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「夏やな! 夏っちゅーたらそりゃやっぱり海やろ!」
三姉妹の次女、メルを海に釣れ出したのは黒神 未来(
jb9907)。
黒ビキニに包まれたDカップを、ドヤァとばかりに突き出す。
メルの水着は 慎ましやかな性格に反して、下着のガーターを連想させてしまうセクシーなデザイン。
「どや、うちのプレゼントした水着は!?」
こんなものを初対面の少女にプレゼントする女。
一部に痴女扱いされているのも、仕方あるまい。
「恥ずかしいです……」
もじもじするメル。
ちなみに未来が胸を突き出しっぱなしなのは、突き出さないとメルに負けるからだ。
「じゃあ、海に入るで! まずは水の掛け合いや!」
「ちょっ、あかん!」
メルは水かけしても泳いでも、透過で水を無視してしまう。
「そんなん使ったら、海に来た意味がないやろ」
「私が読んだ本では、水着は水に濡れると溶けるそうなので……」
「キミ、読む本が偏りすぎや!」
海辺で漫才を繰り広げていると、いかにもなナンパ男二人組が、話しかけてきた。
「女の子同士で遊びに来たの?」
「俺たちも混ぜてくれない?」
怯えるメル。
にかっと笑う未来
「ええで!」
未来は一人の男の背中に抱きつき、柔らかなDカップを押し付けた。
「ふおお、大胆!」
耳元に甘く囁く。
「ふふっ、うちの遊びはこれや!」
いきなりバックドロップ!
落下地点はもう一人の男の頭!
「うごぉ!」
浅瀬にプカプカ浮かぶ男どもを、未来が睥睨する。
「どや、まとめてノックアウトや!」
そんな未来を、メルが熱っぽい視線で見ている。
「ん? メルくんどないしたん?」
「あ、すみません――今のプロレスですよね? 前に資料としては見たんですが」
「興味あるのか、なら簡単な技を教えたる」
メルの手首を掴み、掌を自分の胸にあてがわせる未来。
「こうして指で強く掴むんや、アイアンクローちゅう技や」
本来は頭にかける技なのに、微妙な嘘をつく未来。
「でも、未来さんの掴み切れないです」
「……まあうちのんは結構自慢やさかいな」
頬を紅潮させる。
「メルくんのはどないなん?」
白い水着の下に揺れる、メルのEカップに掌を這わせる。
「ふぁ……」
二人で熱い息を吐く。
「もっと、もっと練習や……」
浜辺にめくるめく百合百合ワールドが展開されようとしたその時、
「アイアンクローはこうざます!」
メルの姉、リズが登場。
未来の両乳を、超握力で鷲掴んだ。
「痛い! 痛い!」
「妹をおかしな世界に引きずり込もうとする奴は許さないざます!」
元ベテラン撃退士、渾身のアイアンクロー!
「やめて、千切れる!」
未来の乳は数日の間だけ、念願のDカップ超えを果たした。
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今回初依頼の眠(
jc1597)は、レイを山に連れて来ていた。
「ここがオズ?」
「尾瀬です。 魔法使いでもエレガントな特務機関でもありません」
雄大な湿原。
そこに設けられた、木製の遊歩道を二人で歩く。
澄んだ青空に、山の緑が映えている。
水芭蕉が白く花を開き、ニッコウキスゲの山吹色が風に揺れていた。
「綺麗なところだね〜」
「心落ち着く光景です」
遊歩道を歩きながら、レイが何かを見付けた。
「あれ! トンボ?」
水芭蕉の花の上に、神秘的なまでに澄んだ体を持つ黄色い羽虫が止まっていた。
それに手を伸ばすレイ。
それを眠が止めた。
「採らないであげて下さい、尾瀬特有のカゲロウの一種です、成虫になって数日で死んでしまう儚い生き物なんです」
「死んじゃうのか」
レイはカゲロウに触れかけていた指を引っ込めた。
「ばいばい、長生きしてね」
適わぬ願いを託しながら、レイはカゲロウとの一瞬の出会いを終えた。
夜、遊歩道に腰かけて星空を眺める。
「星がいっぱい!」
空気の澄んだ高原からは、多くの星々が陰る事なく輝きを放っている。
「昼も夜も綺麗なんだね」
「時間や季節が変われば景色も変わり、楽しみ方も変わるそうです。 夏の間も、夏が過ぎても楽しいこと、美しいものが、この世界にはたくさんあるんです」
眠の言葉に、レイは感じた。
あのカゲロウは、近く別の美しいものに生まれ変わるのだろうと。
それは残した卵や、転生した命だけではない、レイと眠の心に遺した想い出としてでもある。
だから人が美しいものを見れば見るだけ、この世に美しいものの数は増えていく。
眠と過ごした尾瀬は、幼い心にそんな想いを抱かせてくれた。
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川澄文歌(
jb7507)とメルが訪れた会場の前には 開場前から、人が大海の如く溢れていた。
「これが夏フェスだよ、今や風物詩だよ」
「すごい熱気ですね」
「人混み、苦手かな?」
引っこみ思案のメルが、人酔いするのではないかと案ずる文歌。
「いえ、同人誌即売会で慣れていますから」
「そうだったね」
熱中症対策も教えようと準備を整えていたのだが、メルはメルでそれに慣れていたようだ。
リストバンドを付け、専用Tシャツを着て入場する。
「アニソンフェスだからね、周りの人とも話が合うと思うよ」
メルは時々、話しかけられたり、写真を撮られたりしている。
金髪美少女売り子として、即売会常連層には有名になっているらしい。
「さあ、コンサートが始まるよ!」
ステージにアニソン歌手があがり、会場が湧き立ち始める。
メルと文歌も、熱気に煽られ、声をあげて合いの手を入れた。
翌日。
文歌はアイドル部。の部室にメルを連れてきた。
「今度は、メルちゃんが実際に踊って歌おう♪」
「ええ、私がですか!?」
「ほらレイちゃんも楽しそうに歌ってるでしょ? 一緒に歌えば、楽しいよ」
「……私は向きませんよ」
元々、引っこみ思案なメル。
憧れはしても、自分が華やかな歌い手になるとは想像すらしていないらしい。
「何にでもチャレンジしてみなくちゃ! 全力で打ちこまなければ、向いてないのかどうかすら、わからないよ」
熱意ある文歌の言葉に、熱意に頷くメル。
「わかりました、やってみます」
現役スクドル文歌の指導で、歌とダンスのレッスンが繰り広げられる。
最初は自信なさげだったメルもレッスンを繰り返すうち、表情が活き活きとし始める。
徐々に体が動き、声が出るようになっていた。
文歌はその過程を編集し、PV風に仕上げてメルに見せた。
「わぁ凄い! 私、アイドルみたいです」
「アイドルだよ♪」
「え?」
「これ今、ネットにアップするから♪ メルちゃんはネットアイドルになるんだよ♪」
プロデューサー業にまで乗り出した文歌。
文歌Pのプロジェクトは成功するのか?
そんなにレスポンスが早いわけもないので、答えはそのうち!
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「まゆか、おっぱいすごー!」
露園 繭佳(
jc0602)は海辺の河口付近に来ていた。
紫陽花柄のワンピース水着から覗く胸元は、小学生とは思えない膨らみを帯びている。
「僕のぺたーん……」
スク水のゼッケンが貼りついたレイの胸は、年齢よりもさらに幼い。
シュンとするレイ。
「大丈夫! 子供のうちは胸なんかない方が楽しく海で遊べるんだよ!」
レイの手を引く繭佳。
「私の目の届く場所にいるのだわよー!」
幼女二人の水遊びは危険という事で、椿が保護者役としてついてきた。
無邪気な一日が始まった。
砂の城造り、砂埋め、磯遊び、繭佳はいろいろな遊び方を教えた。
中でもレイがハマったのは、素潜りをしての魚介類採取だった。
レイは透過が使えるのだが、あえて使わない。
水独特の浮遊感覚が楽しいらしい。
海底まで潜って綺麗な貝を拾ったり、海を泳ぐ様々な生き物を観察したりしている。
繭佳も一緒に、海の中を泳ぎ、舞った。
「二人とも可愛い! 妖精みたいなのだわ」
椿が、微笑ましげに見つめていた時だった。
「まゆか! つばき! あれ!」
レイが海中にタコを発見!
全力でそれを追い始めた。
「タコまて〜!」
だが、どうしても捕まらない。
「タコそっちいった〜、椿、捕まえて〜!」
「え?」
タコは二人を見守っている椿の方に逃げてきた、そして――。
「きゃ! なんなのだわ?」
白ビキニに包まれたGカップの谷間に潜り込む。
「やぁ……吸い付かないで〜」
肌に吸いつく強力な吸盤に胸の形を歪ませながら、必死に剥がす椿。
タコを遠くに放り投げる。
放り投げた先にいたのは、
「や〜、タコさん、そんなとこ吸っちゃダメだよ」
繭佳だった。
新鮮かつ、豊満な胸に潜り込むタコ。
「タコさん、ごめん、だよ!」
繭佳はタコを引き剥がし、レイの方に放り投げる。
「レイちゃんと遊んであげて、だよ」
タコを胸に抱こうとするレイ。
「やった、きたー!」
だがタコ、スルー。 レイのナイチチは全力でスルー。
海の彼方へ、逃亡した。
「タコさんには壺みたいな場所に、隠れる習性があるんだよ」
「リズもメルちゃんも大きいんだから、レイちゃんのもそのうち大きくなるのだわ」
「うぅ……やっぱりおっぱい大きい方が海は楽しい」
海の家でタコ入り焼きそばを食べながら、繭佳の胸を羨ましげに眺めるレイだった。
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「ようこそ、第三演劇部へ。 僕の事は部長と呼ぶようにね」
ジャージ姿でメルを出迎えたのは、咲魔 聡一(
jb9491)。
この部活の部長である。
「部長は何をされるんですか?」
「夏といえば部活! 合宿! 恋? 知らんな!」
非リアらしい夏を迎えた咲魔。
美少女と二人きりなのに、頭の中は仕事モードである。
「まずは、発声練習だ!」
基本の発声練習をさせる咲魔。
最初に乗り越えるべき試練である。
「――意外にやるじゃないか」
「文歌さんに、レッスンしていただきましたから」
「次は、こんな生易しいもんじゃないぞ!」
今度は咲魔とメルがジャージを着て、交互にあいうえお歌を唱えながら街中を走るという訓練。
「部長、休憩しますか?」
「ぜぇぜぇ……大丈夫だ(しまった、ネタ依頼ばかり受けていたせいでスタミナが)」
元冥界傭兵のメル、咲魔よりも持久力がある。
(まずい、このままでは部長としての威厳が)
予定よりも早く立稽古に突入。
咲魔が用意したのは“らすおん!”という脚本。
咲魔演じる軽音部部長の男子高生・長瀬の卒業式、メル演じる後輩の女子高生、広川との最後の部活。
要は、ラブストーリーだ。
「客席に背中を見せすぎてる。もっと自分の演技を見せつけろ!」
ようやく、威厳を取り戻す咲魔。
「それ以上前に立つんじゃない。本番は学生服だ!」
「学生服だと、何かあるんですか?」
「スカートの中が客席最前列から見えるんだ」
「あ」
赤くなり、まだ舞台に立ってもいないのに、スカートを抑えるメル。
しばらく戸惑った後、恐る恐る尋ねてくる。
「部長、脚本ちょっとだけ変えませんか?」
レッスン最終日、第三演劇部に咲魔は依頼仲間を集めた。
小規模ながらも、メルを女優デビューさせるのである。
舞台袖で緊張しているメルを励ます咲魔。
「大丈夫、君は頑張った。あとは体が自然に動くさ」
幕があがる。
真面目な性格のメル、咲魔の指導で演技の基礎はしっかり掴んでいた。
しかも純粋なだけになりきりが出来る。
予告通り自然に体が動いていた。
ただ、内容は、
「部長、俺、部長なしの演奏なんか出来ません」
「広瀬くん、僕の第二ボタンをキミの学ランにこうして――これで僕たちは、いつでも一緒だ」
“スカートの中を見せないため”と言う名目の元、メルがヒロインを無理やり少年に改竄したBL物語だった。
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島内の某夏祭り会場。
「レイさん、浴衣似合いますね〜」
エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)は、金魚模様の浴衣を着たレイを褒め称えた。
「うん、リズ姉に買ってもらった」
くるんと、廻ってみせるレイ。
だがしばし後、眉を潜める。
「ひょーかはイマイチっぽい」
「なぜですか? 可愛いですよ」
「ちゅーもくどが足りない。 浴衣だとパンツ見えないから」
メルについて同人誌即売会に出て、客寄せにコスプレをする事の多いレイ。
ロリオタ客がパンツを見たがるので、内容が日々過激になっている。
羞恥心が全くないので、ロリオタの需要にまんま応えちゃっているのである。
「パンツは見せるものではなく、隠すものです!」
買ったばかりの浴衣の前を破こうとしているレイを止める。
「エイルズのも、じゅよーある」
話を聞いていないレイ。
エイルズの浴衣の前も、破ろうとする。
「そんな歪んだ需要には、応えたくありません!」
一方、礼野 真夢紀(
jb1438)も、メルを連れて同じ夏祭りに来ていた。
「メルさんって、貴方ですか!」
初対面のはずのメル。
だが真夢紀には見覚えがある。
実は真夢紀も同じ趣味。 同人誌の世界に、足を突っ込んでいるのだ。
「真夢紀さんは何を書かれるんですか?」
「文字中心です、おやさいくだもの、ノーマル、なんでも手を出しますよ」
ネタ帳の黒歴史ノートを見せる真夢紀。
「素敵ですね、どこかリアリティを感じます」
真夢紀、褒められて少しいい気分。
「自分の体験が多いほどリアリティが増すのです。 原稿には自分の体験も必要です、現代学園ものとか、幼馴染系とか、社会人物なら学校の先生とか……体験が無いと難しいジャンル多いんですよ」
「実体験ですか……私の実体験は戦場ばかりで」
寂しそうなメルの横顔。
それを見た真夢紀は、一冊の本を取り出した。
「夏の祭典ではこんなのも売ってるんですよ」
それは浴衣の着付け方や創作帯の結び方や浴衣に合う髪の纏め方が漫画で書かれた同人誌だった。
学園のロッカールームでそれを試す。
「う〜ん、おかしいですね、着付けの得意な長姉に昨日みっちり教わったのですが」
メルに浴衣を着せようとする真夢紀。
次姉を実験台に試した時は出来たものが、メル相手ではどうも上手くいかない。
「私に問題があるのでしょうか?」
「わかりました、スタイルが良すぎるんです! 次姉は洗濯板ですから」
怒られそうな事を言いながら、真夢紀はメルの胸の辺りにタオルを仕込んだ。
エイルズとレイは人の波に圧されて苦労していた。
「いてて、鼻ぶつけた」
「だから言ったじゃないですか、この島には阻霊符を常備している人もいるんですよ」
人混みに辟易したレイ。
いつも即売会会場でやっているように、透過で人混みをすりぬけようとしたのだ。
「ほら、僕と手を繋いで」
「うん」
レイがエイルズの手をとる。
無人島でレイと出会った時、こんな風にして久遠ヶ原島行きの船に乗せた事を思い出す。
「あ、なんか光った!」
夜空を見上げるレイ。
「変わった星!」
「花火ですよ、日本の夏の風物詩です」
手をつないだまま、花火を見上げる二人。
「流星が登るなんて!?」
「花火ですよ、綺麗でしょう」
同じような会話を耳にし、エイルズがふと隣りを見る。
浴衣姿に彩られた真夢紀とメルがいた。
「夏って素敵ですね、レイ」
「うん、こっちへきてよかった」
仲睦まじく会話する姉妹。
撃退士たちは、打ち上げられた花火を任務成功の合図とするのだった。