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生心町一日町長戦公示日。
「選挙戦か……初めての事だが、さて?」
鳳 静矢(
ja3856)候補は、駅前で早速演説を開始した。
「生心町は漁業と農業が優れた町と聞いています。 ならばこれを生かさない手はありません」
中年層が足を止め、演説を聞いている。
一日町長選は過疎の町における久々の刺激である。
これを機に町が恒常的に活性化する糸口を掴みたいのは、町民皆の願いなのだ。
「しかしただ魚介類や農作物を売り出すのでは弱い……弱いのならインパクトを作ればいいのです! そこで考えたのが、御当地ヒーロー…セイシンジャーです」
スタッフに、ポスターを広げさせる鳳。
『生心町にヒーロー現る!?』というキャッチフレーズを前面に、ヒーローと思しき八人のシルエットがポーズを決めている
これで、十歳以下の若年層が足を止める。
彼らも、立派な有権者である。
「天魔と戦い生心町を守り、生心町の産業を外に宣伝していく生心町を守るヒーローキャラクターの設置です」
この町はかつて天魔に襲われた。
ヒーローを求めるのは、当然の理である。
「生心町の御当地ヒーローキャラクターとして食品・グッズを作成し売り出していく、街の宣伝広報に役立てるのです! 私が当選した暁には、今回選挙に参加した撃退士全員参加での“セイシンジャーPV”を作成して動画等で世界中に生心町の産業をアピールいたします!」
鳳候補はヒーロー好きな児童層と、産業の活性化を渇望する中年層を中心に支持を集めている。
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ヒーローに続くのはアイドル、撃退士でアイドルと言えばこの人。
「総選挙といえばアイドルですねっ。 皆さんの清純な一票をよろしくお願いしますね」
ナポレオンジャケットも凛々しい川澄文歌(
jb7507)候補。
街角に貼られた自らの選挙ポスターを眺めながら、満足げに呟く。
「“燃えよ闘魂! 萌えよ可愛さ! みんなのアイドル川澄文歌”かぁ、プロレスも始めた事だし良い感じかな?」
議員になるレスラーやら、芸能人が多いのは周知の事実。
客寄せパンダとのそしりも受けるが、あくまでそれはきっかけ、知事、果ては大統領にまでのし上がった者もいる。
果たして文歌、政治家の才能はあるのか?
議員の才能の一つに演説のうまさが挙げられるが、あえて文歌はそれをしない。
選挙カーで名前連呼もパス。
代わりに文歌の姿がラッピングされたアドトラックが、町を廻る。
このトラックは文歌の歌を流す。
生心町のために作った新曲“Fresh Heart Townへようこそ“である。
♪春の日を浴びながら
Country Train 駆け抜ける
やってきたの この町へ
貴方のいる この町へ
Fresh Heart 海苔のコ・コ・ロ☆
甘く切ない気持ちになるね
Fresh Soul お米のチ・カ・ラ☆
恋するパワーに変えられる
Fresh Heart Townへようこそ♪
町のための歌。
情熱を町民に伝えられるし、マスコミ向きの宣伝材料にもなる。
アイドルならではの戦術である。
このラッピングカーに文歌本人が乗っているのかというと、そうではない。
本人は、地元のアジと海苔の養殖場や田んぼを回っている。
昔ながらの地道な選挙である。
「お爺ちゃん、これ運ぶんですか? お手伝いさせてください」
「そんな細い腕でひっくり返されたら困るだよ、邪魔邪魔」
こういう活動は、大抵パフォーマンスである。
議員先生の細腕で出来る仕事ではない。
だが文歌の場合は、
「これを運べばいいんですね」
米俵を二つ、ひょいと肩に担ぎ上げる。
撃退士は、五輪選手並のパワーがある。
「あんれ、あんた凄いねー、孫の嫁に欲しいだよ」
農家や漁師たちの人気者になる文歌。
話を聞いてもらえるようになったので、袋に文歌がプリントされた“アイドル米”や“萌え海苔“”萌え鯵の開き“を提案。
「私の公約は“この町のフレッシュな気持ちを取り戻す“です! 町長になったらトーク、ライブ、演劇等の総合イベント”生心超会議“を開催します」
今回は美貌ではなく、智謀で勝負!
若者層と、高齢者層に支持を集めた文歌候補、果たして選挙戦の行方は?
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意表をついた戦略に出たのは一川 七海(
jb9532)。
選挙カーに乗って町を廻るのは従来通りだが住民を発見次第、降りる。
そして、
「ねえ、あたしとキャッチボールしない?」
と誘う。
「キャッチボールって、撃退士の人ってパワー半端ないんですよね、ガクブル」
狭い町の事、文歌が米俵二俵を軽々と持ち上げたという噂は、すでに届いている。
「大丈夫よ、怪我しないように手加減するから」
グラブを貸出し、一球入魂。
「一川 七海に清き一票を!」
構えられたグラブへ、ズバンとストライク!
それを投げ返してもらい、想いのキャッチボール成立。
相手がノーコンだと、たまにとんでもないところへ投げてくれるが、撃退士の反射神経で、アクロバティックにキャッチするまでが一連のパフォーマンスである。
選挙ポスターにはいつも通りスーツ姿で野球ボールを片手に持った七海の写真。
『彩りましょう球場を。 皆で防ごうエラー率。 ボール一つで愛を守り抜く華麗なる町長志望・一川 七海只今参上』
徹底的に野球キャラ推しの七海。
久遠ヶ原一のワルとか、お漏らしとかは島に置いてきた。
「当選の暁には、野球イベントを開きます! 野球教室で皆に野球の基本を学んでもらってから、皆で試合するわよー」
素人に短時間教えただけでは泥仕合になるのは織り込み済み、汗を流せば必ず楽しんでもらえると言う戦略。
七海、体感型コミュニケーションで、野球ファンの多い中高年層に支持を拡大。
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「人間思っていることを中に溜め込んでいるのが一番いけねーや」
と、いうのがメカ美少女撃退士・ラファル A ユーティライネン(
jb4620)候補の主張。
確かにラファル、言いたい事を言う。
キャラにインパクトがあり、主張が出来て、神経が太い。
ラファルは政界でのし上がる素質ありと言える。
「俺が町長になったら、“ビッグボイス大会”を開くぜ!」
自慢でも感謝の念でも、のど自慢でも、何でもいいから大声で叫べと言う大会である。
ただしネガティブな事だけは厳禁。
選挙カーは使わず、単身で遊説する。
メカな体だから、生身と言っていいのかわからないが、ともかく外見のインパクトは絶大。
「言いたい事を言ったら叩かれるって日本の風潮はおかしいと思うぜ? そりゃ社会に出たら抑えなくちゃならない事もたくさんあるのはわかるけどさ、どこかで吐き出さないと爆発しちまうと思うんだよ」
と、まともな事を言うかと思えば。
急に、歌いだしたり、意味のない事を大声で連呼する幼児プレイを始めたりする。
そんなラファル、人気が出たのはやはり幼児。
「お、サッカーやってんのか、俺も混ぜろ!」
「すげえ、メカだ!」
「フルメタル姉ちゃんだ!」
小さい子の遊びに乱入する事により、親近感を勝ち取る事に成功。
「こいつら選挙とか理解してくれてんのかな――ま、何でもいいや、俺をよろしく」
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花祀 美詩(
jb6160)候補は政治家秘書の娘。
参加者の選挙では、おそらく最も選挙に詳しい。
「私のテーマは“世代間交流”です、まずは人の集まるところを周りましょう」
知識に加えて美貌もある美詩だが、この選挙における欠点も自覚している。
それは外見のインパクト。
他候補者はアイドルだったり、金髪グラサンだったり、ロボだったりする。
短期間の選挙戦において、一目で覚えてもらえるかもらえないかは大きい。
そこで美詩、インパクトの塊を連れてくる。
「……おぉ……お手伝いします……」
月乃宮 恋音(
jb1221)である。
乳神様とまで呼ばれる超爆乳、彼女に勝てる人間はそうそういない。
まずは、小学校に向かう。
小学生にとっても一日町長選は、良い社会勉強。
朝礼で、演説をさせてもらえる時間を作ってもらえた。
「私が一日町長となったら、世代間テーマパークを開こうと思います」
世代間テーマパークと言われても、ピンと来ない子供たち。
論より証拠、体験会を開く。
美詩、朝礼台の上でパチンとめんこを弾く。
「これはめんこという玩具です、皆のおじいちゃんたちが、子供だった頃に遊んでいました。 これでおじいちゃんたちと勝負してもらいます」
「えー?」と笑う小学生たち。
おじいちゃんといっても、まだまだ現役世代が多い元気な年頃。
昔の遊びで勝てるわけがないと思っているようだ。
「大丈夫です、TVゲームもおじいちゃんたちにやってもらいます。 ゲームならみんなの方が得意でしょう? めんこだって頑張れば、おじいちゃんたちに勝てますよ」
続いて、老人たちの集まる寄合所に向かう美詩。
「お孫さんが夢中になっているTVゲームを一緒に出来たらと思った事はありませんか? 動きの激しくない、小さい子と御年輩者が一緒に遊べるゲームがありますので、それを町の皆でやるイベントを開きたいと思っています」
間の世代である中年層にもフォローを忘れない。
「お子様やお父様が遊んでいる間に、食事を楽しめるよう屋台村を開設します。 地元の食材アピールのために、皆さんの出店も募集いたしますよ。 どんなものが食べたいか、アンケートをとりますので是非、ご協力下さい」
ここで中高年に力を発揮したのが恋音。
「……花祀を宜しくお願いしますぅ……」
普段はアンケートなど面倒臭がるなお父さんも、アンケート用紙を配る恋音の乳に釘づけ。
おっぱい近くで見たさにアンケートを書いてくれる。
「……お?……おぉ?……」
都会でも田舎でも、おっぱいは最強!
有意義なアンケートを集める事が出来た。
世代別に細かな戦略を打ち立てた美詩。
特に中間層の男性層からの指示は美詩にも予想外の数字。
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今回の候補者で外見年令は最年長の・ミハイル・エッカート(
jb0544)候補。
年令的には参院選挙にも出られる三十歳の渋イケメン。
その公約とは?
「巨大プリンを作ろうぜ!」
「プリン特集やってる店や露天はいくらでもあるが、町を上げてのプリン祭りは無いだろう! 子供からお年寄りにまで優しいプリン! でかいプリンを作り崩さずに盛った者が優勝だぜ!」
このミハイル、プリン大好きなのである。
自分が好きだからこそ、やる気も出る。
選挙戦術は七人の候補者中、最も徹底している。
『ご町内の皆様、プリン党員のミハイル。 ミハイル・エッカートでございます』
頭にハリボテのプリンを乗せたプリンカーで町を走り廻る。
スタッフはプリン帽子着用。
そして選挙グッズにプリンうちわっぽいものを配布する。
徹底的なプリン押し&ビジュアル作戦!
「みんな、心と体に優しく甘い巨大プリンを実現させようぜ!」
このミハイルに論戦を挑んだ者がいる。
咲魔 聡一(
jb9491)候補である。
この咲魔、公約がカレーフェスタだったりする。
「この町に名物がない? ないなら作るまでです! 選ぶべきはカレー! 原価が安く話題性やバラエティに富み、年代問わず受け入れられるカレー! 生心町をカレーの町に!」
この咲魔の主張に町民大喝采。
過疎の町にとって、新しい名産品こそ渇望されるべきものなのだ。
さらに咲魔、その先の戦略まで考えてある。
「特産品の米や野菜、海産物の需要が拡大! また、ネットで宣伝して町外の客を呼べば、カレーに直接関係ない特産品も土産として売れます!」
街頭演説中、プリンカーが通りかかる。
甘いプリンと辛いカレー。
出会えば、論戦になるのは当然だった。
「インパクトは大事だぜ。 想像してみてくれ、富士山のごとくそびえ立つ巨大プリンの神々しさ!
「今、この町にはインパクトよりも地産地消が必要なんです。 女性だけでなく男性にも愛される地元の味を作るべきです」
「女子供の軟弱な食べ物だと思ってないか? プリンは牛乳と卵たっぷりで栄養価が高い。 男ども、本当は食べたいと思っているだろう! 安心しろ、俺だってがっつり食べるんだぜ」
コンビニ売りのビックサイズプリンを、ペロリと食べてみせるパフォーマンスをするミハイル。
「がっつり食べるならカレーでしょう! 偉い人は言いました。 米を喰わずば、力が出ないと!」
大盛りカレーをガツガツと平らげる咲魔。
お互い段々、ムキになってくる。
「プリンは味と栄養だけじゃない! ビジュアルが可愛い! こいつを見ろ!」
選挙カーに乗せているゆるキャラのプップリンちゃんを引っ張り出してくるミハイル。
「ぷっぷりーん」
プップリンちゃん、ふるふる震えながら、あどけなく鳴く。
「うぅ、カレーはどうアレンジしても可愛くならない。 えーっと…そうだ!」
はっと気づき、召喚獣のパサランを召喚する咲魔。
その頭に救急用の包帯を巻き、ターバンにする。
「この子がカレーフェスタのマスコットです! どうです、このもふもふ!」
「くっ、しまった! プリンはもふもふしていない!」
討論の方向が全く別の方向に飛んでいき始める二人。
とはいえ、憎み合っているわけではない。
「ふっ、カレー祭りになったらデザートはプリンにしてくれよ」
ハイタッチして、互いに譲り合って選挙カーを走らせ始める。
相反するようで、正面衝突はしない。
なぜなら、プリンは食べ物、カレーは飲み物だからある。
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投票当日。
地元ラジオ局が開票速報を放送する。
票を伸ばしたのは、鳳、咲魔、文歌。
やはり地元の産物を前面に押し出した公約は、人の心を掴む。
イベントは一日で終わるが、町はこれからも続く。
町を恒久的に売り込む工夫が大切なのである。
他の候補者もそれ考えていたが、公約の軸に持ち込んだ三人が強かった。
十四時、文歌が一歩前に出る。
握手会の成果である。
アイドルでありながら、どぶ板+握手という選挙の基本を抑えるのは強い。
だが二十一時、開票作業終了直前寸差での逆転が起こる。
生心町の初代一日町長、その名は!
「まさか、学園に来るまでは社会の最下層だった僕が町長とは」
感慨深げな咲魔町長。
地元の産物を活かした事、カレーというどの世代の胃袋をも掴む料理を選んだ事。
そして、将来性のあるビジョンを打ち出した事が勝因だったようである。
「さて、そうと決まれば美味しい鯵カレーを作るか、私も料理は得意だ」
鳳が立ちあがる。
「予算がかからない範囲でなら、カレーフェスタに皆さんの意見を取り込んでもいいんじゃないですか?」
美詩が天性の政治感覚を見せる。
「ならカレーフェスタの最中に、大声大会開いてもいいよな?」
「私は“Fresh Heart Townへようこそ”を生歌で歌いますよ!」
「お腹が空くように草野球をやれないかしら?」
「デザートは当然、プリンだぜ!」
自分が町長になれるのかは二の次。
困っている人を助けるのが撃退士。
過疎の町を救うため、力を合せて楽しいカレーフェスタを開くのだ。