.


マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:9人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/06/12


みんなの思い出



オープニング

●放送パート
 長らく幻の生き物とされていたツチノコ。
 その姿を目撃した者がいる!
 報告を聞いた我々“久遠ヶ原ケーブルTV取材班”は、さっそく現地へと向かった。
 日本最後の秘境と言われるグンマー。 その遥か沖合にある絶海の孤島・乳島。
 秘境中の秘境と言われるこの島は、探索も進んでおらず地図にすら載っていない。
 いわば未知の島に足を踏み入れた我々は、日本の常識とはかけ離れた光景を次々に目撃することになる!

 クルーザーで乳島に上陸した我々は、入江に小さな集落を見付けた。
 木と藁のみで作られた原始的な住居。
 原住民らしき二人の女性が我々を発見し、向かってきた。
 女性たちは、豊麗な肉体を腰蓑と簡素な毛皮で包んでいる。
 顔を巨大な盾にも似た、恐ろしい仮面で覆っていた。
「お前たち、なにものなのだわ?」
 日本語に近い言語で話しかけてきた女性たち。
 どうやらグンマーの地を通して、この島でも日本語は伝わっているらしい。
 別の島からツチノコを探しに来たと伝え、さらには、スマートフォンで我々の制作した番組を見せてみる。
 とたん、仮面の女性たちは驚愕の声をあげた!
「ハコの中にヒト住んでるざます!」
「魔術なのだわ! 魔術なのだわ!」
 仮面の女性たちは慌ててグルグル駆け回り、我々を畏れあがめた。
 どうやら文明の利器は、未開の島の原住民には刺激が強かったようだ。
 彼女たちは我々を歓迎するかのように、肉の丸焼きや果物などの御馳走を振舞ってくれた。
 この島に存在する数多の部族の一つ、アラサー族。だという。
 元々は、きょぬー族というもっと大きな部族の一員だったのだが、三十歳までに結婚しないと仮面を付けられて追放されるという掟があり、アラサー族に落とされるのだという。
 アラサー族の女性たちは、我々スタッフの若い男たちに尋ねてきた。
「お前ら、エンゴ狩れるのだわ?」
「エンゴ肉旨い! エンゴ毛綺麗! 年に三匹も狩れるなら結婚してやってもいいざます」
 エンゴとは何か?
 尋ねて見ると、衝撃的な答えが返ってきた、
 エンゴは森にすむ肉食の猿人。
 毛皮の質が良く、肉も旨いのだという
 だが、人と同じほどのサイズがあり、獰猛で、俊敏な動きと不気味な力を持っている。 
 彼女たちの仲間が次々にエンゴに挑んだが、一匹も狩れないまま、皆殺されてしまったのだという。
 そんなものは狩れないと我々が答えると、アラサー族の女性たちは突然態度を変えた。
「うわっ、お前たちのシュリョウノウリョク低すぎざます!」
「年収三匹以下の男は、出て行けなのだわ!」
 それまで我々を歓迎していたのに、いきなり追い出された。
 自分たちが一匹も狩れていないものを、他人に三匹も要求する図々しさ、
 そんな風だから結婚出来ずに追放されるのだと、なぜ理解出来ないのだろう?
 我々は島の神秘を垣間見つつ、さらに奥地へと向かう。

●楽屋裏パート
 ここからは、番組制作風景になる。
「はいカット!」
 カメラを停め、ロケを一旦中断する。
 とたん、アラサー族が仮面を外した。
 アラサー族を演じていたのは四ノ宮 椿(jz0294)と、その友人の金髪美女・リズである。
「アラサー族とかやらせんな、なのだわ!」
「ひどすぎざます」
 椿は、叔父でもあるTV局長ワルベルトに詰め寄った。
「ガッハハハ、いいではないか。 現代社会の晩婚化、少子化に対するオマージュ的な意味を込めてみたのだよ」
「そんなメッセージいらないのだわ! ただでさえ、インチキ臭い番組なのに!」
 椿が文句を言っても、黒ひげの巨漢である局長は平気の平左である。

「インチキ臭さはわざとなのだよ、今年の地方TV局番組大賞に、コミカル賞狙いでエントリーする作品の撮影だからな」
久遠ヶ原ケーブルTVのような地方局同士が集まって行う番組コンテストがあり、今年のテーマは“冒険”となっている。
局長は、昔の“あからさまにインチキで大げさな秘境冒険番組”を再現して放送、視聴者からの評判が良ければコンテストにエントリーしたいらしい。
「とんでもない部族や、奇怪なUMAが次々に現れるのに、取材班はあくまでひたむきにツチノコを探す。 “ツチノコどころじゃないだろ!”“こっちの部族やUMAの方がトンデモない発見だろ!”って視聴者にツッコみまくらせる内容だ」
「ギャップのおかしさを狙う演出ざますね」
「アラサー族の次は何に遭遇するのだわ? 役者をしてくれる学園生の子たちが、もうすぐ船で着くそうだわよ」
「ふむ、概要は決まっているが、あとはお任せというところだな。 好きにやって盛り上げてくれればいいのだ、がっはははっ」
「寛大というか、テキトーなのだわ」
 ぶつぶつ言いながらも椿は、局長から薄っぺらい設定書を受け取った。

■乳島設定
・日本領海に浮かぶ絶海の孤島。
・亜熱帯地帯で、この季節はかなり暑い。
・気流や海流の関係で周囲から隔絶されており、文明の風がほぼ全く入ってきていない。
・島の三分の二は原生林、原生林内には謎の怪猿エンゴや、湖に住む怪獣、洞窟に潜む謎生物などなど色々いると言われている。
・密林の北側に爆乳山という標高千メートルほどの双子山がある。
・密林の南側には、ペターン平原が広がる。

■原住部族設定
・きょぬー族……乳が大きいほど高い地位に立てる部族。 爆乳山内の台地に集落を築く女王主権国家。 長は“巨乳女王”と呼ばれている。 乳を持たない男はほぼ奴隷扱い。 この島には他の女性の乳を揉むと、乳の大きさを奪えるという迷信があり、女性同士で争いながら揉みあう光景が見られるなど、数々の奇習がある。  
・ひんぬ―族……人類皆平等な部族。 ペターン平原にあるペタン湖の畔に集落を築き、原始民主制をとっている。 長である“ひんぬー大統領“の座を巡り、四年に一度激しい選挙戦が繰り広げられる。 男女平等ではあるが、きょぬー族で迫害されてきた者が多く、きょぬー族に激しい敵意を持っている。
・その他の部族……以上の二大部族の他、様々な部族の集落がいくつか存在。 視聴者を驚愕させて欲しい。

 設定書読み、椿は怪訝な顔をする。
「きょぬー族? ひんぬー族?」
「学園生の何人かが、正月に変な夢を見たと聞いてな。 それをヒントに設定してみたんだ。 爆乳娘が毛皮ブラでゆっさゆっさするんだ、視聴率がとれるぞ、ガッハハハッ」
 毛皮ブラに包まれたGカップロケ乳を覗きこんでくる局長。
 気付いた椿が赤くなって、アッパーを浴びせる。
「叔父様のエッチ!」
 リズは呆れ顔で、そんな二人を眺めている。
「UMAが次々に現れるのに、乳で視聴率を稼ぐつもりざますか!?」
 局長は、自分と同じデザインの探検服を椿たちに渡してきた。
「その格好はちょっと惜しいが、お前たちもこれを着ろ。 探検隊に加わってもらうぞ」

 探検服に身を包んだ椿たちは、探検隊となって旅立つ。
 キミ達はこの無人島に散らばり、視聴者を呆れさせるようなトンデモ島を演出して欲しい。


リプレイ本文

●放映パート1
 我々が、島の奥地に足を踏み入れようとしたその時、謎の人影が目の前に立ち塞がった!
「お前たち、どこへいく?」
 腰蓑のみを着衣とした原住民の少年である。
 少年は、この島の二大部族の一つきょぬー族の人間で、ショウタロウと名乗った。
「この先はとても危険だ、お前たち武器はあるのか?」
 探検隊が猟銃を見せると、ショウタロウは厳しい顔で首を横に振った。
「ズドダッバンとかいう魔法の筒か、そんなものではピカンガには勝てない、今すぐ帰るがいい」
 ピカンガ、それが何者なのかを尋ねると、とてつもなく大きく強い生き物だとショウタロウは答えた。
 エンゴに加えてピカンガという脅威!
 急遽、本土に連絡をし、UMA退治を専門に手掛けるハンターを呼び出す事にした。

●楽屋裏パート1
 船の中、出演する撃退士たちが撮影の準備に追われている。
「何ですか、アンジュさん、その格好は?」
 今回は裏方専門のエイルズレトラ マステリオ(ja2224)が、眉を潜める。
「何って、いつもの格好よ」
 UMAハンターという設定の加賀崎 アンジュ(jc1276)はミニスカ巫女服に、黒の二ーソックスという、おおよそ説得力のない服装をしていた。
「未開の島を探検するのに、ミニスカ巫女服とかないでしょ?」
「怪異退治を代々専門とする、退魔士の家系って設定なのよね」
「チンピラっぽいのは素なんでしょうが、その服はやめた方がいいと思いますよ? 変な虫とかいそうですし」
「もう刺されました」
 裸の上半身をポリポリかいているのは、先程、原住民役をやった雪ノ下・正太郎(ja0343)。
 かなり痒そうである。
「いいわよ、虫よけスプレーしておくから」
 あくまで、ミニスカ巫女服に拘るアンジュ。
 虫よけスプレーを手に取る。
 すると、雪室 チルル(ja0220)が声をあげた。
「ダメよ! そんなものかけちゃあ!」 
「え?」
「あたい知っているのよ! ツチノコって虫よけスプレーが嫌いで逃げちゃうんだから!」
「別にいいじゃない、本気で探すわけじゃあるまいし」
 そっけないアンジュの言葉に、チルルは顔を真っ赤にして激怒した。
「何言ってんのよ! 本気で探さなきゃダメじゃない! 絶対、見つけるわよ! ツチノコ!」
 怒鳴られてキョトンとしているアンジュにエイルズが耳打ちをする。
「アンジュさん……チルルさんは昔から本気でツチノコ捜しをしているんです」
「ええ?」
「今回の依頼も、それを真に受けて受けてしまったではないかと」
 探検服を着て、ナップサックにツチノコ捕獲道具を詰め込むチルルの目は、無邪気な野望に輝いていた。
「ツチノコ♪ ツチノコ♪ 見つけるのよ〜!」
 とても“ネタ番組です”などと、言える雰囲気ではない。
「あれどうなのよ? 台本だとひんぬー族の役なんでしょ? やってもらえるの?」
「無理そうですね、台本を変更してツチノコを研究している学者って事にしましょう」
「あの子が学者ねえ?」
 さいきょーかつアホの子で有名なチルル。 学者という言葉からは数万光年ほど離れたタイプではある。
 アンジュは溜息をつくと、船外に出て撮影を再開した。

●放映パート2
 翌日、ハンターが到着した。
「初めまして。 私は加賀崎アンジュ、見ての通りの美少女ミニスカ巫女よ」
 一見、ハンターらしからぬアンジュの格好だが、退魔術を代々受け継ぐ、加賀崎家の末裔である。
 心強い仲間を得た我々は、改めて島の奥地へと、足を踏み入れた。

 数分後、椿隊員が奇妙なものを見つけた。
「あれはなんなのだわ!?」
 深く暗い森の奥に潜む、二つの赤い光。
 それは巨大な生物の目のようにも見えた
 我々が正体を見極めようとした瞬間!
 アンジュが発砲をした!
 驚き、逃げていく赤い二つの目。
 謎の巨大生物は森の奥へと姿を消してしまった。
「アンジュ! なんで撃ったざます! 貴重なUMAだったかもしれないのに!」
 リズ隊員が、アンジュに詰め寄る。
「だってしょうがないでしょ? 危険な生き物を追い払うのが私の仕事なんだから」
 隊の中に亀裂が走る。
 探検続行の危機か?
「まあいいではないか、リズの言い分もアンジュの言い分も尤もだ、今度何か見つけたらギリギリまで退き付けて本当に危険だという時だけ攻撃すればよい」
 ワルベルト隊長が仲裁に入り、どうにか探検隊の空中分解は免れた。

●楽屋裏パート2
 森の中。
 エイルズが、アンジュに抗議をし始める。
「アンジュさん、何で撃ったんですか!? 危うく大怪我するところでしたよ!」
 エイルズが手に持っていた赤いLED電球には、大穴があいている。
「へえ、これプロップガンじゃないんだ?」
 撃ったアンジュが、目を瞬かせている。
「ガハハハッ、ダミーでは迫力が出んと思ってな、吾輩がアウル銃とすり替えておいたのだ」
「ちょっと局長さん! アンジュさんも! 確認してくださいよ!」
「ガッハハッ、超絶回避・エイルズレトラなら躱すと信じていたぞ」
「次に、UMAと遭遇したら、こんなもんじゃないわ、虐殺するわよ」
「僕の召喚獣に何する気ですか!」
「殺したら正体がばれてしまうざます」
 あまりにも大らかすぎる局長に、大雑把すぎるアンジュ。
 今後の撮影にも波乱が予想された。

 一方、この次の舞台であるひんぬー族の里セットでも早速の波乱が起きていた。
「いぁいぁ、ひんぬー族とかマジ勘弁!」
 金髪ツインテ美幼女・イリス・レイバルド(jb0442)がひんぬー族の衣装を着る事を拒否しているのだ。
「ボクはトゥラーヴ族がやりたいの! というか、誰がひんぬーかーっ!!」
「いや、どう見ても私以下でしょ」
 イリスの胸の辺りをジト目で見る黒髪ロング美幼女・東風谷映姫(jb4067)。
 眼鏡少年・袋井 雅人(jb1469)がそれを宥める。
 今日は映姫と同じひんぬー族の少年を演じる予定だ。
「ハッハハッ、イリスさん。 椿さんを攫う役のひんぬー族が必要なんですよ、その役の予定だったチルルさんが、ツチノコ捜しにどっかへ行ってしまったそうなので!」
「ボクはトゥラーヴ族なの! ひんぬー族が必要なら恋音ちゃんがやればいいじゃん」
「そんな世界の法則が歪むような事を。 困ったときはお互い様です、トゥラーヴ族の時は私たちも協力しますから」
「むぅ〜、確かにコロロッカさんと、アンガラッペさんは必要か〜、しょうがないか〜」
 妥協したらしく、イリスはひんぬー族の衣装に着替えると、森の中に特設されたひんぬー族の里セットに向かった。
 
●放映パート3
 森を抜けた我々の前には、平原が広がっていた。
 ペターン平原と呼ばれる地だ。
 そのさなかに我々は、大きな集落を見付けた。
「あれはひんぬー族の里よ。 見て、ひんぬーが歩いているわ」
 ハンターアンジュが指差した先には、貧しい胸を毛皮を紐で潜りつけた衣服で隠した少女がいた。
 危険だ! 手に槍を持っている。
 彼女は我々に気付くと、敵意の籠った目で我々に言い放った。
「おまえ達……誰だ? 後そんな憐みの目で私を見るな、刺すぞ」
 椿隊員が、和解を試みる。
「ごめんなさい、ひんぬー族の胸がどれだけ貧相か観察していただけなのだわ」
「本当に刺す!」
「ぎゃー!」
 椿隊員が刺された!
 これは仕方がない!
 我々は謝罪し、ツチノコを探しに来た者である事を彼女に告げた。
「探検隊……? よくわからないがひんぬー族はお前たちを歓迎しよう。 そこのアラサーきょぬー以外な」
 刺されて蹲っている椿隊員を、物影に隠れていた別のひんぬー族が飛び出て来て捕獲した!
「きょぬー捕獲にボク参上!」
 連れて行かれる椿隊員。
 自業自得とあって、我々も追う事はしない。
 さらば、椿隊員。
 
 エイキと名乗る少女は、我々を集落の中に案内してくれた。
「ここがひんぬー族の村だ、私たちは日々平和を楽しみながらきょぬー族に嫌がらせをしているのだ。 先日奴らの村に何十枚もの木の板を投げつけてやった」
 ひんぬー族の村は、ほとんどが平面で出来ていた。
 元々は平等思想の民族だったものの、きょぬー族との争いが続くうち“膨らみは悪、平坦が善”という価値観に染められたのだという。
 原始的な生活の中に存在する心の歪みを、我々は感じた。
 村総出でしてくれた歓迎の宴で出た御馳走も、全て真っ平に盛られ、膨らみは除去されている。
 コンプレックスから生まれた独自の文化だった。

●楽屋裏パート3
「恋音、そこはこのくらいはあっていいんじゃないでしょうか?」
 袋井は、森の中でビニルシートを張り、恋人の月乃宮 恋音(jb1221)と共に絵を描いていた。
「……おぉ……袋井先輩……それではさすがに大きすぎるのですよぉ……全身が胸になっているのですぅ……」
「恋音をモデルにするとどうにもこうなってしまいますね、ハッハハハ!」
 二人は石板に絵を描いている
 島に古代より伝わる乳神神話の“乳神様”を描いているのだ。 

 その隣では雪ノ下と、ラファル A ユーティライネン(jb4620)が乳神様と対になる邪神の像を作っていた。
「ラファルさん、これはどう撮ってもプラモですよ。 古代久遠ヶ原島の遺産としては無理があり過ぎはしないかと」
「いーんだよ、オーパーツオーパーツ」
 こちらの像はラファルがモデル。
 体の数割が機械で出来ているラファルゆえ、像の方もメカメカしくなっている。
「“ひんぬー邪神”とか変な設定つけやがって! 俺は殺戮マシーンがやりたいだけなのに」
「探検番組に、それはどうなのか?」
「そもそも古代久遠ヶ原島って何なんだよ、俺にもわかるように説明しろよ!」

 古代久遠ヶ原島――きょぬー族、ひんぬー族が十万年前に住んでいた島である。
 恋音そっくりの“乳神様“がきょぬー族の神として君臨していたが、袋井そっくりのひんぬー族の少年との悲恋があり、天に帰った。
 ――と、そういう内容の夢を、二十人超の学生が初夢に見たのである。
 複数の撃退士が同じ夢を見ると言うのは、アウルの神秘で珍しい事ではない。
 今回の参加者の中では、袋井、恋音、雪ノ下、イリス、映姫がそれを見ていた。
 袋井や恋音は、話の核になっただけにその夢が印象深かったようである。

「私としてはなんとしてでも“きょぬー族”と“ひんぬー族”は本当にいたんだ!! とみんなにいい意味で強く印象付けたいですね。 現在古代久遠ヶ原島が存在しない理由付け上、ひんぬー邪神は必要なのですよ!」
「それで俺を仕立てあげたのかよ、ひでぇ台本だな」
 というわけで、袋井がひんぬー族の少年に扮し、探検隊を遺跡に案内するパートの撮影が始まった。

●放映パート4
 宴の中で、我々はひんぬー族の少年・マサトと親しくなった。
 マサトは宴が終った後、我々を一つの洞窟へと案内してくれた。
 そこに安置されていた三枚の石板、そこには我々の想像を遥かに絶するものが描かれていた!
「これは古代バインバイン文明のものね」
 ハンターアンジュが、そう解釈した石板には、最近描かれたのかと見間違う鮮明さで絵が描かれていた。
 一枚目は、きょぬー族とひんぬー族が激しく争っている光景。
 二枚目は、巨大な乳房を持つ女神が、少年に見送られながら天へ帰っていく光景。
 三枚目は、きょぬー族とひんぬー族が共存し始めた島を、機械とも思える肉体を持つ邪神が滅ぼしてしまう光景だった。

「一枚目の石板には、ひんぬー族のひとりの青年の悲しい思いが綴られています。 ひんぬー族でありながらきょぬー族の乳神様に救われ従者となり思いを募らせたこと。 乳神様が天に帰ったあともひんぬー族の妻を愛しながらも乳神様を忘れられなかったこと。そんなことがビッシリと書かれているのです」
「二枚目は?」
「この島で二大部族が、乳神が天に帰った後に一度は和解したという歴史です。 しかし三枚目でその歴史が崩壊します。 乳神様がいなくなった事により現れたひんぬー邪神に島は沈められ、生き残った部族も再び争いを始めたと書かれているのです。 この乳島は、もっと大きな島が沈んだ名残なのです」
 驚愕の伝説!
 この島は、久遠ヶ原島の海域にも及ぶ大きな島だったのだというのだ!
 我々、久遠ヶ原ケーブルTV取材班は、この島に導かれた運命のようなものを感じた。

 洞窟から外に出ると、広場の片隅にひんぬー族の一団が集まり、神像に祈りのようなものを捧げていた。
 神像のモチーフは、さきほど洞窟で見た石板に描かれていた邪神に似ていた。
 模型屋に売っているロボ美少女ロボフィギュアと見間違いそうになるが、数万年前から伝わる邪神像だそうである
「あの一団は我々、ひんぬー族の中でも異端者です。 RFAL教という邪教の信徒ですよ」
 眉を潜めるマサト。
 謎の技術に、邪神をあがめる奇習。
 この島には、どれほどの神秘が秘められているのだろう。
 我々は、期待を膨らませつつ、ツチノコを探すためひんぬー族の村を去るのだった。

 続いて我々が目指したのは、乳島最高峰の爆乳山。
 ひんぬー族と今なお争う、きょぬー族が住む山である。
 麓の森に分け入った時、我々は巨大な生物影を見付けた。
「あれは!?」
 再び銃を構えるハンター・アンジュ。
 だがそれより早く、リズ隊員が飛び出す。
「私が正体を見極めるざます!」
 森の奥へと、影を追いかけていってしまうリズ隊員。
「待ちなさい、危険よ!」
 暴走したリズ隊員と、それを追うアンジュ!
 次の瞬間、二人の悲鳴が響いた。
「きゃー!」
 後を追った探検隊は驚愕の光景を目の当たりにする!
 白亜紀の肉食恐竜のそれにも似た、巨大な尾!
 その本体を見せぬまま、森の影へと姿を消してしまった
 原住民たちが恐れる猿人・エンゴを上回る謎のUMA。
 一体その正体が何なのか?
 カメラに映ったわずかな影から我々はそれを推察するしかなかった。

●楽屋裏パート4
「スペード、お疲れ様でした。 いい演技したよ」
 自分の召喚獣・ティアマットを撫でるエイルズ。
「演技ってレベルじゃなかったわよ!」
「思い切り叩かれたざます!」
 アンジュとリズが、痛む体を抑えつつエイルズに抗議する。
「あーすみません、スペードと力加減を確認していませんでしたね。 アンジュさんが確認不足で僕を銃撃した件は、これで水に流しましょう!」
「やっぱり本気でやらせたのね」
「何で、私まで復讐の巻き添えになるざます!?」
「いいじゃないですか、それより、きょぬー族部分の撮影が始まるみたいですよ。 おふたりとも巨乳なんですから、着替えて着替えて!」
 不満を消化できないまま、撮影スケジュールに急き立てられる面々。
 今度は爆乳山の頂近くの台地へと移動した。

●放映パート5
 負傷したハンターアンジュとリズ隊員を治療に残し、我々は爆乳山を登った。
 そこで見た者は、全てが流線型で構成されたきょぬー族の集落だった。
 巨大な乳房を、毛皮で覆う女たちが支配する村。
 そこで我々は意外な再会を果たす。
 島の入り江で、我々に忠告をしてくれたショウタロウという少年だった。
「昨日の事は黙っていてくれ、俺のような“乳なき者“が勝手な事をしたのが知られたらどんな目に遭わされるか」
 怯えるショウタロウ。
 男性は“乳なきもの”と呼ばれ、差別対象なのだ。
 女たちから声が飛ぶ。
「ショウタロウ、肩を揉むざます」
「乳がでかいから肩が凝るのだわー、身分が高いって大変なのだわー」
「こないだみたいに乳を揉んだら、ぶっ殺すわよ」
 慌てて女たちの元に向かうショウタロウ。
 その背中に、部族の徹底した身分制度を思い知らされた。

 我々は、村の奥にある洞窟に招かれた。
 そこで待っていたレンネという巫女は、他のきょぬー族とも一線を画す、あまりに巨大な乳房を持っていた。
「ツチノコ捜しですか、ツチノコ様は乳神様の使いなのですよぉ……」
 蛇は多くの神話で、神や悪魔の眷属とされている。
 この島でも、それは同じだった。
「あの膨らんだ体は、豊穣の女神である乳神様の御加護を受けている為なのですぅ……巫女は、その体液から豊乳薬を作る事も役割なのですよぉ……」
我々が、手土産として持ち込んだブラジャーやサラシを渡すと、巫女は喜び、お礼にとその豊乳薬を少しだけ分けてくれた。
 そして、貴重な情報が!
「……ツチノコ様は、この山の頂近くに住んでいますぅ……あの者のようにツチノコ様を捕まえようとしない限りは、山頂の方へ行くことを許しましょう……」
 ついに伝説のツチノコの居場所がわかった!
 色めき立つ探検隊たち。
 だが、巫女の言葉にはもう一つ、気になるものが含まれていた。
「あの者?」
「こないだ捕えた島外の人間ですぅ……あなた方の仲間なら引き取っていただきたい……ツチノコ、ツチノコとうるさいのですよぉ……」
 我々の前に、手足をロープで縛られた女性が連れて来られた。
「ツチノコ! ツチノコ! あたいはツチノコを探すの! 離しなさい!」
 ツチノコ研究の権威、チルル博士!
 数か月前より消息不明とされていたが、この島に来てきょぬー族に捕まっていたのだ!
 ツチノコの専門家である博士を探検隊に加え、いよいよ我々はツチノコに出会うため山頂へと向かった!
 いよいよ、伝説が目の前に現れる!

●楽屋裏パート5
「昼寝してたら突然、縛られたのよ! あたいのツチノコ捜しをどこまで邪魔するつもりなの!」
 自分を縛ったエイルズに、詰め寄るチルル。
「だって放っておくとチルルさん、ツチノコ捜して、すぐ行方不明になるじゃないですか。 無人島で勝手な行動は困りますよ」
「勝手なのはあんたたちでしょ! なんでしょうもないお芝居に付き合わさせるのよ! ツチノコよ! ツチノコ!」
 真面目にツチノコ捜しをする番組だと思い込んでいたチルル。
 企画内容は読んだはずだが、ツチノコが他のミステリーとのスケールギャップを狙った、いわゆる“当て馬“なのだと理解は出来なかったらしい。
 それほどチルルの中で、ツチノコは大きな存在なのだろう。
 拘る理由はさっぱりわからないが。

●放映パート6
 きょぬー族のショウタロウをガイド役として雇い、山道を登る探検隊。
 山の中腹に近づくとショウタロウが足を止めた。
「この先にある池の脇を通るときは気を付けてくれ、ピカンガに引きずり込まれる事がある」
 ピカンガ! ショウタロウが出会いの時から我々に警戒を促していた巨大UMAの名である。
 山の中腹にある池で、ピカンガが獲物を待ち構えている事があるのだという。
 恐る恐る池の脇を通り過ぎる探検隊。
 無事に池のほとりを通過し、ほっとしたのも束の間、チルル博士の姿がない事に気付く。
 見れば、博士は池の畔でツチノコ捜しをしていた。
「ツチノコはこういう沼地の近くにもいるの、ちゃんと探さなきゃダメじゃない!」
 その博士に、池から飛び出た何かが襲い掛かった! 
「あぶない!」
 飛び出していくショウタロウ!
 その時、博士を救おうとした彼が悲鳴をあげた。
「うわ〜〜!」
 底なし沼に潜む巨大な何かに、引きずりこまれていく!
「助けてくれ〜」
 万事休す、ショウタロウは底なし沼に姿を消した。
 恐怖の巨獣・ピカンガ。
 カメラにその正体は、映っていない。
 だが、探検隊の目にはしっかりとその恐ろしい姿が焼き付いていた。

●楽屋裏パート6
「放映で使うピカンガの目撃イラストなんですけど、これでいいですかね?」
 袋井が、画用紙に色鉛筆で描いた絵を皆に見せる。
「う〜ん、上手ですが少しストレイシオンっぽすぎますね、これじゃあ召喚獣だってわかっちゃいますよ」
 エイルズと二人でイラストを描き直す袋井。

 一方で雪ノ下は、イリスと映姫に怒られている。
「正太郎君、底なし沼に沈む時、思い切り顔が笑ってたねー?」
「すまん、あんな浅い水たまりで必死に溺れる演技をしている自分がおかしくなってしまったのだ」
「もがいている腕に腕時計の痕が見えました……どんな原住民ですか」
  
 その間、恋音は女神姿で山頂に向かい撮影を開始していた。
「……逆光はトワイライトで、消えるのは瞬間移動で再現しますぅ……」
「どうでもいいわよ! あんたその胸にツチノコ隠れてないでしょうね!」
「……おぉ……」

●放映パート7
 山の九合目まで来た我々は、神秘的な光景を見た。
 山の頂に、誰かが立っている!
 逆光に照らし出されたその姿は、さながら日本神話の女神のようにも見える。
 何よりも衝撃だったのは、あまりも巨大なその胸部!
 さきほど会った巫女をもさらに上回る、桁違いのサイズである。
「あれが乳神様であるか!」
 探検隊が、山頂に近づこうとした時だった。
 シルエットが霞の如くふっと消えてしまった。
 一体、山頂にいたのは何者だったのか?
 それを確かめようと、再び山を登り始めた時だった。

 山の地面が轟音と共に揺れ始めた!
「噴火だー! 噴火するぞー!」
 山頂から噴煙! 火山の噴火だ!
 爆乳山はその名の通り、爆発する山だったのだ!
 あのシルエットは、危険な山頂に近づくなという乳神様の警告だったのか?
 あるいは噴火自体が、ツチノコを捕えようとした我々への天罰だったか!?
 確かめる術もなく、我々は、ひたすらに急いで山を下りた。

●楽屋裏パート7
「なんで山を下りちゃうのよー! いるんでしょ! ツチノコー!」
 仲間たちに無理やり山を下りさせられたチルルは、怒りを爆発させた。
「いやだから、火山が噴火」
「してないわよ! 揺れてもいないじゃない!」
 全員、噴火に慌てていたが当然、演技である。
 放映では編集で揺れや、噴煙を合成する予定だ。
「ピカンガとか女神なんてどうでもいいの! ツチノコを探しなさいよ!」

 一方、イリス、袋井、椿は顔に褐色ファンデーションを塗り始めた。
 二大部族以上の謎部族、トゥラーヴ族の撮影が始まるのだ。
「ココロッカさんですか、トゥラーヴ族は全員、褐色肌なんですね」
「私は、アンガラッペさん役だわね? 美の化身って設定が気に入ったのだわ」

●放映パート8
 火山の爆発から必死で逃げる探検隊の前に、見た事もない集落が現れた。
 助けを求め門をくぐろうとすると、金髪に褐色の肌の幼い少女が立ち塞がった。
「我らは真実の愛を探求するトゥラーヴ族! 愛無き者に我らの領域を跨ぐことは許されぬ!」
 集落に我々を立ち入らせまいとする少女。
「火山が爆発しているざますよ!」
 逃げる途中で合流したリズ隊員が訴えても、少女は頑なに門を開けようとしない。
 それほどまでに排他的な部族なのか?
 だが、この島に詳しいハンター・アンジュが話しかけると態度が一変した。
「集落を見学したいんだけど」
「あ、部族見学の方ですか、受付はあちらですので石版(バキュラ)に拳形を作ってからお入りください」
 我々が戸惑っていると、少女の態度はまた一変した。
「……いいから早く石版を殴れ、素手で。 愛があるなら拳が砕けようが石版に己の愛を刻めるはずだ、殴れ」
 冷たい目で我々を見つめる少女。
 拳を痛めながらも、我々は集落内に避難した。

 イリスと名乗った少女は、集落の仲間を紹介してくれた。
「彼が第一村人のコロロッカさん、彼は元いた部族を滅ぼした巨大リス『ベソベソ』に心奪われ力をつけるためにトゥラーヴ族へとやってきた。 今は修行の前の精神集中のために精霊への祈りの舞『アッケルマイズナァ』をしている。 半径三十m以内に近づいたら殺されるので見かけたら全力で逃げるように!」
 近づいただけで人を殺す行為のどこに真実の愛があるのか?
 それを尋ねると、イリスは衝撃的な答えを返してきた。
「真実の愛って、なんなんだっろうねー?」
 なんとトゥラーヴ族にも真実の愛が何かはわかっていないらしい。
 わからないからこそ探求するのだと言うイリス。
 十万年近く追及して、なおわからず。 それでも諦めないその頑なさに我々は畏敬の念を抱いた。

「第二村人はアンガラッペさん。 元アラサー族で今は美の化身だ。 愛と聞いて不純な動機で我が部族に飛び込んだものには懲罰が与えられる。 地獄のエステ“マルィガリィ”によって身も心も垢を落としきられた者はキャラ性を完全に失い没個性化ただの美の塊となる。 我らは美ではなく愛を求めているのだ! 恐ろしい結末だよ」
 個性を失わせる事のどこに真実の愛があるのか?
 この部族の謎は、我々の理解を遥かに超えるところにあった。

 その時、二人の原住民が駆け込んできた。
「ひんぬー族の村が、滅ぼされました!」
「……おぉ……この世の終わりなのですよぉ……」
 ひんぬー族のエイキと、きょぬー族の巫女・レンネだ。
 衝撃的な報告!
 火山の爆発によるものか?
「違うのですぅ……きょぬー族の村は搾乳しおしおのぷー光線にやられたのですぅ……ほらこの通り胸が小さくぅ……(ふるふる)……」
「ひんぬー族の村はスペルゲン盆地胸超振動攻撃で砕乳されました! ひんぬー通り越してもう窪みですよ!」
 原住民たちの神話で、かつて島を沈めたものと同じ攻撃だ。
 信じがたい事実!
 だが、それは顕れた。
「なんだ、あれは!」
 おわかりだろうか?
 火山灰の向こうに見える、人影のようなものが、
「RFAL! RFAL!」
 トゥラーヴ族たちが畏れを込めた声で、その存在の名を呼んだ。
 我々はようやく理解した。
 乳神様の顕現は、この災厄への警告。
 爆乳山が突然噴火したのも、RFALの攻撃の影響によるものだったのだ!
 探検隊はRFALの魔手から生還する事が出来るのだろうか?

●楽屋裏パート8
「……おぉ……何か方向性が変わってしまったような……(ふるふる)……」
 巫女姿で台本を読む恋音が、乳を震わせている。
「完全にSF方向に流れてますね、これ」
 映姫もジト目だ。
「ラスボスがいたほうが締まるだろ!」
 カオスの元凶であるラファルは、ひんぬー邪神RFALの衣装を装備し、ドヤ顔である。
「いや、ラスボスとかいう話じゃないっからね、謎部族とかUMA探す話だからー」
 トゥラーヴ族姿のままのイリス。
 謎すぎる部族だったが、まだしも方向性としては正しかった。
「エンゴとは、一体なんだったのか」
 呟く雪ノ下。
 他の裏設定はともかく、アバンタイトルから、その存在が示唆されていたエンゴ。
 だが、演じるものがいなかったので、未回収が決定的である。
「RFALはもう撮影しちゃいましたし、そのまま使いましょう。 ところでどうやって倒します?」
 エイルズが尋ねると、ラファルは裏設定をすらすら話し出した。
「伝承の通り額の“EMES“の文字。Eを消せば滅びるぜ、ただ実際に書かれているのはRFALでしかも、尻に……」
 首を捻るアンジュ。
「アホ番組だからもう少し、知性低めの方がいい気がするわね」
「こういうのはどうでしょう」
 袋井が提示した新たな案は、名案のように思えた。
「乳神様の奇跡もアピール出来ますし、ラファルさんのキャラクター性も活かせると思うのです!」

●放映パート9
 我々に迫りくる謎の存在RFAL!
 UMA、あるいはUFOなのか?
 探検隊は、そして乳島はRFALに滅ぼされてしまうのか?
 絶望に包まれかけた時、怪異退治の専門家であるアンジュが叫んだ。
「乳よ! RFALの乳を大きくするのよ!」
 なんという奇策!
 確かに貧乳の神であるなら、巨乳にしてしまえばその力を失うのが道理だ!
 しかし、そんな方法が!?
 我々は思い出した! きょぬー族の巫女に貰った豊乳薬の事を!
「これを、ラファルの胸に撃ちこむのだ! ハンター・アンジュ!」
「任せな!」
 ライフルに豊乳薬を詰めた弾丸をセットするアンジュ。
 その照準が、ラファルの平坦な胸を捕えた、その時!
「お、お前!? ぐあーっ!」
 どこからともなく飛んできた、青い人型の物体がラファルを殴りつけ、撃砕した!
 すぐさま、姿を消してしまう青い人型の物体。
 その正体を確認する事は出来なかった。
 あるいは、島を守るため現れた猿人・エンゴだったのだろうか?

 夕日の中、呟く隊長。
「この島には、まだまだ多くの神秘が秘められている、それは人の手が触れてはいけないものなのかもしれない」
 探検隊は乳島を去った。
 きょぬー族、ひんぬー族、トゥラーヴ族、様々な部族との出会いと友情を胸に抱いて。
【END】

●楽屋裏パート9
 ラファルをぶっとばした青い人影の正体。
 それはチルルだった。
「チルルさん! なんて事を!?」
「あそこでラファルさんを巨乳化させて鎮めれば、乳神神話が綺麗にまとまったんですよ」
 口々に言われると、チルルは堰を切ったかのように堪えていた涙を流し始めた。
「だって、ツチノコ探しにきたのに、あんたたち騒いでばっかりじゃない! 絶対、見付けたいのに、うえ〜ん!」
 声をあげて泣き始めるチルル。
 真面目にツチノコを追い求めているのに、皆が余計な事ばかりしているのでストレスが限界に達したのだろう。
「……本当にツチノコが捜したかったのですねぇ……」
 母性溢れる胸にチルルを抱く恋音。
「ここは愛と絆だよ! 全員でツチノコを探そう!」
 イリスの提案に頷き、ツチノコを探し始める一同。
 地面には、さいきょーにぶっ飛ばされたラファルだけが残されていた。
「お前ら、まずは俺を見付けろ……」

 結局、みんなで一生懸命捜したもののツチノコは見つかる事がなかった。
 だが、疲れ果てるまで探したチルルは、帰りの船の中でツチノコと出会えたようだ。
「あたい天才だからわかるわ! あんたツチノコね!……むにゃむにゃ……」

 放送終了後、カメラの端に時々映っている、謎の爬虫類型生物がネットで注目された。
 それがツチノコだったのか、エイルズが悪戯に仕掛けた召喚獣だったのかはわからない。
 だが明らかに作り物なこの冒険も、見る者の胸の奥に眠っていた探究心を駆り立てるだけのものはあったようだ。
 多くの者が本物の探検へと旅立っていく、未知なる何かとの出会いを求めて。


依頼結果