋愛は期間限定の関係だから” そだねー恋が実って、次の関係は無難に結婚としたとしよう、それは恋愛とは違う関係に変化している、ボクはそう思うんだーだから期間限定、終わりのある関係はボクの望む特別じゃないんだよ』
「哲学的過ぎますわ」
「これ当てられる新入生いるのか……」
「あれ? 難しすぎだったかなー?」
「……初対面で当てられたら、イリスさんと心が通じ合えるだけの何かを持っているのでしょう……ある意味、イリスさんの目的を見事に果たせるクイズなのかもしれません……」
そんなわけでイリスの自己紹介クイズは終了。
イリスはヒント部分のVTRの追加撮影を考える事になるのだった。
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アコのVTRは高等部の教室から始まった
他に人がいない夕方の教室で、カメラに呼びかけている。
『どーも、高等部一年のアコですわ。アウルの発現、及び入学おめでとう。撃退士としての生活に馴染めるか不安なのだそうね?ま、私の普段の過ごし方を見れば不安も泣いて逃げていくでしょう。臓物カッぽじって、しっかりご覧遊ばせ』
VTRは授業中の風景に切り替わる。
アバンギャルドなファッションと相反して、ノートはちゃんととっていたりする。
『ま、ガクセーはガクセーらしく、授業はしっかり受けてますの。 得意科目は保健体育よ。 ……好きなのよねぇ、煙草で真っ黒になった肺の写真とか』
今度は島内のゲーセン。
アコは、筐体の前でゲーム用の銃を構えて画面に向かって引き金を引いている。
『暇潰しは、専らここでしてますわ。お勧めはシューティングね。ドロドロに溶けた皮膚のゾンビどもが最高の画質でワラワラと襲ってくるのよ、たまらないわ』
最後に、グラスからカクテルを嗜むアコ。
琥珀色の液体がアップになる。
カメラを引くとそこは、世紀末モヒカン野郎が屯していそうな空気プンプンのバイオレンス酒場であった。
「ここは、私のお気に入りのバーよ。まあ酔えればいいので、味にはうるさくないのだけど。今にも犯罪が起こりそうなこの荒みきった雰囲気、素敵でしょう?」
最後にアコ、そのバーのステージにあがり、ギターを演奏をしながら出題する。
『さて、ここで問題ですわ。実は私、こう見えてデスメタルのバンドをしていますの。それでちょっとトラブルを起こしちゃって…どんなトラブルか、分かるかしら?』
会議室では、VTRを見た他の三人が各々に表情を作っている。
「……うぅん……いささか、殺伐としすぎているようなぁ……(ふるふる)……」
怯えて乳を震わす恋音。
「煙草で黒くなった灰を好む感性か……」
「リアルすぎるゾンビとかマジ勘弁!」
「さて、肝心のクイズの方の答えはおわかりになりまして?」
正宗が粛々とした手つきで回答ボタンを押す。
「VTRの中では、一人で演奏していたからな“音楽性の違いでバンド仲間と解散した”とかか……」
ブーと不正解音。
「バンドのトラブルでは定番ですわね、でも不正解ですの。 そもそも私はまだ誰かと組んですらいませんわ“Starlight Murdere”はメンバー募集中ですのよ」
さりげなくに宣伝するアコ。
「ヒントは、今までのVTRの中に仕込んでいますわ。 わたくしが、どんな人間か察すればご正解いただけると思いますわ」
イリス、回答ボタンを押して、ジト目で答える。
「や、殺っちゃった?」
ドカーンと地雷音。
「いーえ、まだ人は殺してないわ」
「あっれー? 殺伐アピールがVTRであったから合っていると思ったんだけどなー?」
「ちょっとヒントが少なかったかしら、そうね、これを織り込もうかしら?」
そう言い、アコが出したのは一枚の請求書だった。
請求額は七ケタに及ぶ。
「……バンドで七ケタの請求ですかぁ……するとぉ……」
恋音が回答ボタンを押す。
「機材を壊してしまったとかではないでしょうかぁ……」
テラリーンと正解音。
正解VTRが始まる。
映し出されたのは、学園生が参加しているキャンプファイアー。
その傍に特設されたステージで、演奏するアコの姿だった。
そこでギターを振り廻して、アンプなどの高額機材を破壊するアコの姿が映し出された。
「このお陰でウン百万久遠の請求書がウチに届きましたの。 まぁ踏み倒す気満々でいるのだけど。 というわけで正解は“パフォーマンスで破壊したステージの代金を請求された”ですわ。 皆さんも音楽をやる時は気を付けて」
画面の向こうから手を振ってくるアコに、正宗がツッコむ。
「パフォーマンスで破壊したなら、気を付けろとかいう問題じゃないだろ……」
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正宗のVTRは武器庫の前で撮影されていた。
それを脇に置いて、なぜか正宗はメイド服姿である。
『ボクという存在を知ってもらえるいい機会だ……ボクは御剣 正宗。 高等部一年の男子だ……新入生諸君は、ボクの姿に何か違和感を覚えるだろう』
メイド服に関する説明が聞けるのかと思いきや、正宗は白と黒の翼をワサワサさせてみせた。
『その通り。 ボクはこの翼が示す通り、天使と悪魔の力を併せ持つ存在だ、ハーフ天魔と呼ばれる存在だな。 なぜボクがこのような血を抱くに至ったかについては、諸事情があり、肉親にも聞く事が出来ない……』
深刻な話なのだが、見ている側にすれば違和感はそこじゃないだろうと、もどかしくなる。
『さて、ここで問題だ……ボクの好きな武器は何?』
VTRが止まった。
「……おぉ……なぜメイド服を着ているのかというクイズなのかと思えば……(ふるふる)……」
「好きな武器ですか? 私の場合はサウンドですわ」
恋音とアコがそれぞれリアクションしている中、イリスが回答ボタンを押した。
「とりあえず“剣”かっなー?」
静寂。
正解音も誤答音も鳴らない。
「あれ、違う? 刀かな?」
「正解だ……。 剣と刀だな……いきなり当てられたので驚いた……」
正解音が鳴り響く鳴らす。
正解VTRの中では、正宗が武器庫から剣と刀を取り出していた。
「あれ、当たり?」
「なぜわかった……?」
「武器の代表格と言えば剣って、安易な理由だったんだけどー?」
当てたイリスは驚いているが、アコと恋音も驚いていた。
「私も剣だとは思っていたんですが、名字が“御剣”ですし」
「……おぉ……私もお名前が“正宗”なので刀かと思ったのですよぉ……ただ、ひっかけかと思い躊躇してしまったのですぅ……」
どうやら真っ先に思いついたのが剣だったようである。
メジャーな武器な上、名前にそれを連想されるものが入っているので無理もない。
「ふむ、解りやすすぎたか……一応、ヒントとしてボクの昔のあだ名が“ブレード”だというのも用意していたんだが……」
「そこまで必要なかったよねー」
「少し捻りを入れた方が良いだろうか……? 例えば、好きな武器ではなく嫌いな武器を当てる問題とか……? 地雷ワードが杖や本や魔法系だからそれをほのめかすか……」
すると、恋音がおっとりと微笑んだ。
「……おぉ……前のお二人の問題が高難度でしたから、馴染みやすい問題があるのも新入生の皆さんには宜しいかとおもいますぅ……」
「確かに、問題集などでも、最初の一、二問はわかりやすいものの方が勉強にはずみがつきますわ」
「それもそうか……」
というわけで正宗のクイズはこのまま採用。
しかし、なぜメイド服なのかという疑問は残ったままだった。
「ただの趣味なんだがな……」
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最後は恋音のVTR。
撮影場所の自室で、赤面しつつも礼儀正しく自己紹介している。
『高等部2年生の月乃宮恋音と申しますぅ…………非戦闘員ですが、事務処理、文書制作、料理などには多少心得がありますので、何かお力に慣れる事があれば宜しくお願い致しますぅ……』
自己紹介が終った頃、画面の中の恋音のスマホにメールが送られてきた。
『おぉ……クイズの問題が届きましたぁ……自分自身の事は客観的にわかりづらい事を考え、友人に事情を話して作ってもらったのですぅ……』
メールを開き、それを読み上げる。
『選択問題です。 私は、とある特異体質を抱えているのですが……』
その先を読んで一瞬固まる恋音、
しかしせっかく友人に作ってもらったというのもあるのか、ふるふるしながら問題を読み続ける。
『その関係で、色々と、普通では考えられないような目に経験をしておりますぅ……この中で、実際に“体験していないもの”は、どれでしょうかぁ?……五択問題になりますぅ……』
画面に五つの選択肢がテロップで表示された。
1:特異体質が刺激等で発動すると、胸のサイズが、最大で10〜12倍位迄大きくなる
2:とある薬を使用した際、胸が300m迄巨大化し押し潰されかけた
3:他の方の胸の成長を吸収して成長できるという嘘をついたところ、本気にされて泣かれた。
4:自分の出したミルクで溺れかけた
5:とある薬で、胸を一時的に無くしたところ、私と認識して貰えなくなった』
会議室でそれを見ていた面々、もにょる。
「特異体質で説明しきるには無理のある事ばかりな気がするがな……」
言いながら、回答ボタンを押す正宗。
「5かな、顔や声でわかるだろう……」
恋音が不正解音を鳴らす前に、アコが返答する。
「ブー!ですわ、5は本当です、現場に私も立ちあいましたから」
「ボクもお姉ちゃんから聞いた! 乳のインパクトがあり過ぎて他の部分は脳が認識しないんだってねー!」
「……なぜ……(ふるふる)……」
涙を流す恋音。
続いてイリスが回答ボタン。
「3かな〜? 恋音ちゃんって人を泣かすような嘘はつかないと思うんだよねー」
ブーと不正解音。
「それは実際あったのですぅ……ニョロ子さんを驚かせろという趣旨の番組に出た時ですぅ……大変申し訳なかったのですよぉ……」
「そんな事件もありましたわね」
最後に残ったアコ、落ち着いて考えてから回答ボタンを押す。
「4だと思いますわ、いくら恋音さんでも赤ちゃんがいないのに母乳は出ないでしょう」
「おぉ……アコさん正解ですぅ……ちなみに、溺れたのは牛乳だったのですよぉ……」
「ふむ、しっかり考えればわかるのか、良問題だな」
「他が全部本当だってのが、恋音ちゃんの乳が神と呼ばれる所以だっよねー」
「恋音乳万能提唱説ですわ」
「……なぜ……(ふるふる)……」
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こうして不足分のVTRは補給され、新入生歓迎の自己紹介クイズ大会は無事開催される運びとなった。
ただ、これを見た新入生たちが先輩たちへの安心を抱くのか?
それは、あまり期待出来ない話である。