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イベント開始時刻一時間前の海岸。
ビジュアル系イケメン、ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)は何かを探して歩いていた。
浜辺で日光浴をしていた若い男たちに目を付けると、近寄って話しかける。
「よぉ、海賊のイベントあんだけど、ヒーロー役相手にスポーツチャンバラ、しないか?☆」
「は? アンタ誰?」
「まさか、ホモナンパ?」
「スポーツチャンバラ(意味深)」
男たちは、ニヤニヤとジェラルドを眺めるだけだった。
「違う! かくかくしかじかで、要はバイトだ!」
「ふ〜ん、バイト料はおいくら万円?」
「時給+ボクが引っ掛けたオンナノコをまわすよ♪」
顔を見合わせる男たち。
確かにジェラルドの美貌ならナンパ成功率は高そうである。
だが、それが本当なのかと疑っている。
実際、ジェラルドには回すつもりなどないので、無理もない。
あと一押しだと睨んだジェラルドは、アウトローのスキルを発動した。
ワルそうな奴らと、大体友達になれるスキルである。
悪の美形っぽい魅力を全開にする!
「ついていくぜ、ジェラルドのアニキ!」
キャスト“ザコ海賊ども”を獲得。
“海賊襲来”イベントの準備は整った。
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海水浴客が屯す平和な海辺に、突然、一隻の船が停泊した。
潮風にたなびく髑髏の旗。
老朽化した遊覧船に装飾を施したものである。
「七つの海を股にかけるレフ夫海賊団! ポセイドンの秘宝を求め、いざ参上!」
サーベルを天に掲げるアイパッチ姿の船長は、Rehni Nam(
ja5283)。
男装して今は、レフ夫と名乗っている。
海水浴客が呆然と見守る中、レフ夫は地図を広げる。
「野郎共、地図によれば、あの小屋に秘宝があるそうだ、奪いに行くよ!」
レフ夫が指差したのは、海の家である。
「キャプテン☆ここはボクらに任せてください♪」
レフ夫の後ろから、子分を引きつれたジェラルドが現れる。
もしてもう一人、新人海賊役の逢見仙也(
jc1616)。
「レフ夫海賊団船員行きまーす」
彼らは砂浜を駆けだした。
「ポセイドンの秘宝をよこせ!」
「あいよ、そこに置いておいたから持っていきな」
全然、空気読まない海の家のおばちゃんが軒先に置いておいてくれた宝箱を抱え、船に戻る。
「ワハハッ! この海は俺達のものだー!」
浜辺に特設されたステージに赤髪の美女・獅堂 遥(
ja0190)があがった。
「大変です! どんな願いでも叶うと言われる“ポセイドンの秘宝“が海賊たちに奪われてしまいました! 海岸にいる子供たち! 海賊から秘宝を取り返すハンターになってください!」
デパートのヒーローショーに出てくるお姉さんの如く、前説する。
ステージの横には、ハンター登録所というテントが設営されている。
「はい、このバッジを水着に付けてみんなで海賊をやっつけて下さいね!」
遥が渡したパンフには、子供たちが自分の意志で選べる、AとB二つの選択肢が書いてあった。
Aの選択肢を選んだ子供たちは、パンフの指示に従い秘宝を奪われた海の家へと向かう。
「おばちゃん、ポセイドンの武具下さい!」
チケットと引き換えにおばちゃんが剣をくれた。
スポーツチャンバラで使うエアーソフトという短剣だ。
これを手に、直接闘いを挑む武闘派集団と化す。
「いたぞ、海賊だ!」
「やっつけろ!」
海賊船の前を警護していた逢見に切りかかっていく子供たち。
「わははっ! こわっぱハンターどもめ、そんなヘナチョコ攻撃が当たるものか!」
逢見、大人げなく撃退士の身体能力をフル活用!
子供たちの剣を難なく躱す。
「みんなで、取り囲んでやっけるぞ!」
子供たちは一致結束して逢見を包囲、一斉に切りかかった。
「甘い! バリアーだ!」
緊急障壁のスキルで子供たちを弾き返してしまう。
「バリアーとかずるいぞ!」
「ワハハハッ! 俺達を倒したかったら、伝説の海賊ハンターでも連れて来るんだな!」
Bコースを選んだ面々は、同じ海の家で武具の代わりに地図を貰っていた
地図は白、緑、黒の三種類ある。
まずは白の地図を手にした子供たち。
「ここが伝説のハンターのハウスね」
地図の導かれたのは、最初のそれとは別の海の家。
テーブルの一つでは子供たちと同じくらいの年ごろの女の子がフラッペを食べているが、イベントに興味がないのか、サンバイザーを目深にかぶり、こちらを見てはいない。
「ここにこれを置けばいいのかな?」
子供の一人が、空きテーブルの上に白い地図の裏を広げる。
そこには、魔法陣が印刷されている。
子供たちが目を閉じ、祈りを捧げると、サンバイザーの女の子が立ちあがった。
「……貴方たちが、私のマスターですか」
撃退士・眠(
jc1597)。
彼女が伝説の海賊ハンター、その一人目である。
「海賊狩りの為に貴方たちの剣となりましょう」
契約をすませ、海賊退治へと向かう。
緑の地図を手にした子供たち。
こちらは別の海の家に設置された“床タイルを、正しい順に並び替えられたら封印解除”というルールのパズルに挑む。
「できた!」
子供たちがパズルを完成させると、タイルの上に木の葉が舞った
壁の中から、メガネをかけた魔術師らしき男・咲魔 聡一(
jb9491)がふわふわと宙に浮きつつ歩み出てくる。
「すげえ、本物の魔法使いだ!」
舞い散る木葉は呪術忍法“木の葉隠れ”。 壁から出てきたのは物質透過。
ホバリングは風の揺り籠を使用している。
演劇部員な咲魔、演出には余念がなかった。
「さあいこうか、だが一人では私の力は発揮出来ない。 キミ達も力を貸してくれるね?」
咲魔は子供たちを引きつれ、海岸へと乗り出した。
最後は、黒の地図。
「あった!」
地図を辿っていくと、海岸の岩場に、朽ち果てた女戦士の像が落ちていた。
剣を構えているような手つきをしているが、肝心の剣がその手にはない。
「こっちには剣が落ちてた」
別の子供が模造剣を拾ってきた。
「これを持たせればいいのかな」
女戦士の像に、剣を持たせる。
「最後は封印解除の言葉ね、えーと――汝の剣我に捧げよ――これでいいのかな」
地図に書かれていた言葉を唱えると、像の中から黒い粒子がゾゾゾッと溢れだした。
漆黒粒子の中から女剣士が現れる。
「契約は成立した、命令を」
鉄面皮な金髪少女、アイリス・レイバルド(
jb1510)だ。
黒い粒子は彼女のアウルを変換したもの、像から出てきたのは透過能力だった。
伝説のハンター三人がすべて揃った。
ポセイドンの秘宝を巡る、海賊との戦いが始まる
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封印解除の報告を受けた遥は再びステージにあがり、マイクに向かってアナウンスする。
「みんなの力で、今伝説のハンターたちが蘇りました! ありがとう! でも彼らは封印された時に力を失っています! 皆に配ったハンターカードにより、秘められた力を使う事が出来るようになるんです!」
海賊船の前。
眠は、ジェラルド率いる、悪そうな奴ら軍団と対峙していた。
「伝説の海賊ハンター? ああ、骨董品か……」
長い髪を掻き上げつつ、眠を見下すジェラルド。
「てめぇら、かまわねぇ、囲んじまえ」
手下の悪そうな奴らが眠に一斉に襲い掛かる。
そいつらを模造刀でバサバサとなぎ倒していく眠。
「……こいつらじゃ相手にならなかったか☆ だがただで済むと思うなよ?」
ジェラルドが髪を掻きあげたとたん、海賊船から爆音!
備え付けられた花火が、大砲として火を吹く!
眠が、それを合図によろける。
「しまった、あんなところに!」
「ハハハッ、レフ夫海賊団の参謀であるボクを舐めるなよ☆ まずは一匹仕留めた!」
勝利宣言をして、ジェラルドは船に戻っていった。
倒れた眠は苦しげな声を造りつつ、子供たちに懇願する。
「マスターたち、今こそ合言葉を――私に再び力を与えて下さい」
子供たちが祈りを捧げると眠は復活し、再び立ち上がった。
「ありがとうマスターたち! さあ秘宝を悪用される前に海賊船に乗り込みましょう!」
一方、子供たちを連れて海岸に出た咲魔の前には、逢見が立ちはだかっていた。
こちらもジェラルドが連れてきた悪そうな奴ら軍団を連れている。
「へへへっ、伝説のハンターと聞いてどんなもんかと思ってみれば、ただの弱そうな眼鏡じゃねえか、こいつはラッキーだぜぇ」
逢見、カマセ台詞と共に、ナイフをペロリと舐める
これぞ、三下敵役の真骨頂である。
咲魔は侮辱の台詞にも全く動じず、子供たちに告げた。
「これから私の呪文で連中を縛り上げるが、私一人での詠唱では力が足りない。協力してくれるね?」
咲魔に教わった言葉を唱え始める子供たち。
「母なる大地よ」
「父なる風よ」
「我らは芽吹き、我らは苗木」
「今ここに誓いを以て」
「悪逆の波を打ち払わん」
すると、逢見の体に食虫植物が絡みついた。
「な、なんだありゃ!?」
その光景に怯えるちょい悪ども。
「次は、お前らの番だ」
咲魔が眼鏡をギラリと光らせると、ちょい悪どもは怯えあがって逃げ出した。
「今だ、ポセイドンの武具で奴らを倒すんだ」
武闘派組の子供たちがエアーソフト剣を持って突撃する。
いかにこわもてのお兄さんたち相手でも、怯えて背中を見せた状態なら怖くない!
「やったあ、やっつけたぞ」
「ちっ、こんなはずじゃなかったんだけどな」
他の海賊たちと同じく動けない逢見。
だが、彼は撃退士。
「聖火!」
喜んでいる子供たちの隙を見てスキルで蔦を焼き切ると、一目散に走り出した。
逃げた先は海賊船。
「やはりあそこが決戦場になるか」
アイリスの前に立ちはだかったのは、海賊船長のレフ夫!
同じく、悪そうな奴らを連れている。
「ワハハハハッ、お前が伝説のハンターか、蘇ったとたんにまた殺されるとは、運がない」
レフ夫が腰に手を当てて高笑いしている間、アイリスは子供たちに話しかけている。
「私の力は永い時の中でその力を失いました、真の力を解き放つにはマスターの協力が不可欠です」
そう言いながら、子供たちに渡したのは一枚のカードだった。
「詠唱を、マスター達の声が私の力を呼び戻します」
「これを読めばいいの?」
カードの文字を、声を合せて読む子供たち、
「右手に剣を 左手に剣を 振るいし剣は無尽の翼」
するとアイリスの放つ黒い粒子が十本の手を持つ人形となり、それぞれに剣を持って海賊たちに切りかかった。
「なにぃ? いや、こんなものは幻だ! 野郎どもやっちまえ!」
手下たちに粒子人形に迎え撃たせるレフ夫。
「うわ〜!」
だが、幻などではなく、手下たちは粒子人形にバサバサと切り伏せられていく。
エアーソフト剣だから切った芝居だが。
「なんと使えない奴らめ!」
「今こそ諸悪の根源であるレフ夫を倒しましょう」
アイリスは、自身が剣を抜きレフ夫と直接対決した。
だが――。
「ぐっ……」
素早く背後に回り込まれると剣でうなじを叩かれ、うずくまる。
「忘れちゃいないかい? 俺様たちはもう秘宝を持っているんだぜ! 秘宝で増強された身体能力は、無敵だ!」
立ちあがれないアイリスに剣を突きつけるレフ夫。
「とどめだ!」
そこに、咲魔と、子供たちの祈りで復活した眠が駆け込んできた。
「見付けたぞ!」
「ちっ、邪魔が入ったか、あばよ」
レフ夫も海賊船に駆け込んでいく。
「大丈夫ですか?」
咲魔がアイリスの顔を覗き込む
「なんとか……だが、奴らから秘宝を奪わねば勝ち目はないようです、協力して下さい、マスターたち!」
アイリスの呼びかけに、歓声と拳をあげる子供たち。
いよいよ海賊船に乗り込み、最終決戦!
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甲板にあがった伝説ハンターと子供たちを、海賊たちが待ち構えていた。
「宝物庫に秘宝が隠してあるこの船の中では、より我々の力が高まるぞ! 秘宝を奪われない限り、お前たちに勝ち目はないのだ! ワハハハハッ!」
親切な弱点解説をするレフ夫。
海岸のステージからは、マイクで遥がアナウンスする。
「さあ皆さん! 伝説のハンターが海賊を足止めしている間に、船の中から秘宝を探し出して下さい! 皆さんが手に取れば、秘宝の力は封印されます!」
子供たちが秘宝探しに、船内各所へ散った。
この隙に伝説ハンターたちは海賊たちとの戦闘ショーを繰り広げる。
逢見の相手は眠。
「マスター、咆哮のカードを使って下さい、相手を足止めします」
「こけおどしだろ、通用しないよ!」
ジェラルドの相手は咲魔。
「イケメンめ! 男までかどかわして!」
「誤解を招くような言い方はやめてもらいたいね☆」
レフ夫の相手はアイリス。
「スキルカード発動! 星屑の剣!」
「ワハハッ! そんなヘナチョコ攻撃、秘宝で強化した肉体の前には通用せんわ!」
伝説のハンターといえども、秘宝を手にした海賊相手は劣る。
三人ともが圧倒されつつあった。
「早く秘宝を探して下さい! 力を合せないと海賊には勝てませんよ!」
ステージからマイクで煽る遥。
ハンター側が苦戦する中、ついに一人の子供が船倉に隠されていた宝箱を見つけた。
「あ! 帽子の男の子が秘宝を見つけましたね! これで海賊は秘宝の力が使えなくなりました!」
とたん、今まで俊敏に動いていたレフ夫たちが、甲板に膝をつく。
「くっ、力が……」
「ふふふ、今や秘法は此方の手にあり、泣きたいのであれば、足掻いてもいいが?」
強気に言う咲魔。
だが、ジェラルドや逢見の目も、まだ死んではいない。
「そうは言っても、キミ達も限界だろ☆」
「まだ負けちゃいないぜ」
今までの戦いで伝説ハンターたちも満身創痍だった。
海賊は不利だが、伝説ハンターはもっと不利な状況。
だがこの時、眠が声をあける。
「今ですマスターたち、ポセイドンの武具で海賊たちにトドメを!」
武闘派コースのお子様たちが、海賊たちに一斉に襲い掛かる。
エアーソフト剣で、四方八方から切りつけた!
「ばかな……グワー!」
「くっ、子供だからと舐めすぎたか」
「秘宝はまた船長たちと取りに来るぞー」
断末魔と共に海にボッチャンし、仕掛けて置いた花火で爆発の演出をする三海賊。
こうしてポセイドンの秘宝は、海賊の魔手から無事に守られたのだった。
「役目は済んだし、長い二度寝に入るとするか」
「さよならです、マスター……貴方の力、貴方の大切な人の為に使って下さいね」
「秘宝はマスターたちが一つずつ持ち帰って、世の中のために役立てて下さい」
お別れの挨拶をして、伝説のハンターたちはそれぞれ陸へ、空へ、海へと姿を消した。
残された子供たちが開けた海賊の秘宝の宝箱。
中には、大航海時代風の装飾のなされたボールペンの束が入っていた。
そして宝箱の裏には、こんな文字が刻まれていたのである。
これは希望のペン。
このペンで、紙にキミ達が将来なりたいものを書き、それに向け諦めずに正しい努力を続ければ、必ずなれるという魔法のペンだ。
世の中とキミたちの未来のために、役立てて欲しい。
伝説の海賊ハンターたちより