●
“週刊オンラインゲーム”の記者は、まず礼野 真夢紀(
jb1438)の部屋に向かった。
真夢紀は、去年に行った最初のシエリュオン取材でも取材協力してくれた馴染の顔である。
「うちのPCも成長したんですよ、ほら!」
パソコン画面をメインPCのマイページに切り替える真夢紀。
去年は、シュエリオンのロゴしかなかった画像スペースに、女子小学生のバストアップグラが表示されていた。
「おお、発注されたんですね、可愛いです」
「去年、いただいた依頼費でね。 気になっていた絵師さんの窓も開いていましたし……でも評価に“かわいい”より“セクシー”が多いのが気になります」
PCである“南野蒼穹”は水着姿でも何でもなく、普通に赤いランドセル背負った小学生である。
なのに“かわいい”28票に対し“セクシー”が105票ついていた。
「まあ、赤いランドセルを見ただけで興奮する人たちがいるんでしょう」
「闘牛みたいですね。 ――もちろん成長させたのは、そこだけじゃありません」
去年より学年が一学年あがり五年生になっていたり、外見年令が十一歳にあがっているのは時の流れにしても、レベルがかなりあがっている。
特筆すべきは、スキル欄に“応急処置”がついている事だった。
傷口を塞ぐ、貴重なスキルである。
「保健委員になって、海難救助講習会とか参加したから習得可能になったのよ」
「撃退士じゃない普通の人間って、応急処置一つ覚えるのも大変なんですよね、医療関係者やボクサーのセコンドにならないと」
そんな話をしている時、パソコン画面上でメールソフトが起動した。
「あ、PCメールが来ました」
メールを送ってきたのは、“隣のお兄ちゃん”だった。
蒼穹と交流があるPLである。
リアルでも久遠町でも、隣同士に住んでいるのだという。
「ふむふむ“商店街の防衛するんだが、人数欲しいから良かったら協力してくれないか?”だそうです」
「商店街防衛ということは、選択肢三ですね」
腕を組み、難しい顔をしている真夢紀。
「どうしたんですか?」
「正直、個人的には賛成出来ないんですよね。 “だらてん!“のアニメ化って」
部屋を見回してもわかるが、真夢紀はアニオタである。
同人誌は本棚に並んでいるし、画材があるところから見て、自分でも描いているようだ。
「まさか、選択肢四へ……」
他のPCと対決する選択肢四は、戦闘系大規模としては禁断の選択だった。
それだけに、選択者も多そうだ。
人間、いけない事こそやってみたくなるのもサガである。
さらに言えば、鍛えあげた自分のPCで、有名PCの首を盗り、名をあげようという野心を持つものもチラホラいると聞く。
真夢紀は、真剣に思索を巡らせているようだった。
「もう少し考えます、連動ピンアップの絵面も変わってくるし……」
彼女がどう選択をするか、記者的にも注目だった。
●
「意外な人が、PLさんだったんですね」
「そうか? WTRPG自体のPL層は俺みたいなリーマンが多いと聞いたがな」
続いて取材に訪れたのは金髪三十路白人、ミハイル・エッカート(
jb0544)の部屋だった。
「確かに、WTRPG自体は大人のゲームですね」
「なにせ星が……ゲフンゲフン……で、何の取材から始める?」
「まず、ミハイルさんのPCから見せて下さい」
「おう、こいつが今のメインだ」
ミハイルがPCモニターに表示したのは、記者も知っているPCだった。
龍岡虎男(たつおか・とらお)。
コワモテ渋メン。年齢が四十代半ばというのも珍しいのだが、何よりレアなのがそのジョブである。
「この親分さん有名じゃないですか! 中の人、ミハイルさんだったんですか!」
「“任侠”は、火力的には最高クラスだからな。 他のジョブでは入手不可能に近い銃器が手に入る」
“任侠“は裏社会ジョブの一つ。
普通のジョブでは出来えない事や、NPCの裏の顔に接触できるのが売りである。
「その分、デメリットも大きいから皆、やりたがらないんですよね」
「その制限には苦労させられているぜ、着ぐるみで商店街の掃除したり、物産展の販売していたら、他の参加者にばれてドン引きされた」
「“任侠”は、どうにも周りがビビりますからね」
「お蔭で仕事が上手くいかず、どうにもしのぎがあがらん、いっそ抗争関係の依頼でも増えればいいんだが」
ぶっそうな事を言うミハイル。
つまりは、久遠町が“修羅の国”と化すという事である。
「俺の寄合所はここだ、表向きは、警備会社って事にしているんだ」
ミハイルは、マウスをいじり“有限会社 金剛龍”へと移動した。
結構、所属人数が多い。
半数の十名はミハイルのサブPCで“警備会社の社員”らしいが、宝島町長やら徳田家当主やらの有名NPCまで出入りしている。
胡散臭い裏仕事系の依頼で、知り合いになったらしい。
「お帰りなさいません、親分!」
ミハイルがメインPCである龍岡を相談板に入れると、待ち構えていた“社員”たちが一斉に挨拶をしてきた。
「親分じゃねえ、社長と呼べ!」
龍岡がアイコンをドスの効いた顔に変えて、挨拶し返す。
ここまでの流れはテンプレらしい。
「実は、俺と背後の違う社員PCは、大半背後が女性PLなんだ」
“社員”たちは皆、顔に傷があったり、剃り込み三白眼だったりと、迫力に満ちたお顔立ちをしていて、とても中身が女性だとは思えない。
「こいつらは元々、普通の美少年PCだったんだが、ジョブチェンはおろか、BU(バストアップ)やIC(アイコン)まで新調して“入社”してきたんだ。 龍岡はなぜか女性に人気がある、俺よりもな」
皮肉げに笑うミハイルに、記者がフォローをする。
「ミハイルさんだって、ピーマンで騒いだり、やたら銃ぶっぱなしたりしなければ、おモテになると思いますよ」
とたん、ミハイルは懐から銃を抜き放った。
ドキュドキュウと二連射する。
「うるさい! ピーマンの事は言うな!」
脂汗を垂らし、目がマジなミハイル。
「これだから嫁の来手がないんですよ……」
記者の背後では穴の開いた壁が、煙をあげていた。
相談卓を見ると『社長、今回の大規模はどうしやしょうか?』という書き込みが来ていた。
「そうだな……選択肢三にするか、町がつぶれると俺達の食い扶持がなくなるからな」
ミハイルがそれを書きこむと、相談卓で激しく作戦案が飛び交い始めた。
参謀タイプの構成員、もとい“社員”もいるらしい。
「後は、こいつらの議論がある程度まとまるまで待つ。 俺が発言すると、そこで固まってしまうからな」
「鶴の一声って奴ですね」
「他に取材で見せられるものは、と――そうだ、大規模作戦ピンナップコンテストに応募しようと思うんだが、このツイピンで考えているんだ」
ミハイルが、少し前に作ったというツイピンを見せてくれた。
ドスをかざす龍岡とチャカを構えた社員の、ツーショット画像だった。
微妙な顔をする記者。
「う、う〜ん――せっかく経費も使える事ですし、新しく発注してみては」
ふっと笑うミハイル。
「あの五千の星なら、すでに籤の闇に消えたさ」
「もうですか!?」
「“社員”全員の装備を整えさせたかったんだが、現実は甘くないぜ」
蒼い目で遠くを見るミハイル。
確率的には薄いとわかっていても、見果てぬ夢を追ってしまう。
この男の中には、少年の日の夢がいつまでも息づいているのだろう。
●
少年の日の夢を具現化させているといえば、この男。
「どうも、我龍転成リュウセイガーです」
チャイムを鳴らすと、なぜか青龍を模したヒーロースーツに身を包んだ男が玄関から出てきた。
雪ノ下・正太郎(
ja0343)である。
「なぜそちらの姿で……」
「雑誌映えすると思いまして」
ヒーローが変身した姿でパソコンの前に座ってWTRPGをしている姿というのはシュールすぎる。
絵面が落ち着かないので、普段の男子高生姿に戻って貰った。
「雪ノ下さんは、いつからシュエリオンを遊んでいるんですか?」
「割と初期からですね、鎧・攻太郎(よろい・こうたろう)というPCです」
「ああ存じ上げています、攻撃と防御が合わさって最強に見えるお名前ですよね」
鎧・攻太郎は二十七歳の男性。
ジョブは私立探偵。
依頼では他PCやNPCの身辺警護を主に行っている。
「最初は警備会社勤務でジョブがボディガードだったんですが、ジョブチェンジして鎧警備探偵事務所という事務所を開設したんです」
「警備? だとすると龍岡虎男さんとは――」
雪ノ下がやや眉を潜めた。
「“有限会社 金剛龍”ですか? 依頼で一緒になる事もありますね」
元は準キャリア警官だったという設定の鎧は、よく金剛龍の連中とは反目するらしい。
とはいえ、あくまでPC対PC依頼のプレイング内だけの話で、チャットや呟きでマナー違反になるようなロールプレイングはしていないのだという。
「今回の大規模でも金剛龍が選択肢四を選んだら、全面対決の覚悟はしています」
割と真剣な顔の雪ノ下。
「いやいや、そっちの筋の人達が、萌えアニメの実写化でブチ切れたりしないでしょう!?」
今の所、金剛龍は選択肢三だと告げると、雪ノ下の表情が緩んだ。
「そうですか、町を守ろうとする意志は彼らも一緒なんですね、でしたら今回は協力し合えるよう連絡をとりましょう」
ライバル同士が結束して戦う!
今回の大規模は少年漫画並に熱い展開になりそうだ。
●
次の取材は兄妹二人である。
フェイン・ティアラ(
jb3994)とヤンファ・ティアラ(
jb5831)の部屋に行くと、なんとID登録部分から始め出した。
「斡旋所の依頼で見付けたから応募してみたんだよ」
「お兄ちゃんに、誘われてなのですっ!」
兄妹ともこの手のゲームは初めてらしい。
これは記者的には嬉しい誤算である。
未経験ユーザーがゲームを始める過程をレポートすれば、初心者をユーザー化しやすくなる。
オンラインゲームの常連ユーザーの増加は、雑誌の売り上げ増加にもつながる。
クラヤミゲームスからの覚えもめでたくなるし、いい事ずくめだ。
「RPGっていうのは、本来なりきりゲームって意味なんですよ……」
ただ、最初の説明が大変である。
記者は、幼げな兄妹にもわかるよう、噛み砕いて概要を説明した。
「つまりは、ヒーローごっこ遊びということなのですねっ!」
「まあ、そうですね」
ヤンファが独特の感性で解釈をしてくれた。
「なんのジョブがおススメかな?」
兄のフェインがキャラメイク画面を開いて尋ねてくる。
記者も、前回取材時からシュエリオンはプレイしている。
ミハイルや雪ノ下のPCを知っていたのは、そのためだ。
「少し前は、いわゆる“士業”安定でしたね」
「おサムライさん?」
なぜか目を輝かせるヤンファ。
「いえ、弁護士とか行政書士とかの意味です。 それも今は勧められません。 皆が安定だと思って群がったがゆえに、仕事――つまり依頼の取り合いになって、逆に不安定になっているという時期です」
「なんか生々しいですのっ」
「個人的には最初は現実のジョブに近いものがいいと思いますよ、感覚的にわかりやすいですから」
「そうだね、バハムートテイマーに近いものってなにかな?」
フェインが、ジョブ一覧を探り出した。
「ドッグブリーダー辺りじゃありませんか?」
「ワンコは可愛いですのっ!」
「よしそれにしよう! ふむふむ、LV1だとまだ見習いなんだね……名前はフェインのままでいいや」
フェインがキャラを作り、次に装備を整える段階に入る。
「武器は音で命令するホイッスル、っとー。 犬はスキル欄にセットするんだね。 ポメラニアン、セントバーナード、ボルゾイ、グレートピレニーズ、シベリアンハスキーの五匹といつも一緒にしたいなー……あー、最初だと一匹しか選べないのかー」
「ドッグブリーダーLV1は、小型犬一匹しか任せてもらえません」
「じゃあポメラニアンのシュー、小回りがきいて偵察が得意な子っと」
「朱桜みたいですのっ!」
朱桜というのはフェインの召喚するヒリュウらしい。
ポメラニアンにシューと名付けたのも、そこから来ているのだろう。
こうしてフェインのPCであるフェインが誕生した。
今度はヤンファのキャラメイク。
「ヤンファは時代劇役者でいきますのっ!」
「時代劇オーディションで陰陽師の役でも狙うんですか?」
安倍清明とかたまに時代劇に出ている。
首を横に振るヤンファ。
「今のジョブは関係ありませんの! 時代劇は殺陣がカッコイイのですよっ! 実戦は二の次なのです。かっこいいいずじゃーすてぃーす!」
目がキラキラしている。
なりきり遊びは向いているようだ。
撮影用の殺陣刀とを武器に装備、乗馬スキルをセットしてヤンファも新PC、ヤンファを誕生させた。
続いて記者は、他にどんなPCがいるかを二人に見てもらった。
「他のPCさんはみんなかっこいいイラストがついているね」
「本当ですの! ヤンファたちのは、ロゴだけですのに!?」
「ボクも欲しいなぁー……これ自分で描いたりするのー? 皆うまいねー」
そんなわけはないと、画廊の存在を教えてあげる記者。
「あ、プロの人に描いてもらうんだねー」
久遠町画廊に移動し、発注方法を記者が教える。
「☆五千あれば、BUとアイコンのセットも発注できますよ」
「こっちのは、二人が描いてありますのっ!」
「ツインピンナップですね、好みのシチュで二キャラの揃っている場面を描いてもらえます。 BUがある人同士じゃないとダメですけどね」
「楽しそうだなー、ヤンファと一緒にイラストとか作ってみたいかもー」
仲のいい兄妹である。
数か月後には、マイページにツイピンが並んでいるかもしれない。
「こっから何をすればいいのかな?」
フェインが記者に尋ねてきた。
記者は眉を潜めた。
割と素直そうな二人なので、記者が教えるとその通りに動いてしまいそうだ。
人の言うなりに操作するゲームなど面白いわけがない。
かといって☆5000は決して多くない。
上手に使ってもらい、大規模を楽しんでもらいたいものだ。
そう考えた記者は、今まで取材を受けてくれた三人に連絡をした。
●
フェインとヤンファは記者にやり方を教わり、新しい寄合所を作った。
“初心者大規模作戦相談所“というそのままの名前である。
「いきなり僕が所長とか緊張するよー」
記者が携帯で連絡をしたのが功を奏し、さっそく三人のPCが入会してきた。
相談卓で、会話を始める。
当然皆、PCになりきったロールプレイのため口調も大きく変わっている。
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
よろしくー、始めからいきなり大規模作戦とはせわしないわね。
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
龍岡だ。 見た目は恐いが安心しな。 とって食ったりはしねえぜ。
コミュニケーションもこの手のゲームの楽しさだ、仲間は多い方がいいぜ。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
鎧・攻太郎だぜ。 町と人の平和を守る、正義の騎士だ。
困った事があったら頼ってくれ。
フェイン(sc0009)|ドックブリーダー|
集まってくれてありがとう、よろしくね!
ヤンファ(sc0010)|時代劇役者|
宜しくでござる! 早速だが、最初は何をすべきであろうな?
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
今、フェインさんとヤンファさんのマイペ見せて貰ったけど、装備に不安があるわね。
最悪、そこのヤクザの流れ弾に当たって死亡判定よ。
いきなり手厳しく指摘したのは蒼穹の背後、真夢紀。
今回の大規模は激戦、いきなり死んだり重体になっては可哀そうだと考えているのだろう。
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
ヤクザじゃねえ! 社長だ! そんな下手は打たねえから安心しろ。
とはいえ、絶許軍の攻勢に耐えられるかは確かに不安があるな。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
じゃあフェインとヤンファは、俺の後ろに隠れていろ。
俺は防弾チョッキを持っているから、少しは耐えられる。
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
それで安心していたら、頭に銃弾くらってロストしたPCを何人も見たけどね……。
ヤンファ(sc0010)|時代劇役者|
かたじけない、では、我々も鎧殿と同行させてもらうぞ。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
俺は、選択肢三にいくつもりなんだ。
町を荒らすやつは許せねえ。
フェイン(sc0009)|ドックブリーダー|
選択肢三って、商店街だよね?
いきなりそんなとこに行って大丈夫かな?
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
やばくなったら逃げりゃあいいさ。
自動車は、まだ無理か?
ならチャリだな、小回りがきくから、路地裏にでも逃げこめ。
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
私も足は自転車よ。 あれなら最初にもらえるお小遣いで買えたはず。
シュエリオンでは、キャラメイクをすると支度金として町内通貨が二万がもらえる。
ちなみに単位はQである。
ヤンファ(sc0010)|時代劇役者|
拙者は自転車より馬を所望したい!
暴れん坊な征夷大将軍がOPで乗っているような、白馬で立ちまわりたいのだ。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
馬!? そりゃ無理だぜ、あのクラスの馬だと何百万Qとかするんじゃないか?
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
馬なら、こないだ始まったペット籤の中にあったわよ。
Aランクだけど。
ヤンファ(sc0010)|時代劇役者|
まことであるか!
後で引いてみるでござる。
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
そうだ、大規模とは無関係だがWTRPGをするにあたって、新人さんに注意しておきたい事がある。
フェイン(sc0009)|ドックブリーダー|
なにかな?
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
PCとPLを同一視するなよ。 美幼女キャラの背後に直接会ったら、汚いおっさんで、それがショックで辞めた奴とかいくらでもあるからな。
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
なんだそっちの話?
てっきり、籤にハマりすぎるなって事だと思ったわ。
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
そっちはしょうがねえ、宿命だ。
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
こうしてまた数多の星が闇に消えるのね、虚しいわ。
雪ノ下、ミハイル、蒼穹が揃って溜息をつく。
どれだけの星が消えたか、考え始めると自然こうなるのだ。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
ところで龍岡、もし町を守りたい気持ちが同じなら、一時休戦といかないか?
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
いいだろう、カタギの新人さんとも関わっちまったしな。
今回は連携をとってやる。
部下たちにも、任侠の名にかけて背中を撃つような真似はさせんさ。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
よし、お前との決着はこの件が片付いてからだ。
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
私も足並み揃えようかしら。
お兄ちゃんの家も守らなくちゃいけないものね。
こんな具合で今回の大規模には揃いの【金剛龍】タグで参加する事になった五人。
行動入力締切まで、ほどほどに時間がある。
残りの期間はそれぞれに過ごす事となった。
●
二日後。
蒼穹のPLである真夢紀の部屋。
「星もいただきましたし、いい依頼でも探しましょう」
お小遣いの使い所が多すぎて、あまりシエリシュオンには使えない蒼穹。
この取材で貰える星5000は、かなり嬉しい。
「いよいよ連動依頼が出ましたね――ふむふむ、“【絶許】ネットで実写化について語ろう”ですか、なんかどっかの掲示板のスレタイみたい……」
などと言いつつも、興味のあるテーマのイベシナなので、窓が開くと同時に参加ボタンを押してしまう。
しばらくして、相談卓を覗く蒼穹。
そこには衝撃的な光景が待っていた。
「これは!? 皆さん、本気ですか!?」
一方、フェイン、ヤンファ兄妹は大規模用の準備を整えようとしていた。
「さっそく、BUを作ろうかな〜、顔無しだと寂しいし」
相談卓で聞いた情報を元に、久遠町画廊に赴き、仕事の速い絵師さんに絞って過去絵を見るフェイン。
「この人がいいや……あれ、エラーが出た?」
「きっと先を越されたんですのっ! 窓が開いた瞬間、フェンシングのスキルなどを使って超速度で発注する人もいるとか言っていましたのっ!」
「なにそれ、戦闘依頼より厳しいや」
一方、ヤンファは相談卓で聞いた“ペット籤”に手を出してしまっている。
「あ〜! またカブトムシの幼虫ですの〜!」
誰しも通る道だが、欲しいものが中々得られないのが籤というもの。
Aランクの馬はおろか、Bランクすら出せない。
ヤンファの手元から星は減り、その分、Dランクの“カブトムシの幼虫”が溜まっていった。
装備品籤分の星は残そうと思っていたのだが、意地になり、やめる事が出来ない。
「くすん、今度こそ、今度こそ最後ですの〜」
「諦めよう、もうカブトムシの幼虫で戦う方法を考えたほうがいいよ」
フェインが妹を止めようとしたその時! 奇跡が起きた!
最後にヤンファが引いた籤。
それがSランクのアイテムを導いたのである。
「すごい、大当たりだね!」
「念願のお馬さんですの!」
「え? ヤンファ、よく見て! これはただの馬じゃないよ!」
ヤンファが手にいれた馬の正体は、あまりに意外なものだった。
●
行動入力締切三日前、記者からPLたちに再び連絡がきた。
独自取材により、今回の大規模における大体の傾向がわかったというのだ。
その結果は五人のPLを、驚愕させうるものだった。
「八割のPCが選択肢四だと……!?」
なんと、大半の町民が町と対立する選択肢四を選ぶというのだ。
緊急事態に五人はログインし、フェインの相談卓に集った。
フェイン(sc0009)|ドックブリーダー|
どういう事? 僕ら少数民族なの?
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
少数派ってだけならいいがな、このままとかなりの高確率で俺達は死亡判定を受けるぞ。
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
四倍の数の敵に、勝ち目があるとは思えないわね。
最高難易度の選択肢三は大型地雷かな。
ヤンファ(sc0010)|時代劇役者|
余は生まれたばかりで、いきなり死ぬのか。
フェイン(sc0009)|ドックブリーダー|
こないだ発注したBUが、遺影になるんだね……。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
何だってこんな事になったんだ!
町の奴らに正義はないのか!
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
タイミングが悪かったわね。
ここ数日、リアルでアニメの酷い実写化が、何本か発表されて炎上しまくっている時だもの。
PLたちの気持ちがそれにシンクロしたんでしょうね。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
それだけで町を裏切るのか? 納得いかんぞ!
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
ふっ、理由などどうでもいい。
俺は任侠として徹底的にやるぜ。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
待て、法を犯すような行為は俺が許さん!
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
そんな事言っている場合か! 自分や部下の生命がかかっているんだぞ!
ヤンファ(sc0010)|時代劇役者|
喧嘩はやめるでござる! 仲間割れはいかんでござる!
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
思えば、元々MSたちにも絶許軍賛同者が多かったわよね。
連動依頼がほとんど絶許目線だもの。
参加した連動イベシナでも、相談卓の時点から絶許派揃いだったわ。
カオスなリプレイだったわよ。
フェイン(sc0009)|ドックブリーダー|
発注したBU、モノクロにしてもらおうかな……。
絶望的状況。
今回の大規模を見送る事が最大の安全策ではあるが、大規模参加前提で取材を受けてしまった以上、それは出来ない。
今から絶許軍に鞍替えするというのも、面子が傷つく。
仕方なく、五人は選択肢三のまま大規模作戦への参加を決意した。
●
その夜。
ミハイルは“有限会社 金龍組”に龍岡と、別PL社員たちを集めた。
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
「お前たち、集合写真だ! 金龍組全員で撮るぞ」
錦織 譲(sb4456)|任侠|
集合写真? 大人数ピンナップですか?
ヴェスパー翔太(sb8900)|任侠|
「藪から棒にどうしたんですかい?」
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
「気にするな、社員も増えたし、何となくそんな気分になっただけだ」
チャットに行き、いままで世話になったPCたちに挨拶する龍岡。
理由はない、ミハイルが龍岡にそうさせたかったのだ。
一方、雪ノ下も、鎧と交友のある警官PCを自分の立てた寄合所である鎧警備探偵事務所に呼んでいた。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
厳しい状況だが、町の防衛のためだ。 力を合せて絶許軍を追い払おう
新畑仁一郎(sa6678)|警官|
鎧さんには申し訳ありませんが、今回は選択肢四にいかせてもらいます
絶許軍として。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
何!? 警官ともあろうものが町を荒らす気か!
片津健一(sa6678)|警官|
すまんが、こちらの気持ちもわかってくれ。
二次元は二次元のままであればいいのだ。
無理やり三次元に引っ張り出されたものを見た時のあの絶望感!
リアルで繰り返される悲劇を、久遠町にまで持ち込みたくない!
新畑仁一郎(sa6678)|警官|
鎧さんの背後さんも特撮好きだったはず。
好きなものを、その良さを理解してない輩に汚されたくないという気持ちは、御理解いただけるのでは?
赤島俊三(sa0090)|警官|
アニメの話抜きにしたって、宝島町長が普段から横暴過ぎでしょ?
ここらで一発〆てガス抜きしたいってのが、町民大半の意志でしょ?
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
わかった……今回だけは敵同士だ。
法を犯すような事はお互いしないよう約束し合おう。
焼け石に水とわかっていても、多くのPCの死亡判定がかかっている以上、やらざるをえない。
たかがゲームだというのに、手塩にかけて育てた我が子を戦地に送り出す肉親のような心境でPLたちは行動入力を行った。
●
リプレイ公開当日。
再び五人は、初心者相談寄合所に集まった。
フェイン(sc0009)|ドックブリーダー|
初めての参加で、描写があったのは嬉しかったけど。
いきなり超重体……でも、お蔭でシューの事は守れたし、龍岡さんよりはマシだよね?
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
ふっ、まさか俺の死に様が大規模に描写されるとは思ってもいなかったぜ。
龍岡のマイページには、赤文字で死亡表示が付いていた。
部活やチャットでの話は今でも出来るが、もう依頼に出る事は許されない。
設定上は死者になったのである。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
立派な最期だった、ライバルとして誇りに思うぜ。
龍岡は突進してきた絶許軍の車から、怯えて立ちすくんでいた美幼女を守るために身を挺したのだ。
リプレイには部下たち号泣の中で、息を引き取る龍岡の姿が描かれていた、
ミハイルは知っていた。
美幼女の背後が、汚いおっさんである事を。
だが、現実ではどうあれ、こちらでは力なき幼子。
もう一つの現実であるWTRPG世界では、かばわずにはいられなかったのである。
フェイン(sc0009)|ドックブリーダー|
何年もかけて育てたキャラがいなくなるなんて……。
まだ新しい僕が、かばえばよかった。
龍岡虎男(sb1008)|任侠|
気にするなフェイン。
この道を選んだ時から、覚悟はしていたさ。
むしろ、任侠の名に相応しい死に場所を貰えて本望だ。
しんみりとした空気の流れる相談卓。
ゲームとはいえ、手塩にかけて育てたキャラの死は重い。
ただし継承システムとやらにより、アイテムや持ちスキルなどは、全て後継キャラが受け継ぐことになるらしい。
今までの努力が全て無駄になったわけでないと知って、フェインも少し胸の重さがとれた。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
ところでヤンファはMVPおめでとうだぜ。
ヤンファ(sc0010)|時代劇役者|
かたじけない、籤とは凄いものよ。
また、ハマってしまいそうでござる。
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
まさか河馬に乗ってくるとは思わなかったわ。
しかも、強いし。
ヤンファ(sc0010)|時代劇役者|
フフフ、余も欲しかったのは普通の馬だったのだが、河馬が当たって驚いたぞ。
しかし、飼ってみれば意外に可愛いものでござる。
河馬は体重2.5t。
時速40キロで走る生ける重戦車である。
ヤンファはそれに跨り、龍岡を殺した車を突進でひっくり返して、カタキを討ったのだ。
車に乗っていたのは最強クラスのPCであり、敵軍団長を務めたエリーゼ・ミュラー。
それをLV1で倒したのだから、文句なしのMVPだった。
鎧・攻太郎(sa9298)|私立探偵|
町の人や警察が、ほとんど敵に回ってしまったのはきつかったな。
お互い手を出さないよう説得するのが、精一杯だった。
フェイン(sc0009)|ドックブリーダー|
僕もシューがやんちゃで、振り回されちゃったな。
ていうか、ポメラニアンって戦闘向きじゃないよね。
南野蒼穹(sa7005)|小学生|
怪我人が絶えないのに、選択肢三で手当スキル持っているのが私一人だったから、応急手当に忙殺されちゃったわ
それでも、お兄ちゃんと私の家は守れたし、まずはハッピーエンドじゃない?
●
今回の大規模は、絶許軍が“だらてんっ!”実写化を中止に追い込んだものの、町への犠牲は最小限に抑えられたという事で引き分けに終わった。
ピンナップコンテストは、蒼穹がお兄ちゃんの手当をしているシーンが二位。
一位は、龍岡と社員たちによる“最後の集合写真”となった。
数日後、ミハイルはロストした龍岡虎男の後継PCとして、六十一歳の角刈り男を作った。
虎男の父親で、隠居していた先代を復帰させたという設定だ。
最初は中学生の息子を跡継ぎにしようと思ったのだが、社員たちが「もっと渋い社長がいいです!」と騒いだのだ。
最初は「どんだけ枯れ専が多いんだ」と、ブツクサ言っていたミハイルだが、今では気に入ったようで生き生きとRPをし、ますます金剛龍を盛り立てている。
雑誌取材を引き受けてしまったがゆえに波乱、そしてかけがいのないものを失った今回の大規模作戦。
だが、この記事を読んで新たなシュエリオンユーザーが増えるのなら、取材を受けた五人のPLも、そして彼らが愛するPCたちも満足であろう。