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「見事なまでに大きい人が揃ったにょろね〜」
ファミレスで同じテーブルに座った四人を見て、ニョロ子は目を廻した。
まずは黒神 未来(
jb9907)。 スポブラの似合うDカップ。 久遠ヶ原では中途半端と言われがちだが、動きの妨げにならないスポーツ用巨乳!
川澄文歌(
jb7507)。 結構デカい事は何枚かのピンナップで証明済。 グラビア撮影に耐えうるアイドル美巨乳!
満月 美華(
jb6831)は現生生物最大のシロナガスクジラを思わせる体型。 Kカップの乳をひっさげた姿は、まさにチチデカスクジラ!
そして月乃宮 恋音(
jb1221)、説明不要の乳神様!
「羨ましいにょろ、どーやったらそんなに大きくなるにょろ?」
テーブルを囲む連峰と、自分の平野を恨めし気に見比べる。
「ニョロ子ちゃん、胸のことなら私に任せて頂戴! この薬を使ってみて!」
何やら錠剤を渡す美華。
「以前の依頼で使った薬のデータと、恋音の体質研究データを融合させて作った新製品よ! 名付けてきょにゅー特選薬!」
「これを飲めば大きくなるにょろか?」
美華は指を横に振った。
「ただ飲むだけじゃ効果がないわ、毎日、好きな人の前で飲まなきゃいけないの」
「堺お兄ちゃんの前で!?」
「しかも、相手に“胸が大きくなる薬だ”って教えてから飲まないと効果がないのよ、人の思念を受けて、胸を膨らませる薬だからね」
「……おぉ……そんな凄い薬をいつの間に……」
驚く恋音に美華が小声で耳打ちをした。
「薬の開発なんて一学生に出来るわけないでしょ、あれはただの栄養剤よ」
「……おぉ?……」
「いい? ニョロ子ちゃん、必ず大好きな人の前で胸を大きくしたいって言いながら、飲むのよ」
「……そういう事ですかぁ……」
恋音は悟った。 相手が自分の好みに合わせて変わろうと努力してくれるというのは、それ自体が嬉しい事である。
幼いニョロ子が自分の好みに合わせて成長しようとしてくれるところを見せ付け、堺をメロメロにさせる作戦なのだ。
そんな少女たちの様子を隣席からジョン・ドゥ(
jb9083)がストロベリーサンデーを食べながら見ていた。
(あ、すげぇ! 蛇だ可愛い!)
ニョロ子がお子様ランチを食べるたびに立つ髪の蛇が、面白くて仕方ないのだ。
その視線に未来が気づいた。
「自分、何見てんねん! さてはロリコンやなぁ!」
ジョンにコブラツイストをかける未来。
「痛ぇ! ギブ! ギブ!」
ジョンは関節をバキバキ言わされたあげく、ようやくコブラから解放された。
「なんや、ただの蛇好きかいな、まぎらわしい!」
「蛇好きってわけでもないんだが……」
「男の人の意見も聞きたいにょろ、ジョンお兄ちゃんも相談に乗って欲しいにょろ」
ニョロ子に促され、ジョンも依頼に参加する事にした。
「具体的にニョロ子はどうしたいんだ、告白したいのか?」
ジョンに尋ねられると、ニョロ子は押し黙った。
「するならバアアアアアアニング! ラアアアアブ!って言って抱き着けば多分大丈夫だぜ」
「ジョン君、そら多分、大丈夫やないで」
未来がツッコンで数秒後、ようやくニョロ子が口を開く。
「自信――ないにょろ」
「そうか――なら、無理に告白しなくても良いと思うぜ」
恋音も乳を縦に振る。
「……ですねぇ……今は自分を磨く事に専念した方がよろしいかとぉ……」
「自分を磨くにょろか、何をすればいいにょろ?」
「まずはオシャレだよ!」
文歌が声をあげる。
「女の子なんだからオシャレしなくちゃ!」
「オシャレ……ニョロ子髪がこれだから自信がないにょろ。 蛇さんをウィッグで隠した方がよさげにょろ?」
「うーん、ニョロ子ちゃんが妥協すればそれもできるけれど、無理は長続きしないと思うよ、素の自分を好きになってもらわないと」
「なら髪のオシャレは無理にょろ、これがニョロ子の素にょろ」
項垂れるニョロ子。
「大丈夫! 髪が蛇さんだってオシャレは出来るよ!」
「ええ? カット出来ないし、束ねる事も出来ないにょろよ?」
「一匹単位で緩めのリボンを巻いたり、飾りをつけたりするだけでもずいぶん、オシャレになるよ」
言いながら手持ちのリボンを、いくつか蛇に巻いてあげる文歌。
ニョロ子も元々、可愛い顔はしているので、色とりどりのリボンで飾りつけるとメルヘンチックな美少女になる。
「お、可愛いじゃねえか」
「うんうん、かわいいかわいい」
「ニョロ子髪のオシャレは初めてにょろ、意外とイケてるにょろ」
男の子とアイドルに褒められたニョロ子、ちょっと自信がついた様子。
「そもそもなんだが、椿と堺って仲が良いのかね」
ジョンが尋ねる。
「なんなら様子を見に行こうか?」
立ちあがろうとしたが、
「その必要はないよ」
椿と堺の斡旋所に、よく出入りしているメンバーがこの席にはいた。
「ボケツッコミ的な意味なら、仲はいいで」
「……でも、付き合っている風ではないですねぇ……」
「ふむ、ならニョロ子にもチャンスはあるか」
やがて、皆の手元にメニューが届いた。
日替わりセットだが、ニョロ子にだけプリンがついた。
「あれ? 注文してないにょろよ」
「お子様限定サービスです」
微笑む店員。
嬉しいサービスなのだが――肩を落とすニョロ子。
「結局、ニョロ子はお子様にょろねー、堺お兄ちゃんには釣りあわないにょろ」
幼女と青年では仮に想いが通じたとしても、まともに付き合うのは難しい。
「……おぉ……それは時間が解決してくれる問題ですから気にしないでいいと思いますよぉ……」
恋音が、ゆったりと微笑んだ。
「……年の差は時間が経てば有利になる要素かと……ニョロ子さんが二十歳の時、堺さんは三十二歳ですぅ……若い恋人と付き合えたら、堺さん嬉しいのではぁ?……」
「そういうものにょろか」
「歳をとるほど若い子好きになる男が多いのは事実だ」
男のジョンが肯定する。
「……それまでは堺さんの妹ポジションでいればいいのではないかとぉ……ニョロ子さんが早期解決を焦っていないなら長い目で見れば良いのですよぉ……」
その胸に相応しく、雄大な思考の恋音。
「月乃宮くんの言う事はもっともやけど、一つ危険要素があるで」
だが中途半端巨乳の未来は違った。
「四ノ宮さんや、もし堺さんが四ノ宮さんを好きで告白した場合、即結婚ちゅうこともあるんやで、三十迎えていよいよ焦っとるからな」
なにせ椿である。
“もう堺くんでいいから結婚するのだわ!”とか言いだしかねない。
「そこでや」
未来が、左眼に怪しい光を湛えた。
「ここからはウチらに任せてもらおうか、ニョロ子くんは家で報告を待っていてや」
●
夜、椿のアパート。
いつも通り味海苔を食べていた椿の元に電話がかかってきた。
「四ノ宮さん、今、映画の撮影やっとるんやけど出てくれへん?」
「何の役なのだわ? “独身怪獣アラサゴン“とかならお断りなのだわ」
以前の依頼でわけのわからん役をやらされた覚えがある椿。 警戒している。
「財閥令息の婚約者や、誘拐されて国家を揺るがす身代金事件の発端となるんや! 縄で縛られて後部座席に転がってくれればOKや」
“財閥令息の婚約者“ そのフレーズに目を輝かせる椿。 ニョロ子以上にチョロ子だった。
「私に相応しい役なのだわ! 喜んで縛られて転がるのだわ!」
一方、それに協力する事になってしまった他メンバーたちは、美華の部屋に集まっていた。
「……もし堺さんが警察や他の斡旋所に誘拐事件を通報してしまうと、大事になると思うのですよぉ……」
恋音が不安そうに呟く。
「そもそも、ここまでするような事なのかしら?」
美華は鯨なりに不安そう。
なにせ、“堺は椿が好きか”を確認するためだけに誘拐事件を装おうというのだ。
「俺は協力しねえぞ、愛情をドッキリに使うなんて感心しねえからな」
ジョンの顔は、渋い。
しかし、暴走を食い止めるためのストッパーとして推移を見守る事にする。
一方、文歌は変装して斡旋所に飛び込んでいた。
「どなたですか?」
一人で留守番をしている堺が出迎えてくれた。
当然、皆の計画など知りはしない。
「私は謎の占い師、ミスティローズ。 あなたに予言を授けましょう」
今の文歌はバタフライマスクにボンテージ姿。 会うなり勝手に占いを始める。
「貴方は年下から告白されるかもしれません、その時は“あと十年してお互いまだいい相手に巡り合っていなければ付き合ってもいい。 それまでにいい女になれ”っていうのがおススメですよ!」
「はあ、ご親切にどうも」
返事を聞く間もなく、サッと斡旋所から出る文歌。
暗がりにしゃがみ込む。
「恥ずかしかったよー!」
TVならともかく、日常空間でこの格好は結構きつい。
だが、ニョロ子に計画がばれると怒られそうなので仕方がないのだった。
美華の部屋では、恋音が警察に電話をかけていた。
狂言誘拐が大事になるのを防ぐため、根回しをしておこうというのである。
「……もしもし……かくかくしかじかでぇ……(ふるふる)……何とか協力していただけないかとぉ……(ふるふる)……違うのですぅ……騙しはしますが、詐欺ではないのですよぉ……(ふるふる)……」
電話を切られ、涙ぐむ恋音。
「……うぅ……ふるふる詐欺と間違われましたぁ……」
「ふるふる詐欺って何ぞ?」
乳をふるふる震わせながら、人を騙す話をしたのだから仕方ない。
そもそも、携帯電話から110番通報した場合、近隣各県のどの警察署の通報指令センターに電話がいくかはわからない仕組みになっている。
小さな恋の相談のために、多くの警官たちに誘拐通報をスルーしろなどという通達を行き渡らせるのは困難だった。
「もう誘拐芝居は諦めろ」
ジョンは止めたが、
「こうなったら、スピード勝負よ! 堺さんに“通報する時間”すら与えなければいいの」
よせばいいのに計画が練り直され、狂言誘拐計画は強行される事になった。
斡旋所で夜番をしていた堺の携帯に、電話がかかってきた。
「四ノ宮 椿は預かった。返して欲しければ斡旋所の資料を持って一人で表の駐車場に来い、十秒以内にだ」
ボイスチェンジャーを利用した不気味な声である。
「誘拐!? 十秒以内!?」
「十……九……八……七……」
カウントダウンにせかされる堺。
通報を考える間すらなし。
わけもわからないまま、表の駐車場に駆け出る。
そこには一台の車が停まっていた。
開いたトランクの中に、縄で縛られている椿が見えた。
「椿さん!」
駆け寄ろうとすると、覆面を付けたDカップくらいの女が前にたちはだかる。
「よく来たな」
「あんだけ、せかされれば来ますよ」
「一つ聞いておいてやろう、なぜこんな女のために必死になる? ひょっとしてこの女に恋心でも抱いているのか?」
「人の命と資料が引き換えなら普通に命をとるでしょう? ウチの斡旋所なんか、しょうもない依頼の資料しかないんだし」
さらっと言われ、もう少しマシな要求をすればよかったと後悔する未来。
「もう面倒だ! お前の命かこの女の命、どちらを助けてやる! 選べ!」
やけくそで脳筋プレイに走る。
未来の要求にしばらく固まっている様子の堺。
やがて、
「どっちも選べませんね!」
踵を返し、堺が逃げ出した!
「なぬ!?」
「どうせ殺さないでしょ、誘拐犯なんか人質を殺したら終わりなんですから」
図星と意表を突かれた未来。
だが、すぐに追いかける。
「先輩を置いて逃げるとはどういう事や! 男の風上にもおけんお前には!」
背後から腰を捕まえ両腕でロック、弓なりに腰を逸らす。
「バックドロップや!」
堺を一発KOしてしまった。
「また、やってもうた」
気絶した堺をおんぶして、美華のアパートに連れ込む未来。
もはや、プロレス技で解決が癖になっている。
「仕方ない、月乃宮くん、“シンパシー”で堺さんの記憶を探ってえな」
「なら、誘拐とかしないでよかったんじゃないかな?」
文歌がツッコむが、後の祭りである。
堺の額に掌を当てる恋音。
「……おぉ……これはぁ……」
「どうした?」
「堺さんの記憶はほとんど、椿さんで埋め尽くされていますねぇ……特に胸と太ももをチラ見している率が高いですぅ……」
「男の子だからな、隣に綺麗なお姉さんがいたらそんなもんだろ」
うんうんと頷くジョン。
「なのに普段、あんな悪態突きまくってるんか」
「素直になれないタイプなのね」
複雑な男心に眉をしかめる女性陣。
「この事は、ニョロ子ちゃんには黙っていた方が良さそうね」
「……告白は諦めさせた方が良さそうですねぇ……」
美華と恋音はそう結論付けたが、文歌の考えは違った。
「私は告白すべきだと思うな、堺さんの視界が椿さんで埋め尽くされているならなおさらだよ」
「告白して気になる存在にさせようって手か」
「そう、それに女の子は恋をするほど綺麗になるの、でもそれを表に出さず秘めたままだと魅力も半減だよ」
「賛成だな、告白されて、それでニョロ子と距離置くとかそんなしみったれた奴じゃないだろう」
ジョンも文歌に同意する。
「しかし、ニョロ子くんが踏み出せるやろか?」
不安げな未来。
すると、文歌が軽くウィンクをした。
「大丈夫、堺さんが素直じゃないなら、素直じゃない手で告白すればいいんだよ」
翌朝の斡旋所。
ニョロ子は皆にアドバイスされた通りの手を試してみた。
昨日、美華に貰った“きょにゅー特選薬”を堺の前で飲んでみせたのだ。
「これは胸を大きくする薬にょろ、いつか椿お姉ちゃんと同じくらい大きくするのにょろ」
「ニョロ子ちゃん、そんなのまだ飲む必要ないよ」
ニョロ子を子供扱いして笑う堺から、プイッと顔を背ける。
「べ、別に、堺お兄ちゃんのためじゃないにょろ! おっぱいを、いつもチラ見してもらえる椿お姉ちゃんが羨ましくなったわけじゃないにょろよ!」
ツンと言うニョロ子。
これが、皆と共に考えた対堺用告白術である。
好意をさりげなく伝えると共に、椿の乳をチラ見回数を牽制。 さらにはニョロ乳が大きくなったか時々、注目させようとする一石三鳥の作戦!
さらには遠回しなので、言いやすい!
「ニ、ニョロ子ちゃん」
顔に熱さを感じる堺。
「え〜と、あと十年して――」
ミスティバタフライに託された言葉を言いかけるが、口を噤む。
恋愛にはオクテな堺。 女の子に好意らしきものをぶつけられて、どうしていいのかわからなかった。
とはいえ、少しは意識してもらえそうな気配は感じたニョロ子。
心の中で、撃退士たちに礼を言う
(皆のお蔭で女の子として見てもらえそうにょろ、ニョロ子の恋はここからがスタートにょろ!)
その頃、椿はまだ車のトランクに縛られたまま寝そべっていた。
「財閥の御曹司はまだ救けにこないのだわ? 今頃、宇宙人とでも戦っているのかしら、結構な大作映画なのだわ」
台風の目だったのに、忘れられている椿。
恋物語の幕は、まだ開いたばかりである。