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マスター:スタジオI
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/06/24


みんなの思い出



オープニング


 町には二つの顔がある。
 昼の顔と夜の顔。
 普段、歩き慣れたご近所も深夜に出歩けばまるで違った景色が見られるかもしれない。

 というわけで、今度の番組は『久遠ヶ原深夜探検隊』
 出演者に小型の目線カメラを付けて、自由に夜のお散歩をしてもらおうという企画。
 普段は斡旋所にいる四ノ宮 椿(jz0294)もこれに出演する。
「ふぁ〜あ、嫌なのだわ、夜は部屋でチョコレート食べながら携帯ゲームして、そのまま寝落ちしたいものだわ」
「椿よ、また虫歯になるぞ」
 叔父で久遠ヶ原TV局長のワルベルトに呆れられながらも、深夜0時に家を出る椿。
 町は寝静まっている。
 普通の町ならぽつぽつと酒場の灯りが見えそうなものだが、なにせ酒に酔えない撃退士の多い町、全くなくはないが比率としては普通の町よりも低い。
「さて、どこに行こうかしら?」
 思索を巡らせ始める椿。

 公園……最近、変な人が出るという噂がある。 興味はあるが、女一人ではちょっと怖い。
 
 商店街……ほとんどの店が閉まっているが、普段はシャッターを下ろしているのに深夜だけ開いている謎の店があったり、深夜だけ営業内容を変えている不思議な店もあるらしい。

 夜食……小腹が空いているから、開いている飲食店を探して、どこかで何か食べるのもいいかもしれない。

 コンビニ……多分、通常営業。 真夜中のオアシス。

 カラオケ……時間を感じさせない間取り。

 ひたすら夜道を散歩……それもこの季節なら悪くない。

「堺君、ニョロ子ちゃん、クレヨー先生……他の出演者も島のどこかを歩いているのだわよね。 逢えたら一緒に歩くのもいいのだわ」

 そんなわけでキミたちも、静かな夜の島で小さな探検を行って欲しい。


リプレイ本文


 深夜零時。 
 菊開 すみれ(ja6392)はライターとカンテラを手に家を出た。
 満月から放たれた暖色光が、闇夜をほのかに染めている。
 キャミソールとショートパンツから出た地肌が、夏の夜風に暖かく撫でられるのが心地よい。
(夜の街ってどこか別の世界みたいだよね。 なんだかワクワクしちゃう)
 すみれが向かったのは、夜のオアシスコンビニ。
 闇夜に浮かび上がる看板に向け、歩を進めるすみれ。
 ここで、必要なものを買ってから目的地に向かうつもりなのだ。
 すると、自動ドアの前で別の人間と歩調が合った。
「夜の町の散策は良いですね」
 少女は同じ番組の出演者でRehni Nam(ja5283)だった
 しばし自動ドアを開けずに、立ち話。
「お祭りとかで、遅くまで出ていたいのに門限に阻まれて……というのを思い出します」
「寮によっては厳しいのよね」
「まあ、時には体を張って下さる方々もいらっしゃいましたが、足を向けて寝れないのですよ」
 門限破りをした末に同じ寮の仲間がこっそり窓から入れてくれたのだろう。
 レフニーの過去の姿を、ぼんやりと目に浮べながら自動ドアに踏み出した。

 コンビニに入ると、すみれは飲み物とお菓子を数点吟味して買った。
 小さ目のビニルシートも買い、レジに向かう。
 レジ脇には、ホットスナックコーナーがあった。
 さすがに中華まんの季節は終わったようだが、コロッケやらポテトフライやらフレンチドッグやらは一年中置いている。
 この深夜に小腹を刺激する光景だ。
「油ものを買うです?」
 背後からレフニーが話しかけてきた。
「うん、散歩するんだし少しくらいならいいかなって」
 苦笑しながら、答えるすみれ。
「でも、夜中に食べると脂肪がつくです」
 レフニーも、揚げ物を買うべきか迷っているのだろうか?
 一蓮托生、背中を押そう。
「レフニーさん、スレンダーだから大丈夫よ」
「スレンダーですか?」
 レフニーの視線は、すみれの胸と自分の胸をしきりに見比べていた。
 銀色の目が、化け猫のように見開いている。
 どうやら胸部の厚みの差について、何か言いたい事があるようだ。
「夜中にアブラものを食べると、脂がそこにつくですね、ほう? へえ? ふ〜ん?」
 これはやばい!
 すみれは危機を感じ取った。
 何か妙な妖怪にでも変身して、乳を根こそぎもぎとりかねない雰囲気だ。
「こ、これから花火の予定なの?」
 レフニーの買い物かごを見ると、お茶の他に花火セットとバケツが入っている。
 そちらに意識を逸らさせる事にした。
「そうですね、今から海岸に行って花火の予定です」
 妖怪めいた目つきから、元の笑顔に戻るレフニー。
(花火、それもいいわね)
 元々、河川敷でのんびり夜を過ごすつもりだったすみれ。
 レフニーを誘おうかと思ったが、上乳が食み出るキャミソールを着ている事を思いだした。
 この揺れに刺激されて、いつあの妖怪アイに戻るかわからない。
 すみれは服装を後悔しながらレフニーと別れた。
 コンビニを出て河川敷を目指す。
 ゆったり流れる川のせせらぎと、時間を求めて。


 学園敷地内にある森林に、探検服を着た小柄な少女がいた。
「ツチノコ、ツチノコ、みつけるのよ〜♪」
 名は、雪室 チルル(ja0220)。
 せわしなくきょろきょろしながら、森の遊歩道を歩いている。
「あの草むらが怪しいわね!」
 何かを見つけたかのように、トテテと駆けていくチルル。
 嬉しそうに草むらをしばらくかきわけていたが、やがてガクっと肩を落とした。
「ここにもいない、どこに行っちゃったのかしら、あのコ」
 チルルがあのコ呼ばわりしているのは、ツチノコ。
 四十年ほど前から定期的に話題になる幻の蛇である。
 チルルはそれを今月、ある無人島依頼で見付け、捕獲した。
 ところが久遠ヶ原島についてから、ツチノコを入れておいたはずのゲージを見直したら何もいない!
 乗ってきた船の中を散々探してもいない!
 これは島内のどこかに逃げたのだ――そう、チルルは結論付けた。
 実はツチノコを捕まえた事自体、船の中で見た夢なのだが、アホの子+兼ねてからのツチノコへの情熱でそう思い込み続けていた。
「いないわね〜、でも、海は泳げないはずだし、島のどこかにいるはずよね!」
 また“ツチノコ♪ ツチノコ♪”とご機嫌に鼻歌を歌って捜索を再開するチルル。
 二時間もそうしているうちに背後の木陰からカサカサという激しい物音がした。
「きっとツチノコよ!」
 音のした方向へと全力で駆ける。

 そこに着いた時、すでに音の主は影もなかった。
 代わりに、地面に残されていたのは何かが這いずったような怪しい跡。
「なにこれ? あたいがさっき調べた時、こんなのなかったわよ」
 地面に延々と続いていく跡を追う。
「どうなってんのこれ? さいきょーのあたいが追い付けないなんて」
 いくら走れど追いつく事が出来ない。
 諦めず、さらに跡を追い続けるチルル。
 果たして、伝説は満月の夜に姿を現すのか?


「あはぁ♪ 面白い子ねぇ♪ からかいがいがあるわぁ……♪」
 黒い影が林道を駆け抜けていくチルルを見おろしながら機嫌よさげに笑った。
 美しいが、狂気が入り混じった笑み。
 黒百合(ja0422)だ。
 森で撮影準備をしている最中にチルルを見つけ、からかってみたのだ。
 陰陽の翼で飛びながら、樹の枝で地面に這い跡を付けただけ。
 いくらチルルとはいえ、ここまでストレートに引っかかってくれるとは思わなかった。
「さぁてと、準備に戻りましょうか、小型カメラの固定、衝突保護材の取り付け……完了ォ……久しぶりに全力でねぇ♪」
 満月の下を走り始める黒百合。
 速い!
 装備をひたすら移動力に傾けて調整したが、やはり爽快だ。
 自分の体重がなくなり、夜風と一体化したような錯覚すら覚える。
 さっき全力で追ってきた、チルルの約七倍は出しているだろう。
 ここまで速いとコントロールに危険を覚えるが、その心配もない。
 ハーフ天魔に覚醒した今の黒百合には、物質透過能力がある。
「樹も車も建物も全部無視よぉ♪ 今宵は久遠ヶ原島一周に挑戦するわぁ♪」
 全てをすり抜けながら、島を駆け回るというはた迷惑な企画を実行し始めた黒百合。
 どこで、どんなトラブルを巻き起こすのか?


「すみません、突き合わせてしまって」
 雪ノ下・正太郎(ja0343)が、キザなメキシコ系アウルボクサー・ホセと元力士の学園教師・クレヨー先生を連れて商店街を歩いている。
「こんな時間に開いている料理屋とはオツだね」
「また太って奥さんに怒られるんだな」
 この三人は、アウル格闘技大会以来の付き合いである。
「ここです、チャンチックマイというタイ料理店です」
 雪ノ下が立ち止まったのは、和風づくりの建物にインド像の描かれたエキゾチックな店。
 夜型人間が多いのか、こんな時間でも客が多い。 
「おススメは?」
「ラーメンも旨いですが、今日はアヒルのゲーン・ペット、いわゆるタイカレーの赤でいきたいと思っています」
 
 料理を注文した後、雪ノ下は料理店の客席中央に視線を移した。
「今日ここにお連れしたのは、あれを見てもらいたかったからなんです」
 そこになぜか格闘技のリングがあった。 
「客同士で試合が出来るサービスがあるんです、ファイトマネーがもらえるわけではないですが、御捻りで食事代くらいはチャラになりますよ」
 クレヨー先生がきらりと目を輝かせた。
「面白そうなんだな、どちらか僕とやるんだな」
「先生とですか!?」
「相撲では食事の前に稽古するものなんだな。 食事代ついでにこれから摂取するカロリーもチャラにするんだな」
「戦っている間にカレーが出来てしまいますよ」
「相撲ルールなら一瞬でカタがつくんだな!」
「僕はボクシング専門だ、パスしよう。 雪ノ下くんは、相撲の心得もあるよね?」
 飄々と躱すホセ。
「俺に押し付けますか!?」
 無理やりリングにあがらされる雪ノ下。

「はっけよい! のこった!」

 さすがのアウル格闘王も二百キロの元関取相手には分が悪く、散々に投げ飛ばされてしまう。

「参りました……俺もあの大会で自信をつけたつもりなんですが」
「ハッハハッ 相撲ルールで負けたら元関取の名が泣くんだな」
 満足そうにゲーン・ペット大盛りを掻きこむクレヨー先生。
 もう三杯目。
 カロリーは、まるでチャラになっていそうにない。
「今日の対戦は有意義でした、俺もいろんな相手と戦って腕を磨きたいですから」
 負けてもめげない雪ノ下。 この辺りが、アウル格闘王たりえた理由だろう。
「ホセさんはリングカーというサービスを運営されていますが、カラオケボックスみたいに学校帰りにリングボックスってどうですかね、そしてリングで戦うという意識を学生に植え付けるんです」
「ふむ、揉め事が起きた時の手軽な発散方法としてはいいかもしれんね」
「アウル格闘技のすそ野は、もっと広げないといけないんだな」
 三人はゲーン・ペットの辛味を舌に乗せながら、アウル格闘技の未来について夜を明かして語り合うのだった。


「女には2つの顔がある、昼の顔と夜の顔、こういうことね」
 番組冒頭のナレーションをもじって遊んでいるのは、六道 鈴音(ja4192)。
 太眉可愛い二十才。
「私の場合、昼は明るい美少女、夜は憂いを秘めた美少女って事になるのかな」
 この独り言に対し、番組実況スレで“少女?”“二十歳は少女じゃねえwww”とか書きこまれている事は間違いない。

 鈴音が訪れたのは夜の校舎だった。
「門が締まっているけど……えい!」
 瞬間移動スキルで校舎内に潜入する鈴音。
 基本良い子キャラなのでちょっと悪い事をすると、ドキドキする。
 しかし、鈴音をさらに大きな別のドキドキが襲った。
「真っ暗じゃない!」
 見慣れた校舎内であるのに、光を失っただけでまるで異空間のダンジョンに迷い込んでしまったような錯覚を覚える。
「どうしよう、ぼっちで来るもんじゃないわね」
 音も光も乏しい世界。
 普段より情報量が不足している隙間を、妄想力が勝手に動き出して埋めてゆく。
 “こんな学校だから戦闘演習中に死んだ子もいるんじゃないだろうか“とか、“壁の向こうから、その子が現れて鈴音を死の国へ連れ去ってしまうんじゃないか”とか、そういう想像ばかり。
「帰りたい……」
 たまらなくなった鈴音、藁にもすがる思いで召喚獣を呼ぶ。
「いや、怖いわけじゃないわよ。全然怖くないけど……。 ちょっとヒリュウ。私の近くにいなさい」
 TVを意識しているのか、強がる鈴音。
 ヒリュウを抱っこして、校舎内を小走りに駆ける。 
「やばいわね。 守衛さんにみつからないうちに帰ろう」
 怖いのは守衛さんだけではない。
 現実的恐怖と妄想上の恐怖、二つが交互に鈴音を襲い続ける。 
 と、心臓をハンマーで殴られたような衝撃。
 目の前に人影が現れたのだ!
「だ、誰!?」
 声を震わせる鈴音の方に、人影はゆっくりと笑顔を向けた。
『あはぁ♪』 
 不気味な笑いを浮かべると、人影はすっと消えて行った。
 何もない壁向こうへ。
「……」
 声も出せずに、鈴音は気を失った。

「あはぁ♪ 大成功!」
 鈴音を失神に追い込んだ亡霊。
 正体は黒百合だった。
 島内透過マラソン中に鈴音を見つけ、透過能力でからかったのだ。
 気を失っているその肢体をしげしげと眺める。
「可愛い娘ねぇ♪」
 実はそういう趣味がある黒百合。
 鈴音の血が、マラソン中のスペシャルドリンクに見える。
「いただきまぁす♪」 
 今まさに、鈴音の首筋にかぶりつこうとしたその時だった。
「ツチノコいただきー!」
 突然、顔に何か柔らかなものを被せられた。

「もう逃がさないわよ――あれ?」
 黒百合に視界が戻る。
 そこにいたのは探検服姿のチルルだった。
 顔を覆っているのは、虫取り網。
「黒百合じゃない、なにしてんの?」
「あんたこそ何してんのよぉ、いいとこだったのにぃ」
 興を削がれ、憮然としている黒百合。
「ツチノコよ! 今、校舎の窓からここにツチノコみたいのが見えたのよ!」
「ツチノコ?」
 おそらくは、鈴音が抱いていたヒリュウを見間違ったのだろう。
 チルルをからかうために引いた這い跡が、とんだ藪蛇になってしまった。
 悔しいので、からかいを続ける。
「さっき私も見たわぁ……♪」
「やっぱり! この校舎にいるのね! 徹底捜索よ!」
 虫取りやる気満々なチルル。
 これで二、三日は、昼夜問わず虫取り網を持ってこの校舎内を走るチルルの姿がみられるだろう


「ローニアくん、どこいっちゃったの? 依頼の時間だよ〜」
 藍那湊(jc0170)はゴミ箱の蓋を開けた。
 居候のローニア レグルス(jc1480)と一緒に夜散歩に出る予定だったのだが、いざ出かける時間になったら、姿を眩ませてしまった。
「困ったなあ、すぐ迷子になるんだから」
 実は、ハイアンドシークで撒かれた事に気付かない藍那。
 冷蔵庫やら郵便ポストやら、見当違いな場所まで探す。
 ポストの中には“フローリスト・サクマ特別深夜営業!”というチラシを見付けた。
「お兄ちゃんだ! そうか、聡一お兄ちゃんに聞けばわかるかも!」
 義兄の咲魔 聡一(jb9491)。 彼の経営する部活店・フローリスト・サクマへと藍那は向かった。

 深夜営業の演出なのか、フローリスト・サクマの花畑がライトアップされていた。
 店先のバーベキュースタンドから香ばしい匂いが漂っている
 探していたローニアもいた。
 だが、店先で咲魔と何か揉めているようだ。
「なんだこれは……オリーブオイルはないのか」
「何度も言わせるな。 あるけど、売るほどはない!」
「売れ、俺はオリーブオイルを飲みたい」
「これは飲み物じゃない! これを呑まれてしまったらバーベキューに使う分がなくなる」
「バーベキュー?」
 咲魔は、傍らで肉汁を滴らせているバーベキュースタンドを指差した。
「ほう、人界の食物も意外といけそうだな」
「深夜営業特別価格2980円だ」
 ローニアは、いきなり藍那に視線を向けてきた。
「頼んだぞ、財布」
「え、財布って俺の事……? 勝手に先に行っておいて酷くない?」
 抗議したが、ローニアはもうバーベキューにかぶりつき始めている。
「酷いなあ」
「湊くん、お疲れ様」
 咲魔が笑顔で、ジュースを渡してくれた。
「ありがとう聡一お兄ちゃん、お客来た?」
 景気悪げに首を横に振る咲魔。
「何人か来たが売り上げは……このチャンスを活かさない手はないと思ったんだが」
「そっか、コンビニくらいしか開いてないのにみんなどこへ行ってるんだろうね?」
 言いながら、ジュースを一口飲んで理由が解った。
 グレープフルーツ牛乳とかいう得体の知れないものだ。
 おごりだから藍那は文句も言えないが、売上にならなかったのは咲魔のセンスが原因だろう。
 本人はあまり気にしていないようで、眼鏡をかけ直し、本を広げている。
「だが、お蔭で歴史の勉強が捗る」
 日本史の問題集のようだ。
 藍那が覗き込むと、『織田信長が行った経済政策は何か?』という問題に対し『ネット通販』という解答を確信に満ちた目で書きこんでいた。
 捗ってはいるようだが、あまり実になる勉強にはなりそうにない。
 藍那が心配しつつジュースを飲んでいると、ローニアが横から手を出してきた。
「それオリーブオイルか、一口くれよ」
「違うから! 普通はオリーブオイルを飲み物扱いしないから!」
 ローニア用に用意しておいたオリーブオイルの大瓶を渡す。
 スポーツドリンクのようにごくごく飲んで満足げなローニア。
 咲魔のセンスと歴史。 ローニアの血管。 
 藍那には心配事が一杯だ。

 ふと、咲魔が藍那の足元に落ちている何かを拾った。
 一冊のノートだ。
 それには、裸の少年同士が艶めかしく絡み合うイラストが淫靡な筆致で描かれてきた。
 それを真面目な顔で音読しだす咲魔。
「なになに『ナメコロさん大大大大好き』『初めてですよ、私の肉体をここまで火照らせたお馬鹿さんは……』難解な漫画だな」
「え? なにそれ」
 自分のカバンを探り出す藍那。
 やがて、その顔から血の気が引く。
「ない! 僕の黒歴史ノートが!」
「なんだ、それ?」
「や、やばい……アレにはちょっと恥ずかしい日記や色々な事が……!」


「……ある意味すげぇネタ拾っちまった」
 黒歴史ノートを持っているのは、ペルル・ロゼ・グラス(jc0873)だった。
 藍那のノートの表紙には“漢”と書かれているが、ペルルのネタ帳の表紙には“漢×漢”と書かれている。
 暗がりでぶつかった時に、互いにノートを落とし、間違って鞄にしまいこんだのだ。
 黒歴史ノートには“漢らしくなる秘訣”が書かれていた。
 “褌一丁で群衆の中に行き、腕組みをして仁王立ちする“とか何やら勘違いしているらしい事もまことしやかに記されている。
「この子、素質ありなの! 今度会ったら目覚めさせるの!」
 ペルルの言う素質とは何か?
 彼女が筋金入りの腐女子である事から推察して欲しい。
「本のネタ探しの夜としていい幸先なの! ウホッの匂いを見付けられそうな予感なの!」
 ペルルは公園へと向かった。
 変人が多数目的されているこの公園で、果たして何を見るのか?


「エイルズー! ひさしぶりー!」
「レイさん、元気でしたかー!」
 金髪ツインテのちびっ子が、タキシードを纏ったカボチャマスク姿の男に無邪気に抱きついている。
 木陰から観察しているペルルの心臓が、高鳴る光景である。
「あのカボチャマスクは間違いなく、変態なの!」
 カボチャマスクの正体はエイルズレトラ マステリオ(ja2224)なのだが、ペルルはそんな事は知らない。
「問題は――」
 金髪ツインテのちびっ子に視線を注ぐ。
「レイって呼ばれたあの子が、男の娘であるかなの!」
 女の子ならば興味はない。
 例え変態とロリっ娘の逢瀬でも、男女愛如きにペルルの心は動かない!
 レイが男の娘である事を祈るペルル。
 彼らは仲睦まじく会話を続けている。
「一緒に夜の街を探検しましょう」
「わーい! 僕、探検大好きー!」
 キタコレ! ペルルの目がシャキーンと輝いた。
 一人称が“僕” これは男の娘に違いない!
 稀に僕っ娘というのが存在するが、あくまで稀である。
 勝率で言えば90%は固いというとこか。
「今、この公園に変質者が出るんですよ、それを一緒に捕まえましょう」
「ヘンシツシャってなーに?」
「悪者の事です」
「ワルモノ! 僕、捕まえる!」
「レイさん、囮やってくれます? 僕は多少、顔が知られてますし、このマスクだと余計に警戒されてしまいますので」
 ペルルは感動した。
 男の娘を変態の生贄に捧げるなど、まさに鬼畜の所業!
 あのカボチャマスクは最高過ぎる。
(このまま変質者に男の娘が襲われて、NTR展開――いや、カボチャマスクが助けにはいったのに返り討ちに遭い、二人で屈服させられるというのも……)
 ペルルの脳細胞がバラ色に染まり尽くされていく。
 その寸前、最後の良心が底力を見せた。
(あたし、なにを考えているのな! あんな小さな子が酷い目に遭わされる事を望むなんて!) 
 自動的に明鏡止水のスキルが発動し、心が澄んでいく。
(そんなのだめ! あのコを変態からカボチャマスクが救って、草むらでラブラブエッチがベストに決まっているの!)
 心が澄んでも、ペルルはこんなものだった。

「ヘンシツシャさん、僕、囮だよー! でてこーい!」
 カボチャマスクから離れ、一人で夜の公園をそう叫びながら歩き出すレイ。
 かなりアホの子らしい。
 その時、カボチャマスクがマスクを外した。
「さて、そこにいる変質者さん、そろそろ出てきていただけませんか? 僕としてはレイさんにあまり醜いものを見せたくないんですよ」
 マスクを外した下から出てきた顔。
 超絶回避で有名なエイルズレトラとかいう撃退士だ。
「そこですよ、そこにいるあなた!」
 ペルルの胸の谷間に、エイルズの投げたトランプが突き刺さった。

「わ〜ん、離してなの! 私は変態じゃないの!」
 エイルズに簀巻にされ、泣き喚くペルル。
 囮として出撃していたレイが戻ってきた。
「エイルズー! ヘンシツシャいなかったよー?」
「ご苦労様、お蔭様でもう捕まりましたよ。 おや? スカートがめくれてパンツが丸見えですよ、女の子がはしたない」
「あやや?」
「お、女の子なのー!?」
 変質者扱いされて捕まった事よりも、その事にショックを受けるペルル。
 最高の妄想ネタが、あっけなく崩れてしまった。


 ミハイル・エッカート(jb0544)は、公園の芝生の片隅に土を掘り、何かを埋めていた。
「次は人参に生まれ変われよ」
 線香を焚き、合掌する。
「供養終わりだ、さて」
 立ち上がり、夜目を利用して暗視する。
 公園に現れる謎の人物を探そうというのだ。
 すると闇の中にカボチャマスクの男が、じっとこちらを見て立っているのが見えた。
(なんだ、エイルズじゃないか、そんなとこで何してんだ?)
 声をかける前に、エイルズの方から声をかけられた。
「ミハイルさんですか。 その筋っぽい人が穴を掘っているのを見ちゃったから、死体でも埋めているのかとぎょっとしましたよ」
「誰がその筋っぽい人だ!」
 言い返し終える間もなく、金髪幼女がエイルズの手を引っ張る。
「エイルズー! このおじちゃん、ピーマンを穴に埋めてたー!」
「誰がおじちゃんだ!」
 呆れの溜息をつくエイルズ。
「給食を残した小学生みたいな事しないでくださいよ」
「ふっ、そんな子供じみたことじゃない、仏教ではちゃんと供養すると生まれ変わると聞いたものでな。 人参に生まれ変わるように埋葬していただけだ」
「エイルズー! このおじちゃん、変な人〜」
「レイさんは賢いですねぇ」
 レイの頭を撫でるエイルズに、ツッコむミハイル。
「肯定するな!」

「レイ? お前が無人島から幼女をさらってきたと聞いたが、その子か」
 去年、そういう事が遭った事は斡旋所の椿からミハイルも聞いていた。
「さらってきたとか、人聞き悪い事言わないで下さい」
「ふっ、夜中にカボチャマスク付けて、幼女を連れ歩いている奴が何を言っても無駄だ」
「仕方ありませんねぇ……そうだ これから僕らは牛丼を食べにいくつもりなんですがミハイルさんもどうですか?」
「牛丼か、悪くないな。 しかし、デートのお邪魔じゃないのか?」
「変質者扱いされるよりマシです。 ミハイルさんとレイさんなら金髪同士、父娘だとカムフラージュ出来ますからね」
「そういう計算か、まあいいだろう。 この近くにおススメの店でもあるのか?」
「レイさんが行きたいお店があるらしいんです、今日はそちらへ」
 

 アイドル部。部長、川澄文歌(jb7507)は薄暗い地下への階段を下りていた。
 正統派アイドルの彼女ではあるが、最近はキン×マを蹴り潰したとか、ゲーセンのゴリラだとか後ろ暗い噂に付き纏われている。
 清純派アイドル、夜に見せる素顔とは?

「みんな、声援ありがとう! 次は新曲“Summer? 〜”いくよ!」
 ステージ衣装に着替え、スポットライトの下で歌いだす文歌。
 文歌は、ここでナイトステージを行うライブアイドルだった。
 昼間とまるきり変わっていない!

「♪水着で海へ駆け出そう
今日はVacation …
… Summer? Winter Dream
胸の鼓動 とまらないっ♪」

 いつものノリで歌いだす文歌を、オタ芸と言われる独特の踊りで盛り上げる観客たち。
 そんな店内に、場違いな三人組が入ってきた。
「おい、ここが牛丼屋か、明らかにノリがおかしいぞ」
「表のメニューに牛丼はありましたからねぇ」
「いた! ししょーだ! おーい!」
 ステージの文歌に手を振ってきたのは、レイ。
 少し前に、文歌が依頼で歌を教えてあげた事のある女の子だ。
 両サイドの二人は、エイルズレトラとミハイルだろう。
 依頼で一緒になった事がある。
「今日は特別ゲストがいるよ! ステージにあがって! レイちゃん、エイルズさん! ミハイルさん!」

「幼女! 幼女! 深夜幼女!」
 ステージにあがったレイに興奮するオタたち。
「おっさんたちは(・∀・)カエレ!!」
 対して男二人にはブーイングが飛ぶ。
「帰りたい……」
 げんなりしている二人をよそに、文歌はレイと再会を祝している。
「レイちゃん、よくここに来られたね!」
「パソコンで、ししょーの事調べたら出てきた!」
「そっか、あの時、教えた歌はまだ覚えてくれてる?」
「うん! ししょーとまた歌いたい!」
 レイが頷くと、文歌はエイルズとミハイルの肩に手を置いた。
「よし! じゃあみんなで歌おう!」
「俺たちもかよ!」
 フリフリ衣装を着せられ、アイドルソングを歌わされるのかと怯える三十男。
「大丈夫! 私がレイちゃんに教えたのは合唱だよ!」
「……それはそれで嫌だ」
「じゃあ、ステージ降ります?」
 ステージを降りるとなると、観客たちに混じりオタ芸ダンスを踊らねばならない。
 そのままスルーして逃げられる雰囲気ではとうていなかった。
「唄わせてもらう」
 観念して、合唱に加わるミハイル。
 ステージ下のオタたちも声を合せる。
 文歌をリーダーに店全体一丸となっての合唱、
 合唱を始めれば心は一つ、どこにいても同じ事だった。

「ミハイルさんや、エイルズさんが来てくれるなんて思わなかったよ! 今日はありがとう!」
 コンサート後のCD&グッズ手売り会で、握手をしながら礼を言う文歌。
「いや、まあなりゆきでな」
 ピーマンを埋め終えたら、公園で変質者捜しをするだけのつもりだったミハイル。
 まさか、こんな場所でアイドルやオタと合唱させられる展開になるとは思わなかった。
 何が起きるかわからない。 一寸先は闇。 それが夜散歩の恐さであり、魅力でもある。


 舞台は公園に戻る。
「赤毛のお兄さんと林檎魔女さんの、夜でもU(ウルトラ)E(エクストリーム)H(ハイテンション)〜!」
 満月の下、ドンチャン騒ぎしている男女のカップルが一組。
 林檎の魔女パウリーネ(jb8709)と、ガン黒系悪魔ジョン・ドゥ(jb9083)である。
「深夜ハイテンション! 二人でどんちゃん騒ぎをするぜ!」
「いえ〜、林檎ジュースのめのめ!」
 無駄にテンションをあげていく二人。
 特に意味はない。
 とにかくテンションをあげたいのだ。

 ある時二人揃って素に帰る。
「思ったより間が持たない」
「まあ二人だけだし、飲み放題って言っても酒があるわけじゃなし」
 林檎ジュースだけでテンションをあげるには無理がある事に気付いたジョン。 辺りを見回す。
「月が綺麗だな。こんな日は何か……閃いた!」
「なに?」
「ツツジを収穫するんだ!」
 公園中に咲いているツツジを集めに走る二人。
 こんなもの集めて何をするのかというと、
「吸うんだ!」
「ツツジうめぇ」
「あめ〜!」
「吸い放題だ! カンパーイ!」
 深夜にテンションをあげようとしすぎて、何だかわからない事になっている二人。
 人に見られたら、吸っているのはツツジではなく、変な薬だと誤解されそうな勢いである。

「ヒャー! ツツジさいこー!」
 二人がテンション爆あげしている姿を、うにゃっと首を傾げて見つめているものがいた。
 アイリス・レイバルド(jb1510)である。
 だが我関せず、にゃーにゃー鳴きながら、その脇をすり抜けていく。
 公園を抜け、路地裏を抜け、辿り着いたのはある建物の屋根の上だった。
 そこで開かれていたのは猫の集会。
「にゃー」
「にゃー」
「にゃー」
 首の鈴をチリンとならし、猫たちと一緒に鳴き声をあげるアイリス。
 猫憑きになったようにも見えるが、正気である。
 これが正気なのも問題だが、それは置いておく。
 アイリスは猫の王様を探していた。
『久遠ヶ原のケット・シー』
 アイルランドの神話に登場する猫の妖精。
 二本足で歩き、王国を築いているというその猫が久遠ヶ原のどこかにいるという噂を耳にし、毎夜、いろいろな猫集会に混じっているのだ。
 ここのボスこそ、猫の王様なのだろうか?
 それを見極めるため、アイリスが集会のボス猫を見つめていると、様子がおかしい事に気付く。
 猫たちがやけにそわそわしているのだ。
 どうやら、下の店先で焼いているバーベキューの香りに誘われているらしい。
 だが、バーベキューの近くにいる三人の人間が邪魔で失敬出来ないようだ。
「黒歴史ノートどこ〜?」
「おい、オリーブオイル追加だ、財布」
 店主らしき眼鏡少年が猫の鳴き声に気付いたのか、屋根の上に目を向けてきた。
「ホイップ? そんなとこにあがっちゃダメだよ!」
 アイリスと少年の目が合ってしまう。
「え? アイリスさん……」
 店主は、依頼で会った事のある咲魔という少年である。
 だが、今のアイリスは撃退士ではない。
 猫の王様を探す一匹の猫だ。
「にゃー」
 アイリスは、人語で返事をせずにそのまま屋根の上から立ち去った。
 今宵も、猫の王様は見つからなかった。
 明日もまた、アイリスは夜の散歩に出る。


 蛇っ娘幼魔・ニョロ子(jz0302)は、動揺していた。
「雫お姉ちゃん? 起きているにょろか〜」
 夜道でばったり雫(ja1894)と出会い、せっかくだから一緒に歩こうと決めたまではいいのだが、雫の様子がおかしいのだ。
「……はい?宿題なら提出しました……」
 会話が全くかみ合わない。
 顔の横にカメラを付けているところを見ると、番組依頼の時間であることは把握しているようだが、寝ぼけているのだろうか?
「ニョロ子さん、なんで今日は蛇ではなくウナギが頭にいるのですか?」
「え?」
 晩御飯にうな丼を食べたニョロ子。 雫の言葉に頭の蛇がウナギになってしまったのかと驚く。
 驚くとニョロ子は髪が抜ける。
「あ! 待つにょろ! 蛇……ウナギさ〜ん」
 歩道をにょろにょろと逃げていく蛇を追いかけていくニョロ子。
 その間に、雫はどこかに姿を消していた。

「これはすげぇ、夜なのに頭が冴えまくっているぜ」
「なんという高度かつ、芸術的な仕掛け……これは歴史に残る名作ドミノになる」
 公園でジョンとパウリーネは、ピタゴラス博士なスイッチを着々と作り上げていた。
「間違いなく番組の華になる! OPとEDを飾るのは俺たちの映像だ」
「うむ、スイッチが鮮やかに軌道を描き、ゴールの花火が撃ちあがった瞬間が最高視聴率を叩き出すに違いない」
 ツツジを越えるテンションを爆あげ方法を、二人は導き出したのだ。
 だが、好事魔多し。
 こういう時に、トラブルが起きるのが久遠ヶ原島である。
 念には念を入れる。
「ジョン、仕上げは私がやるから辺りを見張っておいてくれ、突然、邪魔が入って全てがおじゃんとか御免だからな」
「確かに! しっかり見張るぜ!」
 注意深く辺りを見回すジョン。
 やがて、ギミックのゴール近くにふらふらと侵入してくる小さな人影を見付けた。
「止まれ! 今、入ってこられると困る!」
 制止の声をかけるジョンだが、人影は酔っぱらったような足取りでギミックに近づいてゆく。
「止まれって言ってるだろう!」
 駆け寄るジョン。
 その瞬間、人影が光を纏った!
 巨大な剣がその手に出現し、清流の滑らかさと、激流の速度を以てジョンの体を叩いた。
「ぐお!」
 跳ね飛ばされたジョン、落ちた場所は打ち上げ花火の上
「え?」
 一方、人影は千鳥足のままギミックへと進む。
 ドミノがパタパタ倒されていく。
 花火の発射スイッチをドミノが押した。

「ぎゃーー!」
 夜空に鮮やかな花火が打ちあがった。
「ふぁぁ……人間型花火とは珍しいですねぇ……」
 寝ぼけ眼でそれをみあげる雫。
 いつのまに自分は大剣を出したのかといぶかしみながらも、また、うとうとしながら夜道の向こうへと消えて行った。


「夜のおさんぽですかぁ〜。ドキドキなのですぅ」
 深森 木葉(jb1711)は、幼い。
 にも関わらず、一人で夜のお散歩をしているのは、一緒にお散歩してもらおうと思っていた四ノ宮 椿が他の人たちと一緒にいたからだ。
 木葉は亡き母との時間の追想を椿に求めていた。
 だが、他の人たちの邪魔をしちゃいけないと思ったので諦めたのだ。
 木葉は強い子だった。
「夜風は涼しいですねぇ。 耳をすませば色んな音が聴こえますぅ」
風が木々を渡り、梢は歌うように葉を揺らし、虫たちと素敵なハーモニーを奏でている
昼間は喧騒にまぎれて聞き取れない微かな音たち……それらを聴きながら夜道を散歩した。

 公園に行ってみると、黒焦げの男が、魔女の格好をした女と廃材を積んでいた。
「パウリーネ、崩すなよ! 絶対崩すなよ!」
「ジョンよ、私は芸人じゃないからそんなフラグは通じんぞ」
 パーツを抜いて、崩さないようにする遊びだろうか?
 お母さんがいた頃、あんな風に遊んでもらったなあと思い、ふと寂しくなる木葉。
 そんな時、目の前に銀色の小さな人影がふらりと現れた。
「雫ちゃん?」
 だが、様子がおかしい。
 木葉を見ているようで、見ていない。
「木葉さん……頭に蝶が止まっていますよ……捕まえてあげます」
「引っ張ったらダメですぅ、これは蝶々じゃないですぅ!」

 雫が寝ぼけている事に気付き、ベンチに寝せて膝枕をしてあげる木葉。
 年上の雫の寝顔が幼く見えた。
 まるで自分がお母さんになったような気分になる。
 木葉は、自分の中に生きている“お母さん”を感じた。
 雫の髪を撫でながら、夜空を見上げる。
 星々がきれいに瞬いてる。
 星の光の中、木葉もうとうとと微睡に包まれた。


「ふむ、まぁ何時も通りだな」
 麻生 遊夜(ja1838)はいつもの時間に集まった、いつものメンバーを見てそう呟いた。
「ん、夜が本番」
 こくりと頷く、ヒビキ・ユーヤ(jb9420)。
「朝や昼は動きたくないしねぇ」
 クスクス笑う来崎 麻夜(jb0905)。
 この三人、元から夜人間らしい。
「ま、今日も夜更け遊びといきますか」
 ケラケラ歩きながら街中をふらぶらし始める麻生。
 まずは腹を満たすため、屋台探しをするらしい。
「屋台……焼き鳥?」
 首をかくりと曲げるヒビキ。
「そうだねぇ……屋台といえば、おでんとか? ラーメンも良さそうだけど」
「小遣いは貰えてんだ、ちっと贅沢できんぜ?」
 幸い今夜は、番組経費三千久遠が使える。
 あれも食べたい、これも食べたいと言いながら屋台を見回る麻夜とヒビキ。
「変なクセを付けるなよ、健康管理や家計の問題もあるからな」
 麻生の言葉にヒビキがこくりと頷く。
「食べ過ぎなければ、問題ない、雰囲気を味わうのが大事」
 結局、焼き鳥を一人二串ほど買い、おでんと併せて食べる事にした。
 屋台の横に置いてある長椅子に座り、夜空を見上げながら食す。
「うめぇ、やっぱり焼き鳥は軟骨だよな」
「塩派とたれ派、どちらに付くか決めねばならない(こくり」
「これが屋台のおでんかあ、TVでも良く見るしちょっと興味あるんだよね(クスクス」
 屋台独特の雰囲気の中、三人は夜の味を堪能する。 
 星の屋根の下で食べると、より美味しい。
「あ、花火」
 公園の方から打ちあがってきた花火にヒビキが声をあげた。
「花火もいいな、夏は子供たちと一緒にやるか」
 串おでんを、もにゅもにゅ食べながら頷く麻生。
「今の花火、人があがってきたようにも見えたけど?」
 麻夜が首を傾げる。
「気のせいだろ」
「うん、気のせい(こくり」

 食事は終わり、ここからが夜本番である。
「さて、どこへ行く?」
「海が良いなー」
 麻生に向けて胸元や絶対領域をチラチラッとアピールする麻夜。
 行動など予想済みの麻生、素早く目を逸らす。
「……わかったからその格好でアピールすんな、カメラついてんだぞ?」
 顔の横のカメラを麻生がとんとん叩く。
「おっと危ない……」
 カメラから、麻夜が胸元を隠す。
 間髪入れず、ヒビキが麻生の顔を自分の胸に押し付けてきた。
「見えなければ、大丈夫」
「あ、ヒビキずるい!」
 得意げな顔を麻夜に向けるヒビキ。
「そういう問題じゃねえ!」
 麻生は、二人に世間体という言葉を教える必要性をひしひしと感じていた。

 海岸沿いを歩き始める三人。
「やっぱり海辺は寒暖差が激しいな」
 麻生が呟くと、ヒビキがこくりと頷く。
「ん、何か軽く、羽織るものが必要」
 そう言い、麻生の背中に覆いかぶさる。
「お前を羽織るのかよ!」
「ん、暑かったり寒かったりだからねぇ、夜と日中でもガラッと変わるから面倒だよね」
 麻夜も麻生の腕にしがみ付く。
「本当に面倒だ」
 ぼやく麻生、これは流石に歩きにくい。
 夜の海を見やると、海岸に小さな火が見えた。
 また花火だろうか?
 公園だけでなく、海岸でも花火をやっている風景。
 夏は、そこまで来ている。
「今度子供達連れて、水着買わないと」
「みんなで花火もしよう」
「そうだな」
 ヒビキと麻夜の言葉に、麻生は笑顔で頷いた。

 三人が見た花火の主はレフニーだった。
 両手におもちゃ花火を持ってブーンと走り廻る。
 走りつかれ、溜息をつく。
「うーん、花火は綺麗ですし、星空も綺麗です、でも、一人花火は寂しいですね」
 夜空に恋人の姿思い浮かぶ
「次に機会があったら――」
 ふと海岸沿いの道路に歩いてくる男女の三人組を見付けた。
 顔の横にカメラの電源ランプが見える。
「せっかくだから、誘ってみましょう」
 気付いてくれるかどうかわからないが――。
 レフニーは三人組に花火を振ってみせた。


 樒 和紗(jb6970)は、部屋に迎えにきた“はとこ“をジト目で睨んできた。
「行く先は竜胆兄に任せましたが……大丈夫ですか」
 砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)は、明らかな不信感を感じつつ、スルーして微笑みを浮かべた。
「ちゃんとお腹減らしといた?」
 せっかくの依頼。 夜歩きなど慣れていない和紗を変わった店に連れて行ってやろうというのが今夜の趣旨だった。
 しかし、歩くたびに不信の視線が強まっていく
 どんどん街中から離れ、山中に向かっているせいだ。
「どこまで行く気です?」
「料理店は山の中にあるんだ」
 さっと身をかばうようなそぶりをする和紗。
「まさかとは思いますが、張り紙に“体を綺麗に洗え”とか、“塩コショウをかぶれ”とかいう指示が書かれた店なんじゃ?」
「そういう注文が多いレストランじゃないから!?」
 呆れながらも、和紗にさっと手を差し出す砂原。
「なんです?」
「足元気をつけて?」
 道は、勾配の激しい山道に差し掛かっていた。
 だが和紗は、つれなく一人で直進する。
「……平常運転ね」
「え、借りとか作るの嫌ですし」
 砂原の方が四つ近く年上なのだが、まるで敬意を感じない。
 いつもの事である。

 山道を進むと、洋館風の建物が見えてきた。
「あれですか」
 店に近づくと、そこが和食店だとわかる。
「この店構えで和食専門店ですか、店主の御趣味でしょうか?」
「懐石っぽくて和紗好きかなって」

 店内に入ると、インテリアも洋風。
 和紗は、物珍しげにゆっくりと眺めまわす。
「こういう雰囲気、好き?」
 笑顔で尋ねる砂原。
 和紗は入念に辺りを見回すと、
「妙な注文の書かれた張り紙はないようですね、妥協しましょう」
「信用されていないなあ」
 砂原は、うるうると涙を流した。

 手作りの陶器に小さな料理が並べられた懐石料理が出てきた。
「こじんまりと纏まっていて、綺麗ですね」
 一つ一つが美しく丁寧に作られている。 味も上々だ。
 ただ、若い男には量が物足りないだろう。
 小食な自分に対する、はとこの気遣いを感じた。
「僕はお酒も飲もう、和紗はオリジナルのカクテルがあるよ?」
「未成年ですよ」
「ノンアルなら大丈夫だろ」
「バーテンの友人に時々作って貰うので興味あります」
 メニューの写真を見て、あれこれ考え始める和紗。
 そんな風に時間をすごすうち、カーテンの外が明るみはじめた。
「ん、そろそろかな、窓を見てごらん」
 暗くてわからなかったが、窓の下には海が広がっていた。
 水平線の向こうから太陽が顔を出し、海面を煌めかせ始める。
「……海を臨む場所でしたか。 綺麗ですね」
「気に入ってくれた?」
 和紗は頷かず、代わりに心の中ではとこに感謝の言葉を述べた。
 
 店を出た後、砂原に尋ねる。
「こんな店、よく知っていましたね」
「実は、前に道に迷った時に偶然辿り着いたんだ」
 頭を掻きながら砂原の答えに、和紗は深刻げな表情を作ってみせた、
「それは――自分では気づかないだけで、本当はもう料理にされて、誰かの胃袋の中にいるのかもしれません」
「こだわるなぁ」


 この夜、椿は珍しくもてていた。
 美青年と美少年から、デートに誘われたのである。
 その二人と一緒に川沿いを歩いている。
「夜となると、まだ過ごし易い、な。 夜の散歩、悪くは無い、ぞ」
 年上の方は僅(jb8838)。
 喋り方でわかる通り変人である。 
「椿…は怖がり、だから…ハル、が手を繋いで…あげよう、か?」
 美少年の方はハル(jb9524)、こちらも右に同じ。
 もてているというより、類友なのだろうか?
 椿は自分も変人なのではないかと、今さらながらに疑い始めた。

「ハル…は、何処、か…水辺、が良い、な」
 ハルの希望に従い、三人で川原に向かった。
 星空の下を流れる川を眺めていると、ハルが口を開いた。
「夜の…水、って…全てを…飲み込んで、しまいそう…で。 ホント、に飲み、込まれたら…何処、へ行ってしまう、んだろう…ね」
「ハルは、面白い事を言う、な。 確かに夜の水は、真っ黒だから、な。 何処か、か…わたしは、途中が気になる、な。 三途の川は、明るくも暗くも無いイメージだが、 黄泉坂は真っ暗だろ、う。 案外、川も真っ暗やも知れん、な…」
 真剣な顔で話し合うハルと僅に挟まれ、もにょる椿。
「なんでオカルト話するのだわ……」
 不安になった時の癖で、お守り代わりの阻霊符をいじる。
 と、その時!
 川を覗きこんでいた椿の背中が、何者かに強く押された。
「な!?」
 ぼっちゃーんと水の中に落ちる椿。
 両サイドにいた僅とハルに手を伸ばした救けを求めたが、オカルト話に夢中でまるで気付いてくれない。
 河の中で、誰かともつれあう。
 ぷはっと水面からあげた時、もう一つの顔と目が合った。 
「黒百合ちゃん?」
「あらぁ……♪ 椿さん、奇遇だわぁ……♪」
「一体、何を!?」
「ごめんなさぁい……♪ もう少しでゴールなのよぉ♪ 失礼するわぁ♪」
 椿を川の中に残して、黒百合は川の向こう岸へ走り去った。
 透過マラソンの途中だなどと知らない椿、無駄に川に突き押され、何がなんだかわからない。

 椿が川岸にあがりぶるぶる震えていると、ようやく、ハルと僅が椿に気付いた。
「アレ?椿…震えてる、の?…おトイレ?それとも…寒い、の?…ああ、武者震い…ってヤツ、かな?」
「椿、武者震いとは、威勢がいい、な。 水辺と言うと、日本なら、河童、か。 妖精だと、ケルピー、か。 釣れると面白い、が。逆に釣られたら…まあ、その時はその時の事だ、な。 大丈夫、だ。宗派は仏教、か? ならば、線香の一つ位、あげてやる、ぞ」
「今、もっとタチの悪いのに引きずりこまたのだわ! なんなんなのだわ、あなたたち!」
 僅とハル、そしてこの場にいない黒百合に叫ぶ椿。
 もてているのではなく、単なる類友だと確信する。

 同じ川辺の少し離れた堤防の上では、すみれがまったりと時を過ごしていた。
「今、水の音がした……大きな魚が跳ねたのかな?」
 コンビニでレフニーと別れてからずっと、すみれはこの川岸で静かな時を過ごしていた。
 長い間とまっていた電車の音が聞こえはじめる。
 静寂の闇に少しずつ光が差し込み始める。
 もうすぐ夜明けだ。 


「木葉ちゃん、こんな場所で寝ていたら風邪をひくのだわよ」
 公園のベンチで寝ていた木葉を椿がおんぶする。
 びしょ濡れになった服は、流石にスタッフを呼んで着替えさせてもらった。
 椿の背中の上で、木葉は眠っている。
「おかあ……さん……」
 小さく口の中で呼びかけてくる木葉に、椿は微笑みを向けた。
 そんな時、
「はっ! 私はなぜこんなとこにいるのでしょう!?」
 雫がようやく目を醒ました。
 自分の部屋でない事やらいろいろに気付き、動揺している。
「ニョロ子さんの蛇は、なぜウナギになったのですか!?」

 背中の上で目を覚ました木葉が見たのは、朝日が昇りゆく海岸だった。
「椿ちゃん?」
 そこに夜散歩に参加した人々が、集まっている。
 グランドエンドの絵面が欲しいTVスタッフが、皆をここに呼んだのだ。
「花火ですー! やっぱり大勢の方が盛り上がるのです!」
「朝の海に向かって歌を唄おう! 合唱だよ!」
「ようやくゴールできたわぁ……♪」
「俺の黒歴史ノート、誰か持ってませんかー!?」
 花火をするもの、歌を唄うもの、達成感に浸るもの、何かを探している者、様々である。
 夜の散歩道。
 終着点は楽しい朝だった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
 蒼き覇者リュウセイガー・雪ノ下・正太郎(ja0343)
 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 奇術士・エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 深淵を開くもの・アイリス・レイバルド(jb1510)
 大切な思い出を紡ぐ・パウリーネ(jb8709)
 大切な思い出を紡ぐ・ジョン・ドゥ(jb9083)
 ┌(┌^o^)┐・ペルル・ロゼ・グラス(jc0873)
重体: −
面白かった!:19人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
リリカルヴァイオレット・
菊開 すみれ(ja6392)

大学部4年237組 女 インフィルトレイター
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
深淵を開くもの・
アイリス・レイバルド(jb1510)

大学部4年147組 女 アストラルヴァンガード
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
大切な思い出を紡ぐ・
パウリーネ(jb8709)

卒業 女 ナイトウォーカー
撃退士・
僅(jb8838)

大学部5年303組 男 アストラルヴァンガード
大切な思い出を紡ぐ・
ジョン・ドゥ(jb9083)

卒業 男 陰陽師
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB
恐ろしい子ッ!・
ハル(jb9524)

大学部3年88組 男 アストラルヴァンガード
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
┌(┌^o^)┐・
ペルル・ロゼ・グラス(jc0873)

高等部2年3組 女 陰陽師
オリーブオイル寄こせ・
ローニア レグルス(jc1480)

高等部3年1組 男 ナイトウォーカー