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マスター:スタジオI
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:10人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/06/29


みんなの思い出



オープニング

●メインメニュー
 久遠ヶ原の某斡旋所。
 独身アラサー女子所員・四ノ宮椿(jz0294)が非番の日に、その人物は来た。
「あれ、デイジーさんどうしたんですか?」
 デイジー・バッソ、久遠ヶ原キューピットクラブの椿担当である。
 いわゆる結婚相談所の社員だ。
 タイトなミニスカートの似合う、金髪ポニテ眼鏡っ娘である。
「今日は椿さん、自宅にいますよ?」
「知ってるデース! 今、私が考えた新しい企画に関する資料を届けに伺ったところデース。 今日は堺さんにもそれを見てもらいタガリーノなのデス!」
 変な言葉づかいだが、どうやらイタリア人キャラを強調したいらしい。
「僕に?」
 堺にリーフレットを見せるデイジー。
【新企画 きぐるみ恋活パーティ】とタイトルがある。
 きぐるみを着た人々が、合コンをしている変な写真が表紙になっていた。
「“照れ屋のアナタも素直にトーク! きぐるみキャラなら恋活出来る” なんですかこれ?」
「ワタシ、日本に来て思ったデスがこの国の人は、恋愛に関して本音を隠シタガリーノなのデス! 本当に相手に求めているものとか、自分のアピールポイントとか言いたがらネーノデス」
「謙虚の文化ですからね、あけすけに“年収●●以上の相手じゃないとNG”とか言っちゃう人もいますが、大抵は叩かれたあげく誰にも相手にされないというオチが待っています」
「椿さんの事デスネー!」
「はは、まあ」
 堺も、内心それは勿体ないと思っている。
 顔は可愛いし、アホな部分に目を瞑れば性格だって悪くない、何よりあのGカップの破壊力なら余計な事を言わなければ、とうに結婚出来ているだろうに、と思うのだ。
「でも言わないとダメだと思うデース! 理想の相手のご紹介出来ないデース! 日本、離婚率高い。 本当に求めている相手について言わないで恋をするからデース、本当の自分を見せないからデース!」
「だから、きぐるみで本音を言おうって事ですか?」
「そうデース! 自分が相手に求めるものや、自分の恋人としてのアピールポイントを思いきって話すデース! 大胆な事を言っても誰が言ったかわからないから、後で恥をかく事はないし、何よりルックス、性別、年齢に囚われず中身で恋の勝負出来るデース!」
「ルックスはともかく、性別、年齢って?」
「当社新開発のきぐるみなら、声も体格もシークレットデース! 性別や年齢なんて雑多な要素を排除して、魂の求める相手に出会えるのデース!」
「雑多ですか、それ!?」
 久遠ヶ原なら、性別すら雑多かもしれない。
「椿さんも参加するデース! 堺さんも参加するデース!」
「僕はしませんよ!」
「しょぼーんデース」
 堺が断ると、肩を落とすデイジー
 正直、キワモノな企画なので盛り上がるかどうか微妙という判断も会社はしている。
 デイジーは自信があるそうなのだが、実際、声をかけても乗ってきてくれる人が少ないそうだ。
「だったら、ワルベルト局長に相談して珍しいパーティとして久遠ヶ原ケーブルTVの情報番組で特集してもらえばどうでしょう? それならウチから出演者の募集も出来ますよ」
 ワルベルトは椿の叔父である。
 デイジーの会社に椿の婚活を委託した当人でもあるので、姪っ子の手助けになるとなれば喜んで協力するだろう。
「ソレデース! 堺さんは頼りにナリーニョ!」
「無理にイタリア要素をいれなくていいです……」
 そういうわけで、着ぐるみ恋活パーティという妙なものの参加者を募集する
 恋人が欲しい人はきぐるみの下から理想を語り、そうでない人もきぐるみキャラでの合コンを楽しんでほしい。

●サイドメニュー
 手続き終了後、堺はデイジーにコーヒーを煎れてやった、椿のいない場面でデイジーと話せるのは初の機会である
 ここらで気になっていた事を確認しておきたい。
「あの……婚活中の椿さんってどんな感じなんですか?」
「ううん、あのデスネー」

「やっぱりそうですか」
 デイジーも医者やら弁護士やら、会社経営者やらいろんなお金持ちを紹介しているらしい。
 毎回、椿は喜んで食いつくのだが、会って半刻もすると、急にテンションが落ちてご破算。 
 半年でも半月でもなく、半刻である。
 これではデイジーもどうしようもない。
「椿さんの求めているものが本当は収入ではないのではないかと思い始めたデース。 そこでこの企画が通ったので……」
「確かに、椿さんが本音を言ってくれるかもしれないし、他の参加者が求める価値観に触れれば自分が潜在的に求めるものに気付いてくれるかもしれませんね」
 デイジーには言わないが堺にはもう一つ、気になる事がある。
 以前、椿の親友であるリズから聞いた “椿が長年片思いしている相手”の事である。
 リズは『気にしなくていいざます。 絶対に無理な恋ざますから堺も追及しちゃダメざます』と言っていたが、やはり気になる。
 もしこの合コンで椿の理想を聞き出す事が出来たら、その相手に関して推察がつくかもしれない。
 堺は少し考えると、参加者リストに自分の名を載せた。


リプレイ本文


 着ぐるみ合コン開催二日前。
 ミハイル・エッカート(jb0544)の部屋に小包が届いた。
 送り主は、久遠ヶ原キューピットクラブのデイジー。
「俺用のきぐるみが届いたか、どれ?」
 小包を解くミハイル。
「曖昧な発注文だったが、どんなのが出来たか楽しみだ」
 今回の着ぐるみは合コン用に飲み食いしやすいよう、主催者が開発したもの。
 発注文を書くとその通りに作ってくれる。
 今回は取材を名目とした依頼なので、お星さまが飛んでいったりはしない、役得である。
 ミハイルが送った発注文は“体格と身長で男性と見分けがつきやすい着ぐるみ”というもの。
 着ぐるみというと、ともすれば小柄な人間向きで、ショーのバイトなんかも身長制限があるくらいである。
 百八十五センチあるミハイルとしては、身を縮こめてそんなものを着るのは御免だった。 
 なにより椿に男性だと気付いて欲しい。
 その事で、“椿の想い人”の正体に近づきたいのだ。
 だが、小包から出てきた着ぐるみを見たミハイルは固まった。
「なんだこりゃ、リテイクかけるか――いやだが、注文通りだ」



 着ぐるみ合コン当日。
 ピンクのうさぎのきぐるみが会場ロビー前で止められていた。
「危険物の持ち込みは禁止されていマース!」
「ええ? 危険物!?」
 おろおろと辺りを見回すうさぎ。
 他に人はいない、デイジーが呼び止めているのは自分でしかないと、中身である地堂 灯(jb5198)は気付いた。
「危険なものなんかないわよ」
「生物兵器は国際条約で禁止されてマース!」
 うさぎの持つトレイの上で、うねうねと蠢く怪しい生物を指差すデイジー。
「フシュラ〜ッ!!」
 牙を剥き、口らしき器官から液を吐くと、それを浴びた床がドロドロに融けた。
「あらやだ、家を出た時には生命を持ってたりはしなかったのよ」
「問答無用デース! 捨ててクダサーイ!」
「これを捨てるなんてとんでもない! 弟に試食べさせたら、オーバーアクションで気絶するくらい美味しかったみたいだし」
「弟さんは今頃、別の生命体に生まれ変わっているかもしれません! 捨てないならこれは没収デース! 然るべき研究施設に解析を急がせマース!」
 灯がせっかく作ってきた料理をとりあげ、デイジーはシュタタッと去ってしまう。
「いいじゃない、少しくらい生命を持っても、まぁいいわ。ひりょ君いるみたいだし、憂さ晴らしにヌンチャクでぺちぺちしながらのんびりしましょう」
 うさぎはヌンチャクを振り廻しながら、会場入りした。


 会場内には、十二人の着ぐるみ人間が長テーブルに六人ずつ向かい合って座っていた。
 外見からは男女の別すらわからない。
 尤も久遠ヶ原は、素顔でも性別がわからないお人だらけだが。
「では、開始デース! まずは自己紹介!」
 唯一素顔を出しているデイジーが音頭をとる。

「最初は、ペンギンさんから!」
 指名すると、なんと三羽のペンギンが同時に立ちあがった!
 斡旋所員二人を含む参加者十二人中、三人がペンギンの着ぐるみだった。
 なんというペンギンブーム!
「ペンギンつったら、俺の事だよな」
「ペンペンは幸せペンギンなのー!」
「あたいは皇帝ペンギンよ! 一番格上のあたいからよね!」
 誰から自己紹介するかというしょうもない事でもめるペンギンズ。

「ペンペンほい! ペンペンほい!」
 結局、お互いヒレを繰り出しての不毛なじゃんけんを繰り返した結果、なんとなくメカっぽいペンギンが自己紹介の頭を獲った。
「俺こそがペンギンの中のペンギンだぜ! 」
 自慢げに自己紹介を始めたペンギンの中身は、ラファル A ユーティライネン(jb4620)。
 普段はメカ撃退士な金髪俺っ娘だ。
「なにせ俺ほど鳥類、中でもペンギンが好きな奴はいないからな!  いつもペンギン帽をかぶっているし、恋人の名前にだって鳥っぽくヒナが入っている! 俺が勝った以上、俺の事をストレートにペンギンと呼べ!」

「ペンギンさん、自ら正体をバラしていくスタイルなの〜?」
 あわあわしている女の子ペンギンが二番目の自己紹介を務める。
「ペンペンは幸せペンギンなの〜、ミスティローズさんに頼まれて、ここにいるある人に幸せをもたらしにきたの〜」
 中身はアイドル撃退士・川澄文歌(jb7507)である。
「ミスティローズ? どっかで聴いたな?」
 ペンギンが言うと、ヤギとパサランの着ぐるみも顔を見合わせた。
「何かの依頼に出てきた占い師やぎ」
「悪い子帝国って番組依頼だな、正体は――」
「あわわ、追求はルール違反なの〜、では次の人〜」

 三番目にマイクを受け取ったのは、皇帝ペンギン。
「あたいは皇帝ペンギンよ! 着ぐるみだけだけじゃなく、中身もさいきょーなのよ!」
「もう隠す気なしって感じですね」
 もにょる会場内。
 大半の脳内に皇帝ペンギン=雪室 チルル(ja0220)の図式が描かれる。
 実際その通り中身はチルルだった。

 三ペンギンという予想もしない展開に、デイジーもやや戸惑っている。
「紛らわしいですし、ペンギンさんはペンギンさん、幸せペンギンさんはペンペンさん、皇帝ペンギンさんは皇帝(カイザー)さんってお呼びいたしまショウ!」
「カイザー! なんかかっこいい! あたいに相応しいって感じなのよ!」
「ちっ、俺も皇帝ペンギンにしとけばよかったぜ」
 ペンギンラファルがぼやいているが後の祭り、品種まで特定したチルル大勝利である。
 
 南極エリアを越え、次はサバンナゾーン。
 白くてもふもふした狐が現れる。
「俺は、白狐。 見たところ似た動物もいなさそうだし、狐でいい」
 中身のフツメン男子、黄昏ひりょ(jb3452)的には、そつなくこなしたつもりだったが、
「あんたちょっとカレー臭いわよ」
 隣席の皇帝チルルが鼻を抑える。
「うっ、すまん、実は朝食にカレーを食べてきたんだ」
「口の中でカレーを作ったのでは? そういう特技の持ち主が、知り合いにいたような」
 ジッーと狐を見つめるパサラン。
「俺にそんな特技はない! 風評被害だ!」
 以前、スパイスを大量に口に入れてカレーを製造しようとした事のあるひりょ。
 無謀な挑戦には、未だ成功していない。

 続いてマイクを受け取ったのは、ラクダ。
「見私はフタコブラクダなのさばく」
「ラクダの着ぐるみって初めて見たにゃ」
「しかも、語尾が“さばく”なんですねぇ。 斬新です」
 三毛猫とかぼちゃが珍しがっている。
「このラクダ、どこかで見たやぎー」
「ですね、いつか見た夢の世界で」
 またもヤギとパサランはデジャブを感じているようだ。
「気のせいさばく、追及はルール違反でさばく」
 なお中身は四ノ宮 椿。
 会場の何人かは彼女の想い人を突き止める目的で、合コンに参加している。 

 続いては、ヤギがステージにあがる。
「私は白ヤギやぎー! 今日は宜しくやぎー」
「ヤ……ギ?」
 普通に自己紹介したつもりのだヤギだが、全員の目がきぐるみのある一点に注がれている事に気付く。
「お前、本当に山羊か? 模様がないだけの牛じゃねえのか?」
 ペンギンラファルが疑うのも無理はない。
 山羊の胸には、山羊と呼ぶにはあまりにも巨大な乳房が揺れていた。
 なにせ中身がうしちち魔王の異名を持つ・月乃宮 恋音(jb1221)なのである。
「……おぉ……そ、そんな事はないやぎー……(ふるふる)……」
 このきぐるみは、快適さと食事の利便性だけを追求して作られたモデル。
 乳の大きさを抑制する機能など、ありはしない。
「偽物にしてもでかくしすぎだろう? 発注ミスか?」
「そ、そうかもやぎ」
 ヤギキャラRP(ロープレ)に徹しているだけに正体はバレていないようだ。
「ヤギさんなら紙とか大好きよね!」
 皇帝チルルが、丸めた“合コンのしおり”をヤギの口の中に突っ込んだ。
「や、やぎ〜!?」
 口いっぱいに紙の味が広がる。
 以前にこの着ぐるみを着た時に、同じ目に遭わされたヤギ恋音。
 素直に牛にしなかったことを後悔した。

「合コンって面白そうだから来てみたのにゃ〜」
 プリティな声で鳴いたのは、三毛猫のきぐるみ。
 中身はネフレン(jc1467)という色黒の青年なのだが、ボイスチェンジャーを効かせている。
「ただの猫だと被ると思って三毛にしたのに、他に猫科すら他にいなくて寂しいにゃ」
「久遠ヶ原の人間がそんなに素直に来るわけがないでしょう」
 ツッコンだ奴からしてかぼちゃの着ぐるみ。
 実に説得力がある。

「私はうさぎよ、これもポピュラーなのに意外に被らなかったわね」
 さっき料理を生命体化させて取り上げられたピンクうさぎの灯。
「うさぎさんはRPしないやぎか? 語尾に“ぴょん”って付けるといいと思うやぎ」
「でもうさぎって“〜ぴょん”って鳴かないわよね?」
「そこは気にしちゃダメうやぎ、お約束というやつやぎ」
 本当にお約束を守るなら、ヤギキャラは“〜メェ”ではないのか?
 なんだか納得いかないので、灯はそのままにした。

 そしてミハイルの着ぐるみ。
 見た本人をも、唖然とさせたアレである。
「カブトムシです、宜しく……」
 背中に哀愁を漂わせながら自己紹介するカブトムシ。
「ぱっと見で男性だと思わせる着ぐるみというご発注でしたので、カブトムシにしましたー!」
 発注を受けてこれを作ったデイジー、元気よく答える。
「ああ、それで角付けてくれたんですね……角がなきゃ雌っていうか……ゴキブリですもんね」
 まさか三十過ぎてカブトムシの格好をさせられるとは思わなかったミハイル。
 物凄くテンションが低い。

 逆にテンション爆あげなのはパサラン。
「右を見ても左を見てもモフモフ着ぐるみだらけ……ここが桃源郷なのですか!? なのですね! ひゃっほう!!」
 中身は、咲魔 聡一(jb9491)。
 どちらかというと、普段はクールに的外れな事を考えて、盛大に足を踏み外すタイプのキャラである。
 ハイテンションモードは珍しい。
「ふっ、あいつ素人だな。 籤でパサランが当たって浮かれちまってるんだぜ?」
 ペンギンラファルにプークスクスされる聡一。
 だが、今日は本気で恋人を作りにきている。
 果たして成果はあるのか?

 続いてはタキシードを着たカボチャモンスター。
 タキシードとマスクを含めた形の着ぐるみである。
 そうでなければエイルズレトラ マステリオ(ja2224)の普段の格好と同じになってしまう。
「ハロウィンから時空を飛び越えてきましたパンプキンモンスターです、よろしく」
「あたい、あんたの事どっかで見た事ある気がする!」
 物凄い疑いの眼差しで皇帝チルルが睨んでくる。
 他のメンバーに至っては『まあ、あの子はそうきますよね』的な表情だ。
 チルルと同様、中身が半ばばれている。

「なんか猫さんがいマウス、食べられちゃいマウス」
 ガクブル震えているのは、マウスの着ぐるみ。
 中身は、斡旋所員・堺臣人。
「いや、さすがにキミは需要ないにゃ」
 猫ネフレンが目を逸らすと、マウスは矛先をデイジーに向け直した。
「ですよねー――デイジーさん! これ酷すぎでしょ!」
 デイジーに抗議するマウス堺。
「確かにマウスの着ぐるみって発注でしたけど!?」
 堺はネズミではなく、“パソコン機器のマウスの着ぐるみ”という意味不明な物体を着せられていた。
「動物のマウスの事でしたかー! ニホンゴ難しいデース!」
「わざとだ、絶対」
 抗議するマウス堺。
「諦めましょう、堺さん。 発注文通りなんですからリテイクは無効ですよ」
 同じ目に遭わされたカブトムシミハイル。
 変な女に弄ばれる男同士、絶望が共有出来た。


 自己紹介が終り、続いて“理想の恋人募集タイム”
 一人ずつステージにあがり、自分の理想の恋人を発表していくコーナーである。
 ところが――。
「浮気なんかしたらヒナちゃんに殺されちまう」
「おうちで黒ヤギさんが待っているやぎー!」
 すでに恋人がいる者が多く、次々にパスされた。
「あなたたち、恋活合コンに何しにしたデスか!?」
「僕は飲み食いして、騒げればいいんですよ?」
 掌から生の鳩を出して、さっそく騒ぎを起こすかぼちゃエイルズ。
 クルックーと、会場中に鳩の羽根が飛び散る。 
「全く! これだから日本は少子化になるデスヨ!」
 プンスカするデイジー。
 だが、やる気のある参加者もいた。
「恋人? やるやる! あたい欲しい!」

 皇帝チルルが、短いペンギンの足でペペペンとステージにあがる
「あたいの理想の恋人はねー! あたいより強い人!」
 右ヒレをひらひらさせながら、元気よく答える皇帝チルル。
「皇帝さんより強い人って滅多にいないんじゃないかな?」
 中身に、ほぼ確信を持って指摘する狐ひりょ。
 皇帝チルル、嬉しげに左ヒレをビシッと翳す。
「あんたわかってんじゃない! そうなのよ、さいきょーすぎるというのも困ったものだわ!」
 全く困って見えない。
 着ぐるみごしにもドヤ顔である。
「それはどうですかねぇ、皇帝陛下?」
 カボチャエイルズが、着ぐるみの指で器用にコインを弾きながら言った。
「僕が知る中では――例えば超絶回避のエイルズレトラ君なんかとやったら、陛下でもどうなるかわかりませんよ? “当たらなければ、どうという事はない“という言葉もありますからねぇ」
 カボチャの煽りに皇帝は、ムキーッペンペン!と足を踏み鳴らした
「なによあんた! あたいよりエイルズが強いと思ってんの? 冗談じゃないわ! 今からエイルズをギタギタにしてここに連れてくるから待っていなさい!」
 ペタペタとペンギン足で、会場から駆け出ていってしまう皇帝チルル。
「ここにいるのに気付いてもらえなかったみたいですねぇ……」
 すぐ目の前にいたのにエイルズを求めて、外に出た皇帝ペンギン。
 さいきょーVS超絶回避の対決はあるのか!?

 続いてステージにあがったのは、猫ネフレン。
「コイ? そうだにゃ〜、見てて楽しい子が好みだにゃ〜? ぴちぴち飛び跳ねてる子なんて、こっちも楽しくなれちゃうにゃ〜」
 猫の意見にマウス堺が同意する。
「その通りでございマウス! 特にぴちぴちは重要でございマウス! いくら乳がでかくてもアラサーとかごめんなのでございマウス!」
 ラクダ椿が、ムッとして睨む。
「ぴちぴちにだけ価値を求めるなんて、マウスさんはまだまだなのさばく!」
 猫ネフレンが、趣旨替えをしてラクダ椿に同意した。
「俺も少し時間が経っていた方がいいのにゃ」
「猫さん、わかっているさばく!」
「新しい鯉はダメにゃ、釣ってから綺麗な水に入れて、十日くらい泥を吐き出させないと臭くて食べられないのにゃ」
「猫さん、もしかして恋と鯉を勘違いしているさばく……?」

 今度は幸せペンギンのペンペンちゃん、オンステージ。
「みんな元気―! 新曲、いくよ〜♪」
 ステージにあがり、マイクを握るペンペン文歌。
 中身がはみ出た事に気付き、我に返る。
「……ではなく、ペンペンの好みはお金持ちだペン」
 やはりこの答えはウケが悪い。 
 ブーイングが飛ぶ。
「贅沢ですね、私なんかスイカの皮をしゃぶる毎日ですよ」
 カブトミシミハイルは、デザートのスイカを皮までしゃぶっている。
 少しでもカブトムシRPをしようと必死である。
 すると、ラクダがステージ上の文歌に相槌をうった。
「その通りさばく! なぜこれを言うと批判されるのかわからないのさばく!」
 釣れた!
 実はペンペン文歌、これが狙い。 本当は恋人がいるのに、金持ちを理想としたのは椿を釣り出すための罠である。
「ラクダさん、気が合うペン! やっぱり贅沢もしたいし、何でも買ってくれる人は頼りになるペン!」
 相槌を打ったつもりのペンペン文歌だが、なぜかラクダにキョトンとされた。
「……? 別にラクダは欲しいものはないのさばく、砂漠育ちだから水さえ飲めれば満足なのさばく」
「ならなぜお金持ちの恋人が欲しいなの?」
「ラクダはライバルに勝ちたいのさばく! 幼馴染がサラブレッドと結婚したのさばく! だからサラブレッドより早く走れる婿がどうしても欲しいのさばく!」
 踏み込んでいろいろ聞いてみたいところだったが、ソロコンサートではないので、いつまでもステージを占拠するわけにはいかない。
 次のタイミングを伺いつつ、ペンペンはステージを降りた。

「理想の恋人とは少し違うんですが」
 パサラン聡一は、ステージ上でこう前置きをしてから話を始めた。
「もし僕にも恋人ができたら、抱き締めたり、なでなでしたり、いっぱいしたいな。手を繋いでランデブーに行ったりしちゃって……やだもう!何言わせてるんですか!」
 片想いしかした事のない聡一、恥ずかしいのを押し殺して告白をした。
 だが、うさぎ灯から飛んできた質問は意外なものだった。
「パサランはケセランと付き合っているの?」
「え?」
「そういや俺も疑問だったぜ、パサランは雄で、ケセランは雌なのか? それとも逆か?」
 ペンギンラファルまで首を傾げ始める。
「でもだいぶ大きさが違いますよね、パサランとケセランは本当に同種族なんですか?」
 狐ひりょも疑問。
「カブトムシだって雄雌で外見が違うのです、ここにテイマーはいないのですか? その辺り詳しいと思うんですが?」
「テイマーだってそんなのわかりませんよ、そもそもあのコらは全ジョブで使えるでしょ」
 カブトムシミハイルと、かぼちゃエイルズが全然違う方向へ話を持ってく。
(こ、この人たち――全然、恋愛に興味がないのか? それとも僕という人間から恋愛ムードを打ち消すオーラがでているのか?)
 勇気を出して理想の恋愛像を告白したパサラン聡一。
 そこには触れてすらもらえず、哀しみを帯びた背中でステージを降りた。


 理想の恋人PRコーナーが終り、食事&フリートークタイム。
「カレーよ、君の声に全力で応えよう!」
 勢いよくカレーを食いだしたのは狐ひりょ。
 カレー臭がさらに強烈になり、隣席のチルルが顔をしかめている。
「あんた、朝、カレー食べたのにまた? 中身インドの人?」

 一方で、ヤギ恋音はバスケットからいろいろと取り出した何かをテーブルに並べていた。
「おお、こいつは気が利いているぜ」
「凝ったホテル料理よりも安心感があるにゃ」
 ヤギ恋音が手作りしてきたのは、おにぎり、サンドイッチ、ローストビーフなんかである。
「あと、やぎだけに紙っぽいものも持ってきたやぎ」
 袋から取り出したものに、ラクダ椿が目を輝かせた。
「こ、これは!」

 カブトムシミハイルは、着ぐるみたちに片っ端から話しかけている。
「猫さんの職業はなんですか?」
「撃退士にゃ」
「ふむ」
 こいつは椿ではないな、とカブトムシは考える。
 このパーティに出席している人間の大半は“学生兼撃退士”である。
 とうに引退している椿は“撃退士”とは答えないはず、というのが工作員としての見解である。
 尤も“学生”と答えるほどの図々しさなら、ありそうだが。
 同じ質問をパサラン聡一にもしてみる。

「パサランさんの職業はなんですか?」
「職業? 花……いや、黙秘で」
 パサラン聡一は花屋と答えようとして、それを避けた。
 花屋はやっているがあくまで部活。 職業と答えるには無理があると考えたのだ。

 だが、工作員たるカブトムシミハイルの見解は違う。
(今、こいつ“花”って言ったな。 椿の事だから“花嫁修業中”と言いかけやがったんだ)
「失礼ですが、恋人いない歴何年です?」
「ええ? まあ、年齢とイコールです……」
(間違いない、こいつが椿!)

 ミハイルが見当はずれな推理にうつつを抜かしている間に、テーブルではとっくに椿の正体がばれていた。
「味海苔! こっちは柚子風味! こっちは山椒が効いているのだわ! バリバリむしゃむしゃ」
 物凄い勢いでヤギ恋音が用意した味海苔を食べているラクダ。
 ぺンペン文歌が、ヤギ恋音に耳打ちする。
(あれって、もしかしなくても椿さんだペン?)
(釣れたやぎー、あれだけ味海苔が好きな人はそうそういないやぎー)
(俺も、間違いないと思う)
 狐ひりょも同意。 
 正体を確信した三人は、次のステップに移った。

(で、どうやって椿さんから好きな人を聞き出す?)
(ストレートに聞いて答えてくれるやぎか?)
(どうかななの? 今まで黙ってたくらいですから、忍ぶ恋なのでは?)
(正体を暴く方法までは考えていたけど、聞きだす方法は思い浮かばなかったやぎよ)
 あーだーこーだ話し合うヤギ、幸せペンギン、狐。
(じゃあ、ペンペンが話をしてみるペン)
 結論を出したペンペン文歌は、ラクダ椿の隣に座る事にした

「ラクダさん、隣いいなの?」
「おお、ペンペンさん、どっかにいいお金持ちいないのさばく?」
 先程、話を合せているので意気投合してくれている。
 ラクダは単純である。
 とりあえず椿の好みを聞きだそうとする文歌。
「お金持ちは前提として、他にどんな条件があるなの?」
「一緒に幸せになれる人がいいさばく」
「そうペンよね〜? どんな人なら一緒に幸せになれそうなの?」
 すると、ラクダは瞼を虚ろげに降ろした。
「それがわからないのさばく」
「わからない?」
 遠い目でどこか遠くを眺め始めるラクダ。
「私には、忘れられないくらい好きな人がいるのさばく。 でも、その恋は叶わない。 だから、その人と似た人を探しているのだけれど、どこにもいないのさばく。 ラクダは、今も砂漠を彷徨い続けるのさばく」

 ペンペン文歌はラクダ椿の隣を離れ、ステージの影に隠れて仲間を集めた。
「と、いう事だったなの」
「椿さんは、哀しい恋を抱えているやぎね」
 哀しげに乳を震わすヤギ。
「だったら、俺が少し話してみようかな?」
「狐さん?」
「俺も最近、少しね――心が通じ合うかもしれないから」

「ちょっと横いいですか?」
「おや狐さん、どうぞさばく」
 今度は狐ひりょが、ラクダ椿の隣に座る。
「ラクダさん、失恋した事あります?」
「ほぼ毎日さばく」
「え?」
 前フリのつもりで言った事にあまりに意表をついた答えを返され、鼻白む狐ひりょ。
「毎日、“いいな〜”と思う人には出会うさばく。 でも話していくうちに自分の理想像からどんどんズレてきて、数分後に“違うな”と思うの事の繰り返しさばく」
「それは、しっかりとした理想があるという事ですか? 羨ましいな、俺は、色々あって……今、そういう事に前向きになれなくなっちゃった」
「その気持ちもわかるさばく」
「え?」
「砂漠を長く歩いていると方角が段々、わからなくなってくるのさばく。 前に進んでいるつもりで後退していたり、同じところをグルグル回っていたり。 そもそも私が追っている理想自体が、オアシスの蜃気楼なのかもしれないさばく」
 遠い目でそう呟くラクダ椿。
 狐ひりょが返事に戸惑っていると、デイジーの甲高い声がマイクから響いた。
「みなさーん! 二回目のPRコーナーデース! 今度は“自分のいいとこPR”」


 恋人を求めていない人でも“自分のいいとこ”くらいならアピール出来るだろうという事で今回は全員参加。
 就職面接等で必須に近い事なので、予行練習も兼ねてやってみる事にした。
 
 最初にステージにあがったのは、かぼちゃエイルズ。
「僕のいいとこですか?」
 今のところ恋人の需要はないエイルズ。
 せっかくのステージなのもあり、自分の最大の特技である奇術を見せようと思った。
 それも派手な奴がいい。
「そうですねぇ……火が吹けます」
 ライターを持ちだし、着ぐるみの口から火を吹くエイルズ。
 ステージ下の観客に向かって、ファイアブレス!
「きゃー! かぼちゃ怪獣よ!」
「熱っ! ばかやめろ!」
 観客に対してはただのサプライズだったが、エイルズにも計算外があった。
 着ぐるみの素材が思ったより、燃えやすかった事である。
「うわちゃちゃちゃ!」
 いかに超絶回避とはいえ、自分の攻撃は避けられない。
 エイルズは焼きかぼちゃになりながら、慌てて会場の外へ出ていった。

 続いて、カブトムシミハイル。
「IT企業経営、片想いを終わらせて一歩踏み出したい二十八歳です。 長所はですね、煙草を吸わない事と、賭け事をしない事です」
 他にいろいろ特技はあるのだが、正体バレになるのでこれだけにとどめる。
「善き家庭人でさばく」
「良人と書いて夫と読むでやぎ」
「どうやらカブトムシさんは真面目っ子さんね」
 評判の良いカブトムシ。
(俺が家庭人? 良人? 買いかぶられたもんだぜ)
 着ぐるみの中で大人の自嘲をしていると、狐ひりょがこんな事を言い出した。
「真面目っ子さんだな、二十八とか言っているけど正体は委員長タイプの小学生男子だと見た」
 その推理になぜか、会場全てが頷く。
「カブトムシとか小学生が好きだもんにゃ」
「二十八は、お父さんの年齢かもしれないなの」
「スイカも皮まで食べてたもんね、えらいね〜」
 本当は三十男なのに、小学男子認定されたミハイル。
 大人の威厳を取り戻せる時は来るのか?

「見て見て! やったわよ!」
 さきほど煽りに乗ってエイルズをボコりにいったチルルが、会場に帰ってきた。
 ><な顔で嬉しそう。
「エイルズを倒しに行ったら、このホテルの廊下に倒れていたのよ! 戦わずして勝つだなんて、あたいったら本当にさいきょーね!」
 チルルの背中には、着ぐるみが燃えて黒焦げのアフロヘアになったエイルズが担がれている。
「あたいの長所? もちろん、さいきょーな事よ! でもさいきょーゆえに彼氏ができないの、困ったものね!」
 全然、困り顔をしていないチルル。
 まだまだ花より鉄拳パンチな年頃である。

 今度はヤギ恋音が登板。
「私の特長やぎか? 事務仕事とか、お茶とか茶華道がそこそこ出来るやぎ、料理含め家事全般いけるやぎ」
「確かにやぎさんは料理が得意さばく」
 味海苔巻おにぎりを食べているラクダ椿。
「頭もよさそうなの〜――でも」
 どんな特技があれ、気になるのはその乳が本物かどうかだ。
 乳は偉大! そのインパクトは全てを持っていく。
 ヤギRPが完璧でも、恋音はその定めから逃れられなかった。

 ラクダ椿がステージにあがる。
「私の中身はちょっとイケてるさばく! 年令の割に可愛くて若く見えるさばく!」
 ばれている正体を、さらにばらしていくスタイルのラクダ椿。
「この島の住人は大半本当に若いから、見た目だけ若くてもあんまり自慢にならないと思いまうす」
 マウス堺にいつも通りツッコまれ、言葉を詰まらせる。
「そ、そうだ、乳! 乳がデカイのさばく!」
 着ぐるみ越しにGカップを強調するラクダだが、
「ヤギの方が何倍もでかくないか?」
「う……」
 ペンギンラファルに煽られ、また言葉を詰まらせる。
 何も言わずとも他人の数少ない長所を殺してしまうヤギ。
 古来より悪魔の象徴、魔王の化身とされてきただけはある。

 狐ひりょは何だか自信なさげ。
「長所? う〜ん、なんだろう?」
 中身フツメンのひりょ。
 ラクダ椿のように、顔が可愛いなどと言ってのける自信はない。
「俺地味なんだよね、子供の頃から天気が変わる前に頭痛がするって事くらいかな」
「マジ! 凄いじゃない!」
「ははっ、どうも」
 感心を示したのが皇帝チルルである事に一抹の不安を覚えながら、ステージを降りる。
 とたんに頭をズガンと殴られた。
「!?」
「どう? 痛い? さっき外へ出たら雨が降ってきていたんで困ったのよ! あんたの頭が痛くなったら晴れるはずよね!」
「うぅ……そういう能力じゃない」

 今度はペンギンラファル。
「俺はちょっと凄いぜ! なんせ常にシビアでストイック! 一度、敵に廻したら地の底まで追い込むほど責めるドSだからな!」
「それは長所なんですかね?」
 納得いかないパサラン聡一。
「ドMの奴にはもってこいだろ! 座右の銘は“どぶに落ちた犬は沈める“だ!」
「それは長所なんですかね?」

「私のいいとこねぇ?」
 悩むうさぎ灯。
「最近までは、料理って言えたんだけど、生命を持っちゃったし、半引きこもりだしこれと言って思い浮かばないわね」
 言いながら、チルルにズガンされて弱っている狐ひりょをヌンチャクでペチペチする。
「あの……なんでペチペチするんですか?」
「ごめんなさい、なんとなく弟の友達に似ているからペチペチしやすかったのよ。 ああ、迷わず行動するのはいいとこかも、動いてから指摘されて悩むタイプね」
 さらにペチペチする。
「少し悩んでくださいよ……」

 長所なのか怪しい連中が続いたが、今度は明確な長所を持ったあのコが登場。
「ペンペンは何といっても、歌と踊りが得意なの!」 
 “ペペペン、ドルドル♪“と短い脚とヒレを動かして、謎のアイドルソングを唄い踊るペンペン文歌。
「家庭に入っても一家に一羽、ペンギンアイドルペン!」
 ヒレを掲げてペペンッとキメポーズ。
「癒されるのさばく、ちょっと欲しいのさばく」
 ほんわか顔でそれを見るラクダ椿。
 が、ペンペンはヒレで×を作る。
「残念ながら恋人ペンギンがいるなの! 未来に生まれる予定の子供も、私たちのドリームエッグの中ですすくすく育っているなの!」
 日々、恋人と未来の子供像を語り合って楽しんでいる文歌。
 年齢は半分でも、人生設計関して椿の倍は進んでいた。

「恋人としてのセールスポイントか……あんまり自信ないな」
 恋人を作るつもりで参加したパサラン聡一。
 だが、皆にあんまりその気がないのを見て、ほっとしている。
 同時に、そんな自分に半ば失望していた。
 一番恋人作りに乗り気な皇帝ペンギンは、中身がさいきょーなチルルでほぼ確定。
 “自分より強い人“という条件を満たせっこないから、アプローチしなくていいのだと安心している始末である。
「一応、中身男なんだよね……特技が裁縫と演劇とかあんまりアピールポイントにならないよね」
「そんな事ないやぎ、裁縫は家庭的だし、演劇も人を楽しませるサービス精神やぎ! 素晴らしいやぎ!」
「ありがとう……ところで、ヤギさんは恋人はいるのかな?」
「いるヤギよ?」
 ヤギ恋音が首を傾げる、
 悟り澄ましたかのように、笑い捨てるパサラン聡一。
「だと思ったよ、そういうフォローしてくれるのって幸せで余裕がある人なんだよね――僕には生涯、出来そうにないな、そういうの」
「や、やぎー!?」
 フォローされればされるほど、自虐的になっていくパサラン聡一。
 なんとなく、やさぐれている。
 合コンに行くとたまにいる、“最初にテンションあげすぎて、皆が盛り上がり始めた頃には疲れてる奴“ポジを占拠していた。

 マウス堺、ステージ上で左ボタンをドラッグしたまま歩き回っている。
 何を範囲選択しているのだろう?
「恋人としての売り……僕も思いつかないのでございまうす。 というか、異性を見る目がなさすぎて、恋人作ったら大火傷しそうな気がするのでございまうす」
 初恋の人が椿な堺。
 それ以降、毎日のように美女、美少女の相手をしながら斡旋所員をやっているが、どうにもときめく事はない。
「マウスさんは何か打ち込んでいる事はないなの? ペンペンは歌と踊りに打ち込んでいるの!」
「打ちこんでいる事……昔はゲーム造りに打ち込んでいたのでございまうす。 でもサークルで才能のある先輩や仲間と出会って、無理かなあと……」
「才能の形は皆それぞれ、違うペンよ、マウスさんにしか表現できない事、ペンペンにしか表現できない事、それぞれあるペン! マウスさんは他人の華やかな部分に惑わされて自分の才能を見失っている気がするペン! 勝ち負けは気にせず、やりたいことを思い切りやったほうが絶対にいいペン!」
 いくら着ぐるみを着ていても、中身は絶対的アイドルを目指し、昼夜を問わずトレーニングとステージに打ちこんでいる文歌。
 言葉には熱さと説得力があった。
 彼女の言葉をマウス堺は範囲選択し、自分の胸にしっかりコピーした。

「そうだにゃ〜、毛艶が良い事かにゃ?」
 ステージにあがった猫ネフレン、着ぐるみのもふもふヘアーを毛づくろいし始める。
「あと柄! 三色がこうも綺麗に分かれてる三毛猫はワタシだけにゃ!」
「それは中身でなく、着ぐるみの長所な気がするやぎ」
「にゃ?」
 出番が最後にも関わらず、着ぐるみの長所をPRをするコーナーだと思い込み続けていた猫ネフレン。
 短所はたぶん、思い込みが強い事。


 ペンペン文歌、ヤギ恋音、狐ひりょの三人はまたステージの影に隠れて話を始めた。
「ペンペンはあのマウスさんが、堺さんだと思うなの」
「そういえば、TVゲーム制作依頼の時、ツールを持ってきてくれたのも堺さんだったやぎ」
「堺さんの悩みが、なんだか身につまされるよ」
 狐ひりょが溜息をついた時、背後に気配!
 振り向くと、カブトムシが立っていた。
「フッ、貴方たちも中々察しが良いようですね、ちなみに私はどの着ぐるみが椿さんかは見抜けましたよ」
 正体を掴んだという余裕からか、カブトムシの体からミハイル分が滲み始めている。
「どの着ぐるみやぎ?」
 一応わかりきっているが、ヤギ恋音は念のため確認する。
 カブトムシは自信満々に答えた。
「パサランさんです、私が聞いたところ恋人いない歴=年齢ですし、職業も言わない、さきほど芝居が特技だとおっしゃっていたので確信しました。 椿さんは、斡旋所員なのにたびたび、ドラマや芝居に出ています! 今、パサランさんの中にいると断言できます!」

 すると着ぐるみたちは三人揃って首を傾げた。
「カブトムシさんも椿さんの事を心配してくれているなのね? でもペンペンたちの考えは、ちょっと違うなの」
「確かに椿さん、ドラマとかに時々出ているけど、あれはTV局長の叔父さんに頼まれて出ているだけだって聞いたよ」
「椿さんはラクダで確定しているやぎ、カブトムシくんはまだ小学生だから勘違いしても仕方ないやぎ」
 “うんうん、小学生だから仕方ない“と頷く三人。
 三十男の立場が全くない。
 いっそ顔を見せてやろうかと思ったミハイルだが、グッとこらえて、三人の見解を聞き、己の勘違いに絶望した。

(味海苔! そんな初歩的な手でよかったのか! 聞き込みの腕を見せてやろうと思ったのが裏目に出たぜ!)
 名乗りでなくて良かったとほっとするカブトムシミハイル。
 もうすっかり工作員(笑)な状態である。
「椿さん、俺が話を聞いたら“好きな人はいるけど、オアシスの蜃気楼を追いかけて砂漠を彷徨っている状態だ”みたいな事言っていたんだよね」
「オアシスの蜃気楼――なるほど」
 カブトムシミハイル、何か思う事があり考えこみ始める。
 そしてある結論に達した。
 ミハイルの人生に或る、苦く辛い経験から出した結論である。
 決して子供には出せない重みを持った声で、それを告げる。
「なあ、思うに椿さんは――」
「多分、椿さんの想い人は亡くなられているやぎね!」
「さすがはヤギさん鋭いなの!」
「それですよ! ラクダの目って、どこか哀愁が漂っていますもんね!――あれ、カブトムシくん、今、何か言おうとしないなかった?」
「い、いや」
 先に同じ事をヤギに言われてしまった。
 恐るべし爆乳ヤギ! 
「でも、その事を聞きだすのは難しいやぎ」
「ちょっと触れにくい問題ですもんね」
 流石に戸惑っている三人。
 いいとこなしだったが、ついにカブトムシの季節がやってきたようである。 
「なら、私が椿さんとお話してみます」
 過去に同じ経験を持つミハイル。
 しかも椿と同じ三十歳、これは心が通じるのではないかと考えていた。
「確かに子供になら、心を開いてくれるかもしれないなの」
「小学生なら、多少、率直に話しても罪にならないやぎよ」
 もう完全に小学生だと思われている。
 三十歳だなどとカミングアウトしたら、却って赤っ恥な雰囲気だった。


(考えてみれば着ぐるみをでかく作っても、中身は小さいのはありえるもんな――まあいい、小学生だと誤認させたのも正体を隠すべき秘密工作員としての腕だ)
 崩れかけた大人のプライドを、自分に嘘を付いて必死で取り繕うミハイル。
 ラクダ椿の隣席に座る。
「隣いいですか?」
「どうぞ、カブトムシくんはスイカジュースがいいのさばく?」
「いえ、ウオッカで――」
 アルコール度の高いロシア酒を、マセガキにはまねできない仕草でグイッと煽る。
「あら、お強いのさばく」
「ふっ、流してきた涙の分、酒も飲み慣れちまったのさ」
 大人アピールするカブトムシ。
「事故死した片想い相手が忘れられなくて踏み出せなくて――男ってのは捕らわれるとどうにも抜け出せないのです」
(こいつを人に話すのは久しぶりだな、椿を呪縛から解き放ってやりたいとは言うが、過去に捕らわれてるのは俺じゃないか)
 皮肉げに自分を嗤うミハイル。
「台詞が上手なのさばく! 学芸会の練習さばく? 最近は渋い脚本を使うのさばく」
「違う!」
 椿にも小学生だと思われていたようだ。
「ラクダさん、あんたもだろ? 亡くなってしまった大切な人の蜃気楼を追いかけて、乾いた砂漠を歩き回っているんじゃないか?」
 思わず素の口調が出てしまう。
 しまったと思ったが、ラクダが反応したのは言葉の内容だった。
「失礼ね! 叔父様は亡くなっていないのだわ!」
「なに?」
 絶対の確信を持っていた“椿の想い人亡者説”だったが、あっさり否定された。
 しかし、さらに重要な事が今の言葉には含まれていた。
「叔父様?」
「あ、いや何でもないのだわ」
「いいから落ち着いて話せ、しょせんは着ぐるみ同士、脱いだら赤の他人だ。 ラクダが秘密を告白したところでカブトムシの脳みそじゃ覚えていられねえよ」
 ミハイルが言い切ると、椿は何度か瞬きをし、それから溜息をついた。
「……そうね、じゃあ思い切ってみんなに話しちゃおうかしら」
「みんなにか?」
「他の子も、動物やら、かぼちゃやら、マウスやらだから覚えられないでしょ? それに隠すほど後ろめたい事でもないのだわ」
 そこから椿の、長いようで短い話が始まる。


 椿は十五歳の時に、この島に来た。
 他の皆と同じく撃退士になるためだ。
 その時、島に住んでいる親戚の存在を知らされた。
 四ノ宮 大桜。
 元々、大企業の会社員だったのに二十七歳でそれを辞め、制作会社の下っ端ADになったという変り種の男だ。
 血縁的には、実の叔父にあたる。

 大桜は天魔が出現し、世の中が殺伐としていく中、人々が心を空っぽにして笑える番組を作りたいという夢を抱き、その実現に向け歩いていた。
 激務薄給だが、ADとしてTVの事を学び、業界人とコネを作り、夢の実現に向け日々を歩き続けた。
 転機が訪れたのは久遠ヶ原島の誕生。
 人類の最前線基地で戦う撃退士たちが気楽に見られ、また気晴らしに出演も出来るTV局を築こうと島に渡った。
 その時は、中央のTV局から派遣された島内支社のプロデュサーとしてだったらしい。
 
 近くにいる唯一の肉親という事で椿は十七歳上の叔父を頼り、よく会った。
 それまでほとんど接点のなかった親戚だが、叔父は寛大で前向きな男だった
 自分のTV局を持つ夢に邁進し、知恵と汗を絞る叔父の背中を見て育ったのだ。
 男性の理想像が固まってしまうのは当然だった。
 やがて、叔父は夢を叶え、久遠ヶ原ケーブルTVを作った。
 椿は叔父に惚れこんでいる自分を自覚していた。
 そして、決して結ばれない恋である事も。

 話を聞き終えた会場は一瞬の静寂に包まれた。
 最初に口を開いたのは、パサラン聡一。
 かつて恋をして、それがかなわなかったがゆえ、恋に臆病になっている男だ。
「その椿さんの気持ちを、叔父さんは――ワルベルト局長は御存じなんですか?」
 ラクダ椿はさばさばと首を横に振った。
「告白したりはしていないのだわ、叔父様も独身だし、おかしな枷をはめたくないから。
でも九割がたばれているわね。 私、顔に出やすいのだわ」
 ここにいる何名かは、椿がワルベルト局長と会話している所を見たことがある。
 確かに華やいだ嬉しそうな顔をしていた。
「じゃあ、椿さんが婚活しているのはなぜ?」
 うさぎ灯が尋ねると、これも即答。
「叔父様以上の男に出会うためなのだわ、そうしないと叔父様を好きになった意味がなくなってしまうもの」
 椿の声は、少し湿りを含んでいるように聞こえた。
「もしかしてだがにゃ、お金持ちに拘っているのは、叔父さんが今はお金持ちだからにゃ?」
 猫ネフレンの推測も当たっていたようだ。
「そう! お金持ちの中になら、叔父様みたいな成功者がいる可能性が高いのだわ、狙い目なのだわ」
 また押し黙る会場。
 椿のくせに、思ったより筋が通っていた。
「そうですかねぇ? 必ずしもそうとは限らない気がしますが」
「椿さんの話を聞く限り、お金ではなく叔父様の人柄や行動力に惚れている気がするやぎ」
 かぼちゃエイルズと、ヤギ恋音は鋭いところを突いてきた。
 椿はムキになったように答える。
「だって、高級官僚と結婚した幼馴染に勝ちたいってのも本当だもの! 自力で夢を叶えたお金持ちの成功者と結婚出来れば、全てが丸く収まるのだわ!」
「ちゃっかりしてんなあ、お前」
 半ばあきれ顔の、ペンギンラファル。
「あなたは前向きになろうとしてるんですね。 凄いな……。 あなたがあなたらしくいられる方と出会えるといいですね」
 失恋のダメージからなかなか抜け切れない狐ひりょには、今の椿が眩しく見えた。

(なるほど、これは給与明細を見せても無駄だったな)
 以前、特殊工作員としての高給給与明細を見せて椿を釣ろうと考えた事もあるミハイル、カブトムシの中で冷笑を浮かべる。
「皆を見ていても時々、胸がときめくことはあるのだわ。 最近ではそうね――チルルちゃん」
「あたい!?」
 皇帝チルル、飲んでいたジュースを吹きそうになる。
「ツチノコを目指して、何も考えずに進撃する姿を見てキュンとしちゃったのだわ。 叔父様も若い頃、こうだったんだろうなあって」
「あ、あたいはダメよ! あんたあたいより弱いじゃない!」
「ダメな理由はそこですか」
 呆れるエイルズ。 
「ふふ、そういう意味じゃないのだわ。 でも、全盛期の私なら今のチルルちゃんに勝てたかもしれない」
「何、そのレジェンドみたいな言い方? 卑怯よ! 全盛期のあんたを連れて来てあたいとしょーぶしなさいよ!」
 こうして、一部の撃退士が気にしていた椿の秘密は実にあっけらかんと明かされた。

 騒ぎの中、マウス堺はそっと会場を抜け、ホテルの屋上に向かった。
 着ぐるみのまま、夜空を見上げる。
 今、自分がどんな気持ちなのか、自分で把握出来ない。
 そのマウス堺に背後から話しかけたものがいる。
「ショックだったなの?」
 ペンペン文歌だ。
「そんな事はないです――ないのでございまうす」
「ふふっ、ショックだったって事は、やっぱりまだそうなの」
「認めたくはないでまうす」
 とことん素直にならない堺。
 十分間で砕けたはずの初恋が、まだ生きている事を内心認めているのだろう。
「ペンペンは幸せペンギンだから、皆に幸せになって欲しいなの。 マウスさんはこれから、どうしたらいいのかわかるなの?」
「さっき、ペンペンさんに言われた事はしっかり心に保存してあるのでマウス、あとで自分なりの文章に編集して再保存するでマウス」
「ペンペンも、ミスティローズさんも応援するなの」
「ありがとう、少し、時間がかかるかもしれないでまうすが……」
 二人はしばらく屋上の風に吹かれると、会場へと戻った。

 会場では、合コンが盛り上がっていた。

 写真撮影をしている皇帝チルル、ペンペン文歌、ペンギンラファル。
「ペンギンズ集合! みんな揃って写真撮影よ!」
「ペンペンがセンターなの!」
「元祖ペンギンの俺がセンターに決まってんだろ」

 奇術ショーをやっているかぼちゃエイルズと、それに付き合うカブトムシミハイル
「毎度おなじみ、奇術士マジックショーを始めさせていただきますよー」
「奇術で俺……私の皿にピーマンを乗せないで下さい! 正体がわかっていてやってるんじゃないでしょうね?」

 ヤギ恋音を取り囲む、パサラン聡一と猫ネフレン。
「ヤギさん、その球体すっごいもふもふしてそうだね、もふらせてくれないかな」
「もふっちゃダメやぎ! これは本物やぎ!」
「本物なのにゃ? ヤギのミルクって濃厚らしいにゃ、飲ませてほしいにゃ!」
「出ないやぎ!」

 謎の生物に襲われている狐ひりょと、うさぎ灯。
「フシュラ〜ッ!」
「ちょっと、あんた帰ってきちゃったの!?  狐くん食べてあげて!」
「これ料理なんですか!? 自分で作ったんなら自分で食べて下さいよ! うわっ、なんか体液かけられた! 着ぐるみが溶けるーー!?」

 気付けばほとんどの者の正体がばれている。
 学園生の濃すぎる個性を隠すのに、着ぐるみの厚みは少し薄すぎたのかもしれない。


依頼結果