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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/29


みんなの思い出



オープニング


 ここは、久遠ヶ原にある某斡旋所。
 ある日の午後、玄関にリーゼントヘアの中年男が飛び込んできた。
「大変だー!」
 斡旋所の独身アラサー女子職員・四ノ宮 椿は玄関に出た。
「あら、マスターお久しぶり」
「知り合いですか、椿さん?」
 椿の後輩の職員・堺 臣人も様子を見に来た。
「島内にあるゲーセンのマスターさんなの、昔は毎日、通ったものだわ」
 マスターは、かなり慌てていた。
「椿ちゃん、ゲームの腕はまだ確かかね?」
「ゲーム? 毎日やってはいるけど」
「やってますね、業務中、机の下に隠してこそこそと」
 上司の目を盗みながら携帯ゲームをするのが、二十九歳独身女性の日常だった。
「よかった! すぐに来てくれ!」
「え?」
「ウチのゲーセンが、ゲーム戦技団に乗っ取られちまったんだ!」


 マスターが経営する『ゲームセンター・烈』に着いた。
「ここですか」
「懐かしいのだわー、昔はここで女王と呼ばれていたのだわ」
「レトロゲームばかりですね」
 ゲーセン内には、何十年も前の筐体が多く置かれていた。
「昔のゲームは制約が多いゆえにゲーム性に特化していたから面白いのだわ、今のゲームはグラフィックの美しさにばかり力を注いでいるから、ゲームとしてダメなものも多いのだわ」
「椿さん、そういう事大声で言うと、老害扱いされますよ」
 マスターが一つの筐体を指差した。
 縦スクロールシューティングゲームの筐体前だけに、人だかりが出来ている。
 その中心でレバーを握っているのは、炎のように逆立った黒髪を持つ、小学校高学年くらいの少年だった。
「あいつだ! あいつがゲーム戦技団のリーダーだ!」
「うおぉぉ! ファイアタイフーン! 百万連撃ちぃぃぃ!」
 少年は凄まじい速度で、ボタンを連打している。
 やがてその掌が、発火現象を起した!
「手が燃えているのだわよ!」
「通称・熱血! ゲーム戦技団のリーダー! 奴の連打は一秒間に百万回! 摩擦熱で炎を起こす!」
「百万連打?! 昔のゲーム名人でさえ十六連打が限度だったのに!?」
 堺は一瞬驚いたが、すぐに冷静になり、ツッコミモードに戻った。
「本当に百万連打しても、古いCPUじゃ対応出来ないんじゃないんですか? 意味ないでしょ、あれ」
「いや、有効だ。 摩擦熱で掌から吹き出す炎が、熱に弱いコンピュータの処理速度を落とし、結果的に敵キャラの動きを遅くしている! そのおかげで、どんな弾幕でも熱血はかわせるのだ!」
「ただのスロー再生プレイじゃないですか」
「凄まじいエネルギーを使った、迷惑行為なのだわ」
 ゲームのクリア画面を出した熱血は、親指を突きだし、熱い笑顔を浮かべた。
「どんなゲームでも、俺の魂の炎で燃やしてやるぜ!」


 ギャラリーの輪が移動した。
 続いては、クイズゲームの筐体の前だ。
 ゲームをしているのは、眼鏡をかけた知的そうな少年だった。
「通称・天才! ゲーム戦技団の頭脳! 奴は体内電気から発生した電撃を利用し、どんなクイズゲームでも正解率百パーセントでクリアをする!」
 マスターが解説したとたん、天才は両腕をクロスさせた。
「荷電粒子プラス! 荷電粒子マイナス! 発電! インテリジェンスサンダー!」
 凄まじいスパークがゲーム筐体を包み込んだ。
 ゲーム画面には物理学系のクイズ問題が表示されていたが、天才は答えようとしない。
 落ち着いた様子で懐から携帯電話を取り出し、ダイヤルし始めた。
「ずいぶん、余裕なのだわ」
「クイズゲームだと、制限時間がありますよね。 タイムオーバーになっちゃいますよ?」
「制限時間メーターを見たまえ」
 ゲーム画面下に表示されているメーターには∞のマークが表示されていた。
「残り時間、無限ですって!?」
「起こした電流で、プログラムにバグを起こしたんだ! 奴は獲得した無限の時間の中で、世界中の学者たちに正解を聞く事が出来る!」
 天才は、のん気に国際通話していた。
「もしもし、ロム博士? 僕だよ、天才だよ。 博士は物理学とか詳しいよね? ちょっと教えてくんない?」
「ロム博士って、物理学で画期的発見をした、あの?」
「天才のアドレス帳には、世界の権威たる、あらゆる学者のアドレスが登録されているのだ! だから、どんなクイズ問題でも、専門分野の最高峰に答えを聞く事が出来る! 天才に誤答はない!」
「どこも天才じゃない気がするのだわ」
「人頼みじゃないですか」
 ゲームをクリアした天才は、キラッと眼鏡を光らせた。
「正解、それは、僕の頭脳が決める!」


 ギャラリーの輪が、また移動した。
 今度はメダルゲームのコーナーだ。
 十台並んだスロットマシンの中央に、西洋貴族風の風貌をした金髪の少年が優雅な物腰で立っていた。
「通称・金持ち! ゲーム戦技団の財布! 奴がメダルを握れば、どんなマシンも五分以内にフィーバーを起こす!」
「ゲーム戦技団の財布って、痛々しいフレーズですね」
「たかられているのだわ」
 金持ちは左右の指の股、全てに金色のメダルを挟み、バレエを思わせるしなやかな動作で、それをスロットマシンに投入した。
「魅るがいい! セレブリティ・イリュージョン!」
 とたん、金持ちの体が十体に増えた!」
「分身したのだわ!」
 分身を含めた十体の金持ちは、スロットマシンに次々とメダルを投入し、ドラムを回転させてゆく。
 圧倒的な資金力と投入速度!
 すぐに一台のスロットマシンがスリーセブンでフィーバーを起し、大量のメダルを吐き出した。
「フッ、他愛もない、麻呂を満足させてくれるマシンはこの世にないのか」
 黄金の巻き毛をかきあげる金持ち。
 その前に、一人の大男が立ち塞がった。
「俺が、貴様を負かしてやる!」
 鍛え上げられた肉体。 かなりの猛者のようだ。
 金持ちは前髪をかきあげつつ、男に嘲笑を向けた。
「麻呂と勝負? いいけど、キミの資金は恒例のお小遣い三千円、麻呂の資金は無制限だよ? そのルールで勝てるのかな?」
「なんだそりゃ!? そんな不公平ルール認められるわけないだろ!?」
 ギャンブルの強さは資金力で決まる。 古来よりの定説である。
「それが認められるのさ! なぜなら麻呂は! 金持ちだからね!」
 突如、煌びやかな武装をした九名の親衛隊が、金持ちの護衛に現れた。
「うう、金持ちには勝てない」
 親衛隊に威圧され、男はすごすごと引き下がっていった。
 金持ちは、全身につけた宝飾品を煌めかせ、勝ち誇った。
「金は全てを支配する! 麻呂に支配出来ぬものなど、なぁい!」


「他の客は全員、彼らのプレイに見とれてゲームをしてくれなくなってしまったのだ! 彼らを倒して、このゲーセンから追い出してくれ、かつてのゲーム女王・椿!」
 悲痛なマスターの表情。
 だが、椿は静かに首を横に振った。
「無理なのだわ、今もゲームは続けているけど、私は撃退士を引退した身。 アウルを使ったゲーム戦技は、もう封印したのだわ」
「アウルを使ったゲーム戦技!?」
「気が付かなかった? ゲーム戦技団の使っていた技は、アウルの技をゲーム用に改良したものなのだわ」
「言われてみればそうですね、火とか、雷とか」
「今の私はもう、彼らには勝てない、けど、斡旋所で才能のある子を募る事は出来る! その子たちの持つスキルを、ゲーム戦技団に勝ちうるものに昇華させてみせるのだわ!」
 新世代のゲームファイター・撃退士たちの戦いが始まろうとしていた。


リプレイ本文


 第一試合・メダルスロットが始まる直前。
 金持ちは、親衛隊に運ばせてきた宝箱を開けた。
 中にはゲーム用のゴールドメダルが、ぎっしり詰まっている。
「羨ましいかい? 一枚恵んであげようか?」
 紫髪に黒のジャケットの少年・死屍類チヒロ(jb9462)。
 対戦相手の足元に、金持ちはメダルを投げて寄こした。
「カネゴン! 貴様の横暴もここまでだ!」
 メダルを投げ返し、熱く叫ぶチヒロ。
「カ、カネゴンだと? 麻呂を侮辱するのか!」
 額にメダルを当てられ、いきりたつ金持ち。
 その彼に、雁久良 霧依(jb0827)が抱きついた。
「まあ、お金持ちなのね、霧依お金持ちだぁい好き♪」
 胸を押し付け媚びる霧依。
「は、離せ! 麻呂は下々の女に興味など……」
 言いつつも、鼻の下を伸ばしている金持ち。
 なにせ霧依は、白衣にマイクロビキニという煽情的過ぎる姿をしている。
 金持ちの顔が蕩けている間に、霧依はパラパラと何かの粉をばらまいた。

「ゲーム戦技! 分身の術!」
「セレブレティ・イリュージョン!」
 メダルスロット勝負開始と同時に、チヒロと金持ちは技を放った。
 二人の肉体が増えてゆく。
 黒髪ボブカットの関西少女・黒神 未来(jb9907)が拳を握りしめた。
「ウチとの特訓の成果や! 金持ちと同じ、十体分身に成功したんや!」
 赤い髪の少年天使・秋雲照(jb9844)も熱い勝負の予感に声を震わせる・
「手に持ったメダルも増えている。 あれで金持ちとの財力差も少しは埋まったぜ!」
 一見、互角に見える二人だったが、チヒロの顔は苦しげだった。
「辛そうだねえ、その技は体に無理があるんじゃないのかな?」
 金持ちの指摘はチヒロの図星を突いていた。
 十体分身の負担に耐えられる、チヒロの限界はわずか十分。 
 金持ちがなぜ無限に、分身を出現させられ続けるのか?
 チヒロは、謎を解く事が出来なかった。
 謎の鍵を見つけたという霧依に全てを託すため、無理な技を使っているのである。
 だが、その霧依の姿はこの場になかった。
「くっ 体が痛む! けど皆の為、何より、自分の意地のため絶対にお前を倒す! 早く戻ってきてくれ、霧依さん!」

 チヒロの叫びは、霧依に届かなかった。
 謎を解く鍵を取りに店前の駐車場に戻っていた霧依は、通りかかった警官に職質を受けていた。
「チミ! チミは何だね? 痴女かね?」
 白衣にマイクロビキニでは、見過されるわけがなかった。

 
 開始後十五分を過ぎた頃。
「奥の手しかない」
 チヒロは分身の苦痛を堪えつつ、口元を小さく動かし、囁き始めた。
 意味のある言葉ではない。 だが、その囁きは敵の鼓膜を震わす時、とてつもなく不快な言葉となって響くのである。
 金持ちにとって、不快な言葉とは、
「熱血! お前、麻呂の事を財布としか思っていなかったのか!」
 一体の金持ちがスロットの手を止め、熱血に駆け寄った。
「なに言ってんだ? そんな事、思っちゃいないぜ?」
 目をパチクリさせる熱血。
 金持ちの怒りは止まらない。
「今、麻呂の耳元でそう言ったじゃないか!」
 チヒロが、傷口を広げにかかった。
「カネゴン! お前、財布なんだってな! マジで笑える奴だな! ワハハハ!」
 笑ったのは精一杯の強がりだった。
 肉体的負担は、とうに限度を超えている。 
「すまん、みんな、ここまでだ」 
 チヒロが倒れかけたその時、入り口の自動ドアが開いた。
 警官を撒いて、用意しておいた物を車から取ってきたらしい。
「待たせたわね、チヒロくん! これで金持ちの謎は解けるわ!」
 霧依は、両手に抱えたゲージを解放した。
 そこから数匹の猫が飛び出してくる。
 猫は皆、熱血と言い争っている金持ちに取りつき、甘えた声で身を摺り寄せた。
「なんだ、この猫たちは!?」
「やはりそうだったわね、金メダルマン! さっき抱きついた時、またたびをかけておいたのよ!」
「なに!?」
「分身すればメダルも増える以上、またたびだって増えるはず! なのに猫は一体にしか反応をしていない! つまり、残りの九体は貴方の分身ではないのよ!」
「なんだって!?」
「貴方は九人の親衛隊をいつも連れていると聞いたわ、本人と合せれば十体! それが十体分身の謎ね!」
「インチキ! よくわからないけど、インチキ!」
 青髪の元気少女・雪室 チルル(ja0220)が怒った。
「他人にプレイさせたなら反則負けってとこかな」
 銜え煙草の男・坂本 桂馬(jb6907)が面倒げに頭をかく。
「違う! こいつらは麻呂にとっては道具だ! 人じゃないから反則にはならない!」
 金持ちが顔を真っ赤にして叫んだ。
 すると分身――金持ちに扮した護衛たちが哀しげな顔をした。
「お坊ちゃま、私たちの事をそんな風に思われていたのですね」
「幼い頃から心を尽くしてお仕えしていたのに、残念です」
 ますます慌てる金持ち。
「い、いや、今のは売り言葉に買い言葉で……」
「しかし、さっきも我々の耳元で、同じ囁きをされていました!」
 チヒロの悪魔の囁きが意外な所で、功を奏したようである。 
 金持ちは、親衛隊と揉め始め、ゲームどころではなくなった。
「チヒロくん! こうなった以上、私たちがライバル同士よ!」
「負けませんよ!」
 戦技団を破ってもゲームはまだ終わらない。
 仲間同士、全力をかけてぶつかり合う。
 それがゲームの醍醐味である。
 チヒロは消耗こそしているが、これまでの二十分余りでメダルを数千枚に増やしている。
 一方、霧依は当初のメダル三十枚のみ。
 残り時間十分を切っている。
 だが、霧依の顔に諦めはなかった。
 スロット台の前に立ち、
「これが、私の技の極意よ」
 ビキニブラを外した!
 三十年近くに渡って、世に封印されていた伝説のゲーム戦技。
 それが今再び、解き放たれる!
「ノーブラ・ボイン目押し!」
 それは、たわわに揺れる胸で目押しをする神技。
 指で押した方が正確な気もするが、スロット台にだって愛はある!
 三十年近く前、原型となる技を使用したのは、ふとましいおかんだった。
 当時の少年たちのトラウマは、今でも深刻なものとして残っている。
 だが、超絶変態セクシーお姉さん・霧依がそれを受け継いだ今、効力は逆の方向に出ていた。
「姉ちゃんいいぞ、もっとやれー」
「なんだ、この邪魔な光は? 肝心な所が見えねえぞ! 規制外せー!」
 大人の劇場のおひねりよろしく、観客たちが霧依にメダルを投げて寄こした。
 このメダルも、勝負結果にカウントされる。
 チヒロも健闘したが多勢に無勢、メダルゲーム勝負は霧依の勝利に終わった。


 第二試合、クイズゲームが始まってほどなく、天才の手の中でスマホが砕け散った。
「なに!?」
 右隣に座った未来が、左目の魔眼から放たれた見えない弾丸を放ったのだ。
「うちの名前は『呪われし魔眼(クリーピング・アイ)』、うちの左隣に座った時点でアンタの負けや」
 言ってから、未来は恥ずかしそうな顔をした。
「未来ちゃん! 恥ずかしがったら負けよ!」
 霧依の言葉に、今は説得力がありすぎた。
「あらかじめ言っておくけど、ごめんなさいするなら今のうちよ?」
 天才の右隣に座るチルルが、ドヤ顔で勝利宣言する。
 だが、天才は肩を揺らして笑った。
「くくくっ、キミら偏差値はいくつだい?」
「う、うちはスポーツ推薦やから」
 震え声の未来。
「へんさちってなんだっけ?」
 チルルは、理解していなかった。
「教えてあげよう! 僕の偏差値は百万だ!」
「な、なにぃ!?」
 ゲーセン全体がざわめいた。
 日本の最高学府だって、偏差値七十台なのである。
「学者たちに電話をかけていたのはただの裏付け取り! 僕の頭脳には各分野の最高峰の学者たちに匹敵する知識が蓄えられている!」
 その言葉通り、天才は必殺技すら使わず、出題されたクイズを一瞬で正解してゆく。
「見たか、偏差値百万の威力を!」
 撃退士たちは追い詰められていった。
「チルル、あんたこのゲームの事調べておいたんやろ?」
「勉強したよ!」
「自信あるのは、何問くらいや」
「六問は、ばっちりよ!」
 ウインクしてサムズアップするチルル。
 このゲームの収録問題は二十万問。
 チルルは全部を覚えると勇んでいたのだが、そんな事出来たらチルルじゃない。
「もうええわ! 力押しでいけ!」
「らじゃ!」
 チルルはゲーム戦技・氷静『アイスストッパー』を繰り出した。
 絶対零度。 全ての物質の動きが停まった状態。 
 チルルは翔閃をアレンジしたこの技により、瞬間的に絶対零度を生みだし、相手の動きを完全に止めた。
 一方、ゲーム機の方は停止しないので、技が解けた時、相手はあたかも時間が停まったような錯覚を覚えるのである。
「なんだ? いつのまにか、青髪のスコアが減っているぞ!?」
 チルルが覚えているのは二十万問中六問である。
 相手の回答権を封じたからって、自分が正解出来るとは限らない。
「うちがやるしかない!」
 未来の左目が金色に輝く!
 ゲーム戦技・未来眼。
 画面に表示される前に、次の問題と正解を予見する技。
 これならば、天才よりも速く正解が出せる。
 コンピューターのアルゴリズムは自然現象より予想が容易いので、負担も少ない。
 だが、それでも三十回で、未来に限界がきた。
 八十問終了時点でのスコアは、天才490点 未来300点 チルル-10点。
 最速正解なら 10点なのだが。
「残り二十問、未来さんが全問最速正解しなければ勝てない」
 チヒロが目を伏せた。
  未来の技が尽きた今、それは不可能に等しい。 
 照が、ある事を思い出した。
「チルル、あの技は! 桂馬さんと特訓していたあの技は完成したのか!?」
「あの技はダメよ、弱点がある」
 躊躇しているチルルに、桂馬が頷いた。
「やれ、やっちまえ」
「らじゃ!」
 ゲーム戦技・氷砲『エレキブレイカー』
 一部の金属は非常に低い温度へ冷却した際に、超電導により電気抵抗は0となる。
 封砲をアレンジした冷気を天才の筐体に撃ち込むことで、チルルは内部の電気エネルギーを暴走させた。
「ばかな! 僕が! 天才が誤答だと!」
 天才の筐体は選択肢Aのボタンのみを連打している状態になったのだ。
 誤答のたびに-10点。
 残り十九問、全ての問題を天才が誤答すれば、未来が優勝となる。
「これめっちゃすごいやん! なんで最初から使わなかったん!?」
「25ぱーの確率で最速正解されちゃうのが、この技の弱点だって桂馬が言ってたのよ! 25ぱーは決して低くないって!」
「桂馬さん、余計な事言わんといて!」
 そう、これは四択クイズなのだ。
 確率的には、十九問あれば五問程度は正解が選択肢Aの問題が来る事になる。
 もっと早く使わなければ、勝ちに繋がらない技なのである。
 だが……
「インテリジェンス・サンダー・オメガ!」
 天才は、全力の雷を自らの筐体に打ち込んだ。
「天才に誤答はない! 誤答した以上、これは天才のゲームじゃない!」
 天才は筐体を破壊し、ゲームセンターを後にした。


 最終試合・シューティングゲームの開始後すぐ、熱血の右掌が灼熱化し始めた!
「うおぉぉ! ファイアタイフーン! 百万連撃ちぃぃぃ!」 
 一秒間に百万回! 常軌を逸した連打による摩擦熱発火!
 その夥しい熱量は、時の進みすら狂わせた。
 熱血は半ば停まった時の中で、余裕たっぷりに敵弾を避け、敵機を撃墜していった。
「そんなトロトロプレイじゃギャラリーが退屈しちまうぜ! さあ、ショータイムだ!」
 照の全身が、光纏の輝きを放ち始めた。
「ゲーム戦技! 超融合・光翼天翔!!」
 それは自分の魂を自機と融合させる荒技。
 キー入力のラグの無い、ダイレクトな機動が可能になる!
「バカな! 魂と自機の融合だと!」
「朝から練習していてわかったんだ! 地味だがシューティングゲームはプレイ経験が大事ってな、だが、この方法なら撃退士としての経験が活かせる! 今日が初プレイの俺だって、お前に勝てる!」
 スキル『光の翼』『翼の種族』を使用した照の自機は、回避力、攻撃能力を拡大させていた。
「やるな! ならば! ファイアタイフーンG! 一千万連撃ちぃぃぃ!」
 熱血の掌は、白い熱の嵐を放った。
「やめろ熱血! それ以上連打したら死んでしまうで!」
 未来が制止しても、熱血は連打を止めようとしない。
「照が魂を賭けるなら、俺は命をかける!」
「いけません、このままでは二人とも死ぬか、廃人になってしまいます!」
 チヒロも、事態の重さによろめいた。
 そんな極限の世界を、ヨガダンスをしたり火を吹いたりしながら、うろちょろしているものがいる。
 ターバンに半裸姿の色黒男である。
 桂馬がどっかから連れてきたのだ。
『どーだ、気が散るだろう。 なにせ俺自身、わりと気が散ってるからな。 くくく、大人ってのは小汚い生き物なのだ』
 銜えた煙草の下で、桂馬はほくそ笑んだ。
「照くんか、熱血くん、集中力が先に乱された方が負けるわ」
 霧依の指摘した通り、二人の少年は極限まで精神を酷使している。
「だったら、気張らんでプレイしている桂馬さんが漁夫の利を得るちゅうんか、霧依さん?」
「そうね、ただし……」
 桂馬にも限界が訪れようとしていた。
 このゲームは点数が高くなるほど、敵数や弾幕が多くなる仕様
 いかに撃退士の動体視力でも、いつかは限界が訪れる。
「くっ、ぶつかる! ここでインド人を右に!」
 叫びながら桂馬はターバン男を右回転させた! 光り輝くインド人! 
『インド四千年の神秘で、なんかわかんねーけど弾幕を避けまくれる気がする。 ショットもLV6どころか、バグで弾の代わりにヨガっぽい炎が出たりする気がする。なにせ四千年の神秘だ。そりゃお前……いけるだろ。わかんねーけど』
「いけたかもしれないわ、本当に彼がインド人なら」
 霧依が目を伏せた直後、桂馬のゲーム機が爆発を起こした。
 爆風に倒れる桂馬。
「桂馬さん!」
 駆け寄る未来。
「カレー食っていたから間違いねえと思って連れて来たんだが、違ったようだぜ……」
 笑みを浮かべつつ、桂馬は燃え尽きた。
 一方、少年二人は、極限のプレイを続けていた。
 照が先にクリア画面を出した。
「やったぜ、互いにパーフェクトならばクリアタイムがものを言う!」
 得点は九千万点を越えている。
 「照! お前、パーフェクトだったぜ、だが、俺はパーフェクト以上なんだ!」
 熱血は画面上のピラミッドに、連打を打ち込んだ。
 そこに、黄金の蜂が出現する。
「隠しキャラさ、昔のゲームには高得点をとれる裏技が隠されていたんだ」 
 隠しキャラの五万点分、熱血が上回った。
 勝負は終わった。
「お前が初プレイじゃなきゃ、俺の負けだった、また勝負してくれ!」
「今度は負けないぜ!」
 二人は、熱い握手をかわした。
 死ぬとか、廃人とか、そもそも何のための勝負だったかとか、熱い勝負が出来ればどうでもいいのだった!


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
 充実した撃退士・秋雲照(jb9844)
重体: −
面白かった!:5人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
群馬の旗を蒼天に掲げ・
雁久良 霧依(jb0827)

卒業 女 アストラルヴァンガード
げきたいし・
坂本 桂馬(jb6907)

大学部7年172組 男 鬼道忍軍
ローカルヒーローを継ぐ者・
死屍類チヒロ(jb9462)

大学部6年264組 男 鬼道忍軍
充実した撃退士・
秋雲照(jb9844)

大学部2年63組 男 ルインズブレイド
とくと御覧よDカップ・
黒神 未来(jb9907)

大学部4年234組 女 ナイトウォーカー