●
番組開始直前のスタジオ。
「先生! 佐藤くんがいません!」
Rehni Nam(
ja5283)が小学生並の勢いで手をあげる。
司会のワルベルト局長始め、出演者たちが辺りをキョロキョロ見回すが佐藤 としお(
ja2489)の姿が見えない。
すると相変わらずパンダな下妻笹緒(
ja0544)が、妙な情報を口にした。
「彼なら、局の近くのラーメン屋で会ったのだよ」
「ラーメン王に答えられない事は無いっ! 勿論、目指すのは優勝である!」
などと自信満々だったという佐藤
「ふふふ、この一杯が勝利を呼ぶ事に……」
局近くの新しく出来たラーメン屋に入り、どんぶりに口をつけたとたん、ラーメン王の顔になってしまったという。
「あー、きっとダメなのだわ、ラーメン紀行にでも旅立ったのだわ」
アシスタントの椿が諦め、佐藤欠場で収録は開始された。
●Q1
【鎌倉時代に流行した大将棋には、現在の将棋にはないコマが何種類かあった。 その中の一つの名前と、機能を答えよ】
局長が問題を読み上げる。
真っ先に早押しボタンを叩いたのは、二本足で歩く馬・金鞍 馬頭鬼(
ja2735)だった。
「正解は馬頭です!」
「ほう、馬頭という名の駒があったのであるか?」
「名前を象った動きをします。見てくださいこの動き、すごいでしょう!
言うなり高速で、馬の上半身だけを高速でグルグル回し出す。
「……」
「この様に自由自在、前後左右斜めと自由自在に動く駒に違いありません!
回転しながらスタジオの天井へと飛んでいく馬。
画面が花畑の画像に切り替わった。
【放送中大変、御見苦しい場面がございました。 大変申し訳ございません】
「カットされた!? なんで!?」
「動きがキモすぎるのだわ、チビッ子が見たら泣くのだわ! 次、狩野さん
椿にそっけなくあしらわれ、以後、画面上の馬にはモザイクがかかる。
五十路学生、狩野 峰雪(
ja0345)が回答。
「かつては“大仏”って駒があったみたいだね、移動はできないんだけど、使用を宣言することによって捕獲された駒をどれか一つ、一回だけ復活させることができる。 回復魔法を使えるアスヴァンのような駒だったみたいだよ。 でも、やり直しなんて武士らしくないってことで廃止されたようだね
「ふむ、死者蘇生の駒か、なかなか浪漫があるのである」
続いてアイドル部。 部員の指宿 瑠璃(
jb5401)。
なぜか今日はジャージ姿。
「答えは“偶像”です
「ふむ、アイドルといえばかわいい女の子を思い浮かべるが、言葉の語源は神仏の像であるからな」
「ちょっと特殊な駒で、最初は持ち駒なんです。 で、盤上に一度指すとそこから動けなくなります。 で、ここからが変わっていて、相手がこの駒をうっかり取ってしまうと負けになります。かわいい女の子に手を出したら天罰が落ちますよね」
今度は、瑠璃の所属するアイドル部。の部長、川澄文歌(
jb7507)
「“軍師”という駒があります
この答えに鳳 静矢(
ja3856)が条件反射で振り向いてしまう。 彼は一部に学生に軍師と呼ばれている。
「“軍師”は歩と同じ動きしかできませんが、隣接するマスの自軍の駒を手持ちの別の駒と入れ替える事が可能ですよ。 成ると“策士”になります。 動きが“金将”と同じになり,駒の入れ替えを相手の手番の時にも行えます。 ただ処理が煩わしいので次第に使われなくなっていったのです
その文歌の答えに俯く鳳。
「そうか、川澄さんにとって、私は駒なのか……」
「そんな事言っていませんよ!」
ここで万を持したようにジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)がボタンを押した。
美貌を、気だるげに曇らせて回答する。
「白……という駒があった気がする」
「む? 麻雀の白とは違うのか?」
「舞子の白拍子を表す駒なんだ。 歩の中の一枚の裏に“白”と書いてあってね。 “将”の文字が書いてある敵駒がこの歩の上に乗った場合、相手の駒を反転させて裏切り者として使用出来た」
「敵将を寝返らせるのだなどの歩が白拍子かわからないからタチが悪い、歩は将以外の駒でとる打ち回しが定石となるのであるな
局長の分析に、静かに頷くジェラルド。
「これは当時の上級武将たちの腐敗を自己批判的に表現したものなんだ、大将棋は高貴な発祥のゲームであった事が伺えるね。 軍人将棋にスパイ駒があるが、これがもとになったのはあまりにも有名だよ」
「どっかの書房から得たような知識なのだわ」
「この問題、回答は以上かな? では、観客諸君、これぞ正解と思う回答者を指定して、ボタンを押してくれたまえ!」
モニターに集計結果が表示された。
なおこの番組は各問で一位だった回答を、その場での“正解”とし、その回答者のみが得点出来る方式である。
なぜこんな方式か?
理由は最後にわかる。
【馬:0 狩野:8 瑠璃:13 文歌:13 ジェラルド:16】
「得点はジェラルドさーん、16点なのだわ!」
「どれもゲーム性を広げそうな駒であったな。 その中でもジェラルドの白拍子は強すぎず弱すぎず、時代背景にもあっていそうで、魅力的な駒だったのが勝因であろう」
●Q2
【童話の浦島太郎。 主人公は玉手箱を開けた後、何に変身し、最後はどうなった?】
この問題も、最初にボタンを押したのは馬
ようやくモザイクが解かれ、馬面で語り出す。
「いいですか皆さん?先ほどの問題を思い出してほしいのです」
「思い出したくない光景なのだわ」
「玉手箱と言えば中身はお宝、それは強靭な肉体を手に入れたでしょう……即ち、私のような姿に変化したに違いありません
ムキッとポージング!
馬面の下の筋肉美を見せつける。
「そして何より玉手箱の在処は“竜宮城”……竜にお城……そうです、将棋ですよ! 先ほどの問題とつながっているのですッ!
「玉手箱を開けて、ムキムキになるとかドン引きなのだわ」
馬に続くのはパンダ。 下妻が回答権を得る。
「玉手箱を開けた浦島太郎はな、亀へと変身した、そして子供にいじめられているところを、浦島太郎と名乗る男に助けられたのだ」
「ループしているのだわ!」
「左様、ウラシマ効果の名の通りおとぎ話に非ず、SFなのだ」
これを受けて咲魔 聡一(
jb9491)が、クイッと眼鏡をあげた。
「ループものである事までは、パンダ界でも知られていたようですね、しかし詳細が間違っています」
「む? パンダ界を侮辱する気か?」
「正確にはですね、 浦島太郎が箱を開けると“ボクと契約して、魔法少女になってよ!”という声がどこからか響いたのです。 浦島太郎は竜王の加護を以て“魔法少女うらし☆マギカ”として、海を汚す者たちと戦うことになったのです」
ここから咲魔の長いマギカストーリーが始まる。
「月帝国の女王カグヤの前に苦戦する浦島は、禁断の魔法“バノレス”を唱えました。地上の生命から搾取した魔力を以て月帝国は滅びましたが、浦島もそのエネルギーを受けて――」
「次、多紀ちゃん」
椿にマイクを切られても咲魔はまだ語り続けている。
回答権は築田多紀(
jb9792)に移った。
「確か桃になり川を遡って行ったのだ。 最後はお爺さんに割られて桃太郎として鬼退治に行ったはずだ」
「有名なおとぎ話の主人公二人が同一人物だったという事であるな
「“コラボもの“のはしりなのだわね」
そこにおっさんな狩野が溜息を混ぜて、割り込んでくる。
「やれやれ、みんな若いから世の中の裏表を知らないようだね、浦島太郎は、伝統があるように見せかけているだけで実は二十世紀に作られたものなんだ」
「最近なのだわ!?
「しかもCM用に作られた話なんだよ、玉手箱は玉のように美しい手……玉手になれるハンドクリームが入っている箱だったんだ。 漁師の仕事でも手荒れしない状態を保つことができるクリームとして浦島太郎が宣伝し、日本初の手タレとして暮らしたみたいだよ
「おっさんらしくあざとい話なのだわ
かなり遅れて回答ボタンを押したのは月乃宮 恋音(
jb1221)。
「……おぉ……ようやく押せましたぁ……」
爆乳が邪魔で、回答ボタンが見つからなかったらしい。
「……浦島太郎はですねぇ……海洋生物に変身して竜宮城へ帰ったのですぅ……乙姫は太郎に帰って欲しくなかったから、開けたら帰ってくる仕掛けをしたのですよぉ……」
「可愛らしい乙女心なのだわ、乙姫に萌えそうなのだわ」
「……一説には海亀に変身し、次の浦島太郎を連れ帰ったとも聞くのですよぉ……」
「また話がループしたのだわ!」
「解答が出そろったようである! 観客審査員の判定は!?」
【馬:0 パンダ:12 咲魔:0 多紀:10 狩野:5 恋音:19】
「恋音ちゃん、19点獲得〜!」
「本当の結末を知っている審査員もいるのだろうが、乙女心を表現したところが、心を打ったものと思われるな」
●Q3
【ヨーロッパの“クロッケー”という球技を元に、ある球技が造られ日本では高齢者に人気となった。 さて何という名前で、どんな内容のスポーツか?】
「こういう胡乱系なクイズは俺に任せとけー
気合一杯ボタンを叩いたのはメカ撃退士のラファル A ユーティライネン(
jb4620)。
「正解はゲートボール!
「おお、マジレスっぽいのだわ」
「天魔の作ったゲートにV兵器のボールを叩き込んでゲート破壊のスコアを競うゲームだ!」
「そっちのゲート!?」
あまりの超発想にスタジオ中が目を剥いている
「高レベルな高齢者撃退士の間で流行ってたが、最近は強力な天魔共が迎撃に出てくるので廃れちまったみたいだぜ」
「正解の命運をかけたスポーツなのだわ、恐ろしいのだわ
続いて、今日は眼鏡姿で女教師風に決めた斉凛(
ja6571)。
「ラファルさんのおっしゃる通り、ゲートボールですわ。 “不思議の国のアリス”でクロッケーをするシーンが出てくるのですわ、パターを持って、ボールをうち、ゲートを狙う競技ですわね」
凛の回答に、和服姿の廣幡 庚(
jb7208)が含み笑いを浮かべた。
「パターを使う競技の代表がゲートボール? そうとは限りませんよね?
「何ですの、庚さん?」
「パターといえばゴルフ! 正解は接待ゴルフです! 会社の取引先や地位の高い人よりも下手な演技をしなければならない難しいスポーツです」
「暗黙のルールを熟知していないと、人生に負ける、これも恐ろしいスポーツなのだわね
続いて回答権を得た水無月 ヒロ(
jb5185)。
徹夜で猛勉強したらしく、眠たげな目をしている。
「これに優勝してニューヨークに行くんだ
「出る番組から間違っているのだが、まあよい答えよ」
すると水無月、無言で妙な動作を開始する。
「何しているのだわ?
「パントマイムのようであるが」
鍋に何かを入れ、つまみを捻る仕草を見せる水無月。
「料理?
「何かを茹でているようであるな」
「それから潰して?」
「まぶして?」
「お祈り?」
腕で×を作る水無月。
「神はいない?」
「熱そうなのだわ、何か揚げている?」
「わかったコロッケなのである!」
正解とばかりに笑顔でサムズアップする水無月。
「コロッケはスポーツではないぞ」
「そこから間違っているのだわ」
その時、ジェラルドがさらりと言った。
「コロッケは元々スポーツだよ」
「何!?」
「正確にはコロツケー。 畑のジャガイモをボールに見立て、棒切れで叩いて転がすゲームさ。 転がった先にジャガイモを埋め、収穫の時期に何粒のジャガイモが出来たかで競う。 これが語源となって出来た料理をコロッケと呼んでいるんだ」
「一見、食べ物で遊んでいるかに見えて実は栽培に繋げているという合理性
「我輩の中の辞書が、書き換えられたのである
というわけで、第三問の結果は。
【ラファル:3 凛:10 庚:10 水無月:2 ジェラルド25】
この結果に、半泣きになる凛。
「わたくしが言ったのは本当の事ですのに〜
「可哀そうに、ジェラルドさんの舌の前では事実など無意味なのだわ」
「天性の詐欺師であるな、危険人物である
ジェラルド合計41点、優勝に王手。
●Q4
【俗に言う世界三大美女はクレオパトラ、楊貴妃――あと一人は誰でどんな人物だったのかを答えよ】
「必ず“ある答え”を言う人が一人はいると思うのだわ」。
椿が呟くと同時に、ピンポーンという回答音がなる。
太眉可愛い六道 鈴音(
ja4192)
「えっと……もしかして……私!?」
「はい、まさにこの答えなのだわ
ドヤ顔の椿。
「え、だって、他に思いつかないし……あー、でも、私はどっちかって言うと“美少女”かな?」
「どんどん図々しくなるのだわ
「え、え〜と」
焦る鈴音、局長が救け船変わりに話を逸らす。
「“どんな人物か“に関しては?」
「そう言われてもなぁ……こんな感じ!?」
親指と人差指と小指を立ててきらっ☆っとする鈴音。
救け船に自ら大穴を開けた。
続いて、瑠璃の回答。
「それは……」
謎衣装だったジャージを、大胆に脱ぎ捨てる瑠璃。
「私です!」
アイドル衣装にチェンジする瑠璃。
「それじゃ、楽しいの行くよー!」
用意しておいたラジカセから自作の曲を流し、スタジオ中央に飛び出て歌い始める瑠璃。
「あ、瑠璃さんずるい」
いくら文歌部長でも、今日はそんな準備してきていない。
瑠璃のアイドルソングが響くスタジオで、番組は進行した。
欧州銀髪ひんぬー族のレフニーが回答する
「もう一人は日本人で、小野妹子です。 美人というより、可愛い系だったそうですよ、ただでさえ可愛いのに、名前がかわいいの象徴、妹という事で可愛さアップ! さもありなんと納得したのです」
「……レフニーちゃん、小野妹子は男なのだわ」
「マジで!?」
目を見開くレフニー。
続いても銀髪ひんぬー族の雫(
ja1894)。
「女房と畳は新しい方が良いと聞いたので、若い未婚の女性!」
「物凄い広範囲をカバーしてきたのであるな」
「海外では小野小町ではなく、ギリシア神話に登場するヘレネだという説もありますし、そもそも、三大美女などいう観念は日本にしかないとも聞きます」
そして、文歌。
ゲリラライブには混ざり損ねたが、動揺はない。
今日の文歌はインテリジェンス系アイドル!
「三大美女のもう一人はアメリカ開拓時代の伝説的美女クレメンタインです。 元々はイギリスのエリザベス一世だったのですが、イギリスへの反発心があったアメリカでは自国の女性を、という風潮が強くなり、自然とクレメンタインを推す風潮が強くなりました。
その説が世界に広がったのです。 日本では小野小町とする人もいますが雫さんのおっしゃった通り世界的には少数派です」
「小野小町フルボッコで涙目なのだわ!」
続いて、エアコロッケ水無月。
「え、え〜と
目を泳がせる水無月。
スタジオの女性陣から見繕おうとしているのが見え見えである。
徹夜の勉強とはなんだったのか?
「四ノ宮 椿さん――です。 小学五年の算数の授業でそう習いました」
「あら! 私を選んでくれるなんて嬉しいのだわ!」
「ボクは美しいと思います」
水無月の御世辞に、頬を赤らめる椿だが、
「算数でそんなもの習うわけないでしょ、デマカセもいいとこです
エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)が、初発言で悪態をついた。
水無月が、本音を漏らす。
「すみません本当は、クレオパトラも楊貴妃も昔の人だし、もう一人もそれなりに古い人かなと思って」
椿にボコボコに殴られた水無月。
眠気は吹っ飛んだが、回答権はもうない。
【鈴音:1 瑠璃:10 レフニー:2 雫:14 文歌:23 水無月:0】
「というわけで得点は文歌ちゃ〜ん!
「ちなみにクレメンタインというのは架空の人物であるな、それに実在の人物を織り交ぜて信憑性を演出したのである
●Q5
【ガリバー旅行記で小人の住む、“リリパット国”で主人公ガリバーは立ちションをした。 なんの目的で立ちションをしたのかを答えよ】
ばちこーんと手首のスナップを効かせてボタンを叩いたのは老成幼女・多紀。
「ふむ、虹を見たことのないリリパット国の人々のために立ちションの雨で虹を作ったのだ。 大変喜ばれたらしいぞ
「いかにもメルヘンな答えであるな、我輩も幼少のみぎりには立ちションの虹にチャレンジしたことがあるぞ」
続いて、リュウセイガーこと雪ノ下・正太郎(
ja0343)。
「頑張って面白い答えを出すぜ!
早押しボタンを押してから変身して、ポーズをビシッと決める。
果たして答えの方もビシッと決まるのか?
「ガリバーさんは、リリパットの宮殿の形がトイレにちょうどいいと思ってしたんですよ」
「どんな形の宮殿なのだわ!?
「しかも国辱行為あるな、戦争になりかねない事態である」
「そこで戦争を回避させる事こそ、ヒーローの役目です!」
キリッとした顔で答える雪ノ下。
「ガリバーはヒーローじゃないのだわ」
「しかもマッチポンプである」
最後は、米食い男子、鐘田将太郎(
ja0114)
「ガリバーがリリパット国で立ちションしたのは、深刻な水不足解消のためだ」
「いくら水不足だからといって、他国の人に尿を飲ませるのは失礼ですよ」
「お前が言うな!」
雪ノ下にキリッとした顔で言われ、ツッコみ返す鐘田。
「濾過するなりして浄化すれば飲めるんだよ! 多分! 国は救われて万々歳なのだが、猥褻罪で捕まっちゃった、と」
「それで有名な地面に貼付けにされたガリバーのシーンに繋がるのであるな
この問題は、難易度が高かったせいか回答者が三人しかいなかった。
答えたものにとっては得点がしやすい
こういう穴を見極めるのも、実力のうちである。
【多紀:22 雪ノ下:3 鐘田:24】
「この美味しい問題は、鐘田が得点だな」
「いかにもお伽噺にありそうな展開だったのだわね
●Q6
【初夢で見ると縁起の良い夢一富士二鷹三茄子。 富士は無事、鷹は高い、なすびは成すに繋がるからだと言われているが、さて四と五はなにで、なぜ縁起が良いのかを答えよ】
問題に相応しく、純和風な若女将木嶋香里(
jb7748)が最初に解答権を得る。
「昨日、本で勉強させていただきました」
しとやかに微笑んで答える香里。
「四は“鰹”で五は“小梅”ですね。 “鰹”は勝つに繋がる事が良く、“小梅”は子宝(子産める)に繋がるとされた為に縁起が良いと広く認知されていたからなんですよ♪」
ボタンに手をかけていた他の回答者たちが一瞬、動きを止める。
なんか、これが正解な気がしてきたらしい。
本人の雰囲気もあり、説得力が漂っている。
だが、金髪グラサンのアラサー学生、ミハイル・エッカート(
jb0544)は違った。
不敵な笑みで答えるミハイル。
「四はな、法被(はっぴ)なんだ、ハッピーに繋がるからな」
「思い切り英語なのだわ!?」
椿にツッコまれ、ミハイルの表情が崩れかける。
「しまっ……い、いや、四番以降が作られたのは明治時代なんだ」
どうにか持ち直そうとして、ペラペラと自説を並べ始める。
「米国宣教師トーマス・グラントの自伝から広まったのが初夢のジンクスなのさ、当時の日本人にとって英語は聞き慣れず、発音もしづらかったからな、通訳できる者でも筆談を交えて会話をしていたんだ。 ちなみに五は米だ。 五穀豊穣と子沢山のイメージだからな」
「米はありそうなのだわね
「ある日、トーマスに初夢の説明をする時に“Happiness comes over(幸せがやって来る)”と説明したんだ。 発音が法被(Happi)、字面が米(come)だったため縁起良さそうだから四と五にしちまえという事になったんだ。 どうだ、意外だろ?」
「なるほど、四番以降がマイナーなのは作られるの遅かったからなのだわね! ミハイルさん、日本通なのだわ!」
本気で納得した様子の椿。
ミハイルがボソッと呟く。
「お前、結婚詐欺とか気を付けろよ」
凛がボタンを押した。
「四に仏、五に仏ですわ!」
「両方、仏であるか!?」
「ええ、四は死に関わる不吉な数字だから、仏様に厄払いをしていただくのですわ、五は“極楽浄土”の”ご”だから死んでも仏様に会えると言う、実にありがたいお告げですわ」
「なら、五は極楽でいい気が……」
椿が呟くと、凛は釘バットを握った。
「正解に決まってますわ! これがジャスティス!」
「もしかして、投票しないと仏(ブツ)と言いたいのだわ?
そして、今日は眼鏡っ幼女な雫。
「一富士二鷹 三(サン)グラス!なので、四が『ヤモリ倶楽部』、五が『笑っていいですとも!』です!」
なお版権の問題から『』内の言葉だけは雫の声とは似ても似つかない、怪しげな男の声がかぶさっている。
「編集泣かせなのだわ」
「四は長寿番組なので長寿、五は人気があり、友達の輪で良好な人間関係なのです!」
「五は去年、打ち切りになった気がするのだわ」
「あ〜も〜、ツッコミ体質だからボケは苦手なんですよ!
「ツッコミキャラだと思い込んでいるのは、本人だけな気もするのだわ」
【香里:18 ミハイル:19 凛:5 雫:6】
「勝者はミハイルである。 エピソードのでっちあげっぷりが見事であったな」
本当は四扇五煙草、四は末広がりで、五は煙の上昇で運気上昇の意味である。
●Q7
【地球上において六千五百万年前まで栄え、その後、急激に滅びたと言われる恐竜。 その滅びた原因を答えよ】
まずは、キラッ☆と自爆した鈴音。
「さっきはキャラじゃない事しちゃったけど、今度はちゃんと答えるわ」
恥ずかしげに頬を赤らめている鈴音。
かなり後悔したらしい。
「ズバリ!“宇宙人が攻めてきた”からよっ! 宇宙人の猛攻の前に為す術もなく倒れていく恐竜たち、恐竜の大きさじゃあ、波動砲付宇宙戦艦にも白い悪魔にもCTSのアレにも乗れないからね!」
「大きさの問題ではない気がするのだわ」
「全く、こんな常識問題もわからないんですか」
年上の鈴音を挑発し始めたのは、エイルズだ。
「原因は隕石の衝突、そしてそれによって引き起こされた大洪水……超世界規模の津波ですよ。 ノアの箱舟が有名ですが、大洪水により動物が選別される類似した伝説は世界各地に残っています。 隕石衝突時の塵が世界を覆って太陽を遮り気温が下がり、津波と洪水により動植物が激減して餌が減り、世界の自然環境が激変しました。 体温が調節できない変温動物であり、繁栄し体が大きくなりすぎて餌が足りず、恐竜はどんどん衰退していき、当時体が小さかった哺乳類の祖先に世代交代したのです」
身振り手振りを混ぜながら語るエイルズ。
すると鐘田が、怒号を発した。
「ガキが! なにをドヤ顔しとるんだ!」
「だってあなたたち、さっきから基本的な問題もわかってないじゃないですか、久遠ヶ原学園って一体何を教えているんですかねぇ?」
それは、大勢の人が思っているであろう謎である。
「いいか小僧、恐竜絶滅における最新の学説……それは就職氷河期ならぬ“恐竜氷河期”によるものだだ! 巨大隕石の衝突で生き延びることができる確率は大学生の内定率並み! 恐竜間で面接が行われ、生き延びる奴を決めたのだ!」
「確か大学生の内定率ってギリギリ八割保ってますよね? 八割生き残ったなら絶滅とは言いませんよね?
鐘田はツッコミどころだらけだが、あえてそこにツッコんでまたドヤ顔するエイルズ。
一方、スタジオの傍らでは、よろよろと動く少年の影があった。
「ひりょさん、無理しないで!」
「もういい休め、ひりょ!」
仲間の制止を振り切って、布団から起き上がったのは久遠ヶ原では絶滅寸前種なフツメン黄昏ひりょ(
jb3452)。
今日は具合が悪く、スタジオに布団を敷いたまま寝ていた。
「げほっごほっ……恐竜さんは風邪を引きました。俺と同じく……風邪をこじらせるとタチが悪い。 病院も薬もないので、そのまま病に伏してしまったのだと思います。 ……げほっ……皆も俺のようには……なるな……ぐほっ」
力尽きて倒れる黄昏。
ひりょに駆け寄る。
「これで久遠ヶ原のフツメンは絶滅したのである」
新時代到来。
繁栄したのは巨大哺乳動物・恋音。
「……美容のための乱獲といわれて居ますぅ……」
「ほう六千五百万年前にも美容を気にするものがいたのか?」
「……古代の土器等を見ると、豊満な体型の女性像が多いのですよぉ……これは、それ以前に地球に来ていた天魔の間でそういう女性が流行、その流れを古代人が受け継いだ為と言われていますぅ……以前はエイルズさんのおっしゃられたようなものが定説でしたが、天魔が現れてから大きく見直されたのですぅ……」
「つまり、太るために天魔や古代人が恐竜を乱獲したと?」
「太るというかぁ……胸、ですねぇ……」
ふるふると乳を震わせる恋音。
「……恐竜は鳥類の先祖ともいわれていますぅ……鶏肉が胸の発育に良いことは周知の事実です……実は氷河期は肉の冷凍保存の為に古代人が人工的に環境を変えたものなのですよぉ……」
「乳を大きくするために地球全体を冷凍庫に変えたというのであるか!」
「何という乳への執念、恋音ちゃんは間違いなく爆乳原人の末裔!」
最後に軍師・鳳。
「隕石や氷河期で滅んだと言われるが、本当の理由は食糧難だ」
「ほう、餓死であるか? 食いすぎ乳デカの爆乳原人とは正反対であるな」
「……あ、あのぉ……私は小食ですよぉ……(ふるふる)……」
「隕石が降り、その弾みで氷河期が訪れ恐竜達は巨体で地面を掘り、寒さを凌げる地下に逃げた。 地表から深く続く洞窟等は名残だ」
「えええ、いろんなとこにある洞窟って恐竜が掘ったものなのだわ!?」
「だが地下に彼らの食糧は殆ど無く結果死に絶えた、深い地層でしばしば化石が見つかるのも地下で亡くなったからなのだよ」
「あんなに沢山いたのに、みんな同じミスで死んだのだわ!?」
「恐竜は脳が小さいからな、寒さか飢え、どちらかを凌ぐ事しか考えられなかったのであろう」
「究極のシングルタスクなのだわ……」
【鈴音:2 エイルズ:5 鐘田:0 黄昏:20 恋音:18 鳳:5】
「病原ウィルスの蔓延で絶滅に至ったのは充分考えられる事だからな、恐竜とフツメンの冥福を祈るのである。
●Q8
【金閣寺は名の通り金色なのに、銀閣寺は黒い。 この理由を答えよ】
最終問題という事で、まだ回答権を使い切っていないものたち色めき立って早押しし始める。
だが咲魔は押したというより、空気に呑まれて押してしまったという顔をしていた。
「咲魔くん、もしかして銀閣寺知らないのだわ?」
咲魔は冥界出身で、意外と一般常識がない
「もちろん知ってますよ!
「震え声なのだわ」
「周辺住民の反対に遭ったんですよね! 当時の木造建築に囲まれた中で、銀色の建物は景観を損ねますから!」
「それって咲魔くんの近所のマンションの話じゃ」
続いて香里。
「銀閣寺が黒い理由は、当時の日本では原料の銀自体の産出量が少なかった事と薄く破れない様に加工する事が金よりも難しい為に、金箔よりも銀箔の方が貴重だったからなんですよ♪」
「技術的な問題であるか、相変わらず説得力のある答え方なのである
メカ少女・ラファルは科学的な知識で彩って答える。
「酸化したからだ。 貼るには貼ったんだが、長い年月の間に銀が酸化して真っ黒になっちまったんだよ。金と違って銀は構造的に安定していねーからな」
「なるほど、ラファルちゃんの腹部は銀製って事だわね」
「俺が腹黒いって言いてぇのか?
続く庚は、より実体験に基づいた知識。
「銀は錆びると黒くなるからです。 高校の化学実験で硝酸銀とか酸化銀とか使った事がありますけど、黒かったですよ。手についたとき、ついた部分が黒くなって剥がれるまで大変でした」
「高校の授業の記憶が残っているのが羨ましいのだわ、私には遥か時の彼方なのだわ」
続いて銀髪貧乳少女レフニー。
「元々は銀箔が貼られていました。 しかし防錆コーティングをしていても、やはり錆びて黒っぽくなってしまったそうです。 一度焼け落ちて立て直したのですが、そんな事情もあって銀箔を貼るのは止めたのだとか。 むしろ焼け落ちる前は、銀箔が錆びて黒くなった、という事実は忘れられて、普通に黒っぽい色なのだと思われていたという話もあります」
「さすが、銀色で薄いものには造詣が深いのだわ」
「どこを見ているですか!?」
ベテランの鳳は特殊金属説を持ち出してくる。
「銀に黒銀(くろがね)と言う種類がある。 普通の銀と同じ色だが熱が加わると黒く染まる代物でね。 昔、夜陰に乗じ寺に盗みに入った盗賊団と捕方が争った際、提灯が落ちて火事が起きたそうだ。 盗賊団は逃げたが捕方は寺に移らない様に必死で消火したらしい、その時に火で炙られた寺が真っ黒に染まってしまったのだよ」
「ふむ、火事と言えば金閣寺のイメージだが、銀閣寺にもそんな話があったのだな」
続いてパンダ下妻。
「ふむ、慈照寺観音殿つまり銀閣は、創建当初、確かに銀色に光輝く楼閣だった。 銀閣のみならず、庭園の石ひとつに至るまで全てが銀で彩られた豪奢な寺院であったのだ。 だが華やかな北山文化から、渋さ重視の東山文化への転換期であるこの時期、 あまりにギンギラギンなのは逆にダサい、もっとさりげなく生きるべきだという風潮になった。 センスの無さを指摘されることを何より嫌った足利義政は、家臣に命じ、すべての銀箔を剥がさせ、今のシャレオツな銀閣になったのだよ。 満足した義政は“そいつが俺のやり方”とつぶやいたそうだ」
「マッチ一本火事の元なのだわ、鳳説と繋がったのだわ」
「旨い事言ったつもりかもしれんが、年がバレただけかもしれんぞ?」
最後は、絶滅したはずのフツメン。
「黄昏君、大丈夫なの!?」
「金閣、銀閣……?」
熱で朦朧としている様子の黄昏。
ぼーとした顔で答える。
「金閣は金ピカで堂々たるもの、でも頭脳戦は苦手。 そのサポートをする銀閣は、どうしても兄の金閣をフォローせねばならないので策略家なんだ! つまり黒い!
「黄昏君、それ西遊記の金角銀角兄弟なのだわ」
「可哀そうに、ウィルスに脳をやられて……」
この問題に答えたのは何と八人。
当然、得点は分散する!
【咲魔:3 ラファル:3 香里:9 庚:4 レフニー:7 鳳:8 パンダ:12 黄昏:0】
「というわけでパンダちゃんが得点、おめー!」
「説得力があったというより、大喜利的に面白かったという感じであるな」
「最終結果発表! 優勝はジェラルドさんぶっちぎりの41点! おめでとー!」
「二位は鐘田24点、三位は文歌23点、四位は黄昏20点となっておる! この四人には後程、椿からろくでもない称号が届くであろう! 口先三寸で人を騙したのだから当然の報いだ!」
一位はとれなかったものの秀逸な回答の者は沢山いた。
だが、今回はあくまで各問の一位のみを正解とし加点とする方式なのである。
なぜならば。
「世の中、事実は一つだが真実は人の数だけある。 そして事実を言ったものが報われるわけはなく、真実だと他人に思わせた者が報われる。 そういう教訓を込めた番組なのだよ、わかってもらえたかな?」
「嫌な教訓を得つつ、また次回〜!